PandoraPartyProject

シナリオ詳細

悪食ディナーはクローズの後で

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●招かれざるお客様
 枇杷にメロンにさくらんぼ。5月の旬の果物はパフェ映え抜群だ。
「お待たせしました。季節のパルフェです」
 宝石のようにキラキラと輝くそれを口いっぱいに頬張って、子供達が美味しいと歓声をあげる。
(うんうん、いい笑顔だ。ファミリー連れのお得意さんも増えて、いよいよ店も軌道にのってきたなぁ)

 異世界のCafe&Bar『Intersection(インターセクション)』。オーナーの代役としてカフェタイムは境界案内人の神郷 蒼矢(しんごう あおや)が切り盛りしている。
 最初は仕事の一環として発生した仕事に二足の草鞋は履けぬと文句を垂れ流していたものの、今ではこの生活にすっかり馴染んでいるのだった。
 元々料理を作ったりレシピを考えるのは好きな方だが、誰かのために腕を振るう機会もなかったために、お客さんのリアクションひとつひとつが新鮮で、それが嬉しかったりもするのだが。

(……あれ? あのお客さん、全然食べてないなぁ)
 ふと視線をやった先、2人掛けのテーブル席で独りの男がフォークでケーキをつついている。
 一見食べかけのように見えるそれは、よく見れば崩しているだけで一口も食べた様子がない。
「すみません、お口に合いませんでしたか?」
 気になって声をかけると、男はようやく見られている事に気づいたようだ。コバルトブルーの垂れ目がちの目を蒼矢へと向け、申し訳なさそうに笑う。
「えっ? あー……にゃはは。いやぁそうじゃなくて、待ち人を待ってからにしようか迷ってたら、なっかなか手がつけられなくて~!」
「待ち合わせでしたか、失礼しました。……紅茶、冷めてますね。お取替えしましょうか?」
「マジ? なんか悪いなぁ」
 過剰なサービスはするなと怒る相棒の姿が脳裏をよぎったが、今日くらいだと振り切って紅茶のポットを新しいものに差し替える。
「どうぞ。……待ってる人、早く来るといいですね」

 時計を見れば、おやつ時だ。
 客の入りがピークに達して対応に追われる内に、蒼矢はその男の存在を徐々に忘れていったのだがーー。

●待ち人
 夕やけの赤い光が店内を染め上げる。カフェタイムの営業時間も終わり、徐々に客の姿も薄れ。やり遂げたと安堵の息をついた蒼矢の視界に入って来たのは、あの人待ち男だった。
 崩されたケーキはそのままで、ティーカップだけが空になっている。
 彼の向かいの席には結局誰かが来た形跡もなく。
(彼女にすっぽかされでもしたのかなぁ、でも閉店時間だし……うぅ、声かけ辛いよぉ)
「あのー、残念でしたね。待ってる人こなくて……」
 おずおずと声をかけた後、他にももっとマシな声のかけ方があるだろうと蒼矢は後悔したのだったがーー。

「いや、待ち人ならもう居るよ」

 返ってきた言葉に驚いて目を見開く。その隙に男は立ち上がり、蒼矢の首へと手を伸ばした。ギリ、と首を絞められる。
「かはっ! ……な、……!」
「ずっとアンタが一人になるのを待ってたんだ。いっぺん食べてみたくてさぁ、料理の腕が立つ人間! いい飯食ってる家畜って美味いモンらしいじゃーん?」
 男は異様なほどの怪力で、気管を潰す手を押しのけようと蒼矢は精一杯もがいたが、小指ひとつビクともしない。
 どうするべきか考えようにも、酸素の足りない頭ではなかなか思考が纏まらず。
(もう、だめ……だ……)
 蒼矢の意識が薄れたその時、ガタンとスタッフ用の通用口で音がした。

 男が振り向くとそこには、カフェの店員コスチュームを纏った四人の特異運命座標の姿。互いに「どちら様?」と言わんばかりの空気を滲ませて、先に口を開いたのは怪しい男の方だった。
「ちょい待ち、ジョーダンでしょ!? この店にそんないっぱい従業員いるなんて事前調査でも出てこなかったんですけど!」
「けほっ。……か、彼らは従業員じゃないよ。今日はたまたま、閉店時間の間にお料理教室をやろうって集まって貰っただけで……」
 首を絞める手が緩み、意識を取り戻した蒼矢。何とか一命を取り留めたものの、その首元に今度はナイフが宛がわれた。

「じゃあ君達、その料理教室に通った腕前でさ、俺へのディナーを作ってチョーダイよ。
 美味しかったら大人しく帰ってあげる。でも、もし不味いものを出したらその時はーー」
 店長さんがディナーになるよ。
 凄みのある言葉に、その場の誰もが言い出せなかった。

 今回がお料理教室の第一回目である事をーー。

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 さぁ、大変な事になりました。食わせるか食われるかの大事件です。

●目標
 ディナーを作り、悪食ルッツォを退店させる

●登場人物
 悪食ルッツォ
  今回の事件の首謀者。カオスシードっぽい姿をしていますが、常人ならざる怪力から人間の姿をした別のナニカのようです。性別は男性。
  外見年齢は三十路くらいで、垂れ目がちの二重瞼が特徴のイケメンです。

『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)
 悪食ルッツォのディナーに選ばれてしまった不運な境界案内人。このカフェの店主でもあります。

●場所
 異世界にあるCafe&Bar『Intersection(インターセクション)』の店内。
 厨房にはよくある食材はもちろん、珍しい物まであるようです。

●その他
 料理は皆さんでそれぞれ好きなものを作っても、協力してひとつの物を作っても問題ありません。どんなディナーを作るかは皆さんに委ねられています。

それでは、よい旅路を!

  • 悪食ディナーはクローズの後で完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年05月16日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ソア(p3p007025)
無尽虎爪
ジェラルド・ジェンキンス・ネフェルタ(p3p007230)
戦場の医師
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
長月・イナリ(p3p008096)
狐です

リプレイ

●悪食ディナーは騒がしい
「ちょっとちょっとぉ! 何なのよアンタ!」
「うっうっ……これでお洒落で可愛いボクのスペシャリテを教わるはずだったのにぃ……ふぇ~ん」
「見なさい、ソアが泣いちゃったじゃない!」
 モフモフの両手で顔を覆った『雷虎』ソア(p3p007025)の背中を、可哀想にねぇと優しく支える『戦場の医師』ジェラルド・ジェンキンス・ネフェルタ(p3p007230)。突然の泣き落としにルッツォも驚きを隠せない。
「俺のせい!?」
「どう考えてもお前のせいだろ」
 他に誰がいるんだと『凡才』回言 世界(p3p007315)がすかさず追撃する。

「本当ならそれで大好きな彼にご馳走してあげて。それでそれでっ……いっぱい褒めてもらってその続きも……!
ーーところで、覚えたての言葉ってとにかく使いたくなるよね?」
「ぅおい、泣き真似か!」
 俺の純情を返せとルッツォが叫べば、蒼矢の首元に宛てられたナイフが小さく揺れる。
(ヒィ! 本当に殺されちゃうから!誰か話の軌道修正してよぉ!)
「落ち着け」
 蒼矢の心の叫びを聞き取ったかのように口を挟む世界。
「俺達が美味い物を作らないと店長が食べられてしまう……。つまり考えようによっては、俺達が食べられる心配は無いという事だ。ならばテキトウに作っても……」
「ぜがい゛ぃ゛ぃ゛!」
「いや冗談だよ。面倒だがなんとかするさ」

「あれがモンスタークレーマーって奴ね……よし、この剣で物理的に排除を……」
 ここで満を持して『御稲荷様の新米眷属』長月・イナリ(p3p008096)が歩み出る。
 駄目? と念のため周りに聞くが、止める者は蒼矢を除けば誰もいない。
「分かったわ! いざ尋常に勝負っ!」
「人質いるんですけどーー!」
 悲しきかな。少数派の意見はいつだって握る潰されるものなのだ。

●お料理の時間
 結論から言えば、ただの徒労に終わった。
 あれから追い掛け回す事、小一時間。誰もルッツォに触れられず、最後には料理を食わせてとっとと帰そうという話に落ち着いたのだ。

「さて、料理あんまり出来ないけどどうしようかしらね?」
 知らないから学びに来たのに。イナリは悩まし気に息をつき、コンロの前で腕を捲った。
「新鮮で何か美味しそうな食材を……こう、全部鍋に放り込んで……。うーん、これは豚骨スープ? これはコンソメスープ、魚粉……うん、全部入れましょう」
『適量』という言葉は死んだとばかりに掴んだ物を手当たり次第、火にかけた鍋にぶち込み始める。
 胡椒どばー。塩どばー。砂糖どばハバネロ粉どばばー。
「これをグツグツと煮込んで……何か足りないわね、この間、露店で売っていた不思議な味の虹色の液体も入れましょうか」
「あの子さっきから様子見る度に『何か入れる』しかしてないぞ」
 戦慄するルッツォの前でイナリはそのまま味見を一口。
ーーボンッ! と耳から虹色の煙を噴き出る煙。例えるならその味は超☆新☆星☆爆☆発!
「無かった事にしましょう」
 臭いも凄いし、と鍋ごと料理を捨てる折、世界が何かを読んでいるのが視界に入る。
「やっぱりレシピ本が無いと私にまともな料理は無理だわ、今からレシピ本を買いに行く? 無理ね……」

「何を読んでるんだ?」
 ジェラルドの問いに、世界は無言で本を掲げた。
『カチューシャを着けた女々しい男でも作れる戦国料理』

「痒い所に手が届くどころか、痒い所にしか手の届かない料理本ね……」
「俺に美味い料理を作るスキルは皆無だ。そういう時はどうするか?
 決まってる、料理の本を開いて書いてあるとおりに作るのさ」
 タイトルは気に入らないが、背に腹は代えられない。材料を袋に入れて振り、出来上がったものを捏ねる。丸めて球状にしたら、蒸気の上がった蒸し器に入れてーー。
「後はきな粉をまぶすだけか。これくらいならば俺でもなんとか……なん、だ……?」
 食材が蒸し上がるまで待とうと一息入れた彼の視界へ飛び込んできたのは、散らかる厨房。その中央ではソアが独りで立っていた。

「野菜を切ったあとどうするんだっけ? ……うぅ、玉ねぎ切るの嫌だなあ」
 好物のシチューを目指してあれこれやったけど、キッチンを散らかしただけ。

「思えば前にカレーライスだって上手く作れなかったのに。いきなりご馳走を作れって言われても無理だよ……」
 せめて、食べたいものが分れば作りようもあるのに。ソアの視線の先でルッツォは調子外れの鼻歌を口ずさんでいる。

(そもそも蒼矢さんを食べるってどういうことなんだろう? 丸かじりにでもするつもり?)
 恐いけど例え料理するにしても、まともな物になるとは思えない。意外と何を食べても美味しいって言ってくれたりして……?
 自信をもっていこう、料理に大切なのは笑顔って聞いた気がする!
「止め止めっ、今の僕に出来ることでいくよ!」

 見識を広める為に参加したお料理教室が"命懸けのディナータイム"に変わるなんて。
「全くとんだ災難ね……」
 溜息混じりの声とは裏腹にジェラルドの目は真剣だ。フライパンの上で炒めた野菜の上へ、頃合いだろうと鶏肉を入れる。
(ディナーは時間かけて作りたいもんだが、あんまり待たせても蒼矢が可哀想だしな。
 カフェメニューにありそうで、手早くガッツリ量があっても見目好し、だいたいみんな大好きだろうってもんはコレか)
「美味しいもの食わせてやるよ」
 大盛りライスを入れて、塩胡椒とトマトケチャップで味付けを。サッとお皿に移したら、次の準備に取り掛かる。
「最近だとオムレツ乗せて真ん中に切れ目入れてトロトロ〜とか良くやるけどな。やっぱり元祖と言ったら薄焼きだろ」
 フライパンにチキンライスを戻し、卵でくるくるっと優しく包む。
「あとは盛り付けとサイドメニューだな」
 出来は上々。仕上げの準備にも余念がない。
(と言うか、これでちゃんと蒼矢は解放されるのか? 全く困った客だぜ……)

●実食の時間
『まっず! 犬の餌かよ』
 その天使は名の通る美食家だったが、批評の辛辣さが災いし、神の怒りを買ってしまった。
『ルッツォ、評価される側の心を大切にしなさい』
『知らね。マズい物をマズいと言って何が悪い?』
 罰として与えられた呪いは天使の舌を狂わせる。何を食べても味がない。絶望した彼が縋ったのは、神が残した最後の一言。
『お前の空腹を癒すのは、心のこもった料理だけだ』

(心のこもったって、どういう事だよ。材料として入れろって事か?
……嗚呼、じゃあ。一番心が強そうな人間を食えばいいのか)

「キャーー!!」
「っな、何だぁ!?」
 野太黄色い声にルッツォがのけぞる。声の主ーージェラルドに手招きされるがままに近づくと、そこには湯気を立てるコンソメスープと彩豊かなサラダ! しかしそれ以上に目を惹くのは、やはりメインのオムライスだろう。
「見てよこの美しい楕円! 盛り付けもバッチリ!味もバッチリよ!素朴で優しいお母さんの味!
 何なら別添えのケチャップでハート書いてあげましょうか? さぁさ、召し上がれ!」
「ハート……」
 目の前で綺麗に描かれたハートを崩して、ライスと卵を絡めるように掬い取る。ふぅと息を吹きかけてから食べた一口は、安心できる優しい味で。
「——あぁ、最っ高……」

 美味しさの余韻に浸るルッツォの元に、今度はイナリがやって来る。
「最高の素材、その素材を活かした料理、これで勝負よ!」
 どーん! と勢いよく出されたのは和の心が籠ったおにぎりセット。色艶のいい白米に、思わずルッツォが唾を呑む。
 そのまま豪快にかぶりつくと、梅とお塩の絶妙な塩加減に「うっま!!」と声が上がった。
「『水穂国の実』っていう特別な品種のお米をギフトで育てて使ったの! ほら、沢庵とお茶もあるわよ!」

 ソアとルッツォの目があえば、彼女は満面の笑顔と共に炊飯器を取り出した。目の前でお茶碗に盛って、そこに玉子を割って乗せる!
(殻が入らないように丁寧に……うう、手がプルプルする)
 お盆にお醤油と旨味調味料を乗せて、目の前で出来上がりっ!
「お待たせ……じゃーん! T・K・G!(たまごかけごはん)」
(ああ、ドキドキする! 男の反応を待ってると一生懸命作った笑顔が固まってしまいそう!)
 ずるずる、もごもご。咀嚼するルッツォとソアの目が再び交わる。上目遣いにドキドキと様子を伺うソアへ、彼はクスッと可笑しそうな笑みを向けた。
「ふっは、そんなに見られちまったら照れるでないの。ちゃーんと美味いよ」

 そうだ、ちゃんと味がする。加えて不思議と身体が温まるような多幸感。
(……あー。これが心をこめる、だったんだな)

「いい食いっぷりだったな」
 米粒一粒残らず食べ切ったルッツォの元に、世界が皿を持って現れた。目の前に置かれたそれは、ぱっとみ黒い点のよう。
「本当に食い物なのか?」
「デザートの兵糧丸だ。戦国時代の携行食を甘めに作ってみた」
 ころんと口の中に放り込むと、カロリーがガツン! と舌に訴えかける。
 強い甘みは嫌いじゃない。気に入ったらしく飴のように兵糧丸を転がすルッツォへ、さぁと世界が腕を組む。
「デザートを食べた後に、メインディッシュを戴く無粋はないよな。つまりアンタは店主を食う資格がないって訳だ」
「その発想はなかったわ! 策士ね世界」
 イナリにストレートに褒められ、照れを隠すように頬を掻く。
「実のところ彼がどうなろうとも俺は構わないんだがまあアレだ……。この後の料理教室の為にわざわざ出向いたのに徒労になっちまうだろ。そういう訳で満足したらさっさと帰ってくれよ」

 全員の視線を集めるルッツォ。
「そーね。こんだけ美味いもんいっぱい食ったら、流石にご馳走様だ!
 美味しかったし、また来るね?」

 また。

 そう告げる彼の片手には料理教室のチラシが握られていた。
 誰かが何か言う前に、男は白い大翼を広げ、光となって消えていきーー残されたのは、羽一枚。

成否

成功

状態異常

なし

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