PandoraPartyProject

シナリオ詳細

血のあともう一滴

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ミキシン族、ジェロニモ
 エンブレムの刺繍された旗と、壁際にならぶいくつものオブジェ。
 そこが監獄島の一室だと言われなければ、どこかの部族をとりまとめる城や砦に見えたことだろう。
 赤い絨毯のうえにのった、玉座代わりの木の椅子。
 腰掛け、足を組んでひじかけに顎肘をついた赤髪の男。彼が、今回の依頼人であるジェロニモ・ミキシンだ。
 筋骨隆々な肉体。精霊の加護を意味するタトゥー。額に彫り込まれた誇り高きシンボル。
 幻想国古来より続くと言われるミキシン族の末裔にして、一度は農奴にまでおちた部族に再び人権を取り戻した希代のカリスマ。
 それが彼、ジェロニモなのである。
「ローレット・イレギュラーズ諸君。今回は、我が部族を救って貰いたい。君たちはそのための、撃鉄となる」

 ミキシン族についてもう少しばかり話そう。
 古来より続く部族ミキシン族。彼らは幻想王国繁栄当初、地元原住民であったがそこそこの金貨と引き換えに広大な土地を売却し、それ以降近代化が進むにつれて部族の暮らしぶりは低迷し、しまいには貧窮のあまり全ての土地を売却。酪農を営むための土地を借りるという契約を結んだ。
 しかしそれが暗黒期の始まりであった。契約内容は実質農奴のそれであり、彼らはほとんどの自由を経済的に奪われたまま末代まで奴隷のごとく働き続けることになった。
 いや、なっていたという過去形で述べるべきだろうか。
 あるときミキシン族に生まれたジェロニモは幼くして読み書きを始めとする知能の優秀さをみせ、また肉体の頑丈さから近隣の兵士や騎士にも負けぬ強さをみせた。
 そんな彼はすくすくと成長し立派な大人となった時、ついにミキシン族全体をとりまとめ蜂起させるまでにカリスマをもったのだった。
 ミキシン族を侮っていた当時の貴族はジェロニモを止めることができず、一夜のうちに抹殺された。
 何代にも及んだ悪しき契約は物理的に撤廃され、彼らは再び人権を取り戻したのだ。
 ……が、しかし。
「俺は頼るべき人間を間違えた」
 自由となった民に人権を与えるべく周辺貴族に協力を求めたが、その際の条件がジェロニモを監獄島に収監することであった。
 自由のためとはいえ人の命を奪ったのだ。当然の贖罪であるとしてジェロニモはそれを受け入れたが……。
「彼が収監されてすぐに、ミキシン族は再び農奴化してしまったのさ。当然だよね。収監してしまえばもう手出しはできない」
 あとからやってきた『黒猫の』ショウ(p3n000005)が皮肉げに述べると、ジェロニモは目を瞑って深く息をついた。
「全ては俺の政治力が乏しいがゆえ。けどな、つけねばならないケジメというものがある。流すべき血を……あともう一度。これを、最後の流血とする」
 つまりは。
「かの貴族達を打倒せよ」

●打倒貴族
 打倒すべき貴族はひとり。
 テゲア砦にて兵に守られた貴族テゲア・ハルミントンである。
 彼を、もとい彼の部屋に置かれた契約書を物理的に燃やしてしまうことで、この依頼は完遂となる。
「つまりは砦攻めだね」
 ここからは俺が説明しよう、とショウは砦の地図を広げて見せた。
「テゲアは用心深い男でね、砦の守りもだいぶ堅い。
 過去に物質透過や飛行を用いて侵入をはかった者がいたけど、残らず見つかって翌朝には橋でつめたくぶら下がっていたそうだ」
 スケッチや地図情報からみるに、テゲア砦は頑丈な石でできた砦のようだ。
 ぐるりと高い塀で囲み、入り口は北と南の二箇所。南は常に門が閉ざされている。
 塀のまわりと上空を数人の兵が巡回しているようだ。
 契約書のある部屋は地下にあるが、そこへ到達するまでにも兵士と遭遇する可能性は大きいだろう。
 兵士の武器は主に弓と剣。中には魔法を用いるものもいるようだ。
「テゲアの部屋には四人の手練れが常駐してる。彼らはそのへんの兵士たちとは格が違うよ。戦う際には気を引き締めてかかったほうがいいね」

 最後に、これでミキシン族の自由は勝ち取れるのかと誰かが尋ねた。
 するとジェロニモは口の端をわずかに持ち上げてみせた。
「新たにローザミスティカと契約を結ぶことにした。俺をミハエルという看守の下につけることで、ミキシン族の自由が保障される。俺はこの場所から……監獄の中から部族を変えていくつもりだ。たとえどんな身になろうとも、な」

GMコメント

■報酬について
 今回の依頼を首尾良くことなすことができたなら、ジェロニモから追加のGOLD報酬が得られるかもしれません。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、幻想における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 血のあともう一滴完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年04月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
シラス(p3p004421)
超える者
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
紅楼夢・紫月(p3p007611)
呪刀持ちの唄歌い
ルリ・メイフィールド(p3p007928)
特異運命座標
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー

リプレイ

●流れるべき血と、流すべきでない血
 揺れる裸電球が、ナイフ傷だらけのウッドテーブルをオレンジ色に照らしている。
 テーブルには樽形のカップが並び、なかにはなみなみと安酒が注がれていた。
「あーあ。これだから貴族は……」
 『迷い狐』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)はテーブルの一角によりかかり、依頼書のページをめくる。
 視界を広げてみれば多くの人々が、それぞれ同じようなテーブルについて適当に酒を飲み交わしているのがみえるだろうか。下世話な、もしくは乱暴な話し声もきっと聞こえることだろう。誰かが突然喧嘩を始めるさまも見えるかもしれない。
 だがそんな風景などお構いなしといった風に、『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)が横から依頼書を取って読み始めた。
「守る気の無い約束ほど罪深いものはない。
 相手がそのつもりならこちらもそうする。何もおかしくはないね」
 テゲアという貴族が不義理を犯し、これを……というよりこの貴族のもつ契約書を抹消することが今回の依頼の主目的である。
 そのための過程や結果の大小は求められていない。このために何人死のうが感知しない、ということである。
「テゲア本人を仕留められるか分からないけど、相応の血は払わせてみせるよ」
 そこで彼らは、こういう結果を望んだようだ。
「この場合、どっちが悪って言えばいいのかしら」
 オレンジジュースをカップの中でゆらしながら、そんなことを語る『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)。
 悪行を破壊するものが必ずしも善人であるとは限らない。ダークヒーローやヴィジランテといったグレーな存在が、どんな世界にもいるものである。
 今回はきっと、そういう案件なのだろう。
「まあ、そういうむっずかしーこと考えても無駄だし、さくっと入ってざっくりやって帰る!」
 秋奈はいつもの調子をとりもどし、刀の柄を拳でドンと叩いて見せた。

 ここでいまいちど、依頼人の話をしよう。
 依頼人ジェロニモ・ミキシンは部族の長にして革命の戦士であった。
 彼は持ち前のカリスマ性と高い知能と武力でもって部族をとりまとめ、部族解放のために戦い、そして同じ理由で投獄された。
 此度もまた、同じ理由でローレットへの依頼を裏ルートから行ったということである。
「部族の為に、ねぇ。こういった依頼もあるんやねぇ」
  『呪刀持ちの唄歌い』紅楼夢・紫月(p3p007611)はテーブルに肘を突いて、間延びしたため息をついた。
「私に出来るんは戦う事だけやし、しっかりやらせてもらおうかねぇ」
「ええ。依頼を請け負った以上、仕事はしっかり果たしませんと」
 ハハハと目の笑っていない笑顔で『胡散臭い密売商人』バルガル・ミフィスト(p3p007978)は酒をあおった。
 そして空になったカップを、ひろげたマップの端にドンと置く。
 今回のターゲットとなる契約書はテゲア砦の奥にあるという。
 これまで潜入を試みた数々の刺客や盗人がことごとく抹殺されてきたという砦。
「これを8人で攻めろとは、なかなか大変な依頼ですね。さーてどう攻めますか……」
 手をすりあわせ、いつもの『えひひ』という引きつった笑みを浮かべる『こそどろ』エマ(p3p000257)。
 『特異運命座標』ルリ・メイフィールド(p3p007928)はその横で、黙って南門を指さした。
 砦南北に存在する門のうち、常に閉ざされているという側である。
 常に解放されている門と比べ突破は難しいはずだが、それを逆手に取れば北門よりも警備が薄いはずだという考えである。
 ルリの指摘する通りで、門は砦内の兵士が操作しない限り開かず、これを透過ないし飛行によって越えられないように門番や飛行警備兵がそれぞれ配置されている。
 だが逆に言えば、門の開放さえできれば比較的少ない戦力を相手に突破が可能になるのだ。
 正面突破によるゴリ押しのリスクよりも、搦め手のリスクを選んだということである。
「とはいえここの警備も無能ってワケじゃないしね」
 『ラド・バウC級闘士』シラス(p3p004421)はこれまで潜入に失敗した者たちの末路を記した資料を置いて目を細めた。
「門の開放と侵入ができたとしても、上との確認がとれなければすぐに退去をめじられるだろうし、それに応じなければ即戦闘だ。貴族社会に民主主義なんかないしね。家に入り込んだ虫と同じくらい安易に殺されるんじゃない?」
 シラスの口調からは、『自分は殺されたりしないけどね』という余裕が見えた。
 それは今ここにいる全員に共通することであったようで。
 エマは引きつったような笑みを。
 メーヴィンは非対称でシニカルな笑みを。
 ウィリアムはリラックスした優しい笑みを。
 シラスは眉をあげ茶化したような笑みを。
 秋奈はポジティブて明るい笑みを。
 紫月はどこか妖艶な笑みを。
 ルリはいまだ眠そうなとろんとした笑みを。
 バルガルは口元だけの胡散臭い笑みを。
 それぞれ浮かべてカップを掲げた。
 きっと永遠に死なない、いずれ簡単に死ぬであろう我らの命に、乾杯。

●口先だけの破城槌
「テゲアも砦で質素に暮らしているわけではありません。ここまで人と金を動かせば、必然外注業者に頼らざるを得なくなる。人の管理は重労働ですからねえ」
 ハンドルを握ったバルガルはゆっくりとブレーキペダルをふみ、こちらに槍を向けて警戒する門番達のまえで車を停車させた。
 ドアをあけ、助手席に座っていたルリと共に車を降りる。
「何のようだ。ここが観光地にでも見えたか」
 槍を突きつけたまま、一定距離をあけて問いかけてくる警備兵。
 バルガルはハハハと笑いながら両手を挙げた。
「食料販売ですよ。そちらこそ、自爆テロにでも見えましたか」
 舌打ちする兵士。バルガルはルリと後部座席のウィリアム、そしてただ存在感を発揮し続けている秋奈に『お見せしなさい』と指事を出した。
 言われるまま、式神をつかって荷物のひとつをおろして見せるウィリアム。
 ルリがそれを運んでいくと、箱の中身はチョコレートだった。
 紙箱で包装された高級なチョコレートである。それこそ貴族が雑に買い付けそうな品だ。
「ほら、どうぞ。お一つ差し上げますので中身を確認してください」
 バルガルが警備兵に人箱ずつチョコレートをわたし、警備兵はそれを開いてから『たしかに』『おまえチョコレート好きだったよな』などとつぶやいた。
 つぶやいてから、顔をしかめる。
「まあ……そこまでは分かった。けど買い付けの話は聞いてないぞ」
「旦那様が急にチョコレートが食べたくなったのでは? あの人、そういうことしそうでしょう?」
 隣の警備兵がうんざりした口調で言うと、たしかにといった顔でため息をついた。
 口にこそ出さないが、テゲアを慕ってこの仕事をしている人間はほぼ皆無であるらしい。
 金に汚い人間は人件費をケチる。当然人望も損ない、金だけを信用するようになるものだ。真のリッチと見せかけのケチの違いである。
 警備兵はさらにうんざりした口調で首を振った。
「ていうか、これ全部私たちが運ぶんですよね? 休憩時間中に」
「それは困ります。チョコレートですよ? この気温で溶けてしまいます」
 ねえ? とバルガルが振り返ると、腕組みをして様子を見ていたメーヴィンたちが頷いた。
 引きつったような笑みを浮かべる警備兵。
「えひひ……じゃあ私ここ見てますんで、センパイ運んでくださいよ」
「あ゛?」
 年配の警備兵は顔をしかめ、隣の警備兵の頭を叩いた。
「それが先輩への態度か。オマエが行け。休憩時間無くされたいのか」
「え、いやあ! すんません! 今行きます!」
 そうしている間に門が開き始める。年配の警備兵は今度こそ怒鳴り始めた。
「おいまだ開いていいと言ってないぞ。勝手なことをするな!」
 内側で門の操作をしているであろう警備兵に怒鳴りつけ……ようと振り返ったその時。
 彼の首に短剣の刃が走った。
「――!?」
 すぐ隣に居た警備兵がかぶとを脱ぎ、桃色の髪がひろがる。
 もうお気づきだろうか。隣にいた後輩警備兵というのは、なりすましたエマであった。
 相当ブラックな職場で新人がすぐに辞めるため出入りが激しく人数も多い。そんな場所に入り込むのはそう難しいことではなかっただろう。
 そして更に述べるなら、門を開けた警備兵などいない。
「おーぷんせさみ」
 首から血を流してひゅうひゅうと喉笛を鳴らす警備兵と、それを足ではじによせたシラス。
 もう一人の警備兵は胸を刀で貫かれていた。刀を抜き、倒れたところを二発のライフルでトドメをさす紫月。
 どうやら表でバルガルたちが時間を稼いでいる間に、物質透過を用いて門をすりぬけていたらしい。
 その様子に気づいた砦内の警備兵や飛行警備兵が笛を鳴らし、本格的な迎撃態勢へと移行。
「よしきた、出番だな! 看板娘ごっこはいい加減限界だったんだよ!」
 メーヴィンは積み荷の中に隠していた刀を取り出すと、勢いよく跳躍。
 襲いかかろうと接近してきた飛行警備兵に先手を打って近づくと、抜刀と同時の高速垂直連続回転切りで飛行警備兵を斬り殺した。
 血しぶきを雨にして着地するメーヴィン。
「ものども、であえであえー!」
「それ、言われる側」
 ウィリアムは北門側から反転して駆け寄ってくる兵士たちに手をかざし、手袋の甲に刻まれた紋章術から小さな魔方陣を起動。ランチャーマジックを起動し複数の魔方陣を呼び出すと五色の立体魔術式を同時起動。増設されたマジックメモリの限界まで魔方陣を立ち上げると、その全てを垂直連結させて風の魔術を放った。
 風を極論すれば大気の移動。可視光線を遮るほど固く圧縮された空気がライフル弾のように鋭い円錐型となって兵士の頭蓋骨に侵入。空気圧縮を解いた。
 当然兵士の頭は爆発する。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
 おりゃーと言いながら砦へ走る秋奈。
 飛行警備兵を魔砲で牽制するルリの援護射撃を受けながら、爆弾投下による爆発の連続を駆け抜けていく。
 警備兵の休憩所から非番の警備兵が飛び出してくるが知ったことではない。
 秋奈は自分の存在をおもいきりアピールすると、両脇の戦神装備『緋憑』と『緋月』をそれぞれ抜刀。
 まだ構えてすらいない警備兵の首をはねると、もう一人の首めがけて刀を打ち込んだ。
 ギリギリで防御され、止まる刀。
 が、そんな兵士の額にスッと紫月のライフルが押し当てられた。
「――!」
 何も言わず妖艶に微笑み、紫月はトリガーをひいた。

 階段を駆け下りるシラス。
 剣を抜いて階下から駆け上がろうとする兵士の顔面を蹴りつけると、転がり落ちる兵士を飛び越えて通路へと躍り出た。
 ――と同時に指弾の構えをとり、魔力礫を親指で発射。通路を塞ごうと構えていた兵士を撃退する。
 目指すべき目標はひとつきりだ。悲鳴をあげて部屋にこもる召使いやメイドたちを無視し、エマやバルガル、ルリたちは一直線にテゲアの部屋へと駆け込んでいく。
「……」
 ルリはスゥっと息を細く吸い込みリミッターを解除。
 扉の前で『ここはとおさない』と勇ましく唱えようとしていた警備兵を右ストレート一発でぶち抜いていく。
 兵士ごと扉が破壊され、高級な絨毯に木片と血としたいが転がった。
「年貢の納めどき……というやつでしょーか?」
 拳を振り抜いた姿勢。ルリは軽くあくびをしながら部屋の中へと踏み込んだ。

 部屋の様子を、まずは述べておこう。
 高価そうな椅子から立ち上がり、その後ろに身を隠そうと縮こまった男がまず一人。よく手入れされた髭とたるみほうだいの腹。すべての指に金色の指輪をつけた彼がテゲアで間違いないだろう。
 こういう砦を用意するほどなので非常脱出口くらい用意していそうだが、この狼狽えようを見る限り逃げ出すヒマも無かったのだろう。
 潜入というか、ギリギリまで警戒させない突入手段が効いた形である。
 一方、つるりとした球体型ヘルメットを装着した四人組が部屋中央に集まり、どこかリラックスしたような姿勢で立っている。
 かと、思えば。
「GROOVYYYYY!! 商人に化けて門番に賄賂をわたしつつ兵士に化けて招き入れその間に開門担当者を暗殺し門を開くまでの手際実にGROOVYだネ!」
 中央に立った二丁拳銃の男が指に銃を引っかけたまま器用に拍手した。
「クソデブナリキン貴族おじさんも運がなかったなァ、ウォイウォイ! どうせ今日の仕事も貴族連中にもみ消されて実績にならないんだろう……ナー!」
 その後ろではスパークする金属バットを片手でくるくると回してもてあそぶ女。
 日本刀を手に腕組みするビジネススーツの男と、白い手袋とライダースーツだけの女が横に立っている。
「そう腐るな。裏家業なんぞもとから履歴書に書けん」
「そういうコト。お金になるだけマシってことにしましょ」
 四人組。
 おそらく、情報にあった手練れというやつだろう。
 エマは顔から笑みを消し、強い警戒のもと短剣を構えた。
「こいつら、相当ヤバいですよ」
「だろう、ね……」
 全力戦闘の構えをとるシラス。
 こちらの計画を既に見抜き、説明できているにもかかわらず、しかしテゲアを逃がしていない。それだけ有能であると同時に、本件に対してクレバーな関わり方をしていることがわかる。
 秋奈が刀をくるりと回して握り直した。
「つまりどゆこと? つよいの?」
「実際強いかどうかはともかく、ナメてかかると依頼ごと台無しになるってこと」
「りょ」
 そうこうしている間に衛兵たちが部屋へと駆け込んでくる。
 この戦いに混ざられたら厄介だ。
 シラスとエマはそれぞれ反転し、通路を塞ぐように構えた。
「こっちは引き受けます」
「持久戦は得意なんでね。そっちの四人は任せた」
「……4対8にはならない、か。わかった」
 ウィリアムは頷くと、開戦の一撃を解き放った。
 分散した魔方陣がそれぞれ雷の魔術を形成し、四人組へと発射する。
 対抗したのは二丁拳銃の男。
 拳銃といっても銃身のないまるいボディで、撃鉄のありそうな部分にトラックボールがついていた。
「GROOVY」
 飛来する無数の雷を細い光線で『迎撃』した。
 ウィリアムの魔法攻撃がまっこうから対策されることなどそうあることではない。
「へえ……」
 直後、紫月のライフルがGROOVY男の脳天に直撃。
 ……かのように見せて、球体ヘルメットで弾をはじいてのけぞっていた。
 唇をひいて笑い、刀を握って駆け寄る紫月。
 斬撃が綺麗に入った――かに見えたが、横から割り込んだ金属バットの女に刀をとめられた。
 当然、それで済ませたりなどしない。紫月は連続で斬撃を放ち、女はそれをバットを中国棒術のような動きでくるくる回すことで受け流し続けた。
 左右にわかれ、同時に襲いかかるバルガルとルリ。
 対して、ビジネススーツの男とライダースーツの女が対抗して飛び出してきた。
 ルリの拳から繰り出されるすさまじい魔力弾が、女の手のひらで止められる。
 対抗して繰り出されたのは激しい冷気を纏った手刀だった。
 直撃――を直後の自己回復で吹き飛ばすルリ。
 一方でバルガルは親指を立てて鋭い突き――の途中で相手から繰り出された同じ親指の突きを握って止める。
 バルガルが狙ったのは相手の喉を鍛え上げた親指で押しつぶして即死させるという空手における殺人技。対して、相手が繰り出してきたのは『全く同じ技』であった。
 わずかに目を見開き、そして目を強く細めて笑うバルガル。
「…………あなた」
「そういうことらしいな」
 二人は飛びのきあい、にらみあう。
 だがそんな彼らの戦いも、秋奈とメーヴィンの刀がバット女に突きつけられたことで決着した。
「はいヤメー!」
 バットを両手で持って頭上高く掲げるという独特の降参ポーズを見せる女。
「これ以上戦ってもたいした額にならねーんだからよー! 働く意味なんてねーよナー!」
「ウーム……惜しいがその通り」
 二丁拳銃の男も武器を上げてみせた。
「そこのデブは好きにしていいよ?」
「おい! 戦いをやめるな! お前らにいくら払ったと思ってる!」
 椅子の後ろから怒鳴りつけるテゲアだが、白いライダースーツの女がため息まじりに振り返った。
「でももう払えないんでしょう? 死ぬから」
 その言葉を肯定するように、シラスとメーヴィンがテゲアの首根っこを掴んだ。
「なにする! やめろ!」
「動くなよ、痛えぞ」





 後日談。
 火を放たれたテゲア砦は放棄され、誰が看取ることもなくテゲアの財産は処理された。
 そのドサクサの中で奴隷契約書は炎に消え、テゲアの死体も本人と分からぬほどに燃え尽きたという。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 後日談、その2。
 あのあとサッサと引き上げた手練れ四人衆はローザミスティカの看守越しに名刺を渡してきました。
 デリバリー用心棒『ナインボール』、と書いてありました。

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