PandoraPartyProject

シナリオ詳細

グラスに満ちたXYZ

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●一口飲めば、夢心地
 並んだグラスには色とりどりの酒が満ちていた。
 ここはバー。魔術師が営む、魔法のかかったで噂のマジック・バーだ。
 そこは意図して入ることはかなわず、運命の廻りによって導かれたのモノのみが入店を許される、のだそうだ。
 そして、今しがた扉を潜った男も、その噂に釣られ、そしてたまたま縁をつかみ取って。バーの床を踏んでいた。
 現代人には似つかわしい古めいた和服。少し曲がった丸眼鏡と、香の匂い。手は黒くインクで汚れ、彼がしがない小説家だと云うことを告げる。
 ただ、少し息詰まってしまった。それだけの小説家。けれど、筆を動かすことのできない小説家は日銭を稼ぐこともできなければ食いつないで生きてくこともままならない。
 彼は、天に見放されたのだ。
 世間が彼の背中に指をさした。
 それが嫌で、逃げるように、縋るようにこのバーに駆け込んだ。噂に縋るなんて馬鹿馬鹿しいと思うだろうか。
 それでも、彼にとって、その魔法に、その噂に縋ることだけが救いだったのである。
「……ええ、と」
 決して人が少ないわけではない。中には人間とは思しき、獣人や妖精、タコににた人間もいる。
 そして、彼が『現実』でそのまま生きていたとしたら、出逢うことすらなかったであろうスマートフォンも、異国のうたも。それが恐ろしくも思えたし、素晴らしくも思えた男は、呆けた表情のまま店を進んで。
 男はおずおずと声を振り絞って、カウンター越しにボストンシェイカーを振る女に声を掛けた。弱気であるがゆえに、その声は細く、弱いものではあったのだけれど。
「すみ、ません」
 瞬くネオン。バーには程遠いアップテンポの曲が流れる。女は気付かない。
 逸る心臓。落ち着け、俺なら大丈夫だ。
「あの」
 どうしよう。
 顔がみるみる赤くなっていくのを感じて、男はうつむいた。
 それでも。たどり着けないと噂の店に辿り着いたのだ。ここで逃げては男が廃る。
「もし、そこのお方」
 これであっているかなんてわからないけれど。彼の中の『最善』の声のかけ方を心の辞書から引っ張り出して、実行した。
 女のワインレッドが揺れた。
「あら、ごめんなさいね。お待たせしました!」
 男の口唇が注文をするまえに、女は笑みを浮かべてグラスを置いた。
「こちらのカクテル――憧憬となります」
 ここのカクテルは、注文せずとも出てくるものなのだろうか。男がひとくち飲むと――男は、涙を流してグラスを置いた。

 ああ。俺は、あの日読んだ小説に憧れて、小説家になったのだ。

●追体験
「いらっしゃい。お酒は飲めるかな」
 まあ飲めなくてもノンアルコールさ、とフィスは笑った。
「魔法使いがカクテルを作ってくれるバーがあるんだって」
 はい、と手渡された名刺にはウィッチズ・バー・マジックと書かれている。
 フィスは空のグラスを掲げると、にっこりと笑みを浮かべた。
「それじゃあ、いってらっしゃい。乾杯するまえに泣いちゃだめだよ?」

NMコメント

 どうも、染(そめ)です。
 どうもから入るのがしまらないのでそろそろ決め台詞のひとつくらい考えたいところ。
 バーの空気って圧倒されたりするなあと思いながら書いてみました。
 それでは、今回の依頼の説明に入ります。

●目標
 美味しいカクテルを飲む

 魔女や魔法使いが貴方の話を聞いてカクテルを作ってくれます。沢山お喋りをしてあげてくださいね。

●カクテルについて
 魔法のかかったカクテルです。
 注文することはできせんが、『こんな色にして』とか『甘めがいいな』とか、そういった要望は聞き入れてくれます。
(なお染に関しましてはカクテルを作った経験がありませんので手探りでの描写になります。頑張りますがご理解の程宜しくお願いします!)

 【効能】
 飲むと、先程話したことを追体験できたり、忘れていたなにかを思い出したりできます。
 おかわりもご自由にどうぞ。

●NPC
 ・魔女
 ワインレッドの髪の美しい、蠱惑的で陽気なお姉さん。
 黙っていれば20代に見えますが、口を開いた途端話し出す内容が……おっと誰か来たようです。

 ・魔術師
 プラチナブロンドの短髪が煌めく、精悍で陽気なお兄さん。
 見てくれこそ20代。脳みそが筋肉です。実は騎士のほうが向いてそう。

●場所
 バーです。薄暗いです。
 普通のバーとは違い、様々な種がいます。
 時代をさかのぼってきた客もいるようです。

●サンプルプレイング
 わたしのお話し、聞いてくれますか、魔女さん。
 お母さんがね。火事で死んでしまった、私の話。

 以上となります。ご参加お待ちしております。

  • グラスに満ちたXYZ完了
  • NM名
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月03日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ライアー=L=フィサリス(p3p005248)
嘘に塗れた花
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女

リプレイ


 『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)はカクテルを注文する。
 悪魔を思わせるカクテルを。と告げたメリーに出されたのは少々辛口な赤のカクテル、エル・ディアブロ。浮かべたレモンはあざ笑うように上下に揺れる。
 メリーは魔女がカクテルを置いたのを確認すると、一気に飲み干して揺らめく記憶の中へ。

 さざめく記憶の波を掻き分けて、メリーは『悪魔』と出逢った日へとたどり着く。記憶はいつだって不鮮明で、だからこそつかみ取ったその記憶は、何よりも輝いて見えた。
 ここは街。人が行き交っていて、メリーもそのひとりだ。幼かったメリーの耳元で、囁く声がした。

「お前、魔法使いだろ」

 少年の周りを漂う絶大な魔力に気付かなかったことにメリーは首を傾けた。おかしい、と。
「なぁ、喫茶店にでも行かねえか。少し話がしたい」
 断る理由もない。メリーは頷くと、少年の後を追った。
 向かい合うように座った喫茶店。メリーと少年の間に流れているのは緊張感だった。
「あなた何者?」
 単刀直入に問うたメリーに少年は笑って答える。
「オレは悪魔だ」
「いつどこでどうやって生まれたの?」
「覚えてない。不要な記憶は“消す”ようにしているんでね。
 知っている事が増えるほど退屈を感じやすくなるからな」
 はぁ、とため息一つ。
 ますますわけがわからなかった。
「普段なにやってるの?」
「適当な人間を殺してそいつに成り済ます。
 で、金をジャブジャブ使って毎日遊んで暮らして、金が尽きたら次のカモを探す」
 呆れたようにメリーは肩を竦めた。悪魔と名乗る少年は面白いと言わんばかりに肩を揺らして。
「魔力はケタ違いなのにやることは小さいのね」
「子供の姿は次のターゲットを物色する時に使うんだ。
 その辺を意味なくうろついても不審に思われにくいからな」
「……なんで声をかけたの?」
 ああ、とまた笑って悪魔は答えた。
「人間どもがオレの事を知れば、捕らえてモルモットにするか、人類の安全のために殺すだろう
いくらオレでも、大陸を越えて都市一つを吹っ飛ばすような武器を持った連中とやり合いたくはない」

「でも、誰も本当の自分を知らないってのは寂しいもんだぜ?
 お前になら正体を明かしても大丈夫だと思ったんだ。
 オレの事は何かきっかけが無いと思い出せないようにさせてもらうがな」

 瞬きひとつ。メリーが最後に見たのは、意地悪く笑う悪魔の顔だった。


「ねえ魔女様、聞いてくださる? 私がここに来るまでのお話。
 私ね、ウォーカーなのだけれど……元の世界では多重人格の1つでしたの」
 『嘘に塗れた花』ライアー=L=フィサリス(p3p005248)の話に魔女は楽し気に笑う。『はじめて聞いたわ』と笑んで。続きが訊きたいと魔女が首を傾けてみせれば、ライアーは頷いて続きを語りだす。
「ふふ、私、悪い子だから。その子にいっぱい意地悪してましたわ。
 ほら、好きな子を苛めたくなる男の子っているでしょう? そんな感じでしたの」
 魔女は背を向けてカクテルを作り出す。ショートのグラスにカランと鳴る氷の音がやけに心地いい。
「でも思いは一方通行。私はとてもその子のことが好きだったのに、その子は私のこと嫌いでしたのよ。
 だからもう嫌だ、って絶交されてしまいましたの」
 悲しかった? と問いかけた魔女に頷いて。ライアーは自虐気味に笑いながら両の手で頬杖をついた。
「ええ、ええ、とても悲しかったわ。それに悔しかった。だって、その子が選んだのは私じゃなくて他人。
 なら意地悪しなければいいのにって思う? でもどうしようもなかったんですもの」
 一方通行の想い。私が好きなあの子は、別の誰かに夢中。
 でも、『苛めている』間だけは私だけを見てくれるのだ。それならば。
 幾度時を戻ろうと、同じ結末になるだけだと呟いたライアーに、魔女は笑みを返すだけで。
「絶交されて、私は不貞寝してやりましたの。泣いて縋り付くまで何も助けてあげないわ、って。
 ……そうしたらね。いつのまにか、遠くへ行ってしまったの。私の届かない場所へ」
 何度繰り返しても同じ結末を辿るなら、後悔などしていない。いないのだ。頭ではわかっているけれど、ライアーは思うのだ――最後まであの子は、私(ライアー)を選んではくれなかった、と。
 ふぅ、と息を吐いたライアーに出されたのは、白と苺のピンクの二層のカクテル、ストロベリー・ミルク。甘い味わいは蕩けるような思いにも似て。
 カランカラン、と氷が鳴る。
「……ああ、でも。これを飲んで思い出しましたわ」
 混ざったミルクとストロベリィ。透き通ったピンクはだんだんと混ざって、淡く白に染まって。

「……私ね、最後あの子に『大好き』って言われたの。あんなに嫌われていたのに、ね?」
 曖昧に笑って見せたライアー。ぐいっと飲み干したカクテルの味が、やけに喉から離れなかった。


「あら、魔女にお酒なんてなんだかとっても親近感が湧くバーねぇ」
(最近はどうも海の方が騒がしくて、落ち着いて飲める時間も少なかったし……ふふ、ゆっくりさせてもらうとしましょ!)
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は慣れた様子でバーカウンターに腰掛ける。似た雰囲気を纏った魔女に目を細め、アーリアは声をかけた。
「ねぇ、貴女の髪と同じ、ワインレッドのカクテルをくれない?
 面白いものが見られると思うの、なんてね」
「私の髪でいいのかしら。ふふ、わかったわ」
 はい、と差し出されたロイヤル・カルテット。添えられたパイナップルも、冷やされていたシャンパンに注がれたワインレッド。ほんのり甘いけれど辛口なそれは、アーリアの髪を緩やかに染め上げる。
「ねえ貴女、ちょっと話を聞いてくれない?
 ……初恋の人の話、流石にこれは大好きな彼には話せないの」
「あら、それは確かに話せないわ。お姉さんに話して頂戴」
 頷いたアーリアは、カクテルを口に含みながら語り出した。
「……私ね、小さな頃は厳しい家というか国に生まれて――服は白だけ、教会ばかり行っていて。
 でもまあ色々あって、実の父が亡くなった後、母と同じ男の人を好きになったの」
 上下を見てから、白も似合うけれど今も素敵ね。とウインクをした魔女。
 あら、かわいい。呟いた魔女はくすくすと笑って、けれど失礼だったわ、と咳払い。
「ふふ、かわいいでしょう? 相手はすっごく大人よ?
 でね、その人は私の『お父さん』になっちゃったの」
 あら、と驚いて目を瞬かせた魔女にアーリアは笑って見せる。その反応は想像通りだったのだろう。
「大好きな人が家族になったのは嬉しくて、でもやっぱりちょっと失恋して泣いたわねぇ……。
 でもその人は私の――『アリア』って名前を呼んでくれて、色とりどりの世界を見せてくれて。
 背伸びしたい年頃の私が母の口紅を塗っていたら、とっても不格好なそれを笑って丁寧に塗り直してくれたの」
 『アーリア』は笑う。その唇に美しく塗られたルージュは、艶やかに煌めいて。
「だから私はね、こんなカクテルみたいな赤が大好きなのよ」
 くいっとグラスを傾けて飲み干して。その髪は魔女と同じワインレッドに染まっていた。
 まあ、と驚いた魔女にアーリアは悪戯に微笑んだ。
「ね? 面白いものが見られたでしょう?
 次の一杯はまた色が変わるから、お任せの一杯をちょうだいな!」


「ここまで多種多彩な種族が一堂に会するのは中々無い……」
 ほぅ、と感嘆の息を吐き、『精霊の旅人』伏見 行人(p3p000858)はカウンターへ。
「やぁ、魔女さんに、魔術師さん。俺は伏見行人……旅人をしている」
 旅人。その響きは珍しいものではなかったのだろう、素敵ねと呟いた魔女。旅は順調かい、と問う魔術師。
「俺はまぁ、旅人だ。昔の事は思い出す事や、過去の縁を頼りにはあんまりしない……だって、荷物みたいだろう? 身軽じゃなけりゃあ歩けない。
 でも……そうだなあ。じゃあ、昔の話をしようか。むかしむかし、ってヤツさ」
 行人が身振り手振りを加えて話し出す。こちらに呼ばれるよりも前の旅(ものがたり)を。
「俺は旅をしている途中だった。旅はずっとしていてね……」
 何故、と茶々を入れる魔女を魔術師が小突く。嗚呼、と行人は笑みを浮かべて答えた。
「何が目的かって? 強いて言うならば生きる為、といった所だけど……。
 一人旅じゃあなかった……旅の道連れは人じゃないけどね。ほら……俺の剣の鞘の、こことか……こことか。削れてるだろう?」
 机の上に置かれた蔦の意匠が施された剣がカウンターに置かれる。興味深そうに触れる魔術師を今度は魔女が小突いた。
「召喚の時に離れ離れになってしまったんだけど……そこに同行してくれていた精霊の触媒があったんだ。
 話を戻そう。俺は4柱の精霊と面白おかしく世界を巡って旅をしていたんだよ」
 精霊。聞き手である二人は楽し気に目を輝かせる。行人はそんな二人の様子に顔を綻ばせて。
「同行してくれていた水の精霊に頼まれて良い水を求めて未踏地の火山湖へ行ったり、氷河って物を見に行こうとしたり…で、風止まぬ地とされる霊峰の洞窟を見に行ったんだ。
 そして、そのままその霊峰を登ろうと思ってね。どんな風景が見えるのか興味が出てさ」

「そう思って一歩踏み出した瞬間――俺は空中庭園に居たんだ」

 吹き抜ける風。佇む少女。見知らぬ世界と、新たな旅路を告げる空のいろ。
 行人は笑みを浮かべた。
「その時の精霊達が居ない焦りと、見えた景色の感動を。もう一度味わいたいと思うね」
 ならばそれを叶えるのが、この店の役割だ。アイ・オープナーは光を受けて煌めいた。
 言葉もとらえ方次第。さあさ召し上がれ。
 行人はグラスを持ち上げて、カクテルを飲み始めた。

成否

成功

状態異常

なし

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