PandoraPartyProject

シナリオ詳細

じぇっく……卜口(うらぐち)の事忘れちゃったのかニャ……?

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●片仮名じゃないよ
 某日某所。そこは異様な熱気に包まれていた。
 まぁ某所とは言うがぶっちゃけ大枠で言うと深緑の一角なのだが――
「なぜ……どうして……こんな事に……」
 ガスマスク諸共顔を覆うジェック (p3p004755)。晴れ晴れとした天気なのに、彼女の心は憂鬱だ。
 なぜなのか――それは。

『みんなー! よく来てくれたニャー!
 只今より毎年恒例・迷宮森林鬼ごっこ企画“TOSOTYU”を始めるニャー!』

 瞬間。天に鳴り響く数発の花火音。
 同時に湧き上がる歓声――それは先程の声の主と、その出場者達に向けられていて。
『初めての人の為にルール説明をするニャ。あ、自分は主催者の“卜口”(うらぐち)ニャーン! “TOSOTYU”は一言でいうと鬼ごっこニャ。逃走者と追跡者に別れてもらって、制限時間内に全員捕まったら追跡者の勝ち。そうでなかったら逃走者の勝ちニャーン!』
 なぜか自らの名前が卜口(うらぐち)であることを強調する主催者。片仮名ではないのだ。
 しかしどこから喋っているのだろうか……この会場のどこかには居る筈の主催者の姿は見えない。この声は魔術による拡大音声だろうか? “TOSOTYU”の簡単な説明を述べる卜口の言葉は流暢で。
『あとは細かいルールもあったりするのだけど……その前に。
 今回はなんとなんとスペシャルゲストなのニャーン!
 なんとなんとなんと――あのローレットから出場者が来てくれたのニャーン!』
 より一層の歓声が挙がる会場。ええい貴様ら一体どこから集まったのだ。
「お――っほっほっほ!! さぁ覚悟しなさいジェック!!
 ここが!! この深緑の迷宮が!! 貴女の墓場となるのですわ――!!」
 煌めく声の持ち主は御天道・タント (p3p006204)! お馴染みの掛け声である――

   \きらめけ!/
   \ぼくらの!/
 \\\タント様!///

 が、発せられたと同時。彼女の後方でまたも花火音。
 卜口の演出だろうか、会場大盛り上がりである。
 とりあえず、そう。もうこの発言で大体お分かりだろうが……先のジェックこそが『逃走者』側に分類された人物であり、タントを含む他のメンバーこそがジェックを追い詰める『追跡者』側の人物達なのである!!
 事の始まりは先日、ローレットに舞い込んだ依頼を某情報屋より斡旋されたのが切っ掛け。
 深緑での企画“TOSOTYU”にイレギュラーズが参加してほしいと……
 その時は特に懸念は無かった。しかし会場に近付くにつれ『イレギュラーズ歓迎』『ジェック、来てくれたニャ?』『もう逃がさないニャ』などと言った不穏極まりない看板が立ち並び――そして。
『既にくじ引きは終わらせてあるニャ! グループごとに別れて、頑張ってくれニャ!』
「おかしいでしょオオオ!! どういう、なんで逃走側がアタシかつ名指し狙い撃ちで!!?」
「ジェック……もしかして卜口っていう奴と何か因縁があったり……?」
 日向 葵 (p3p000366)に問われるのだが、全く身に覚えがない。
 会場に着くなり『逃走側として頑張ってくださいね!』とか『今日の逃走っぷり、期待してます!!』とか勝手に既に配役が決められていた次第だ。ちなみに逃走側、捕まったらなんか罰ゲームがあったりするらしい。嘘でしょ?
「あるよ! だって“TOSOTYU”の罰ゲームって名物だもんね!
 前はパイを顔面に盛大にぶつけられてたり、温泉企画を練られてたりしてたよ!」
「……やっぱりこれ卜口はジェックと何か……」
 フラン・ヴィラネル (p3p006816)にとって深緑は故郷。“TOSOTYU”の事は小耳に挟んである。しかしそのような罰ゲームまで何がしか用意されているとは……やはりこの依頼、狙い撃ちにしているものでは? とアリス (p3p002021)は疑問を。
「まぁそれでも一応依頼だからね。今更やーめたとは言えないだろうし」
「ええ。ええ――これは精々、存分に楽しむしかありませんね!」
 ともあれゼファー (p3p007625)の言う様にこれは既に受諾された依頼だ。ならばあとは成功に向けて……つまりイベントの完遂に向けて尽力するより他は無く。ならばとヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ (p3p001837)は眼を輝かせて会場を見据える。
 己が眼前に広がるは迷宮森林。深き森を舞台にしたサバイバル――
 このような風光明媚な場所を縦横無尽に使ってよいなど、些か心が踊るものだ。
 転じてこんな場所を深緑に手配できる卜口……果たして一体何者なのかと思いもする。
「ま、悪意や敵意のある人物ではなさそうですし大丈夫でしょう」
 細かいルール説明に入っている卜口の声をミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク (p3p003593)は聞きながら。晴れ晴れとしている空を見据えて――
「ですよね――ギルオスさん」
「いやちょっと待ってよなんで僕までここに!? どう考えても僕関係ないでしょ!!
 いやいやええと依頼の斡旋したのは僕だけど……どういう事なのさ説明してよ!!」
 なぜかここまで強制連行されてきたギルオス・ホリス(p3n000016)へと言葉を紡いだ。
 説明するまでもないが彼は情報屋。本来なら依頼のメンバーではない、のだが。
『理由の説明――? そんなの簡単ニャ!
 ジェック一人だけ追うのはジェックが可哀そうだニャ! だから他に生贄が必要だニャ!!』
「僕の人権は!?」
 ありません。
 とにもかくにも間もなくスタート。
 作戦会議や装備を揃えるなら――今の内だニャ!

GMコメント

■依頼達成条件
 深緑逃走イベントを完遂するニャ!!

 ジェック、ギルオスの3の1ペア共は追跡者から逃走を。
 ゼファー、フラン、タント、ヴァレーリヤ、アリス、葵、ミディーセラは二人を追跡するんだ!!

■会場
 深緑の深い森の中にある迷宮森林の一角。
 中央に古い石造りの遺跡がある。この遺跡は結構深く、広い。
 内部は薄暗い箇所や崩落している場所などもあり隠れるに非常に適している。

 また、遺跡とは呼ばれているが既に過去の冒険者により探索されつくした遺跡の様で、魔物や極度に危険な動物。その他危険なトラップの類は一切ない。安心して使って頂きたいニャ。

■基本ルール
 ジェック・ギルオスはスタート後、三時間逃げ切ってもらう。
 ジェック・ギルオス逃走スタート10分後、追跡側がスタート。

 逃走側は三時間捕まらなければ勝利!
 追跡側はそれまでに逃走者を捕まえれば勝利だニャ!

■細かいルール・特別ルール
 1:追跡・逃走側共に迷宮森林の外に出ちゃ駄目。(活動可能な範囲はなんとなーくわかる事にしますので、特別に気を付ける必要はありません。遺跡内は全部大丈夫)
 2:スキルやギフト、アクセサリーは何を使ってもいい。
 3:途中『ある一定の条件を満たせ!』というお題が出題されるニャ! クリアすると有利になる魔術効果が付与されるニャ! お題のクリアは無視して探索・逃走を重視しても別にペナルティは無いので、安心してほしいニャ!

■時間日程
 12:00→逃走側スタート
  12:10→追跡側スタート
 13:00→第1お題が出題(聞こえるニャ……? 今、皆の脳内に直接(略))
  13:30→第1お題結果
 14:00→第2お題が出題(聞こえるニャ……? 今、皆の脳内に直接(略))
  14:30→第2お題結果
 15:00→終了

■第1お題
『遺跡内の宝箱をみつけるニャ♪』
 遺跡内に凄い派手な宝箱が一つ出現する模様。
 それを見つけて箱を開けると成功判定。箱を開けた最初の陣営に効果が付与される。

 クリアすると、クリアした陣営全員に『30分のみ、常に機動力+5、EXA+30、ステルス・ブロッキングと同様の効果が現れる』魔術効果が付与される。

■第2お題
『卜口を見つけてみるニャ♪』
 実は迷宮森林遺跡内に卜口が現れるらしい。
 見つける事が出来た最初の陣営に(後ろ姿だけでも見る事が出来たら)成功判定。
 ただし卜口は相当隠れるのが上手かつ遺跡内の地理に精通している様で、非戦スキルやアクセサリーなどを駆使しないととても見つけられないかもしれない……

 クリアすると、クリアした陣営全員に『30分のみ追跡側(逃走側)人物のかなり正確な位置が常に探知できる』魔術効果が付与される。なおこの効果はステルスやブロッキングなどの非戦スキルで無効化出来ない。

■NPC:卜口(うらぐち)
 本企画の主催者。読みは卜口(うらぐち)である。片仮名じゃないニャ♪
 正体は旅人であるという説が濃厚だが、その姿を見た者は少ない謎の人物。
 シナリオ中には声と微かな姿だけ登場するかもしれない。ニャ。

■NPC:ギルオス・ホリス
 なぜ巻き込んだ!! 言えッ!!!(
 ジェックと共に逃走側陣営の一人。ぼ、僕は絶対捕まらないぞ!!
 という意気込みの下、楽しむ気満々である。頑張ろうにゃ、じぇっく!

  • じぇっく……卜口(うらぐち)の事忘れちゃったのかニャ……?完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年04月07日 22時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
アリス(p3p002021)
オーラムレジーナ
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
ゼファー(p3p007625)
祝福の風

リプレイ


 七対二の鬼ごっこ――如何に広大な範囲があるとはいえこれはイジメではないか。
「一体ジェックとギルオスに何の恨みがあるんスか……
 いや何かあるとしても多分知ったトコでロクでもない事情な気がするっスけど」
「ええ確かに。直々の名指しな上に、獲物側として駆り出される。何ていうか……そう。
 世界の作為とか陰謀とかそういうのを感じるわね!」
 声は『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)だ。この鬼畜なりし人数配分、一体何の恨みがあるのか……と思考するが。開始の合図鳴り響くや否や駆け出す意思に変わりはない。同時、似たような感想を抱いているのはゼファー(p3p007625)であり。
「迷宮森林鬼ごっこ!! ふっふー! 一度こういうのやってみたかったのですわよね――!」
「オーッホッホッホッ! 然り然り! なかよしのジェック様ならばわたくし、匂いで追跡などお茶の子さいさいですわ! たぶん! さぁ皆様張り切って参りますわよ――!!」
 横を見れば『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)や『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)辺りは本当にやる気全開である。雄大なる大自然の中をてってこ駆け抜ける彼女達のなんと眩しい笑顔な事か。
「まあ……まあ……なんてこと。まだあまりよくわかっていないのですけれど……
 先に向かった御二方をええ……あれしてそれすればいいのですね……?」
 なんてこと……と顎に指を。疑問符を浮かべた様な表情を見せるのは『キールで乾杯』ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)で。
「さぁ――お行きなさい。頑張ってくれれば今日の夕飯になる未来はなくなりますよ」
 彼が繰り出すは鳥の使い魔だ――ってちょっと待って。夕飯? と驚愕しながらミディーセラの方向を鳥達は振り向くが彼の表情はどこ吹く風。使い魔って夕飯に出来るのだろうか……が、冗談(?)はともあれ。鳥達の目と翼は偵察に向くものだ。
「……はぁ。ねぇゼファー、布面積が多くて息苦しいわ。脱いじゃ駄目なのかしらこれ」
「ハッハッハ! それはこれの正装みたいなものだからね――少しの間ソレで頑張りましょ」
 ね、蜂蜜ちゃん? と。鳥を介した目に映ったのは黒き衣。
 ゼファーに話しかけるアリス(p3p002021)の姿だ。彼女の普段はもっと――『涼し気』なのだが。今その身に纏うは黒スーツに黒ネクタイ、そしてサングラス。肌の面積少なき仕事衣装。いつもと慣れぬ衣に思わずネクタイを緩めるが、ゼファーに諭されて渋々脱がず。
 その姿はTOSOTYUの追う側――俗にいう『ハンター』の基本仕様である。
「ギャラが出るの? そうなら――闇市に行けるわね。でもなんか特定のぱんつがすっごく出回っていてわたし困っているのだけど……え、なに? あっ」
 あの人が本人――? と逃げているメンバーの一人の顔写真をアリスは見据えて。
 闘志を燃やす。社会的な死か、ゲーム上での死か――選ぶがいいと。
「えへへ……憧れのTOSOTYUに出られるなんて! 頑張って捕まえるぞ――!!」
 この姿に一度なってみたかったのだと『ハンター』フラン・ヴィラネル(p3p006816)のテンションは絶好調。思わず口端がにやけてしまいそうになるが。
 今は自らがハンターなのだ。黒き衣に身を包み、黒きサングラスで表情を隠し。
 ハンターは駆ける――ただ無表情で、機械の如く。

 ――ところで件の『ガスマスクガール』ジェック(p3p004755)さんですが。

『ジェック――卜口の事、忘れちゃったニャ――?』
「忘゛れ゛ル゛も゛何゛も゛覚゛エ゛が゛ナ゛イ゛!!」

 開始前。自らに告げられた意味不明な言葉を脳内で反芻しながら森を駆けていた。
 ナンデアタシがこんなメに!!?
「絶対ニ、絶対に捕まってナンカやるモんか!!」
「ちょっと待ってくれジェック! 連れて行ってくれるのはありがたいんだけど、もうちょっと丁寧に、アイタタタ!」
 いざという時の肉壁――囮――ゲフンゴフン。
 同志のギルオスの首根っこを引っ掴んで。
 この日の為に準備した全てを懸けて――森を進む。


 TOSOTYUは敗れれば罰ゲームがあるという。
「さぁ私が捕まえたらどんな罰ゲームを受けてもらおうかしら……!!」
 目を光らせ嗜虐的な笑みを。獲物を狩るはハンターの生き甲斐だとヴァレーリヤは進む。
 さりとて広い森林の中だ。あてもなく探そうとすれば途方もない時間がかかる。故に彼らの痕跡をその目に。捜索すべきは足跡なり枝の折れなり……人が進んだ跡を探すのだ。

 しかし追われる側のジェックにも策はある。

 草をかき分けた後をわざと二・三か所作った上で逃走をしているのだ。
 最初に与えられた十分……その猶予を一杯に利用して可能な限りの隠蔽工作を。
「人は! 死ぬ気でヤレば空も飛べるんダヨ!!」
 全力で用意した数々の機動力。その跳躍力は群を抜いていて。
 本命のルートの察知をされぬ様に工作後は低空飛行。え? どうやって浮いてるかって、聞くな! ともあれ足跡の工作をすれば発見を遅らせる事が出来ようと。
「うーん、どこに逃げたのかな? やっぱり迷宮の方かな……?
 ねぇねぇ『ガスマスクの女の子』か『胃が痛そうな男の人』達を見なかったー?」
 さりとて捜索の手段も一つではない。フランが尋ねるは深緑の大自然へと。
 幻想種にとってはフィールド自体が自らの味方だ――
 目撃情報がないかと辿りながら、目指すはこの先にあるという遺跡。
 姿勢正してサングラスの中の瞳光らせれば。
「さぁジェック様! どこへ走られようと私が! 必ず! 見つけてさしあげますわよ――!」
 今度は自らの存在を光らせるが如く、タントが森の中を駆けていた。
 頬に手を。高い笑みを零しながら指を鳴らして。ギフト生じて声一閃。
 目立っている――が。これこそが策の一つ。敵を油断させし、拍手喝采の鳴り響かせ。
 その真の意味は……と、その時。
『第一のお題だニャーン!』
 卜口の不思議な声が鳴り響く。
 第一のお題――宝箱を見つけろ――
 これに参加するかは自由だ。成功すれば追うにしろ逃げるにしろ助けになろうが、逃げている側にとっては『発見されるかもしれない』デメリットを背負ってしまう。隠れ続けるか否か――の中にて。
「ま、探す途中で逃げる側を見つけるかもしれないっスしね」
「その通りですねぇ――ま、本当にこなすか否かは状況次第でしょうけれど」
 葵とミディーセラだ。彼らはお題の捜索をしつつ、同時にジェック達の捜索も怠らない。
 いやむしろ場合によってはそちらがメインと言えるか。題の如何に関わらず逃走者を見つけ、捕獲してしまえば勝利条件に達する。葵は跳躍し、高低に関わらず地形を跳ねて多くを見据え。ミディーセラは依然として使い魔を用いた捜索を続行だ。

 さすれば捜索の甲斐もあってか――不審な宝箱を遺跡の中にて見つける。

 この遺跡は安全が確認されている遺跡だという。ならばあの宝箱に間違いなし、とゼファーは思考し。
「てことでアリス! ここが私達の息の合わせ所よ――行ってらっしゃーい!」
 共に行動するアリスを――アリスを――ブン投げた!!
 いや正確には高所にある宝箱奪取の為に自身を砲台&ジャンプ台替わりとしたのだ。
 アリスの一歩を稼ぐ為、タイミングを合わせて跳躍させれば。
「息合わせる所、此処なんだ……? まぁでも見せ所よね」
 瞬時に合わせる息と意気。小柄と俊敏さを魅せるならば此処であると。
「見えた! いってきまーすッ!」
 跳ねる様に天へと上がり――その手に宝箱の蓋を掴む!
 景気よく開けばその宝箱自体はまるで夢幻が如く、砂となって消え失せるのだが。

 ――おめでとだニャーン! 卜口の祝福だニャーン!

 どこからともなく聞こえた声と共に、ハンター側へと――速度の加護が舞い降りる。
 それは一時、この場において限定的な能力強化。足を強化し獲物を追い詰める狩人の権能。
 さぁ……逃げる者達をどんどん追い詰めてやるとしよう!


 ジェックは駆けていた。お題になりふり構わず駆けていた。
 お題は遺跡が中心になるという……ならば、ならばならばならば!
「遺跡に向カウ……ト、ミセかけてこのまま森の中を突っ切ルヨ……!」
「ええ!? だが、お題を取られれば不利に……!」
 ギルオスが何か喚いているが、元々数の上で不利なのだ。遺跡の中に潜ってしまえば最悪包囲されて追い詰められる。それを防ぐ意味でも、そしてハンター達は遺跡の中に行くだろうという予測を立てた上で。
「ソノ裏を突くのガ戦術ってヤツじゃん? それに、イザって時の盾もアルしね」
「盾? そんなの一体どこにあるの?」
 この手の中に、とはジェックは言わず。今のアタシはスーパー☆逃走モード。
 お題が達成され速度の加護が……しかしだからどうした。スキルも、装備も、何もかも何もかも整えた今のジェックの移動速度は通常時の4倍、いや5倍すら超える! 黒いガスマスク彗星の名は伊達ではないのだ――今卜口が付けた称号だけど。

 ともあれこの勝負、高度な読み合いと技術の応酬が行われていた。

 未だ追う側と逃げる側の対峙には至っていないものの、鬼ごっことはその前からして既に勝負は始まっているのだ。そもそも見つからせぬ様にするジエックと、なんとしても見つけようとするハンター達。
 先の加護も用いて彼らの足は全体的に高まっており――そして――
「いた!! ジェック先輩待て待て――!!」
「ゲェ!! フラン!!」
 逃亡し続けていたジェックだが、ついにフランの捜索圏内に引っかかってしまった。
 ジェックは低空飛行を用い、気を影にしてミディーセラの鳥の捜索にも警戒していたが……流石に大自然と会話できるフランの能力からは逃れ辛かった様だ。ていうかどう考えてもフィールド的に不利じゃないこれ? ねぇ、卜口?
 とにかく見つけたフラン。ぬおお! と感情のままに叫び走りたいが我慢だ我慢。
 今のあたしはハンター。心無き機械の追跡者、フラン・ヴィラネルであれば!
「目標発見――捕獲するよ――」
 その表情筋を強引に押さえつけ。無表情かつ真剣に。角を曲がる時は直角にて、人の温かみを感じさせぬかのような走りを見せる――魅せる――
「イヤだ――! こんな所デ捕まってタマル、かぁ――!!」
 だーがこんな理不尽な状況でもジェックの瞳に諦めの感情はない。
 後ろからフランが迫って来る。卜口の加護を得たフランの機動力は相当なモノで、火事場の馬鹿力モードのジェックにも劣らず。具体的に言うと反応320、機動力15、EXA32アルのに!
 しかしその加護も永遠ではない。あと少し、あと少しだけ逃げきれれば――!
「おっと、そうはさせないっスよ……! このままここで脱落してもらうス!」
 そこへ天より葵が。騒ぎを聞きつけ、先回りしてからの跳躍か――ッ!
 彼もまた加護を得ている者。あらゆる方向から現れれば流石のジェックも逃げきれず。
 ならば。

「コンナ事もあろうかと――用意してイタ盾をココデ使用!!」

 ギルオスを葵に向かってブン投げた。君さぁああああ! という声が聞こえてくるが、無視だ無視。人間一人分の質量が空を舞う――葵がチャッキしようとするがギリギリ指先からギルオスは零れて、彼方の地面に『ぐぇっ!』と落下、もとい着地。
 幸いにして怪我はない。いけない――逃走側として逃げねば――と思ったその時。
「うっ、なんだかアイタタタ……急に体調が……おかしいですわ。熱もあるみたい、ゲホッ、ゴホッ!」
 やたら説明口調で蹲るヴァレーリヤが目の前に現れた!
 お腹と額を抑え、苦しそうに。なんかホント滅茶苦茶怪しいけれど。
「大丈夫かいヴァレーリヤ……! 体調が悪ければ運営に伝言を――」
「ああ……ありがとうギルオス……お陰で私……」
 瞬間。ヴァレーリヤが高速でギルオスの腕を掴んで。
「貴方達が罰ゲームに悶え苦しむ様を見物することができますわ――おほほほ!
 さぁ何をしてもらいましょうかねえええ!!」
 騙したな――! と言うギルオスだが腕はもう掴まれた。
 絶対に離さない意思のヴァレーリヤがタッチダウン――悪魔の様な微笑みが彼女に張り付いている。皆さんこれでも彼女は聖職者です――信じて。
 3の1ペアの片割れ、脱落。
 用意していた人身御供が失われたジェックだが、まだ彼女は捕まっていない。むしろ今の騒動で一気に距離を離す事に成功した彼女はここからどう逃げたモノかと思考を巡らせる。
 盾はもうない。次に囲まれれば『切り札』はあと一つしかなく。

 ――第二のお題を始めるニャーン!

 その時、全域に魔法の声が響き渡るはお題の二幕目。
 これが始まったという事はあと一時間逃げ切れればこちらの勝ちだ。
 まだ希望は失われていない。むしろ二時間もよく走ったものだと自分に感心し。
「ははぁこのお題の効果は随分と……でもどうしたものかしらね。さっきそこらで引っこ抜いてきた猫じゃらしとお酒とかで釣れないかしらねぇ……?」
「というかそもそも――卜口さんって男なの? 女なの?」
 所変わってゼファーとアリス。お題をこなす気は満々なのだが、どう見つけたモノか?
 ゼファーは猫じゃらしを虚空に降って、お酒を捧げんとするが――おいやめなさい、某酒飲み。場所も全然違うのに反応しなさんな! どういう嗅覚だ! そこの酒飲みはさっさと探しに行きなさい!!
「蜂蜜ちゃんはあんな堕落した酒飲みになっちゃ駄目よ。ワイン瓶を手放さくなったら末期だからね」
 閑話休題。一方でアリスはもしや卜口、うらぐち(強調)が男なのではないかと推察し――
「じゃあ脱ぐとしようか」
 なぜか振って来るポール。地に固定されて、動かなくなり。
 どこからともなく流れてくるムーディな音楽は――まるで甘美な空間の様で――
 途端。はらはらと落ちる布の音が――衣擦れの音が――

「駄目だニャーン! それ以上は健全な番組じゃなくなるニャーン! 放送禁止ニャーン!」

 すれば、卜口が釣れた。
 交わる視線。アリスの足元に落ちる布を見据えればそれは――ギル♂のパンツ。
「……嵌められたニャーン!」
「何が? そっちが勘違いしただけでしょ――?」
「成程流石アリス。此れで本当に卜口を釣る事が出来るなんてねぇ――オラァッ!!」
 別に捕まえる必要はなかったのだが、折角なので現れた卜口にタックルかますゼファー。
 あ、もふもふ――
 至高の毛玉の感触を感じると共に降りかかるは第二の加護――ジェックの居場所を感知する魔技。
『ジェックさん……いまあなたのうしろにいるのです……もう逃げられませんよ……』
 さすればミディーセラの使い魔の鳥がジェックに辻斬りならぬ辻テレパス。
 それは彼女の意識を乱す一要因とはなる。じぇっく……じぇっく……どこからともなく聞こえてくる精神攻撃は一体誰のだ? 初めてであろうと知るその名……もしやこれは一種の何かミーム汚染では……と、その時。
「ジェック様――ついに会えましたわね」
 ジェックの背筋が、冷えた。
「天網恢恢疎にして漏らさず‪――」
 タントが往く。クラウチングスタートの構えから、一閃。‬
 制御不能のブリンクスター、発動――
 全ての力を移動に注ぐ。超視力にて見据えたジェックの姿へ、一直線。
 ここまで隠し続けて来た。味方にすら『いつもの調子で行きますわ』と言っていた。
 ――しかしその実、彼女の移動速度はジェックにすら劣らぬ速さがあったのだ!
 邪魔な木々は全て、透視出来る範囲の太さは物質透過を併用し無視すれば。
 その手が、ジェックの背に――
「ウォオォォオ!!!」
 だが!!
 ここまで残した最後の切り札が――発動する!

 制御不能のブリンクスターには。
 制御不能のブリンクスターで対抗する!!

 ジェックも加速。超速移動の応酬――目まぐるしい勢いで跳躍する彼女達――
 しかし戦いはタントが些か有利か。物質透過を併用する彼女の歩みは一直線!
 ほんの微か、短縮できる一手がここに。あと少しで時間切れまで粘れるというのに――!
「オ――ッホッホッホッ!! 遊びだからこそ! 全力ですわ――!!」
 深緑の森に、一つの嘆きと歓喜の声が響き渡り。
 その声こそが――TOSOTYUの終わりを指し示していた――


「いやドウ考えても三時間っテのは酷いデショ!! 長くナイ!!?」
 ていうか全体的にヤバくない!? と高笑いするタントにロープでぐるぐる巻きにされたジェックは抗議するが、主催の卜口は『今日はありがとニャーン!』と黙殺した。おのれ卜口! 片仮名で呼んでやろうか!!
「いやーお疲れ様っス。七対一ってどうなんだろうと思ってたんスけど……結構面白かったし、またやりたいっスね! ただ人数はフェアか、逃走側を増やすかした方がいいと思うスけど」
「そうだねー! 今度はあたしの方が逃げる側でも面白いかも……!!」
 一方で葵にフランは満足げな顔を。特にフランは憧れのTOSOTYUに出れた為か感無量な様で、サングラスの位置を直して目を輝かせれば。
 ――深緑は傾向として段々とその閉鎖性が開かれている。

 次回はまたその内、きっと――外の者を誘って、またあるだろう……!

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 リクエストありがとうございました!!

 割とガチで逃走側が勝つか? 追跡側が勝つか? の辺りは判定しました。

 能力がガチだったので……! もし次回があればイベシナとかでやってみたいですね!
 ともあれありがとうございました!!

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