PandoraPartyProject

シナリオ詳細

夜の道【裏】

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●悲しき夜の化生
 黄昏はあちらへの入口、人ならざるモノが棲まう世界の境界線。
 昼の住人である人間は、黄昏より先には行こうとしない。
 何故ならば、夜の住人である異形は人間を喰らうから。喰われずとも、夜の世界に迷い込んだまま朝を迎えてしまうと、人間は夜に囚われて夜の住人になってしまうから。

『美味しそう……美味しそう……』
 黒い霧の異形は夜の中、何度も何度も同じ言葉を呟く。
『美味しそう……』
 霧に浮かぶ大小様々な無数の目玉は、その全てを夜空へ向けて。
『美味し……そう……』
 恨めしそうに月を、星々を睨み付ける。
『……どう、して』
 深い夜の中、変化が訪れる。
 黒い霧の言葉が、人の声を漏らす。
 いつも同じ言葉しか言えなかったものが、違う言葉を紡ぐ。
『……どうして』
 黒い霧が少女の声を漏らす。
 そして、更なる変化が訪れる。
 黒い霧に浮かぶ目玉が光を失って。ぽとり、ぽとりと落ちていく。落ちた目玉は地面に溶けるように消えて。
 黒い霧は徐々に晴れて。やがて完全に晴れると、年端もいかない黒髪の少女が佇んでいた。
『どうして、帰れないの?』
 少女は顔を上げて、月を見上げた。
 左目は普通の少女のものだったが、右目は大きく赤く異形の目だった。
『帰りたいよ……』
 手を上げれば肥大化していて。
 頭に触れれば額に角のような突起が二つ。
 その姿はまるで鬼のようで。
『……帰り道、どこだろう?』
 鬼の少女は歩き出す。
 忘れた帰り道を探して。
 目の前に現れる夜の異形をその手で切り裂き、その足で踏み潰し、その牙で喰らって。
 果たして少女の帰る場所はあるのだろうか。

●少女の帰る場所は
「率直に言って彼女が帰ることはできません」
 イレギュラーズが集まった教会図書館で、教会案内人デュナは目を伏せて首を横に振る。目尻にほんの少しだけ雫を湛えて。
「できるのは、彼女を家の前まで送り届けることと、殺すことだけです」
 一度夜に囚われてしまえば、絶対に戻ることはない。戻れなければ、ずっと夜を徘徊するだけ。
「ただ、彼女は人も異形も食べ過ぎました。そうすると力が増して、人の知性と似姿を取り戻すようです」
 だが、それは人間になるということではなく。強い異形へと変わることである。
「でも、だからこそこのままにはしておけません」
 彼女を救う道は、果たしてあるのだろうか。
 それでも、何かしてあげられることがないかとデュナはイレギュラーズに乞う。
 どうか救いを、と。

NMコメント

 皆様、お久しぶりです。お初にお目にかかる方は初めまして。灯火(とうか)です。
 拙作『夜の道』のもう一つの物語となっています。再びホラーテイストです。

●シチュエーション
 昼と夜で分けられた世界、木造住宅が建ち並ぶノスタルジックな雰囲気と恐ろしさを感じさせる夜の道。
 明かりは約十メートルほどの等間隔で並べられた街灯のみ。街灯が照らせる範囲は約三メートル程度。

●鬼の少女
 名前はナギといいますが、聞かなければわからないことです。
 黒髪の十歳くらいの少女の姿。右目は大きく赤い異形の目。両手は肥大化して爪が長い。額からは二本の角のような突起があります。
 たくさんの人と異形を喰って力を付けて、進化した異形です。
 会話は成り立ちますが、食欲も旺盛であるため、人や異形の姿を見付けると襲いかかります。

●行動
 鬼の少女とはある程度戦わなければいけません。
 その上で、殺すか放置するか皆様で決めてください。
 殺せば鬼の少女の被害はなくなり、放置すればいずれは手がつけられなくなるくらい強大になるでしょう。
 もしくは、説得の方法によっては人を襲わなくなるかもしれません。(※プレイング次第です)

●皆様へ
『夜の道』の裏道へようこそ。
 救われない異形をどうしたら救ってあげられるか。
 皆様がどのように彼女に関わっていくか、私もドキドキしながらご参加をお待ちしております。
 よろしくお願いいたします。

  • 夜の道【裏】完了
  • NM名灯火
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年05月23日 22時30分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ソア(p3p007025)
無尽虎爪
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

リプレイ

●鬼の少女は朝陽を求め
 幾度となく夜を越えて。ただの霧から姿を変えた鬼の少女は、ほのかに灯る街灯と街灯の間の闇の中で。
『帰りたい……おなかすいた……』
 人間だった頃の記憶を必死に辿りながらも、夜の住人のものとなってしまった本能が獲物を求める。
「こうなった以上、もはや帰れないのですね。おうちに帰るまでがお出かけなのに…死を司る冬宮の者として、お相手しましょう」
 少女を見つめて声をかけた睦月。その姿を認めた少女は一足飛びで襲いかかる。肥大化した腕が睦月を薙ぎ倒そうと振るわれる。
 それを止めたのは、ソア。
「こんばんは、迎えに来たよ」
 優しい言葉で少女に語りかける。
 人間と関わるようになって。素敵な人の営みには、戻れなくなる場所もあるのだと知ったソアは。
 それをこの世界の夜に、鬼の少女に重ねた。
「あなたは誰ですか? おうちはどこですか? 何故こんなところで迷っているのですか?」
 ソアと同じく放っておけないと感じていた睦月は、鬼の少女へ質問を重ねる。
『わたしは、ナギ……おうち、どこ? なんで、ここにいるの? おなかすいた!』
 家路を忘れた少女は泣くように腕を振るう。
 その腕を、魔弾が一穿した。
(戦わなければ止められない、か……)
 小さく舌打ちをしたカイトは続け様に魔弾を撃って少女の気を逸らそうと試みる。
 帰りたいと嘆く少女にカイトが思うのは。
 この子を家に返したところで家族には受け容れられないだろうということ。だからもう帰る場所なんてないのだという非情な現実を、少女に突きつけずに殺そうということ。
 そんな彼らの思惑とは裏腹に。
「殺すか放置するかはどっちでも……ていうかどうでもいいわ」
 メリーだけは異形の少女に微塵の同情もしていない。
 異形であろうと人間であろうと、自分以外には救いはいらないのだと言って。彼女が放つ悪意の一撃は鬼の少女に突き刺さる。
『帰りたいの……おなかすいたの……』
 メリーの一撃は少女の腕を軽く抉るが、痛みもないかのように佇む。
『おなかすいた……帰りたい。わたしは、ナギ……帰りたい、おなかすいた……』
 切望と絶望と渇望。つじつまの合わない感情に押し潰されている少女の姿は。
 その狂気に彩られた鬼の少女を見たイレギュラーズは。
 もうこの少女は救えないのだと悟った。

●鬼哭
 少女は哭いて。
 人間のものとは思えない脚力で跳躍し、絶え間なく身を打つ空腹を満たそうと目の前にある餌に必死に腕を伸ばす。
 振るわれる鬼の腕は的確に獲物を狙う。
 ソアが少女の腕を止め、爪で返す。ソアの爪を受けて少女は跳びすさる。
 睦月が毒蛇をけしかけ、傷を負ったところで無数の大地の晶槍で串刺しにしようと試みる。
 晶槍を避けて家の塀へ跳んだ少女へ、カイトの魔弾とメリーの悪意が襲いかかる。
『あ……帰りたい……帰りたい』
 痛みも気にせず立ち上がり、夜の住人の本能のままイレギュラーズへ向かっていく少女の目には。
 異形の目は獲物を狙う獣のようで。少女のものである目は涙に濡れて。
『おうち。どこ……? おなかすいた……』
 帰ることのできない家路を探す。
「ねぇ、そんなに帰りたいのですか? 一人ぼっちは嫌ですか?」
『帰りたい……』
「その気持ちはわかりますよ。だけど、あなたのしていることは受け入れられないのです」
 夜の住人となってしまった以上、帰る場所はとうに喪われている。
 帰りたいのに帰れず、独り夜の道を彷徨歩く少女を、睦月は。
「孤独のつらさはわかるから、あなたを解放してあげたい」
 笑って、自分の苦しみを飲み込むように、少女に告げる。
「ナギさん、あなたのおうちはどこですか?」
「大丈夫、目が覚めたらおうちに着いてるから」
 ソアが安心させるように言う。
 それは彼女がついた初めての嘘。決して叶うことのない少女の望みを、その渇きを和らげるためについた嘘。
 それでも。夜に囚われたまま、不安に苛まれたまま最期を向かえるなどあんまりだ、と。チクリと胸を刺す痛みを、今は見ないふりをして。後でちゃんと向き合うからと、鬼の少女へ向き直る。
『かえ、れる……の?』
 ふと。少女の目がほんの少しだけ正気を孕む。
 今まで本能による衝動と狂気に彩られていた瞳に、人の時の光が灯る。
『かえり、たい。お母、さん……お父さん、』
 鬼の少女は哭く。
 人として帰りたいと。
『妹が、いるの……この前、おうちの前までつれて、いってくれたの……』
 それは黒霧の時の記憶。
 たった一度だけ、家の前まで帰ることができた思い出。
 しかし玄関から先には行けなかった哀しい終わり。
 その家の場所は。
『……あっちだよ』
 鬼の手が、そっと月明かりに照らされた道を指差す。
 その先には街頭に照らされた古い家の玄関。
『……帰りたいよ』
 指差して呟くのは、ずっとずっと言い続けてきた願い。
 そして。
『おなかすいた……!』
 再び狂気に苛まれる。
 そんな少女にカイトの冷たき墓標が放たれる。
「あぁ、帰る場所はわかった。だが、これ以上はもう無理だ」
 語りかけに多少の意味はあった。少女の帰りたがっている場所はもうわかった。
 だが。少女にはもう帰る場所はない。人に戻れないのであれば、帰ることはできない。鬼を人の住む場所に帰すわけにもいかない。
 ならば。
(俺がナギにとっての『悪役』になろう)
 死した後にどうなるかは知らないが、少なくとも生きている間には帰ることはできないのだから。
 帰りたいと泣き叫ぶ子供を、二度と暴れないようにとトドメを刺す『悪役』になろう。
 そうして手のひらを突き出す。手のひらからは何度も魔弾が放たれ、少女を傷付けていく。
「ごたくは良いわ、さっさとぶち殺しましょう!」
 メリーはそんな彼らの感傷すら意に介さず、ひたすらに悪意を以て少女を傷付ける。
 彼女にとっては自分が至上であり、少女の生い立ちや行く末など気にしない。
 少女を殺しても、殺さずこの世界の住人がどうなろうとも構わない。
 それが彼女のスタンスであり、感傷も同情もしないエゴイストだからこそ、的確に少女を追い詰めることができている。
 やがて、少女は膝を付いて。
 体には爪と晶槍と魔弾と悪意により付けられた傷跡が無数にあり、そこから深紅の血を流している。
 もう残された体力はほとんどないのだろう。一挙手一投足が遅い。
『おなか、すいた……』
 それでも獲物を求める手は変わらずに振り下ろされる。
「……もう、終わりにしよう」
 ソアが虎の爪を構える。
「良い子は眠る時間ですよ」
 睦月は晶槍を再び召喚しようとする。
「さっさと消えなさい!」
 メリーは悪意をその手に。
「もう、迷子になるんじゃねぇぞ。二度、とな」
 カイトは手のひらを少女に向ける。
 これが最後の一撃になるだろうということを、4人は察していた。この攻撃を一斉に受ければ、耐えられるはずもないだろう。
 だから。
「次の人生も、次の次の人生もーーこんな迷子は嫌だろ?」
 これで終わらせる。
 ソアの雷光が目を焼き、睦月の晶槍が脚を穿ち、メリーの悪意が腕を締め上げ、カイトの魔弾が心臓を貫く。
 それらは一瞬にして少女の命の火を奪い尽くす。
『……っ』
 断末魔の声も上げない鬼の少女は、揺らいで。夜空の月を仰ぐように倒れた。

●哀しき詩は終わり
 ずっと闇に抱かれていた。
 果てまで続くような、寒い寒い暗闇の中で。
 帰りたい、帰りたいと泣いていた。
 いつからここにいるのだろう。
 ただの刹那だったかもしれない。果てない永久だったかもしれない。もう、始まりは覚えていないけれど。
 闇に包まれて。泣いて。嘆いて。帰りたいと叫んで。
 遠い昔のような思い出。父と母と妹と。笑ってご飯を食べていたのを思い出して。
「おなかすいた……」
 ああ、おなかすいた。
 お母さんのご飯は美味しかったな。
 お父さんが捕ってきた魚はお刺身にしてたっけ。
 妹はご飯粒を口元に付けて笑っていたね。
 どこにでもあるような、暖かい光景が浮かんで。
「帰りたいなぁ……」
 どうやったら帰れるのだろう。
 忘れてしまった。
 ここには帰り道はない。
 あきらめて、全部忘れようと思った。
 そんな中で、声が聞こえた。
 たくさんの優しい声。そして、力強い声が響いた。
 すごく暖かい声。
 帰れるの?
 あそこに行きたいの。
 思い出を手繰り寄せるように、その光景を指差す。
 誰かが手を引いてくれた。
 誰かが背中を押してくれた。
『目が覚めたらおうちに着いてるよ』
 優しい声。
『あそこがあなたのおうちですね』
 暖かい声。
『ま、どーでもいいけどなぁ』
 ぶっきらぼうな声。
『もう迷うなよ』
 力強い声。
 その声達に導かれるように歩き出す。纏わりつく闇が、すごく痛かったけれど。
 帰りたかったから。
 ちゃんと言いたかったんだ。
 お母さん、お父さん、ウミ。
 今、帰るよ。
 闇の中に浮かぶ、ずっと帰りたかった場所へ。
 わたしの、帰る場所。
 その戸を開けて、みんなが待つ場所へ。
 みんなの腕の中に飛び込んで。
「ただいま!」

●夜は白み朝が来る
 鬼の少女は静かに息を引き取った。
 ソアが手を繋ぎ、睦月が頭を撫で、カイトとメリーはじっと見下ろしていた。
 睦月が少女の顔に白布を被せてあげる。
 カイトが少女を抱えて家への道程を歩く。
 少女の家はそんなに離れていなかった。
 少女を家の前に下ろして。
 そして朝が来る。
 夜明けと共に四人は世界から消え、少女はただの少女となっていた。
 ナギは、やっと家に帰り着くことができたのだった。

成否

成功

状態異常

なし

PAGETOPPAGEBOTTOM