PandoraPartyProject

シナリオ詳細

この厳しすぎる世界で

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「何せこいつは、誰にでも股を開いた挙句に病で死んだ母親と、知恵遅れの弟を持ったカワイソ~~~~~なお坊ちゃんだからなあ!」

 其の言葉が耳に入った瞬間、脳みそが沸騰した。言葉の一つ一つが焼石のように心に放り込まれて、怒りで逆に冷静になれそうなほど。
 周りからはアルコール臭い笑い声。そうさ、此処は子どもが来るような場所じゃない。――場末の酒場。本来なら、ボクと弟は縁遠い場所。

 おいおい、言いすぎだろ?
 かわいそうだなあ、何かおごってやろうか?

 下卑た野次と視線がボクと。ボクと手を繋いできょろきょろしている弟に向けられる。
 やめろ、やめろ! そんな目でボクを見るんじゃない!

「違う!! 母さんは、ボクらを育てるために誇り高く生きたんだ!」
「誇りが腹の足しになった事があるかい、おぼっちゃん? 実際、キミのママは誇り高くあって、お貴族様のような暮らしが出来たのかい?」
「……ッ!!」
「違うだろ。お前らクソガキは親なしで、母親は淫売だ。父親はどこの馬の骨ともしれねえ男で、だからお前らは俺の店にパンを貰いに来たんだろ?
 なあ、其れってなんていうか知ってるか? も、の、ご、い、って言うんだよ。優しいおじちゃんが教えてやろうなあ」
 バーカウンターから身を乗り出してボクたちを見るマスターの目はイカレていた。こいつ、何か薬でもやってるんだ。母さんが言ってた、どんなにどん底にいようとも、手を出してはならないものもあるって。
 “ソレ”に手を出したやつらが、どうして母さんとボクらを侮辱するんだ。どうして。どうして、どうして……
「おいおいマスター、いじめすぎだぜ。相手はまだ子どもだろ?」
「こいつ、パンを貰いに来るの今週で3度目なんだよ。いい加減俺も腹が立つってもんだ、子どもだから将来皿洗いで返してくれって言葉に甘えてるんだよなあ。そうなんだろ? もっとも、弟クンは皿洗いほども役に立たなそうだけどなあ」
「xxxは誰だって役に立つ。そっちを使ってやれよ!」
「ははははは!! ちげえねえ!」
 理解しがたい言葉が宙を舞っている。
 ボクは弟の手が片手の中にある事をしっかりと確かめながら、耐え切れなくなって其の場から逃げ出した。

 欲しいのは、紙とペン。
 そして、母さんが教えてくれた文字。大好きだった母さんが教えてくれた文字で、ボクは、人殺しの依頼をする。



「皆殺しにしてくれないか」
 グレモリー・グレモリー(p3n000074)は開口一番、そう言った。
 唐突に話し出すのがこの男の癖だが、こんなに物騒な話の始まりは突然だ。
「……という依頼が来たんだ。依頼主は内緒、場所は幻想の端っこにある寂れた酒屋。其処にいる人間を皆殺しにして欲しい、と。」
 ぺら、と一枚の紙を差し出したグレモリー。其処には

 ころしてください
 場所はxxx番地xxx-xx 輝石という酒場にいる全員です
 x曜日の夜にいる全員を殺してください

 ――幼い筆跡だ。しかし、とてつもない怒りを感じる。
 荒々しい筆致に篭った怨嗟にうなるイレギュラーズ。
「どうも、知ってる人は知っていて、曜日ごとに客の顔がある程度変わるような店なんだろう。実行はこの指定の通りの曜日にしてほしい。……とにかく、皆殺しが任務。勿論悪い評判が君たちにくっつくと思うけど、其れでもいいというなら」
 誰も受けなくてもそれはそれでいいよ。
 僕は情報屋として、仕事の一つを紹介したに過ぎないからね。
 イレギュラーズを金色の目で見まわして、グレモリーは背を向けた。



「……いま、依頼をみんなに話してきたよ。本当に良いんだね」
「はい。ボクは、弟と母さんを侮辱した奴らが許せません」
「もしかしたら、初めて酒場に来た人がいるかもしれないよ」
「……それでも、構いません。あんな場所に出入りする屑は、死ねばいいんだ」
「……。」
「ボクらも準備は出来ています。もう、この世に未練はありません」
「死ぬ気なのかい」
「ボクもあの場に出入りしていた一人だ」
「……君は、潔癖だね」
「……。宜しくお願いします」
 去っていく少年二人を見送りながら、グレモリーは何も言わずにいた。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 悲しい兄弟。でも、この混沌ではよくある光景。
 少年は幼くて清らかすぎた、ただそれだけの事なのです。

 初めての悪属性依頼は、とある酒場にいる人間全員の殲滅です。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●目標
 酒場「輝石」にいる全員を抹殺せよ

●立地
 浮浪者がうろつく裏路地にある酒場です。
 出る酒の質は(土地柄から見れば)まあまあ悪くないという事で、
 ある程度のリピーターがいます。
 勿論、運命のいたずらで初めて立ち寄る人もいるでしょう。
 なお、兄弟は当日は何処かに行っているようです。

 狭い酒場ですので、遠距離攻撃を使う場合は間合いに気を付けて下さい。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●エネミー
 マスターx1
 客x10人程度

 客は武器を所持していませんが、近距離戦闘はゴロツキ程度の力があります。
 マスターは練達製の銃を持っています。2Tごとにランダムに一人を狙い中距離で攻撃します。


 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 また、この依頼はかなり後味の悪いものになります。
 それでも良ければ是非どうぞ。
 では、いってらっしゃい。

  • この厳しすぎる世界で完了
  • GM名奇古譚
  • 種別通常(悪)
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年04月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
高槻 夕子(p3p007252)
クノイチジェイケイ
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ヴォルフ・シュナイエン(p3p008239)
蒼き翼の鮮烈

リプレイ


「この依頼書借りるね、グレモリーさん」
 依頼の話が終わった後、『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233)は幼い字が並ぶ紙をひらりと取っていった。
「其れから、依頼人に伝えて。“結果を聞く必要がある”って」
「……僕に走り回れと言っているようなものだね」
 グレモリーは史之を見て、肩を竦めた。
「でもまあ、善処はしてみる。僕の体力に精々期待してくれ」
「頼もしいよ。ありがとう」



 其の日、酒場“輝石”は珍しく客入りの多い日だった。其のうちの何人が心に殺意を秘めているのかも知らず、男たちは酒を飲みかわし、マスターは笑顔を振りまいている。
「(合図はまだかしら……早く殺したいわ。やっぱり殺すなら魔物より人間よね)」
 アノニマス――名前のない人間になりすます術を用いて目立つ容姿を隠した『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)が、ジュースを啜りながら退屈そうに待っている。ふと視線を動かせば、カウンター付近でゼファーが水を飲んでいるのが見えた。飛び越えれば厨房への道を塞げる位置だ。
 メリーは窓――逃げ道になり得るところ――の前のテーブルを陣取り、ジュースをまた一口飲む。同じく反対側の窓を陣取っているのは『宝飾眼の処刑人』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)と『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)。
「別にさぁ、酒でもいいんだけどね……生憎、酒が飲める年だと証明できるものがないんだ。君たちは気にしないと思うけどさ……あ、金はあるぜ? 心配するなって」
 『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)のおどけた声が聞こえる。ゼファー(p3p007625)と少し離れたカウンター席で。
 ――入り口には恐らく『物見の魔女』ヴォルフ・シュナイエン(p3p008239)たちが居て、開演の時を待っているのだろう。後は……

 からん、からん……

「らっしゃい」
 きた。
 そうとはばれないように、7人の視線が一点に集まる。ぼろきれのようなフードを深くかぶってはいるが、史之だ。彼の合図と共に、血も凍るような、心が躍るような惨劇が始まるのだ。
 笑っているのが判る。自分だとか、誰かだとか。其れはうっそりとした暗い笑みだ。依頼という大義のもと、これから人殺しが出来るのだという暗い期待。

「――今日という日に感謝しろよ」

 もちろんですとも。

「おまえたちの先の見えない人生が、やっと終わるんだからな!」
「あははははははっ!!」
 史之の名乗り口上と共に、メリーの甲高い笑い声が酒場“輝石”に響き渡り、ヴォルフと『クノイチジェイケイ』高槻 夕子(p3p007252)が出入り口をふさいだ。
 惨劇の始まりだ。



「な、なんだぁ!? お客さん、いきなり何を――」
「アンタは邪魔! 黙ってなさいよ!」
「ぐっ……お……」
 マスターがメリーの威嚇術を受けて後ろの棚に叩きつけられる。ゼファーはカウンターを飛び越えてマスターの逃げ道を塞ぐべきかとも考えていたが、その必要はないと判断した。マスターへの対処を考えている者はほかにもいるだろうと考えての事だ。
「刃傷沙汰に流血沙汰、突然の騒ぎでごめんなさいねぇ? ……此処にいる全員が死ぬのをお望みの人がいるの。まぁ、風に吹かれたとでも思って諦めて頂戴?」
「は、はぁ……? ふ、ふざけんじゃあねえぞこのアマ!」
 そりゃあそうだ。“今からあなた達は全員死にます”と言われて、納得できる者はいないだろう。怒りのままにゼファーに殴り掛かった男が一人。其の腕をすらりとゼファーは掴んで、相手の勢いを殺さぬまま、己の力を上乗せして、的確に心臓にカウンターの一撃を放った。
「例えば――優しい誰かが手を差し伸べていたのなら……ほんのささやかでもいい、優しい言葉をかけていたのなら、状況は違っていたのかもしれないわ。でもね、誰もそうしなかった。だからこうなったのよ」
 規則正しく刻んでいた心音が乱れ、消える。どさりと力なく突っ伏した男を見て、客は思った。

 ――こいつらは、本気だ。

「あーっはっはっは! いいわ! いいわ! 無様に死になさい!」
「お仕事じゃないと好きに人を殺せないカワイソ~~な俺を慰めてくれよ。なぁ?」
 メリーが魔弾で客の胸を貫き、ペッカートが相手の頭に闇を直接叩き込み、その命を奈落の底まで突き落とす。
「ああ、良い夜になりそうだねぇ。という訳で、死んでくれるかい」
 シキが感情を殺した軽薄な笑い顔のまま、剣で切り刻み、魔術で破壊する。人体としての用をなさなくなった肉塊が、あっという間に数個出来上がる。
「ひっ、ひぃい! た、助け……!」
「駄目だよ、一人も逃がすなって“依頼”だからね」
 ムスティスラーフの背が輝く。其の光翼は味方を癒し、其れ以上に敵を屠る。敵と認識された哀れな男たちは、或いは立ち上がろうとしたまま、或いは酒瓶を持ったまま、或いは隠れようと頭を抱えたまま、なす術もなく切り刻まれて血のシャワーを降らす。
「おー。すごぽよ。あーしたち必要なくね?」
「すごぽよって何だよ笑える。此処からでも出来る事あんだろうが」
 夕子はそうだね、と頷くと、マークされていない(或いはわざとかもしれない)窓から逃げようとしていた男に近寄る。
「ねえ」
「ひいっ!? や、やめてくれ! 俺は、俺は此処には初めて来たんだ……! なあ、この酒場が何かしたんだろ!? 俺は何も知らない、俺は……ぎゃああああ!」
 夕子の艶めかしい肢体に、果たして幾つ刃が隠れているのだろう? ――そのうちの一つが、すこんと音を立てて男の足を床に縫い付けた。悲鳴。流れる血の香り。夕子は顔色一つ変えはしない。
「そゆこと聞いてんじゃねーし。此処にいる人間みんなブッ殺って頼まれてんの。じゃーやるしかないじゃん? 命乞いしても無駄ちーだから。今日は殺したい気分なの」
 ――でも初めてのお客さんだから、すぱっと殺してあげるね。
 其の言葉は、喉笛を裂かれた男の耳に入ってはいなかったろう。

「おー、やるねやるねえ。俺としてはこの後も気になるし、楽しい事だらけだなァ」
 仲間が屠っていくのを魔弾で援護しながら、ヴォルフは笑みを隠しきれずにいた。美しいものには棘がある……とは言うものの、此れではまるで、天使の造形をした悪魔のようだ。
「うおあああああ!!!」
 我を失って殴り掛かってくる男。体力に自信のないヴォルフは再び魔弾を構えたが――横合いから奔った衝撃波で男が吹き飛ぶ。
「美人さん、大丈夫かい」
「おう、助かったぜ。接近戦は不得意でな」
 ペッカートだった。男の胸元を踏みつけ、値踏みするように見下ろす。ヴォルフもまた、男を見下ろす。
「ちくしょう……なあ、俺が何をしたってんだ……! なんでだ、なんでお前らがこんなこと……」
「残念ながら依頼なんだよなァ~~……依頼ってんなら、殺しちまっても仕方ねェよな? まあ、喜び勇んで飛び込ませて頂いた訳ですがァ」
「そうだな、依頼なら仕方ない。で、どうする?」
「指先から刻んでいこうぜ。どこまでもつか見てみたい」
「いいね! 我(オレ)もやる。じゃあ先に殺した方が負けな」
「ひっ、ひい、ひいいいい!! ひいいいいいいいいいいい!!!」

「ハアッ……ハアッ……! 畜生……!!」
 メリーの一撃で気を失っていたマスターは目を覚ますと、怒りのままにカウンター下に据え付けていたホルダーから銃を抜いた。迷いはなかった。殺されるくらいなら殺した方がマシだ。此処はそういう場所だ。最初は誰だ。誰でもいい。誰でも、……誰が残っている?
 客が死んでいる。右を見ても、左を見ても、客が死んでいる。先程までの喧騒は遠くへ過ぎ去り、静寂だけが其処にあった。酒の匂いよりも、血の匂いの方が勝っていた。死の匂いだった。まるで墓場だ、ブラッドバスだ、なんでだ、どうしてこうなった、立っているのは最早数人の――
「よいしょっ」
 突然現れた人影に、マスターはカウンターから引きずり出され、押し倒された。胸元に座っているのは豊かな髭をたくわえた老爺だ。
「君で最後だよマスター。ねえ、死にたくない? 生きていたい?」
「ひっ……」
 自分で最後。つまり、他の客はもう――
 ほぼスラム街とはいえ、マスターにとって死は遠い感覚だった。壁一枚隔てた向こうの出来事、そんな印象だった。其れが突然壁を破って、其の悍ましい手を伸ばしてきている。絡めとられて、引きずり込まれる。目の前の愛らしくも見える“何者かも判らない奴ら”によって、自分の生命は終わらされてしまうのか?
「い、嫌だ! 死にたくない! まだ死にたくねえよお!!」
「だってさ、史之くん」
 胸元に座るムスティスラーフの反対側、史之が一枚の紙をもってゆっくりとマスターを見下ろした。
「この紙をよく見るんだ」
「……?」
「書きそうな人間を思い出せ。家は? よく行きそうな場所は?」
「……なんだよ……なんだよ、これ……」
 マスターは呆然とするしかなかった。“殺してください”――店の全員を殺してくれと、そう書かれた文面。震える文字、幼い筆跡。これは、知っている。そうだ、この店にかかわりがある子どもなんて……
「こ……子どもだ。最近母親を亡くして、喋れない弟を連れてるガキがいる……俺の店によくパンを貰いに来るんだ……」
「……それで?」
「家はねえ。道端で寝てるって聞いた……よく行くのは……は、母親の墓だ! 小高い丘の上にあるって!」
 最後の方は、もう悲鳴だった。恐ろしかった。史之の冷たい目が、ムスティスラーフの楽し気な目が、他の奴らの目が、何よりも皆殺しを考える子どもの怨嗟が。
「……それだけ聞ければ十分だ」
「じゃあ僕の出番だね。ねえマスター。僕に股を開いたら、助けてあげない事もないよ?」
 楽しそうにムスティスラーフが言う。其れは尊厳の死を宣告するものだった。
 マスターは直感する。ああ、この誘いに乗っても乗らなくても、俺は死ぬのだと。
「あーあ、我(オレ)の負け!」
 楽しそうに笑うこの悪魔たちが、混沌の希望だなんて、嘘だ。



 めらめらと燃えている。
 十人と少しの死体を内包した“輝石”という名の棺桶に、ムスティスラーフが火をつけたのだ。
「……なんともすっきりしないねえ」
「まーね。ま、仕事なんだからしゃーなしっしょ。黙々働けもくようびー」
 シキが少し悩まし気に言う。夕子が棒付き飴の袋を開けて口に入れながら、気だるげに答えた。
「まさか途中で舌を噛むなんて思わないよね。ま、僕は楽しめたから良いけど」
 ムスティスラーフは心なしかつやつやしながら火を見ていた。彼は彼なりに“愉しんだ”らしい。
「……」
 仲間の談笑を聞きながら、史之は待っていた。じっと見つめる方角、小さな影が二つ歩いてくる。
「……来たんだね」
「依頼した責任を放棄するわけにはいきませんから」
「俺は必要があると言っただけで、義務があると言ったわけじゃない。……潔癖だね」
 依頼人の少年だった。弟は黙したまま、兄の後ろに隠れている。少年は燃え盛る酒場を見上げ、ぽつりと呟いた。
「……死んだんですね」
「ああ、死んだよ。みんな死んだ。君が望んだ通りに」
 史之は膝を折り、少年と視線を同じくする。まっすぐな視線は、人殺しを依頼したもの・依頼された者とは思えない程。
「海洋でフットマン見習いを探している貴族を紹介するよ。安定して稼げるし、弟君だって成長すれば手伝いが出来るかもしれない。……君は此処まで来た。必死で君たちを育てただろう人の期待を裏切って、命を捨てちゃうの?」
「……」
「だとしたら、君は随分と親不孝だね」
「……なァ」
 黙ってみていた7人だったが、ヴォルフがふと口を開いた。
「自分が“何を”“誰に”依頼したのか、判ってんだろ? 命には命だ。てっきり潔く死んでると思ったら……お前もお前で甘ちゃんだ」
 最後の言葉は史之に向けて。一気に空気が緊張する。
「……俺は、俺の出来る範囲で出来る事がしたいだけだよ」
「偽善だな。頼んでまで殺しておいて自分はやっぱり生きますなんて道理は通らねえだろ」
「……そうです」
 少年が、ぽつりと呟いた。
「ありがとう、ローレットの方。でも、其の紹介は受け取れません。……僕は、あなた達という武器を使って、この店の人間を皆殺しにしたんです」
 でも、と俯く幼い横顔。
「親不孝は、したくないです。……だから、僕は。僕たちは。泥をかぶっても泥水をすすっても、“この国”で、生きていきます」
 例えこの依頼が公になって、人殺しと謗られても。
 居場所が無くても。寝場所がなくても。食べ物がなくて、石を噛んでも。
「生きます」
 少年のまっすぐな視線を受けて、ヴォルフは暫くの間彼を見つめ返していたが……つまらねェ、と一言零した。
 空気をさっと一掃するように、其の肩をペッカートが掴む。
「おう、じゃあ俺と酒盛りしようぜ。さっきの思い切った切り口は痺れたぜ、つまみには十分だろ?」
「……仕方ねェな、付き合ってやるよ」
 ねえ、とメリーが子どもに寄っていく。その手には財布が幾つもある。
「これ、どうぞ? このお金を使って、強盗してって依頼してくれない? そうすれば……あいたっ!」
「こーら、いつの間に取ったの? それ」
 メリーの頭に拳骨を落としたのはゼファーだ。
「嫌がってるでしょ、無理に依頼させようとしないの。必要になったら来るから、ゆっくり待ちましょ」
「むむう……いいわ、じゃあスラムの適当な誰かに渡す。ちょろそうな奴」
「……これも、一種の処刑かな」
 シキが子ども二人を見下ろす。其の笑みは軽薄ではあるが、心からの笑みだ。
「物語の結末としては、どんでん返しがあって悪くなかったと思うよ。でも、此処で生きると言ったからには、何があっても耐えなきゃね」
「……はい」
 ありがとうございました。
 兄弟はそろって、小さな頭を下げた。


 小さな兄弟。貧しい兄弟。
 彼らはローレットという武器を使って、恨みを果たして罪人に。
 けれど逃げる事だけは、其れだけは出来なかった。
 本当は逃げたかった。死に逃げたかった、けれど……
 助けようとしてくれる手があることを、知ったから。
 だから、もう、大丈夫。
 罪にまみれたこの手で、僕らは生きていくと決めたから。
 真冬のように厳しい世界で、二人寄り添って、生きていこう。

成否

成功

MVP

ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。
 初めての悪依頼、後味が苦いような甘いような、微妙なところに落ち着きました。
 当初予定していた大筋とはかなり外れたところに行きつきましたが、これはこれで良かったんじゃないかなと思います。
 悪依頼で「良かったね」というのも変な話だと思いますが!
 MVPは、マスターの尊厳にさえ死を与えた貴方へ。
 そして、メリーさんには称号をお送りしております。ご確認ください。
 ご参加ありがとうございました!

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