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シナリオ詳細

<鎖海に刻むヒストリア>船上の不協和音

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●青の先を目指せ
 ネオフロンティア海洋王国による追撃はアルバニアを追い詰めようとしていた。
 大拠点『アクエリア』を得た彼らが『絶望の青』を攻略する可能性は高く、それを後押しするように、死兆に侵された仲間達を救わんとする者達の高い士気が、後半の海の苛烈さに負けじと奮闘している。
 破竹の大活躍を続けるイレギュラーズ。
 彼らを後押しするように海洋王国女王イザベラと有力貴族ソルベが一計を案じる。
 かつての敵国ゼシュテルより大援軍を引き出す。
 かくして、ゼシュテル鉄艦隊という友軍を得た海洋王国・ローレット連合軍は合流し、大艦隊を結成する事となった。
 そして、少数艦隊で安全確認、掃海を行なう現在までの作戦を放棄。背水の陣とも取れるそれは、アルバニアを引きずり出すという鋼の意志の発露。
 『絶望の青』を、この大きな一回のチャンスでもって攻略する。
 強き意志を持った大艦隊は威風堂々と海を征く。
 その海の先にある、イレギュラーズを待ち受けるものは――――

●嵐の先を願う者達
 『絶望の青』と呼ばれる大海域。
 その後半に差し掛かり、島部が近づきつつあった。
 イレギュラーズを乗せた船の左右には海洋王国軍と鉄帝国軍が一隻ずつ。
 天候は現在の所曇り空で雨は降っていない。その代わり、風が強く、波も高い。船の揺れと体のバランスをうまく取らないと足を取られそうだ。
 彼らの進行方向にはボロボロの帆に朽ちた船体が見える。それも三隻。全てに砲台が見える事から、砲撃もあると見て良いだろう。
 遠方がよく見えるイレギュラーズから、そのどれにもクルーらしき姿が見えると報告があった。
 彼らは亡霊だろう。かつて『絶望の青』を攻略せんとして散っていった、過去の先遣隊だ。
 この海の状態だ。彼らと戦うには船同士で戦うのが得策であろうと思われた。
 しかし、横についていた鉄帝国軍の船が、イレギュラーズと海洋王国軍を置いて速度を上げた。
 驚くイレギュラーズ達の目に映ったのは、鉄帝国軍としてやってきた地位ある様子の軍人だ。
 一隻にその船体を寄せ、その軍人と彼に続くように数人が乗り込んでいく姿が見えた。それを見届けたか船体が離れていく。
 友軍の突飛な行動に慌てるイレギュラーズ。折角得た友軍である彼らを喪う事は避けたい。
 別方向から近付き、船体に寄せる。波に揺られながらもなんとかタイミングを計って乗り込んだ。
 既にデッキ上にて剣戟の音が響いている。
 クルーの数は三十人近く。対してイレギュラーズは八人。この場に乗り込んでいる数人の鉄帝国軍を含めても二倍以上の差がある。連携が取れている様子から、指揮官がこの中のどこかにいると思われる。
 近接武器である短剣や半月刀、ブラックジャックだけでなく、弓矢やボーラ、パチンコなどの射撃武器を持つ彼ら。
 一部の船員が砲台に向かう様子もある。他の船への援護射撃をする事が無いよう阻止しなければならない。
 船体はボロく、何か一つ大きな攻撃をしようものなら、その分大きく損壊するだろう。
 大きな波の揺れ、強い風。下手すると足を取られかねない船上。
 こちらに攻撃を加えようとする亡者達から伝わる怨嗟。
 亡者のクルーを全滅させ、鉄帝国軍をこの場から引き上げさせる事が最終目標となる。
 敵味方それぞれが得物を持って、不安定な船上での戦いが始まろうとしていた。

GMコメント

 お久しぶりです。
 海洋王国の最後の号令に参加させていただきました。
 よろしくお願いいたします。

 今回の情報として、以下となります。

●成功条件
 ・船上の亡者クルー達三十人の全滅
 ・鉄帝国軍を死なせたり重傷を負わせる事なく無事に引き上げる事

●情報確度
 A

 OPに出ている以上の情報はありません。

●敵情報
 亡者のクルー×三十人
 連携が取れているため、指揮官がその中に居るようだ。
 近接武器:短剣、半月刀、ブラックジャック
 射撃武器:パチンコ、弓矢、ボーラ
 基本的に船上に乗り込んできた鉄帝国軍やイレギュラーズに対して攻撃を加えますが、クルーの一部は砲撃の為に砲台に向かう様子あり。
 船体の様子:砲台は正常に稼働するらしい。船体自体は朽ちており、強い衝撃を与えれば床が抜けて足が取られる危険あり。

●鉄帝国軍
 地位のある軍人と信奉している様子の部下三人。
 いずれも義手や義足を有している。
 地位ある軍人はハンマーと徒手を得意とする様子。
 部下達は長剣を得意としている。
 説得しても素直に聞く様子は無いと思われる。
 引き上げさせるには重傷を負わせるか、船員を殲滅させるかのどちらかしかない。

●重要な備考
<鎖海に刻むヒストリア>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

 皆様のご参加をお待ちしております。

  • <鎖海に刻むヒストリア>船上の不協和音完了
  • GM名古里兎 握
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年05月23日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
冬葵 D 悠凪(p3p000885)
氷晶の盾
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
ミィ・アンミニィ(p3p008009)
祈捧の冒険者

リプレイ


 友軍である鉄帝の軍人が船に先行したのを見て慌てて追うレギュラーズ。彼らから逸れ、一人強風に煽られながらも飛行している者が居た。
 『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)。彼が向かう先は同じく友軍である船。ただし、こちらは海洋軍船の方だ。
 甲板に立つ海洋軍船のクルーに向けて、風に影響されないハイテレパスで念話を試みる。
「鉄帝の一部が幽霊船に乗り込んだみたいだ! まだ鉄帝の船には兵が残ってる! もし砲台の攻撃を受けて遭難するような事態があったら救助をお願いします!」
「わかった!」
 声が無事に届いた事、また、返事を貰えた事に胸を撫で下ろす。
「オレは幽霊船に乗り込んだ人達の加勢に行ってきます!」
「お気をつけて!」
 互いに力強く声を張り上げた後、一悟は翻って幽霊船に飛んでいった。
 自分が着いた時、果たしてどんな戦場になっているのだろうか。

 追いかけて船に降り立ったイレギュラーズの位置は、鉄帝の軍人達のすぐ近くだ。船上では、軍人達と幽霊船のクルー達が睨み合いの状態になっている。
 それを見て、『Ultima vampire』Erstine・Winstein(p3p007325)は口の端を釣り上げて呟く。
「あら、鉄帝国軍の皆さんも来ているのね……。まぁここは助けると言うよりも、お力をお借りした方がお互い良い関係になれそうかしら、ね?」
 鉄帝の軍人、その数は四人。
 風が強い事もあり、彼らの耳に届いたかどうかは不明だが、彼女の近くにいた仲間達には届いただろう。
 マルク・シリング(p3p001309)が、最初に賛同の意思を示した。
「僕も同じ考えだよ」
 そう言うと、鉄帝の方へ向き直る。
「ローレットです! 名の有る鉄帝軍人の方とお見受けしました! 友軍として共闘させてください! 支援します!」
 彼の言葉に続けるように、共闘の申し出をしたのは、『胡散臭い密売商人』バルガル・ミフィスト(p3p007978)。
 人の良さそうな笑みを浮かべてはいるが、貴公子然とした仮面を付けている様は、称号の通りの胡散臭さを醸し出している。
 彼は自身が得ている飛行手段で軍人達に近づくと、軍人の一番格のありそうな人物と視線を交わした。相手が口を開く前に言葉を放つ。
「あちらの彼と同意見です。共闘を申し出たい。なんなら、そちらの指揮下に参入しても構いませんよ」
 崩さぬ笑顔のままの男と黙って聞いている男。
 時間にして数秒にも満たぬだろう。
 軍人の主将格は、口元に笑みを浮かべる。
「わかった! そうしよう!」
 不遜な態度を取る鉄帝軍人達。
 どういう態度にせよ、共闘の申し出に対して良い返答を貰えたのは安心できるポイントだろう。
 ひとまず胸を撫で下ろす中で、『氷晶の盾』冬葵 D 悠凪(p3p000885)が叫んだ。
「来ます!」
 自分達に向けられる敵意。
 軍人達に放たれる殺意の矢は、追い風を受けて進む。悠凪が彼らの前に出て大盾を構えた。
 鏃が大盾に当たるが、ダメージを与える事なく朽ちかけた床に落ちていく。
 彼女の持つその盾が、鉄帝で使われる物と分かり、軍人達が豪快に笑う。
「はっはっはぁ! いいぜ、嬢ちゃん! その盾を使ってくれや!」
「はい」
 どうやら、鉄帝の物である事が好印象を持ってもらえたようだ。
 イレギュラーズに対して少しでも印象が良く残るのなら幸い。これを機にこの不安定な場での戦闘を滞りなく進めていきたい。
 弓矢に紛れて、別方向から近づいてこようとするクルー。それを阻止しようと軍人の部下が迎え撃つ。
 やり合う姿を見て、『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は「鉄帝の人は元気がいいねぇ」と頷く。誰かが聞いていたら「それでいいのか」と突っ込まれそうな言葉だが、強風のおかげでその声はかき消された。
 動き始める皆を見つつ、密集している場所へ雷撃を放つ。対象を定めた一撃によるそれは、瞬く間に複数のクルーを巻き込んだ。自軍を巻き込まないのは区別をつけているから。
 虚弱ゆえにあまり大きな動きが出来ない彼は、今の一撃を見た別のクルー達の反応を窺う。誰かが指揮をしているのならばどこかで見ているはずだと思ったのだが、あちこちで密集しているからか、目立った動きを見つける事が出来なかった。
 諦めずに、次の行動をするムスティスラーフ。
 離れた所では、『祈捧の冒険者』ミィ・アンミニィ(p3p008009)が名乗りを上げていた。
「私の名はミィ・アンミニィです! この鎧であなた達の攻撃を防いでみせます!」
 強風に負けないように張り上げられた声は、クルー達の注意を惹きつけるのに十分だった。三メートルという高身長もあって、殊更によく目立つ。
 鉄帝を中心にして立ち回ろうとするのは『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)。身の丈の半分以上はある長剣を構え、気合十分に振り回す。ゼシュテル鉄帝国と関われるとなると、彼としても熱が入るというものだ。
 乱撃は周囲の敵を捉え、船上に肉を落とす。悲鳴がオリーブの耳に入るも、彼が気にする様子は無い。
 視界の端で、砲台に向かおうとするクルーの姿を見つけた。
 その動きを止めようと足を踏み出しかけたオリーブだが、激しく瞬いた光が敵の姿を捉える方が先だった。
 放ったのはマルクだ。邪悪を裁くネメシスだが、しかしそれは命を奪うに至らない。
 確実な止めを刺す為に、オリーブの足踏み出され、剣が鈍く煌めいた。


 剣の音、攻撃を防ぐ盾の音、魔法による音。
 それらがひしめき合う船上に、遅れて降り立った一悟。周囲を観察し、指揮官を探そうとするがこの乱戦では見つかりにくい。
(なら……)
 彼の脳裏に閃いたある一つの考え。
 それを実行すべく、船上を飛んだ。
 彼が向かうのは船内への入口。船のどの辺りにあるのかは何となくわかる。
 そして、彼は目当ての入口を見つけるとそこへ迷わず踏み入れた。
 探す場所は船長室。このクルーの数からして、船長としての別室はありそうだという勘が働いたからだ。
 暫く飛び、そしてここではないかと思う部屋を見つける。
 朽ちかけた木の板に下げられたプレートには「船長室」の文字があった。
 クルー達が追いついてこないように祈りながら、彼はそのドアを注意深く開けていく。

 一悟が船内に入っていったのを見たのはイレギュラーズの中でも数名ほど。鉄帝軍人達にも先程の彼の姿は目に入っていたようだが、あえてそれを聞く事はしない。
 戦闘に余裕が無いのか、もしくは余計な事を言ってクルー達が反応しないようにするのを想定したか。
 どちらにせよ、誰も口にしないのは幸いだ。
 軍人の振るうハンマーがクルーの一人を吹き飛ばす。振り回しながらも、足元の床が抜けないのは流石というべきか。
 部下である軍人達も長剣を振るっている。
 友軍としてなら心強い彼らだが、やはりイレギュラーズと同じように傷は負う。
 生じた怪我を癒やすのは、マルク。
 主に負傷具合が酷い者を対象に祝福と言う名の治療を施す。
「礼は言っておく!」
 自分達と共闘するという意志をしっかりと感じ取ったか、軍人達からの言葉に安堵するマルク。
 彼としても、回復や遠距離の攻撃をするだけではない。両手に持つ杖を振り回し、近接攻撃をしかけてくる者達との距離を取る。
 しかし、飛び道具に対してはどうしようもない。
 自分を中心に回復をして、それからまた攻撃をする。その繰り返しだ。
 彼の近くでは飛び回っていたムスティスラーフが立ち止まっていた。大きく息を吸い込み、次に放ったのは緑の閃光。狙うは砲台に辿り着いた敵。
 閃光は砲台ごと敵を葬り、それを見たムスティスラーフは満足げに頷く。
 立ち止まった彼を狙わない筈がなく、パチンコ玉が襲いかかる。
 飛んで避けようとしたムスティスラーフだが、風に煽られて向きがパチンコ玉に向けて正面を向く形になってしまう。
 パチンコ玉は彼の右胸(正確には乳首のあるだろう辺り)に当たることとなった。
「いっつ……!! もう、えっちだね!!」
 着ている鎧の効果で何故かえっちな目に遭うとはいえ、それはえっちでいいのか? どっちかというと痛いしか無さそうなのだが。
 まともなツッコミをしてくれそうなイレギュラーズは居るのだが、戦闘中の今、それを言える者は居ない。
 ミィの方も、主に防御へと回っている。事前に食べておいたドーナツのおかげで、船体へさほど大きな負担もかけていない。
 怪我人を癒やす間の隙を狙われないように防御に徹し、必要とあれば自分で自分に治癒を施す。
 自分自身を防御の塊として動く彼女。三メートルの巨躯は、鉄壁の守りと呼ぶに相応しい。
 同じように、防御に徹するのは悠凪。彼女は大盾を構えて飛び道具や近接武器を防いでいた。
 基本的には鉄帝をカバーする形で動いている彼女だが、イレギュラーズを忘れたわけではない。
 Erstineが氷の刃を振るう。大鎌のように振るわれたそれを受けて、一人のクルーが船上に倒れ、肉塊と化す。
 次の動作に移る前に、隙を突いて現れた敵へ悠凪が駆けつけ、その攻撃を盾で耐えた。
 響く音が消えた後、Erstineが感謝の言葉を紡ぐ。
「助かったわ」
「お気をつけて」
「ええ」
 短くも、しっかりと交わされたやり取り。
 悠凪の影から姿を見せて、Erstineはもう一度氷刃を新たな敵へと振り下ろした。


 Erstineと同じように至近距離で武器を振るうバルガル。しかし、彼の場合は自身の拳が武器である。
 船体に与える衝撃がどこまで通じるのか。それを確かめるためにも、銃の名を冠した拳の一撃を放っている。
 敵の攻撃を掻い潜り、放たれた一撃は衝撃波を伴う。
 それを繰り返しつつ、どうやらこの一撃では船体に影響は無さそうだと判断する。
 敵の攻撃を避けきれずに怪我を負う事もあったが、時折癒やしを施されるのを感じとっていた。
 弓矢を放ったばかりのクルーに肉薄し、次なる一手を繰り出す。憎悪の爪牙を敵の体に突き立て、確実に死を与える。
「しかし、既に死んでいるのに、息の根を止めるとはどういう事でしょうね」
 彼の浮かんだ疑問は呟きとなって溢れるが、それに答えてくれる者は周囲には居ない。
 既に事切れた者ばかりなのだから。

 勢いよく開けられたドア。現れたのは、何かの装飾品を持った一悟。
 彼が持っている装飾品は、よく見ればペンダントのようだった。
 突然の乱入者にクルー達が向かっていく。
 彼らを飛んで避けながら、一悟は出来る限りの声量を発した。
「メアルドル!!」
 何の言葉か。それをこの場で理解しているのは、一悟ともう一人。
 一悟へと振り向いた一人のクルー。船員と似たような服をしているが、彼だと確信を持って、一悟はもう一度声を張り上げた。
「そいつが船長――指揮官だ!」
 彼の言葉を受けて、イレギュラーズと鉄帝軍人達の目の色が変わった。
 クルー達の中に紛れ、逃げようとする船長。しかし、悲しいかな。既にクルー達の数は減り、今やイレギュラーズと鉄帝軍人達を合わせた人数とほぼ同等ぐらいの数となっていた。
 加えて、揺れる船体と強風。慌てて行動している者が辿る道は一つしか無く。
 突如、大きく揺れる船体。飛行手段を持つ者と、意識してバランスをとっていた者達が足を取られる事は無かった。
 無事ではないのは船長とクルー達だ。朽ちかけた木の板に足を突っ込んで身動きが取れなくなった者、船体にうつ伏せに転んだ者など、反応は様々だが、全員に共通しているのはすぐに立て直しが出来ない態勢であるという事。
 そんな彼らをイレギュラーズと鉄帝軍人達が取り囲むように動いたのは必然と言えよう。
 一悟がトンファーに火炎を纏わせて、船長へ振り下ろす。燃え盛る船長の体からは異臭がした。
 のたうち回るその体への止めを、鉄帝軍人へと譲る。
「この炎だけでは止めをさせないので……お願いします」
 彼の言葉を受けて、軍人達の内部下は上司である軍人に向けて道を作る。
 為すべき事を知った男は、無言でハンマーを振り下ろした。
 息の根を止められたその遺体は、木の板に穴を開けて、ゆっくりと穴の底に向かって落ちていく。火の玉が地獄への明かりのように照らされているようだった。


 残りの船員の息の根も止めたイレギュラーズ。
 先程のハンマーによる衝撃かは不明だが、幽霊船が崩れかけているのが地響きから知る。
「戻りましょう!」
 バルガルの言葉を受けて、軍人達は走る。飛行能力を有する者達は飛んでその場から脱出する。
 Erstineが、飛ぶ間際に軍人達へ声をかけた。
「……皆さんのお力もあってなんとか切り抜ける事が出来たわ。鉄帝の皆さん、共闘どうもありがとう」
「そりゃどうも」
 すぐにErstineもその場を離れる。
 少し離れた場所から様子を見ると、軍人達も無事に自分達の船に乗り移れたようだ。イレギュラーズを、特に悠凪に向けて手を振っているように見えるのは気のせいだろうか。
 同じように手を振り返すイレギュラーズの中で、オリーブが悠凪に羨望の声をかける。
「気に入られました? 羨ましいですね」
「……気に入られた、んでしょうかね……?」
 困ったように笑う悠凪。
 沈んでいく幽霊船を静かに見つめる一悟へ、ムスティスラーフが「どうしたんだね?」と声をかける。
 何と答えようか迷っている彼の反対側で、マルクが「おや」と呟いた。
「そういえば、それは一体……?」
 彼が持っている装飾品に気付いて指をさす。
 ペンダントのような、と思っていたが、どうやらペンダントそのものらしい。ロケットペンダントだと説明する一悟。
 それに彫られているのは、文字。それには「メアルドルへ」と書かれていた。
「船長室にあったんだよ。だから、船長の持ち物かと思って」
「なるほど、あの時呼んだのは名前だったんだね」
 得心がいったと頷くマルクとムスティスラーフ。
 ペンダントを見つめながら、一悟は胸中で呟く。
(家族はもういないかもだけど、ちょっとした慰霊碑を立てることぐらいはしてやりてぇな)
 戻ったら出来るといいのだが。
 ようやく自分達の船にたどり着いて、ふぅと息を吐き出すミィ。
「疲れました……!」
「でも、本番はこれからよ」
 突如自分の隣でした声に驚くミィ。
 見れば、Erstineが楽しそうな笑みを浮かべて立っていた。
 意気込むように、彼女は力を込めて言の葉を紡ぐ。
「さぁ、アルバニアはもうすぐそこだわ。気を引き締めて……挑んでいきましょ、この絶望の青を超える為に……!」
 風は強く、船体は揺れる。
 それでも船は進む。新しき未来を掴む為に。
 今しがた戦った幽霊船の分まで掴もうと、希望の船は進んでいく。

成否

成功

MVP

奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬

状態異常

なし

あとがき

指揮官も無事に判明し、全滅させる事が出来ました。
鉄帝軍人達も無事に引き上げられたようです。
誰とは申しませんが、ある装備を見た時にどこでどうさせようか悩んだのが今回の悩みどころでした。
戦闘より悩んだ某場面でした、という。

改めて、皆様お疲れさまでした!

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