シナリオ詳細
荒廃世界のお届け物
オープニング
●滅んだ世界にて
荒廃世界はとても静かだ。
かつてはこの世界でも人々が栄え、従者となる人工生命体達と豪華な暮らしをしていたらしい。
けれどヒトは滅んだ。
この世界に残っているのは乾いた大地に無数の廃墟。
そして便利だった機械達に、人工生命体。
造られた者達は自由になった。けれど彼らには致命的な欠陥があった。
人工生命体はヒトがメンテナンスをし続けないと、生命活動を停止してしまうのだ。
それを防ぐ手段はただ一つ。自分が生まれた拠点にて、遺された設備だけで命を繋ぐ事。
だから、彼らは外に出る事が出来ない。
寂しくはなかった。機械達は人工生命体の言うこともよく聞いてくれるし、他の拠点とも電話やメールで連絡を取る事が出来る。
けれど、たまには。
荷物や手紙をやり取りしたくなる事だってあるのだ。
そんな時は機械に荷物を運んでもらえばいい。
機械なら荒廃した道だって平気で進んでいけるのだから。
●ある少女の嘆き
墓標のように廃ビルが立ち並ぶ街の中、一つだけ明かりのついた建物が存在していた。
その中ではアルビノの少女が顔を顰めつつ、何かの操作盤を叩いている。
「どうしましょう……困りました……」
少女の傍らにあるのは壊れた機械と大量の荷物、そして一通の手紙。
今日は機械に荷物を運んでもらおうと思っていたのだが、間の悪い事に機械にガタがきてしまった。
機械は時間をかければ修理は出来る。荷物だって急いで渡したい訳ではない。
けれど、こんな時に誰かが手伝ってくれるのならば。
そう思いつつ、少女は途方に暮れるのであった。
●境界案内人より
「よく来てくれたね。今日は君達に宅配便をお願いしたいんだ」
境界案内人・カストルが本を片手にイレギュラーズへと声をかける。
「荒廃した世界で手助けを待っている人がいるんだ。彼女の代わりに荷物を届けてあげて欲しい」
今回の仕事を大雑把に纏めると『外出出来ない少女の代わりに、荷物を送り届けて欲しい』とのこと。
目的地までの距離は徒歩で半日ほど。
それだけなら大変ではないのだが――。
「この世界はかつてヒトが栄えていたようだけれど、皆滅んでしまったようだ。だから建物や道は危険な状態で放置されているみたいだね」
目的地までの間には崩れそうなビル群が立ち並ぶ街や、崩れかけた高速道路の上を通る必要があるらしい。
また、荷物の数もそこそこ多い。一抱え分の荷物を一人ひとつは担当する必要があるようだ。
幸い荷物の箱は頑丈で、多少雑に扱っても問題はないようだ。重さも負担になるほどではない。
「その日の間に荷物を受け渡せばいいそうだから、ゆっくり歩いていくのもいいんじゃないかな」
この世界にイレギュラーズが足を踏み入れるのは初めてになる。
ゆっくりとヒトのいない景色を楽しみつつ進んでいくのも悪くはないだろう。
「今回の物語は大きな事件ではないけれど、君達の力が必要だ。是非協力をお願いするよ」
そう話を締めくくりつつ、カストルはイレギュラーズへと笑顔を向けるのであった。
- 荒廃世界のお届け物完了
- NM名ささかまかまだ
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年06月17日 22時35分
- 参加人数4/4人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●
その世界は確かに静かだった。
周囲に存在しているのは広い大地と何かの瓦礫だけ。乾いた風がイレギュラーズの頬を撫で、そっと出迎えてくれている。
「ヒトのいない、機械と人工生命体だけがいる、世界、ですか」
「滅びた文明か、はたまた滅びゆく文明か。懐かしい景色ではあるな……」
ふわふわの兎耳で風を受けつつ、『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)が周囲を見回す。
その後ろでは『灰に咲くアザミの花よ』アレックス=E=フォルカス(p3p002810)も興味深そうに景色を眺めていた。
二人と少し離れた所ではヴァローナ(p3p008520)が依頼人の住居の位置を確認しつつ、出発の準備を進めている。
「方角は……あちらか」
「まずは荷物を受け取らないといけないナ」
『龍眼潰し』ジェック(p3p004755)も共に方角を確認し、ガスマスク越しにそちらの方を見つめていた。
少し進めば依頼人の家までは簡単に辿り着く事が出来た。
「あなた達が荷物を届けてくれる方ですね。それでは、よろしくお願いします」
依頼人であるアルビノの少女は丁寧にお辞儀をして、必要なものを渡していく。
大切な荷物である小さなコンテナに、人数分の保存食。それらをしっかり受け取って、イレギュラーズ達も挨拶を返した。
「これが運ぶ荷物だな。任された」
「了承した。受け渡し先の情報と、容姿などの特徴を求める」
「ええっとですね……」
アレックスがしっかりと荷物を抱え、ヴァローナが宛先の情報を記録しつつ。
「お荷物、お預かりします、ね」
横ではネーヴェが大きなリュックサックに荷物を詰め込んで準備をしていた。
いよいよ出発の準備が整って、皆で出発点を出ようとしたその時。
ヴァローナが依頼人の方へと向き直り、少しだけ声をかけた。
「……そうだ。これを機にスペアの機械を用意しておくことを勧める」
「スペア、ですか」
「肝心な時に機能を果たせないのは、きっと機械も悔しいだろうから」
鉄騎種であるヴァローナからすれば、今回の機械には共感する部分もあったのだろう。
そんな彼からの言葉を受けて、依頼人は笑顔と頷きで答えを返した。
こうして準備が整えば、お届け物の旅の始まりだ。
●
干からびた大地を踏みしめる音がする。
イレギュラーズは少しずつ歩みを続けつつ、進むべきルートを検討していた。
ふと、ヴァローナが顔をあげて少し遠くを見つめる。
「……あそこにちょうどいい建物がある。少し見てこよう」
仲間の許可を取りつつ、ヴァローナの身体がふわりと浮かび上がった。
彼は音もなく飛び立つと、発見した建物の上に足をかけた。
鋭い視力で上空からの景色を確認すれば、進むべきルートも見えてくる。
「(……本当に生命がいないのか。何かないだろうか)」
ついでに楽しむのはこの世界の景色だ。
事前に聞いていた通りに、この世界には生命の気配が消えている。
けれどそれは自分の目でも確かめたかった。最初に見えた結果は残念だったけれど、先に進めばまた何か見つかるかもしれない。
ルートを算出しつつ、ヴァローナは金の瞳に世界を映していた。
ヴァローナがルートを計算しつくしたのなら、あとはひたすら歩くだけ。
アレックス、ジェック、ネーヴェの三人はてくてくと土の上を進んでいた。
進行ルート上にはあまり建物が存在していなかったが、遠くを見ればかつての人の営みが見てとれた。
半壊したビルには掠れた人物画が引っかかり、窓がたくさん備え付けられた建物の中には誰かの家財道具が放置されている。
それら全てが――嘗てこの世界に住んでいた誰かの残したものなのだろう。
「……私の国もこうだったのだろうか」
ぽつり、アレックスが呟く。
文明の発展度合いという違いはあれど、人の痕跡や残る気配というものはどの世界でも変わりはない。
そこで彼が思うのは自分が暮らしていた世界だ。
あの世界、そしてあの国も人が生まれ、営み、滅びを迎える。
当たり前だけど普段は意識しない物事に思いを馳せつつ、アレックスは携帯食糧を手にとった。
一口齧ってみればなんだか不思議な味がする。パンに近いような、それよりもっと甘いような。
「火も水も要らないというのは便利だが、パサパサするな?」
水も一緒に口に含みつつ、少しずつ食べ進めて。歩きながら食べられるというのもありがたい。
進んだ文明の力に感謝しつつ、アレックスはしっかりと歩を進める。
「ええっと、これは、どのような道具、なのでしょう……?」
ネーヴェが気に留めていたのは地面に転がっていた遺物だ。
くすんだ銀色をした小さな箱。片面は鏡のようになっているけれど、重さからしてただそれだけの道具ではないのだろう。
手にとっても動きはしないが、かつては何かを為す道具だったに違いない。一体どんな道具だったのか、ネーヴェは想像を膨らませた。
他にも不思議なものが地面に転がっている。混沌でもよく見るような家財道具から練達の人達でも理解出来なさそうな道具まで。
気になるものはたくさんあるけれど、あまりそちらにばかり気を留めてもいられない。
「たかが半日の距離、されど半日の距離、ですね」
皆の歩みは順調だけれど、この道の先には待っている人もいる。
その事を思い返しつつ、イレギュラーズは更に遠くを目指していった。
●
「……このルートしかないみたいだ」
上空から遠くを確認していたヴァローナが静かに仲間達へと告げる。
日が沈む前に目的地に辿り着くためには、どうしても崩れそうな廃墟が点在する場所を通らなければならないようだ。
「それでも出来るだけ安全に通れそうな道は確認してきた。少しだけ危険な賭けになるけれど、大丈夫?」
「ああ。最悪力ずくで対応出来るだろう」
「兎は、危険に敏感なもの、です。危なくなったら、すぐに、報せますから」
アレックスもネーヴェもルートに同意したなら、あとは突き進むだけ。
ヴァローナが計算した道筋を、一行は素早く駆け抜けていく。
ちらりと横を向けば背の高い建物が一つ、二つ。
イレギュラーズは順調に突き進んでいくが、最後の最後でネーヴェの耳が不穏な音を捉えた。
「っ……あの建物、崩れます……!」
「任された。貴様らは先に行ってくれ」
咄嗟にアレックスがその場に残り、三人は急いで先を目指す。
次の瞬間、ガラガラと音を立ててビルが崩れるが――それより大きな轟音がこの世界へと鳴り響いた。
アレックスが突き出した拳がビルを吹き飛ばし、仲間を崩壊から守ったのだ。
「……これで大丈夫だろう」
「助かった、ありがとう。けれど最後に崩落が起きるとは……」
「ヴァローナ様が、道を決めてくれたから、ここまで、安全に進めました。みんな、無事だから……大丈夫、です」
ネーヴェの言う通り、誰も怪我をせずに通り抜けられたのはイレギュラーズ達の連携の結果だ。
ここから先には危険な物事も存在していない。けれど少しずつ日は傾いてきている。
一行は少しだけ休憩を取りつつ、再び歩を進めていく。
●
目的地まではあと少し。
日はすっかり傾いて、遠くには星も見え始めている。
夕日と星の灯りが彩るのはこの世界の乾いた景色。
「……何故だろうか。私にはこの景色がひどく美しく思える」
鮮やかなグラデーションに沈む世界を見ながら、アレックスが息を呑む。
目の前にあるのは確かに滅びた世界、止まってしまった世界。まるで終焉のような景色なのに、何故か見ていると胸がときめく。
己に宿る獣の性がそうさせるのだろうか。アレックスにとって滅びの香りは愛おしいものなのだ。
一方、ヴァローナはこの景色に悲しさを見出していた。
「この世界がこうなった原因はなんだろう。混沌にもあるものなのだろうか」
空から見ても地上から見てもこの世界に生命の色はない。
朽ちた無機物だけがイレギュラーズを迎え入れ、そして見送る。
いつか、混沌もこのような滅びに沈むのだろうか。
「……わからないけど、こうはなって欲しくないね」
誰もいないのはきっと寂しいだろうから。そんな思いを抱きつつ、ヴァローナは静かに夕日の中を飛んでいく。
そらが本格的に夕闇へと包まれる頃、一行は目的地へと辿り着く事が出来た。
比較的綺麗な建物へと足を踏み入れれば、受取人であるアルビノの少年がイレギュラーズ達を出迎える。
「こんばんは。お届け物、です」
ネーヴェが一歩前に出て、リュックサックから荷物を取り出した。
その様子を見て少年は嬉しそうな笑みを浮かべる。
「長い道のり、大変でしたよね。ありがとうございます、確かに受け取りました」
少年は荷物を一通り確認し、最後に手紙を読んで――更に笑みを優しいものへと変えていく。
その様子を見たネーヴェは思う。きっと、差出人である少女の気持ちも届いただろう、と。
「無事にお届けできて、よかった、です」
「誰も怪我せずに来れてよかった。空からの景色も面白かったよ」
「このような滅びの世界でも旅は出来るものなのだな」
イレギュラーズ達も思い思いの感想を抱きつつ、受取人の家を後にする。
この世界は滅んで乾いているけれど、確かに息づくものもある。
そしてイレギュラーズ達はそれを確かに繋いでいったのだ。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
はじめまして、ささかまかまだと申します。
今回は荒廃世界を舞台としたお話です。
●目標
「荒廃した世界で荷物をしっかりとお届けする」
崩れそうな建物が立ち並ぶ街や、崩れそうな高速道路を工夫しつつ進んでいきましょう。
目的地までは徒歩で半日ほどです。
●世界観
かつてヒトが栄えて滅んだ世界です。ヒトがいた頃は近未来的な世界だったようです。
現在は拠点から出る事の出来ない人工生命体達がのんびりと暮らしています。
彼らの拠点以外には廃墟と荒野ばかりが広がっています。
道が崩れそうだったりする以外の危険は今のところありません。
食事に関しては保存食(固形の栄養調整食品やペットボトルに入った水など)は支給してもらえます。
お弁当などを持ち込んでもらっても構いません。
食事に関して一切気にしなくても「必要なものを必要なタイミングで摂取した」と扱わせて頂きます。勿論景色を楽しみつつ食事をとって頂いても構いません。
●サンプルプレイング
外に出られないなんて大変だな……。しっかり荷物を運んであげよう。
道をしっかり観察して、崩れそうな場所を避けて進んでいくぞ!
危ない場所はダッシュで通り抜けるのもいいかもな!
休憩中には周りを観察してみるのも楽しいかも。
ヒトがいないと静かだなぁ……。
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