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シナリオ詳細

ゴブリン七難八苦

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●追い詰められたゴブリン
 小柄な人影が炎の中で悶えている。
 髪と肉が焼ける異臭は強烈で、鎧どころか肌にまで染みつくようだ。
「タスケ……」
 細い腕が哀れっぽく伸ばされる。
 昨日、村人を切り刻んで口に運んだ手の平が、炎の外側から振るわれた鉄塊により粉砕された。
「後何匹だ」
 中年の鉄騎種がぎょろりと視線を向ける。
「南に向かった個体は全て捕殺しました」
 若い鉄帝軍人が、上司と同じ怒りをいだいて淡々と報告する。
「よし。お前は無事な村に走って現状を伝えろ」
 指示を出し終えた直後、別の伝令が到着。
「隊長! 東に逃げた群が洞窟に逃げ込みました。2人残して入り口を封鎖しています」
 長距離を走ってきた軍人が息も整えずに報告した。
 中年軍人の顔に、地獄の悪鬼を思わせる笑みが浮かぶ。
「皆殺しだ」
 鉄塊じみた火炎放射器が大量の炎を吐き出す。
 拘束されていたゴブリン達が肺まで焼かれ、死ぬまで激痛に苛まれるのであった

●ゴブリン討伐依頼
「あっさり負けたのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が1枚の写真をイレギュラーズに示す。
 焼け焦げた洞窟……が崩落した光景だ。
 土砂の中から突き出ているメカメカしい足は、多分鉄帝の軍人だろう。
「騒々しく洞窟の中に突っ込んだらしいのです」
 ゴブリンは落とし穴を掘り、不意打ちするために土の中に隠れ、塹壕すら掘って軍人達を待ち構えた。
 攻め込んだ鉄騎種達は、平地なら1人で蹴散らせるゴブリンの群れを相手に苦戦……はせずに分厚い装甲と有り余る体力と腕力で圧倒しかけた。
「そこで、どーんと崩れたです」
 ゴブリンにとっても予想外の事故だった。
 雑な穴掘り工事の影響は洞窟の弱体化という形で現実化し、潰走中のゴブリン前衛と不注意な鉄帝軍人を巻き込み崩落を引き起こした。
「ゴブリンの主力は洞窟の奥に逃げたのです」
 知恵はいまいちでも頑丈な鉄帝人は全員無事で、一部は自力で土砂から這い出た。
 しかし追撃は不可能。
 何故なら、力任せに穴を掘るのは可能でも補強等の技術がいる工事は自殺行為というか全員埋まって酸欠死しかねないからだ。負傷もしているし。
「つまりハック&スラッシュなのです!」
 洞窟に逃げ込んだゴブリンが大勢の村人を殺しているだとか、様々な背景はある。
 が、ローレットのイレギュラーズには関係ない。
「ゴブリンをやっつければいいのです!!」
 洞窟内のゴブリンを鏖殺すれば、後は現地部隊……は無理でもその上の軍官僚あたりが頑張って後片付けしてくれる。
「まー、それが結構難しそうなのですが」
 大型火炎放射器を使った馬鹿のせいで洞窟内の空気が悪く、流れ弾や流れ鉄拳のせいで洞窟全体が脆くなっている。
 超、危険なのである。
「鉄帝の人達はサポートにまわってくれるです。洞窟に抜け道とかあってもゴブリンを足止めしてくれるです。多分」
 現地鉄帝部隊はイレギュラーズに協力的だ。
 邪魔はしないし手柄を譲れと言わない。
 入り口や洞窟周辺の封鎖や警戒という、重要かもしれないが地味な仕事だって真面目にしてくれる。
 ただし脳筋だ。
 頭脳労働をさせたり細かい作業をさせると敗北フラグが屹立する。
「上手に使ってあげてください」
 戦闘以外の面でも、困難が待ち構えていた。

GMコメント

 きる・ごぶりんず!!

●エネミーデータ
『穴掘りゴブリン』×20前後
 大きさは人間の10歳児くらい。
 板きれを巧みに操り、穴を掘ったり土を固めたり板きれで殴ったりするゴブリン達です。
 全体に能力が低く、特別な能力は暗視能力のみです。
 直接的な攻撃手段は板きれアタック【物至単】のみですが、イレギュラーズに対して罠を仕掛けようと努力はします。
 怖じ気づいた個体は既に死んだため、比較的士気が高いです。

『ボスゴブリン』×複数
 毛皮を体に巻いて防具とし、鉄帝の村から奪った木材を棍棒として使う(ゴブリンとしては)強者なゴブリンです。
 これまで散々鉄帝軍部隊に追いかけ回され、鉄騎種に怯えて逃げるようになりました。
 能力は比較的高いですが能力を活かすための技に欠けます。
 棍棒振り下ろし【物近単】【必殺】と、棍棒振り回し【物至範】(命中が低くファンブルが高い)が可能です。
 暗視能力もあります。

●友軍
『鉄帝軍人』×10
 脳味噌筋肉。
 イレギュラーズからの要請がない場合は、洞窟の入り口と洞窟周辺の大小の穴全ての警戒を行います。

●戦場
 1文字縦横10メートル。戦闘開始時点の状況。上が北
 abcdefghij
1■■■■■■■■■■
2■■□□ボ■■■■■
3■■□■■■■■■■
4■□□土□□■■××
5■□■■■□□穴穴■
6■■■■■■■■■■

 □=洞窟です。暗いです。幅は2~4メートル。天井の高さは3~5メートルです。
 ■=土か砂か岩盤です。
 ×=土砂を撤去した直後の洞窟です。天井の補強等は一切されていません。
 穴=地面に多数の穴が開いています。罠や、待ち伏せの穴掘りゴブリンがいると思われます。
 土=大量の土が積まれています。「穴」での戦いがゴブリン不利になると、ボスゴブリンが完全に封鎖しようとします。
 ボ=洞窟です。ボスゴブリンの一部または全てが確実にいます。小動物が辛うじて通れる穴を広げて逃げ道にしようとしています。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • ゴブリン七難八苦完了
  • GM名馬車猪
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月14日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
桐神 きり(p3p007718)
陣雲(p3p008185)
忍び

リプレイ

●蛮族の洞窟
「憎悪だけで敵を殺せたら。そう思ったことはない?」
 洞窟の奥から死の気配が吹き付ける。
 力なきものが無惨に殺したものが纏う、嫌な臭いだ。
「私には、できる。……預かって叩き込むくらいは、するよ」
 熟練の兵士が顔色を悪くする状況でも、軽装にしか見えない『紫緋の一撃』美咲・マクスウェル(p3p005192)は平然としていた。
「頼む」
 美咲より重い装甲に身を包んだ鉄帝軍人が頭を下げた。
 仕留められなかったのは事実。
 早く解決しないと他の事件もおきかねない。だから、後はイレギュラーズに任せるしかないのだ。
「大勢を殺した敵なんでしょ? 普通に殲滅対象だよね」
 『咲く笑顔』ヒィロ=エヒト(p3p002503)のアホ毛と狐耳と狐尻尾が怒りを露わにしている。
「人として、そんな危険なゴブリン放っておけないもん。きっちりバッチリ鏖殺してくるよ!」
 鉄帝軍人に向けるのは慰めではなく共感だ。
 わずかに救われた気配を発し、軍人が改めて頭を下げる。
 美咲は、演技ではなく真心で彼等を動かしたヒィロに暖かな視線を向けた。
「ええ、勿論よヒィロ ばっちりカタにはめてきてあげましょ」
 美咲には自信と余裕がある。
 もちろん、状況の困難さを甘く見てもいなかった。
「ほんと狭い所で、火炎放射器は厳禁なんだぞ……」
 『蒼蘭海賊団団長』湖宝 卵丸(p3p006737)の目に厳しい光が浮かんでいる。
 ただ臭うだけなら我慢すれば良い。
 しかし、目や鼻や肺に害がある水準で粉塵が舞っているなら話は別だ。
 水筒の水で布巾を適度に濡らして口と鼻を覆う。
 それだけでかなり楽になる。何人かのイレギュラーズは卵丸に倣って粉塵対策を行った。
「これを使ってくださいな。後方からの襲撃を警戒するのに必要でしょう?」
 『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)から青白い光を放つランタンを渡された軍人が慌てた。
「美術品っ」
「実用品ですよ」
 何ともまぁ鉄帝らしいと内心苦笑して、鶫は後方に対する警戒を任せて洞窟の奥にのみ神経を集中した。
 目、鼻、耳すべてが膨大な情報を集めて鶫の頭脳へ送る。
「まるでモグラ叩きですね」
 特に視覚は赤外線まで認識しており、急ごしらえの穴に隠れた小さな人型まで良く見えた。
 洞窟の凹凸と狭さを巧みに利用していて、敵の力を弱め己の力を高める用意ができている。
「まぁ、場所さえ分かれば難なく対処できますが」
 そんな用意も情報があれば意味が薄くなる。
 力押しで攻めれば万一の展開があり得るが、そんな雑な攻撃をするつもりは最初からない。
「3、2……」
 『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)が振りかぶる。
 戦闘用メイド服がふわりと揺れ、他のイレギュラーズ達が自分の耳を手で覆う。
「1」
 特製火薬が詰め込まれた缶が、穴に隠れるゴブリンへ向かう。
 盾のように構えた板で跳ね、洞窟の奥側へ消える。
「0」
 導火線が燃え尽き、特性火薬が爆発した。
 破壊力としては無に等しく、けれど発生した音の大きさは桁外れだ。
 最も広い場所でも幅4メートルしかない洞窟内で幾重にも反響して、ゴブリンの集団から聴覚を一時的に奪った。
「私は奥を」
 声と同時に身振りで伝えながら、鶫は全長1メートル半を超えるライフルの引き金を引く。
 縮退化したマナが幾重にも強化された銃身で加速され、粉塵と残響漂う洞窟を一直線に切り裂いた。
 奥に位置していた老齢のゴブリンが、頭部の霊的なもの全てをずたずたにされ絶命した。
「ゴブリン最後尾から40メートルは無人。その奥に、なんだこれ?」
 イルカじみた……洞窟に相応しく表現するなら蝙蝠じみたエコーロケーションで奥を調べた卵丸が眉を寄せる。
「海賊センサーに感有り。落盤の罠かもっ」
 一歩右斜め前に出る。穴からそろりと板を出したゴブリンの胸にドリルをめり込ませる。
 この程度の相手なら、偵察しながら仕留める程度卵丸にとっては児戯である。
「いや、何というか、実に鉄帝らしい雑さ……ではなく、鉄帝らしい戦い方をしたみたいだね」
 メートヒェンは保護結界を展開している。
 先程の音だけの爆発でも被害が出かねないほど洞窟が痛んでいる。
 だが、結界で保護すればイレギュラーズが本気を出しても崩れない。音による影響も皆無だ。
「抵抗するといい。お前達にもその程度の権利はある」
 形の良い足先が地面を滑るように飛ぶ。
 穴から頭の半分だけを出したゴブリンの頭が不自然に傾き、頸骨の折れる振動がメートヒェンの足に伝わる。
 無事なゴブリンが先端を尖らせた板を突き出す。
 攻撃直後の鉄帝メイドに辛うじて届き、けれどもともと小さな威力は3分の1もメートヒェンに届かない。
 鮮やかに振り下ろされた美麗な足が、もう1体のゴブリンに止めを刺した。
「鉄騎種の頑丈さは羨ましいね」
 『エアリアルホッパー』陣雲(p3p008185)はヒィロの灯りと一時的に得た暗視を組み合わせることでゴブリンの位置と地形を把握。
 敵味方の間をするりと抜けて、反撃のため板を構えた敵の背後に回り込む。
 形の良い口元が剥き出しのメートヒェンとは違い、口と鼻を布で覆っている。
 鋭く息を吐きつつ拳を突き出す。
 時間限定で肉体のリミッターが解除される。
 危険を冒し敵に一撃を加えるとき限定の解除という、有効であると同時に扱いが難しい武術だ。
 皮膚を通して骨と肉と内装を押し潰す感触が拳に残る。
 陣雲は空中を蹴って、塹壕兼落とし穴の上数センチを飛行し安定した足場に着地した。
「ドコ……カラ」
 ゴブリンが倒れて血を吐き出す。
 ここ1週間でそのゴブリンが流した人間の血と比べれば、1桁以上少ない量だった。
「美咲さんの情報とボクの反射神経があれば、不意打ちなんて……」
 目に優しい照明程度に光るヒィロが、一旦口を閉じてむむむと唸る。
 ゴブリンが動こうと思った時点で穴と穴の間の安全な足場を踏んで移動し、ゴブリンが板を振り回したタイミングで跳躍して壁に着地し地面に足を下ろす。
 イレギュラーズ8人と死体も込みでゴブリン21体が1カ所にいる上、大量の穴が開いているので使える足場が少ない。
「パズルだよこれー」
 敵を引きつけている最中だ。
 100攻撃されて100回躱す自信はあるけれど、躱し方を考えるのが思った以上に大変だ。
「ん?」
 狐耳がぴくりと動く。
 ゴブリン達に、ここは一歩も通さないという闘志をぶつけて思考の方向を縛り直してから、ヒィロは美咲に合図を送った。
 暗い紫の色になった瞳が小柄な個体を捕らえ、ゴブリンから生気を引き抜き美咲が吸収。
「奥、大型のゴブリンが少数」
 同時に透視能力を使った美咲は、慌てふためき追い詰められた表情のボスゴブリン達を視認した。

●砕かれた罠
「別の世界でも蛮族は同じようなことを考えるのね」
 小柄な体を魔法の鎧で守りを固めた『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)が、無造作に見えても実際は戦慣れした足取りで洞窟の奥に向かう。
 洞窟入り口付近のゴブリンはまだ10体前後生き残ってはいるが、イレギュラーズの攻勢に対応するのが精一杯でありルチアを追う余裕はない。
「まったくその通りです。被害者なんてフレーバーは省いてしまってもいいのに」
 所々雑な丁寧語を操る桐神 きり(p3p007718)が、ルチアのそれとは趣の異なる戦闘装束を揺らしながら走る。
 地球の古代末期コンスタンティノープル出身者とVRMMOアバター転移者なので、会話は噛み合っていても意図は少しずつずれていた。
「ふーむ、面倒な事になったから、後始末がこっちに回ってきた感じですかね」
 きりは討伐に異議はないけれども、もっと早い段階から呼んでくれていたらという思いはある。
「ま、鉄帝の人達も手伝ってはくれるみたいですし、真面目にお仕事といきましょうか。いざゴブリンスレイヤー!」
「ええ」
「ヒエッ、鉄ニンゲン……チガウ、エサダァッ!!」
 ぶくびくしながら様子を確かめに来た大柄ゴブリンが、2人を見た瞬間怯え顔から食欲と情欲に満ちた顔に変わった。
「餌かどうか、実力で確かめてみなさい蛮族っ」
 ルチアが駆ける。
 ボスゴブリンが手を伸ばす。
 洞窟を補強する柱をゴブゴブリンが引き抜く前に、銀の方形盾を構えたルチアが柱を守り汚れた手を弾いた。
「クフフ、イイニオイダァ」
 清潔で生気に満ちたルチアの肌と肉が、ゴブリンにとっては最高のごちそうに見える。
 大柄ゴブリンに武術の心得はなくても膂力と体格には恵まれていて、拳の速度はかなりものだ。
 盾による防御は間に合ったものの、衝撃はなくせずルチアの肩に痛みを残す。
「大人シクスルナラ」
 太い舌がちろりと出て涎が垂れる。
「鉄帝の村でも同じことを言ったの? 蛮族はこれだから」
 ルチアはゴブリンを攻撃しない。
 ゴブリンにとっての逆転手段である柱を守ることが、最大の攻撃になると理解しているのだ。
 ボスゴブリンは舌打ちをして攻撃を繰り返す。
 古代帝国出身者は無傷ではいられない。
 けれど癒やしの業を頻繁に使用し、しかも疲れた様子は皆無だ。
「ドウシテ倒レナイッ」
 ルチアが強いと認めぬ戯れ言を叫ぶ。
 だが、現実の強弱は決して変わらない。
「ホブゴブリン? を1つ目視で確認しましたよー。ボスゴブリンですかね?」
 ゲーム内の狩りのような気楽な声で後ろへ伝え、熟練の冒険者かつ歴戦のプレイヤーの目で状況を見る。
「ッ」
 ボスゴブリンの肌が粟立つ。
 きりから噴き出した攻撃的な気配を妖気と判断できなくても危険なことだけは分かる。
「苦しくないですかー? 息ができなくないですかー?」
 からかう言葉のはずなのに、死後の世界から響く声にように感じる。
 きりが隙を見逃さずに妖気の一部を打ち込み呼吸その他を阻害しているだけではあるが、本能ばかりが肥大したゴブリンには全く理解できずただ恐れる。
「来ルナ、来ルナァッ!!」
 きりより体だけは大きな蛮族が、後先を一切考えず洞窟の奥へ逃げ出す。
 丁度、通常サイズのゴブリンが全滅したタイミングだった。

●抜け道
「鉄ニンゲンハイネェ! 殺セ、殺セェ!!」
 大きなゴブリン達が、先端が湿った丸太を滅茶苦茶を振り回す。
 洞窟の壁を凹ませ天井を削り、元々頑丈ではない洞窟を崩壊へ近付ける。
 直前まで外へ逃げるための穴を掘っていた。
 小動物が出入りできる程度の穴は開いたので、崩れても自分達だけは生き延びられると思い込んでいた。
「出力と射角はこんなものでしょうか。まずは一射、いきますね」
 ライフルグレネードが銃口に召喚される。
 暗く、揺れて、粉塵立ちこめる状況で、鶫は冷静に狙って引き金を引いた。
「ハギィッ」
 最も手前のゴブリンが悲鳴をあげる。
 肩が抉られ、しかしそれは被害の全てではない。
 グレネード炸裂時に2種の呪いがゴブリンを冒し生命力を容赦なく削っていく。
「お疲れ様」
 メートヒェンは、術で繋がったリスにその場への待機を要請する。
 リスは、森の中に開いた小さな穴の近くで、穴から聞こえるゴブリンの悲鳴を聞いている。
「地形把握もメイドの嗜みだよ」
 迷い無く洞窟を進み、粉塵を乗り越え横凪の蹴りを放つ。
 外へ続く穴を意識し逃げ腰のゴブリンがよろめき、3匹が狭い空間で固まった。
「敵は3つ、敵も3つ」
 エネミーサーチによる感知結果と目の前のゴブリンを比較し、陣雲が結論を出す。
「ここで終わらせる」
 大勢の人間が殺された。
 ゴブリンにどんな事情があったとしても、もう妥協はあり得ない。
 陣雲は軽装備のみが理由ではあり得ない機敏さで、最後のゴブリンに仕掛ける。
 2本の足で早く速く正確に加速し、稲妻を思わせる拳撃を手前の1つの脇腹にめり込ませ、勢いを止めずに次のゴブリンの胸にめり込ませる。
 疲労とと傷みに耐えつつ後ろへ跳躍。
 怒りに燃えて反撃しようとした重傷ゴブリンに、もう1度脇腹への打撃を加えた。
 息が乱れ視界が揺れる。
 素晴らしい連撃ではあったが、イレギュラーズとしては駆け出しの体は陣雲の技を支えきれない。
「あの者に加護を」
 ルチアの祈りが世界を極小規模で揺らす。
 陣雲の疲れた体が急速に回復。
 彼は感謝を行動で示すかのように、見た目以上に強いボスゴブリンを攻撃し続けた。
「数的有利は確立。後は」
 きりが戦場から十分な距離をとる。
 敵の攻撃が届かず、天井から石が落ちてこない位置から、傷が重い順に癒やしの術をかけていく。
「傷ガキエテッ」
 なんとかダメージを与えてもすぐに消えてしまうことに気づき、ゴブリンの心にひびが入る。
「混沌は考えることが多いのが……良ゲーです」
 赤い刃がずぶりとゴブリンに突き刺さる。
 体力気力が回復するきりとは逆に太めの体がしぼみ、カラカラの死体が土の散らばる地面に倒れた。
「ホレ、ホレェ!!」
 丸太の速度が上がる。
 速度とエネルギーは大きく、狙いはさらに雑になり、洞窟の被害と地上へ通じる穴が大きくなっていく。
 成人男性数人分はある土砂が壁の上部から崩れ、2体のゴブリンをイレギュラーズの目から隠した。
「その程度でっ」
 蒼海式回転衝角『轟天』が唸りをあげて回転する。
 携帯兵器としては大型の部類であるのに、卵丸の姿勢は崩れず安定している。
「大きなドリルは、前に進む為にあるんだからなっ!!」
 土煙が覆われた空間を突っ切り土砂にドリルを突き立てる。
 城壁でも岩盤でもないただの土では彼の突撃を止めることはできない。
 ドリルがかき消すように土砂を砕いて、卵丸をボスゴブリンのもとへ連れて行く。
「海の乙女の加護を受け、今必殺の」
 回転速度が増して音が強くなり反響も増す。
 エコーロケーションでの把握も難しくなるが、卵丸は目を見開いて敵と戦場を把握する。
「轟天GO!」
 犠牲者を何人も食らった腹に、ドリルが突き刺さり反対側へと抜けた。
「わっ」
 ゴブリンの残骸を蹴り、ドリルを引き抜くと同時に自らも後ろに跳ぶ。
 保護結界は相変わらず効いてはいるが丸太攻撃の影響は深刻で、本格的な崩落がいつ起きてもおかしくない。
「残念ですが、逃がす訳にはいきませんよ?」
 鶫が撃つ。
 ゴブリンが小さな出口を掘り進もうとする。
 肩の筋肉は分厚く、しかしその程度では文字通りの魔弾を防ぐことなど不可能だ。
 ろくな防御術もない、無防備な背中が深々と穿たれ、最後のゴブリンが悲鳴をあげた。
「ヒィロ、そいつを止めて」
 美咲の周囲で膨大な魔力が渦巻き、黒い瞳がこの世のものとは思えぬほど暗くなっていく。
「うん! ねえゴブリンさん、殺される覚悟はできてる?」
 ヒィロの緑の目には敵意も悪意もなく、冷たい殺意と獣種らしい好戦性が浮かんでいる。
「タスケッ」
 穴に体を押しつけながら、ゴブリンが必死の命乞いを行う。
 獣の獣種が冗談を聞いたときのように噴き出した。
 肥えた腹を見れば、このゴブリンが命乞いなど無視して人を食らってきたことがよく分かる。
「まぁ、なくても殺すんだけど恨むなら自分か神様にしてね!」
 戦意の昂りがヒィロの潜在能力を引き出す。
 情報処理能力の向上が時間を低速に感じさせ、ゴブリンの眼球の動きや体臭から心の内側まで読み取る。
 ヒィロの口角が釣り上がり、白い犬歯がぎらりと光る。
「わーっ!!」
 彼女の脅かす声が、ゴブリンの心の平衡を大きく崩した。
 闇の瞳がゴブリンを映す。
 ヒィロの作った隙を絶妙のタイミングでこじ開け、七色と陰陽の計14種の外にある魔眼で魔物を掌握する。
「これが、ヒトの憎悪よ」
 指さした手を握り、撫でる程度の力で捻り込む。
 酷く脆い魂が砕け、不摂生で鈍った心臓が動きを止められ、ゴブリンが悲鳴をもらせず前のめりに倒れる。
 天井から落ちる崩落は止まらず、人食いの死体を土で隠していった。

●事件の終わり
 ゴブリンの死体が、半ば崩れた洞窟の入り口にずらりと並べられている。
「これで20と……1匹足りない!?」
「頭の数はサーチに反応した数と一致している。全滅しているはずだ」
 陣雲は鉄帝軍人に指摘をして、腐臭が漂い始めた死体から一歩離れる。
「弔う義理はないが」
 腐って不衛生になるのも、狼が肉を食らって数を増やすのも避けたい。
 軍人達と手分けして、簡単な埋葬を行った。
「殺し殺されもこの世の理の一つなんだよね……」
 墓碑のない墓を見下ろしヒィロが呟いた。
 ドライに割切っている。
 割切ってしまえるから、世界を冷たく感じてしまうことがある。
 だから、無意識に美咲に近付き、髪をふわりと撫でられ安堵の息を吐く。
「何も殺さず生きていける存在なんて、いないものね」
 今回の敵の事情も味方の事情も被害者まで理解した上で、美咲は確固とした自己をもってヒィロに寄り添う。
「殺してでも殺させない覚悟、しておこうか」
「ん」
 その場を立ち去る人々の影が、長く伸びていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ゴブリンは全滅しました。

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