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シナリオ詳細

お菓子の家のハンスとグレーテル

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●And when she saw what she had done
「ねえ、愛しいマルガレーテ。ねえ、君は何処にいるの?」
 ずるずると、大きな斧を引きずりながら少年が呟く。斧の刃にはべったりと赤い血。
「この魔女の屋敷にもいなかった」
 ぺちゃりとブーツが水たまりに踏み込む。そのまま歩けば赤い足跡。
 まるでそれはパンの道標のよう。
「ねえ、マルガレーテ。君はお父さんみたいに僕を捨てないよね?」
――Lizzie Borden took an axe
「お母さんみたいに、手を振りほどかないよね?」
――And gave her mother forty whacks.
「でてきておくれよ、マルガレーテ」
 悲鳴が響く。真っ赤な斧の少年は振り向いた。
――And when she saw what she had done
「ああ、まだ魔女がいたのか。かわいいかわいいマルガレーテ。今助けるよ」
 She gave her father forty-one.
 少年は『魔女』を41回斧で打ちのめした。
「マルガレーテ! さあ! 一緒にお父さんとお母さんを殺しにいこう!」

●自分のしたことに気づいた彼は
「まただよ。事件だ」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)がローレットのカウンター席に座り肘をついて君に目を向ける。目線を中空に戻すと、長い指先を絡ませてアンニュイなため息をいた。
「サーカスは大成功だった」
 けれど。
 今このレガト・イルシオンは揺れている。ぐらりぐらりと。まるでクラウンが乗る大玉のように。
 クラウンが転んでしまったら。さあ、どうなるのだろうか?
「なのに、事件は起きる」
 最近やたらめったらに、猟奇的な事件が多い。酒場で盛り上がった男たちが殺傷事件など、幻想では日常茶飯事だ。とはいえ、現状のその数は異様ですらある。
「花の騎士が出張ってるっていうのにね。さあ、じゃあ仕事の話だ」
 少年が、妹を探している。それだけであれば彼はそんなアンニュイな表情を見せないだろう。
 グリモアの森。地域領主が管理する辺境の森である。その両端で同時に事件がおきた。ショウの担当は兄の『ハンス』がおこした事件。
「妹のマルガレーテは、ユリーカの担当だ」
 森の領域内で住居を構える人々が斧で殺される事件が相次いでいる。犯人はグリム兄妹。ハンス・グリムとマルガレーテ・グリム。
 ハンスは行方不明になった妹が魔女に浚われたと思い、探している。そのハンスが森に住む人々を自分の妹を奪った魔女として、判断して惨殺を行っているということだ。
 惨殺方法は斧での殴打。死んだあとも何回も何回も執拗なまでに殴打を続けているのだ。
 明らかに常軌を逸した犯行。
 領主の兵に事態の収束を求めたが、未だ彼は捕まらず、犠牲者は増えるだけ。
 不思議と彼が狙うのは夫婦の男女。彼ら兄妹は両親に捨てられた捨て子ではあるのだがそれが関係しているのかどうかはわからない。
 ただ、彼に言葉は通じない。会話はできるのだが、要点を得ることはできない。説得もきかない。
 彼らの狙いは二人揃っての『両親』の虐殺。だから妹と彼を会わせるわけにはいかないのだ。
 だから、とショウは言葉を切って。
「収束させるために彼らを始末してほしい。彼らは行き着くところまで行き着いたんだ」
 飲みかけのブランデーのグラスの氷が溶け、ころんと音を立てた。


 さあさ、拍手をちょうだい。轟く万雷の喝采を。嵐のようなカーテンコール。
 サーカスは大成功。喝采を。喝采を。喝采を。
 小さな子供も、大きな大人も。感動を胸に。さあ、街に繰り出そう。
 

GMコメント

鉄瓶ぬめぬめです。
 今回は天道GMとの連動依頼です。ぬめはお兄ちゃん担当です。
 調査の結果次に襲われる家は大方のあたりが付いています。
 その家で待ち伏せをしてもらいます。

 成功条件
 今晩の内にハンスの討伐をすること。
 

 ●注意
 なお、この依頼は、天道GMの『お菓子の家のヘンゼルとマルガレーテ』と同時参加は出来ません。
 連携依頼ではありませんので、両陣営の参加者が連携することはできません。
 万が一同時参加が見受けられた場合、両方の依頼から除外される場合がありますので、くれぐれもご注意ください。

 ロケーション
 とある2階建てのお宅です。貴族とまではいきませんが、それなりに裕福なお宅です。
 部屋数は10個。2階に4部屋。内訳は客室と寝室など家族の部屋、1階に6部屋。内訳は食堂、キッチン、浴場、書斎、ホール、客室です。
 ホールに二階に登る階段があります。ホールには豪奢なシャンデリアがかかっています。
 ホールや食堂は全員で戦えるような広さはありますが、他の部屋はそれほど広くありませんし、あまりものを壊さないでほしいと、言われています。
 家主の方々は当日は避難しているようです。囮をするのであれば、変装などをお願いします。
 マルガレーテの見た目はわからないので彼女に変装は不可能だと思ってください。
 
 てきさん。
 ハンス
 魔法使いの少年です。それなりに手練です。
 範囲に及ぶ麻痺を付与する魔法や、地面を泥沼化させて、邪魔をする魔法。
 超遠距離までのレンジを持つ遠距離攻撃。近接時は範囲を射程に入れる斧の攻撃など遠近の使い分けも得意です。体力はめちゃめちゃ多い感じではないです。
 とても高揚していますので、わりとクリティカルとかぽこじゃか出してきます。
 危険を感じたら逃げるクレバーな部分もありますので、今までなかなか捕まえることができませんでした。

 彼は隠密の技も得ていますので、どの部屋にどのタイミングで現れるかもわかりません。
 同じ場所で5人以上集まっていると、警戒して現れないかもしれません。
 照明を落とすなりなんなりして、彼はあなた達の分断を考えるかもしれません。
 交戦を避けられたまま、朝を迎えると、彼は犯行を起こさずに帰り、別の事件を起こすことになるので依頼は失敗になります。
 逃亡された場合も失敗になります。
 一度姿を表せば、隠密の術も使わないので、隠密で逃げて失敗ということはありませんのでご安心ください。

それではよろしくおねがいします。

  • お菓子の家のハンスとグレーテル完了
  • GM名鉄瓶ぬめぬめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月10日 21時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

世界樹(p3p000634)
 
刀根・白盾・灰(p3p001260)
煙草二十本男
ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
光の槍
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
セシリア・アーデット(p3p002242)
治癒士
美面・水城(p3p002313)
イージス
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
アンジェリーナ・エフォール(p3p004636)
クールミント

リプレイ



 マルガレーテ。愛しいマルガレーテ。魔女の屋敷をみつけたよ。
 声が教えてくれたんだ。ここに、マルガレーテを攫った魔女がいるって。声が、声が、声が聲が聲が聲が聲が。
 ――聲が聞こえる。


 メイドの扮装をした『飛行する樹』世界樹(p3p000634)は大きな木箱をよたよたと持ちながらホールの壁沿いに置く。
 その木箱の中には自らの武器がしまわれている。
「ご主人様、お荷物をおいておくのじゃ」
 そう声をかける世界樹の服のをくいくいと引いたプロメイド『クールミント』アンジェリーナ・エフォール(p3p004636)は「そんな口調じゃメイドっぽくないですわ。ちゃんと敬語をお使いくださいませ」と耳元で囁いた。
「ご主人様、お荷物をおいておくのじゃです」
 テイクツー。アンジェリーナはため息をつく。下手にも程がある。彼女は世界樹のフォローをしなくてはと生来の世話好きの性質から強く思う。
 それにしても……サーカスの興行からこっち、やたら物騒な事件が頻発している。もうすこし穏やかに暮らすことができたらいいのに。アンジェリーナは二度目のため息をついた。

 ホールでは『悪い人を狩る狐』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)は宙を蹴りながらシャンデリアの補強をしている。
 子どもは親を模倣するといいます。ハンス君は親に捨てられた子どもであると事前情報で判明していますが、それだけであれば夫婦を執拗に殴打して殺害するなんて方法は取るとは思えません。
 ――おそらく両親に何度も殴られ、虐待された果てに捨てられたのでしょう。もしそうであるのならば性格が歪んでしまうのも無理はありません。
 ルルリアはグリム兄妹について思いを馳せる。ただ、ハンスは妹を魔女から救いだろうとしているだけなのだろう。でもその行動が被害をどんどん増やしていく。だから、止めないといけない。それが彼にとって悲しい結末になるとしても。

 ベースを塗ってファンデで整える。少しだけ大人っぽくなるようにシャドウはすこし強めに。落ち着いた色のルージュを唇にさして、化粧を終えた『治癒士』セシリア・アーデット(p3p002242)は物憂げな婦人に見える。
「ほうほう、こんな美人な妻がいるとは夫冥利に尽きますな!」
 隣で変装のため、髪を整えてもらっている『屑鉄卿』刀根・白盾・灰(p3p001260)が24も年下の『妻』に話しかけた。
「あーあ…こんな場でのんきな考えですけど、私が結婚できる日っていつになるんでしょうか。今回の敵も夫の方だけ狙って、私のチャンスを増やしてくれりゃいいのに」
「刀根さん……刀根」
 そんな『夫』のボヤキにセシリアは冷たい声。
「そういうとこ、まずは直したほうが結婚できるかもだよ? あと、ふーきーんーしーん!」
「これはいっぱい食わされました。なんならいっそのことホントの夫婦になっちゃいます?」
「はいはい、お断りします」
 セシリアは鏡の中の自分をみつめる。婦人然とした、大人っぽい自分。
 本当に最近物騒な事件が多いな……妹が魔女に浚われたと思ってるみたいだけど、実際全然関係ない人を巻き込んでるだけじゃない! それに亡くなった後も殴り続けるなんて、明らかに常軌を逸してる。
 40と1回。オーバーキルにも程がある。そんなのミンチになってしまう。そして、彼の妹もまた。
 ふるりと体が震える。
「どうしました?」
 刀根の怪訝な問に、セシリアは顔をあげると努めて笑顔で彼に答えた。
「兎に角これ以上被害が広がる前に止めないと。刀根お願いね! 皆を支えるのが私の出来る事だから」
 その言葉に刀根は無言で頷いた。
 
 ホールの階段の近くの、家具の影。気配遮断で、聞き耳で警戒をしながら『孤兎』コゼット(p3p002755)は膝を抱える。
 やだな。こういう場所だと思いだしてしまう。屋敷で追いかけられて、震えて隠れてきたあのときを。ふるふると頭を振って任務に集中する。
 なんで、兄妹、離れ離れに、なってるのかな。なんで、夫婦を狙うのかな。
 わからない『なんで』が湧いてくる。その答えは自分には導くことはできない。それでも為すべきことはわかっている。
 ……なんか理由があるのかも、しれないけど止めなくちゃ。自分で止まれないなら、あたし達が、止めなくちゃ。

 玄関付近にはルルリア。彼女もまた気配遮断を使って、入り口からの侵入に警戒する。

 そして食堂での食事会がはじまる。
 『梟の郵便屋さん』ニーニア・リーカー(p3p002058)は丁寧な手付きでサーブを続ける。
(こんなこと続けてもハンス君だって絶対に報われないよ。ちゃんと止めないといけないよね。戦いは好きじゃないけどやらないとね……)
 アンジェリーナは世界樹をフォローしながら、食堂を行き来している。
 食堂の壁には目を閉じた『海洋の魔道騎士』美面・水城(p3p002313)が鎧に身を包み、ボディーガード然として立っている。
 カチャカチャと無言で食事の音が食堂に響く。
 ガシャン、とナイフをテーブルに叩きつける音に、水城は片目を開ける。此れこそが囮としての演技の始まりの合図であることをここにいる者たちは識っている。
「俺はこんなところに居られん!」
 イライラとした様子で刀根は立ち上がると、メイドたちが「ご主人様!」と口々に呼びかける。
「刀根落ち着いて護衛も来てくれたんだし、ここが一番安全だよ!」
 セシリアが刀根に向かって叱責する。
「うるさい! うるさい!」
 刀根はそのまま食堂を出ていく。追いかけようとする奥方を水城は止めた。
「奥方様。移動はなさらずに」

 必要以上に足音をたてて刀根はホールに向かう。階段を通るときに、コゼットの合図も聞いた。
 とはいえ、刀根は臆病な男だ。実際に敵が怖いのでその様子は真に迫っている。演技なのか実際なのかの境目はほぼないといったところだろうか?
 だからこそ、『彼』はかかった。シャンデリアに灯るろうそくが突如全て消える。
「ひとり?」
 闇の奥から少年の声。
「――Lizzie Borden took an axe」
 詠うような声に刀根は無様に転ぶと、下がりながらまごつく。さり気なく、立てたカンテラには火が灯っている」
「うわぁあああ! うわぁあああ!」
 屋敷に声が響く。
「やだな、静かにしなよ、人がくると邪魔だ」
 少年、ハンスは手に持った斧をゆっくりと振り上げる。
「さようなら、『おとうさん』元気でね。本当は『おかあさん』から殺すのが作法なんだけど。よかったね。おとうさん、40回切り刻むだけで許してあげるよ」
 暗黒の中をぶんぶんと斧が空を斬る音が聞こえる。振るたびにカンテラの明かりが反射して鈍く光る。
「させない」
 言葉少なに真っ先にホールに飛び込んだコゼットがハンスに肉薄して、短剣を振り抜き、がちりと斧と絡め合う。
「すみません。入り口からではなかったようです。皆さんに合図もしました」
 飛び込んだルルリアは、シャンデリアの下に向かうことを嫌がり、多少の距離をとり魔弾を射出する。
「だれ? 子供? じゃまだよ」
「いやはや、普通に怖かったですぜ」
 刀根は防御重視の構えに切り替え、我に続けとコゼットとルルリアの士気を向上させる。
「まあ、いいや、今日は気分がいいんだ。お前も殺してやるよ」
 シャンデリアの真下。孤独の兎と狂気の殺人鬼の舞踏が始まる。
 ガキン、ガキンと武器の打ち合う音。ハンスの高揚はクリティカルを呼ぶ。そのたびにコゼットの体には斧の傷が刻まれていく。
 いやだ。いやだ。思い出されるあの虐待の日々。
「おっと無視しないでください」
 刀根も自分に気をひくようにハンスに声をかければ、おとうさん、無視をしてごめんねと、防御も通り超える攻撃が彼を襲う。
「刀根!!」
 ようやく現場にたどり着いた5人がホールに介入する。
 アンジェリーナとセシリアとニーニア、の回復が刀根とコゼットに施され、彼らの傷が癒えていく。
「死ぬかとおもいました。みなさん遅いですよ!」
「急いだつもりなのじゃが!」
 レイピアを回収したメイド。世界樹が飛び込み鮮やかな火花がハンスに着弾すれば、ハンスはその闖入者に眉を潜める。
「はは、罠か。罠罠! うける! マジうける!」
 囲まれたというのに彼にはまだ余裕はある。ケタケタと大笑いし、テンションがさらに上がっていく。
「ふふ、尻尾を出したな殺人鬼。さあ、逃さへんで!」
 水城から放たれた氷の鎖がハンスに絡みついていく。
 それを、ハンスは取り巻く前衛ごとクリティカルの威力でもって振りほどくように斧を振り回す。
「くっ」
 回復手であるアンジェリーナ、セシリア、ニーニアの手番は回復に奪われている。
 此れではままならぬと防御体勢をとりながらも刀根もまた、攻撃に転じる。
「じゃまだなあ!」
 ずぶり、と近接で戦っていたものを泥沼化した地面が絡みとり動きが阻害される。
 とりこまれたのは飛行で逃れることができた世界樹。刀根とコゼットと水城はもがきながらも、攻撃を続けた。
「はは、はは、はははは」
「ハンス君、あなたもまた被害者なのかもしれません。ご両親に虐待されて……」
 痛ましい顔でルルリアが声をかけながら、魔弾を撃ち続ける。
「は? いえいえいえいえいえいえいえいえいえ、ご両親は僕らを捨てただけさ。家から遠い森の中。だからさ、マルガレーテと仕返しをしてるんだ! 可愛い子供を捨てたらひどい目にあうよって。ひゃは!」
「これ以上こんなこと続けちゃダメだよ! 誰も報われないよ!」
 説得が効かないことはわかっている。だけれども、ニーニアは諦めることができなかった。丸メガネの向こうのおおきな目をうるませて、声の限りに訴える。
「かわいいことりさん。その羽根は猛禽かな? まあいいや。あのさあ、それがびっくり! 報われちゃうんだ!!! 僕も妹も、両親を殺して気づいた。僕たちはさぁ!」
 ニーニア達後衛に向かって麻痺の魔法をぶつける。
「僕たちはさぁ!! 殺しが大好きだって!! あはははははは、受けるだろ? だから、たった一組の両親じゃ足りない足りない足りないたりなななんあななななななんあなんななななななな」
 下品な笑い声が大きく響く。
「クソ野郎、でございますわね」
 手の痺れを振り払うようにして、癒やしの光をもたらしたアンジェリーナは吐き捨てるように呟く。
「あれはもう此方側ではありませんわ」
「そんなときにさぁ! 声が聞こえたんだよ! 僕たちを呼ぶ声! あひゃひゃ!! それはすごい素敵だってね! だっからさああ! 森の向こう側とこっちがわ! マルガレーテと一緒に! どっちがいっぱい殺せますでしょーか! ってね!」
「なんてこったい」
 泥沼からでようとやきもきする刀根が呆れたような声をだす。
「さてはて、ぼくらはよーいどん! 今頃あのビッチは、男どもを手玉にとろうとしてんだぜぇ? 受けるだろ? おしとやかなフリして、やべービッチだよ! 僕も正直怖い! ひゃはははははははははは」
「随分ごきげんな殺人鬼やん?」
 水城は己の武器が届かないとみれば、アタッカーを交代することをアンジェリーナにアイコンタクトで指示すると、自分は緑の抱擁を展開していく。
 一進一退の攻防が続く。たった一人の相手とはいえ、彼は高揚しクリティカルを攻防において連発する。
 泥沼は今はないとはいえ、自由に走り回って前衛後衛に叩き込まれる斧の範囲攻撃はクリティカルも伴いなんとも厄介だ。
「あなたは、ダメ、すごく、だめ、なひと」
 コゼットが肉薄し、ソードブレイカーを振るう。肩口をえぐるようにヒットした刃物は血しぶきを彼女の顔にぶちまける。
「はは、そんなこというなよ。兄弟。あんたの目も僕と同じだ。その目は識ってる。罪を持ってるやつの目だ」
 コゼットはその指摘にビクリとする。動揺はギリギリまで押さえたはずだ。気づかれてはいないはずだ。
「なあ! そうだろ? 人殺しの目だ! 殺した時、どうだった? 高揚しただろ? 昂ぶっただろ?」
「しら、ない」
 もう一度振り抜いた軌跡に精細はなかった。
「とめます」
 ルルリアの焔の術式が赤々と火炎をたたえ展開する。
「そっちのおねーちゃんもまた悪いことしたんだろ? ひゃはああ、どうだったよ? 悪いことをしたきもちよさは」
「黙ってください」
 違う、皆のためにやったことだ。でもそれはあの国にとっては悪いことで、ルルは処刑されかけた。でも悪いことをしたとは今も思っていない。なのになぜ心がささくれるのだろう?
 数人が膝をおり、パンドラに祈り復活した。状況はボロボロだ。戦闘不能で倒れたものもいる。
 しかしハンスも先程の軽口も随分すくなくなってきている。後少しで倒せる。
 逃しはしない。いや、この殺人鬼を逃してはいけない。イレギュラーズの気持ちは1つだ。
 アンジェリーナの遠距離術式が、ハンスの腹部を貫く。
「ひゃは、まじかよ。はは。愛しいマルガレーテ! 僕はもうゲームオーバーだ。せめてお前はうまくやれよ」
 狂った殺人鬼は笑いながら腹部から大量の血液を吹き出している。
「なあ、あんたら? どうだ? 敵を殺す気分は? いいだろう? 昂ぶるだろう? 最高だろう?」
 笑いながら吐血する。
 倒れた殺人鬼は今なお笑っている。笑っている。
 ごぼりと血の泡を吐き出しながら笑っている。
「気持ちいいわけなんてあるわけないですわ」
 唇を噛むアンジェリーナのその顔を見たハンスは一層楽しそうな笑みで笑うと、二度と笑わなくなった。
 

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 みなさまお疲れ様でした。笑う殺人鬼は笑いながら死にました。皆様の勝利でございます。
 今回はご参加ありがとうございました。妹ちゃんの方はどうなるのか私も楽しみです!

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