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シナリオ詳細

<物語の娘>嘆きのメアリ・アン

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●なり損ないの慟哭
"アリスが迷い込んだのは、白ウサギのお家の前でした。
「そんな所で何をぼーっとつっ立ってるんだ、メアリ・アン!」
「ウサギさん、私の名前はアリスよ」
「時間が無いんだ。早く手袋と扇子を持って来ておくれ。任せたよメアリ・アン!」
 アリスがどんなに自分の名前を教えても、白ウサギは譲りません。アリスは仕方なく白ウサギの家へ、頼まれた物を探しに行く事にしました。
--ドジソンの手記 三章一節"

 どうして認めてくれないの?
 私が……私だけがアリスなのにッ!
 こんなのってないわ。"アリス(あなた)"もそう思うでしょう?

 それなら頂戴、貴方の"アリス(いのち)"ッ!

●アリスの手で終わらせて
「あまり気が進まないんだけど、大切な仕事なんだ」
 お気楽な『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)も、今回ばかりは真面目に話さざるをえない。

『黄金の昼下がり』といえば、おもちゃ箱をひっくり返したようなヘンテコ楽しい不思議な異世界。
 光の当たる場所に影が出来るように、可愛い楽しい事件もあれば、その裏に巣食う闇がある。

 メアリ・アン。
 可愛らしい少女の姿を模した、悪夢を司る妖霊である。
「彼女達はアリスに並ならない殺意を向けて来る。つまりーーあの世界の住人にアリスと呼ばれる特異運命座標にね」

 彼女達のルーツは没にされた原稿、つまりは"創造主に愛されなかった者"とも言われているが、真偽の程は定かではない。
 たとえ彼女達にどんな悲しい過去があろうとも、処理しなければ他の依頼で『黄金の昼下がり』を訪れる特異運命座標が襲われるリスクが生まれる訳で、蒼矢も境界案内人の立場上、放置する事が出来なかったそうだ。

「もっと化け物みたいな姿なら、怖いけど頑張ろう! ……って言えたんだけどね」

 メアリ・アンの戦闘力は、手を焼くほどのものでもない。代わりにのしかかって来るのは、幼い少女を手にかけなければいけないという罪悪感だ。

『私はただ、アリスが欲しかっただけなのに……。嫌よ、嫌。殺さないでアリス、蒼矢……』
「僕達だって君を傷つけたくない。お願いだ! これ以上アリスを襲わないでくれ!」
『でも……アリスを殺さないと、私はずっとメアリ・アンのままだわ。
 ワンダーランドの住人は"アリス(主人公)"でなければ見向きもしない。
 誰と心を通わす事もなく、虚無のまま過ごす……』
「メアリ・アン。君は――」

『生きる事ってそれでいいの? 息をする事じゃないでしょうッ!!」

 今でも耳に残っている、悲痛な少女の断末魔。
 青ざめた顔を見られまいと、蒼矢は帽子を目深に被った。

NMコメント

 今宵も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董です。
 悲しみをもって生まれてきた少女達を、開放してあげてください。

●目標
 メアリ・アン達の救済

●場所
 世界の名前は『黄金色の昼下がり』。住民たちは『ワンダーランド』と呼んでいます。
 まるでおもちゃ箱をひっくり返したような、カラフルでメルヘンな世界です。

 今回訪問するのは、この世界の中にある『涙の海』と呼ばれる場所です。
 アリスが流した涙によって出来た海だと言い伝えられています。
 普段はドードー鳥をはじめとしたワンダーランドの住人達が仲良く過ごしているエリアですが、メアリ・アンが暴れるので今は避けているようです。

●エネミー
 メアリ・アン×1
  アリスに執着する妖霊。見た目も声も可愛らしい少女ですが、血の色はインクに染まり切ったように黒く、人間でない事を物語っています。

  アリスに対して怒りや悲しみをぶつけるように攻撃してきます。
  身の丈ほどの大きなフォークを持ち、攻撃は近距離の物理攻撃に特化しているようです。

 影アリス×10
  メアリ・アンと呼ばれる事さえ叶わなかったワンダーランドの廃棄物。メアリ・アンと同じくらいの年齢の少女の影です。
  喋りますが対話は出来ず、盲目的にアリスへ襲い掛かって来ます。近距離の物理攻撃が主ですが、稀に中距離を狙ってくる者もいるようです。

●その他の登場人物
『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)
 皆さんに仕事を依頼した境界案内人です。以前どこかの機会で特異運命座標と共にメアリ・アンを倒した事があるそうなのですが、お人好しなので彼女達の悲鳴に心を痛めているようです。

●その他
 メアリ・アンを救済する方法は特異運命座標に一任されています。
 物理的に倒して悲しみから解き放ってあげてもいいですし、霊の性質に目をつけた除霊や説得による成仏を試みる事もできます。
 彼女がどんな終わりを迎えるかは、皆さん次第です。
 ただし、4人で方針を揃えないとどの方法も中途半端に終わってしまいますので、その点はご注意ください。

 説明は以上となります。
 それでは、よい旅路を!

  • <物語の娘>嘆きのメアリ・アン完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年05月03日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

スー・リソライト(p3p006924)
猫のワルツ
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
ボーン・リッチモンド(p3p007860)
嗤う陽気な骨
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

リプレイ


 じめじめとした空気が肌に纏わりつく。梅雨の時期には早いというのに、涙の海は湿地と化していた。コーカスレースの聖地でもあるこの場所は、平時であれば濡れた身体を乾かそうと駆けまわる鳥達で賑やかなのだが、今は影ひとつ見当たらない。
 誰もが恐れ、他人のフリを決め込むつもりだ。
 メアリ・アン。呪い深き少女を愛す者は、この世界において誰もいないーーここに集った者達を除いては。

「どんなに作者から愛されていても読者から見向きもされなければ、その物語は死んでいるのと同じではないでしょうか」
 人の輪の中で感じる孤独を『今は休ませて』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は知っている。元居た世界での自分とメアリ・アンを重ね、切なげに目を細めた。
「……哀しいね。大丈夫、なんとかしてみせるよ。例え、剣を振るう事になっても、ね」
”このまま”が、一番良くないと思うから。霧深い池を見据えて『猫のワルツ』スー・リソライト(p3p006924)がぽつりと零す。その線の細い小さな肩を包むように、ふわっと虎の手が降りた。今回は馴染みの『雷虎』ソア(p3p007025)も一緒だ。
「説得。ひょっとすると戦いながらになるかも知れないね」
 事前に聞いた情報では、メアリ・アンと特異運命座標の衝突はこれが初めてではなく、歩み寄りも失敗している。
「……それでも最後までボク達の気持ちを伝えられたらいいな」
 ここに集った特異運命座標は誰一人として殺到だけの終わりを良しとしなかった。
 話し合えるなら、もう一度ーー。
「カッカッカッ! こんなメルヘンな場所に麗しいお嬢さん方と一緒に同行できて骨野郎としては嬉しい限りだぜ!」
 重い空気を少しでも和らげようと『嗤う陽気な骨』ボーン・リッチモンド(p3p007860)が笑う。
「そのお嬢さんに僕も含まれているのですか?」
 冬宮神社直系がたまに授かる性別迷子。神秘を帯びた睦月の問いに、ボーンは参ったと頬を掻いた。
「勿論。美しいものは誰でもウェルカム。……ただ、こっちのお嬢さん方はどうもそんな俺達の事を歓迎してないみたいだが」

 いつの間にやら特異運命座標を警戒するように囲む10の影。メアリ・アンにすら成れなかった物語の残滓。彼女達はいずれも齢12に届くかどうかという程に年若く見えた。
 そして彼女らに守られるように並び立つ少女もまた同じ。陽の光にさえも見放されたような色素の薄い金の髪と、陶磁のような白いの肌。ただ双眸だけが邪悪を帯びた深紅の色で、敵意を宿しギラギラと輝いている。
 不条理だ、とボーンは密かに拳を握った。
(メアリ・アン……メアリちゃん達か…本来の名は「アリス」みたいだけど…はあ、こんな小さい子達を虐めるのがこの世界の選択なら…なんて「美しくない」世界だろうか)

『ようこそアリス、貴方達の墓場へ』
「待って、ボク達の話を聞いて!」

 メアリ・アンの前へソアが一歩踏み出した。同時に影がざわめき出し、幾人かの少女が身の丈ほどのフォークを持って襲い掛かる。
「——ッ!」
 ギン、と刃を弾く音が虎耳の間近で響いた。トランス状態で高揚したスーが矛先を裁き、華麗なステップで影の攻撃を躱しきる。
(スーさん……!)
(こっちは任せて!)
 交わしたアイコンタクトに決意を固める。一呼吸置いた後、ソアは再び唇を開いた。

「ボクはアリスって呼ばれても実感が沸かないんだ。異世界でとびきりに有名らしい、ボクにとっては架空の女の子。
 そんな名前で呼ばれたらそれはワクワクドキドキするよ。大好きなブルーのエプロンドレスにも憧れちゃう」

 女の子なら誰もが夢見る、好奇心旺盛でちょっぴり気の強いアリス。
ーーでもそれはボクじゃあない。

「かりそめのお芝居に夢中になれたとしても本当のアリスじゃないんだよ」
 突きつけられた事実にメアリ・アンが唇を噛む。
『偽物だから諦めろ、とでもいうの?』
 例えそれが仮初めの名でも、持つ者と持たざる者では世界は表情を変える。
"なんだ、紙屑か"
 名乗る度に投げかけられる冷たい視線は既に身体に焼きついてーー。
『イヤよ……嫌ぁっ!』
 ゴウ、と風を切る音がした。アリスの影が一人、また一人とメアリ・アンの心に同調して襲いかかる。しかしその刃が届く前に光の円環が巡り、彼女達の足を封じた。睦月のピューピルシールである。
「説得を続けましょう、彼女達は今、自分自身と向き合っています!」

 そうだ。傷つかずに受け入れられる程度なら、少女はこんなにも深い闇を抱えずに済んだ。

「君達が『アリス』という存在に固執する理由はわかった」
 死霊の群れが盾を成し、襲い来る影の毒牙を掃う。ボーンは少女達をけん制しながらも、相手の気持ちを理解しようと歩み寄りの姿勢を見せる。
「だが、そうやって俺達を排除していって……仮に『アリス』と呼ばれるようになったとしよう
『アリス』という名を被っただけの偽りの存在で…本当にそれで満足か?」
『当たり前じゃない! 渇望していたアリスよ。偽りだって構わない。私は……私達は…』

 私達は、誰?

 それはーー少女の脳裏に降りてきた"もしも"のビジョン。特異運命座標を殺した後の物語。
『ついに手にしたわ……私の名を! 今日から私が『アリス』よ!』
 なのにどうして皆、目を逸らすの? イカレ帽子屋も、白ウサギも……私に目をくれやしない。
『何で皆、アリスを無視するの? 折角手に入れたのに……』
 呆然と立ち尽くす少女にチェシャ猫が嗤う。
『君がアリスだって? まさか! アリスの服は青いエプロンドレスと決まっているニャア』
 そう。少女の身体は紅く染まっていた。特異運命座標の血で……紅く…。
『うぅ……うあぁぁああ!!』

 感情の昂りが荒れ狂う雲を呼ぶ。雨のように降り注ぐのは影で出来たナイフやフォーク。少女にとって、一番馴染みの深いヒトを傷つけられる武器。

「——ッ!」
 頬を掠めた鋭い痛み。それでもソアは立ち続ける。もつれそうな足をまた一歩踏み出して。
「偽りの名前。それはこの世界で生まれた貴方にだって言えることだと思わない?
 アリスと呼ばれただけ、ただそれだけで貴方が何であっても変わらず押しつけられる。
 そんなものをずっと好きでいられるの?」
 名前に縛られる苦しみ。それはアリスの名を奪った所で永遠に続くーーメアリ・アン自身が変わろうとしない限り。
 奪った名前でどんなに愛されようと、その愛は貴方のじゃない。
「アリスでもメアリ・アンでもない貴方だけの物語があったはずなんだ!
 だって今、ボクはあなたのことを見ているもん!」

 押し切られ、影アリスのフォークが弾かれた。竦み上がる影アリス。その腕をボーンは引き寄せ、想いを伝えようと強く強く抱きしめる。
「君達が誰かと心を通わせて生きたいって思うなら、そういうやり方じゃ駄目なんだ!
……なあ、俺達じゃ駄目なのか?『アリス』と呼ばれる俺達が……君達…メアリ・アンと呼ばれる君を愛する事じゃ…」
 影アリス達に動揺が走る。その温もりの名は忘れて久しい。
『嘘よ。貴方達をこんなに傷つけた私達に……』
 後ずさろうとしたメアリ・アンの背中にトンと何かが当たった。振り向くと同時、優しい腕に包み込まれる。スーの笑顔は温かく、太陽のようにふんわりで。
「嘘じゃないよ。私達が愛してあげる。でもね。
 私が貴女を愛するより、誰が貴女を愛するより…まずは、貴女が貴女を愛してあげて?
 自分の物語の主人公は、自分だけ。メアリ・アンを、愛してあげてなきゃ、メアリ・アン。
 今すぐアリス(主人公)にはなれなくたって、メアリ・アン(主人公)にはなれるはずだよ」

 ここに集まった四人は、いずれも己の立場と向き合ってきた者ばかりだ。言葉に宿る重みが違う。
「産まれた時から全部が決まるなんて、私は信じない、認めないっ!」
『……愛して、いいの?』
 ぽろり、とメアリ・アンの円らな瞳から一筋の涙が零れた。
 ひとつ零れたそれは呼び水のようにポロポロと大粒の涙を呼び寄せる。影アリスが一人、また一人と武器を捨て。
『紙屑の命でも、愛されていいの? 生きていいの?』
 初めて自分の本当の気持ちと向き合った少女達は、その日ーー涙が枯れるまで、特異運命座標に甘えるように泣きじゃくり続けたのだった。


 ヴァイオリンの優しい音色がメアリ・アンの目を覚ます。
『まあ、もうこんな時間だわ!』
 バタバタと支度をしたら、ふわふわのパンケーキをくわえてお家から飛び出した!
『おはよう皆、今日もがんばろうね!』
 メアリ・アンたちはすてきな魔法使い。
 優秀なメイドオブオールワークス。タクトを一振り、家はピカピカ、おいしいお料理。
 もちろん気が利くし、サポートは万全。黄金の昼下がりは彼女たちなくして考えられない。
 今日も彼女たちはひっぱりだこ。みんながあなたを待っている!
「そんな所で何をぼーっとつっ立ってるんだ、メアリ・アン!」
『ごめんなさいっ、今いきます!』

「すっごく素敵だね、睦月さん!」
 ソアとスーが仲良く原稿を共に持ち、キラキラと目を輝かせる。

 少女達が泣き止んだ後、睦月が提案したのはこうだった。
「メアリさん達のルーツは没にされた原稿だとお聞きしました。打ち切られてしまったなら、書き加えて完結させればいい」
 素敵な物語になれば、誰も紙屑だと彼女達を罵る事は出来ないという発想だ。
「メアリさん自身の物語を考えてみてください。僕はそれをくりかえし楽しみましょう。
 思いつかないのなら僕も手助けします。みんなでアイデアを出し合ってゆっくりお話して物語を作り上げませんか?」

「アイデアをまとめるのは大変でしたが、ボーンさんのヴァイオリンの音を聞くと、どんどん筆が乗って……」
「いいアシストだったろ?」
 陽気な骨が茶目っ気を帯びてウィンクする。ついでにもう一曲と彼が奏でたメロディーは、涙の海に心地よく響いた。

成否

成功

状態異常

なし

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