PandoraPartyProject

シナリオ詳細

下水道の伝説

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●下水道にワニは居るか?
 ある日の午後――仕事もひと段落し、ローレットにて穏やかな休息の時を取っていたイレギュラーズ達の下に、二人の男が尋ねてきた。一人は人間種。もう一人はネズミの獣種だ。
「……先生? どうしたんですか?」
 人間種の男性――ハルトヴィン・ケントニスの姿を認めた『慈愛の英雄』ユーリエ・シュトラール (p3p001160)が、思わず声をあげる。
「おお、ユーリエ君か。実は皆に依頼があってね」
 にこにこと笑みを浮かべながら、ハルトヴィン達はユーリエたちの方へと歩み寄る。ネズミの獣種は手をあげると、『ラド・バウC級闘士』シラス (p3p004421)へと親し気に声をかけた。
「やぁ、シラス。アンタも居たのか。二人とも知り合いが集まってるってのは、何かの縁なのかねぇ」
「ドルチュじゃねぇか。アンタが上に出てくるのも珍しいな」
 ネズミの獣種、ドルチュへと、親しげに笑いかけるシラス。
「依頼、って言ったよな。なんか地下で厄介ごとか?」
 シラスが尋ねる――ドルチュは、幻想の地下水路、下水道を根城に生活をしている、いわゆる自由人である。そのドルチュが絡んでいるとなれば、下水道関連の仕事か、とシラスが判断するのも当然だろう。
「まぁ、厄介ごとと言えば厄介ごとなんだが……詳しくはこっちの先生から聞いてくれよ」
 ドルチュはハルトヴィンに言葉を促す。どうやら、依頼の主体者は、ハルトヴィンの方の様だ。
「実はだね……都市伝説に関する依頼だ」
「先生、また都市伝説とか調べてるんですね」
 ユーリエが苦笑する。ハルトヴィンの個人的な興味の範疇であるが、彼は幻想の都市伝説について、調査を行う事を趣味としている。
「おや、幻想で生活する以上、避けては通れぬ話題だよ? 実はだね、下水道に、巨大な白いワニが出る……と言う都市伝説があるんだ」
 ハルトヴィンがそう告げるのへ、
「ワニ……かい? しかも、白い?」
 首をかしげつつ返したのは、『死力の聖剣』リゲル=アークライト (p3p000442)だ。下水道と、ワニ。いまいち接点がなさそうな話題だ。
「そう。誰かがペットとして持ち込んだものだとか、魔物の類だとか言われているね。これが面白いのがだね、一部の旅人の居た世界でも、同じ都市伝説が語られていたというのだよ」
 些か興奮した様子で、ハルトヴィン。
「それは、確かに不思議かもしれないな」
 『優心の恩寵』ポテト=アークライト (p3p000294)は、ふむ、と口元に手をやり、頷いた。
「だろう? この奇妙なシンクロニシティ……私は何かある、と思ってしまうんだよね」
 そう語るハルトヴィンの眼は、新たな不思議を発見した子供のように、きらきらと輝いている――しかし、その輝きとは対照的に、表情を曇らせたのは『雨宿りの』雨宮 利香 (p3p001254)だ。
「あ、ちょっと待ってください。嫌な予感がしてきました」
「アンタのその予感は当たってるよ」
 ふぅ、と肩をすくめてみせるドルチュ。
「その人はね、件の下水道を探索したいって言うのさ。オイラを案内人に、アンタたちを護衛につけて、ね」
「ゲスイドウ、デスカ」
 『RafflesianaJack』オジョ・ウ・サン (p3p007227)が、捕虫袋から眼をのぞかせ、言った。
「あまり、キタナイ水、飲みたくないデスね」
「そこを何とか頼みたいのだよ……件の下水道は些か危険な場所でね。私達だけではとてもではないが調査することは出来ない」
 ハルトヴィンの言葉に、ドルチュが続く。
「実際危ないんだ。小型の魔物が徘徊していてね、オイラ達もあまり近寄らない所だから」
「うーん……となると、都市伝説はさておいて、それはそれで、放っておくのはまずいんじゃないかな?」
 『雷光・紫電一閃』マリア・レイシス (p3p006685)が声をあげた。確かに、人の住む幻想の地下、そこで魔物が繁殖している、となれば少々問題だろう。
「ならば、魔物退治の依頼……という事で、良いんじゃないかな?」
 リゲルが言う。その言葉に、ハルトヴィンは頷いた。
「そう言ってもらえると嬉しいな。報酬はしっかり用意させてもらうから」
「ジャ、決まりダネー」
 『龍眼潰し』ジェック (p3p004755)の言葉に、仲間達は頷いた。そして、では早速……という事で、ハルトヴィンとドルチュの案内の元、噂の下水道へと、向かう事となったのである――。

 その入り口で。
「う……」
 たまらず、マリアは絶句した。
 まず、悪臭がすごい。そして何か澱んだ雰囲気が身体にまとわりつくように漂っており、汚れた水が足元をどろどろと流れている――。
「マジですか。マジでここ進むんですかぁ?」
 利香がたまらず悲鳴を上げる。進みたくない。ほんと正直、進みたくない。
「そんな凄いノ? におい?」
 ジェック――ガスマスクのおかげが、あまり臭いを感じずに済んでいるようだ――が尋ねるのへ、オジョ・ウ・サンは静かに頷いて、捕虫袋の蓋を閉じてしまう。
「ソんなに」
 うへぇ、とジェックは肩をすくめる。臭いはさておいても、下水道全体がすさまじく汚れているのは、ジェックにもわかった。
 ……此処を進むのか。
 イレギュラーズ全員の気持ちが一つになった所で、相反するようにわくわくとした表情を見せるハルトヴィンが声をあげた。
「さぁ、伝説を暴きに、行こうではないか!」
「ああなったら先生、止まらないよ……?」
 肩を落とすユーリエ。
「まぁ……仕方ないよな……依頼、受けちまったしな……」
 はぁ、とシラスがため息をつく。
「オイラが案内するから、迷うことは無い……其処だけは安心しておくれ。ただ、危なくなったらすぐに引き返すからな?」
 ドルチュの言葉に、イレギュラーズ達は頷いた。こんな汚い地下にて死す……と言うのは、正直嫌だ。
「やれやれ……じゃあ、行こうか、皆」
 ポテトの言葉に、一同は頷く。
 かくして――イレギュラーズ達の、下水道探索行は始まるのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方はイレギュラーズ達への依頼(リクエスト)により発生した事件になります。

●成功条件
 下水道の調査を完遂する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 幻想の地下、誰も近寄らぬ下水道――そこには、巨大な白いワニがいるのだという。
 そんな都市伝説を入手したハルトヴィン・ケントニスは、下水道の調査のため、案内をドルチュに、道中の護衛をイレギュラーズ達へと、それぞれ依頼してきました。
 イレギュラーズ達が向かうのは、魔物と悪環境が待ち受ける、昼なお暗き下水道の中。
 果たしてそこに、白いワニは居るのでしょうか――。

 ドルチュの案内があるため、道に迷う事はありません。道中にトラブルなどが無ければ、間違うことなく下水道の最奥まで到達できます。
 道中には、数種類の魔物が徘徊しています。避けたり倒したりしつつ、先に進んでください。
 なお、下水道内には明かりはなく、悪臭と汚水がイレギュラーズの皆さんを精神的に苦しめることになると思います。対策はした方が良いかと思われます。

●エネミーデータ
 ゴキブリみたいな魔物
  道中を徘徊しているゴキブリみたいな魔物です。汚いです。大きいです。
  見た目通りに素早く、生命力も高く、空も飛びます。汚いです。大きいです。

 歩くキノコ
  道中を徘徊している、歩くキノコのような魔物です。汚いです。
  耐久力はありませんが、周囲に毒をまき散らします。

 白いワニ
  ……本当にいるかどうか、遭遇できるかどうかは不明です。
  居るとしたら、相当巨大で凶暴な存在でしょう。
  鋭い歯に噛まれたら、流血してしまうかもしれません。

●同行NPC
【夢の探究者】ハルトヴィン・ケントニス
『音楽家気取り』ドルチュ
 二名が同行します。
 どちらも戦闘能力はありませんので、守ってあげてください。

 以上となります。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。

  • 下水道の伝説完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
シラス(p3p004421)
超える者
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
オジョ・ウ・サン(p3p007227)
戒めを解く者

リプレイ

●いざ、下水道へ
「行きたくないぃぃ……」
 深く深く息を吐いて、『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)はそう言った。はぁ、はぁ~~~~、と深く深く深くため息をついてから――そんなに深くため息をついたら、この下水道の空気をそれくらいに深く吸わなければいけないのか、と気づいて、数秒、たまらず息を止めた。
 イレギュラーズ達がいるのは、幻想の都市の地下、下水道だ。増改築を繰り返され、些か複雑に、地図や詳しい者がいなければ少々迷う程度には入り組んだ場所となっている。
 いや、この際、そのようなことは些末事。問題は、下水道の名に恥じぬ、汚水と悪臭が漂っている所にある。
 加えて、得体のしれない虫の類も跋扈している。利香の足元に、何かがカサカサと這うのを感じて、
「ぴぃ!」
 思わず悲鳴を上げる利香。その足元を這う何かを、たし、と捕まえて捕虫袋に放り込んだのは『RafflesianaJack』オジョ・ウ・サン(p3p007227)である。
「アマーミィ、ワガママデスネ。汚れた水と空気にガマンすれば、こんなにオイシイところはないノデスノニ」
「水と空気も致命傷ですけど、特にそのオイシイのが致命的なんですよ! ところで、ねぇ、今、食べたんですか? その、さっきの虫、食べたんですか?」
「~♪」
「こっちを見てください! 目をそらさないで!」
 がくがくと疑似餌ちゃんの肩を揺さぶる利香。そんな二人を見ながら、ハルトヴィンはにこにこと笑った。
「いや、今日は賑やかだね。私もなんだか、いつも以上にワクワクしてくるよ」
「先生も、ちょっと、ずれてますよね……」
 苦笑するのは、『慈愛の英雄』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)だ。さておき、と気を取り直しつつ、
「無茶はなし、ですからね。くれぐれも、私達の傍から離れないで」
 ユーリエの言葉に、ハルトヴィンは頷いた。
「じゃあ、行こうか……みんな気を付けてね。何か色々出そうだし……」
 『雷光・紫電一閃』マリア・レイシス(p3p006685)の言葉に、仲間達は頷いた。
「出来るだけ早く探索を追えて……かえってお風呂に入ろう……?」
 マリアの言葉に、仲間達は深く深く頷くのであった。

 『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)を先頭に、一行は下水道を進む。リゲルのギフトを光源に、各々は悪臭と汚水対策を施している。
 例えば、リゲルなどはハーブを縫い合わせたマスクなどをつけて、少しでも空気を清涼なものに変えようとしているし、ユーリエはカーム・パフュームを振りまいて、少しでも良い香りで相殺しようとしていた。おかげで、だいぶマシに放ったものの、下水の汚れと悪臭は、ゴリゴリと仲間達のメンタルを削っていた。
 光源と言えば、オジョ・ウ・サンも光源を持っていたのだが、しばらく黙って隠していた一幕がある――あまり光っていると、ゴキブリが隠れてしまうと思ったからだ。なぜゴキブリが隠れてしまうのが嫌だったのかと言えば、食べられないから、なのだが。
「ワ~ニワニワ~、ワ~ニマ~ニマ~~♪」
 などとうたってごまかしていたオジョ・ウ・サンなわけだが、
「オジョウサン、捕虫袋の中身が光ってるけれど」
 と、利香に気づかれて、普通に怒られたので、渋々光源を取り出した。という訳で、今の光源は、リゲルとオジョ・ウ・サン、そして利香の持っているクリスタルなど複数体勢であり、こと明かりに関しては、仲間達は不自由しなかった。
「ハハッ、なんだか皆、これから銀行でも襲うみたいな恰好だよな」
 下水道には慣れているのだろう――入り口辺りだけとはいえ、かつて下水道に寝泊まりした事もあるのだ――『ラド・バウC級闘士』シラス(p3p004421)が、苦笑交じりでそう言った。
「やめてくれよ……なんだか本当に、そんな気分になってしまう」
 リゲルもまた、苦笑する。下水道を通じて、ここから倉庫を狙うべく、地下から侵攻する強盗達――と言われても言い訳が効かないような恰好を、仲間達はしていた。口元も、肌も隠しているのだ。まぁ、そうでもしないと、この下水道を進むことは出来なかったわけだが。
「今の所は静かだが……何か異常はあるか?」
 リゲルと手を繋いで、逸れぬように歩いていた『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)が尋ねる。下水道で、あまり鋭敏な感覚を発揮したくはなかったが、どうにも魔物の類が徘徊しているらしく、そうはいってはいられないのが実情だ。
「大丈夫……かさかさ聞こえるけど、これは普通のゴキブリだろうし、臭いは……臭いまま変わらないし……うう、嗅覚が仇になるくらいには酷い……。対策装備を持って来ておいて良かったよ……」
 とはいえ、ハイセンスの所持を、マリアが後悔したくなる位には、キツイ。どぷん、と汚水が跳ねるたびに、背筋が凍る思いがする。触りたくない、という想いで、脳が埋め尽くされる。
「まぁ、慣れないときついよなぁ」
 案内人であるドルチュが笑った。下水道を根城にしているドルチュには、この程度は、ある程度慣れっこだ。まぁ、感じないといえば嘘になるが、この程度を気にしていては、下水道での生活はままならないのかもしれない。
「キミは、下水道生活長いノ?」
 『鎮魂銃歌』ジェック(p3p004755)が尋ねる。ドルチュは深く頷きながら、
「まぁ、ねぇ。どれくらいいたか、忘れちまうくらいにはね」
「俺が召喚される前から、下水道が根城だったよな、ドルチュ」
 シラスが言う。二人は古い付き合いであるのだ。ドルチュなどはシラスに、親心のようなものすら抱いてもいる。
「召喚と言えば、シラスは無茶してないよね? コイツは昔っから、危なっかしい所があるからさ」
「ウン、無茶は……まぁ、ネ?」
 ジェックが言葉を濁すのへ、シラスは笑ってみせた。
「任せろって、強くなったんだぜ?」
「そう言う事じゃないんだがねぇ……相変わらず、心配させるよ」
 心配と同時に、シラスらしいと言う、どこかしらの懐かしさと嬉しさも含んだ言葉だった。それが少し……今のシラスには、嬉しかったかもしれない。
「昔のシラスは、どんな感じだったんだい? 差支えがないならば、教えてくれないか?」
 ポテトが尋ねるのへ、「そうだなぁ」とドルチュが唸る……と。
「……みんな、とまって」
 ふと、マリアが声をあげた。
「ワニ、かい?」
 ジェックが尋ねるのへ、マリアは頭を振る。
「なんだが、地面を這うような音……でも、軽い。それから、大きな、かさかさ、って音」
「となると、徘徊している、と言う魔物か……」
 ポテトが頷く。どうやら一同は、ワニよりも先に、魔物に遭遇したという事の様だ。
「皆、一気に片付けよう。此処は一応、人の生活圏だ。魔物が徘徊してるのは、よくない」
 ポテトの言葉に、仲間達は頷く。
「先生、ドルチュさんと後ろに隠れていてくださいね?」
 ユーリエの言葉に、ハルトヴィンとドルチュが、仲間達の背後へと控える。
 仲間達は一斉に武器を抜き放ち、前方を照らした。そこには、巨大なゴキブリのような魔物と、キノコのような魔物の姿が、下水道の内壁に影を落としていたのである。

●下水道の戦い
「皆、足元には気を付けて……一気にせん滅するぞ!」
 リゲルが叫び、一気に斬り込む。手近にいたキノコに対して、上段から思いっきり斬り捨てる。ぶにぃ、と声をあげて、キノコは真っ二つに切り裂かれた。
 それに気づいたのか、一斉に巨大なゴキブリたちがカサカサと動き始める。ばさり、と翼を広げ、一気に滑空! イレギュラーズ達へと迫りくる!
「きゃああああああああっ!」
「きゃああああああああっ!」
 利香とオジョ・ウ・サンが同時に声をあげた。片方は悲鳴。片方は嬉しい悲鳴。利香にしてみれば、地獄の光景そのものであったが、オジョ・ウ・サンにとっては、鴨が葱を背負って来るようなものだったのだ。
 飛来するゴキブリを、リゲルが剣で以って受け止めた。リゲルに噛みつかんとするゴキブリの口は、意外と鋭い牙が並んでいる。これに噛みつかれたら、簡単なケガではすむまい。
「二人で抑えよう、利香!」
 リゲルが声をかける――が、利香は返事をする余裕などない!
「いやぁああ、来るな、来ないでください! 燃えてなくなってくださいいい!」
 と、辺りそこら中に炎の輪をまき散らし、ゴキブリを燃やし尽くさんと画策する。
「うん、頼りにはなる……けど、盾としてはだめかもしれない!」
 リゲルは思わず呻いた。
「光によって闇を打ち砕け……ガーンデーヴァ!」
 一方、懸命に攻撃を続ける仲間達。ユーリエは意志の力を光に変換させ、それをもって弓矢を作り上げる。弓を引き絞り、撃つ――光の矢はゴキブリを貫いて、爆散。消滅させる。
「くそ、極力触れたくはないな……!」
 シラスはぼやきつつ、己の身体に魔術を巡らせ、身体を強化させる。そのまま、拳へ魔力を多く流し、いうなれば魔力の小手を作り出し、拳を覆った。
 魔力による障壁越しの打撃――キノコの腹部をぶち抜いてキノコを絶命させる――その瞬間、キノコは頭から、ぼふ、と胞子を発射させる。
「くっ……げほっ、毒の胞子か!?」
 シラスが思わず呻くのへ、駆け付けたのはポテトだ。
「大丈夫か? すぐに治療する……!」
 ポテトの的確な対処が、身体を蝕む毒を治療させる。キノコは耐久力はないようだが、吐き出す毒の胞子が厄介な敵のようで、ポテトもこれには、回復に大忙しだ。
「んー! やみやみやみ~♪ Yummy~♪」
 討伐した端から、捕虫袋に獲物を放り込んでいくのはオジョ・ウ・サンである。阿鼻叫喚の戦闘中であるが、オジョ・ウ・サンにとっては、ご馳走タイムに過ぎないのかもしれない。
「まずは毒を防ごウ。それカラ――」
 ジェックは仲間達に防毒の力を付与していく。同時に目の端に動くゴキブリを捉えて、そちらへと銃口を向けた。
 ガンッ! 下水道に反響する銃声――それは寸分たがわずゴキブリの頭部を捉えて、粉砕した!
「一匹一匹、潰してくしかナイ、かぁ。どんなに素早くタって、アタシのメからはニげられないよ」
「ぎゃあー! こっち来ないでくれたまえ!! しっ! しっ!! ジェック君! シラス君! どうにかしておくれ!」
 武器を振り回しつつ、マリアが悲鳴を上げる。どうやらゴキブリにたかられているらしい。想像するだけでトリハダ物の光景である。
「悪い、こっちは手いっぱいだ!」
 キノコと格闘しながら、シラスが叫び、
「アタシ、スナイパーだからさ。誰かをマモる余裕なんてナイんだ、ワルいね 」
 ジェックは別のゴキブリを狙撃しつつ、そう返した。
「ぎゃー! 裏切り者ー! くっ、死んだら絶対、化けて出てやるからなーっ!」
 マリアの叫びが、下水道に反響する。とはいえ、そのまま集られて終わり、という事は決してない。マリアは反撃の拳を、ゴキブリに叩きつけた。殴り飛ばされたゴキブリが、壁にぶつかってぐしゃりとつぶれる。ふーっ、ふーっ、と激しく息を吐きながら、涙目でマリアが次の獲物を睨みつける。
「こうなったら、自棄だからな! そっちが悪いんだぞ……!」
 マリアの決死の叫びを合図に、仲間達の反撃が始まり――あたりが静かになるのに、そう時間はかからなかった。

 戦い、進む。そしてまた戦い、進む。
 イレギュラーズ達は少しずつ、下水道を踏破しつつあった。そして奥へと進むにつれて、イレギュラーズ達の服は汚れ、その目から光が失われていく。
「……カエったら洗濯代クライはダしてよね」
 ジェックの言葉に、ハルトヴィンが苦笑する。
「しかし、結構奥まで来たが……白いワニは見当たらないな」
 リゲルが言うのへ、仲間達は同意する。
「元々居なかったのか……それとも、移動しているのかな? それで、すれ違ってしまったとか」
 ポテトの言葉も、もっともだ。相手もこちらを、待っていてくれているわけではないのかもしれない。となると、移動している可能性もある。
「でも、いるのは違いないと思うぜ? 見てみろよ、これ。すげえ噛み痕だな、ドルチュなんて一飲みじゃねえの?」
 と、シラスが指さすのは、下水道の内壁に残された、何か鋭いもので削り取ったと思わしき傷跡である。この傷跡から想像するに、相当な大きさの生き物が、この跡をつけたのだろう。
「どうする? 一度、出直した方がいいのかな……?」
 ユーリエの言葉に、一同は思わず、唸ってしまった。確かに、長い事捜索を続け、ぼちぼち最奥へと到着するだろう。このまま探索を続けるか、それとも……。
「ハイハイ! オジョウサン、良い考えがアリマス!」
 と、沈思黙考する一同へ、疑似餌ちゃん元気そうに手をあげたのであった。

「良い匂いなのが腹立ちますね……」
 利香が思わず声をあげる。周囲には、何か美味し気な香りが漂っている。
 これは、オジョ・ウ・サンが『調香』によって作り上げた匂いだ。これを利用して、白いワニをおびき出そう、と言う事である。ちなみに材料は、捕虫袋の中に入っていたモノであり……材料を、想像したくはなかった。
「だが、これなら、ワニをおびき出せるかもしれない……」
 マリアの言葉に、仲間達は頷く。非戦闘員の二人を守る様に陣形を汲みながら、しばし、待つ――最初に異変に気付いたのは、シラスだった。
「おい、あそこ……水の中だ!」
 シラスの指さす方を見れば、汚水の中、輝く二つの眼が見える――途端! 汚水を割いて、それは巨大な姿を現した!
「白い……ワニ!」
 ユーリエの言葉通り……それは、白い、巨大なワニだった!
「すごい……なんて迫力なんだ」
 ポテトが思わず、唖然と声をあげた。下水道と言う薄汚れたところにありながら、それはどこか神秘的な雰囲気を纏っていた。これでロケーションが整っていれば、なおのことそうだっただろう。
 一同がワニに見とれていると、ふと、
「……ネェ? なんかアイツ、こっちみてるヨネ?」
 ジェックが尋ねるのへ、オジョ・ウ・サンはケタケタと笑った。
「デスネ! オジョウサン、美味しい匂いで釣ってますカラ! ご飯だと思われてるカト」
「だよね!」
 マリアが叫ぶ――同時に、ワニが突っ込んできた! ごん! と下水道の壁に突撃してきて、壁が激しく崩れる――その土煙も晴れぬ中、ワニの鋭い牙が、イレギュラーズ達へと迫る!
「ちぃっ! 応戦するぞ! ポテト、二人を守ってくれ!」
「了解だ!」
 リゲルが銀の剣でワニへと斬りかかる――が、その皮が剣を受け止めて見せたのだ!
「硬い……っ!?」
「みたいだ! 相当タフだぞ、コイツっ!」
 シラスが殴り掛かるが、ワニは平気な顔をしている。ユーリエが続いて、ガーンデーヴァによる射撃を試みた。爆発がワニを包み、低い唸り声をあげる。
「ガーンデーヴァにも耐えるなんて……流石都市伝説!」
 ユーリエが叫び、跳躍する――刹那、ワニのしっぽが鞭のように、ユーリエの居たところを通過した。
「兎に角狙い続けるしかないネ! 一か所に攻撃シュウチュウ!」
 ジェックは叫び、銃弾を撃ち込み続ける。ワニの堅い皮に、幾度か銃弾は弾かれるものの、少しずつそこにはダメージが蓄積されている。
「了解だ! スタミナを削り切らせてもらうよ!」
 放たれる、マリアの雷の蹴り。ジェックが狙ったそこへと突き刺さる! ばしぃ、と雷が跳ね、ワニが身体を震わせた。ワニは怒りの雄たけびを上げると、イレギュラーズ達をかみ殺すべく、その大口を上げて突進――先頭に立って受け止めたのは、リゲルだ。刃と牙を打ち鳴らし、奇妙なつばぜり合いが発生する。
「くっ……攻撃は、こっちで抑える!」
「リゲル! 無茶は厳禁だぞ!」
 ポテトが回復に回り、徐々に減り行くリゲルの体力を、回復し、攻撃に耐える力を与えた。
「もう! 何でこうなるんだか!」
 嘆きつつも、利香の鋭い剣の冴えは衰えない。幾度目かの斬撃に、ついにワニの皮、その硬い表皮を削り飛ばしたのである。
「ワーニワニマニマー♪」
 オジョ・ウ・サンの捕虫袋から伸びる鋭い触手が、削り飛ばされたワニの皮、その内側の柔らかい肉へと突き刺さった! 痛みは少ない。だが、そのための毒が流し込まれ、ワニはその思考を曇らせたまま、雄たけびを上げあおむけにひっくり返ってしまう。
「チャンスだ! ユーリエ!」
 シラスが叫ぶのへ、ユーリエは再び、ガーンデーヴァを番えた。
「これで! お終いっ!」
 光の矢が、あらわとなったワニの腹へと突き刺さる。流石にここは、ガードが甘かったようだ。突き刺さった光の矢は爆発し、ワニが雄たけびを上げてのたうち回る。
 やがてその動きは徐々に弱くなり――ずん、と、その身体を地に横たえるのであった――。

●日の光の下へ
「いやあ! 素晴らしい! 素晴らしい体験だったね!」
 と、ハルトヴィンが楽しそうに声をあげる――対照的に、仲間達は疲労しきっていた。
 ようやく、汚くない所に出てこれた……その想いだけが、仲間達に共通していた。白いワニには驚いたが、やはりそれ以上に、悪環境が皆の神経を削っていた。
「皆のおかげだよ! いやぁ、本当に助かった――所で、次の都市伝説についてなんだが」
「それ……とりあえず、休んでからで良いかな……?」
 思わず、リゲルはそう告げるのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 リクエスト、ご参加ありがとうございました。
 ひとまず今は……ゆっくりと、お風呂に入って疲れと臭いを落してください。

PAGETOPPAGEBOTTOM