PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<鎖海に刻むヒストリア> 誘蛾灯は破滅へと誘う

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●誘蛾灯は誘う
 洋上へと投げ出された幽霊船の兵士を。巨大なシャチの狂王種が飲み込んだ。幽霊船の船体は大きく二つに割れて、海の藻屑へと成り果てる。
「ンー、いくら熟練とはいっても、海は狂王種の庭。ドレイクの部下っていっても、たいしたことないネ」
『ナイトライト』フィフィ。チョウチンアンコウの海種であり、ギャング集団《ワダツミ》の構成員である。
 フィフィは青白い光を灯すカンテラで、狂王種と幽霊船をひきつけては、互いにぶつけて”遊んで”いた。
 どちらが勝つか見守っていたが、今回は幽霊船の人数が少なすぎた。最期の一人が海へ投げ出されるのを見て、興味をなくす。
「ンー、なんか、つまらないね? 多勢に無勢をぶつけても戦力差がありすぎるよね。難易度調整が必要カナ?」
 もっと獲物を、というように、狂王種が大きな尻尾をふる。
「ここにいたらフィフィまで危ないや。きひひひっ、まっててネ、今生きのいいのを連れてくるから」
 フィフィにとっては、海洋王国の情勢など、どうでも良いことだ。
 フィフィの目に映るのは、今、この瞬間の楽しさだけ。

●前門の狂王種、後門の幽霊船
 海洋王国・ローレット連合軍の船が、『絶望の青』へと向かってゆく。
 魔種アルバニアを引きずり出すために。

 絶望の青は、気の狂うような場所だ。
 風は吹き荒れ、天候は定まらない。さきほどまで快晴が続いていたかと思えば、ねじれた激しい雨が吹き付ける。
 それでもなんとか船を操作できるのは、彼らが海洋の熟練した海兵であるからだ。
「なんだ、この海域は……!」
「報告します、艦長! 前方の敵はシャチ型の狂王種……それと、あれは……!」
 彼らの部隊が相手取るのは……凶暴な狂王種(ブルータイラント)と、絶望の青で果てた幽霊船(ワンダーサーペント) 。
 前者はアルバニアの駒であり、後者は海賊ドレイクの駒だ。
 誘い込まれたのだと気がつくだろう。
 三者は、それぞれ睨み合い、動かない。
 奇しくもそこへやってきたのが、イレギュラーズたちだった。
「さあ、どうなるか見届けさせてもらうからネ」

GMコメント

同じ敵を倒すために一時休戦するのは熱い展開ですね!
とはいえないようです。幽霊船だし。
というわけで、3つ巴の状況です。うまいこと料理してやってください。

●目標
狂王種の討伐
+(幽霊船の撤退もしくは討伐)

●状況
現在、アルバニアの指示を受ける狂王種、ドレイクの支配を受ける幽霊船、そしてイレギュラーズ側の海洋王国の船が三つ巴の状態にある。

海洋王国の船の前方にシャチ型の狂王種、後方に幽霊船。

狂王種は海洋王国を敵と定めており、ドレイクの手駒である幽霊船は、様子をうかがっている。

●敵勢力
狂王種キラーホエール……シャチ型の狂王種。凶暴だが、フィフィが遊んでいたため若干手負いである。
それでも油断できる弱さではないが。

武器は牙と水を使った物理攻撃。たまに洋上に飛び跳ねる。知能はそれほど高くないようだ。
海洋王国船を敵と定めているが、近寄るものみんな攻撃する。

幽霊船……海賊ドレイクの支配を受ける幽霊船。
生者に酷く嫉妬し、取り分け絶望の青を攻略せんとする者を、己が果たせなかった夢を追う者として憎悪している。

基本的には狂王種のほうと敵対している。
現在は漁夫の利を狙って静観中だが、イレギュラーズたちに砲撃してくる可能性がある。
攻撃されれば狂王種に反撃、もしくは撤退する可能性がある。

狂王種を優先した後、海洋王国とイレギュラーズたちの戦力が十分でなければ攻撃してくるだろう。ほか、状況に応じて行動する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●重要な備考
<鎖海に刻むヒストリア>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

  • <鎖海に刻むヒストリア> 誘蛾灯は破滅へと誘うLv:10以上完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年05月23日 22時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標

リプレイ

●挟撃
「あちゃあ、挟まれちゃいました……?」
『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)はかわいらしく首をかしげた。
「こいつは流石に笑えねぇ状況だ」
『濁りの蒼海』十夜 縁(p3p000099)は、親指で敵との距離を測る。
 敵は、二体。
「どうも上手いこと誘い込まれちまったみてぇだなぁ……やれやれ、先を急がなきゃならねぇってのに」
「流石に船は庇いきれませんね……こうなったらヤケクソでも突撃して……?」
 玉砕覚悟といった口ぶりに聞こえるが、とんでもない。利香の目は妖しく輝いている。
 少なくともイレギュラーズたちは、黙って引くつもりはない。
「前門のシャチ、後門の幽霊船か」
『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)は、めざとくこの絶望の青の世界を見据えていた。
「ドレイク様の部下である幽霊船が狂王種と敵対している……ということはドレイク様は冠位魔種アルバニアに敵対している?」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は、相手の思惑を推し量る。
「とにかく、睨みあってる場合じゃないな。俺たちは必ずこの先へ行き、ネオ・フロンティアを踏みしめるんだから」
『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233)は、海兵たちを勇気づけるようにぐるりと見回す。
「女王陛下のためならば何だってしてみせよう。誰一人欠けさせたりしない!」
 その献身は、ただ、イザベラ・パニ・アイスために。
「ああ、何が狙いか知らんが、生憎とこんな所で海の藻屑になる気はねぇわけで。さっさと片付けて進むとしようや」
 縁は不敵に笑う。
 どこか諦めたような笑みでもある。だが、芯の強い、決意のある笑みだ。
「廃滅病の大元を倒す為の大事な戦いだね」
『穢翼の死神』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)に体を貸した少女は、自身と言葉を交わす。ティアはこの世界に召喚され、少女の身体を借りている天使だ。
『狂王種は少し手負いだそうだが油断せず確実にやっていけよ?』
「分かってるよ、廃滅病に罹ってる仲間を助ける為にもここで負けられない、私達は私達に出来る最大の事をやっていくよ」
「モンスターと死に損ない共との乱戦か……タイマンの方が好きなんだけどな、HAHAHA!」
『人類最古の兵器』郷田 貴道(p3p000401)は、渡り合える強者を求めている。この窮状への感想は、彼にとっては「万全でないのは残念」といったものだ。
「むう、ちと厄介だな。だけどうまく行けば両取り出来るか?」
『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)は網をかける算段をつけていた。
「ピンチではあるが、逆にチャンスに変えられる可能性はありそうだ」
 相手の動向を見守っていた利一が頷いた。
「さーて、漁に出ようじゃないか!」
「ああ、決戦に向けた前哨戦だ、きっちり片を付けていこう」

「シャチってのは滅法頭が良いらしいね?」
『一兵卒』コラバポス 夏子(p3p000808)は、背伸びをして狂王種をその視線の先に見る。
「何でも集団で狩りをするとかなんとか。普通に強い上に集団で賢く狩りって、おいおい中々凄いんじゃないか?」
「はい、なかなか強そうですね」
 利香は水しぶきに目を細める。
「ね~、他人事で居たかったよね~」
 背後にはハイエナのごとく、じわじわと戦力を削られるのを待つ幽霊船がいる。
「以前、ドレイク様はアクエリアに到達させないように僕達の邪魔をしてきたというのに……もしかして、ドレイク様はあの戦いで僕達の能力を測っていた? ……そして、僕達はそのお眼鏡に適った訳で御座いますね」
 幻はふっ、とため息をつく。
「僕達にアルバニアを倒させて、誰よりも早く絶望の青を攻略するおつもりなのですね」
「幽霊船の連中はまあ何て言うか……何度かそういう手合見たけど、ダセえっつーかなんつーか、みっともなくない? そーいうの!」
「ええ。ええ。気に入りませんねぇ。僕はあの方の命を守るためにアルバニアを倒そうとしているというのに、絶望の青攻略がそんなに大事ですか!?」
『パンドラの匣を開けし者』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)は、ドレイクの海賊船を冷たく見据える。
「フン、この語に及んで漁夫の理を企てるとは……幽霊だけあって生き汚い事よ。否、そうでもして晴らしたい無念があるか。哀れな事よ」
「僕はあの方の命の為だけに生きているというのに、下らない三つ巴になど心を砕く気になれませんね」
「パパッと片付けたいもんだね~」

●接敵
 イレギュラーズたちの作戦は、狂王種を引き付けて幽霊船にぶつけるというもの。
 危険を伴うが、やる価値はあるだろう。
 少なくとも第三者面をしている海賊船はしゃくだ。
 海面にきらめく赤い鳥。
 小型船『紅鷹丸』が風を切って進む。
「本職船乗りを舐めんなよ?」
 絶望の青。
 難しい海域だが、カイトは風を読んでいた。次々と襲い掛かる高い波をかいくぐり、狙うは、狂王種ただ一つ。
「操縦は頼んだ!」
「ああ」
 カイトは味方を鼓舞するために、神子饗宴を展開する。 
 海王種の起こす荒波。縁もまた確かな技術で舵を握った。
 雷天煌星。
 白く輝く雷撃が、海に落ち、狂王種を貫いた。
 船は波に乗り上げ、勢いを利用して大きくジャンプをする。
 カイトはばさりと羽を広げた。イーグルマントが美しく緋色の翼のようにはためく。
 掲げた三叉蒼槍の切っ先が鋭く輝く。
「へへん、網にかけてやるぜ!」
 雷天煌星。
 狂王種が、大きく咆哮をあげたのがわかる。敵の視界が白く染まる。
 牙に飲まれた岩が粉々に砕け散った。
 だが、縁の操縦はゆらゆらと水面で揺らぐ木の葉のように直撃を免れていた。
「面舵一杯!」
 すれすれまで近づき、着水の瞬間に合わせて。
「ヘイ、デカブツ! こっちへついて来な!!」
 貴道の拳魔槍が狂王種の横っ面にさく裂する。
 乾いた縁の口笛。
 船はぐんぐんと距離を詰め。
 ダム・ナ・ティオ。
 ラルフの魔弾が炸裂し、穿つ。小さなひび割れが広がっていく。深く、深く。

●幽霊を招く
 同時刻、船の上。
「出来る事は少ないですが最善を尽くしましょう」
 利香の言葉に、思い思いに兵士たちは頷く。
「それじゃ行こうか。何も恐れることはない。絶望の青が希望の青へ変わるだけさ、俺たちみんなの力でね!」
 史之が体現するサンクチュアリ。この状況にあってなお、信じられる。この場所が一番危険であるが、この場所にいることは、意義あるものだと。
「女王のために!」
「……女王のためにぃいい!」
 砲撃の音が高らかに響き渡った。まだ幽霊船と距離はあるが、牽制にはなるだろう。少しずつ距離を縮めていく。逃げ腰でありながら、様子をうかがう幽霊船。だが、カイトたちの船がどう出るか見えていないのか、逃げはしない。
「ほらほらお前等そゆとこがダメだろ? ヤルならヤルなけりゃ半端モンの末路! だからお前等心半ば夢半ばで散ったろ!? 我々はこの海を踏破して優勝! お前等は指でもしゃぶってベソかいて見~てろ!」
 夏子の挑発に、幽霊船の船員たちは答えないかに見えた。
 否。カタカタと歯を鳴らしている。
「おー、やる気ですかね」
「よし、この距離なら……」
 利一の歪憤……因果を歪める力が、相手の航路を引きつける。
「仲間が注意を引いてくれている、今なら!」
 史之の指示により、比較的砲撃の手薄そうな幽霊船船尾へ迂回する。
 史之は感覚を研ぎ澄ます。
 仲間が、狂王種を引きつけた。
 幽霊戦は狂王種に向けていた砲をこちらに向ける。
「気を付けて! 大丈夫だ!」
 砲弾がすれすれのところに着弾した。横から回ったのが幸いした。
「はずれですねー」
 混乱する指揮系統を、利香が素早くまとめ上げる。
 ……砲台の多い側面は避けた。直撃はしない。
 代わりにこちらの海兵が、一撃、砲弾を放った。
 着弾。
 怒り狂う敵。
「ヤルしかないよな? 憎いならぁ!」
 夏子が、おもむろにがれきを投げる。
 相手はそれが何かわからず、対処もとらなかった。
 明滅、爆音。
 それは、闇を劈く爆裂音【炸】。
 夏子はぱっぱと手を払う。
「飛んでくる火の粉を払うって言うけど 海だとなんて言えば気が利いてるんだろね?」

 そして。
 ついに接舷と相成った。
 追い払おうとすがる亡霊を、利一の歪憤がねじ曲げる。
 幽霊船の砲台が、ぎしぎしとこちらを向いている。
「させない!」
 幽霊船員を、史之の神気閃光が貫いた。
 星辰理力演算装置がきらきらと光る。
「よし、防いだ!」
「幽霊の皆さん、パーリナーイ!」
 利香はふわりと船の上に降り立ち、ひらりとスカートを翻す。
 リカ=サキュバス。それは、『夢魔』の力。
「いひひ、それじゃあ大暴れしましょうか!」
 熱気に飲まれるように、一帯の温度がうなりをあげてゆく。
「自分だけが関係のない傍観者などと、思いあがりということですね」
 幻は悠々と、船を渡った。
 船員の攻撃をかわしてただ、あしらう。まるで何でもないかのように。
 自在に姿を変えるカードで。大きな花で。陽炎で。蝶で。
 それは単なる通常攻撃にすぎず、一挙一動はパフォーマンスだった。
 ティアのローズティア―・ウィズ・ミーが炸裂する。
 ぐるぐると、回る。
 運命の歯車が、きしみ、回り始めていた。

●闖入者
「さーて、お前さん方。暇してるんなら、“か弱いおっさん”を助けてくれや」
 紅鷹丸が逃げ帰る先は幽霊船。恐ろしいスピードで迫る狂王種の攻撃をかわし、ついに本隊と合流を果たした。
「さあ、パーティ(大乱闘)の始まりだぜ!」
 ぶわりと浮き上がったカイトは堂々と幽霊船へと降り立った。
「お相手願いましょうか」
 一瞬のうちに、幻は亡霊をものともせずにそこにいた。動作の一つ一つはゆったりとして、優雅なものであるのに……。
 早い。
 シルクハットを広げる。美しい蒼の蝶が幾重にも舞う。
 奇術『昼想夜夢』。
 それは、想い人の夢。
 ステッキ『夢眩』がめくるめく奇術を見せる。終わらない。まだ、終わらない。
 狂王種キラーホエールは何を見ているのだろうか。
 亡霊たちと狂王種が入り交じる、激戦のさなか。
「耐えるんだ! ここを耐えれば勝機がある!」
 史之は、堂々と戦場のど真ん中に立つ。女王忠節・体現者であるからには、そうだ。
『さあ』
 ティアが因果をたぐり寄せる。
 ローズティアー・ウィズ・ミーが、狂王種を絡め取る。
「う~ん、同士討ちっていきたいところだけど、融通きかないねえやっぱ~」
 無秩序に、再び夏子の【炸】が炸裂する。
 狂王種は怒り狂い、混乱し、船体に体当たりを仕掛ける。
「お、そっちそっち。飛んでくる火の粉を払うって言うけど、海だとなんて言えば気が利いてるんだろね?」
「……!」
 海兵がいた。
 利一の歪業が、狂王種の狙いをそらす。狙うは、幽霊船のマストの破壊。この船の機動を奪うこと。
「よし、ここなら」
 ハイロングピアサー。鋭い魔力となって放出された魔弾が、一直線に敵をなぎ払った。
「ヒュー、いいねぇ! そうじゃなくちゃな!」
 カイトは羽ばたき、亡霊と狂王種の攻撃をかわしながらマストへ飛び移る。狙いを誘って、また別の場所へ。風が、緋翼を押す。流れを読む。浮かぶ。
「よし、今だっ!」
 カイトが羽ばたいた瞬間、味方の砲撃が船へと落ちる。
「景気が良いねぇ」
 流刃を手にした縁に、迷いはない。
「手負いだった所を更に攻撃されて、奴さんも相当気が立ってる筈だ。無闇に暴れられる前に片付けねぇとな」
 かつてはワダツミ幹部として名をはせた縁。美しい太刀筋。それを誘い水として、柳風崩しをしかける。亡霊どもの足をすくい、外へと投げ落とす。
 兵士は、見る間もなく暴れるシャチに飲み込まれる。
「それじゃあ、そろそろ」
 利香はしゅるりと髪をかき上げて。
 天衣無縫。魔剣グラムが、軌道を幾重にも波打って、桃色の剣閃となる。どうしようもなく魅せられ、すがる亡霊たちは刻まれていく。求めるほどに。
「わかったろう。漁夫の利ね、そうそう美味しい話はない物だ……良い事を教えてやる。
――慌てる乞食は貰いが少ない」
 ラルフの錬金紅鎖が、司令とおぼしき亡霊を縛り付ける。血を媒介として創り出した赤い鎖弾。ラルフは鎖を握りしめ、電流を流し込む。
 声にならない悲鳴が響き渡った。
「HAHAHA、乱戦なんだろ? 死なば諸共ってな」
 貴道の研ぎ澄まされた一撃が、亡霊の一人を吹き飛ばした。
 貴道の高らかな笑い声が響き渡る。
「もっともミーは死なないからユー達だけで死ね、HAHAHA!」
 砲台を破壊し尽くしたのは、ただの拳だった。
 実戦ボクシング改。二つの拳、どちらもが鍛え抜かれた凶器であり、兵器だ。
「HAHAHA、ちょっとでも逃げられるなんて思うなよ!」
 怒り狂った狂王種を、貴道は誘う。狙うは、マスト。

●攻防
「さあ、夢の続きを」
 一瞬にも思える。永遠にも思える。夢からさめていたこの一瞬が、長かったように思われる。
 幻の昼想夜夢が、幾重にも狂王種に幻を魅せる。
「お化けもずいぶん減ったじゃねぇか」
 飛び回るカイトが宙で静止する。その間にも、ひらりと砲撃をかわしながら。ブルーノートディスペアーを握りしめ、三叉蒼槍を手に。自分より何倍も巨大であるはずの相手に立ち向かう。しかし気迫は、カイトを何倍にも見せていた。
「俺は漁師、お前は獲物、狩られなッ!」
 風が吹いている。
 カイトの周りを、風が吹いている。波の音。戦いの流れ。震える空気。
 カイトは、すべて感じ取っていた。
 ソニックエッジ。
 速力を威力に。それは、カイトの持つ力。
 恐るべき一撃が、狂王種を襲う。風は、カイトのものだった。

 船は混戦状態だった。
 イレギュラーズ優勢ではあるものの、戦いは激しい。
「もうすぐだ! もうすぐ、勝てる!」
 史之のクェーサーアナライズ。
 味方全体を立て直す号令。兵士たちは立てる。立てると信じていれば。まだ動ける。疲れを知らぬ亡霊と相対して、気力を振り絞って。立てる。
「加護を! 女王のために!」
「女王のためにぃいい!」
 史之の大天使の祝福が、仲間を包み込む。
 絶望の青へ。
 その先へ!

「よっとと」
 幽霊船の砲撃が響き渡る。
 船体が大きく揺らいだ。
「んじゃまあ、いっちゃいますか」
 夏子は体を支えながら、名乗り口上をあげる。怒り狂い、襲ってきた亡霊に【炸】をぶつける。
「おっと一発だと思った? ザンネン」
 二発目。
 とどろく爆音は衝撃となって、放射に広がる。耐えきれずに海へと吸い込まれてゆく亡霊を見送り、体勢を立て直す。
「海に嫉妬は似合わないよ」
 逃れた一体を、ラルフのレイ・マグナが貫く。
 その攻撃は、ひとかけらも残さずに塵に帰した。
「後ろにも気を配ることだ。遅い忠告だがね」
「ふうっ、なかなか疲れましたね」
 利香はふらりとしなだれかかり、亡霊の魂に触れ、吸精を行う。それはリカ・サキュバスの本能だ。逃れる一体を、ティアのフォロウ・ザ・ホロウが仕留める。
「来るよ」
『わかった』
 後ろから襲い来るもう一体を、ティアは剣魔双撃で斬り伏せる。
 船がいっそう大きく揺れた。
 狂乱する幽霊船は、イレギュラーズたちの船、そしてシャチに気をとられている。いよいよ舵を取り、逃げ出す構えを見せる。
  縁は感じていた。この船の底の、水の流れを。そして、それをつかみ取ることができる。
 操流術。片手を空けておいたことが良い方向に作用した。「周囲の流れ」に干渉し、直撃を避け、また一体を海へと突き落とす。
「大分、だな」
 縁はちらりと貴道を見た。
「HAHAHA! 無論だ。ここで……仕掛けるっ! 来い!」
  貴道は油断なく拳を構え、マストへと至る。ギリギリまで引きつける。
 王と目が合った。
 不思議なことだが、多少、それで理解もする。
 拳が語る。相互理解。相手にするにふさわしい相手であると。
「来いっ!」
 一歩間違えば、腕を失ったかもしれない。
 ギリギリのところで、貴道は。
 いや、成功することはわかっていた。命のやりとりを踏んできた。そんな瞬間は何度もあった。そして、勝ち続けてきた。
 貴道がかわす。
 巨大な牙がメインマストへと食らいつく。
 めきめきと音がして、へし折れる。
「上出来だ! さあ……選んでもらおうか!」
 真偽双極。左右同時に繰り出されるストレートパンチ。生と死を分ける一撃。
 狂王種は。
 みずの、底へと。
「逃げるつもりか?」
「なんとか、道を!」
 事態を伺っていた利一が、ハイロングピアサーですかさず道を開く。
「お呼ばれか」
 縁が、ふわりと水に飛び込む。手負いの猛攻を、堅牢な護りが致命傷を防ぐ。
「眠りな」
 傷口を狙って。
 防御の構えを解き、一撃。

●陽は沈まない
「――――!」
 水しぶきが上がる。
 狂王種が咆哮をあげ、海へと沈んでゆく。
「HAHAHA、勝った勝った! まだやるなら、相手だ。一人ずつタイマンでな!」
 幽霊戦に残っていた船員たちも、無力を悟って、船を捨て次々と海へと飛び込んでゆく。ボートで逃げ出すものもいたが、あっけもなく討ち取られるばかりだ。
「今はあっちが逃げる立場か」
 利一の歪憤が逃げる一体の足を止めた。
「下手に悟られるように、欲をかくからこそ……」
 そして、ラルフのレイ・マグナが、逃げる亡霊を討ち取った。
「絶望の青か。……”私”は……この世界の続きを見届けたいな」
 利一は未踏地域に思いをはせる。因果を歪める力をずいぶんと使った。胸元で手を握りしめる。
 ドレイク船は、ほぼ壊滅である。こうして振り返ってみれば、双方から攻撃を受けたのは幽霊船だった。
「やった、やったぞ!!!」
 喜ぶ兵士たち。
 同時に、イレギュラーズたちの母船がゆっくりと傾いていった。この乱戦と砲撃に耐えられなかったようだ。
「!」
 船から落ちそうな船員をかばって、反動でティアが海へと落ちる。
『無事だ』
「水中呼吸のポーション飲んでて良かったね」
 備えあれば、憂いなし。
 幽霊船は、ボロボロだが不思議とまだもっている。
 視界がもどれば、紅鷹丸が夕陽のようにそこにあった。
「おーい、こっちだ! 乗り切れないやつは乗ってくれ!」
「ひとまず、船に!」
 史之と利一が、次々と傷ついた海兵を引き上げていく。
 なんとかつかまって浮いているような格好だが、救援は間に合うはずだ。
「これでひとかけらでも、あの方の先を紡げれば……」
 幻はシルクハットをかぶり直し、服の裾を払った。伸ばせただろうか?
「メデタシメデタシ、でいいのかね?」
 夏子が首をかしげる。
「……何でかはわかりませんが視線を感じる気がするので、念のため可能な限りの警戒を怠らない用にしましょうか」
 利香が感じたのは、誰かの思惑だろうか。
 遠くで、知れず、明かりが揺れる。

「きひひっ、きひひっ、ああ、面白かった! ……予想外もいいところダ! だから、だからフィフィは……みんなのこと、大好きダヨ!」

「……そういや、さっきちらっと妙な光が見えたような気がしたが……」
 ランタンの明かり。
「……まさか、あいつの仕業じゃねぇだろうな」
 古い記憶が縁の頭をよぎった。

 こうしてイレギュラーズたちは絶体絶命のピンチから脱し、ドレイクにまで痛い目をみせた。

成否

成功

MVP

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳

状態異常

郷田 貴道(p3p000401)[重傷]
竜拳
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)[重傷]
穢翼の死神
リカ・サキュバス(p3p001254)[重傷]
瘴気の王

あとがき

三つ巴の戦い、お疲れ様です!
もう、隙あらばガンガン沈めていこうと思っていましたが、うまいことしてやられてしまいました。お見事でした!
母船が沈んでしまったものの、人の被害はそれほどでもありません。
MVPは、危険を承知で敵を引きつけ、豪快にマストをへし折った人間兵器のあなたへ!
気が向いたらまた冒険いたしましょうね。

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