シナリオ詳細
牛っぽくて美味そうなのが大量に現れて困っています
オープニング
●とある森での一幕
幻想北部の小さな町『ヤンコビー』の近くには、森林がある。
規模は大きくない森だが、木々の背が高く間隔も狭いため迷いやすい。それゆえ人が踏み入ることも少なく、森の中は多様な生態系を作っていた。そしてそれら動物やらモンスターやらを狩猟することで、ヤンコビーは財源の多くを賄っている。
そういうわけで今日もまた、狩人の一団が森を探っていた。
「……いたぞ」
「ああ。俺からも見える。ワギューウルフが3頭だな」
生い茂る植物に身を隠した男たちが、モンスターの群れを見て言葉を交わす。
彼らの視線の先にいるのは――何やら奇妙な外見をした狼だった。
牛なみのサイズを持つその狼たちの名は『ワギューウルフ』。白と黒のまだら模様に加えてちっちゃい角とかも生やした姿はほぼ完全に牛である。ヤンコビーの住民の間では『狼の要素どこ?』と専らの噂だったりした。
ワギューウルフの肉はヤンコビーが誇る特産のひとつだ。程よく脂が乗った柔らかな肉は高値で売れる。狩人たちは「しめたものだ」と狩猟具を手にした。
――が、いざワギューウルフに仕掛けようとした瞬間だった。
「お、おい待て!」
「向こうからもワギューウルフが……」
「あ、あっちからも歩いてくるぞ……!」
狩人たちから戸惑いの声が上がる。森の木々の向こうから、続々とワギューウルフたちが姿を見せたのだ。ざっと見るだけでも20頭は確認できる。
ワギューウルフは良い獲物だ。だが無害ではない。牛っぽい見目とは裏腹になかなかに俊敏であり、未熟な狩人であれば1頭相手でもたちまち返り討ちになる。
それが、20頭もいるのだ。
「とても俺たちの手に負える数じゃねえな」
「ああ、逆にこっちが喰われちまう。いつもはせいぜい数頭だっていうのに、なんだってこんな大きな群れが……」
「文句を言っても仕方ない。自然はコントロールできないんだ。とりあえず戻って町長に報告するしかないな……」
そっと音を立てずに、その場を退散する狩人たち。
そんな彼らを尻目に、ワギューウルフの大群は悠々と、深き森を闊歩するのだった。
●まあ和牛的なもんですよね、たぶん
「町の豊かな未来は! 皆さんにかかっているのです!!」
ギルドの入り口で捕まえられたイレギュラーズたちの前で、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が依頼書をテーブルに叩きつける。
とりあえず一同はユリーカに説明を求めた。すると「これを見るのです!」とユリーカが依頼書をぴらぴらしてきたので、イレギュラーズたちはパパッと目を通す。
で、皆は幻想北部の町『ヤンコビー』を襲った割と洒落にならない危機を理解した。
「ヤンコビーは狩猟で成り立っている町なのです。だから獲物がとれないのでは町の皆さんが困ってしまうのです!」
両手をわたわたさせてヤバい度を表現するユリーカ。
その仕草からは正直、愛らしさしか感じられない。しかし町がヤバいのは確かな事実であると言えるだろう。異常発生したモンスターの大群を放置しては森の生態系が乱される可能性もある。そうなれば町にとっては大打撃だ。
「そこでローレットの、皆さんの出番というわけなのです。今すぐヤンコビーの森に向かってワギューウルフたちを倒してください!」
なるほどどうやら、課せられた仕事はシンプルなようである。
森にいるモンスターの群れの討伐。簡潔に言えばその一言だった。
が、ただ倒せばいいだけでもない。
「ワギューウルフのお肉は大事な商品ですから、できれば綺麗な状態で倒してほしいのです。燃やしちゃったり消し飛ばしちゃったりしたらヤンコビーの人たちが結構割と真面目に困ってしまうのです……!」
売り物になるようにお願いするのです、と念を押すユリーカ。
肉の保全にも気を遣わねばならないのは、少し面倒な仕事と言えるだろう。
しかし頑張る価値はあると、ユリーカは皆に言った。
「上手くお肉をゲットできたら、1割ぐらいワギューウルフのお肉を分けてくれるそうなのです。20頭分が確保できれば2頭分がもらえるわけですね! ワギューウルフはお高いですから、これはオイシー話なのです!!」
高い肉が、貰える。
そう聞いた次の瞬間、イレギュラーズたちの足が北へ、ヤンコビーへ向いていたのはわざわざ言うまでもないだろう。
- 牛っぽくて美味そうなのが大量に現れて困っています完了
- GM名星くもゆき
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年06月07日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●森の一幕
ひとつ息を吸えば、緑の匂いが体を満たす。
ヤンコビーの森林――その深部に到着した『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は周囲をぐるりと見回した。
「戦場にするなら、この辺りがマシでせう」
「ああ、そうだな」
『Unbreakable』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)が同意を示す。
周囲には変わり映えしない濃緑の景色がひろがっている。だがその場所は幾分か木々の間が広く、固まって動くには都合が良かった。
「そうと決まれば早速、準備といこう!」
「了解なのですよ!」
動き出したのは『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)と『リリカル☆メイ』メイ=ルゥ(p3p007582)の2人。
利一とメイはそれぞれ対角線上に離れてゆくと……ぽいぽいっと肉をばら撒き始めた。
「ワギューウルフを分けてもらえるなんて、こんなウマい話はない。しっかり肉を確保して2頭分を貰わないとな」
「美味しいお肉を持って帰るのですよ!」
肉ゲットに張りきりまくる2人が投げているのは、ヤンコビーの町から頂戴してきた『ボクソーウサギ』の肉だ。狩人いわくワギューウルフの好物。
「こいつでおびき寄せられるはずだ!」
「お肉を夢中でモグモグしてるところを攻撃するですよ!」
誘引すべく生肉を放りまくる2人。
そんな2人をよそに、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)はくるくると踊るように回っていた。
「美味しい御肉、美味しい御肉、美味しい御肉、楽しみだわね~♪」
「ワギューウルフ……ワギューウルフ。おいしい、ぜったいおいしいです」
綻んだ表情でイナリが回るその中心で、『クリシナシスターズ・蒼』ヤナ・クリシナ(p3p008492)が餓狼の如き眼光で呟く。
平時ののんびり可愛らしい顔を失っているヤナは『狩りも下拵えが大事です』とか言い出して、自らを飢えさせていた。『狩りに失敗したら餓死する』とまで思いこんでいる彼女の眼はもう相当怖い。
「取り分も悪くないです、ぜったい成功させて肉を食うのです……」
「御肉~♪」
まるで対照的な表情で食欲を覗かせるヤナとイナリ。
その辺を手持ち無沙汰で歩いていた『魔女っ娘』クルシェンヌ・セーヌ(p3p000049)は、考え事で俯けていた顔を上げる。
「うーん……お肉を傷つけずに、かぁ。生け捕りが理想なんだろうねー」
「食うとなりゃ、そうだろうな」
出っ張った木の根に座ってカレー弁当を食っていた『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)が、口元を拭う。
「果たして牛なのか狼なのか、いや、狼って言われてるんだから牛じゃねえのか……」
「見た目が牛さんなら牛さんなんじゃない?」
ワギューウルフとは、と考えだす義弘とクルシェンヌ。
すると、ヘイゼルやフレイもその取り留めのない会話に加わってきた。
「しかし狼が美味しいとは中々に不思議です。肉食の獣は臭くて食えたものでは無いのが普通ですので」
「狩人の手に負えないほど増えているというのも気になる話ではあるな。適度に狩ってはいるだろうに……狩られまいとする種の意思表示なのか」
割と真剣な顔をする2人は、しかし数秒で思案を切り上げる。
「まあでも、食べてみて美味しかったのでしたらそれが正義。そして、討伐でそのお肉が貰えるのでしたらそれはさらに大正義なのですよ」
「違いない。生態なり何なりは、専門のやつが調べれば済むことだしな」
「そうだな、俺たちはとりあえず、狩ればいい」
義弘がおもむろに立ち上がり、周囲へ目を配る。
同時に、クルシェンヌもまた警戒の色を見せていた。仲間と話しながらもその耳は辺りへ向けられていて、ワギューウルフの気配を感じ取っていたのだ。
群れは、近くに来ていた。
「よーっし、お肉のために頑張るぞー!」
●てんやわんや
太い木々の間をすり抜けて、白黒模様の群れが――ワギューウルフの群れが動く。
「ブォー!」
「バウッ! バゥッ!」
牛とも狼とも取れる奇妙な鳴き声を発しながら、群狼は駆けていた。
いや、追っているのだ。ワギューウルフたちは眼前にちらつく小動物の影、ボクソーウサギを追って森林を疾駆していた。
逃げるウサギを追って走る、走る。
そして今まさにその牙で捉えんとしたところで、狼たちはひらけた場所に躍り出た。
待っていたのは、イレギュラーズだ。
「ワギューウルフの群れが釣れたみたいだな!」
「作戦大成功ね!」
狼たちを視認して喜ぶ利一の隣で、イナリが走ってくるボクソーウサギを受け止める。その手の中で1枚の紙片へと形を戻すそれは、練達上位式で作りだしたイナリの式神だ。
ボクソーウサギの姿に釣られ、群狼はまんまとイレギュラーズが待ち受ける戦場へ誘われたのである。
しかも狼たちはそのまま、地面に撒かれている生肉に群がった。
「バウッ!」
「ンモォーッ!」
「オーケー! 肉に喰いついた!」
「動きが止まったのです! チャンスなのです!」
ガッツポーズをする利一の横を、背負ったもこもこ羊からスラスターをぶっ放したメイが通過する。
「攻撃するなら頭を狙うんだ! 頭はやはり可食部分が少ないらしい!」
「やっぱり頭なのですね! わかったのですよ!」
利一の情報に反応して、メイがワギューウルフの頭部を蹴りつける。肉に夢中になっていた狼が地面をバウンドして遠ざかると、群れの仲間たちは危険を察して顔を上げた。
だがそのときにはもう、クルシェンヌと義弘がすぐそこに近づいていた。
「頭を狙えばいいんだよね!」
「肉も少ないだろうし、道理だな」
クルシェンヌの神託者の杖から術が放たれ、義弘の太い腕がワギューウルフの顔を殴りつける。ひらいた口から肉を落として、狼たちは小さな悲鳴をあげた。
だが敵の数も多い。イレギュラーズに狙われなかったワギューウルフたちはすぐさま牙を剥き、メイやクルシェンヌたちに喰いかかる姿勢を見せる。
しかし、その瞬間だ。
森林の空に黒い雷光が奔り、一帯に雷鳴が響き渡った。
心臓を鷲掴みにするような轟音。不気味な黒雷。狼たちの本能が警鐘を鳴らす。
そして自然と、群狼の視線は黒翼をひろげる男――フレイに集まっていた。
『俺はここにいるぞ』
眼でもって言外に告げたフレイが、籠手を黒影の盾に変じる。
ワギューウルフたちは目を剥き、口蓋をひらき、地を蹴った。
「ガルルルルッ!!」
「ブォォォーーーーーッ!!!」
「そうだ。こっちだ」
殺到する群狼の攻撃を、その身で受け止めるフレイ。黒い雷光で恐怖心を植え付けられた狼たちは次から次へとフレイに襲いかかってゆく。
その姿は、どこから見ても隙だらけだ。
「お肉……なのです!!!!!」
「キャウーーンッ!?」
ヤナが土を蹴り、地面が弾ける。信じられぬほどの速度で飛んでいったヤナは、その勢いでもって狼の首に自身の脛を叩きこんでいた。可哀想な声をあげて吹っ飛ぶ狼。
圧倒的、圧だった。
お腹が空きすぎて背水の構えどころじゃない。むしろ心配になってくるようなヤナの気迫に、狼と格闘してたメイや義弘の手も止まる。
「ヤナさん、ものすごい気合なのですよ!」
「黙ってたが、俺が弁当を食ってるときも眼光が普通じゃなかったからな……」
「お肉を食べるです! ボキボキ折ってやるですよ!!」
2人の視線も意に介さず、猛獣のように跳んではワギューウルフを蹴りまくるヤナ。任侠から見ても眼光がやべーとかさすがの鉄帝民である。
とかやってたら、そこにヘイゼルの声が聞こえてきた。
「感心するのもわかりますが、今はワギューウルフを片付けませう。フレイさんもいつまでも持つわけではありませんし、クルシェンヌさんも大変そうです」
狼たちに絡みつかれ傷ついたフレイにミリアドハーモニクスを放ちながら、ヘイゼルがクルシェンヌを指差す。
「全部仕留めれたら2頭くれるって言うけど……近接って苦手だよぉ~!」
「おっと、いまお手伝いに行くのですよ!」
「引きつけてもらってんなら、今のうちに減らすとするかね」
ちょっぴり泣きそうな声を出しているクルシェンヌのもとへ、加勢するメイと義弘。
森の中の乱戦は、まだまだ続く。
●肉の状態も大事なんすよ
「よっ、っと! 危ない危ない……牛さんは木に登れないからここなら安全だね」
ぴょいっ、と跳躍して大木の枝に掴まって、クルシェンヌが安堵の息をつく。フレイが大勢を引きつけているとはいえ、すべての狼がそちらに向いているというわけではない。免れた何頭かの攻撃を受けたクルシェンヌは割と窮地に陥ったりもしていた。
が、木に登ることは良い回避策だった。直下ではワギューウルフたちが吼えているが、攻撃が届く気配はない。多少は安全と言えるだろう。
「ちょっとここでひと休みしようかな……あっ、あの牛さん弱ってるよー!」
「なるほどわかった!」
頭上から指を差しているクルシェンヌを見て、駆けだしたのは利一だ。敵味方入り乱れる空間を一足で駆け抜けて、弱った個体の頭に拳を打ちつける。
ぐらりと傾いだ牛狼は、そのまま力なく横倒れになった。
「よし、この調子でどんどん気絶させていこう。クルシェンヌはそこにいるなら、弱ったのを見つけて指示をくれ!」
「うん、わかった!」
「このペースなら20頭の確保も視野に入るな……頑張ろう!」
ひらひら手を振るクルシェンヌに見送られ、仲間が戦っている狼へと向かう利一。
なるべく手数を集中させ、1体1体を確実に倒してゆく。
その方針で戦いを進めていたイレギュラーズは、順調にワギューウルフたちの数を削いでいた。
「ガァウッ!」
「あら、こっちに来るのね。なら斬るまでよ?」
飛びかかってきた狼を横に避け、白い腕から鮮やかな血飛沫を噴かせるイナリ。それを血の刀に変えてワギューウルフの首元を斬りつけると、イナリはヤナに目配せする。
「あともう少しでいけるわ! ヤナさん!」
「了解です! ボキリと首を折ってやるですよ!」
超加速したヤナが、弓なりにしならせた脚で狼の首を蹴る。宣言どおりに『ボキリ』と鳴った首は数回転して胴体から分離した。イナリに斬られた傷がヤナの与えた衝撃に耐えられなかったのだろう。
「まだまだいくですよ! お肉は絶対に貰うです!」
ですー、ですー、と木霊させて再び首折りに向かうヤナ。
自身とて相当疲弊はしているだろうに未だ気勢衰えず、ひたすらワギューウルフの首を折りまくるヤナを見て、イナリは感心するしかなかった。
「何だか、職人になっているわね……」
「大したもんだな」
飛びかかる狼を裏拳で叩き落としながら、呟く義弘。
肉を損じていないか、とちらり確かめた義弘はがしがしと頭を掻いた。
「……なんと言うかよ、下手な仕事より考えなきゃいけねぇ事が多くて大変だな」
「んー。確かにそうね……」
同意せざるを得ないイナリ。
彼女も肉を保全するという点に難儀している1人だった。肉を損じるかもしれない、と帯刀する2つの得物を使えずにいるのだ。そして実際、振るえばそうなっていただろうから賢明な判断だった。
「まあ、御肉を駄目にしたら元も子もないものね。いざとなったら安全優先でやっちゃうけど……たぶんそういう状況にはならなそうよね」
「思いきり殴れるほうが性に合うが……全ては肉の為と割り切ってやるかね」
小さく息をつく義弘。
未だ健在の狼たちに眼を向ければ、そこには依然として多くの狼を引き受けるフレイと、別の個体たちを引きつけるヘイゼルの姿があった。
「だいたい半分ぐらい減った、か?」
「おそらくそうですね。いくらか敵の攻勢も軽くなった、と感じます」
迫るワギューウルフたちの爪牙を掻い潜り、あるいは受け止めるフレイとヘイゼル。
継続的に黒雷を撃ったフレイはやはり狼たちの一番の標的だ。数体がヘイゼルに執心しているのはその身にヘイゼルの魔力糸が結び付けられているからである。敵群の攻撃を受けてなおフレイが倒れていないのは彼の堅牢な肉体あってこそだが、ヘイゼルの回復と援護も一役買っていたのは間違いないだろう。
「このままなら、全頭確保できそうですね」
「そうだな。だが油断してもいられない」
フレイが素早くその場から駆けだし、狼の牙を盾で受け止める。
彼が立ったその後ろには――ちょこんとメイがしゃがみこんでいた。
「これは不注意だったのです! ありがとうなのですよ、フレイさん!」
「この程度どうということはない……が、一体何をやっていたんだ?」
「メイの大好きな赤玉肉まんをお裾分けしてたのですよ」
「赤玉肉まん?」
訝しげにメイを振り返るフレイ。
メイの手には何とも赤々しい肉まんがあった。
そしてそれを馬乗りで押さえ込んだワギューウルフの口に押しこんでいた。
絵面だけ見るとひどかった。
「どうしてそんなことを……」
「辛い物食べたらワギューウルフのお肉も辛い味付けにならないかと思ったのですよ! スパイシーワギューウルフ肉にしてみたかったのですよ!」
「スパイシー……」
ヘイゼルの疑問に元気よく答えちゃうメイ。微妙な表情で呟くフレイ。
果たしてメイが弄っていたワギューウルフの肉は大丈夫なのだろうか――そんな不安に駆られながら、しかし一同は気を取り直して戦い、きっちり20頭のワギューウルフを仕留めました。
●肉!
森から引いてきた荷車を、フレイは町の肉屋の前に停車させた。
「全部で20頭。確かに納品したぞ」
「あぁ! ありがとうございます!」
「森の生き物たちが喰い荒らされることもなさそうですね……感謝します、ローレットの皆さん」
荷台の狼たちを見て気色を浮かべる肉屋の隣で、狩人がイレギュラーズに頭を下げる。
「じゃあすぐに肉の処理を……おっと、もう血も内臓も抜かれていますね?」
「そのぐらいの処理は済ませておいたわ。腐敗しちゃったら台無しだものね」
「そこまでして頂けるとは……いやはや、皆さんに頼んで良かったですよ」
現地で血抜きやらを済ませておいたイナリに、ぺこぺこと頭を下げる肉屋。少し待っていて下さい、と言った彼は狩人と一緒にワギューウルフ20頭を店の奥に運んでいった。
それから20分も経たぬうちだ。
店で待っていたイレギュラーズたちの前には、綺麗に解体されたワギューウルフ2頭分の肉が積まれていた。
「こ、こんなにたくさん貰っていいのか!?」
「もちろんですよ」
はわわわ、と震えだしそうなのは利一だ。
感動する探検家は、溢れださんばかりの涎を何とか抑えこむ。
そして、こっそり買いこんでおいた野菜と、森で集めておいた薪の束を掲げた!
「肉といったらバーベキューだ。今すぐ食べないか!?」
「食べるです! もちろん食べるですよ!」
「メイも賛成なのですよ!」
わーわー、と諸手をあげて賛同するヤナ&メイ。
そうと決まれば話は早いのがイレギュラーズだ。その場で食べてみることを決めた一同は肉屋の裏手のスペースを借り、嬉々として焼きはじめた。
炙られた肉がじうじう焼ける音を聴きながら、利一は串に刺したワギューウルフ肉を味わった。
「これは絶品……」
「さすがに名産の肉だな。狼の肉がこんなに美味えとは……おまえさんのスパイスも良いじゃねえか」
「そうだろう? 私の秘伝のスパイスなんだ」
もむもむ、と肉を齧りながら話す利一と義弘。スパイスの効いた肉は香りも丁度いい塩梅で、食えば食うほど腹が減る。
そんな2人の横では、ヤナとメイが欲望に忠実な調理を施していた。
「ぶつ切りにした肉を鉄串にぶっ刺して焼き上げる……これが旨いですよ」
「メイはたくさんスパイスを効かせるのですよ! ドバドバやってしっかり漬け込んで辛くて美味しいやつにするのですよ!」
串刺しにした肉を、きらきらした眼で炙る2人。
シュラスコにしたそれに塩ふって頬張るヤナは暫し言葉を失い、メイはスパイスマシマシで(ほぼ真っ赤になった)肉をあむっと口に放りこむ。
「旨いです……幸せです……」
「体に染みわたる~なのですよ!」
「この肉、やはり生で食べてもいけるようですよ」
ぱたぱたと脚を振る2人を見ながらヘイゼルが箸で食べるのは、刺身だ。わさび醤油につけて食べるそれは滑るように喉に落ちてゆく。
「牛は高いほど調理を少なくしたほうが美味いと聞きますが、ワギューウルフもそうだったようですね」
「刺身か。それは気になるな」
「食べますか? いちおう冷しゃぶサラダと、ステーキにもしてありますが」
興味を示したフレイに、たっぷり冷しゃぶと肉厚のステーキを見せるヘイゼル。はむっと口にしたステーキは、塩胡椒だけの味付けだが信じられないほどに美味かった。
そのステーキやら、あるいはバーベキュー串やらを分けてもらったクルシェンヌは、膨らんだ頬に手を当てる。
「うーん、お肉おいしー! あ、焼いたの少し置いといてー。お留守番してる子へのお土産にするのー」
「わかったわー」
肉串をもぐもぐしながら一枚肉を焼いていたイナリが、クルシェンヌに手を振る。
だがしかし、自分で残しておいてと言いながら、クルシェンヌはふと素朴な疑問を覚えた。
「……あれ? そういえばあの子、お肉食べてたっけ……? 見たこと無いや」
脳裏に『あの子』――赤いグミを思わせるスライムちゃんを思い浮かべて。
「ま、いっか!」
むぐっ、と厚いステーキを頬張るクルシェンヌだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
全頭確保、お疲れ様です。
皆様の手腕でヤンコビーの町は潤ったようです。豊かな森も保持されることでしょう。
もちろん、またワギューウルフも食べられるかもしれません。
GMコメント
どうも、星くもゆきです。
綺麗に倒せばその分、肉が喰えるぞ!
●成功条件
ワギューウルフ20頭の討伐。
加えて、一定数の肉の確保。
●敵
・ワギューウルフ×20。
ぱっと見ほぼ牛にしか見えない狼たち。
そのくせ動きだけは狼のように俊敏。耐久力は低いがそれゆえにド派手に攻撃をぶっぱなすと肉も逝ってしまいます。肉を損じないように攻撃方法に注意しましょう。
主な攻撃は『噛みつき』『爪でひっかく』『体当たり』です。
●ワギューウルフの肉
しっとり柔らかなお肉。良質な脂が入っています。
大ぶりにカットしてステーキにしてもよし! 薄切りにして調味して焼いてパンとかと喰ってもよし! 刺身でもいけるぞ!
●ロケーション
植物の茂る森林です。昼間なので光源は必要ないでしょう。
木々が密集して見通しが利きません。
遠距離から攻撃を当てるのは大変かもしれません。
足場は良いとは言えませんが、戦う上での支障はありません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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