PandoraPartyProject

シナリオ詳細

天の星々を求めて

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


「貴方の力を、お借りしたい」
 ガブリエル・ロウ・バルツァーレク――それは幻想三大貴族の一人の名を示している。
 彼が赴いているは、自身の領内が一角。『図書館』と呼ばれる程に本を集めた……ラジエル・ヴァン・ストローンズの邸宅であった。齢六十を超え、しかしかつて政治家として敏腕を振るった彼の下へ訪れた理由は。
「どうかお願いします。たった少しの間だけで良いのです――私の護衛達を何卒足止めする策を――」
「ふんっ、断る。そのような『企み』事に協力すれば、後に私にどのような影響が及ぶか分かったものではないわ」
「そこをなんとか……なりませんか?」
 ならんな。短く、しかし強い口調でラジエルはガブリエルを突き放して。

「『護衛共を騙くらかしてお忍びで行きたい所がある』――などと。卿でなんとかしろ」

 再度、彼の頼みを断った。
 ガブリエルは先述した様に幻想の貴族……しかも政治的な意味でのパワーバランス上において重要な一人だ。そんな彼には常に護衛が付いており、彼に降りかかるあらゆる脅威を排除すべく身を盾にする者達がいる。
 ――が。それは逆に言えば一人でいる時間は少ないという意味でもある。
 お忍びでどこかへ……などと護衛達にとっては到底、職務上認めがたい事であり。
「第一なぜ護衛達の眼を振り切ってまで行きたい場所があるのだ」
「それは……この時期でしか見れぬモノを見に行く為と言いますか……」
「ならば護衛達と共に行けばよかろう。何が問題だ」
 ラジエルは例え相手が立場的に目上の者であろうと、ずけずけと物を言う人物である。
 それは例えば目の前の伯爵地位に居る誰かであろうと変わりない。これが公的な場であればまぁ話は別だが、ともあれ。

「場所が問題でして――実は、その地が海洋なのです。
 いえ首都ではなくかなり幻想に近い側の……国境線に近いある街なのですが」

 ラジエルの眉が動く。その一言だけで彼は全てを察した。
 海洋と言えば今、大号令の佳境に在るという。そのような時期に他国の要職に付いている人物が自国を訪れるなど……海洋の者達はあまりいい顔をすまい。特になんでもついに現れた魔種の大物との戦闘が始まったとかいう話もあるぐらいだ。
 故にお忍びで行きたい訳だが――しかしお忍びであろうと彼の身を案ずる護衛達にとっては公的だろうがお忍びだろうが関係ない。死の病があるというかの国へなぜ赴く必要があるのかと止める事だろう。それは例えば絶望の青からは距離があり、関係ない地であったとしても護衛達からすれば心配の他この上ないから……
「成程な。話は実によく分かった――諦めろ」
「貴方に御迷惑は決して」
「こんな相談をされている時点で相当アレだ」
 なんとも困った顔を見せるガブリエル。幻想屈指の権力者の一人であるのに、随分と腰の低い事だ。
 ……だが、そんな彼の気質であるからこそ。ラジエルはバルツァーレク領に居を構えている訳でもある。陰謀や他者を圧迫せし気質を纏わぬガブリエルは――例えばレイガルテやアーベントロートの小娘と比べれば大分マシであり――
「どうしてもと言う事であれば、噂のイレギュラーズにでも話を持ち掛けろ」
 だからこそか。ラジエルはため息を一つ付きながら、話を続けて。
「私にもなんの因果か……知り合いの生意気な小娘が『ソレ』でな。話ぐらいは持って行ってやる」
「――本当ですか。それは助かります。いやその手は考えていたのですが、部下のアウラミイに勘付かれた上に『駄目』だと言われまして」
 なんでじゃ。部下に勘付かれたのはともかく、なぜ駄目などと。
「いえ彼が言うには『また伯爵様は“つい”の一言でイレギュラーズに無茶ぶりするんだから駄目だよ。ちょっと目を離したらデザストルへ行ってください依頼出すとか鬼じゃん。駄目だよ。暫く絶対に駄目だからね』――と。酷くありませんか? 一度やったぐらいでそのような偏見……解せません」
「解せんのはお前の頭だ」
 おっとつい本音が。まぁいい、これで普段世話になっているガブリエルへの顔も立とう。
 イレギュラーズに後は任せれば自分に面倒な事態が飛んでくる事も無し。ガブリエルを連れたってこっそりと目的地へ行こうなどとすれば、確実に追手と言う名の護衛達がやってくるだろうが――もういい。知らん。面倒な事はあの小娘達に任せる。
 ラジエルは眼鏡の位置を調整し、ローレットへ連絡を取るべく筆を取れば。
「……で、なんだったか。どこへ、何をしにいきたいのか――念の為もう一度確認させろ」
「ええ分かりました。行く先は幻想国境付近、海洋の領土の一角である『港町メリサス』」
 呼吸一つ。

「私が見たいのは、その日の夜――この時期のたった一夜だけ目にする事が出来る空の奇跡。
 かの地の美術品とも名高く言われる……満点の星空に輝く『天の河』を見に行きたいのです」

GMコメント

■依頼達成条件
 1:ガブリエルを護衛する。
 2:ガブリエルを追って来る追跡部隊を一人たりとも殺害する事なく妨害する。

 両方を達成してください。

■場所&シチュエーション
 幻想~海洋領港町『メリサス』へと続く道の途中。
 貴方達はラジエル伝いに依頼を受け、ガブリエルを目的地まで護衛しています。
 遊楽伯邸からこっそりと脱出し、馬車を調達。道を往く最中です。

 この辺りは盗賊などの類も出ない安全なルート……ですが。
 ガブリエルの不在に気付いた遊楽伯護衛者達が慌てて追いかけてきています。
 彼らは馬を使って全力で追いかけてきており、シナリオ開始後暫くすると追いつかれ始めるでしょう。罠などを設置したり、あるいは横から奇襲してその動きを妨害などすると良いかもしれません。
 彼らも海洋の街付近で騒ぎを起こせば、別の――例えば外交的問題が発生するかもしれない事は承知しているので、港町が見え始めればもはや無理に連れ戻そうとする動きは諦める事でしょう。そうなれば依頼は事実上達成します。

 依頼を達成した後はメリサスの星空を堪能してから幻想領に帰還する事でしょう。
 ちなみにメリサスは小さな港町であり、治安のよい場所でもあります。
 街に入ればとにかく心配する事はありません。

 時刻は夕方に近い頃。
 視界などに問題は無く、周囲には浅い林などが幾つか並んでいるぐらいです。

■ガブリエル・ロウ・バルツァーレク
 幻想貴族の一人にして『遊楽伯爵』とも言われる緑髪の人物。
 どうしても生粋の美術品『天の河』とも呼ばれる満点の星空を見るべく、港町メリサスへと赴きたかった。これは数年に一度しか現れないらしく、今宵が正にその日なのだとか。
 馬車に乗り、全ての行動はイレギュラーズを信頼して任せる模様。

■遊楽伯の配下騎士達×??
 遊楽伯警察……とか言われもしている遊楽伯の配下騎士達。
 ガブリエルへの忠誠は高く、身を案じて追いかけてきている。
 戦闘力はそこそこ程度であり、あまり武力に特化はしていないようだ。

 しかし数はどうやら結構多い模様……

■ラジエル・ヴァン・ストローンズ
 リア・クォーツ(p3p004937)の関係者。
 元政治家にして一応だが、バルツァーレク派に属する。
 ガブリエルが持ち込んだ頼みを面倒くさが……もとい、解決するためにイレギュラーズへと全てブン投げ……もとい全て信頼し、彼らに護衛依頼を託した。護衛依頼には同行していない。

  • 天の星々を求めて完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年06月03日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
フローリカ(p3p007962)
砕月の傭兵
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
フォークロワ=バロン(p3p008405)
嘘に誠に

リプレイ


 馬車後方。追いかけて来るは幻想の騎士。
 より厳密には遊楽伯爵の配下達。
 主君の身を案じて追いかけてくる忠義者。ああ見事なモノである……が。
「ハッ……たかが星空なんて何処でも見れるっつうのに、貴族サマの考える事ってのはイマイチ理解できないねえ。ま、カネさえ貰えりゃキッチリ仕事はしてやるがね」
「どこの世界も権力者というのはままならないものなんだな。
 ……まぁ私も同意見だ。報酬を確かに貰えるのなら、なんだっていいさ」
 悪いがその『主君』とやらからの依頼でな、と『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)と『死線の一閃』フローリカ(p3p007962)の二人が立ち塞がる。目指すは護衛共の排除……違う。追手の妨害である。
 護衛を振り切って港町へなどと、なんたる依頼であろうか。
 権力を持った者に下の者が振り回される……どこの世もそんなものかと、フローリカは吐息一つ。
 直後。
「悪いなあ。恨みなんざ無ェんだが、これも仕事なんでねえ!」
「な、何者だ貴様!」
「げはははッただの『山賊』だよ! おらっ俺と遊ぼうやぁ!」
 グドルフが往く。奴らを止めねばならぬ故に、派手に暴れて足止めだ。
 馬に乗る騎士の顔面へ跳躍一閃拳を入れる。
「オウ、伯爵サマがご立腹だったぜ。てめえら全員、芸術も理解できねえカスどもだと!
 クビになりたくなきゃ大人しく引き下がりやがれ!」
「なにを――! 伯爵様がそんな事を言うものか――うわあああ!!」
 火事場の馬鹿力も伴う彼の膂力は不意を突かれた者に抗えようか。そのまま馬の背を蹴って隣の騎士へも。一人、二人、三人――手の届く限りの連中を。その範囲を薙ぐように彼は縦横無尽に暴れまわって。
「さて。仕事熱心な諸君らには申し訳ないが……仕事なんでね。全力でいかせてもらう」
 そしてフローリカはここに至るまでに収奪した木々の残骸で妨害を。
 それは馬の脚を止める為のモノ。邪魔があれば動きは鈍り出来た僅かな隙を――己が獲物にて埋めるのだ。
 墜星。
 獲物を勢いよく地へと炸裂させれば馬が怯む。衝撃の波が野性の勘を刺激させ、上体を大きく揺らし。
「馬を持っていようと、脚さえ止めてしまえば大したことは無い」
 一か所に留まって誰かを倒すよりも常に移動して馬から叩き落とすのだ。そうして馬の尻を思いっきり横から蹴ってやれば彼らは勝手に走り出す。人の足と馬の脚には中々埋めがたい機動力の差というモノがあり――しかし。
「だがそれにしても数が多いな。慕われているからかもしれんが……報酬ははずんでもらわないとな」
「はは、ちげぇねぇ! お貴族様だタカってやろうぜ!」
 さぁもうひと踏ん張りいこうかね……! そうして睨むグドルフとフローリカ。

 ――さて。こうして二人は散々に暴れている訳であるが。

 これこそがイレギュラーズ達の策である。メンバーを二人ずつに別け四つのチームで足止めしていく。イレギュラーズ達は強い。強い、が。数の上で劣る以上、全員で一度に足止めしても突破される可能性があると踏んだのだ。
 ならばと戦力を逐次投入。奴らを全滅させる必要は無く。
「初めましてガブリエルさん、お忍びの旅は俺たちに任せて。必ず天の河を見せてあげる」
「ええ頼りにさせて頂きます――よろしくお願いしますね」
 伯爵を街にまで送ればよいのだから、と『海の女王のバンディエラ』秋宮・史之(p3p002233)は思考して。されば『にんげん』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)共に第二陣として出撃する。
「ふむ――護衛から守る任務とは不可解だが、肉(ベーコン)の礼だ。此度は全力で導いて魅せる。
 星辰が揃えば精神は歓喜に溢れ、爛れた脳髄も一時的に癒される」
「……? ベーコン? なにやら聞き覚えの在る様な……うっ、頭が……!」
 オラボナの言動になにやら過去の想起を果たすガブリエルだが追いつかれる前に準備したい事があるのだ。ガブリエルの乗る馬車は見送り、己らは敵……違う。いや違わないけど違う、騎士達を足止めせん。

「いたぞ! このまま直進し――ぎゃあああ!?」

 フローリカ達をなんとか突破してきた騎士達――であったが。
 先陣を切っていた者達が次々と体勢を崩し始める。それは穴。落とし穴の数々が彼らの前にあったのだ。オラボナと史之が準備したかったモノとはこれの事である。
「がんがんいこうぜってヤツだよね。何、転落死はおろか怪我をする程の深さじゃない……
 ま、ちょっとぬるぬるしてるかもしれないけれど――そこはご愛嬌って事で」
 脚の止まる騎士達。そこへ、回り込んだ史之が聖なる光を発して戦場へ。
 それは不殺の意思。あくまで打ち倒すだけであり殺す意図は無き証明。騎士達は浅く掘られた、しかし馬の脚を止めるには十分な穴に苦戦して――というか――
「ぐああなんだこの穴、なんか色々入って……」
「Nyahaha。然り然り。其れは人智を跨ぐ食物の一つ。
 路地裏に居を構える店主の至高にして黙すべき産物――『お弁当』である」
 なんか色々やばいの入ってる! 史之が仕込んだのは己がギフトによるオリーブオイルである。ぬるんぬるんするそれは踏ん張っても力を逃す上、なんかホントめっちゃ2リットルぐらいあってやばい。
 一方でオラボナが穴に仕込んだのは――そう『燃える石弁当』である。
 そう。あの、場合によっては戦略兵器に匹敵する燃える石の! 弁当である! いやそれだけではない! その上に更にオラボナの『けーき』も含んだ『混ぜ物』状態になっていて――うわあああなんか粘性になってる上に動いてる気がする!!
「私を倒さねば先に進む事は赦されぬ。貴様等の腕で見事『退けて』魅せよ。何。素敵な面向かいだ。ベーコンの波を滅ぼして魅せよ――退けねば貴様等、伯爵が『燃える石弁当』を喰う末路に陥るぞ。Nyahaha」
「き、貴様伯爵様を殺すつもりか! おのれ外道がッ――!!」
「いやそういう程の事までは……ああでも俺たちを倒さなきゃ、任務は果たせないよ?」
 だから全力で俺達に向かってきてね? と、史之とオラボナを存在のアピールを。
 より多くの数を此処で足止めする。史之は激しき術で騎士達を叩き落としながら、馬にも威圧を掛けて彼を走らす。グドルフ達と同様に『足』を失くすつもりなのだ。
 そしてオラボナは――あれ? なんか太くなってません?
「左様。此れより先に押し通りたくば、不変たる私の身を乗り越えるより他無し」
 事実『太く』なりしオラボナは万全のサポート体制をもって騎士達を阻まん。
 落とし穴から始まる様々な状況変化に阿鼻叫喚。騎士達は半狂乱にて立ち向かい。
 さればその姿、まるで三日月の化物の如く――

 後にメリサス街道の三日月悪魔攻防戦とか呼ばれる伝説が生まれたとかそうでないとか……


 そろそろ夜に差し掛かろうとしているか。それでも追手はまだ諦めず。
「貴方がバルツァーレク伯爵ですね。俺はベネディクト=レベンディス=マナガルムと。
 メリサスまでの到着は、必ずや。宜しくお願い致します」
「こちらこそ。今回は無理を申し上げました……今一刻何卒、お願いします」
 故に『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は礼儀を心得た上での挨拶の後――第三陣の一人として街道へと。しかし貴族の動きに翻弄されるのは、やはりどこの世界でも同じなのだろうか。
「ガブリエル様。御承知の事とは思いますが、どうかお戻りになられたら家臣の方々を労って差し上げてくださいませ。彼らもまた、貴方を案じてこのような行動をしている訳ですので」
 『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は小さく吐息一つ。色々と申し上げたい事は――それこそ山のようにあるのだが――止めておきます。依頼は依頼だし、今更状況は変わらないのだ。
 ベネディクトと共にまだまだ追って来る騎士達を見据える。
 第一と第二の足止めで相当距離を稼げているのだが……それで諦める筈もない、か。
「――騎士の皆様! どうかここまでになさいませ!
 私はローレットの特異運命座標、リースリット・エウリア・ファーレル」
「同じく。特異運命座標、ベネディクト=レベンディス=マナガルム。
 忠義高き誉れある騎士達よ話を聞いて貰いたい」
 白の軍馬。それに乗るはベネディクト。横乗りで同乗するリースリット共に声を張り上げ。
「私達は伯爵様の護衛をお受けしています。あの方の身を害す意図はありません」
「そう。そしてこの場に来るまで相応の疲弊も被害も貴殿らにはある筈。後の事は我々イレギュラーズが責任を持って伯爵を護衛し、送り届けよう……ここで一つ手打ちとしないか」
「むむ、イレギュラーズの方々だと!?」
 二人が行うのは説得だ。元より苛烈に戦闘を行ってまで止める必要は無し。
 言葉でその歩みを諦めさせることが出来るのならそれが最上なのだ。
「既に伯の影響域からは外れています――このような地域で、武装した貴方方が集団で行動している現状は、もはや余計な危険を呼び込むだけです。その事はご理解いただけるかと思いますが」
 冷静になって欲しい、とリースリットは願う。何が悪いかと言えば騎士の方々よりも。
「あの方のこの度の行動については……皆様の心中お察しするばかりですが……どうか」
 名前は伏せるが、とある伯爵が悪いのだが……ともあれ。
 どうか、と願うその想いに偽りなし。
 止まって欲しい。どうか、このまま平穏に――と。
「む、むむむ……そちらにも依頼の責務がある様に、こちらにも騎士の責務がある!
 申し訳ないが――押し通る!!」
「そうか。それならばそれで立派な事だ」
 しかし止まらぬ。説得によって少しの間彼らの足は止まったようだが……彼らにも決意が。
 ならばとベネディクトは相対する。
 騎士達よ、覚悟があるというのなら。卿らにも卿らの名誉と誇りがあるというのなら。
「俺達に今暫く付き合って貰うとしようか」
 その想いに真正面から応えよう。
 激突する。ベネディクトは華やかにして不殺なる一撃を彼らへ。
 リースリットもまた――焔の魔法剣をその手に。
 殺しはしない。だが決して通しもしない。

 あぁ。ああ――御身らの気高き忠誠に祝福を。

「今回、これより先を護衛させていただくフォークロワ・バロンと申します。以後お見知りおきを」
「ええありがとうございます。フォークロワ殿ですね、今少しばかりよろしくお願いします」
 山高帽を脱ぎ挨拶を。『マスカレイド』フォークロワ=バロン(p3p008405)の興味は遊楽伯爵自身に向いていた。こんな依頼――と言うと失礼だが、なんとも中々愉快な御仁である様で。
 それに幻想でも屈指の高い立場の人間と知り合いになれるのも悪い話ではない。
「それにしても立ち振る舞いに雰囲気が見られますが……『ご経験』がおありで?」
「はは、分かられますか。以前――と言ってもつまり私のいた元の世界での話ですが、ある方に仕えておりまして。一通りの作法は、ええ。伯とはおおよそ似ても付かない方だったのですが」
 故に談笑を。ウィッチクラフトの鴉で様子を見れば、追手は相当足止めされている様だ。
 今少しばかりの猶予はありそうなので伯爵と他愛もない話で盛り上がるとしよう。いやはや伯爵の雰囲気は実に穏やかで、なんならこの方が主人であればよかったと――思っても仕方がない事なのだが。
「思わずにはいられないものです」
 微笑むフォークロワ。モノクル越しの瞳は穏やかで。
 二人の声色もゆったりと。緩やかな一時が過ぎていく――
 その時。

「こ、ここ、この度ひゃ」

 噛んだ。頬の熱が一気に上昇。それでも何とか、と。
「こ、この度は、護衛を務めさせて頂きますッ
 どうぞ、よろしくお願い致します。ガガ、ガ、ガブリエル・ロウ・バルツァーレク伯爵……」
 『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)は言葉を紡いだ。噛み噛みだぜ。
 あたしは依頼を受けただけの特異運命座標――いや駄目だ! 自己暗示をかけようと思っても心臓の高鳴りは抑えられない! ていうか貴族の護衛とは聞いてたけどこの方とか聞いてねぇぞクソジジィ!
「リアさん、どうなさいました? 何やらご様子が……もしや体調でも?」
「あ、い、いえ! そ、の、ええと、あ、熱いなーと思っているだけでして!」
 自分がね! あぁしかしやはり無理である。馬車に同乗し、皆が順次出向いて――しかし最後まで至近距離に残っていたリアの脳髄は最早限界であった。やばいやばいやばい私の息の根止まってろ、止まったらダメじゃん! 落ち着けあたしはクールな女……氷の女……そう、こうして目を閉じて集中すれば心臓も落ち着いてきて、耳が透き通り――

「リアさん?」

 そうしていたら目の前にあの方の旋律があった。
 突然瞼を閉じて不審がったのかすぐ目の前に来ていて、あ、穏やかな旋律、あ、あ。好き。あ、良い匂いがする。なんだろう香水かな。あ、いやちょっと待って、近い、あ! あ――ッ!!
「はっはっは――さてしかしついに出番がやってきたようです」
 最早灼熱の領域に至り爆発しそうなリア、の助け舟と成るのかなんなのか。
 疲労困憊ほうほうの体で追いついてきた最後の一団があった。
 メリサスまではあと少し。ここが正念場と、フォークロワは馬車より身を乗り出して。
「以前は同じような立場の人間に仕えていたものとしてお気持ちはわかりますがこれも依頼ですので、申し訳ございません。少しだけ痛みが走るやもしれませぬが――ご容赦ご辛抱の程を」
 穿つは魔弾。狙うは馬の脚。
 落馬だ。直接人を撃つ必要もないと思えば、これが妨害として丁度良い手段だろうと。
「ひ、退きなさい! 伯爵様は私、達に任せて!」
「伯爵様は我々が守るのだー! 私欲に塗れるシスターには渡さーん!」
「誰が私欲塗れだ――ッ!!」
 失敬な! と。紅き頬のまま、説得が無駄だと感じたリアは馬車の屋根の上へ。
 追いすがらんとする騎士達に青き衝撃波を。されば、複数回に渡る妨害の果てであれば彼らの疲労も凄まじく……やはり伯爵の馬車へは追いつけず。故に駆け抜け、そして街の領域へと至るのだ。
「伯爵さま~!」
 こうなれば騎士達ももはや止まるしかない。
 日は暮れて、夜空に星々は輝き。
 芸術品が、姿を現したのだから。


「ファーレル、これを。まだ夜は寒い」
 メリサスへと至った一団。足止めしていた面々もやがては追いつき。
 身体を動かしていた時は左程でも無かったが――息も落ち着けば冷気も感じよう。
 故にベネディクトはリースリットへ。己がマントを彼女の肩へ。
「あ、ありがとうごいます。マナガルム卿」
 風を凌ぐ温かさ。マントに感謝しながら――天を仰ぐ。
 そこへあるは星の海。天の河。
 たった一夜の奇跡。ここに至る者だけが見られる星の涙。
 あまり、星々をじっくちと眺めた事はこの世界に来て一度も無かったのだが……
「……綺麗な星空だ」
 自然と漏れた一声が、ベネディクトの感じた全てを表していた。
 見るだけで心に沁み込む『何か』
 それを人は芸術と呼ぶのであろうか……
「……さて。空の奇跡とまで言われる光景は私の何かを動かしてくれますでしょうか……
 壊れてしまった私の何かを……」
 されど、傷を負った心の治癒とまで至るだろうか?
 山高帽をフォークロワは抑え。天を見据えて見るは何か。
 空の奇跡か。それとも彼方に在りし想起の空か。
 同時。天を眺めるのはフローリカもである。彼女もまた、星をしっかりと眺めた事はほとんどなく。
「……夜と言えば体を休める為に眠るか、敵襲を警戒するかのどちらかだ」
 それは数多の死線を潜る彼女であるが故に。
 夜とは敵。安寧とは程遠く――しかし今日は、違うのであれば。
「まあ、悪くはない、と思うよ。偶には……ね」
 綺麗な星を眺めるのも。
 幾つもの輝きを、瞳に映すのも。
「オウ、どうでえ景気付けに一杯。こんだけ働いたんだ、ご褒美があってもいいだろうがよ……って、なんでえ! そういや酒飲めねえガキばかりじゃねえか!」
「Nyahaha。ならばどうか。酒の肴に弁当一つ」
 そいつはやめろや! とグドルフはオラボナからの凶器を断りながら、皆を誘い何処かへと。
「ガブリエルさん、海洋の夜空はどう? 海洋の酒も、新鮮な刺身もこの街には名物としてあるんだよ――もしよかったらこの国と料理も気に入っていってね」
 この海の先にはイザベラ女王陛下がいらっしゃるしね! と。史之は挨拶一つ。されば弁当を掻き込むオラボナへと共闘の礼を言いに行くのだった。そして。
「あ、あの……バルツァーレク伯……! 護衛ですので、最後までお供させて頂いても……」
 良いですかとリアは言葉が続かない。
 護衛だから! 仕方ないわよね! と思うのだが口が開くだけで……
「ええ勿論です。どうか、お願いします」
「は、はい!」
 ほぼ反射。ぎこちなく、しかし確かに彼の隣へ。
 美し夜空を眺めるのだ。
 星が見えて月が見えて、ああ――
「あのその……月……いえ、星が」
「ええ――綺麗ですね」
 ガブリエル様。
 あたしは貴方と見たこの景色。
 決して忘れません。
 今日この日、この場所この時に。
 此処から星を眺めたのは――

 貴女と私。二人だけなのだから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 星空に輝きを。一夜の奇跡に祝福を。

 ありがとうございました――なお遊楽伯爵はこの後護衛のアウラミィさんから滅茶苦茶怒られました。

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