シナリオ詳細
<魔女集会・前夜祭>笛の音響音狂音
オープニング
●地鳴り
「見たか?」
「ああ、見た。人間じゃねぇ。ありゃきっと魔物か何かだ。えらく美人だったが」
「だが魔物に違いねぇよ。しかもたいした力量じゃない。あいつらをとっ捕まえて縛りあげて、好きにこますか。飽きたら売り飛ばすかしようぜ」
「追いかけるか?」
「いや、この道は他の女どもも通るだろう。一人は逃がしてここは安全だと思わせようぜ」
「さすが首領。あとから来た奴を罠にはめて……だな」
「察しが良くなってきたじゃないか、俺の相棒をやってるだけある」
男は上機嫌で酒瓶を煽った。だが相棒と呼ばれた男は知っていた。前任(そう呼ぶべきならばだが)は、この首領がドジを踏んだところを助けようとして、そのまま囮にされ身代わりになって命を落としたと。外道と呼ぶほどのことでもない。よくある話だ。この盗賊業界では。明日をも知れぬ我が身がかわいいやつであふれている。それでもまともな仕事にありつくチャンスすら踏みつけてここへ居るのだから、自分だって似たようなものだ。
(見てろよ……)
もしも自分が身代わりにされそうになったら、俺がこいつを叩き落としてやる。そもそもこんな森の中へ隠れ住むことになったのだって、元はと言えばこの首領が原因なのだ。腹心の胸の内など知らず、首領は配下へ酒瓶を掲げてみせた。
「野郎ども! 俺たちにもとうとう希望の光が見えてきたぜ! 後からくる奴らをさらって一儲けだ!」
行き場のないゴロツキたちは諸手を挙げて賛成した。うっとおしい森の中の隠遁生活に早くも嫌気がさしていたのだ。さっさと獲物を捕まえて、もっといいねぐらを手に入れたい。酒に女、薬にギャンブル、一時の享楽すら得られないではないか。
盗賊たちのどこか虚ろな歓声を、その魔女は木の上から眺めていた。
「希望の光ね。うまいこと言うじゃない。だいたいそういうのは振り向いたら絶望、そんなのとセットだもんねえ?」
●やあやあ皆様まずは注目
「おやァ」
武器商人(p3p001107)は雨露の銀糸の下でまばたきをした。
「ここから先は結界が張られてるじゃないか。待ち合わせはここでいいのかい、キルロードの方?」
「結界……そう。なら間違いありませんわ、武器商人様。ここがあの魔女が呼び出してきた場所ですわ」
さっきからどうも道に迷っているような気がしてたまらない。ガーベラ・キルロード (p3p006172)たちが居るのは鬱蒼とした森の中だった。周囲にはわずかに緑がかった水色の霧が薄くかかっている。嫌な予感がして、ガーベラはハンカチで口元を覆った。
周囲は湿っぽく、じたりとした暑さが背中へべっとりと。視界は比較的明瞭だがもともとが森の中なので見通しがいいとは言えない。
「天然のダンジョンみたいだな」
ジェイク・太刀川(p3p001103)がそう言うと、ガーベラはかぶりをふった。
「いいえ、ジェイク様。おそらくはこの森、この状況、すべてが……」
そこまで口にしたところで、か細く笛の音が聞こえてきた。甲高く気だるく、聞いていると頭がぼんやりしてくる、そんな笛の音。暗い森の奥から五線譜が溢れ出し、それが人の形に絡み合う。音符が虹色に輝いたかと思うと、次の瞬間、そこには一人の少女らしき存在が現れていた。
ゆったりと空中浮遊する彼女はあなた達を瞳に映すとにっと笑った。
「ハレルヤ! あーんどグーテンモルゲン。本日のご機嫌は右斜め45度? よく来てくれたね、まずは喝采、ガーベラちゃんとそのお友達へ。僕ぁもう一日千秋の想いで待ってたよ!」
機嫌良さそうな彼女に対し、ガーベラは柳眉を寄せ顎を引いた。警戒のポーズだ。
「どうしたんだい、彼女と何か因縁でも?」
「ええ、まあ」
宮峰 死聖 (p3p005112)の問いにガーベラはつれない返事をかえした。
(語りたくないのでしょうね。今はまだ)
神父であり告解を受ける身であったカルロス・ナイトレイ (p3p008427)はそう感じた。
ガーベラと少女のにらみ合いは続いている。といっても、ガーベラが睨みつけているだけで、肝心の少女はにこにこ顔なのだが。
(うーん、気圧されてるね。ガーベラさん。その態度が相手を喜ばせてるって気づいているのかどうなのか)
百戦錬磨の茶屋ヶ坂 戦神 秋奈 (p3p006862)には、ガーベラと少女の精神的優位まで手にとるようにわかった。沈黙がつまらなくなったのか、少女は口を開いた。
「まだだったね自己紹介。僕は『【狂音の魔女】フェスタ・フラウト』、性は狂人、属性は思慕。気軽にフェスちゃんと呼んでおくれよ、夏といえばフェスだよね、暑いしね、熱いんだぜ!」
「お待ちなさい、話が脱線していてよ」
勝手に喋り続ける彼女をガーベラが制する。
「ああ、そうだった。ガーベラちゃんは相変わらず仕切りが上手いね。さすがキルロード家のご令嬢だぜ!」
「用件は?」
鼻を鳴らすガーベラ相手に、にたりと笑い、フェスタは再び喋り始めた。
「とにかく困惑、ここの近くをねぐらにしてる盗賊団へ魔女集会への『通り道』を知られちゃったぜ。このままじゃあいつら、魔女集会まで乗り込んでいっちゃうよ。それだけは避けたい、どーしても避けたい、なにがなんでも避けたい、だってお呼びでない客を連れてきたなんて女子会の手土産にビールとツマミでも持っていくようなものだからね! さすがに夜(ナハト)の集会では空気読むんだぜ! 僕えらくない?」
「はいはい、えらいえらい。えらいから続きを頼むぞ」
クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー (p3p006508)がぱちぱちとやる気のない拍手をした。それでも充分気を良くしたのか、フェスタは胸を張った。
「というわけで結界を張って、この森の一部を僕の空間にしたぜ! 迷路みたいにしておいたし、方向感覚を狂わせる迷子の霧もおまけにつけておいたから、今頃どこがどこやらって状態になってるよ!」
「それでつまり?」
クラウジアもガーベラにつづいて眉を寄せた。なんとなく話が読めてきたから。
「君たちにやってほしいのは、ズ・バ・リ鬼ごっこ! うろうろしてる盗賊を捕まえて現世まで放り出してあげて? 来世でもいいよ。やり方はお任せちゃう。といっても、ガーベラちゃんなら全員生きて捕まえるって言いそうだけどね! 大事なことは、『通り道の先が魔女集会の為の場所と知られるのはご法度』ってこと」
「だからその前に盗賊をとっちめようってことかな?」
死聖のセリフに、フェスタはご機嫌でうなずいた。そのあと、わざとらしいくらいはっと驚いてみせる。
「いけないいけない、忘れてた。迷子の霧の効果は君たちにも作用しちゃうけど、そこは許してねー! うっかりだよ、うっかり、あはははは!」
作ったような笑みの向こうから悪意が透けて見える。なるほど、あの心の広いガーベラが毛嫌いするわけだ。そうあなたは思った。
「それはともかく閑話休題、楽しそうだから鬼ごっこには僕も参加するよ! 僕は君たちが出発した後、100数えたら独りで森の中の探索を始めるね。笛でも吹きながら行こうかな。あ、もし僕が盗賊を見つけた所とばったり出くわしたら、僕と戦ってほしいんだぜ! たぶんその頃の僕は退屈してるだろうから、ちょっと小手調べをするだけだから安心してね!」
小手調べ……。だいたいこういう事を言い出すやつは全力でかかってくるものだ。あなたはこの依頼が厄介であることにそろそろ気づきかけていた。
「ようするにこいつの言うとおりにしなきゃいけないわけね。けど、何か企んでない?」
霧裂 魁真(p3p008124)の冷たい視線を受け、フェスタは猫のように笑んだ。
「企むのは魔女の基本だよ? 冷静、情熱、温故知新、どちらもまぜこぜ生命のスープ。でなきゃ新しい曲は思い浮かばないぜ!」
「……はあ」
これ以上話しても無駄だと魁真は悟った。
「さあさ激励、失敗しても大丈夫! 失敗って疲れるよね。がんばったのにさあ、なんていうの? 徒労感? わかるよ。だから、お疲れの君たちに、僕からいいものをふるまってあげよう! 期待してるよイレギュラーズ!」
何故だろうか。彼女のセリフには裏があるように思える。ただそれを追求する手段は今はない。とはいえ、魔女の結界ダンジョンで迷子に気をつけながら盗賊を無力化するのが今回のミッションのようだ。依頼は依頼。引き受けねばなるまい。あなたたちはしぶしぶ森の奥へ分け入っていった。
●誰も知らない
あなたたちが森林へ踏み入ったのを見届けると、魔女は小さな声で歌いだした。
「髑髏の盃、血の味ワイン。鮮血ソースの脳髄ケーキ。海亀スープを召し上がれ。嗚呼、その楽しい『音色』を聴かせておくれよイレギュラーズ」
- <魔女集会・前夜祭>笛の音響音狂音完了
- GM名赤白みどり
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年06月29日 23時00分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
気が滅入る。嫌な森だ。小鳥の囀りもなければ動物たちの気配もない。ただ薄く緑がかった霧が広がり、踏み出すたびに下草がかさこそと音を立てるのがいやに耳につく。ここにいるぞと知らせている気がした。あの魔女に。あくまで気のせいなのだろうが、まるで裸同然で森へ放り出されたようで頼りない。人間狩りをするのは、されているのは、自分たちではないのかと。
「気を抜くと私たちまで迷ってしまいそうです。なぜ魔女は味方である私たちにまでかような狼藉を働くのか。理解に苦しみます」
カルロスが不安げにあたりを見回す。霧は薄く、そこそこの距離は見えるが、道が曲がりくねっており、視界は悪い。
(魔女もですが、盗賊の相手もしなくてはならないのですよね。いやむしろどうやって守るか、でしょうか。かの魔女から)
カルロスが考え込んでいるうちに。
「この霧、やつには戯れのつもりなんだろうさ。まったく、あの魔女、絶対ろくでもないこと考えてるね。本業の勘ってやつ?」
魁真はフードの上から長い裾を引き上げ、肩をすくめて両手を広げた。お手上げのポーズだ。
「ヤバいのは盗賊なんかじゃなくて絶対あの魔女だと思うんだ。あいつ理性とか倫理観がぶっ壊れてる。そのうえ刹那主義で相当なアレ。今が楽しければいいってやつだと思うんだよね。この霧だって嫌がらせだよ、うん、絶対」
俺、死にたくないからさ、さっさと終わらせようか。そう魁真は口元を覆い隠す襟をさらに引き上げた。警戒心が無意識にそうさせたのかもしれない。
もっともそんな気分とは無縁の豪の者もいた。死聖だ。
「フフ♪ 望み通り可愛い女の子と一緒に行動できるなんてとても嬉しいね。終わったら僕にちょっと時間をくれると嬉しいのだけど、どうかな? 美味しいサンセーットハーバーを出す店を知ってるんだよ」
「あんな強いカクテル飲ませてどうするつもり? それにお酒はいま気分じゃないしー」
「そこの店、フードもいけるんだよ。美味しいうえに珍しい各国の料理が……」
「んー。わかったわかった。付き合ってあげるから仕事きちんとしてね。あと全部おごりだよっ」
「もちろんそこは紳士としてエスコートするよ。それに大丈夫、やるからには手は抜かないさ」
相手をしている秋奈はタダ飯ゲットとほくそ笑んだ。こう見えて実際死聖は表面上紳士なので(中身はしらんけど)、食事をおいしくいただいてそのままさよならバイバイしたって別にいっこうにかまわんと秋奈の中の何かが言い切った。
なんにしてもと、宝石の魔女の異名を冠するクラウジアは、糸目状態で首を左右に振ってぽきぽき言わせた。
「とりあえず、まあ、クソ運が悪かった盗賊団共を保護せんとのう……。しかしなんなんじゃあの魔女。ガーベラ殿の知り合いのようじゃが、社会と縁遠いならともかく、あのような反社会性バリバリの魔女なぞそのうち討伐待ったなしなんじゃがなあ……」
愚痴っぽくこぼすクラウジアに、秋奈が答える。
「あなたでもそういうこと気にするんだ?」
「ええい、儂とて常識ぐらい持っておるわ!? 余裕があれば断罪してやりたいくらいじゃ! 魔女の不始末は同じ魔女がつける! ……と言いたいが、今は盗賊団の尻拭いが優先じゃのう」
「私はあのフェスタぽん気に入っただけどな。あのうさんくさいの、マジ魔女って感じじゃん! はぁーっ! こんなのもう好きなやつじゃん! あとでもちもちさせてもらおう! ととっ、その前に迷子の山賊ちゃん、見つけてあげないとねっ!」
「ヒヒ、そうだねぇ。哀れにもまだ自分たちがこの森の王者だと思っているようなかわいそうなコたちだから、早めに現実を見せてあげないとねぇ」
武器商人が独り言のように言う。
「有史以来だの霊長類だの、ヒトはずいぶんと自分たちを持ち上げたがるよね。一皮むけば二足歩行する猿なのに。でも同じ猿でも聖人君子を目指す猿と、本能と欲望の赴くままに行動する猿がいる。どっちが動物的かなんて、言わなくてもわかろ? キルロードの方?」
「ええ武器商人様、ならばフェスタは異能の猿と言ったところでしょうか。面と向かっていったところで、怒り狂うか笑い飛ばすか、面白がるか……彼女なら3番目をとってきそうですけれど」
ガーベラが胸元を押さえる。
「どうした、気分でも悪いのか?」
目端の利くジェイクが心配して声をかけた。
「いいえ、少し昔を思い出して……氷を飲んだようです」
「そうか。立ち入った話はしないでおくぜ。早く思い出になるといいな」
「ありがとうございます」
ガーベラはジェイクの無言の優しさがうれしかった。
キルロード家の乱。それはアーベントロート派閥では周知の事実であり、口にしないのが暗黙の了解である。ガーベラの叔父が本家キルロードへ牙を向いたのだ。そして彼を唆し、裏で操っていたのが、他でもないフェスタだった。巧妙に功利心をくすぐられ、穏やかで気の小さかった叔父は別人になった。自ら武器を取り、キルロードの領地を奪取せんとして……詳細は省く。キルロードの乱の顛末は、ガーベラがいまも領民から慕われ、姫騎士と呼ばれていることに集約されよう。
(フェスタ……あの狂人に従うのは甚だ癪ですが……アレに好き勝手させたら被害が拡大してしまいますわ。盗賊とはいえ改心する可能性があるなら救うのは貴族の務め)
「……絶対に無駄な犠牲は出させませんわよ、フェスタ。かつて貴女が起こしたような事は……絶対に」
低くつぶやくガーベラ。その肩がぽんと叩かれた。ぎょっとして振り返ると、人差し指でほっぺたぷにーのコンボが待っていた。
「くくっ、そんなに体をこわばらせてちゃ、初動が遅れるぜ。こいつはあの魔女が仕掛けたゲームだ。おもしれえ。あの余裕綽々で俺たちを舐め腐った魔女に一泡吹かせてやろうぜ」
「ええ、そうですわね。ジェイク様。私としたことが過去の怨讐に捕われてしまうところでしたわ。いきますわよ」
ガーベラは大きく息を吸った。
「オーホッホッホッホッホ! 私はガーベラ・キルロード! 同情すべき盗賊団を必ずや救い出してさしあげますわ!」
●
「キックオーフ!」
「フフフ、やる気満々だね、秋奈さん!」
「私が思うに、迷ってる盗賊は同じところをぐるぐる回ってるんじゃないかな! さくさく捜索してさくさくやっつけちゃおうっ」
やがて盗賊らしき足跡が見つかった。思ったとおり、古い足跡の上に新しい足跡がある。死聖は聞き耳を立てた。何かが近づいてくる。
「お頭の言ったとおり上玉だな、へへへ」
「おいテメーら、俺らと一緒に来てもらおうか」
わかりやすいセリフとともに盗賊団がすぐに現れた。そして3人の男は、こちらを見るなり襲いかかってきた。秋奈と死聖は物騒な笑みを浮かべ、戦闘態勢に入った。呼吸を整え、やや前のめり。死聖は車椅子を握る手に力を込める。
「おっと失礼♪」
先手を切って死聖の車椅子アタック! 轢かれた盗賊はぶべらと蛙の潰れたような声を上げた。
「やりやがったな! クソ、女だからって油断してたぜ!」
盗賊どもが死聖を襲う。だが死聖は車椅子を器用に操り、棍棒を避け、ナイフから身をかわす。
「ちょこまかと!」
業を煮やした盗賊が秋奈から思考をそらした瞬間、秋奈は飛び蹴りを放った。
「ホップステップジャーンプ! 大丈夫! 脳震盪にとどめとく! なんたって私は慈悲深いからー」
「舐めやがってクソガキ!」
「どの口がぬかすか、どこからどー見てもか弱い女の子でしょうが!」
言い返そうとした盗賊は、秋奈のハイキックで黙らされた。並の盗賊などもともと秋奈と死聖のコンビにとって敵ではなかったのだ。
「よしっ、秋奈さんのパンチラいただき!」
「おまえのそれも壊しといてやんよっ」
「あああああっ!」
死聖ごと蹴りでぶっとばす秋奈。秘蔵データを秘めたカメラはバチバチと火花を飛ばし、ぷすんと音を立てた。
さて、こいつら、どうしよう。このまま放っておけば魔女の餌食になりそうだ。秋奈と死聖は、盗賊を森の入口まで運ぶことにした。
●
森の中を一人の少女が歩いている。
いや、魁真だ。人は仕草でその人を見分けるという説がある。だとしたら魁真は今や完璧になよなよしい女性だった。道に迷い、途方にくれている、そんな少女だ。
はたして盗賊共が現れた。下卑た笑いを浮かべ、舐め回すように魁真を見つめている。
「……やめてください」
か細い声が漏れた。
「お嬢ちゃん、森で迷ったら狼にさらわれるって話を聞いたことはないのかい?」
盗賊はずかずかと魁真へ歩み寄り、その腕を握ろうとした。が、逆に伸びてきた細い腕に握り返されてしまった。武器商人だ。影のように密やかに魁真についてきたのだ。盗賊は逃れようとするも、万力のような力で腕をつかまれ、冷や汗を垂らす。
「狼に遭ったのは、さてどちらだろうね?」
(なんだこいつら、もしかしてやべえのにあたっちまったか?)
盗賊どもの判断は正しかった。
「おい、逃げるぞ、こんなの相手してられねえ!」
「わかってらぁ! けどこの銀髪が邪魔しやがる!」
「おやまァ、よくそんなので盗賊を名乗れたものだね? あァいや、ごめごめん。そんなのしかいないから群れて盗賊を名乗っているのだったか。ヒヒヒ!」
「まったくだよ。逃がすと思う?」
普段の仕草に戻った魁真は、侮蔑を顕にした。
「女に変装した男の区別もつかないなんて、よほど飢えてるんだね。可哀想」
スイッチを切り替えた魁真は、奇襲気味に盗賊の顔面へ黒綺羅星を食らわす。ぞり、頬をかすめた刃は確かに肉をえぐった。顔を覆って悶絶する盗賊。間髪入れず腹へミドルキック。次々と盗賊を沈ませていった。
●
「人の気配がしてきたのう。お、空の酒瓶があるぞ?」
ファミリアから得た情報を、クラウジアは逐次ガーベラへ伝えた。そのたびにガーベラは元気よくうなずいている。
「オーホッホッホ! ゴミはゴミ箱へときちんと躾けなければなりませんわね! 放置すればいかに魔女の結界の中とはいえゴミまみれになりますわ」
そんなことになったらあのフェスタはそれを理由に敵も味方も関係なく大量殺戮に走るだろうことが容易に想像がついた。
(もとからそんな気でいるような……)
ぞくりと背を駆け上がる悪寒にガーベラは引きつった笑みを浮かべ、全身を彩る光を強めた。高笑いも、この発光も、ひいては盗賊どもが向こうから寄ってくるように仕向けるためだ。ガーベラはさらに念には念を入れて感情探知を使っていた。こちらはフェスタとの遭遇を避けるのに役立った。
はたして、飛んで火に入る夏の虫、というやつか。霧の向こうから現れたのは、どう見てもまともでない風体の3人組だった。
(思ったよりいい装備をしておるのう。もしや噂に聞くボスチームか)
クラウジアが警戒を強める。
「盗賊団の頭領とお見受けした。どうか儂らの話を聞いてほしい」
「ああん?」
「まあまあお頭、やつら手強いですぜ。ほら、あの姐さんのレイピアなんか、かなりの業物だ」
相棒らしき男がヘッドを制する。
「で、話ってなんだ? 言うだけ言ってみろ」
「フェスタっちゅー凶暴極まりない魔女がおぬしらの命を狙っておる。儂らが森の外へ連れて行く故、おとなしく従ってくれ」
「そのとおりですわ。オーホッホッッホ! クラウジア様の話、このガーベラ・キルロードが保証しますわ! 何でしたらちゃんと改心することが前提ですが、この森から出たら我が農園に就職斡旋してもいいですわ。盗賊などやめて足を洗いなさいな」
「舐めてんじゃねえぞ、そこではいそうですかと抜かすほど俺らは腐ってねえ!」
瞬間、クラウジアは利き手を鋭く振った。ソウルウトライクの弾丸が盗賊どもの足元をうがつ。
「ひえっ!」
「ガタガタ抜かす前についてくるんじゃ、件のやべー魔女に殺されたくはなかろう? それとも儂という魔女に殺されたいのかの?」
盗賊などやっているものは生き汚い。圧倒的な力の差を見せつけられ、ボスチームは投降した。
●
鳥が往く。薄暗い森の中を。
それがジェイクの視聴覚と密接につながっていることを知っているのは本人とカルロスばかりだ。ここは魔女の結界の中、こそりとも音がしない森の中で、重要になってくるのは聴覚情報。盗賊の位置をとらえるにはなくてはならない。その一方で、カルロスは人助けセンサーを使っていた。心の奥底で木々の合間から漏れ聞こえるささやきを拾い集める。そのほとんどが空虚な森のものであったけれど。
「ジェイクさん、反応がありました。左奥です」
「おうよ、任せろ」
早口で言ったカルロスに、ジェイクはうなずき、ファミリアーを飛ばした。
「……」
とたんに険しい顔になったジェイクを、カルロスは覗き込んだ。
「どういたしましたジェイクさん」
「死体だ……。少しばかり遅かったみたいだぜ」
フェスタの気配がないことを確認し、二人がそこへ急いでみると、二人分の凄惨な死体があった。木に打ち付けられた盗賊は、おそらくじっくりと時間をかけていたぶられたのだろう。あまりの酷さにカルロスは目を背け、ジェイクは一時的にハイセンスの効果を切った。
「……あのアマ、なんてことしやがる。盗賊に人権はないとは云え、ひでぇもんだぜ」
カルロスは震える手で胸元からハンカチを取り出した。
「おい、神父さん、吐くなら木陰にしてくれよ」
「いいえ、いいえ違うのです。せめて顔を隠してあげようと……」
「おめえ優しいな。悪いことを言ってすまなかった。ハンカチ、一枚じゃ足りまい? 俺のも使うか」
「お気遣い感謝します」
簡易な葬儀を終え、せめて遺体を地に埋めることはできないかとカルロスは提案した。ジェイクはファミリアーで周囲を警戒しながら、その作業を手伝ってやった。
●
「ひい、ひい……」
「ほらとっとと歩け! でないとまた蹴り回すぞ!」
「か、勘弁してくだせえ!」
縄でしばられ、半ば引きずるように秋奈に引っ張られる盗賊。森の入口へ出てみると、ちょうど他の仲間も集合したところだった。
「なんだ、みんなも今帰り? 戦果はどう? 私と死聖は2チーム」
「俺と武器商人は1チームだけ」
「まァ充分だろう。宝石の魔女とキルロードの方は大物を手に入れたようだね」
「オーホッホッホ! 私とクラウジア様の威光にかかれば、この程度造作もありませんわ!」
「……いや、こいつら隙をついて逃走しようと企んでばかりで、まったく。改心させるのは骨が折れそうじゃ」
「それよりも」
と、ジェイクが言った。
「ばらばらに動いていたはずなのに、そろって出口へ集まったなんて、なんだか作為的なものを感じるんだが……」
「そりゃそうさ、僕が集めたんだもの」
バサバサと大量の楽譜が木立の合間から飛び出て、人型に固まり、フェスタへ変じた。
「やあやあ皆さんお疲れちゃん。残念ながら僕は5人しか仕留めることができなかったよ! これってみんなが盗賊を見つけ出すのに長けてたからだね、すごいね!」
「……そりゃどうも。で、なんか用?」
魁真が服の下で黒綺羅星を抜いた。武器商人とクラウジア以外は、鋭い視線をフェスタへ向けている。
カルロスが進み出た。
「嗚呼……何と悍ましくも禍々しい存在なのでしょうか。私とジェイクさんは見ました。人を人と思わぬ所業。人有らざるモノ……『悪魔』とはあなたのような存在なのでしょう」
「えー、そんなに褒められると照れちゃうぜ!」
(神よ……何故貴方はこのような試練をお与えになるのですか……)
額の汗を拭い、カルロスは言葉を紡ぐ。
「フェスタさん」
「なんだいカルロス君」
「どうしてこのような残虐な行いをするのですか?」
フェスタは目を見開いた。
「どうして? どうしてだってカルロス君ちゃん、それは愚問というものだよ! あははこいつはいいや、おかしいや、魔女の生き様に口を出す恐れ知らずがいるなんて、やっぱり混沌は面白いところだね、そう思わない、ガーベラちゃん?」
「……あら、私は貴女の一切を否定しますわ、フェスタ」
「強い言葉を使うなよ、弱く見えちゃうよ。あのやさしいやさしいオジサンのようにね!」
「フェスタ!」
ガーベラが激高して真ドラグヴァンディルを抜いた。斬りかかろうとしたその刹那、肩を押さえつけられ動きを縫い留められる。武器商人だった。
「気持ちはわかるけども、今はその時ではあるまい? キルロードの方」
「……」
普段は意図して影薄く振る舞っている武器商人の、本気の目はガーベラに不穏な気分を抱かせた。肩を抑える、存外に強い力が、こらえろと言っているようだ。
「ああ、楽しかった面白かった! 本当は消耗したところを8人まとめて狩り尽くしてやろうかと考えてたけど、カルロス君ちゃんの純朴さに免じて今日はなかったことにしてあげるぜ! あははっ!」
フェスタはケラケラと笑いながらくるりと回った。くるりくるり、そのたびに体が透けて大量の楽譜に変わっていく。楽譜は空へ吸い込まれ、溶けて消えていく。
「ではではお別れ。またの日を、ガーベラちゃん」
消えゆきながらフェスタは歌い出した。それは友人との別れを歌った物悲しいメロディ。いつしか霧は晴れていた。あとには彼女の歌声と、とってつけたような乾いた高笑いだけが残った。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
いかがでしたか。
フェスタはとてもいい味だしてるキャラですね。とてもすてきです。なんとなくフェスタは最後に、凶のひはさよならをガーベラへ向けて歌っていた気がします。
GMコメント
みどりです。リクエストありがとうございました。
グループ分けして探索の効率をあげ、迷子にならないよう気をつけながら、盗賊団を無力化していくという内容になります。
目的はシンプルなのですが、やることがそれなりに多いのでグループ内である程度役割分担したほうがスムーズに行くでしょう。
やること)盗賊団20人全員の無力化・方法は問わない
オプション)魔女の被害を盗賊団7人以下に抑えること
●盗賊団
魔力を押さえていたフェスタを人間型の魔物と間違えた救えない不運軍団。
迷宮に変わった森林を2~3人の計8グループに分かれてさ迷っています。道に迷っているのですが、その自覚はありません。それもまた魔女の仕業なのです。遭遇時、袋叩きにされる可能性には注意してください。
●ボスチーム
F・O・Eと見せかけて普通に強いだけの皆さんです。首領・相棒・手下の3人による攻防に優れたチームです。少なくとも2人以上のイレギュラーズでなくては苦戦は必至でしょう。
●【狂音の魔女】フェスタ・フラウト
デンジャー! 倒せません! こっちが本物だ!まともに戦うと甚大な被害を蒙りますので、いかに盗賊団を保護して逃げるか、がメインになります。
まあ盗賊団は見捨ててもいいよ。
●誰も知らない、はPL情報ですが、んーと、失敗しなければOKOK。がんば!
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