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シナリオ詳細

不思議で不気味なお菓子の塔

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●宿命館大学、愛乃風教授より
 練達階層都市の一角に存在する『宿命館大学』は異界よりの旅人愛乃風教授によって設立された研究及び学習機関である。
 いわゆる日本の中高教育と学術研究の役割を担うこの機関は、練達に集まる旅人たちの知識の集積と共有、そして学習や成長を助けるものとして多くの出資を得ていた。
「そういうわけだから、立場上いろんな研究ができるわけなんだけど……」
 コーヒーの香りが漂う部屋。アンティーク家具に混じって奇妙な置物が並び、アクリル棚にはどこの何ともつかないような物品が飾られている。
 愛乃風はソファに腰掛け、たばこをケースから取り出してジッポライターをすった。
 たばこの先端に火を灯し、三秒。
 ため息のように煙をはくと、眼鏡の奥で目を細めた。
「なまじ教育機関だしね。危険な場所へのサンプル採取を生徒にやらせるわけにもいかんわけだよ、キミい」
 にっ、と笑って愛乃風は灰の増えたたばこをガラスの灰皿へとそえる。
「今までは教師陣やら手近なフリーランスに発注してたんだけど、いろいろとばかにならなくてね。学内で『ローレットに頼んでみるのはどうですか』って意見がでたわけさ」
 口ぶりから察するに、今回の依頼内容は『何らかの物品の入手』。
 そして愛乃風学長はこれをローレットに発注するのが良策かどうか、今回の仕事ぶりで確かめようとしているらしい。
「採取してきてもらうのはコレ。『お菓子の塔』のキャンディケイン」
 封筒から資料を取り出し、すっとテーブルへ滑らせる。
 お菓子の塔というファンシーな名前を裏切るような、それはおどろおどろしい魔女の塔であった。

 『お菓子の塔』は幻想練達間の小島に建設された四階建ての小さな塔である。
 飛行によって最上部や2~3階からの侵入を試みたが正体不明の力によって弾かれ、侵入できなかったという。
 侵入は一階の扉からのみ可能で、扉を潜ると外観からは想像できないような広さの『お菓子の迷宮』が存在している。
「空間を接続する魔法だと思うんだけど、これを建設した魔女は十年ほどまえに他界しててね。土地ごと大学で買い取ったわけなんだけど……この最上階にあるっていう『キャンディケイン』っていうアイテムをまずは手に入れたいの」
 迷宮内は全体的にお菓子お菓子しており、例を挙げると――マシュマロ花畑、クッキーハウス、生クリーム川、ゼリービンズプールといったものが複数の階層に分かれて存在している。
 この迷宮を探索しきり、アイテムを手に入れればクリアという流れである。
「一度探索をかけてみたんだけど、結構な数の階層があるみたい。だいぶ長期戦を覚悟したほうがいいよね。
 あっあとここのお菓子は食べないほうがいいと思うよ。
 探索者のひとりが『お菓子食べ放題じゃん』つってもりもり食べてたんだけど、その翌朝から忽然と消えちゃったから。ベッドに大量のお菓子を残してね」
 一通りの資料を突き出し、愛乃風はソファに深く寄りかかった。
「ローレットっていう組織がこれをやり遂げられるだけのモノなのか、まずはそこを確かめさせてね。以上、ヨロシク」

GMコメント

■オーダー
 お菓子の迷宮を攻略し、『キャンディケイン』を手に入れてください。

 皆さんはダンジョンに入り、階層を上へ上へと進んでいくことになります。
 どこがテッペンかは今のところ分かりません。
 長く沢山戦えるようにビルドを組んでおくとよいでしょう。

■探索判定
 階層を進むごとにダイスロール判定が行なわれ、以下のうち1~2種の現象が起こります。
・A:弱めのモンスター1チームが襲ってくる(逃走可)
・B:強力なモンスター1体が襲ってくる(逃走可)
・C:トラップが発動する
・D:休憩できる階層を発見。
 一回まで全員のHPAPを6割まで回復。魔法のドアがあり、安全に帰還できる。
 お料理やお茶をいれるスキルがあったり、休憩しやすい工夫があると回復量がアップする。

■エネミーデータ
 ここに出現するモンスターのうちごく一部が発見されており、資料に記載されています。

●発見済の弱めのモンスター
・ビターゼリースライム
 幅3メートルくらいのでっかいスライム。フルーツの香り。
 体力が豊富。反面防御や回避はからっきし。
 『超体当たり(物近範)』『チョコブラスター(神遠列)』で使用

・クッキースケルトン
 焼き菓子でできた人型ホネホネモンスター。
 お菓子の剣と盾を装備していて妙に攻防のバランスがいい。
 『お菓子ソード(物近列)』『お菓子シールド(神秘攻撃無効【副】)』を使用

・ミルクキャンディゴーレム
 お菓子でできたゴーレム。人型、身長3メートル、首無し。ミルクの香り。
 『大暴れ(物近範)』『炎のビーム(神遠範【火炎】)』で攻撃。

●発見済の強いモンスター
・チョコレイトドラゴン
 全身チョコレイト・ジュエルの鱗に覆われているというドラゴン型モンスター。
 灼熱の炎(神特レ)を吐き辺りをいきなり火の海にするため、フィールド効果として戦闘中常にスリップダメージが入る。無効化不能。
 HPが高く『BS無効』をもつ。
 順ダメージをできるだけ早く、多く、そして確実にたたき込もう。

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 不思議で不気味なお菓子の塔完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年05月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
かんな(p3p007880)
ホワイトリリィ
ハルア・フィーン(p3p007983)
おもひで
ヴォルフ・シュナイエン(p3p008239)
蒼き翼の鮮烈
テルル・ウェイレット(p3p008374)
料理人

リプレイ

●お菓子の塔
 宿命館大学より課せられた仕事を果たすため、杠・修也(p3p000378)たちは指定迷宮通称『お菓子の塔』へとやってきていた。
 サイケデリックカラーの円形塔が空に向かってそびえ、途中から霧に阻まれて頂上は見えない。
 修也はグローブの裾を引っ張って指をなじませると、流れるように眼鏡に指をかけた。
「お菓子の建物と魔女か……故郷にある童話をちょっと思い出すな」
「その童話ってのは、子供を誘い込んで焼くような話か?」
 『物見の魔女』ヴォルフ・シュナイエン(p3p008239)が杖で自分の肩をぽんぽんと叩き、深窓の令嬢めいた外見を裏切るようなハスキーな声で語った。
「ジェリービンズの成る木。お菓子の家。食べるだけで幸せになるカップケーキ……魔法使いにとってお菓子ってのは罠と同じ意味があるんだよ」
「詳しいんだな?」
「伊達に知識を積んじゃいねえよ。まあ……混沌(ココ)じゃあもっとポジティブな方が長生きするんだろうがな」
 例えばあんなふうにだ、と指さすさき。
 『屋台の軽業師』ハルア・フィーン(p3p007983)がうーんと背伸びをして笑っていた。
「お菓子の塔! いい響きっ!
 食べられないのは残念だけど、お菓子に見えてるからボクは無敵!
 でもっておやつも食べられるだろうからもっと無敵!」
 むてきー! って言いながらジャンプするハルアは確かにポジティブの塊であった。
 そういう振る舞いは他者もほっこりさせるものなのか、『新たな可能性』テルル・ウェイレット(p3p008374)は沢山つまったリュックサックをせおいなおして微笑んだ。
「それにしても、折角沢山お菓子があるのに食べられないとは少々物悲しいですね。どんなお味か、確かめてみたかったですが……」
「その代わりに、今日のキャンプは期待させて貰うわよ」
 『実験台ならまかせて』かんな(p3p007880)がテルルの肘をかるく小突いてみせた。
「余り量は食べられない身体だから、色々味あわせて貰えると嬉しいわね……」
「それはもう」
 見てくださいこの荷物、とリュックサックを示すテルル。
 とても戦闘にいく格好ではないが、こういう幅の広さこそがローレットらしさだった。

 一方こちらは『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)と『腕時計で殴る』秋宮・史之(p3p002233)。
 経験豊富な彼らからしても、『お菓子の塔』はだいぶ気になるダンジョンらしい。
「この空間を作っている力には興味があるな……ああ、攻略してやろうではないか!」
 不敵に笑うリュグナー。史之はといえばどこか冷静に登山リュックを背負い込む。フライパンや飯ごうといった便利そうなセットがリュックの外からチラ見えしている。
「魔女が作ったって聞いたけど、見るからに性格の悪そうなダンジョンだよね。これを見事攻略できたら、例の教授に認めてもらえるってことなのかな」
「ふむ……そういえば、我々は試されているのだったな」
 宿命館大学愛乃風教授からの、これはテストである。
 ローレットはその方針上、依頼をしてくる先は多ければ多いほどよい。コネクションを広げることは巡り巡って世界を救うことになるのだ。
「さ、みんな行こうか。新たな冒険へさ」
「ですね! それじゃーいっちょ、冒険者として経験値積んでいきますか!」
 『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)はぐいっと腕まくりをすると、斜めがけのベルトで固定していたハーロヴィット・トゥユーを取り出して天高くを指し示した。
 塔の先へ至ることを、まるで予告するかのように。
「ダンジョンアタック、開始!」


 ハープを奏でるような指の動き。
 再び開いた手を己が顔へかざすと、リュグナーは左右非対称に笑った。
「『自惚れろ――その慢心は油断を招き、次なる一手の抵抗を軽視するであろう』」
 アイマスクに指をかけ、目をさらけ出すリュグナー。
 それを目視したクッキースケルトンは思わずお菓子の剣を取り落とし、ありもしない敵めがけて腕を振り回す。
 リュグナーは『哀れな』と小さくつぶやくと、死神の鎌を振るって半透明な鎖を発射。巻き付かれたクッキースケルトンは両腕を封じられ、やっと自分が窮地に陥ったことを理解した。
「トドメは譲ろう」
「マイレージ感覚でパスするんじゃねえよ」
 ヴォルフはごく小さく舌打ちをすると蒼い爪で空間に綺麗な円を描いた。
 同時に広がる氷の翼が内側からぼんやりと魔術発光を起こしはじめる。
「ほう。自らを魔術媒体とするか」
 面白そうに振り返るリュグナーに返答せず、かわりに片眉だけを上げて空間に描いた光の円をピンと指で弾いた。
 まるでガラス戸を切り抜いたかの如く空間がぽっかりと取り外され、異空間から流れ出るかのように大量の氷の礫が放出される。
 逃れようともがくクッキースケルトンにそれらが直撃。バラバラのクッキーとなって砕けていく。
 直後、チョコレートの壁を突き破ってミルクキャンディゴーレムが出現。
 胸に埋まったコアから熱光線を発射する。
「おっと、そういうのは俺の仕事!」
 防御の遅れたリュグナーたちにかわって、史之は理力障壁を展開しながら割り込んだ。
 光線が彼の障壁をがりがりと削っていくが、そのそばから彼自身のもつ魔力によって障壁が補われていく。
「大丈夫ですか? すごい音をたてていますけど……」
 後ろからテルルが心配そうにのぞき込むが、史之は眼鏡の淵に指をあてることでおどけて見せた
「この程度のゴーレム、一体程度なら平気平気」
 途端。チョコレートの壁を次々に破壊して無数のゴーレムが同時出現。
 かくりとズレる史之の眼鏡。
「やっぱりチョット手伝って貰っていい?」
 苦笑する史之に対して同じく苦笑でこたえ、テルルはコーヒーミルをかりかりとやりはじめた。魔術的な効能によってゾンビ映画もかくやという勢いで迫るゴーレムたちから障壁を守っていく。
 テルルは更にあらかじめ用意しておいたチョコレートビスケットを取り出すと、はいどうぞといって史之の口に放り込んであげた。
「ンー、体力が癒えるたしかな実感」
「ええと……良いんでしょうか、こんなことで」
「いいのいいの。それより――」
 史之は振り返り、アイコンタクトをとった。
 彼の眼鏡レンズにハーフグローブで拳を握り混む修也が映った。
 一方の修也はゴーレムの集団へと突撃。
 短縮詠唱を一言述べるとグローブに圧縮された無数の術式が連鎖的に反応。複数の魔術発動がヴゥンというひとつなぎの音として響き、グローブの甲に赤い方陣を浮かび上がらせた。
 彼の接近を察知したゴーレムが手を広げ彼の頭をはらいおとそうと振り込むが、修也は更に体勢を低くすることで回避。
 ゴーレムのボディにテンポ良く一発の掌底を打ち込むと、流れるようにスウェー。後ろに回り込んで裏拳をたたき込んで即座に離脱した。
 内部からはじけるように爆発するゴーレム。
「伏せてください。でかいの行きます!」
 ウィズィニャラァムが頭上で『ハーロヴィット・トゥユー』を大回転。
 自らの身体もぐるんと一回転すると、蓄積させた勢いをまんま乗せてゴーレムたちへ投擲した。
 回転した巨大ナイフはゴーレム一体を真っ二つに破壊し、それによっておきた風圧が周囲のゴーレムたちをあちこちへと吹き飛ばしていく。
 お菓子の家に激突し、外壁を破壊しながら転がるゴーレム。
 ウィズィニャラァムは壁に突き刺さったナイフを駆け抜けがてら引っこ抜くと、ゴーレムが近くの壁を掴んで起き上がろうとした瞬間を狙って頭(もとい胴体の頂上部)をぶったたいた。
 ジグザグにヒビをいれ、左右二つに割れるゴーレム。
「かんなさん、壁際の連中宜しく!」
「なんとなくそんな気はしてたわ」
 かんなは顕現させた『ナンバーレス』にさらなる力を注ぎ込み無数に棘のはえた禍々しい槍へと変化させる。
 すると、自らの背に白いガラス片をあつめたかのような翼を生やして跳躍。壁際に叩きつけられ一直線に並んでいたゴーレムたちめがけて投擲した。
 大気を穿ちゴーレムたちを突き抜け連続して爆発を引き起こす。
 そんな爆発の中から現れたのはフルーツの香りをはなつ巨大なスライム状モンスターだった。
 自らを球形に固めると、かんなめがけて弾力ある体当たりを敢行。
 回避の難しい高所での攻撃に、かんなはハッと目を見開くが壁を駆け上がり飛び上がったハルアが空中でスライムの体当たりを受けた。
 跳び蹴りするハルアと体当たりするスライムの衝撃がぶつかり、中心をドンと打ち抜かれたスライムと足以外の箇所にバンとインパクトをうけるハルア。
 両者は弾きあい着地するが、ハルアは着地と同時に身を転がし衝撃を吸収。スニーカーで地面をつよくこすると、ふたたびスライムめがけて走り出した。
「かんな、パス!」
 リレー競争のバトンタッチのごとく後ろ手を広げるハルア。かんなは意図することを察したらしく、新たに顕現した槍をハルアへパスした。
 対するスライムはダメージをとっくにフォローし再成形。
 そんなところへ至近距離から槍を直接たたき込む。スライムの内側で爆発する槍。
 形を残さず飛び散ったのを確認すると、ハルアはフウと息をついて額の汗を拭った。


 次々とモンスターが襲いかかるダンジョンフロア。
 イレギュラーズたちは力を合わせて各フロアを突破し、着々と階層を進めていった。
 そんな中で……。
「罠だ」
 ヴォルフは手をかざし、仲間達の歩みを止めさせた。
 腕組みをしてあたりを見回すハルア。
「それらしい装置は見えないけど……」
 重力感知識の偽装パネルやワイヤーといったたぐいを見逃さないように、ハルアは階層を進むたびに警戒していた。
 現に高熱のチョコレートが吹き出すワイヤートラップや発狂クリームパイが振ってくるパネルを音や臭いや光の加減で見抜いてきたのだが……。
「今回はそういうヤツじゃねえな」
 ヴォルフは手をかざし、氷の翼を発光させた。
 青白い魔術光が通路を左から右へなでるようにゆっくりとはしり、そのなかでまるでワイヤートラップのごとく配置された『見えない魔法の糸』を可視化させた。
「うわ、えげつな! これを潜りながら突破するの難しいよ?」
 悩むハルアに、リュグナーが壁に手を当ててみせた。
 あてた手がずぶずぶと壁に沈み込んでいく。
「罠とは侵入者を阻むもの。だが同時に、安全に通るためのスイッチもまた存在しているものだ。我が処理してこよう」
 そういって壁へ完全に沈み込んだ後、同じように向こう側の壁から現れた。
「魔法の糸は解除しておいた。通っても問題なかろう」

 罠を抜けた先には、生クリームの川が流れる河原があった。
「風景もだいぶ開けていて敵意ある存在の気配もない。野営するなら、ここがいいだろう」
 周囲を一通り調べ終えた修也が、おそるおそる後をついてきたテルルへと振り返った。
「作業は手伝う。メインを任せていいか」
「はい!」
 リュックサックをその場に下ろし、テルルはグッとガッツポーズをとった。
「お任せください! ここからはカフェの本領発揮です!」

 気合いを入れたテルルはテントセットからテーブルやチェアを組み立てるとてきぱきと料理を始めた。
「皆さん、リクエストはありますか?」
「はいはーい! わたしクラブハウスサンド!」
 手をビッと高く掲げたウィズィニャラァムにクスクス笑うと、持ち込んだ食材から素早くサンドを作り上げてしまう。この辺りは熟練の早業といった所だろうか。
「やったーお弁当! あっ私普段は喫茶店の店員ですので、特にアレ無いですけどお手伝いしますよ!」
 ウィズィニャラァムはすきっぱらにサンドイッチを放り込むと、親指をぺろっとなめてからカフェ店員の服装へと着替えた。
「それじゃあ、お茶を入れるので運ぶのを手伝ってもらえますか」
 テルルはお気に入りのティーセットで、まるで魔法のように美しく紅茶やコーヒーを淹れていく。
 銀のトレーに乗せたウィズィニャラァムがそれを運び、チョコレートビスケットやウェハースといったお菓子を添えて仲間達へと配っていく。
「ふふ、おいしい……」
 かんなは口元を抑え、うっとりと微笑んだ。
 混沌世界はパン屋やメイドが兵士と同じように戦うというが、もしかしたらこうした日常を支える『ふつうのまほう』が、兵士達を癒やす特別な力になっているのだろうか。
 石槍とレールガンが同等の価値をもつこの世界。ありえぬ話ではない。
「心を込めて料理をすれば傷も癒える……ね。私も手伝うわ。何をしたらいいかしら」
「それじゃあ、本格的なゴハンを作るからそっちを手伝ってもらえるかな」
 史之は腕まくりをして中華鍋をじゃっじゃか振っていた。
「それは?」
「レタス炒飯だね。あとエビチリつくるよ」
「ちり?」
 小首をかしげるかんなに微笑みつつ、お皿に盛り付けていく史之。
「お菓子の匂いって長時間かいでると胸焼けするよね。だからあえてしょっぱい物を。油モノも丁度良いよね」
 こんな具合でおなかと心をいっぱいに満たしたイレギュラーズたちは、道中で消耗しきることなく元気に最上階を目指すことが出来たのだった。
 そしてついに……。


 19世紀イギリスの都会に見えた。
 違いがあるとすればあらゆる人間がチョコレートの像として点在し、あらゆる建造物や舗装路諸々が童話さながらにお菓子でできていたことである。
 これまでのフロアとは一転して不気味な雰囲気にこたえるかのように、ひときわ高い塔をチョコレイトドラゴンがなぎ倒して飛び上がった。
 偽りの曇り空に炎を吹き上げ、こちらをにらみ突撃する。
 一瞬で広がる炎が街を飲み込み人々をかたどったチョコレートを溶かしていく。「こっからが正念場、ってね」
 半球形の障壁を展開した史之は暴風と熱波に吹き飛ばされそうになりながらも腰に差した試験管を抜いた。
「かす傷程度ならこいつで治せるけど、この熱波を耐えきりながらじゃ難しいかな。出し惜しみなしでいくから、しばらく手伝ってくれる?」
 史之が振り返ると、舞い上がる煙を吸わぬように布で口元を抑えたテルルが史之の背に手を当てていた。
 治癒短刀の史之が倒れないように可能な限りの治癒と強化をはかるためである。
「達成までもう一息です。おそらくは、あれが……」
 テルルが指をさしたのは崩れ落ちた塔の頂上に刺さっていたであろうオブジェ。資料にあった『キャンディケイン』であった。
「つまりは、コレを倒していかなきゃダメってことだよね!」
 ガス灯をよじ登り民家の屋根へと飛び乗ったハルアは、飴細工の赤い煉瓦屋根群を駆け抜けていく。
 眼下に見えるは大通りを走る修也。
 二人は互いの顔を無言で一瞬だけ見つめ合うと、すぐさまその場から跳躍した。
 民家を粉砕し道路をえぐり取っていくチョコレイトドラゴンを回避するためである。
 街を摸してはいるが実際はだいぶ脆いようで、並ぶ商店街は簡単に崩壊し回避しそこなった修也は壁を数枚ぶち抜いた末にバウンド。クッキーの地面に魔術強化した爪をたてて無理矢理ブレーキをかけると、眼前の壁どころか建物ごと破壊しながらつっこんできたチョコレイトドラゴンの巨大な顎めがけて魔術砲撃を放った。
 至近距離からの砲撃に一瞬だけひるむチョコレイトドラゴン。すぐそばの窓を突き破って飛び込んだハルアのキックがドラゴンの側頭部に、そして窓の外から狙いをつけていたリュグナーとヴォルフの魔術射撃が浴びせられる。
「ま、嫌いじゃねぇぜこういうの。最後まで楽しむとしようじゃねぇか」
「それはいいが、人生の最後にするべきではないな」
 氷の礫が大量に突き刺さったところで、リュグナーはよろめく仲間を抱えてそのばから走り退いた。
 が、勝利のめどはついている。
 かんなとウィズィニャラァムは民家の屋根を破壊しながら急降下。それに気づいて見上げたドラゴンの首めがけて巨大ナイフと槍をそれぞれ突き立てた。
 一瞬の静寂。
 ゆらめき、そして激しい音と共に崩れ落ちるドラゴンのむくろ。肉体は加熱したチョコレートのごとくとけて流れ、街を覆っていたはずの炎は消えていく。
「終わった……のね」
 かんなは立ち上がり、そして周囲をみまわした。
「お菓子の塔の頂上。魔法の解けた街……か」
 ウィズィニャラァムはほとんど灰になった人形を踏み壊し、炭と石と煙だけの街を見た。
 お菓子など、見渡す限りどこにもない。
 いや。
 資料にあった『キャンディケイン』その一個だけが、そのままの姿で道ばたに転がっていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――依頼達成
 ――宿命館大学とのコネクションが生まれました

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