PandoraPartyProject

シナリオ詳細

秘め事は土の中

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●昼下がりの1DK
「ねぇ、巴」
「何? ユズ」
 ユズが私の事を『巴ちゃん』から呼び捨てにしてくれたのは、もう何年前のことだろうか。
 大好きだった栗色の毛は、肩の上でざんばらに切られて揺れていて――汚れたから、とあっさり切ってしまったのがやるせない。あの男に詰まっていたどす黒いものがユズを汚すなんて、最悪にも程がある。
 けれど、そんな執着の無さもユズだなと思う。ユズは大事にしていたものも――例えば気に入っていたピアスも、寂れたホテルで無くした夜にはあっさり探すのを諦めていた。
だから、そんなユズが私にだけ執着してくれたことにもときめいてしまうのはしょうがない。
「そろそろ匂ってくるよねー、流石に外も暑くなってきたし」
 冷房の設定は18℃、急。冬物のカーディガンを羽織るくらいの寒さでも、流石に放置するのが不味いことくらい解っている。
「……ていうか、このままだとユズの電気代やばいよ?」
「あ」
 いざとなったら私のお小遣いで十分払えるけど、なんて言葉を呑み込むと――そうだ、とユズは私の大好きな、悪戯めいた顔で笑う。
「埋めちゃおっか、これ」
 これ、とユズが指した先には大きなキャリーケース。一人暮らしを始める時、ユズの荷物が入っていたそれには、今は人間の死体が入っている。

 ユズが殺した、私の婚約者だった男の死体。

「いいよ。どこにする?」
 二つ返事で返す私も、きっとどうかしている。けれど、恋なんてそんなものだろう。
「あ、そうだ。あそこにしない? 小学校の時遠足で行ったあの山」
 ああ、と合点がいく。ずっと昔、そこで私とユズは友達になったのだ。それまで話したことがなかったユズが、私の服にナメクジが付いているのを教えてくれて。大騒ぎしてしまったら、大きい声出るんだねって笑われたんだっけ。
「いいけど。でもあそこ、最近野犬が出るって入れないんじゃなかったっけ」
 母がそんな話を、家に出入りするお弟子さんに話していたのを思い出す。
「んーまあ、スコップ振り回せばどうにかなるんじゃない? もしかしたらヒーローが来るかもしれないしさ」
「ヒーロー、ね」
 ユズのこの能天気さは困ったものだけれど――まあいいか、と抱き寄せて。
 今日のデートは真夜中に、ね。

●境界図書館にて
 境界案内人がイレギュラーズに依頼したのは、ある少女二人が『死体を埋める』話を無事に終わらせること。
 厄介払い程度の野犬退治はあるようだが、軽いものらしく、気軽に楽しんできて欲しいなどとさえ言ってくる始末。 
 そうして本の世界へと飛び込めば、そこは山の麓のようで――

「あ、ヒーローだ」

 こちらを指す、二人がいた。

NMコメント

 飯酒盃おさけです。そろそろ梅雨、百合が美味しい季節ですね。
 戦闘はありますが、心情重視です。
 
●目標
 巴とユズが死体を埋めるまでを見届ける。

●世界観
 現代日本とよく似たどこか。

●登場人物
・巴
 腰まで伸びた黒髪ストレートの少女。十八歳。ユズとは恋仲。
 釣り目、若干近寄りがたい風貌。
 華道家の娘で、家族により決められた婚約者がいた。

・ユズ
 栗色のウェーブ髪ボブの少女。十八歳。巴とは恋仲。
 垂れ目、人当たりのいい風貌。
 巴の婚約者を殺した。

●状況
 皆さんがこの世界を訪れた時、巴とユズは大きなキャリーケースに死体を入れて山に入ろうとしています。
 どんなにファンタジーな外見でも、人外でも、二人は皆さんを『ヒーロー』だと認識して軽いノリ。きっと女子はそういうものなのでしょう。
 夜の山中を進み、途中で野犬を退けて死体を埋めるまでを見届けましょう。
 視界は暗いですが、最低限の灯りは二人が用意しています。

●エネミー
・野犬×5
 何らかの察知能力がある場合、不意打ちを防げます。
 攻撃は噛み付き(近単)のみですが、1体いるボス犬の噛み付きは強力です。

●埋葬
 埋めるべき場所へは、二人が案内します。
 紫陽花が咲き誇る綺麗な場所、その裏側に埋めるようです。
 穴掘りを手伝うもよし、彼女達と話すもよし、恋や死体の思いに耽るもよし、紫陽花を眺めてピクニックするもよし(?)。フリータイムとして過ごしてください。

 それでは、ご参加お待ちしております。

  • 秘め事は土の中完了
  • NM名飯酒盃おさけ
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月15日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
貧乏籤
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
躾のなってないワガママ娘
シルヴェストル=ロラン(p3p008123)
白夜月

リプレイ


「あ、ヒーローだ」
 キャリーケースを両手で押すユズと、リュックサックを背負った巴が近付くと『白夜月』シルヴェストル=ロラン(p3p008123)は碧の瞳を細め柔和に微笑む。
「ヒーローと言うほどすごい者じゃないよ。
 僕は、この物語が良い方向に転がるように手伝いに来た、ただの助っ人だ」
「……まあ、よろしく頼むよ」
『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は、平静を務めて声を掛ける。
 少女の護衛をするだけ。しかし、その少女達が為そうとしているのは――
「ほら、早くしないと朝になっちゃうわよ。明るい所で埋めるわけにいかないでしょ? それ」
『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)がキャリーケースを指す。
「やっぱり知ってるんだ」
 キャリーケースの中には、目の前の少女――ユズが殺した、男の死体。
「さ、行くわよ。邪魔な野犬くらいは殺してあげるから」
「やった、ありがと! ほら行こ、巴」
「はいはい……それじゃあ、こっち」
(……犯罪に加担しているようで、気が引ける思いだ)
 山へと入っていく少女達とメリーの背中に、世界は思案を巡らせ。とはいえ既に、トランクの中にいる――いや、あるのは死体である以上、何ができるも、義理もなく。世界は傍らのシルヴェストルにそっと目配せし頷くと、揃って後を追う。
(しかし、恋愛というのは、ここまで人を動かすものなんだね……)
 この世の果てを見届けたい、その欲故に吸血鬼に血を捧げた過去。甘やかな薔薇の生気だけで生きる領域に達しなかったシルヴェストルにとって、少女の感情はとても興味深く――
「……面白いものを、期待しているよ?」
 生温い夜の空気に期待を溶かす。
 そして『虹を齧って歩こう』ウィズィニャラァム(p3p007371)は口を開くことなく――強く前を見据えた。


 頭上から微かに射す月明かりと、少女たちが手にする懐中電灯を頼りに、一行は山中を進む。
「ネコちゃん、何かが近付いて来たら教えてちょうだいね」
 暗さを物ともせず歩くメリーは、傍らの猫へと、しゃがみ込んで声を掛ける。その言葉は猫にもしっかりと通じているようで、にゃあ、と気の抜けた鳴き声が返されて。
「ほら、役に立ってくれればこれあげるから」
 干し肉を猫の眼前で振り、それに、と一つ付け加え。
「不意打ち食らったら、あなたも危ないんだからね?」
 メリーの圧に押された猫の二回目の鳴き声は、先程より幾分か強く――わかりました、の意を帯びて。
「いいなあ、やっぱあたしも猫飼おうかなぁ」
「いやユズのアパート、ペットだめでしょ」
 そっか、と笑う少女二人と、周囲を警戒する仲間を遠巻きに――ウィズィはただ、拳を強く握り締める。

 ――恋に生きるってつらいなあ。

 何度も何度も、ただその言葉だけが頭を巡る。
『大切な人を守る為に、害なすものを殺す』
 ただの町娘から冒険者になった自分が、何度だって経験した事だった。
 正義の味方みたいなモノに憧れて、ナイフを振り回して――魔種でもない人間を殺したことも、もう何度だろう。つい先日は、目の前で少年が自爆して――
 
 ――恋に生きるって、つらいなあ。

 故にウィズィには『解る』。
 けれど、『解らない』。
 二人の恋路も、誰にも邪魔させたくない。
 そして、どうしてあんなにも二人が普通なのかが解らない。

 ――だって私はさ、ただの町娘だったんだもの。

 寓話の中にしかないと思っていた、愛と勇気と夢と希望。今胸に宿るものは確かに冒険者としてのそれで。
 けれど、そこにはあの頃と同じ町娘が居る。
 ふざけんな、と子供みたいに喚いて二人の顔面を張り倒したい。
 選ぶことも、呑み込むことも出来ず――ウィズィが足を止めた瞬間。
 メリーの猫が一点を見つめ威嚇の声をあげる。
「おや、お出ましのようだ」
「……だな。頼むから後ろにいてくれよ」
 シルヴェストルと世界が少女二人の前へと身体を割り込ませると、ひゅー、とユズの弾む声。
「守ってくれるの? ありがと、ヒーロー」
「だからヒーローなんてすごい者じゃ、ね!」
 シルヴェストルは飛び掛かる野犬に踏み込むと、三日月型の唇に指を当てる。
「一番の目玉……もとい、盛り上がる部分はこれからなんだ。邪魔しないでくれないかな」
 魔術の智を乗せた言霊は、ただの野犬など容易く地に頭を伏せさせ。流れた赤に生唾を飲むと、後ろからはメリーの声。
「危ないわよ、ってまぁあなたには当たらないけど」
 メリーが煌びやかな剣を掲げれば、シルヴェストルの周囲に魔法陣が浮かび、周囲の犬達を閃光が討つ。
「っと、僕ごとやられるかと思ったよ」
 シルヴェストルの背を冷や汗がなぞるも、メリーは何処吹く風。
「いやはや、これは俺が手を出すまでもない……わけにはいかないか」
 少女達へと野犬の被害が及ばないよう守りに徹していた世界も、好機と見るや一匹の犬を夜の闇よりなお黒いキューブへと送り込む。
「あの額に傷がある犬、あれがリーダーだね」
 飛び掛かる残りの三匹を躱すシルヴェストルは、群れの統率者に気付く。従属たる蝙蝠を影より喚び放つ刹那――横を駆け抜けたウィズィの、泣きそうで、それでいて怒りに震えた表情を見た。

 ――邪魔させない。

 可能性を纏い、瞬間的に引き上げた力。ウィズィの瞳に灯った炎は、恋のそれ。
 愛しい紫苑を見つめ続けた、恋する乙女の魔眼。
 だから、恋する二人をお前ら――犬っころ如きが邪魔していいはずない!
 振り被ったナイフから放たれた、夢見た未来を駆ける炎。
 残る三匹を一瞬で焼き尽くすと、ウィズィはそれに目もくれず、肩で息をしながら仲間の後方へと引き返す。
 巴とユズは、ウィズィに何か言おうとして――口を噤んだ。

 メリーと世界による手当てを終え、再び歩き出す一行
(全く、本当は血が貰えたら良かったけど――血よりきっと楽しく美しい物が、待っているだろうね)
 シルヴェストルはただ一人、足取り軽いまま。


「ここだよ」
 開けた場所に出た六人を待ち受けていたのは、咲き誇る紫陽花。
 その端、裏手へと回りそれじゃあ、とユズがキャリーケースを横に倒し――黒いゴミ袋をずる、と出す。仄かに香る腐臭のするその中には、間違いなく人間の死体が入っていて。
 リュックからシャベルを二本取り出した巴は、その一本をシルヴェストルへと手渡す。
「私達だけじゃ朝になりそうだから。手伝ってよ」
 女の子だからね、と笑う二人は酷く楽し気で――そうして、死体を埋める。

「ねえ、今更だけど。婚約者を殺さなくても三人で仲良くすれば良かったんじゃない?」
 
 しゃがみ込み、モグラのポシェットの手を手慰みに動かしながらメリーは問う。
「ていうか、世の中には好きな人を独占したいって人が多いみたいだけど、その気持ちが分からないのよね」
 恋人が浮気しようが何股かけてようが、減るもんじゃないし。自分に好きな人が複数居たら、同時に何人とでも付き合いたい――傍らで休憩をするユズは、メリーの言葉に首を傾げる。
「わたしの故郷では一人の相手としか結婚できないって法律で決まってたんだけど、それもよく分からないのよね。
 みんながみんな何人とでも自由に付き合って、何重婚でも自由にして、何人とでも自由に子供をつくればみんな幸せじゃない?」
 なんでそれじゃダメなの、と続けるメリーの言葉は、煽りでも皮肉でもない心の底からのもので――ユズはペットボトルの中身を飲み干すと、だってさ、と呟いて握り潰す。
「アイツ、巴の事なんて好きじゃなかったもん」
 家柄と、お金。そんな奴と巴が結婚して、子供作って、お母さんになって――なんて、考えただけで死にたくなるから、だから殺したんだ、と笑うユズ。
「わからないわね」
「あたしも、あなたぶっ飛び過ぎでわからない」
 メリーとユズは、だらだらと話を続ける。

「なあ、君達の話を聞かせてくれないか?」
 穴を掘り進めながら、シルヴェストルは横で土を掻き出す巴に問う。
「いいけど……何が聞きたいの?」
 長い黒髪を一つに結んだ巴は、手を止める事もなく聞き返し。
「何でもいいよ、今までの事と――これからの事、とか」
 きっと二人は、死ぬまで共にいる。
 死ぬまで、なんて言葉と程遠い――死ぬつもりもなく、甘やかな薔薇を大毒として生きる自分は、愛というものに縁遠く。だから、せめて二人の愛を味わうくらいは、と。
「今までのこと、なんて朝までかかるけど――ああ、でも一つだけ。
 ユズがコイツを殺してくれたの、何回も聞いた『愛してる』の言葉より嬉しかったんだ」
 そう笑う巴の顔は――恋する乙女に見えた。

(彼女達がこれからどうするのか気にはなるが、それも野暮というものなのだろう)
 世界は周囲を警戒しながら、ぼんやりと思案する。
 いつか自分も、邪魔者を排除してでも一緒になりたいなんていつか思える日が来るんだろうか。
(いや、来なくていいけどな。恋心なんて、一生理解できる気がしない)
 せめて、それならヒーローとして見届けるだけ――生温い風が、世界の白衣を揺らし、傍らのウィズィの握り締めた拳からは、ぽたりと血が滴った。


 全てを終えて、麓に戻れば、空は仄かに白みを帯びて。
 簡単な挨拶を交わした一行は、互いに背を向け歩き出す。

(訊きたいこと、山ほどあるよ)
 最後まで一言も発さなかったウィズィは、握り締めて白くなり、血が滲んだ手を見た。
 きっと答えが返ってきたとしても、何もわからない。一番近くて、一番遠い紫苑の彼女の言葉のように、きっと。
 だから、ウィズィが振り返ったのはただ何となくで――睦まじげに顔を寄せ合う巴とユズと目が合ったのも、偶然だった。
「――!」
 
 遠くに昇る朝日越しに見えた二人の表情は、明け方の逆光では酷く見え難く。
 ただ、二人の口が紡いだ言葉は、聞こえずともウィズィに届いた。

 ――ありがとね、ヒーロー。

成否

成功

状態異常

なし

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