PandoraPartyProject

シナリオ詳細

吸血鬼、日向に咲く

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●吸血鬼、日向に咲く
 古びた屋敷のお膝元、真夜中の静かな庭園は四季の移ろいに合わせて化粧する。
 秋は落ち葉が赤く染め、冬は白銀の雪が降り積もり。春が来ると色とりどりの花が咲き乱れーー。

 最期に、夏へ巡り来る。
「今年はまた一段と背が高くなったなァ!」
 背比べをしながら感心したような声を漏らしたのは、『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)だ。
 彼がこの庭のフィナーレを夏と定めたのには理由がある。

 目を見張るほどの黄色い絨毯。
 庭の主は数多の花を愛でる中で、特に向日葵を愛している。

「吸血鬼は陽の光にさえ見放された怪物だ。どんなに望んでも、太陽の下に出ていく事は叶わない。
 けれど彼等は私の代わりに、いつでも光のある方を向いてーー元気を分けてくれるから」

 それが彼の口癖だった。

 今年もすくすくと育った向日葵は、太陽との出会いを今か今かと待ち望むように、花開く前からしゃんと上を向いている。
「去年よりも立派なんじゃないか?」
「嗚呼。最期だからね。今年は惜しみなく肥料を使ったんだ」
 唐突に突き付けられた『最期』という言葉に、赤斗は動揺を隠せない。
「引っ越しするなら早く言っておいてくれよ。異世界へ渡る力を持ってるって言ったって、簡単にどこでも移動ができる訳じゃないんだからな」
「私はどこへも行かないよ。この庭は譲り受けた大切なものなんだ」
「だったら……」
「近いうちに、近隣の村からヴァンパイアハンターが私を狩りにやって来る」

 ざわ、と風が向日葵を撫でた。

「趣味の悪い冗談はよせ。お前ほど魔力がすっからかんの吸血鬼なんて他の世界でも見た事ないぞ!
 渇きに耐えて人間を襲ってないからだ。なのにどうして……」
「いま被害がないからといって、隣に爆弾を抱えたまま健やかに暮らせるほど、人は強くないんだよ」
「だからって、お前が譲る事ないじゃないか!」
「彼等の気持ちも分かるんだ。私は人から吸血鬼になった身だからね」

 人ならざる者へ堕ちた。その絶望を抱えて落ち延びた先で、
 素敵な老夫婦に愛を注がれ、屋敷とこの庭を譲り受け。
 長い人生の終焉は、この場所でとも決めていた。

●赤信号を踏み切って
 あれから時は過ぎ、いよいよ"運命の日"がやってきた。
 向日葵の開花がはじまるこの時期をヴァンパイアハンターが選んだのは、せめてもの情けなのかもしれない。

「大切な仕事を任せたい」
 集った特異運命座標を見回した後、赤斗は一度だけ考え込むように目を閉じた。
 友人から頼まれた依頼はこうだ。
"私が討伐された後、灰になったら……あの庭に撒いてくれないか?"
 言われた通りに事を成せば、全て丸く収まるだろう。これはエゴだと後ろめたさを感じならも、赤斗は告げる。

「吸血鬼の友人が、今宵ヴァンパイアハンターに襲われる。どうか彼を助けてくれないだろうか。
 守るのは彼だけじゃない。彼の住むお屋敷の大切な庭もだ。……出来るか?」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 夏はもう少し後だけど、季節ネタって先手必勝ですよね! 先行しないと被るもの!

●目標
 ヴァンパイアハンターの撃退
 向日葵畑の保護

●場所
 異世界『グラン=ヴァンペール』
  混沌の幻想によく似た景観の平凡な世界。吸血鬼や狼男、おとぎ話の怪物が人間に混じって密かに暮らしています。
  戦闘中のロケーションは遮蔽物の少ない平原。夜ですが月と星明りで視界は良好です。
  お屋敷と、その横に向日葵畑があります。面積はおよそ100m×100mほど。

●登場人物
 吸血鬼エルド
  黒髪の外見年齢20代半ばくらいの線の細い男性。土いじりと読書が趣味。
  争いも人を傷つける事も好まず、村のはずれのお屋敷でひっそりと暮らしています。長い間血を摂取しておらず、魔力は雀の涙。非戦闘員です。

『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)
 エルドの庭の景観が好きで、この異世界に度々立ち寄っていた境界案内人。呼び出されれば備品の用意など、戦闘以外でのサポートを行います。

●エネミー
『ヴァンパイアハンター』ウルド
 村人に雇われたヴァンパイアハンター。20代半ばの屈強な男性。正義感で吸血鬼を倒しているというよりは、殺めても咎められない事に魅力を感じているという危険な思想の男。
 至近・中距離への攻撃技を持ち、BSの【火炎】を付与してくる事があります。

 猟犬×5
  ウルドの魔術によって強化された狂犬達。素早く近づき至近の人間に襲い掛かります。

●その他
 ウルドが屋敷に到着するよりも先に特異運命座標は屋敷を訪れる事ができます。
 また、戦いが終わった後は向日葵の鑑賞を楽しむ事も出来るようです。

説明は以上となります。それでは、よい旅路を!

  • 吸血鬼、日向に咲く完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年05月24日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
ヒナゲシ・リッチモンド(p3p008245)
嗤う陽気な殺戮デュラハン
フーリエ=ゼノバルディア(p3p008339)
超☆宇宙魔王

リプレイ

●摘み取られてしまわないで
「これは一体どういう事だい?」
 馴染みの声がするものだから、迎え入れるべく玄関へと向かってみればーーそこに居たのは見知らぬ4人。エルドは面食らったが、赤斗の姿も見えると、すぐに理解を示した。
「君達が特異運命座標か。最後に君達と会えて光栄だよ」
 思い悩む時期は過ぎたと言わんばかりに、あっさり口にされた"最後"という言葉が『今は休ませて』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)の胸を刺す。
「エルドさん、その事なんですが……僕達は、貴方を説得しに来たんです」
 睦月だけではない。集まった特異運命座標全員が、まず最初に彼を説得するべきだと方針を固めていた。
「あなたがすてきな老夫婦に出会ったように、村の人々とつきあってみませんか?
 人は未知のものほど恐れるのであって、知っているものは案外怖がらないものですから。僕はエルドさんのような方には長生きしてほしいです」
「それは……赤斗に頼まれたから?」
「いいえ、僕の本心です」
 断言する睦月の目は真実の色を帯びていた。彼の肩に腕を乗せ、『嗤う陽気な殺戮デュラハン』ヒナゲシ・リッチモンド(p3p008245)も話題に入り込んで来る。
「HEYHEY! 同じ怪物のよしみで惨状!デュラハン勇者のヒナゲシ・リッチモンドだZE!吸血鬼のエルドくん、夜露死苦ゥ!」
 死語と共にキラッ☆ とポーズをキメて華麗な自己紹介をする彼女。その視線はエルドの腕へと注がれた。
「そんなガリガリに痩せちゃうくらいに吸血衝動……我慢してるだろ? ボクには真似できない事だ、誇っていいよ、エルド君。君は誰が何と言おうと高潔な魂を持つ"人"さ」
 だから討たれるべきではないと彼女は言う。加えてーー窓の方を見れば、そこには一面の素晴らしい向日葵の花畑。
「花を愛でる人に悪い奴は居ないって言うのがボクの持論でね……だから守り通すよ。この向日葵畑に誓ってね♪」

 無辜の吸血鬼を恐怖心故に狩る。よくある話ではあるがーー。
「ま、今回はエルドくんの運が良かったの」
『超☆宇宙魔王』フーリエ=ゼノバルディア(p3p008339)が彼を救う理由は、もっとシンプルな理由だ。
「吸血鬼という種族は余の世界にもおったし、その牙が余と似ててなんとなく親近感を感じるのよな。ちゅーわけで、依頼ということもあるし今回はうぬに味方するのじゃ!」
 ぽかんとエルドがあけた口には、確かに鋭い牙があった。助ける理由は様々だが、誰もが己の意思で助けに来てくれたのだ。三者三葉の説得に口元を綻ばせずにはいられない。
「そうか。私はまだ、生きていいのだな……」
 彼の心が決まったと分かれば、次に起こすべきアクションも4人は決めている。
「向日葵、即ちサンフラワー! わたくしの一番好きな花ですわ!
 そして、わたくしの一番大切な人も、吸血鬼……この依頼、わたくしが解決すべきと心得ましたわー!」
 運命めいた導きのまま『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)が先導し、目指すはエルドの館と村の中間地。向日葵に討伐の手が及ばぬ場所で、敵を迎え撃とうというのである。

●狂える狩猟者
「なんだァ? ありゃ」
 チカチカ、夜道の先に謎の光を見つけてウルドは怪訝そうな顔をする。
(討たれると知って、いよいよ本性を現したか?)
ーー徹底的に潰してやるか。
 ニヤ、と歪な笑みを浮かべて誘いに乗る高慢な狩猟者。その視界に現れたのは、誘導のために発光した睦月を始めとする特異運命座標たち。

 夜風を頬に受けながら、一人の少女が前に出る。
「オーッホッホッホッ! 我が主君エルド様を害するのは何処の身の程知らずですかしら!
 さあ、このわたくし!(指を鳴らしてギフト発動!)」

  \きらめけ!/
  \ぼくらの!/
\\\タント様!///
‪「──‬達、エルド様親衛隊が!けちょんけちょんにしてやりますわー!(パワーフラワーラッシュアワーポーズ!)」
「ぎゃあああーー!」
「おぉ、効いとるのう。護衛対象に」
「エルド様ーー!?」
 エルドの目に彼女の輝きは眩すぎたらしい。
 睦月に治癒符を貼られて一命を取り留めたエルドを見て、フンとウルドが鼻を鳴らす。
「滑稽な奴らめ、のこのこと殺られに来たのかァ?」
「まさか! ボク達は勝つつもりだよ。ただ、戦う前に君に聞いておきたくて」
 陽気に笑いながらヒナゲシは問う。なぜ君は吸血鬼を狩るのかと。
「嗚呼、『正義』とお題目使わずに本心で言ってくれていいよ? この際、ぶちまければいい」
「ハッ! そんなの決まってる。ブチ殺したって面倒な事がねぇ。むしろ感謝されるんだぜ? 止める理由あるかよ」
「ふーん……」
「話は終いじゃ。来るぞ!」
 いり早く動き出した猟犬をフーリエ・キャノンで撃ち抜き、フーリエが開戦を告げる。前衛が足りていると見極めた彼女は、後方から向日葵畑に向かう猟犬を魔王オーラで強打し続けた。その狙うべき対象の多いこと!
「まるで向日葵畑を人質にとれば、エルド様の心は折れる……と教え込まれていたようですわ!」
 させません! と輝くタントが群れの一部を挑発し、己の元へと引き寄せる。天使の歌やクェーサーアナライズで味方の回復とAPの供給を器用にこなし、パーティーの勢いを盤石なものにした。
「ありがとうございます。これで十全に力を使える!」
 タントに迫る猟犬へ、睦月が式符・毒蛇を放つ。続くクリスタルキュアのコンボが瞬く間に猟犬を滅した。
「てめェら、何を手間取ってやがる! ……ぐぅっ!」
 フーリエ・キャノンを見舞われて一歩退こうとするウルド。その隙に目の前へと、馬の嘶きと共に立ちはだかるのはヒナゲシだ。
「嗚呼、よかった。戦う前にエルド君に誓っておいて……」
 だくだくと滲むドス黒いオーラと、振り上げられる魔剣。その一撃は憤怒によって強かに。
「折角仲間と約束しておいた『不殺』を破るとこだったよ!」
 セキトの手綱を引き、怒りを込めたアクセルビートはーーウルドが放った銀の弾丸よりも早く、手傷を負って怒り狂う狩猟者を見れば、ふわと軽やかに半身引いた。
「貴様らああぁぁーー!!」
「今じゃ、冬宮くん…ちゃん?」
 フーリエの合図を契機に、退いたヒナゲシのすぐ後ろから睦月がすかさず飛び出した。
「これでーー終わりです!」
 パァン! と爆ぜる音ひとつ。ウルドの身体が宙に舞いーー。

●吸血鬼、日向に咲く
「うむ、こんなもんじゃろう」
 ほこほこと湯気の立つスコーンを鉄板からお皿に移し、フーリエは満足そうに笑った。味見はしていないが、多分ちゃんと焼けているだろうと確信めいた自信をもつ。
「ありがとうございます、フーリエさん。本当は言い出しっぺの僕が作れたら良かったんですけど……」
「フッ。安心せい、スコーン作りなど魔王の嗜みじゃ」
 屋敷のバルコニーに椅子やテーブルを準備しながら、睦月はお茶会の場をセッティングしていた。テーブルクロスのかかった席に、フーリエ自慢の向日葵の種入りスコーンと、エルドが用意した蜂蜜紅茶が並ぶ。

 ウルド討伐後、特異運命座標はエルドに更なるアドバイスを試みた。
「村人を私の庭へ?」
「さよう。この立派なひまわり畑を見れば、村人たちもうぬの安全性を分かってくれるじゃろうて」
 いつでも自信満々なフーリエの言葉は、こういう時に心強い。不思議な魅力に後押しされて今に至る。
「本当に、彼らは来てくれるだろうか……」
「説得に向かったタントさんを信じましょう」
 それに……と睦月は見渡す限り、一面に咲く向日葵達へと視線を向けた。
「エルドさんがどれだけ心優しい方かは、この向日葵畑を見ればわかります。この立派な向日葵畑を、僕は大事な幼馴染にも見せたい。だから来年も咲かせてほしいです」
「睦月さーー」
「ぎゃあああーー!!」
 エルドの声に重なって悲鳴が響く。ヒナゲシが丁度、縄で縛ったウルドを踏みつけている最中だった。
 特異運命座標はウルドと戦う前から、村人とエルドの和解の場を作ろうと決めていた。そのためにも彼を生かしておく必要があったのだ。
 睦月が最後に放った威嚇術は見事にウルドを気絶させ、監視兼調教役にヒナゲシが一任されたのだがーー。
「その腐った性根を叩き直してあげるよ、HAHAHA!」
「何をするんだァーッ!」
「キミが泣いてもッ! ボクは蹴るのを止めないッ!」
ーー真人間になるまでね☆
「わー、大丈夫かのうアレ」
 周りの声を代弁するフーリエ。しかしその不安も、来訪者の気配でたちまち何処かへ吹き飛ぶ事になる。

「本当に無害なんだべか?」
「勿論ですわっ!」
 ぶわっ、とタントが涙ながらに訴えれば、その儚き花のような美しさに誰もが耳を傾ける。
「エルド様は争いを好みません。これまでもそうでしたが、今後も決して侵略など考えておりませんので、どうか友好的な関係を築けませんでしょうか」
 奮われた熱弁に興味を示す者も多く、ついに"恐るべき吸血鬼"の館の前まで歩んで来たのだがーー。
「見ろ、屋敷から誰か出てきたっぺ!」
 注目を浴びて足が竦む。震えるエルドの背中をポンとフーリエが押した。
「村人に譲って自分が死ぬのを、うぬは納得したのかもしれんが……この向日葵畑を残してくれた老夫婦は、もっとずっと、うぬに向日葵達を見守ってほしいと思っとるんじゃないかのう」

 だから進め、一歩でも前に。陽の光に見放された怪物でもーー誰かの温もりを得る事が、罪などであるものか。

「人間の皆さん、本日は私の館へようこそ。友達と一緒に作ったお茶菓子の用意があります。ほんの少しでもいい……話を聞いてくれませんか?」

 そして招き入れられた村人達は、立派な向日葵畑に目を見張る。
 美味しいお菓子に話も弾み、あっという間にエルドは皆の輪の中に!
 その時、彼が見せた満面の笑顔は温かくーーまるで、日向に咲いた向日葵のように美しいものだった。

成否

成功

状態異常

なし

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