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シナリオ詳細

クリスチアン・バダンデールの愉快な遊戯

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●クリスチアン・バダンデール
 幻想北部の街サリューに根を張るバダンデール家は街随一の名家であり、資産家である。
 代々の当主の商才、飛び抜けた財力とコネクションから貴族にも匹敵する権勢を得たかの家は、アーベントロート派に長年、それも莫大な献金をする事により、サリューの街の自治権を半ば程も『買い取った』街の英雄とも呼べる血脈である。
 サリューはバダンデール家を代表として盛り立て、屋台骨の傾ぎかけた幻想においては極めて良好な治世と、良好な経済状態を保つ数少ない場所であった。
 特に今代の当主クリスチアン・バダンデールは若い頃から様々な物事に素晴らしい能力を発揮した麒麟児として名を馳せており、その信望は近隣にも伝わる程である。
 今、三十を過ぎた彼は商人としても政治家としても脂が乗り切った時期であり、彼の天才的手腕を知る人々は口々にこう言った。

 ――レガド・イルシオンが崩壊してもサリューはきっと大丈夫――

 口さがない者は「いっそ国王にでもなってくれればいいのに」と零した事もある位だ。
 ともあれ、クリスチアン・バダンデールは自他共に認める天才で、少なくともサリューの王だった。
 幻想で最も波風の立たない平和な街は、世情に関わりなく明日も凪の筈だったのに――

●クリスチアン・バダンデールの愉快な遊戯
「依頼人はそのクリスチアン・バダンデール本人だ」
『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)は集まったイレギュラーズに実に端的にそう伝えた。
「……サリューの街の暴動の件、だよな?」
 問い返したイレギュラーズにレオンは「ああ」と頷いた。
 商人の街として知られるサリューが暴動状態に陥ったのはあのシルク・ド・マントゥールの公演から数日経ったつい先日の出来事だった。彼等の公演は素晴らしく、日々人々に大きな感動を届けていたが、その噂に違う事無く、この所幻想各地では荒れた事件が多く起き始めていた。その中でも幻想で最も暴動から遠いと見られていたサリュー市民の蜂起は、かなり驚くべき事件として各地へ伝わったという訳だ。
「……暴動や蜂起なら、貴族の管轄じゃないのか。
 それも、北部はあのおっかない令嬢の勢力圏だろう」
「案外に彼女は義理堅い所もあるからね。
 サリューは事実上、バダンデール家の支配地域だ。
 有象無象の貴族の多くより、多額の献金と貢献をしてきた彼等をアーベントロート家は大層気に入っているし、評価してる。つまり、『市民の暴動如き』でバダンデール家の自治圏に踏み込む事は彼女にとって得策ではないという訳だ」
 レオンは「そして、バダンデール家はアーベントロート家のそれとない助力打診を断っている」と続けた。
「……おかしな話だな。それだけ好意的なアーベントロートの言葉を断って……
 このローレットに暴動関係の依頼を投げてきた……?」
 クリスチアン・バダンデールが特别な人物である事は有名だ。
 かの天才は合理的であり、柔軟であり、非常に魅力的な人物であると聞く。
 そんな彼がこんな意味不明の状況を作り出すとは普通ならば考えられない。
 いや、それ以前に『クリスチアン・バダンデールが暴動を起こされる事自体が不自然だ』。
「……依頼人はクリスチアンだが、事の次第はその依頼内容が教えてくれるよ」
「と、言うと?」
「依頼内容は『ゲームをクリアする事』だ。
 ゲームの内容は暴徒だらけの街を切り抜け、自分に屋敷に到達し、顛末を聞く事。
 勘のいいオマエ達ならもう分かるんじゃないか? つまり――」
「――暴動を起こし、コントロールしているのはクリスチアン本人?」
 何故そんな事を、と問う前にイレギュラーズは直感的にその答えに行き着いた。
 言葉にした瞬間に何とも言えない、背筋の寒くなるような悪意が垣間見えた。
「ヒトは理で動く。金で動く。情で動く。
 サリューの混乱をどんな手段で引き起こしたのかは知らないがね。
 あれだけの信望を持つ、あれだけの天才がその気になれば災害を起こす事も容易いと。
 ゲームと称している位だ。あんまり善良な意図は無かろうね」
 レオンはイレギュラーズに念を押す。
「依頼は以上だ。全く雲を掴むような依頼だが……それだけに気になる話でもある。
 一先ずローレットのオーダーは『彼の依頼をこなす事』だ。
 ……まぁ、クリスチアンがどんな心算で事件を起こしたかは知らんが、仮にどんな話を聞いたとしても、彼自身に手出しするのは辞めておけ」
「政治的理由か?」
「それもある」
 レオンは最後にこう言った。
「それから、彼には大金で雇った護衛がついている。
 本人は『天才程度相応に』剣を使うらしいが、ソイツがそれ以上の問題だ」

GMコメント

 YAMIDEITEIです。
 EXシナリオという事で、PPPちゃん初運用ですね。
 EXシナリオは参加費が50RC高く、字数が結構多い(最低8000以上)です。
 以下詳細。

●依頼達成条件
・クリスチアン・バダンデールの元へ出来るだけ早く辿り着く

※ゲームと称している事から『タイム』が重要な評価項目であると思われています。

●サリュー
 幻想北部アーベントロート家の勢力圏にある商人の街。
 中規模以上の街で、幻想では例外的に良好な治世と経済状態を誇っていました。
 バダンデール家が莫大な献金の結果、半ば自治を許されている街であり、アーベントロート家はサリューに踏み込む事に対してかなり慎重です。
 クリスチアンの屋敷はサリューの中心部に存在します。
 到達するには街中のかなりの距離を移動する必要があります。
 主な手段としては以下の何れかが考えられます。

・大通りを突っ切る(時間的には早く注目は集めやすい。危険)
・裏通りを細かく行く(時間的にロスしますが。多少安全)
・その他イレギュラーズ的に可能な画期的手段

 現在の状況で『バダンデール邸を目指す怪しい奴』は超危険。
 見つかった時点で完全に優先排除対象。
 蜂の巣にされかねないので空を行くのはオススメしません。
 大雑把な位置感は分かりますが、詳細な地図等はありません。
 急行を要請されているので事前に調査する系のプレイングも無効とします。

●暴動状態
 サリューの街は現在全域が酷い暴動状態です。
 血の気の多い若者、傭兵、武装した私兵等が『自分達の味方以外は敵』という興奮状態で内戦状態に陥っています。イレギュラーズであろうと見つかれば敵扱いです。
 突破する方法は指定されていませんが彼等の一部を殺す等して強く刺激してしまえば、徹底的な敵視を受ける可能性があります。相対した時の実力は玉石混交ですが、弱い者も居れば現在レベルのイレギュラーズより強い者も居ます。何より半端ではない多勢に無勢なので、上手く切り抜ける必要があるでしょう。

●クリスチアン・バダンデール
 サリューの王。バダンデール家の現当主。
 天才と名高い商人であり、政治家です。大抵なんでも上手く出来ます。
 人望に厚く、性格も良いとされる人物で悪い噂は一切ありません。
 今回、何故こんな依頼を出したのかは一切不明です。

●死牡丹梅泉
 和装を纏った長い黒髪の剣士。
 常に左目を閉じており、右手で刀を構えます。
 クリスチアンの護衛で、戦う必要はありません。
 レオン曰く「と、言うより戦うな」。

●Danger!
 当シナリオはパンドラ残量に関わらず死亡判定が発生する可能性があります。
 予めご了承の上、ご参加をお願いいたします。

 情報精度はC-です。
 依頼をクリアするだけならば、超難関という訳ではありません。
 危険度も然りですが、不測の事態は起き得ます。
 以上、宜しければご参加下さいませ。

  • クリスチアン・バダンデールの愉快な遊戯Lv:3以上完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月14日 22時45分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

スウェン・アルバート(p3p000005)
最速願望
ジュア(p3p000024)
砂の仔
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
アレフ(p3p000794)
純なる気配
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)
イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)
世界の広さを識る者
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
ニル=エルサリス(p3p002400)
玉藻前 久右衛門 佳月(p3p002860)
双刀の朧月
シルヴァーナ・バルタン(p3p004614)
宇宙忍者

リプレイ

●stageI
 その場所が平静を失っているのは遠目にも明らか過ぎる程に明らかだった。
「犠牲者の、乱心……嗚呼、よくある事だ。
 だが、妙な噂が、たち始めた依頼の……依頼の増加、豹変、する人々。
 一つ、一つは、偶然、呼べる、だろう。だが同時に重なれば、事象は、必然と――然らば、原因が。どこかに」
「サーカスの件と関係あるかッスよね。たぶん重要なのは」
 何処か茫とした調子の石動 グヴァラ 凱(p3p001051)の言葉に『最速願望』スウェン・アルバート(p3p000005)が応じた。
 恐らくは――その冠言葉を外す事はきっと未だ誰にも不可能だ。
 あくまで推量形の域を出ない疑念に過ぎないのは事実だが、あの『幻想楽団』の封切りを切っ掛けにレガド・イルシオンを取り巻く情勢は大幅な変化を迎えていた。あくまでゆっくりと枯死していくような有様だったこの国は――まるで燃え上がっているかのようだ。
 迎える結末が大差なくとも、その急激な加速振りはやはり異常の一言としか表現出来ないものになる。
「酷い状態……皆冷静さを失ってる」
『遠き光』ルアナ・テルフォード(p3p000291)の視界に映る街の姿は『幻想で最も安定した都市』なる評判を有していた商人の街サリューとは思えないものだった。街中に怒号と悲鳴が響き渡り、そこかしこで黒煙が上がっている。殺気立った者同士の小競り合いは街の内外で頻発しており、まさにその風情は暴動と内乱に揺れる最悪の状況と呼ぶに相応しいものとなっている。
「実際の所、これってどういう事なんだろうね」
『砂の仔』ジュア(p3p000024)は燎原を征く烈火のような狂乱に思わず複雑な表情を浮かべていた。
 この商都サリューの動乱は公的には単なる暴動の勃発とされている。
 しかしながら、アーベントロート家の後ろ盾を持ち、自身も高名な政治家として名を馳せるクリスチアン・バダンデールが内乱を制御出来なかったという事実は、幻想市民の多くに、そしてローレットにも驚きをもって受け止められていた。その謎に満ちた不自然な一部始終の『原因』たるものを掴まんとこの場にやって来たのが十人のイレギュラーズ達である。
「うむ! このような舞台を作るとは剛毅であるな!
 どれ、ここは一つその天才商人とやらの顔を見に行ってやらねば!」
 幾ばくか美少女的な(ピントのずれた)感心の仕方をした『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)の言う通り、
「成る程、ゲームか。面白い。実に面白い。
 それにクリスチアン・バダンデール……こうなれば、いよいよ彼にも興味が有る。
 商人の端くれとして、その名前は聞いているからね――」
 商業知識を持つが故か、声の端々に強い好奇心を滲ませた『商店街リザレクション』イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)の言う通り。
 ヒントは予想外の所からやって来たのだ。
「賭け金は幾らからかな? 彼の望むものを賭けようじゃないか」
 百合子とイシュトカ――二人が言葉を変えて同様に指すのは、このサリューの王であり、本件の『依頼人』であるクリスチアン・バダンデール当人の事である。もし、この依頼が『暴動を鎮圧する協力をして欲しい』であったならば、後盾のアーベントロート家を差し置いてローレットに依頼を出す不自然こそあれど、事態を複雑にする余地は無かったかも知れない。しかし、今日この街にイレギュラーズ達を赴かせたクリスチアンの依頼はと言えば。

 ――ゲームをクリアする事――

 ……である。
「ゲーム……なんて表現で、ローレットの実力を試しているのかな……」
「まぁ、何とも言えん所やねぇ……あんまり、気持ちのいい話にはならんかも知れんけど」
 愛らしい表情を曇らせたルアナに、頬を掻く仕草をした『双刀の朧月』玉藻前 久右衛門 佳月(p3p002860)の調子も何とも曖昧なものになる。
「……これをゲームと称するか。
 例のサーカスの一件から幻想という国の歯車が狂い出し始めている。我々に対処出来る範囲で収まれば良いが、な」
『堕ちた光』アレフ(p3p000794)の懸念――この人為的な災害が件のサーカスと関連を持つのかも結論は無い。
 だが、この局面で『ゲーム』なる悪趣味極まる表現が何を指すかは言うまでもないだろう。
 暴動は、ゲームであるからには障害が必要だろう、と言わんばかりに設えられたもの……という事になるのだろう。
 イレギュラーズはこの狂乱の街を突っ切ってクリア条件であるバダンデール邸への到達を目指さなければならない。
 クリスチアンの意図は全く不明であるが、その悪意めいた物言いからローレットは今回の暴動の根源が彼本人にある、と睨んでいた。
「不測の事態は間違いなく起こり得る。各々くれぐれも油断は無いようにお願いしたい」
「……ま、どんな理由があってこんなエクストリーム徒競走を開催したのかは知らんでござるがな」
 至極冷静に言葉を紡ぐアレフと対照的に「折角なら好タイムを狙いたいでござるな」と嘯く『宇宙忍者』シルヴァーナ・バルタン(p3p004614)は中々どうして不敵な表情を浮かべている。
 安定した自領(と言うべき)サリューと自身の名声に傷を付けて彼が何を得るかは余人にはまだ分からない。
 ……五里霧中の展開だが、この依頼はむしろそれを知るという意味でも意義を持つと言えるだろうか。
「――兎に角、頑張るんだお!」
 下手に考えても思考の罠にさえ嵌められそうな状況である。ニル=エルサリス(p3p002400)の言葉に面々は頷き、超えるべき目の前のステージに視線を送った。街の外れならば衝突も少なかろうが、中心部に近付けばそうはいくまい。パーティは緻密に用意した作戦を可能な限り理想的に遂行する必要がある。手段は問わず、使えるものは少しでも使って――兎に角手早く、目指すはバダンデール邸である。
「タイム勝負? スピード命? 自分が走らないで誰が走るんスか!!!」
 どれだけ碌でもない予感のする話でも、人には譲れない矜持がある。
「『走ること』に関しては誰にも負けない自負があるッス!!
 力や体力が衰えようとも自分が培ってきた知識や経験に嘘はないッスから。
 パルクールよろしく、街中を走ることも、やりとげて見せるッス!」
 クリスチアンがタイムを口にした時点で、スウェンにとっては――これは単なる自身への挑戦に違いない!

●stageII
 暴動の商都サリューは狂乱状態にあり、かつ非常に外敵に敏感な状態となっているという。
 イレギュラーズ達がバダンデール邸到達の為に取り得るルートは主に三つだ。
 第一にリスクを承知で表通りを突っ切る最短ルートを取るというもの。イシュトカが胡乱ながら持ち合わせたこのサリューに関する知識に照らし合わせた部分も含めて、街の名士であり、事実上の統治者であるバダンデール邸には間違いなくメインストリートに繋がっていると考えるのが自然であり、細かな位置関係を掴まなくても必然的に辿り着けるというメリットもある。
 第二にはリスクを避け、裏通りを細かく経由する方法が挙げられる。表通りを吶喊するに比べ、敵性勢力に出会う可能性が幾らかは減じ、無駄な会敵を減らす効果が期待出来る。反面、幾らかタイムを犠牲にする事になるだろうが――必要範囲内か。
 第三はイレギュラーズがイレギュラーズであるが故に取り得る特殊な道程である。ギフトやスキルを含め、多くの異能に恵まれるイレギュラーズは高い達成能力を持つ遂行者でもある。その能力を発揮し、複合する事でより良い道を探そう、という動き方。
(臆病と呼ばれようと、戦闘状況におけるロスほどバカにならないものもないッスからね――)
 走る事を至上とするスウェンに言わせれば今回の作戦における戦闘はまさに蛇足である。
 彼だけではなく、極力戦いを避ける事をコンセンサスに置いたパーティは、結論として事前の緻密な打ち合わせで今回戦力を【裏通り組】と【屋根家屋透過組】の二つに分ける事に決めていた。
「隠密行動は得意ではないが、やれる事は確りやらねばな」
 足場の不利を打ち消すガド・グヴァラ・ギグ(ギフト)を身に纏い凱が呟く。
「まやかしの力、されど形は……世界は妙な物を与えたものだ。気休めでも移動の補助位にはなるだろう」
「大通りから繋がる方向や建物の密度は記憶しておかねば。裏通りに入ってしまえば、真っすぐに進めるとも限らないのだから」
 本格的に何かが始まれば、観察の時間も限られる。イシュトカの視線が油断無く街中を捉えていた。
【裏通り組】は裏道からバダンデール邸を目指すスウェン、ルアナ、アレフ、凱、イシュトカ、百合子、ニルで構成。【屋根家屋透過組】は残るジュア、佳月、シルヴァーナで構成される。特に後者はその名の通り全員が物質透過の能力を持つ事から『敵を撒く』という部分に能力を発揮しやすいだろう。
 裏通り組は裏通りに潜伏しながら細かく距離を刻み、屋根家屋透過組は大胆さと異能を組み合わせ、極力短い移動で目的地を目指す寸法だ。
 二つのチームを繋ぐのは佳月の生み出した分身――九幻月(ギフト)である。戦闘能力こそ無いが意識を一に出来る上、撹乱目的でも使用出来る本作戦の鬼札とも言える存在だ。ギフトの『反動』とも言うべきデメリットが生じた際にはジュアがフォローする事を決めており、対策も済んでいる。
「予め大ざっぱなポイントが分かるってことで……あとはメインストリートがどう延びているかっスね」
「お屋敷に通じる案内とか人の流れとか――ゴールにつながるものがあればいいんだけど」
「互いに、健闘を祈ろう――」
 スウェンに応じたルアナが持ち前の超視力でお目当てを探す一方で、超聴力をもって雑踏や気配から敵の規模、位置を把握せんとするアレフも居る。
 程無く、別れる前に最低限の情報を共有した二チームは、『タイムアタック』めいた街へと進行を開始する事になる。
「では、行くとしよう!」
 埃避けの外套を纏った百合子が気炎を上げる。
 その声に頷き、裏通り組は街の外れから短く表通りを経て、裏路地へと飛び込んだ。
 この先は別れての作戦になる。どちらが明確な本命という事は無いが、結果的に求めるは同じ。
 一刻も早くバダンデール邸に誰かの手を届かせる――それ一点のみである。
「まずはそこからや――」
 動き出した裏通り組に続く、一方の屋根家屋透過組は、佳月の声に従って手近な建物の壁へ吸い込まれていく。
 民家に侵入した屋根家屋透過組の動きは非常に大胆にも見えるが、その実かなり堅実な準備に裏打ちされている。
 佳月のオッドアイは秘匿された壁の向こうの情報を見通す魔眼である。透視の眼と物質透過を併せ持つこのチームは『予め行く先に人が居ない事を確認してから』侵入する事が可能なのだ。そして無人の民家の中を行く間は外から誰かに補足される事も無い。非常に合理的な動きである。
「次やけん!」
 一つ目の民家を突き抜け、二つ目の民家へ突入する。
 我が身を隠しながら最短距離を貫こうとする此方のチームはまずは順調に滑り出したと言えるだろう。
 屋内の人の有無により多少の動き方を変える必要はあるが、そこが空である限り、咄嗟の避難所にも使う事が出来るのだからこれは大きい。
「明らかに遠回りのルートを取られて、捕まる程間抜けではござらんからな」
 仮に追手がかかったとしても、大回りでドアを目指さねばならない敵に三人を捉える事は中々難しかろう。
 特に『宇宙忍者』たる本領(?)を発揮したシルヴァーナはリピートサウンドによる情報撹乱も用意しているのだから用意は周到だ。
 これみよがしに偽の動きを『聞かせて』その逆のルートを取れば、変幻自在の三人を捉えるのは困難を通り越して至難である。
 とは、言えだ。
(早い内に出来るだけ距離を稼がないといけないからね――)
 ジュアの考えもまた道理である。
 少数の敵に狙われたとしても三人ならば戦わずに切り抜けられる。
 しかし、多数から包囲網を受けてしまえば話は別だ。民家に逃げ込んだとて、周りを完全に封鎖されてしまえば打つ手は無いのだ。
 興奮状態の暴徒がそこまで頭を回すかは分からないが、有能な指揮官の一人でも紛れていれば事態は途端に厄介になる。
 つまる所重要なのは、敵が本腰を入れて対策を打ってくる前に――初見殺しの内に、目的地に辿り着かなければならないという事。
 民家も屋根も壁も障害物も全てを使って、大胆に、慎重に――である。
 一方で仕事が山積みになっているのは裏通り組も同じであった。
『どちらが本命という訳ではない』と先述はしたが、裏通り組はその人数の多さも相俟ってこの作戦を遂行するに当たり有意義となる幾つかの作戦を行動の中に組み込んでいた。元より全員の到達は望んでおらず、戦わない事、無理をし過ぎない事は共通認識で同じだが、此方はよりサポート的な動きも意識している。
 出来れば己も辿り着きたいが、不可能ならば仲間を先へ進ませる。
 強烈な目的意識と自己犠牲のメンタリティを備えるこのチームは即席ながら中々良い連携感を持ち合わせていた。
 幾度と無く確認した手筈をもう一度だけ確認した裏通り班は暴動の爪痕残る裏通りを駆け抜ける。
 先頭を行くのはスウェンであり、後方からルアナ、ニル等が続いている。
 想定していた通り、激しい争いの音が響く表通りに比べ、この裏通りはマークが緩いようでもあった。
「何だお前等は――」
「――問答無用。拳語りにて罷り通る!」
 或る世界線で街角でパンをくわえた美少女と正面衝突する運命があるならば、美少女の鉄拳と正面衝突する事もあるのだろう。
 散発的に現れた暴徒の一人も『美少女的に礼を尽くした』白百合清楚殺戮拳、
「悪いな。制圧させて貰った」
 更に続いた凱のコンビネーションの一撃にあっさりと沈黙し、その動きを失っている。
 複数の暴徒に絡まれる事、強敵らしき姿もあったが、これは逃げの一手である。
「――クハ、誠に無念なれど、本日ばかりは失礼仕る!」
 相手が強ければ強いほど燃ゆるのが美少女の習性ではあるのだが、百合子は鋼の精神力でこの渇望を抑え込む。
 自分で何を書いているか多少迷子になっている気もするが――生徒会長が生徒会長に足る所以は心技体の究極が故であらん。

●stageIII
「追え、逃がすな!」
「あっちへ行ったぞ――!」
 怒号と悲鳴が交錯する。
(誰か一人でもたどり着けたらいい。ルアナがだめでも、誰かが)
 ルアナの意志は強い。
 暴徒側も確かな目的を持っていたが、徹底的に彼等の相手をしないと決めてかかったパーティの進行は混乱の見られる暴徒側に対してより強い規律があった。
 結果として突破を許した彼等も、パーティを看過する心算は無いのだが、彼等にとってもこの街中は戦場である。
 自由な動きを取るにも限度があり、追撃も必ずしも上手くいくとは言えない所である。
 ルアナの導きに従い、裏路地の進撃を進めたパーティだが、アレフの鋭敏な聴覚は有り難い情報もそうでない情報も良く拾う。

 ――連中何処へ行った!?

 ――何者かは知らんが、只者じゃねえぞ!

 ――何を狙ってる? この先は……

 ――クリスチアン様のお屋敷だ! まさか『また』暗殺者……!?

 ――急げ、守りを固めろ。特にお屋敷の周りには誰も近付けさせるな。

「計算通りだが……些か厳しくなってきたな」
 アレフが苦笑した。敵側も正体不明の『敵勢力』への警戒を強めているようであった。
 同時に彼の頭脳は断片的に聞き及んだ情報を賢しくもそれ以上のモノへと昇華せしめる。
(……成る程な。概ねクリスチアンの仕掛けが見えてきた……といった所か)
 彼が聞き及んだのは複数勢力からの似たようなやり取りである。そして『また』暗殺者。
 街中で争う暴徒同士がクリスチアンに敬称を付け、尚且つ彼の安否を案じている状況、合わせて結論付けられるのは一つである。
「……どうも、彼は自分自身を餌にして暴動を引き起こしたらしいな」
 推測が交じるが、筋は見える。
 クリスチアンを主と仰ぐ複数の勢力それぞれにクリスチアンが相手側の手によって暗殺者を差し向けられたという情報を発する。
 クリスチアンという絶対者に心酔し、しかしその下では主導権争いを繰り広げる勢力は当然ながら相手方に激怒し、態度を硬化させた事だろう。
 それだけで暴動、内乱には至るまいが、互いの勢力にクリスチアンの手の者がそれらしい情報を囁いたらば話は別である。
 あっという間に事態は収拾を失い、彼等はクリスチアンという王を抱いたまま、無軌道な戦いを引き起こした――こんな所ではあるまいか。
「……いくらなんでも、こんなのって……」
 できれば暴動が沈静化したらいい――そう思っていたルアナが唇を強く噛んだ。
 恐らくはこのサリューに大きな不和も大きな悪も無かったのだ。対立する勢力、大商人や地主、私兵団体、ギルド、エトセトラ――そういった連中は居るには居たのだろうが、それは決して破滅的なものでは無かった筈だ。彼等は何れもクリスチアンに心酔し、彼を信用していた事だろう。つまりそれは翻って、『このゲームは、クリスチアン・バダンデールが悪意を為さんと考えなかったならば絶対に起きなかったであろう状況である』。
「怪しい奴は何処だ!?」
「お屋敷を守れ」
「殺せ」
「殺せ、殺せ、殺せ――」
 何せ暴動を起こしている連中は多少の政治こそ絡みはすれど、大本を正せば、一様にクリスチアンを狙った不逞の輩を憎んでいるだけなのだから。
 種火にもならない燻りを強引に燃やしたのは、明確な悪意に違いない。
「だが、これは有意義な情報だね」
「そろそろ警戒も厳しくなってきたし――頃合なんだお」
 冷静なイシュトカが言葉を発したニルに何やらを言い含めた。
 中心部に近付く程に厳しくなるであろうと推測された事態をパーティは最初から予見していたのだ。
 発火を火種にした松明を手にしたニルが、ルアナが来た道を少し引き返し、手近な建物に火を掛けた。空へ上る黒煙は否が応無く暴徒達の注目を集めるだろう。残る面々は彼女等に構わず先に進むが、これを見つけた暴徒達に偽の情報を流布すれば俄然安全マージンが稼ぎやすくなるのは言うまでもない。
(後は――任せるお。しっかり頼むんだお!)
 暴徒達に偽の情報を掴ませるのは口八丁手八丁が必要だが、幸いにこのニルとルアナの外見は警戒を受け難い少女のものである。
 同時に場を煽り立て、誘導するニルの扇動技術はこの場でこそ生きるもの。
「おい、この火は何だ!?」
「ルアナ、おかーさんとはぐれて……」
「ここに火をつけた人があっちに向かっていったよ。なんかブツブツ言ってて不気味で……」
「……お前らは……」
 暴徒が疑念を向けるよりも早く、ニルは巧い布石を打つ。
「その人達、『クリスチアン様を殺す』って言ってて……頼りになりそうな人が来るまで隠れてたの……」
 クリスチアンへの言及はアレフが察知推測し、イシュトカがアシストしたニルのファインプレーになる。
 敵の勘所を的確に抉らんとする辺り、イシュトカもかなりいい性格をしているが、ニルもなかなかどうして役者であった。
 ニル等が稼いだ時間を他の仲間達は大いに活かした。
 街の中心部付近まで到達した屋根家屋透過組は屋根から目を凝らし、恐らくはバダンテール邸であろう建物に目星をつけている。
「だから、あの屋敷の周りには暴徒が居ないねんなあ」
「その辺りの事も含めて、色々聞きたい事はあるよね」
 アレフの得た情報を分身から共有した佳月、ジュアはそんな風に呟いた。
 クリスチアンの身を案じる複数の勢力がお互いを下手人と思っているならば『そこ』が暴徒の空隙地帯になるのは当然だ。
 お互いがお互いをバダンデール邸周辺に近付けまいと牽制を繰り返しているのだろう。
 当然ながら台風の目と化したその場所は兎も角、その周辺は最激戦地域となっているのだが――
「中々上手い具合に撹乱してきたと思ったでござるが、いよいよこの先が正念場でござるな」
 もう何回も本人曰くの『パターンに嵌めた』シルヴァーナだが、気を引き締め直した。
 暴徒の力量は様々だが、その数はパーティに数倍する。一度飲み込まれてしまえば防ぎようもない勢いを持つのだから油断は出来ない。
 分身の出し入れでここまでの突破でかなり仕事を果たしている佳月も、消耗がかなり重い。
 細心の注意を払いながら一つの意識で複数の体を動かすのは戦闘以上に骨が折れる部分もあった。
「今のジュアは伝令役だからね。依頼人サマの言葉をしっかりと聞きに行くとしようじゃないか――」
 狂乱のサリューの攻略に力を尽くすのは両チームとも同じである。
 ルートこそ異なるが、裏通り組の工作は屋根家屋透過組を助け、屋根家屋透過組の神出鬼没、トリッキーな進行は数の多い裏通り組への警戒を散らしている。
 両チームの動きと相乗効果で『ゲーム』攻略はいよいよ佳境に差し掛からんとしていた。
「……そうだな……一番豪奢で目立つアレが間違いない当たりだろう」
 目的地は特に背の高い巨大な建物である。数ブロック先からでも存在感を示すゴールに凱が呟く。
 敵影は多く、引き剥がそうにもこの先は一筋縄ではいかない所だ。
 戦いは極力避けるという方針の上で難局をクリア出来る方法は限られていた。
「では……今度は俺が任された」
 仲間にそう告げた凱はやおら反転し、目的地と別の方向に向けて走り出した。
 凱の意図を理解する裏路地チームの仲間は彼の動きに身を隠し、その時を待っていた。
 十分な距離を開けた 凱は強く息を吸い込み、周辺に向けて爆発的な音量を吐き出した。

 お、れ、は、こ、こ、だ――!

 言葉は大した意味を持たない非常に単純なメッセージだが、爆発的な音量(スピーカーボム)は最も原始的に周辺の注意を集めるに適していた。
 バダンデール邸から程近い場所で放たれた確かな存在感に邸宅近辺の暴徒の意識は強烈に引き付けられた。
 そして、音による仕掛けが凱の仕掛けならば、視覚に訴えかけんとしたのはアレフだった。
 凱と同様に、そして彼とは別の方向に駆け出したアレフは全ての仕上げにその両手を天空へと突き上げた。
 その身を魔力が駆け巡り、マジックガントレットが輝きを増す。
「バダンデールよ、これが私なりの挨拶とさせて貰おうか――」
 形の良い薄い唇で届かない挑戦の言葉を吐き出した彼は、空に向けて魔砲の一撃を撃ち放った。
 全ては最後の難関を突破せんが為。
 生み出された僅かな警戒の空隙を攻めるのは残されたイレギュラーズ。
「最後は多少の強行突破になるかな」
「うむ、是非もなし。最早、振り返らぬ。吾は最後の道程を唯全力で駆け抜けるまで!」
 イシュトカの言葉に百合子が頷く。そう、彼女の流儀は元々そちらにこそ近いのだ。
「負けないッスよ。自分こそが一番でゴールするつもりで行くッス!!!」
 力強く宣言したスウェンの気合に脚部のローラーが唸りを上げた。
 弾かれたように飛び出した裏通りチーム、最後の距離を一気に抜けんとする屋根家屋透過チームの双方が唯一人でも駆け抜けろとゴールを目指す――!

●stageIV
 バダンデール邸の周辺は混乱に満ちたサリューの現状とは異なり、奇妙なまでの静けさに満ちていた。
 いざその区画へ飛び込んでしまえば、恐ろしい程に渦巻いていた狂気と怒りは何処にも無く。
 屋敷の様相はまるで平常を保ったままだった。
「やあ、ゲーム・クリアおめでとう」
 屋敷に侵入した――といっても正門から堂々と入場したのだが――イレギュラーズを案内したのは老執事だった。
 彼の導きのままに歩を進めたイレギュラーズを応接室で迎えたのは満面の笑みを浮かべたクリスチアン・バダンデールである。
「歓迎してくれるならもう少し来やすい雰囲気を作って欲しい所でござったな」
「いやいや、これも或る種の歓迎だろう? 街を挙げてのイベントを開催するなんて『暗殺令嬢』を迎えても中々無い」
 シルヴァーナの皮肉にも動じる事はなく、まるで舞台上の俳優の所作のように何処か芝居がかったクリスチアンには余裕があった。
「好スコアにはボーナスの一つも欲しい所ッスね?」
「ゲームはクリア、と。所で――誰かタイムは取ってたでござるか?」
 スウェン、シルヴァーナは冗句めいていながらも応接室の隅々に視線を配っていた。
 否が応無くイレギュラーズの注目を引くのは室内にあるクリスチアンとは別の――異常な存在感。
 和装に身を包み佇む黒髪の剣士――恐らくは護衛の死牡丹梅泉その人である。
(これは、まだ――油断は、出来んわ――)
 走ったからだけではない。部屋に踏み込んだ瞬間、汗は引き――喉はカラカラに乾いていた。
 イレギュラーズをもってしても異常としか表現の仕様のないプレッシャーは無言の彼から放たれるものだ。
 片目を閉じ、口元を一文字に引き締めた彼は抜刀は愚か口を開いてすらいないのに、その有様だった。
「……雇い主殿」
 梅泉の低い声が響く。
「何か?」とにこやかに応じたクリスチアンに梅泉は続ける。
「約定では『この屋敷に侵入した者はわしに任せる』じゃったな?」
「ああ、勿論。同時に君からは『全て斬る』と聞かされてもいたけどね」
「成る程、確かに抜け目ない。噂の天才商人のやり口だ」
 イシュトカが思わず苦笑する。
 成る程、『護衛』の解釈次第でそういう話も成り立たない訳では無い。
 それが真っ当な商人のやり方かどうかはさて置いて――ではあるが。
 やり手の商人と詐欺師は表裏一体の部分を持つ。
「掛け金(チップ)は最初から我々だったという事か」
「――お預け所か、そういう話であったか! レオン殿もこれでは責めもすまいな!」
 イシュトカに言葉に百合子が笑った。花が開くかのように。
「さて、一仕事と参るか。一宿一飯の恩――余録はこの戦いに求むる事としよう」
「――――」
 イレギュラーズの間に強烈な緊張感が走る。
 百合子等は半ば嬉々として構えを取り、面々は咄嗟の事ながら戦闘態勢を整えた。
 勝てるかどうかではない。やらねば死ぬしか無いのなら、元より結論は一つである。
「高名な邪剣の冴え、見せて貰う事としよう!」
 運命を穿ち、勝ち抜け。死線を超えよ――
 禍々しいまでの殺気は荒れ狂う暴風の如く、場の空気を完全に制圧していた。
 そして。右手で抜刀した梅泉は表情を厳しくしたイレギュラーズの顔を一つずつ眺め回し、それから思い切り吹き出した。
「――の、心算だったのじゃがな。気が変わった」
「珍しいね、君が方針を変えるなんて」
 雲散霧消する殺気にクリスチアンが無責任な合いの手を入れると梅泉は当然と言わんばかりにこう言った。
「主が、あんなもの見せるからじゃ。
『遠見の何某』じゃったか。面妖な妖術の類には興味がないが、なかなかどうして。
 面白い連中であったわ。それを、こんな――まるで青く、堅い内に斬(か)るのは牛飲馬食が過ぎる。それこそ、物の道理も理解せぬ、身命の毒というものよ」
 ソファにどっかと腰を下ろした梅泉はクリスチアンの命令を聞く心算も無いらしい。
「まぁ――大した『挨拶』じゃったぞ」
 イレギュラーズのアドベンチャーは梅泉にとって合格点だったらしい。
 クリスチアンは「だ、そうだ」と大して面白くもなさそうに肩を竦め、イレギュラーズに水を向ける。
「渾身のサプライズだったが、我儘気ままなバイセンは全然やる気が無いらしい。
 折角だから当家自慢のお茶の一つも呑んでいきたまえよ。何、毒等入れないさ」
 クリスチアンが机のベルを鳴らすとメイド服を着た少女が給仕を始めていた。
 その手際の良さからして最初から半分位はこうなる事を見越していたのかも知れない。
「……どうして……」
「ん……?」
 ジュアは笑顔のクリスチアンに問いかける。
「どうして、こんな事を?」
「商人にあるまじき損しかない行動だと?
 それ以上に君達が気にするのは倫理だろうか」
 その問いは誰しもが持ち、当然のように思い浮かぶ最大の疑問だった。
 クリスチアンは狂気に染まった様子はない。極々理性的で、元の彼と(恐らくは)大差無いままにこの場にあるように見えた。
「成る程。確かに尤もな疑問だ。それを聞きたくてこの場に来た――
 いや、違うな。それを聞かせたくてこの場に招待したと言わなければ嘘になる。
 つまり、私はね。試してみたくなっただけなのだよ。
 父祖代々受け継いだこのサリューを守り、発展させる。一応は使命と思っていたし、やり甲斐が無かった訳でもない。
 だがね。ずっと燻っていた。私は知りたかったのだ。
 退屈な事業以上に、『バダンデール家ならぬ、このクリスチアン・バダンデール自身が何を為せるか自体をね!』」
「まぁ、ただの実験だよ」という響きは恐ろしく冷然と響いていた。
 前言を撤回すべきかも知れない。クリスチアン・バダンデールは冷静を保ったまま歪な情熱に揺れているのだ。
 天才の笑みは不吉に、あくまで仄黒く――

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 多少の齟齬はありましたが、概ね完璧ではないでしょうか。
 脱落者を意図的に用意しつつ、難関難局を超えるムーヴは実に有機的な連携かと。

『梅泉がやる気が無くなる位に』頑張ったので大成功にしておきます。

 シナリオ、お疲れ様でした。

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