シナリオ詳細
なこそながれてなほきこえけれ
オープニング
●鶯の初音
これはとある戦場を駆ける、平凡でかけがえのない、青春。
●誰も知らない
御簾の奥で「それ」は地図を見上げていた。その地図はふしぎなことに、いくつもの駒が並び、じわりじわりと動きながら戦局を語っている。四方八方が戦場だ。戦って、戦い続けている。右上、北東であろう、わかりやすく言うなら国境と呼ぶべき境目がややへこんだ。同時にそこへ配置されていた駒のほとんどが消滅、あるいは後退する。
……獲られましたか。
声にもならないつぶやきがそれの唇からもれる。ならば「鳳王」の加護を少し。己の分身を作り上げ、何事かを命じる。分身は御簾をくぐり北東へ向かい窓から飛び出した。おそらく分身は戦場へ赴き、そこで兵士たちを鼓舞するだろう。後光を背負い、上空を横切り消える、それだけだが。しばらく待っているうちに、北東の戦場へ変化があった。蹂躙されるのみであった駒が隊列を整え、敵陣の薄い部分を狙って突撃、これを見事突破。奥の本陣へ迫ったのであろうか。凹んでいた境目が、ぽこりと膨れ上がる。駒はそこで完全に消滅した。
それはじっとそこを見つめた。
魅入られたように、それはただひたすら地図を眺めていた。一進一退、膠着は続いている。そろそろ夕方だ。日が落ちれば一旦戦は終わる。ああ、つまらない時間がやってくる。それはわずかに目を伏せ、地図から顔をそらした。その時、どたばたと荒っぽい足音が部屋へ飛び込んできた。振り返るのもうっとおしかったので、それはころりと横になった。真綿の詰まった絹の座布団がそれを抱きとめる。
「鳳王猊下へ奏上いたします! 北東にて戦勝! 第八ニ陸戦部隊は総員桜都へ異動とあいなりましたが、尾薙の陣地を一部奪取いたしました!」
「あ、そう。」
「突撃直前の受電によると、天にまします鳳王猊下の竜顔をまなこへ映す名誉へ浴したそうです!」
「あ、そう。」
「幸いあれ我らが鳳王猊下よ! なにとぞ我らを無敵の兵士へ!」
返事をするのが面倒になったので、それは目を閉じた。
ここは『鳳圏(ほうけん)』。国とも呼べない小勢力が、少ない領土、耕作に向いた平坦で肥沃な土地を巡り、争い血を流し合う修羅の地の一派閥。
御簾の向こうの元帥とかいうものは、まだべらべらと何かしゃべっている。賛辞とお世辞、惨事と下世話。ごちゃまぜの報告を耳障りの良い言葉へ置き換えて。興味などなかった。路傍の石ほどにも。
明日はどうしよう。それは思った。ここのところ膠着ばかりで退屈だから、たまには目先を変えて、強い魔物など、どうだろうか。どこかの誰かはどのように戦うのか、そして散るのか。白紙の歌留多よりは、楽しいものになりそう。そうだ、どうせなら、もうすこし趣向をこらしてみよう。いねや、いねいね。去ねや、去ね。どいつもこいつも去ね去ね、去ねや。
それは怠惰にこぼした。
「明日も戦をしましょう。だって私の国ですから。」
●ローレットへ
「……『鳳圏』と呼ばれる地から、SOSが来た」
【無口な雄弁】リリコ(p3n000096)はあなたへそう告げた。
「鳳圏は、そうね、年がら年中いろんな小勢力が紛争を続けている地域、そのなかのひとつ。国とも呼べないほど規模が小さいものだから国民皆兵状態。……紛争には一応規定があって、戦をするのは日の出から日の入りまで、夜襲は禁止、ということになってる、表向きはね。実際はなんでもあり、そんなところ」
リリコのハニーグリーンのリボンが気遣うようにさやさやと揺れる。実際に気に病んでいるのだろう、戦いに明け暮れ、死者が積みあがるだけの彼の地を。表情にこそ出さないが。情報屋は中立であるべきという規範をかたくなに守っているのかもしれない。
「その鳳圏の、とある街中へ魔物が出たの。残念なことにもうその街には戦う力を持つ人は残ってない。一刻も早くいって助けてあげてほしい」
これが資料。そう言うとリリコはあなたへ聞き取ったエネミーの情報が綴られた案内を渡した。
- なこそながれてなほきこえけれ完了
- GM名赤白みどり
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年04月15日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
鳳圏の街中へこつ然と現れた魔物の群れ。戦う力を持たない人々は、ここは内地、もはや逃げ場はないと、腕を持たぬ者も脚を持たぬ者も、女も子供も関係なく手にした角材や石ころで絶望的な勝負を挑んでいた。
対して魔物はいたぶるように、一撃入れては次々と対象を変えていく。なぁに、一般人など放っておけば出血多量で絶命するのだ。躯を貪るのはそれからでも遅くはない。テングは悠々と腕を組んで一方的な蹂躙を楽しむように眺めている。
辺りには松葉杖が散らばり、虫の息の者も少なくない。一体のガンギコゾウが、我慢できなくなったのか義足の男を捕まえその顔面を前に大口を開いた。どぶのような口臭、窮地に立たされた男は震える手を握り締めると「御国のために!」と叫ぶなりガンギコゾウの口内へ拳を叩きこんだ。一瞬小さな目を丸くしたガンギコゾウが憤怒に燃える。そのままコゾウは腕を食いちぎらんと……。
「その意気や良し」
風神推参が煌めいた。ぱっくりと割れたガンギコゾウの背中。魔物は悲鳴を上げ、男の腕を吐き出し一足飛びに距離をとった。長い銀の髪がさらりと揺れる。
「下がれ民よ! この場は鳳の兵が受け持った!」
男の目に驚きと安堵が宿る。あの見るからに凶悪な魔物を物ともせず。何より彼女が身にまとう軍服。まさに、まさに、鳳の兵(つわもの)。そのまま『鳳の剣』太刀花・雷華(p3p007847)はコゾウと切り結び始める。一刀ごとに、ただよう血の香、まるで汚水のようではあるが。あぁ、落ち着く匂いだ。雷華はそう感じた。いつもの戦の匂いだ。では楽しんでいくとしよう、と。それにしても。
「本国も惰弱極まったかと思ったが、民草は性根が座っているようだな」
……腐ってきているのは上の方か。内心そう呟き雷華は、ちらりと民を守るべき屯所へ視線をやった。そこはとうにもぬけの殻だ。『合理的』な判断でもしたのか。SOSを送ったのも、屯所へ詰めていた誰かなのかもしれない。
「ハッ! 魔物如きに侵攻を許すとは脆弱だが……まあそれも仕方なかろう! フハハハ!」
まさか、あれは「鬼楽」の、「剣の小刀祢」だと、周囲の人々がざわつく。高らかに嗤うのは、まごうことなく『愛と勇気が世界を救う』小刀祢・剣斗(p3p007699)。
「俺が敵国『鳳圏』の救援に赴く事になろうとは……これも何の因果だろうな? だがそれもまた面白い! どれ一つ見させてもらおうか、『鳳圏』はこの俺が救うに値する国かどうかをな! まずは貴様だ、そこの女!」
うら若き娘がびくりと背を伸ばす。
「腹に傷を負っているではないか! いずれは国の母になる乙女がそのような身で棒切れを手に戦うか、それもまたよかろう……だがしかし! 俺が来た! 魔物の相手は俺がする故、貴様等は疾く逃げるがいい!」
逃げる、その言葉に周りが敏感に反応した。向けられる敵意。しかし剣斗はものともしない。
「真に『愛国心』と『勇気』を持つなら……」
剣斗の威厳と堂々たる態度、そして強い信念からくる説得力、それらが聞く者の誇りをくすぐる。
「ここは戦略的撤退をするのだ、いいな!」
娘は敵国の名高い武将からの命令に戸惑ったが、意を決して妹と弟の手を握り走り去った。
その背へ批難の目が向けられそうになる、その矢先。文字通り矢のように鋭く速い怒号が場を支配した。
「聞け! 凰圏の民よ! 女、子供を守りつつこの場から撤退せよ、戦えぬ者は生きる事こそが戦なのだ。この場は自分達が引き受けた。繰り返す。撤退せよ!」
朗々たる『不完不死』伊佐波 コウ(p3p007521)の凛とした声。力強いそれ。期待と安心、そして信頼のまなざしがコウへ注がれた。すまぬ、すまぬ、また逢おうぞ。人々は口々に礼を言い、松葉杖や横転した大八車を集めだした。テングが何事か命じ、民へ迫る魔の手。低い威嚇の音を鳴らし、ガンギコゾウが迫りくる。鋭い爪が民を襲おうとした、が、その前へふらりと立ちふさがる影を殴ったに過ぎなかった。そのモノがまとう神秘の二重輪、金と銀の惑星環のようなものがゆるく回転している。本来ならコゾウの打撃はソレを傷つけたはずだ。けれど美しい神秘の輪が攻撃を無効化し、狂気めいた呪術を重ねられたチェスターコートを傷つけることすらできない。
「やァ、キミたちはまだ見放されてないみたいだね。キミたちも周りを蹴落として逃げるほど人非人ではあるまい? 手を取り合って、一丸となって、ちゃんと隣人を連れて、残らずお逃げ」
ヒヒ、と笑いが語尾へ張り付いた。高い男のような、低い女のような、どちらともつかぬ声音。『闇之雲』武器商人(p3p001107)は思う。本音としては無関係な命など、どうでもいいけれど、気に入りの娘が落ち込むのは面白くない。これで逃げてくれないならそれはそれで。ついでに魔物の群れを見回してぼそり。
「戦、戦、戦。昔歩いたニホンみたいだなあ。こういう国こそ我(アタシ)みたいなモノが闊歩するに相応しい所だよねぇ。ヨリマサの弓はごめんだが」
武器商人の放つ、ただならぬ気配に人々は畏怖の念を抱いた。それはすぐさま従わねばならぬ強制力へと変わる。そこへダメ押しのコウの一言。
「この様な形で本国に戻る事になるとは、合縁奇縁と言うのはまさにこの事だな。ともあれイレギュラーズである前に凰圏軍人として、この状況は見過ごせん。貴殿らは銃後を守り前線を支える。そのためにも明日を生きねばならん。あらゆるすべての努力は鳳凰陛下のためになるのだ。それもまた戦だ! 直ちに撤退せよ! 貴殿ら牙なき人々の想いを携えて、伊佐波コウ推して参る!」
響き渡るコウの声。今度こそ人々はイレギュラーズへ任せて、戦場を後にした。
「まさか鳳圏からの依頼なんて……。」
『暗香疎影』雪下 薫子(p3p007259)は胸を押さえ、彼の側へ立った。守るように。支えるように。その相手『人生葉っぱ隊』加賀・栄龍(p3p007422)は複雑そうな感情をろうそくの炎のように瞳へ揺らめかせていたが、やおら自分で自分の両頬を音を立てて叩いた。
「俺ァいつものように仕事をするぜ、今回は『依頼』だからな」
乱暴な口調は自身への鼓舞か。このような形で祖国に戻ることになるとは思わなかったが、久方ぶりに戦果を挙げようぞ。我が愛国の徒を助けるべく。すべては祖国のために。深く沈めた心の底で誓いを新たにする。
けれど薫子は栄龍の普段との違いに気づいていた。彼女だからこそ、気づけたのかもしれない。
(鳳圏に帰ることになれば栄龍さんはまた戦争に駆り出されることに……。……いけませんね、今は依頼を無事に終わらせることを考えましょう。)
さもないと私はこの人の袖を引いてしまいそう。足手まといになるためについてきたわけではないのに。いいえ、むしろ共に戦うために。今生縁を結んだ間柄ならば、独りで散らせはしない。
テングがばさりと翼をはためかせ、地面から軽く浮き上がる。あふれる殺気のまま、扇をふるいガンギコゾウどもをけしかける。
――ザッ! 二人は背中合わせになり、迎え撃つ姿勢をとった。その脇をすり抜けていく影ふたつ。『名乗りの』カンベエ(p3p007540)とコウだ。
「貴様が大将と見た! 羽根付きィ!!」
腹の底から大音声を放ちカンベエはコウと共に猛然とテングへ駆け寄る。短く切った黒髪の下、カンベエの鋭い青の瞳がギラリと光る。さながら獲物へ食らいつく獅子のごとき迫力。邪魔をせんと立ちはだかるガンギコゾウ。しかし、一撃、横から飛んできた援護の魔弾。
「かたじけないシルフィナ!」
「常に傍らにありつつもけして主張はせず奉仕に徹する、それがメイドというものですと先輩から教わりました。さあ、行ってください」
『はじまりはメイドから』シルフィナ(p3p007508)の手には雪のようなナイフがある。ラピスラズリを削りだしたかのような女神をかたどった柄、そこから伸びる魔力で出来た純白の刃。スノーホワイトと名付けられたそれを振るい、シルフィナは、どこからともなく風に乗り流れてくるネモフィラの花びらに守られながら、消費のない魔弾を撃ち続ける。
(奥の手は十重二十重に隠しておくべきです。さて、どの勢力にも属さない国が存在していたのですか、知りませんでした。けれど……余りトップは有能では無い様ですね、国を荒れたままにするのですから)
舞い上がる砂ぼこりも、シルフィナの穢れなきエプロンと漆黒のロングスカートを汚すことはできない。
その間にカンベエとコウはテングの元へたどりついた。
「行くぞ、コウ!」
「応、カンベエ殿!」
正面からカンベエが。後ろへ回り込んだコウが、がっちりと蟻も通さぬ包囲陣を作り上げる。
「グゥゥ……」
怒気を含んだ唸りを漏らしたテングは、カンベエを相手にいかずちを落とした。瞬間、天より落ちる閃光、衝撃が地を乱し、ばちばちと火花が飛び散る、だが致命的なはずのそれを受けてなおカンベエは平然としていた。わずかに海を思わせる紺の着流しが焦げたに過ぎない。
「ウハハハハ! ここが噂に聞く鳳圏! その魔物! 海洋や鉄帝とは違った風情がある! わしの気に入りをようもやってくれましたな、だが残念、このカンベエめに小細工は利かぬと思い知らせてござい!」
ぎりり。テングがほぞをかんだ。
●
司令塔であるテングが防戦へ追い込まれた。
同時にガンギコゾウの動きがこれまでの連携のとれたものから散漫な印象へ移り変わる。カンベエとコウ、ふたりの包囲により戦場の潮目が変わった。
(好機! あの二人が掴んでみせた間隙、無駄にはしねえ!)
栄龍と薫子はガンギコゾウへ一気に詰め寄った。反応に勝る薫子が一閃、栄龍よりも先に突っ込む。
(御国のためなど……本当は私にはわからないけれど……。)
「栄龍さんのためならば!」
血蛭の切っ先を向け、一番槍のように勇ましく、どこか痛々しい覚悟を秘めたまま薫子はガンギコゾウと交差した。遅れてコゾウの肩へ傷が入り、大量の血が噴き出す。
「くっ!」
薫子が膝を折る。カウンター気味で打たれたひっかきによってその和服が切り裂かれていた。合間から見える白い太ももへ傷、そこへ二体目のコゾウが……。
「っだオラァ! でかいツラしてんじゃねえぞ魔物のくせに! どこから来やがったんだてめえらは、ここは内地だぜ!」
沸き立つ怒り、栄龍は利き手へ歩兵銃銃剣を構え、反対には不知火。二刀流は本来馬手を攻めの刀、弓手を守りの刀とするものだ。攻防一体の構えと言えよう。栄龍のそれは我流であった。我流であるがゆえに、彼の持つ膂力すべてを活かしきる。ずん、容赦なく額へ銃剣を叩きこまれ、引き抜かれたかと思ったら不知火が宙を走り首を刈りとる。間抜けな水音が立ち首から上を失ったガンギコゾウが血を吐き散らしゆっくりと倒れる。
だが二体目が高速回転をしながら迫ってくる。どうにか立ち上がらんとする薫子、そこへ影が差した。武器商人だ。
「このコたちは我(アタシ)へ任せるといい」
武器商人がすっと手をあげた。それだけでいわく形容しがたい不吉な気配が滲みだす。キャハッ、キャハハッ、足元の影が薄く広がり、それに触れた四体のガンギコゾウが目を剥いた。
「グワアア!」
「ギャッ! ギャッ!」
コゾウの群れが我を忘れて武器商人へ飛び掛かる。ひっかきの影響で割れる銀輪、砕ける金環、あまたの爪痕がそのモノを削り輪郭をなくすべく振るわれる。
(だがこれは攻撃の機会!)
栄龍は銃剣と不知火を構えなおす。武器商人が引き付けたことでコゾウどもの注意が薫子からそれた。
「下がっていろ薫子!」
「いいえ、まだやれます!」
寒中の梅のごとく高潔な雰囲気と、栄龍だけを映すひたむきな眼差し。栄龍は男らしい眉を寄せ、ならば、と次の標的へ体をむける。
「今の呼吸、覚えているな?」
「はい。」
「ならば進むのみ!」
「はい!」
五体目のガンギコゾウが自分の血の海へ溺れる頃。
「六つめ」
高速の刃によってまたもガンギコゾウの首が天高く舞い上がる。飛ばしたのは雷華だ。コゾウは身のこなしが素早くはあったが、速さで雷華が負けるわけがない。とはいえ連続戦闘は負担が大きい。雷華は上空へ一旦逃れ、体力を疲労の軽減へつなげる呼吸術を使った。
(さて情報によればケウケゲンの奇襲に注意とのことだったが。)
戦場にケウケゲンの姿はなく、どこかへ身を潜めているものと雷華は考えた。ざっとあたりへ視線をめぐらす。軒下、縁の下、家の隙間、隠れるところはそれなりにある。あるが、こうして上空から戦場を見渡せば、気づけないものにも気づける。たとえば、じりじりと背後からカンベエへ忍び寄る影だとか。
「カンベエ君、右へ避けろ!」
的確な指示。だが当のカンベエは思考が中断した。避けることはできる。だが包囲網が崩れる。
「ではでは魔者よ……俺こそが「鬼楽」の小刀祢剣斗! 貴様等を屠る魔王である! フハハハ! 悉く我が刀の錆になるがよい!」
テングへ怒りを叩き込む剣斗。この御仁が、わしに代わってテングが抑えきれるだろうかと。幸いわしは抑えと耐久には自信がある。ならばこのままわしが攻撃を受け止めてでも……!
「そんな悲壮な顔をするものじゃないよ、カンベエの旦那」
すいっと、まるでのれんでもくぐるような気やすさで、武器商人が体を投げだした。同時にケウケゲンが弾丸のような勢いでソレの体を包み込む。神秘の二重輪の上からもしゃもしゃと食らうようにケウケゲンは武器商人の体を見えなくしてしまった。
「キャハハハッ!」
とたん、けたたましい笑い、まるで幼子のような。同時にケウケゲンが剥がれ落ちた。怯えるように武器商人から離れる。事の始終に茫然としたコウがたずねる。
「……貴殿はいったい?」
何者か、その後に続くはずだった言葉をコウは飲みこんだ。長い前髪の隙間から夕闇の紫がのぞいていた。
「さァねぇ、どうでもいいし、なんだっていいことだろう? わからないほうが深海の底のように幸せなこともあるからね」
そこへ雷華の報せが飛ぶ。
「シルフィナ、剣斗、8時からくるぞ、気を付けろ!」
「かしこまりました」
「しゃらくさい!」
奇襲に失敗した三体のケウケゲンが姿を現す。だがテングが指揮をとれない現状、ただの肉壁も同然。足が遅いせいで逃げ回ることもできない。ついにテングは部下を見放した。翼を広げ、上空へと飛びあがった。
「待っておりました、この瞬間を」
メイドは周りに気を配るものだ。だから敵の見せた弱点を見逃すはずもない。シルフィナが両のナイフを十字に重ねる。ネモフィラの花びらが彼女の周りで躍る。純白と淡紫の二条がらせん状に絡まり、魔砲がテングへ命中した。空高くへ昇ろうとしていたテングが落下しかけるが、寸手のところで態勢を整える。だがそこへ。
「君は優秀な指揮官だ。だが速度は少々私に分があったようだな」
テングの上空を雷華がとっていた。飛行状態のまますばやく近づき、テングの頭を押しつぶす勢いで、衝術。
「鳳王陛下もご照覧あれ、と」
さらさらと風が薄絹のような銀髪を流していく。
「ゲアアッ!」
無様に地へ転がったテングへ追撃の手、シルフィナは頭をナイフでめった刺しにし、翼を狙う。コウから敵意が奔る。
「その翼……二度と飛べぬように削いでやろう。」
注意をコウへ縫い留められたテングは最後のあがきとばかりに跳ね起きた。
「温い! その首貰い受ける!」
「ぶち殺す! 楽に死ねると思うな!」
剣斗と栄龍がテングへ攻撃の矛先を向ける。ばちり、ぶつかる両者の視線。
「一時の戦友と言えど敵国の者に首を取らせるわけにはいかねえ」
「ほう、ならばこうするまでよ!」
剣斗が先んじてテングへレジストクラッシュを仕掛ける。
「させるか!」
栄龍も動いた。遅れはコンマの世界か。剣斗の一撃でテングの首の骨がへし折れるのと、栄龍のリーガルブレイドが腹を裂いたのは同時だった。
●誰も知らない
それは瞼を開いた。カケラが壊された。すべて。なんと強靭な異国の、いや、あの中には私の鳳圏の者たちも。
「鳳王陛下!」
元帥が入室の挨拶も忘れまろぶように飛び込んできた。
「内地に魔物が発生しました!」
そんなことは知っている。私のカケラなのだから。
「それが、特異運命座標なるものが撃退したとカンベエなる者より報告があがりました! しかも中には我が地の兵士も数名!」
彼らを軍へ再編すれば戦争に大きく貢献。元帥の言葉は、遮られた。
「放っておきなさい。」
「は?」
「二度は言いません。」
「ははっ!」
退室していく元帥の足音を聞きながらそれは思った。手元に置いて、戦へやって、それで? おそらくはそのまま犬死。つまらない。善き実ならば収穫の時を待つのが筋。彼の者らへ猶予を。それは再び瞼を閉じた。
●
「栄龍さんはこれから、どうなさいますか?」
薫子からおそるおそる聞かれた栄龍はぼんやりと思った。このまま祖国のために戦場へ戻った方がいいのかと。だがこれは依頼、そして任務は終わっていない。栄龍は悩みを払うようにかぶりを振った。
「帰るのは、胸を張れる戦果を得てからでも遅くはない……だろうか」
薫子が胸をなでおろす。栄龍は気持ちを切り替えると街の復興を手伝い始めた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
いかがでしたか。
鳳圏は色んな意味でいい所ですね。
今回は包囲網による司令官の無力化が特に良かったです。
MVPはあえてペナルティのある空から索敵した大胆さとシャープな目の付け所を併せ持ったあなたへ。
称号
「護国の盾」
「英雄への道」
発行しております。ご査収ください。
GMコメント
みどりです。鳳王さんがかわいかったのでバトルしました(日本語とは)。心情とかも書いてくれるとうれしいです。
「●誰も知らない」は完全PL情報です。フレーバーなのであまり深く考えなくて大丈夫です。どのようなお方も参加を歓迎します。
>エネミー
ケウケゲン 3体
気配遮断 ステルス 機動力2 高HP型 奇襲に注意
・つつみこむ 神遠単 ダメージ中 移 恍惚
・のびる 物遠貫 ダメージ中 万能 猛毒
・かばう テング被攻撃時50%程度発動
ガンギコゾウ 4体
高回避型 反応もそこそこ
・ひっかき 物至列 ダメージ中 ブレイク 出血
・高速回転 神至範自分以外 ダメージ小 氷結
テング 1体
高命中型 非常に手強い司令塔 飛行持ち なお飛行ペナルティは受ける
マーク・ブロックは二人分以上が必要 上空へ逃げられる可能性あり要対策
・回復 神自域 回復中 攻性BS回復中
・殴打 物至単 ダメージ大 弱点 必殺
・つぶて 神超遠域 ダメージ小 万能 麻痺 混乱 痺れ 崩れ
・いかづち 神遠単 ダメージ中 致命 懊悩
>戦場
街の四つ辻
戦闘には支障ない広さで足場ペナルティもなし
周囲には逃げ遅れている街の人がいるため、エネミーに狙われる危険性がある
・荷馬車 北と南へ一台ずつ 遮蔽物にできますが長くはもちません
>特記事項
判定へ持ち越した場合、勝利扱いにはなりますが、生き残っているエネミーには逃げられます。なお鳳王さんは直接出てきません。
余談
桜都へ異動→玉砕
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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