PandoraPartyProject

シナリオ詳細

プリンスライムの脅威

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●抹茶&コーヒー&ホイップクリーム特盛り
「だずげでーっ」
 妖精が茂みから飛び出してきた。
 目や鼻がきらきらしているのは涙と鼻水だ。
 そんな有様でも、妖精の可憐さはいささかも損なわれていな……いやまあ一応それでも可愛い。
「私の後ろにっ」
 ハーモニアの弓兵が妖精に呼びかける。
 ばびゅんと、今までの怯えが嘘だったかのように妖精が急加速して、深緑所属のリアン・リチェルカの後ろへ隠れた。
「えへへっ、ばーんとやっつけて下さいよ!!」
「変なことに巻き込まれちゃったかな……」
 リアンは茂みから目を逸らさない。
 密集した草の針穴より小さな隙間から、森の中では珍しい色が見えた。
 手に魔力を集中させる。
 細く鋭い形にずるりと伸びて、矢として完全に実体化した。
「来ますよー、来ちゃいますよーっ」
 妖精が小さな手で背中を押している。
 近づいて来る気配は、単に慌てているだけの妖精とは違い、明確な殺意を持って妖精を探していた。
 リアンは、妖精を後でほっぺたぷにぷにの刑に処すことを決めて矢を放ち、あてた。
「えっ」
 手応えが変だ。
 次の攻撃に繋げるため破壊力より状態異常を優先していた。
 なのに重傷に近い手応えがあったのだ。
「すごーい!」
 妖精がはしゃいでいる。
 恐怖が完全に消えて、リアンに対する敬意と感謝の感情を強く感じる。
 妖精の事情はよく分からないが、ここは深緑でリアンは深緑の兵だ。
 敵なら倒し、事情のある相手なら捕縛するつもりで、リアンは弓を下ろして茂みの中へ踏み入った。
 ぷるんっ。
 艶やかで柔らかな表面がぷるぷるしている。
 どこからどう見ても、カスタードプリンであった。
「バケツサイズっ!?」
「ハーモニアさん騙されないでっ。そいつ悪い奴っ」
 可愛いから正しいとまでは思わないけれども、明確な殺意を発している相手が正しい可能性はとても低い。例えそれがプリン……っぽいスライムであってもだ。
「言葉は通じない……ならっ」
 リアンは死なない程度に手加減をして、小柄な体から鋭い蹴りを繰り出した。
 ぽむんっ、と揺れてふわりと香りが漂う。
 誤解のしようのないほど、カスタードプリンだ。
「あっ」
 プリン要素が強いスライムには、手加減有りでもリアンの蹴りには耐えられない。
 砕け、飛び散り、甘い香りを漂わせる残骸が森の地面に飛び散った。
「……ごくり」
「妖精さん、お名前は? 事情を聞かせて欲しいのだけど」
「はーい! あたしナ……」
 残骸を両手で回収しようとしていた妖精が、いきなり宙で静止した。
 ばびゅっ、と残像すら残らない速度でリアンの胸元に移動してしがみつく。
「くる! きちゃうよっ」
「妖精さん落ち着いて。私が必ず守ります」
 リアンの微笑みはとても凜々しい。妖精の頬が淡い桜色に染まった。
「うへへ、ぺたんなハーモニアさんに攻略されちゃうよぉ」
「冗談を言えるなら大丈夫ですね」
 大きな木々の裏から別の気配が近づいて来る。
 ついでに匂いも近づいて来る。
 コーヒー、抹茶、新鮮なホイップクリーム。
 そして何よりカスタードプリンの香りだ。
「どういう事っ!?」
 コーヒープリンと抹茶プリンとカスタードプリンホイップクリーム特盛りが現れた。
 咄嗟に散弾じみた魔力矢を放つと、バケツサイズのプリンスライムに飛び退かれた。
 跳躍と着地で揺れる体が、とってもセクシーだ。
「いいにおい……」
 妖精がとろんとした目でリアンの胸から離れようとする。
「ふぁ」
 リオンの口からも色っぽい声が出た。
 どの香りも水準を超えている。
 しばらくスイーツを食べていないので、正直辛い。
「逃げますよ!」
 妖精の体を掴んで全力ダッシュ。
「あぁー」
 名残惜しそうに手を伸ばす気持ちは分かる。とっても分かる。
「この近くでイレギュラーズがいるはずです。合流して倒し……」
 店などない森の中で、スイーツスライムを倒せるだろうか。
 戦えたとしても捕獲しようとしてやられてしまうんじゃいやいやそんなこと考えたらイレギュラーズさん達に失礼だよと、リオンの思考がぐるぐる空回る。
「大丈夫、勝てる。私でも1対1なら勝てそうな相手なんだから、絶対に勝てるから」
 真剣な顔で言っているつもりなのに、メシの顔あるいはスイーツの顔になってしまっていた。

●粗食
「今日のご飯はこれでーす!」
 主食は長期保存用黒パン。
 おかずは山菜と干し肉のスープ。
 今回の依頼は、一応戦闘の可能性があるとはいえ平和な場所の地図更新任務。
 予算はかなり渋く食事にも反映されていた。
「……けて」
 森の奥から声が聞こえる。
「……けてくだ……い」
 すごく元気な声だ。
 けれどかなり切羽詰まっている。
「たすけてくださーい!」
「あっ、だめ、いいにおいなのぉ」
 リアン・リチェルカと妖精とプリンスライム軍団が現れる、十数秒前の光景であった。

GMコメント

 何か不思議なパワーで清潔さが保たれているのでスライムを食べても健康に害はありません。
 全くないのです!!

●ひょうてき
『ノーマルプリン』×9
 カスタードプリンにしか見えないスライムです。
 飽きない甘さ。バケツサイズ。
 前衛担当。
 攻撃手段は体当たり【物至単】のみですが、【かばう】【マーク】【ブロック】を多用します。
 能力は回避が高めでHPが低め。

『抹茶プリン』×1
 爽やかな新緑の香りがする抹茶プリンスライムです。
 バランスのとれた甘味。バケツより大きい。
 お茶の香りブレス【神中範】【体勢不利】でイレギュラーズに対して攻撃します。
 命中はそれほど高くはありません。

『コーヒープリン』×1
 厳選された豆の香りがするコーヒースライムです。
 控えめな甘味。バケツよりかなり大きい。
 コーヒーの香りブレス【神遠貫】【万能】【必殺】でイレギュラーに対して攻撃します。
 威力は低いですが命中は高いです。

『ホイップクリーム特盛』×1
 新鮮で真っ白なクリームが大量にのせられたスライムです。
 強烈で豊かな甘味。成人男性の背丈より少し低いくらい。
 芳醇な甘みブレス【神近単】【恍惚】【魅了】でイレギュラーに対して攻撃します。たまに連続攻撃します。
 HPがとても多い。


●ろけーしょん
 森の中にある広場で、芝生っぽい草が一面に生えています。
 日差しも風も穏やかで、最高のピクニック日和ですね!


●ゆーぐん
『妖精さん』
 妖精さんです。
 防御面はコメディ補正の存在を信じたくなるほどしぶといですが、攻撃能力は赤ん坊未満です。
 非戦スキルは飛行。

『リアン・リチェルカ』
 深緑の斥候隊所属。
 僻地の定期調査任務に従事している最中に、妖精さんとスライムに遭遇しました。
 ショートボウと蹴りがメイン武器。
 回避や逃走力に優れますが、戦闘開始時点までの逃走で疲れているため普段ほどの能力は発揮出来ません。

『地元のハーモニア』×1
 イレギュラーズに食事を提供するため、深緑に雇われています。
 既に安全な場所に逃げています。


●おあじ
 スライムを食べても健康に害はありません。
 食感はいまいちです。
 カロリーは、不明です。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はB-です。
 妖精さんは勢いと雰囲気で生きていて、リアン・リチェルカさんもスイーツスライムの香りでかなり混乱しています。
 かろりぃ。

  • プリンスライムの脅威完了
  • GM名馬車猪
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
七鳥・天十里(p3p001668)
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
アクア・フィーリス(p3p006784)
妖怪奈落落とし
アトゥリ・アーテラル(p3p006886)
反撃の雷鳴
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい

リプレイ

●包囲網
「プリン、プリン、プリンなのですよ! ここはプリン天国ですか?」
 『シティーガール!』メイ=ルゥ(p3p007582)のケモ耳がぴんと立ち、髪量豊富なツインテールもぴこぴこ動いているように見える。
「食べちゃってもいいのですよね? メイはいっぱい食べるのですよ!」
 スライムの柔らかな黄色から視線が動かない。
 材料的にはプリンなスライムが恐怖で震える。
「んくっ」
 塩辛いスープを行儀良く飲み終え、『特異運命座標』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)が立ち上がる。
 客観的に見て隙だらけのはずなのに、総勢12体のスライムは1体もレッドに襲いかかれない。
「ちょっと物足りない食事中になんか凄い甘そうなのが来たっす!?」
 朗らかな笑みなのに目が怖い。
「助けてと言われたからには助けないわけにはいかないっす」
 長距離走で息を乱したリアン・リチェルカと妖精さんを背中に庇い、レッドがきりっとした表情をつくる。
「そのスラ……プリン成敗するっす!」
 食欲が刺激され、唾液が口の中に溢れ、発音が少しだけ乱れていた。
「リアン、しっかりするのです。まだ戦いは始まってもないのです」
 ねこみみハーモニア、『反撃の雷鳴』アトゥリ・アーテラル(p3p006886)がリアンの背中を撫でている。
 ただし視線が頻繁にスライムに向いている。
 爽やかな緑が甘さを引き立てるバケツ抹茶プリン。
 コーヒーの美味しい香りだけを抽出した大型バケツプリン。
 そして、自重で崩れる寸前の巨体の上に、新鮮なホイップクリームからなる花冠を載せたカスタードプリン。
 それら全てが、どう扱ってもどこからも文句が出ない獲物なのだ。
「ぁ……ふぅ……アトゥリちゃん?」
 リアンは、友の目の奥にある不穏なものに気付きかけ、プリンスライムの香りに意識を奪われた。
 以上が、スイーツに対す欲をだいたい隠すことに成功出来た乙女達である。
「プリン、プリンだ……!」
 虚ろな目をした狼耳狼尾少女が、表情の乏しい顔に残り火めいた感情を浮かべる。
「いいにおい、美味しそう……」
 喉を鳴らす様が酷く艶めかしい。
「でも、あれ、スライム……みたいな、プリンの、ような……?」
 真の闇を思わせる黒炎が、巨大な魔物めいて『闇と炎』アクア・フィーリス(p3p006784)の体から立ち上る。
「食べても、大丈夫、なのかな」
 食欲はそのままに、漆黒の炎に殺意が増す。
 揺らめくたびに聞こえる音は、アクア自身の苦悶の声なのかもしれない。
 このまま戦うと不味いと判断したスライム達が、可愛らしく、美味しそうに、ぷるりと震えて媚びを売る。
 血の気の失せたアクアの顔に微笑みが咲き誇る。
 スライム12体の体が安堵して、目を認識した瞬間恐怖で静止する。
「おいしそうな、においがするから、きっと大丈夫だよね……!」
 アクアの背中に、巨大な魔獣の姿が見えた気がした。

●いただきまーす
 『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)の笑顔の質が変わっていた。
「こ、これは。スイーツの、パラダイス……!?」
 人助けセンサーが反応したから駆けつけた結果がこの状況である。
「見た目はプリンだけれど、殺意は本物みたい」
 どう作られたかもどうしてここにいるかも現時点では分からない。
 それでも、イレギュラーズとリアンと妖精に対する害意は本物だ。
 だからラヴは、頑張って意識を戦闘用のそれに切り替え、飛び抜けた反応速度で攻撃を始める。
 カスタードプリンスライムが立ち塞がろうとするが、彼女と比べれば遅すぎた。
 9体からなる敵前衛を疾風のようにすり抜けて、より濃くなった甘い香りに包まれて、ああ――。
「絶対、逃さないわ!」
 それは捕食宣言もとい殺害宣言である。
 ラヴはいつもより気合いが入り過ぎたのを内心反省するが、12のプリンは既に追い詰められた獲物の気分だ。
 抹茶も、コーヒーも、特盛りクリームも、長大あるいは広大な広範囲のブレスを彼女1人に向け開放した。
「傷がついても文句を言わないでくれよっ」
 戦闘用ロングコート姿の『ガンスリンガー』七鳥・天十里(p3p001668)が、ようやく出来上がったプリン防壁に急接近。
 中央の1体に鋭い蹴りを浴びせて、見た目とは裏腹の重厚な防御を崩す。
「まずはひとつっ、なのです!」
 超強力ブースターを持ち前の超絶反射神経で制御し、メイがノーマルプリンに真正面から突っ込んだ。
 魅惑の黄色には埃1つついていない。
 不可思議な、少なくとも食べても健康には害のない力に保護されている。
 だからメイは躊躇わず、メイは生命力あふれるプリンに体当たりをしかける。
 衝撃に負けて中程から裂けたプリンに、白い歯を見せてぱくんと噛みついた。
 ちょっと堅い。
 でも匂いと味は想像以上。
 食事に切り替わろうとする意識を頑張って戦闘に向けながら、メイは無意識にあむあむ噛むんでプリンの体積を減らしていく。
「ぶはははっ、確かに香りは良いねぇ。こいつぁ良い素材になりそうだ。腕が鳴るねぇ!」
 黒猪のパワーと速度と冷静な戦術を兼ね備えた『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が、圧縮された脂肪の一部をエネルギーに変換して周囲のイレギュラーズへ送った。
 アクアの双刀『黒魔』を覆う魔力は膨大すぎて2つの巨大な牙にも見えた。
 プリンとしては特大でもバケツサイズでしかないスライムが無惨に3つに斬られて絶命。
 保護していた力が消えるより早く、アクアによって捕獲される。
 そして、小さな体に巨大な黒炎を纏わせた狼少女に、端から綺麗に食い尽くされる。
「だって、ガマン、できなくて……」
 口元を汚しはしないし丸呑みなんて健康に悪いこともしない。
 もっちもっちと超高速で感じで味わい、細いままだおなかに1匹分全てを収めていた。
「甘いっす!」
 回避系前衛であると同時に油断出来ない打撃役であるカスタードプリン複数を、レッドが正面から迎撃してその表面を削る。
 魅惑的な芳香が濃さを増す。
 小さな破片がレッドの唇を掠めようとして、素早く前に出たレッドにぱくりと頂かれた。
「食感イマイチっすけど」
 口内でペロペロしても崩れない。
 ただ匂いはいい。
 口溶けが楽しめないのは残念だがそれはそれでいい感じだった。
「数が……」
 アトゥリの言葉が轟音に掻き消された。
 敵味方の位置が目まぐるしく変わる戦場で、多くの魔力を精密に操るアトゥリ。
 その姿から忘却された過去が薄く見える気もするが、本人にはそんなことを考えている余裕はない。
「ちょ、ちょっとは残しておいて欲しいのですっ!!?」
 だってここ数日人里離れた場所で暮らしているのだ。
 店はもちろん民家すらなく、凝ったスイーツなどある訳がない。
「眼の前でプリン盛り合わせの生殺しは酷くないですかっ!?」
 武力的な意味では手が届く。
 一点に精密に集中させた魔力で、カスタードも抹茶もコーヒーも好きなように削り取ることが出来るが口には入らない。だって後衛だから。
「美味しいものを! よこせ! なのです!!」
 本音は轟音で掻き消されるのでリアンの耳には届かない。
 リアンは魔力で矢を準備しながら、きらきらした目をアトゥリの背中に向けていた。

●加工過程
「お前さんとこうする時は大体面白い事に成るからな。今回も期待するとしよう」
 魔剣の姿をとった『艦斬り』シグ・ローデッド(p3p000483)が、攻撃ではなく治療と回復に集中している。
 敵の姿はメルヘンチックでも実力は本物だ。
 イレギュラーズの妨害を突破してブレスを使う機会も何度かあり、その度にシグが状態異常を取り除いて本来の力を発揮出来るよう支援していた。
「くははっ、大仕事だな」」
 ゴリョウの言葉が力強く響き、鋭く刺さる眼光がプリン達の危機感を刺激する。
 敵の攻撃を引きつけ味方の攻撃を援護していた。
「……火力を上げていくとしよう。調理は任せるぞ?」
「応っ」
 刀身を巨大な炎が包み込む。
 炎に見えているが実際は純粋な破壊エネルギーに近い。
 ゴリョウが文字通りの全力を振り絞る。
 分厚い筋肉が重厚な骨格を加速させ、シグが解き放つエネルギーに上乗せする。
「あぁっ!?」
 誰からともなく悲鳴があがる。
 破壊の炎が前衛プリン2体を貫き、不用意にも固まっていた抹茶&コーヒー&ホイップクリーム特盛りを貫き森の奥へと消える。
「……なるほど」
 手応えはあった。
 存在する力をそれぞれ2割程度……特盛りのみ1割程度削った手応えがあり、その感覚には自信と確信がある。
 だが見た目は変わっていない。
 汚れも退けていた不可思議な力が、感触の通りに減っていた。
「さて、先に味見しても文句は無いな?」
 魔剣から伸びた鎖がコーヒープリンに突き刺さると、甘味を求める乙女達の肩が一瞬だけ揺れた気がした。
「くっ……コーヒーならまだぎりぎり我慢……あっ」
 レッドの瞳がきらんと光る。
 前衛ノーマルプリンは数が減り、未だ無事ではある大型3つが以前より近い。
「甘い……匂い……独り占め……ッハ!」
 しがみつく。
 新鮮で濃厚なホイップクリームの香りが鼻から脳へと突き抜ける。
「違うっす! 仲間の危機に立ち塞がってるだけっす! ボクは抵抗に自信あるっすから! だいじょーぶ……」
 真面目な顔で離れて今度は抹茶味へ。
 独特の風味と甘味のバランスは奇跡的なほどで、つるりとした感触も気持ち良い。
 なお、大型プリンの反撃はレッドの防御を貫けず事実上されるがままだ。
「っ」
 アクアの瞳には隠しきれない恐怖が浮かんでいる。
 同属を文字通り食われ恐れるプリンの恐怖とはまた違う。
「あぁっ!?」
 右手から放った豪華がノーマルプリンを焼き尽くす。
 そう、焼き色がついたプリンもとい死体に変えてしまったのだ!
 ゴリョウが鼻をひくつかせる。
 プリンとの戦いで傷ついた己の体を癒しながら、変化した色と匂いから重要な事実にたどり着く。
「ぶはははっ! よくやった、いけるぞ!」
 ゴリョウ・クートン。
 SF系世界出身の旅人であり、料理ガチ勢である。
 それを知っている乙女達が華やかな雰囲気になり、唯一知らないリアンだけが戸惑っていた。
「手加減する……余裕が」
 アトゥリが影の魔弾で抹茶を抉る。
 力を奪って魔力として還元するが味を感じる効果はない。
「だいじょうぶ?」
 友の様子に気付いたひらたいハーモニアが、甘味への接近を諦め護衛についた。
 ブースターから伸びる炎がいつもより伸びている。
 3種のプリンは高速飛行するメイに追い付くことも認識し続けることも出来ず、致命的な距離まで近づかれてしまう。
 メイが銀製スプーンを構えた。
 威力は皆無を通り越して攻撃の邪魔レベル。
 しかし、これほどの速度があればスプーンの悪影響は誤差だ。。
「運動しながらなので、いつもよりいっぱい食べられる気がするのですよ!」
 そっとプリンに差し込み、崩さないよう一口分取り上げる。
 メイの意識はそうでも客観的には容赦なくえぐり取っていただきますだ。
「ちょっと苦いけどなかなかなのです! こっちも……はぅっ、あぁ、ホイップとカスタードが口の中で渦巻いているのです……」
 元気少女がうっとりと上気する様は、背徳的に美しくすらあった。
「駄目、駄目よ」
 ラヴの顔色が酷い。
 幻想的ともいえる技術でしかもますます加速していく銃撃は過去最高クラスなのに、目に迷いが濃い。
 不可思議な力で汚れとは無縁とはいえ、地面に落ちたプリン片を拾って口にいれるのはあらゆる意味で困難だ。
 でも香りは素晴らしい。
 戦闘でエネルギーを消費しているのでもうたまらない。
 コーヒープリンが魔剣で切り分けられた。
 真っ二つになったそれから迫力が急速に消えていき、完全に消える前にゴリョウによって調理場へ運ばれていく。
 リアンの顔に冷や汗が浮かぶ。
 牽制のつもりの矢が抹茶の中核をたまたま直撃し、それまで見た目の数十倍頑丈だったプリンからあっという間に強靱さが失われ……てしまう前にいそいそと調理場へ運ばれて行った。
「これで終わりなのです。デコレーションも楽しみにしているのですよ!!」
 アトゥリの魂の叫びと共に放たれた神鳴りがボスプリンを貫く。
 ホイップクリームの形を崩さない、素晴らしい一撃だった。

●スイーツ!
 甘味を求める乙女達からの圧は、本当に凄かった。
 シグは手元や術式を狂わせなどしないが、多少緊張はした、かもしれない。
「やれやれ。私は結局は研究者だ。……故に食よりも、こちらが優先である」
 人型に戻ったシグが、4種のプリンから採取したサンプルから情報を抜き出す。
 成分も通常のプリンと同じ。
 おそらく調味料であろう部分にも怪しい数値はない。
「どうだ」
 ゴリョウは準備万端だ。
 清潔な白エプロンとマスクが目に眩しい。
「体調悪化の可能性は表通りの店と同程度と断言出来る」
 シグ達イレギュラーズの攻撃で、人間に害を為す部分が消滅したしたという印象だった。
 そして調理である。
 温度計もないコンロを使って、ゴリョウがプリンを加熱し、切り分け、味を足す。
 その結果通常のプリンとは形も香りも少しだけ異なるようになる。が、食べやすさに関しては一気に改善され味の質も少し増す。
「ぶはははっ! 事前準備が大事ってな」
 形を整えたホイップクリームに、焙煎したナッツをカラメルで覆った品を飾り付ける。味と舌触りのアクセントでもあった。
「はぇー」
 メイはお行儀良く待ちながら目を離せない。
 甘い香りと美しさの組み合わせからは都会を感じる。ここは深緑の超田舎だが、パティシエがいるなら都会なのだ。多分。
「ゴリョウさん……これ、使えるかしら」
 ラヴが、そっと、小さな声でパティシエに聞いた。
 単体でも魅力的な新線果物の詰め合わせを、細い手でなんとか持ち上げている。
 黒猪のパティシエが、マスクの上からでも分かるほどはっきりとした笑みを浮かべた。
 決して素手では触れず、野外活動用ナイフを専門の調理器具以上に使いこなし食べ易さと見た目の美しさを維持して適度に皮を剥ぐ。
 皿は消毒したお盆。
 ベースは適度に柔らかくしたカスタードプリン。
 彩りと酸味と甘味のバランスを考えた上でホイップクリームと果物を配置し、くんできた冷たい水を利用して最も甘味が感じられる温度を維持する。
「プリン・ア・ラ・モードだ。お代わりはないから味わって食べてくれよ」
 さりげなくラブに最初に選ばせるゴリョウは、実に紳士的なオークであった。
 なお、受け取ったのはラヴが一番でも口をつけるのはアクアが一番早かった。
「ふわ……あまい、おいひぃ……」
 狼耳と狼尻尾が感極まって震えている。
 乳製品の脂肪と果実の爽やかな甘味、食感が柔らかく変化したプリンと敢えて少し残された焦げ目の固さが、食欲で表情が溶け崩れる水準でうまい。プリンとは異なるナッツの食感が飽きを遠ざける。
「あ、こっちは、どうかな……?」
 ゴリョウそっと置いた皿にも手を伸ばす。
 鮮やかな緑と黒の組み合わせは艶めかしくすらあり、甘さで麻痺した舌をリフレッシュしてくれる。
 今だけは、アクアの黒い炎も穏やかになっている気がした。
「皆、食べる気で満々ね……。私も、いただきますっ」
 ラブもプリンにとりかかる。
 質が高いのは当たり前。
 ピクニック日和の緑の上で、戦友と一緒に味わうというシチュエーションが満足感を1つ上の高みへ押し上げる。
「それでは喉が詰まってしまうよ」
 身の丈ほどあるプリンに挑む妖精さんを、リアンが優しく面倒を見ている。
 顔や髪についたクリームを清潔なハンカチで拭き取り、リアンのプリンから一口頂こうとする手を押し止めて優しく叱る。
 そのコミュ力の高さにアトゥリの胸がちくりと痛み、しかしそんなことが出来る親友を誇りに思う。
「あぁーん、終わっちゃったー」
 妖精がじたばたする。
 リアンは困ったように微笑み、自分の皿から少しだけ食べて、残りを妖精に揚げてしまう。
「次のお休みの日には幻想スイーツ巡りを所望するのですよ!」
「もう、アトゥリちゃん……」
 自然と、笑みがこぼれていた。

●不穏だったもの
「……私、今後の為に、残ったスライムがいないか探してくるわ」
 妖精より小食(ノーマルを丸々1匹分完食)だったラブが、食事の場所から離れた。
「違うの、決して食べ足りない訳じゃないのよ……!」
 真相は不明だが、食欲以外の大きな理由も存在した。
 こっそりと逃げていた、一般的な意味での通常サイズプリンが、2つ。
「どういうことなのかしら」
 残念ながら生け捕りは無理だった。
 何を狙っていたのか不明だが、その意図を挫けたのは確実だ。
「おおっと、残ったプリンスライムは地図更新任務用に事前に用意してた馬車にみんなで積み込むっす。お持ち帰りするもいいっす。ちょっと味を楽しみながら引き続き任務にあたるのもいいっす!」
 レッドが馬車を持ち込んでいるため、まだ未使用のプリンを捨てる必要などない。
「……裏はあるだろうが」
 シグが最後のプリンを見て頷いた。
 味方は無事、妖精も元気、全員腹を下したりなどもしていない。
「今回はこれでよかろう」
 何者かの意図は挫かれ、残ったのは甘い香りだけであった。

成否

成功

MVP

ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい

状態異常

なし

あとがき

 地図更新任務完了までにプリンは食べ尽くされました。

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