シナリオ詳細
<虹の架け橋>妖精の花畑と踏み荒らす狂鹿
オープニング
●
「こんにちは。イレギュラーズさん達はいるかな?」
深緑に存在する、イレギュラーズ達の拠点。そこに、その男――アトワール・ラリー・アバークロンビーが現れたのは、ある日の昼下がりの事であった。
アトワールは、その場にいたイレギュラーズ達を見つけると、次のように声をかけてきたのである。
「皆さんが、妖精についての伝承を収集している、と言うお話を聞いてね。私はこう見えて交易商などをやっているんだが、その伝手で、深緑の奥地に、妖精の伝説のある村の情報を仕入れることができたんだ」
曰く。そこには『妖精の笑顔』と呼ばれる、美しい花々の咲く花畑が存在するのだという。
妖精の笑顔は、その名の通り、かつて妖精よりもたらされた花であるらしく、伝承と共に、その花畑は村の財産として受け継がれているのだ、と。
「どうだい? 実際に、その村で話を聞いてみるというのは?」
イレギュラーズ達が、妖精の伝承について、収集を行っているのは事実だ。妖精郷、アルヴィオンへと通じる虹の門、アーカンシェルが何者かによって破壊されてしまい、アルヴィオンへと直接転移できることができなくなってしまったのが先日のこと。
そこで、アーカンシェル内部に広がる大迷宮ヘイムダリオンを踏破し、アルヴィオンを目指すというオーダーが下されたわけだが、そのヘイムダリオンを攻略するための術詩『虹の架け橋』を補強するために、各地の妖精伝承の収集が必要である、という訳だ。
となれば、断る理由もない。
イレギュラーズ達がその旨を告げると、アトワールはにこりと笑って、
「では、件の村への案内は、私がしましょう」
と、同行を申し出てきたのである。
●
「じつは、娘がイレギュラーズとして活動していてね。その娘の活躍が見られるかもしれない……なんて、下心も有ったりしたんだ」
道中、アトワールはイレギュラーズ達へ、同行の真意を、少し恥ずかし気に漏らした。
深緑の森を抜けて、しばし東へ。木々を越えて、やがて花畑が見えてくる――はずだった。
「……? 妙だな。そろそろ、花々の香りが漂ってきてもいいころなんだけれど……」
アトワールが首をかしげる。本来ならば、満開の花々と、その甘やかな香りが、村を訪れる者たちを歓迎してくれるはずであった。
だが、そこに在ったものは、ぐちゃぐちゃに荒らされた土塊の広がる、何もない畑であったのである。
「確かに、この村には、妖精の伝承が伝わっています」
と、村の長である壮年の男は、そう言った。
この村に伝わる伝承は、このようなものだという。
――かつて、子供たちが森で遊んでいた時、何名かの妖精たちが現れて、一緒に遊んでいたのだという。やがて日も暮れ、別れの時。別れを惜しむ子供たちに、妖精たちは花の種を、子供たちにプレゼントした。
これは、妖精たちが遊びに来る目印になる、魔法の花。この花がキレイに咲いたら、きっとまた遊びに来れる。
妖精たちはそう言い残し、何処かへと去っていった。子供たちはもう一度妖精たちに会いたい一心で、広場に花の種を植え、懸命に世話をした。
やがて咲いた花は、これまで誰も見たこともないような、美しいものであったという。そして、その花が咲いたのを合図に、再び妖精たちは、子供たちに会いに来るようになった――。
その花は、今は『妖精の笑顔』と名付けられ、今も村人はその花畑の手入れをかかさないのだという。
「今でも、花畑で妖精たちと会うことができる……そのように言うモノもいます。まぁ、私はただの言い伝えだと思っていますが」
男は苦笑する。とはいえ、イレギュラーズ達は、妖精が存在することを知っている。だから本当に、一部の妖精は、この村に遊びに来ている可能性は捨てきれない。
「ですが……その肝心の花畑が、今年は荒らされてしまいまして……」
話によれば、夜中になると、森の奥より巨大な鹿の群れが現れて、花々を食いちぎり、畑を踏み荒らしていくのだという。
昼間の内に、無事な花は掘り出し、鉢に植え替えて保管しているのであるが、あの畑――伝承で、花を植えた広場であった場所――になにか特別な力でもあるのか、日に日に花は弱っていくのだ、と。
「これは……放っては置けないね」
口元に手をやりながら、アトワールが言った。
「どうだろう、イレギュラーズの皆さん。報酬は、私がご用意します。鹿の退治と、畑の手入れ……こちらを依頼として、お願いできるかな?」
アトワールの言葉に、イレギュラーズ達は頷く。伝承の収集となれば、その花畑を見ることまでが伝承の収集の範囲になるはずだ。
それに、困っている人を見過ごすことは出来ない。
イレギュラーズ達はアトワールへ依頼を受諾する意思を告げると、さっそく、鹿の対策へと乗り出したのであった。
- <虹の架け橋>妖精の花畑と踏み荒らす狂鹿完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年05月13日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●夜闇の畑を
月が夜の空を彩る、深夜の空。
その下、村の広場では、イレギュラーズ達が息をひそめ、狂える鹿の到来を待ち構えていた。
「それでは、私は戻らせてもらうよ。実際に現場にいても、足手まといになってしまうからね……」
申し訳なさそうにイレギュラーズ……中でも『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)に視線をやりながらそう告げるのは、依頼主でもある、アトワール・ラリー・アバークロンビーだ。
「大丈夫。明日は畑仕事なんだから、お父さんはちゃんと休んでてね?」
微笑んで、アレクシアがアトワールを送り出す。アトワールの背中が闇に消え、アレクシアは少し、ため息をついた。
「ふぅ。まさかお父さんが、こんな風にやって来るなんてね。手紙でもくれれば、実家に顔を出したのに」
少し気恥しげに頬を染めて、アレクシアが言う。その様子に微笑まし気に笑みながら、声をかけたのは『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)だ。
「アレクシアの父君だったのだね。娘の活躍を見に……とは言っていたけれど」
「それ! ほんとびっくりしたよ……!」
苦笑するアレクシア。親からしてみたら、娘が元気に活躍する姿を見たい、と思うのは、当然の欲求なのかもしれない……子供からしたら、きっと気恥ずかしいものなのだろうが。
「ふふっ。でも、うちもちょっと、心当たりがあるわ」
『緑雷の魔女』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)がほほに人差し指をさしつつ。思い出すように言った。
「アルメリア君のご両親も?」
アレクシアがそう尋ねるのへ、アルメリアは頷く。
「私の場合は、母だったけれど。助けられたり、助けたり……色々あったわね」
「ヒトの群れの形態と言う物も、興味深いものじゃな」
と、声をあげるのは『百獣王候補者』アレクサンダー・A・ライオンハート(p3p001627)だ。
「わしにも子が居る……じゃが、成長してからは別の群れを率い、会う事も少ない。もちろん、心配していないわけではないが、それは百獣の王の一族として、立派にやれているかという事」
ふむ、とアレクサンダーが頷くのへリゲルが頷く。
「ううん、色々な家族の形があるんだな……俺にとっても興味深い話だ」
「さて、家族談義もいいけれど、そろそろ準備しなくちゃね」
『純然たる邪悪』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)は、召喚した鳥のファミリアーに小さなたいまつを握らせて、空へと放つ。ほの明かりが大地を照らし、荒れ果てた広場の畑の光景が見て取れた。
「昼間も思ったけど……やっぱりひどいわね。随分とぐちゃぐちゃになってる」
同行していた猿にもカンテラを握らせて、木の上へとやる。そうすると、さらに辺りは明るくなって、畑の状況もよく見て取れた。メリーが呟くのへ、頷いたのは『はじまりはメイドから』シルフィナ(p3p007508)だ。
「そうですね。土のお手入れは大変難しいものです。それをこうも荒らしてしまうとは、許しがたいです」
「シカ……か。こっちの方が荒れてる……って事は、この辺からやって来るんだと思う」
杠・修也(p3p000378)の言葉。狩猟知識から、鹿の通る獣道を見つけた修也は、首をかしげつつ、呟く。
「野生動物だって言うけど、こんな同じ所を集中して荒らすようなことをするものかな……」
答えたのはゼファー(p3p007625)だ。
「タダの野生動物だとは、思わない方がいいわよ。どうもきな臭いのよね」
「きな臭い……って、何かあるって事か?」
修也の言葉に、ゼファーは頷く。
「妖精の伝承、わたし達が集めてるもの……それを妨害するみたいに、なんてね。しかも、なんだかまともな鹿ってわけでもなさそうじゃない?」
と――。
その言葉を遮る様に、ピィーと言うような、鳴き声が聞こえた。
「鹿の声だな……近づいてくる」
修也が声をあげるのへ、イレギュラーズ達は頷き、身構える。果たしてイレギュラーズ達の用意した明かりに照らされた、六匹の鹿が現れた。その目は血走っており、辺りをぎょろぎょろと睥睨しながら、しかし真っすぐに畑へと向かってくる。
「なるほど。真っ当ではない、と言うのは確かじゃな」
アレクサンダーは呟いた。
「草食動物はあのような目はせんよ。あれは狩りをするものの目だ」
「じゃあ、本当に……何かあるって事だね?」
アレクシアが身構えながら、声をあげる――鹿が、此方を視認した。ぴぃぃぃぃぃ! 甲高い鳴き声が、イレギュラーズ達の身体をつんざく!
「原因を探るのは後日だ。今は、こいつらを止めよう!」
リゲルの言葉に、
「そうね。このままぼーっとしてたら、私達が食べられかねないものね!」
アルメリアが頷き、仲間達も同意した。
「鹿に食べられるなんて、冗談じゃないわ!」
メリーが心底嫌そうに叫ぶ。
「それじゃ、鹿退治と行きましょうか!」
ゼファーがくるり、と背丈ほどの槍を回転させてから構える。
そしてそれを合図にしたように、鹿たちが一斉に突撃してくるのであった――!
●踏み荒らす、狂鹿
「さぁ……来い! これ以上、畑は荒らさせはしないぞ!」
リゲルは手にした銀の剣を輝かせながら、鹿に立ち向かう。果たして鹿は、リゲルを標的に定めたようだ。その巨体を、頭の角を突き出しての体当り――リゲルの刃が、鹿の角に食い込む。
「くっ……!」
その突撃を受け止めたリゲルだったが、その衝撃は殺しきれない。たまらず、勢いのままに、飛ばされる形で後方へと跳躍。リゲルが着地した瞬間を狙って、二匹目の鹿が角による突撃を敢行する。リゲルは剣を振り払い、その鹿の攻撃を受け流す。
「このコンビネーション……厄介だな!」
「ほんと、どこの誰に仕込まれたんだか!」
突撃してくる鹿の一撃を、ゼファーは槍でいなす――続く二匹目の連続攻撃。体勢を崩したところへ迫る攻撃は、些か、捌きづらい。
「私たちで鹿を抑えよう! 皆はその隙に一匹ずつ、確実に仕留めて!」
アレクシアが叫び、鹿とつばぜり合い……ブレスレットから生じた魔力障壁と、鹿の角の……を演じる。ばちばちと魔力がはじけ、喰い込んでくる鹿の角を、必死で抑えた。
「任せて! 村の連中に恩を売るチャンスなんだから!」
メリーが叫び、遠距離術式を撃ち放つ! 放たれた魔力は弾丸となって、鹿の太ももに突き刺さった! その痛みに、鹿がぴぃぃぃぃ! 悲鳴を上げる!
「いちいちうるさいわ……!」
耳をつんざく悲鳴に、メリーが顔をしかめる。
一方、その手にした魔導書、『ウニヴェルズム』より魔力を引き出しながら、雷の術式を編み上げるのはアルメリアだ。
「ビックリしないでね……皆には、当たらないから!」
その手の魔導書がバタバタとはためき、生み出した雷の魔術が、一気に解き放たれる! 仲間達を避けるように、しかし敵は決して捉えて離さぬ雷の奔流が、鹿たちを激しく打ちのめした! 一匹が断末魔の悲鳴を上げ、黒焦げの死体を大地にさらす。
「一匹目っ!」
アルメリアの叫び。続いて飛び出したのはシルフィナだ。
「では、害獣退治とまいりましょうか」
両手に輝く二振りのナイフが、鹿の体内、奥深くへ向けて突き刺さる。鮮血が噴き出し、鹿がぴぃいっ、悲鳴を上げた。
「とどめだ、貫くッ!」
突き出された修也の拳が、鹿の胸部へと突き刺さる――肉をかき分け包む、食らいつく衝撃が、心臓へと直接殴ったかのような打撃を与えた。ぎゅるり、声にならぬ声をあげて、鹿が心臓を破壊されて倒れた。
「どれ、食いでがありそうだ。なぁ、こいつら、狩ったら食べてもいいよな?」
にぃ、と笑ったアレクサンダーは、次の瞬間激しく吠えたてる!
「ぐるあぁああああああっ!!!」
百獣の王の咆哮――まともな動物なら怯えすくむ方向を受けて、しかし鹿はわずかにその身を怯ませるのみ。
「王に首を垂れぬか――気に入った、その太い肝、残さず食らいつくしてくれよう!」
再びの咆哮。しかし今度のそれは、物理的な衝撃を伴ったものである。びりびりとしびれるその衝撃が鹿の肉体を激しく打ち付ける――。
「ハァッ!」
気合の声と共に、リゲルの斬撃が、足を止めた鹿の首を斬り飛ばした。ぐるり、と宙を舞い、地に落下する――その僅かの後に、身体が後を追うように倒れた。
「良いペースだよ、このまま一気に攻めよて! 引き続き、私が引き寄せる!」
そう言って、アレクシアが放つ赤き魔力の塊――赤い花が暗闇に咲いて、鹿たちを激しく打ち据えた。その赤い花の魔力に引き寄せられた鹿たちが、アレクシアへと殺到した。
鋭い角を用いた突撃を、アレクシアは受け止めた。魔力障壁が火花を散らす。魔力によって発光するアレクシアの顔が、暗闇に、勇気づけられるように浮かび上がる。
「全部しょい込むことは無いわよ、アレクシア! ……ほら、貴方の相手はこっち。ダンスの最中に他所のオンナを見るなんて無粋は許しませんからねぇ」
ゼファーが声をあげて、鹿を誘引する――はたして一匹の鹿が、ゼファーへと攻撃目標を変えた。
「さぁ、抑え込むわよ!」
振るう槍の一撃――三日月のごとき斬撃が、鹿の角を斬り飛ばした。ぴぃぃ、悲鳴とも怒りのそれともつかぬ声をあげて、鹿が頭を振った。
「もうおしまいよ、あなたたち!」
メリーの放つ、鹿の腹を撃ち抜いた。ぐらり、と身体を揺らしたその鹿へ、アレクサンダーが襲い掛かり、その牙で首をへし折った。
「ふむ。こうしてしまえば、狂っていようとお終いよ」
がう、とアレクサンダーが吠える。一方、残る二匹の鹿も、ついに追い詰められつつある。
「――!」
ふっ、と息を吐きつつ、シルフィナのナイフが闇夜に光る。鋭い一閃が、鹿の皮膚に深い深い傷を負わせた。じたばたと鹿がもだえるのへ、放たれた雷が、その命を狩り取る。
「のこり、一匹よ!」
雷の主――アルメリアの言葉に、
「ああ、ならばこいつで仕留める!」
修也の拳が、鹿の腹を殴りぬけた。ぎゅい、と悲鳴を上げた鹿が、吹き飛ばされて、地を横滑りする。ぴぃ、と断末魔の声をあげて、鹿はそのまま意識を手放した。
「ふぅ。これで、全部かな?」
修也が声をあげるのへ、頷いたのはリゲルだ。
「ああ。これで、畑の安全は確保されたな」
リゲルは展開していた保護結界を解除する。戦闘の余波によってこれ以上、畑が荒れないようにするための結界だったが、その役目は充分に効果を発揮していた。
「では、狩りの成果じゃ。一匹、頂こうかな?」
アレクサンダーがそう言うのへ、頷いたのはゼファーだ。
「どうぞどうぞ。残ってるのは一応、調べさせてもらうわね」
と、残された死体を検める……とはいえ、
「うーん、やっぱり、死体から何かが……とはいかないわね」
アルメリアが呟く。改造の残滓でも、と思ったものだが、どうやら肉体面での改造や改良などは行われていない、天然自然の鹿のようであった。
「けれど、あの狂暴化……真っ当とは思えないよ」
アレクシアの言葉に、頷いたのはリゲルだ。
「やっぱり……妖精郷の魔種、その仲間か何かだろうか?」
「ねー、それもいいけど、そろそろ戻りましょ? 眠くなってきちゃった」
メリーの言葉に、
「それもそうですね。皆様、お疲れでしょう」
シルフィナがゆっくりと頷く。
「明日は畑仕事じゃしな。疲れはとっておいた方がいいじゃろ」
アレクサンダーの言葉に、
「じゃあ、今夜は解散、って事でいいかな?」
修也が頷いた。一同は頷き、村にイレギュラーズ用に用意された宿へと戻るべく、踵を返した。
月の光に照らされる、死体を残して。
「誰に、何に毒されたのか。語る口を持たない以上、答えは望めないもの」
明日には片づけられる、その死体を見やりながら――ゼファーは呟いた。
「……ま。せめて静かに眠りなさいな」
その呟きは、夜の風に流れて、消えていった。
●笑顔をその手に
翌日の昼。
幸運にも晴天に恵まれたその村ではイレギュラーズ総出による、畑の復旧作業が行われていた。
「ふぅっ……」
リゲルが手にしたクワを支えに、一息。額の汗をぬぐう。
「やっぱり、剣を使うのとはまた違った動きが必要になって、これは疲れるな……」
「はい。体力は追いつくんですけど、身体が痛くなりますね……」
苦笑しつつ、答えたのは修也だ。その手には、荒らされた畑に転がっていた、大きな石などを抱えている。こういった邪魔なものをどかして、土を整えるのだ。
武術の心得はあっても、農業や園芸の心得はないイレギュラーズ達である。やはり、使う筋肉が違うという事なのだろうか。悪戦苦闘はしつつ、しかし村人たちなどのアドバイスを活用し、何とか畑を耕していく。
「うむ、昨晩はあれだけぐちゃぐちゃだった畑じゃが、なんとか形になったではないか?」
その大きな手でガシガシと土を掻きながら、アレクサンダーがあたりを見回した。鹿の足跡や、掘り返した後などでぐちゃぐちゃになっていた畑は、今はその整然とした形を、何とか取り戻しつつあった。
「とはいえ、まだまだだなぁ」
リゲルが苦笑する。村の名物という事もあり、花畑はかなりの広さを誇っている。その全てがぐちゃぐちゃになっていたわけではないとはいえ、それでも修復にはまだまだ時間がかかりそうだ。
「畑仕事って、大変なんだね……」
アレクシアも感心したように呟いた。頬を土で汚しながら、しかしその表情はどこか楽し気だ。
「日が暮れちゃうかもしれませんね」
修也がぼやくように言うのへ、
「ほらほら、口じゃなくて、手を動かしましょ?」
と、笑いながらアルメリアが言う。
「うん……そうだな。もう少し頑張ろうか」
修也が、ぐっ、と背伸びをしてから、今度は花の苗を退避させていた鉢を持ってくる。
「さて、わしも働くかな?」
アレクサンダーはその手をクワのように震わせて、土を耕していくのであった。
「次は……肥料をまくの?」
そんなアレクサンダーを横目に、メリーが声をあげるのへ、
「はい。土の栄養を豊かにして、さらに混ぜ込む……という事です」
舞うネモフィラの花弁と会話するように、シルフィナが言う。うんうん、とメリーは頷くと、
「ほら、お猿さん! サボってないで肥料を撒くわよ! ……これなら、あなたにもできるわよね、お猿さん?」
と、昨晩ではカンテラを持たせていた猿に、メリーは声をかけた。ききっ、と猿が声をあげて宙がえりをする。その様子をにっこりと微笑んでみながら、
「花畑の手入れを手伝うのと花畑の肥料になるのどっちがいい? ファミリアーの鳥で上空から見張ってるから逃げても無駄よ。逃げたらすり潰して花畑に撒くからね」
とかわいらしく言うので、猿は思わず正座をして、「ききっ……」悲し気に鳴くのであった。
果たして、綺麗に耕し、肥料も混ぜ込んだ畑の土は、ふかふかに整えられていた。後はここに、花を植えなおすだけだ。
「これくらいの深さでいい? ……もっと深く掘った方がいいのね?」
『妖精の笑顔』。そう名付けられた花を植えなおしながら、アルメリアが言う。会話の相手は、その妖精の笑顔そのものだ。自然会話による意思疎通を行い、適切な世話を、妖精の笑顔へ行っていく。
「綺麗な花ね。本当に、妖精の笑顔、ってくらいに……元気が出てきそう」
アルメリアが、その前髪に隠された瞳を優し気に細めながら、くすりと笑う。『妖精の笑顔』は、大ぶりな花弁を持つ、色とりどりの花だった。まさに満開の笑顔、と言った様子のその花は、見ているだけでこちらも笑顔になるくらいに、美しいものだった。
「もう大丈夫だからな。綺麗に咲くんだぞ」
優しく花の根に土をかけ、リゲルが言う。
「ふふふ、ありがとう、って言ってるわよ」
アルメリアがそう言うのへ、リゲルも、
「それは、光栄だな」
そういって微笑んで見せた。
「うん。大体、良いんじゃないかしら?」
腕くみしつつ、うんうんと頷くゼファー。荒らされてしまった花の分、畑には空白が目立つが、それでも避難させていた花は植え終えていて、色とりどりの花が、穏やかな風に乗って揺れていた。
「妖精さんや戻っておいでー……なんて台詞だけで戻って来たら、苦労はしないわよねぇ」
ゼファーの言葉に、しかしまるで返事をするように、花々は揺れていた。その様は、妖精たちの笑顔が――本当の妖精たちが、すぐにでも戻ってくるのだと、ゼファーたちに思わせる光景だった。
「お疲れ様、皆さん……それに、アレクシア」
作業をひと段落させたアトワール、イレギュラーズ達、そしてアレクシアへと声をかける。
「お父さん!」
アレクシアはその声を認めると、少し得意げに、笑ってみせた。
「どう、お父さん、見ててくれた? 私はちゃんとやってるんだから」
その言葉に、アトワールは微笑んだ。
「ああ、見事なものだったよ。……アレクシア、君が外の世界に旅立って、本当に良かった。こうして元気に、色々な事を学んで、沢山の人を救っている」
心から、娘の成長を喜ぶ言葉に、アレクシアはなんだかくすぐったくなった。
「……ああ、それから、たまには家に帰っておいで。お友達と一緒にね」
「……うん!」
そう言って笑うアレクシアの笑顔は、妖精の笑顔に負けぬほどに、明るいものだったのだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆様のご活躍のおかけで、大切な約束の花畑は守られました。
妖精たちの約束の場所として、そして村の名所として、これからも多くの人を笑顔にしていくことでしょう。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
妖精伝承の村を脅かす、狂気の鹿の群れ。
これを撃退し、花畑を復活させましょう。
●成功条件
1.踏み荒らす狂鹿 の撃退
2.1を達成したのちに、畑の手入れをする
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●状況
妖精から与えられた、約束の花『妖精の笑顔』。今の季節に咲き誇っているだろうその花々は、森の奥より来る『踏み荒らす狂鹿』により、無残にも壊滅の危機に陥っています。
皆さんは、この鹿の群れを撃退し、花畑を守り抜いてください。
そして首尾よく鹿を撃退できた後は、花畑の手入れもお願いいたします。
鹿は夜中にやって来るため、作戦決行時刻は夜。
足元は畑になりますが、荒らされておりぐちゃぐちゃになっているため、移動などに極小のペナルティが発生する場合があります。
花畑の手入れは、翌日の昼に開始することになります。
●エネミーデータ
踏み荒らす狂鹿 ×6
特徴
何らかの理由で深い狂気に陥り、暴れるままの魔物と化した鹿です。
能力値は平均的なものですが、複数体で1人を集中して攻撃するような性質を持ちます。
主に物理属性の、近距離~中距離レンジ攻撃を使用。
『飛』属性、『移』属性を持つものを使用します。
●NPC
アトワール・ラリー・アバークロンビー
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)さんの関係者。イレギュラーズである娘と会えるかもしれない……と言った下心もありつつ、イレギュラーズ達を村まで案内してくれました。
戦闘能力はありませんので、戦闘には参加しません。
畑仕事は、一緒に手伝ってくれます。
以上となります。
それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。
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