シナリオ詳細
瓶詰めの希望
オープニング
●囚われのファウ
悪臭漂う洞窟内に下卑た笑い声が響く。
盗賊団『ジ・オグ・ラウス』。そのアジトであるこの洞窟内では一仕事終えた盗賊達が酒池肉林の宴を開いていた。
「がははっ、今回の仕事も楽勝だったな!」
「そりゃぁもう、ジ・オグ・ラウスの頭目ラウス親分にかかれば、あんなチンケな村から金目の物奪うなんてわけないっすよ!」
「がははっ、そりゃそうだ、がははははっ!」
溢れる酒を浴びるように飲みながら、頭目ラウスが笑う。醜く肥え太った腹が揺れ、醜悪な体臭がむせ返るように洞窟に広がる。
「『砂蠍』の頭目『キング・スコルピオ』が幻想に侵入したって話もあるじゃねぇか。何をするつもりかはわからねぇが、俺たちも一枚噛ませてもらおうじゃねぇか」
「おぉ! 親分ならキング・スコルピオの右腕にだってなれますぜ!」
「がははっ、そうだろうそうだろう……おい、ファウ! ファウ・ミュリヤ! 酒がねぇじゃねぇか!!」
気分良く話をしていたと思えば、酒が切れると同時にラウスが怒鳴り散らす。料理を配膳していたファウと呼ばれた少女がビクリと身体を震わせた。
「ご、ごめ……なさいっ、す、すぐに……用意、しますっ」
「うるせぇ! クズ奴隷が!! 誰のお陰で生きられると思ってんだ!!」
大巨漢であるラウスが立ち上がると、ファウとの体格さは巨人と小人のよう。ラウスはファウへと近づくと有無を言わさずその顔を殴りつけた。
ファウの足首につけられた足枷の鎖が空虚にその音を鳴らす。
「ひぐっ……! いや、いやぁ……」
「おらっ! 這いつくばって慈悲を乞え! 拾ってやった俺様に感謝しろ!!」
「ひっ……く、お、お慈悲を、ラウス様……うっ、うっぐ、ひ、拾って頂き、感謝、しています……うぅ……」
涙を流し地面にひれ伏し慈悲を乞うファウ。それは誰の目にも明らかな、心ない言葉だ。
だがラウスはそう言わせるだけで溜飲を下げる。踏みつけたファウの頭から足をどかすと、満足げに頷いた。
「へっ、わかりゃいいんだよ。おら、今度は水がねぇじゃねぇか。用意しろ」
「あ……水は、もうなくて……かわ、いかないと……」
「だったらとっとと行けってんだよ!!」
「ひっ……は、はい……!」
足枷の重りと水桶を手に外へと歩き出すファウ。その姿はやせ細り枯れ木のようだ。
そんなファウの背をラウスはイヤらしい眼で追った。部下がラウスに話しかける。
「親分、あんな奴隷いつまで置いとくんですかい」
「馬鹿野郎、アイツは今でこそあんなナリだが、攫った時は貴族令嬢にも負けねぇ上玉だったんだ。あと数年たちゃいい女になる。そしたら俺様が……ぐへへ」
これから先に待つ、ファウにとっては地獄のような未来を想像しながら下卑た笑いを浮かべるラウスは、大杯に酒を注ぐと一口に飲み干した。
――水音が心を静かに癒やしていく。
川に水を汲みに来たファウは、隠し持った小瓶をとりだした。
涙を拭う。これは千載一遇のチャンス。普段一人で出歩く事を許さないラウスが今日ばかりはヘマをした。今しかないこの時を、ファウは待ち望んでいたのだ。
「……これが私の希望。どうか、神様――」
小瓶の中に入れられた一枚のメモ紙。そこに希望を託し、少女は小瓶を川へと流した。
英雄や勇者を望むわけではない。ただ心優しき人がこの――血で綴られた――手紙を受け取りますように。
瓶詰めの希望は川を流れていく。見えなくなるまで見送って、ファウは地獄へと戻る為、重い足を動かした――。
そうして長い時が過ぎた後、果たして、希望は届けられた――。
●
「今回の依頼はこれなのです。盗賊団退治」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がイレギュラーズに依頼書を見せる。
「王都からそう離れていないある村の少年がコレを拾ったのです」
そういってユリーカは傷だらけの小瓶を見せる。中には一枚の薄汚れた紙が入っている。
「驚く事に中には、そのアジトの場所が不明で近隣を悩ませていた盗賊団『ジ・オグ・ラウス』の所在と構成員、武器の種類などが書かれていたのです」
血文字で綴られた歪な文字は、これを送った者の境遇を心配させるものだ。内部からの告発だとしても、不当な扱いを受けているのは見て取れた。
「少年が両親に相談し、発覚したのです。こちらで裏を取りましたが、たしかにアジトらしきものがありました」
少年の村はジ・オグ・ラウスの被害には遭ってはなかったが、近隣の村がやられている以上、時間の問題と判断した。義援金を募り、ローレットへと持ちかけたわけだ。
「盗賊達の生死は問わないのですが、手紙の送り主であるファウ・ミュリヤという少女は要保護なのです。
二年程前にある村から攫われ、奴隷のように使われている可哀想な女の子なのですよ」
その願いは復讐か解放か。どちらにしても罪のない少女を拉致し奴隷として扱うという話は看過できそうにない。
少女の救出、これは絶対条件となるだろう。
「情報は確かですが、いざ突入した際に盗賊が少女を人質に取る可能性も当然あるのです。油断することなく望んで欲しいのですよ」
敵は頭目ラウスに部下十名。
ラウスは平らで大きな曲刀を愛用し格闘戦に長けている。部下達もそれぞれ獲物を持ち得意距離で攻撃を仕掛けてくるだろう。
制圧するのにそう時間はかからないだろうが、ユリーカの言うように油断は禁物だろう。万全の準備を整え望む必要がありそうだ。
「詳しい情報は依頼書にまとめてあるのです、よく読んで置いてくださいね。それではお願いしますなのです」
- 瓶詰めの希望完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年03月27日 21時00分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●潜入
夜明けも近い午前四時。朝闇に紛れ蠢く影八つ。
盗賊団『ジ・オグ・ラウス』のアジト前の岩陰にイレギュラーズが身を潜めていた。
「神は自ら助くる者を助く……まあ、私は信仰は無いに等しいのですけど」
苦笑するように呟く『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149) が岩陰から盗賊団アジトの入り口の様子を窺う。
あの先に、諦めず自棄にならず希望を託した少女がいる。託された希望を無下にするわけにはいかなかった。
『やはり見張りがいるな……』
「用心深い盗賊団のようですし……ね」
『宿主』サングィス・スペルヴィア(p3p001291)がヘイゼルと同じように様子を窺い口にする。
スペルヴィアの言うようにこれまでアジトを見つけられずにいた用心深い盗賊団だ。見張りだけでなく、呼子等の警報器、トラップの類いがあるかもしれないと思われた。注意深く辺りの様子を窺い確認する。
「見張りは二人か……どうする?」
初の依頼であるが、そんな緊張もみせず『Anemone』松庭 和一(p3p004819)が仲間達に確認する。自己を善人ではないと断言する和一だが、依頼書を確認した際、盗賊団のやり口がどうにも癪に障った。故に、一匹残らず始末するつもりでこの場に在る。油断なく、拳を握る和一はいつでも戦える準備を完了していた。
「時間がおしい、一気に行くぞ」
両端の焼け焦げたマフラーで口元を覆いながら『反骨の刃』シェンシー・ディファイス(p3p000556)が仲間に促す。夜明け前のこの時間。寝込みを襲うなら最も適切だと思われる時間を逃せば、リスクが高まるだけだろう。であれば、迅速に事を成すべきだろう。
シェンシーの言葉に一同は顔を見合わせると一つ頷く。
盗賊団『ジ・オグ・ラウス』アジトへの奇襲作戦が開始された。
アジト入り口で見張りに立つ盗賊二名。大きな欠伸もほどほどに交替の時間を待っていた。
和一が鴉の姿で木の枝に止まり見張りを監視する。暇そうにしているのがよくわかった。和一が合図を送るとイレギュラーズ達は行動を開始した。
――不意の物音。木々に紛れる不自然な音だ。突然の音に盗賊達の緊張が高まる。
「お、おい。いま何か音がしなかったか。あっちのほうだ」
「よし、俺が見てくるよ」
一人が入り口から離れ、木々の方へと近づいていく。アジト前に立つ見張りは気になったのか、離れる盗賊の背を視線で追っていた。
「おい、なにかあったか」緊張しながら声を掛ける。
「いや、なにもないが……おかしいな」
二人の視線が、離れた木々の方へと集中されたその時、逆方向から音も無くイレギュラーズ達が現れ、その獲物を振るう。驚く事も半ばにアジト前に立っていた盗賊が絶命する。
「――気のせいか?」
木々の方を見ていた盗賊はそれに気づく事なく振り返ろうとするが、その瞬間茂みから 『魔法少女インフィニティハート』無限乃 愛(p3p004443)が現れ高らかに名乗りをあげた。
『愛を忘れた者たちに愛を齎す希望の光! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』
「な、なんだぁ!? ――がはっ」
愛が注意を引きつけた瞬間、迅速に間合いを詰めたイレギュラーズ達が盗賊の首をはね飛ばした。
「……ふう」
『風花之雫』アルファード=ベル=エトワール(p3p002160)が、大きな息を吐く。緊張の一瞬だったが、うまく事を進める事ができた。
「……さて、行きましょうか」真顔の愛が言う。
「――急ごう」
そう、これで終わりではない。ここからが本番だ。岩肌が剥き出しの洞窟へと目を向ける。中は薄暗いが、奥に光りが灯っているのが分かる。明かりがあるのだろう。
念のため、とイレギュラーズ達はカンテラを手に洞窟内部へと侵入した。
警戒しながら洞窟内部を進むイレギュラーズ達。
事前の情報どおり、洞窟はほぼ一本道で複雑な地形を成していない。奥に進めば天井に明かりが吊され、人が出入りしているのがわかった。
トラップの類いはないように思われたが、ここに来て失敗するわけにはいかない。慎重に進む。しかし、そこで不運な出来事に遭遇する。
幾つかの曲がりくねった道を進み、突き当たりの角を曲がろうとした瞬間、奥の道から歩いてきた盗賊と鉢合わせしてしまった。
「な、なんだお前らは――!」
突如出くわしたイレギュラーズに誰何する盗賊。咄嗟の機転でスペルヴィアが砂蠍関係者である事を嘯いた。
「実技試験よ、使える盗賊らしいじゃない?」
言うが早いか、ナイフを手に殺意を持って距離を詰める。
だが、盗賊の直感がサングィスを上回る。腰のナイフを引き抜くとサングィスのナイフをはじき返す。
すぐに『殲機』ヴィクター・ランバート(p3p002402)と『特異運命座標』久遠・U・レイ(p3p001071)が武器を振るうが、その身を穿ち切り裂かれながら盗賊が、どこまでも響き渡りそうな指笛を鳴らした。
「チ――ッ!」
和一の拳が痛烈に直撃し、昏倒する盗賊の心臓にサングィスがナイフを突き立てた。
「――気づかれたな」
「仕方ありませんね。このまま一気に進んでやるしかありません」
今一度覚悟を決めると、イレギュラーズは駆けだした。
洞窟の奥がなにやら騒がしくなっているのがわかる。距離的にそう遠くない距離だろう。
「人助けセンサーに感あり、です。この先に――」
「ファウ・ミュリヤがいるのか」
コクリと愛が頷く。
洞窟は直線だ。先には広く明るいホールが見える。同時に薄汚い罵声が響き渡った。
このまま一気に突入する――顔を見合わせたイレギュラーズ達が頷きで示し合わせると、一気に加速しホールへ近づいていった。
ホール突入直前に、サングィスがもっていた酒を一本投げ込む。大きな音を立てて瓶が割れると、ホールにいた盗賊達が視線を酒へと向ける。
その瞬間を狙ってホールへとなだれ込むイレギュラーズ達。汗と酒、生ゴミの入り交じったような不快な臭いが鼻腔を突く。
ホールはかなりの広さだった。奥には更に通路が一つある。その前を盗賊達が待ち構えていた。
「なんだ、てめぇらはぁ!?」
ホールの奥。奥へと繋がる道の前に立つ醜く肥え太った大柄の男が耳障りな声で怒鳴る。頭目ラウスだ。武器を構え、すでに臨戦態勢が整っている。周りを囲む盗賊達も同様だ。動きが速い。手練れであることが予想できた。
駄目元で、再度砂蠍の関係者である事を嘯く。その間に盗賊達の頭数を確認する。
ラウスを含め八人。内一人は――血に汚れた襤褸布で身を包む少女、ファウ・ミュリヤだ。
ファウはホールの右端に怯えた表情で立っている。その足には重りの付いた足枷に――それとは別のホールの壁に繋がれている足枷がある。あれではきっと身動きがとれないだろう。ファウの保護を担当するシェンシーが心の内で舌打ちする。
ファウとラウスを除けば盗賊の数は六だ。情報通りであれば一人足りない。隠れ潜んでいるのか、はたまた偵察にでているのか。どちらにしても警戒しなければならない。
砂蠍の関係者だと嘯いたイレギュラーズを頭目ラウスが一笑に付する。
「てめぇらのような女子供が砂蠍の関係者だぁ? がはは、笑わせるなよ。どんな目的で来たのか知らねぇが、俺の大事な子分共をヤってくれたんだ、覚悟は出来ているだろうな!! てめぇら全員ミンチにしてやるぜぇ!!」
ラウスの宣言に、盗賊達が活気を持って答える。
都合良く強襲することはできなかったが、やるしかない。イレギュラーズ達も武器を構え間合いを詰める。
盗賊団『ジ・オグ・ラウス』との乱戦が始まった――。
●希望の戦い
盗賊達との戦いは、数的優位もありイレギュラーズの優勢にも思えたが、ファウ・ミュリヤを護りながらの戦いとなること、そして想定以上に盗賊達の練度が高く、一進一退の攻防を繰り広げていた。
「死ねぇやぁぁ!」
気合いと共に盗賊が手斧を振り下ろす。その一撃に腕を切り裂かれながらも和一が全力の格闘戦で反撃する。戦闘用に作られた特殊な鋼線が閃き盗賊の肌を締め上げ切り裂いていく。
「まだだ――!」
和一の攻撃が続く。深く相手の間合いへと踏み込むと、一刀の元に叩き伏せる動きで大きな傷害を与える。腕を切り裂かれた盗賊が苦悶の呻きを漏らしながら、一歩間合いを取る。
「その愛なき脳天、私の愛で微塵に砕いて見せましょう――!」
高らかに響き渡る物騒な物言いは愛だ。一歩下がった盗賊を狙って全力の超遠距離術式を放つ。
放たれた高速の魔力光が、宣言通り盗賊の頭を直撃する。もんどり打って盗賊が一人地面に転がった。
「弓の方――やらせません」
アルファードが詠唱し、青い衝撃波を放つ。弓を射る盗賊を狙った一撃は、確かな手応えをもって、盗賊を吹き飛ばした。
「うっ――」
だが同時に射かけられる弓がアルファードの肌を朱に染めていく。さらに追いすがる盗賊のナイフが閃き、アルファードを追い詰める。
サングィスがすぐさまアルファードをフォローする。アルファードを追い詰めるナイフ持ちへ接近し、その身体に接触する。生命の再生力が逆転し、破壊の力となって盗賊を襲う。
立ち止まらずに、サングィスはアルファードへ回復効果のある薬を分け与えると、その身に受けた傷を癒やしていった。
「たあぁぁ――!」
敵を逃がすまいと、攻撃に力を入れるのはヘイゼルだ。
フリーになっている前衛の盗賊に張り付くと生み出した魔棘で突き刺していく。弱点を突くその一撃は盗賊に大量の出血を起こさせる。
重ねるように生み出す赤を生み出す棘が、盗賊の身体を穿ち、その身を技名通りに赤く染め上げていった。
シェンシーはファウを守るように位置取り、その身を盾にしていた。
「おらぁぁ!」
シェンシーに襲いかかる盗賊の手斧。鋭さのない鈍い痛みに顔を歪めながら、ファウへと近づけさせまいと盗賊を押し返す。鮮血がファウの身体に跳ねた。
「ひっ――!」
突然訪れた戦いの混乱。それはファウが拉致されたあの時を思い起こさせる。恐怖に足が竦み、立っていられなくなる。どうしてこんなことになっているのか。ファウは自分が出した手紙のことすらも忘れ、気が動転していた。
「――おれ達は、アンタの手紙を見てここまで来た」
シェンシーの言葉にビクリと肩を震わせるファウ。見上げればシェンシーが『気迫の蛇眼』で鋭くファウを見る。膝を折るファウにシェンシーは強く言葉を投げかけた。
「『奴隷』が嫌なら戦え、立って歩かないやつにかまう気はない。生きたいなら立て。『経験者』が体罰はどうにかしてやる」
それは恐怖に身を竦ませるものに取っては無理矢理な鼓舞だ。だが、その言葉に、ファウの瞳に光が宿る。求めた希望が、もう目の前にあるのだと――。
「ファウ、てめぇ、何を話してやがる!」
盗賊の一人が声をあげる。まるで裏切るのかとでも言いたげな、その物言いにファウが恐怖に顔を引きつらせる。
戦闘による意識の高揚で、まるで殴りつけるつもりのようにファウへと、その凶刃を振り上げる盗賊。だが、それを止める者がいる。レイだ。
「その子をどうするつもり? 傷つけてみなよ。その隙に私があなたの首を落としてみせるよ?」
言いようのないプレッシャーが盗賊を気圧させる。
本音を言えば、命を奪うにも結構な覚悟が必要で、殺害するような場面をファウにはあまり見て欲しいとは思っていない。
けれど、そこに躊躇いはない。レイは無感動に、淡々とその鎌を振るい盗賊の命を奪っていく。
「来たな――」
不安定なレーダーマップを脳内に広げるヴィクターが走る。戦闘中ずっと警戒していた残りの一人。その盗賊を探知したからだ。
出入り口側から近づいてくるその存在が戦闘に乱入する前に処理を試みる。
「親分、なぁに騒いでるんすか~――ッかは」
まるでその場にそぐわない間の抜けた声を上げた一人の盗賊は、ホールに侵入すると同時にヴィクターの放った銃弾にその命を奪われる。
為す術無く倒れた盗賊を捨て置いて、ヴィクターは仲間達の援護へと向かうのだった。
――戦いは続いていた。
「くっ、強ぇぇ、なんだこいつら――ッ! ぐぁぁっ!」
「親分、なんとかしてくれぇぇ! うわああぁ!」
盗賊達の悲鳴と断末魔がホールに響き渡る。逃走しようと試みる最後の一人を、愛が斬り伏せ止めを差すと、一転して静寂が広がった。
「やってくれたなぁクソガキ共がぁぁ!」
額に青筋浮かべながら、血に塗れる頭目ラウス。その血は、自分の物もあれば、イレギュラーズの流した血でもある。
残すはラウスただ一人。だが、イレギュラーズ達に取ってみても十全の結果とは言えなかった。
ラウスの暴風のような振り回しを前に、弓持ちを狙っていたアルファードが巻き込まれその傷の深さに、パンドラに祈りを捧げることとなった。
またラウスをマークするものがおらず自由にしていたために、その猛威は止まる事を知らずアルファード以外の面々も手ひどい傷を負わされてしまう。
当然イレギュラーズ達も反撃を試みたものの、仲間の盗賊達に邪魔され、またラウス本人に傷を与えるも致命打とはならず、未だラウスは健在。手痛い傷を引き摺りながらも漸く、取り巻きの盗賊達を倒す事ができたのだ。
――ラウスの力は本物だ。その本物の力を目の前に、ファウは身体を震わせる。
「てめぇらファウを連れ戻しに来やがったな? 動き見てりゃわかる、誰の差し金だ? こいつらの親か? どっかの貴族さまか? あぁ!?」
ラウスの恫喝にファウが身を竦ませる。それは自身が叱られている時と同じ反応で、ラウスの勘に触った。
「まさか、ファウ! てめぇか!!?」
これ以上無い怒声が響き渡る。立っていられないほどの恐怖にファウの膝が震えた。
「ゆるさねぇぞ、ファウ・ミュリヤ! こいつらを殺したら、テメェも嬲り殺してやる!!」
訪れる未来への恐怖に目を伏せながら――それでもファウは瞳に涙を溜め込んで、震える唇で希望を口にする。
「……お願い、勝って! あいつを殺して!!」
それは恐怖に抗うファウが見せた初めての抵抗だ。
「任せて――」
口々に返答するイレギュラーズ。熱い想いがイレギュラーズの心に灯る。
「許さねぇ! 許さねぇ! 皆殺しだぁ!!」
ラウスが暴風を纏い武器を振り回す。ファウを守ろうと立ちはだかるシェンシーがその身を盾に受け止める。痛烈な一撃は意識をも刈り取ろうとするが、すかさずシェンシーはパンドラに願う。――光がシェンシーの傷を癒やしもう一度戦う力を与える。
「ッらぁぁぁ――!」
飛び込む和一が捨て身の一撃を繰り出す。ラウスの肥え太った身体を引き裂くもまだ浅い。致命打となる反撃にパンドラに縋って対抗する。
「受け取りなさい、私の愛を――!」
愛とアルファードが一斉に遠距離攻撃を放ち、ラウスの体勢を大きく崩すと、
サングィスとヘイゼルが暴風を駆け抜けるように疾走し、得意の距離で技を繰り出す。サングィスの逆再生がラウスの肥え太った腹を弾けさせ、ヘイゼルの魔棘が脂肪を穿ちその肌を赤に染め上げる。
「くそぉぉ! くそぉぉぉ!!」
ラウスのメチャクチャな振り回しが二人を襲う。直感的な閃きがヘイゼルの身を守るが、サングィスは直撃を受け意識を失った。
肩で息を荒げるラウスにレイが飛びかかる。戦鎌を振るいその胸部を薙ぎ払うと、ラウスが大きく体勢を崩した。その時を狙い澄ましたようにヴィクターが手にしたリボルバーの引き金を引いた。弾丸は切り裂かれた胸部へと吸い込まれて――そしてついにラウスは倒れるのだった。
「く……そ、なぜ、だ。なぜこんなことに……」
ラウスが呻きながら疑問を口にする。独り言を口にするように、シェンシーが答えた。
「お前が奴隷と蔑んだ者が、一筋の希望を流したのさ。瓶詰めにしてな。その結果だろうさ」
「お、のれぇぇ、ファ、ウ、ファウミュリヤ――!!!」
その瞬間、頭目ラウスの命は摘み取られ、盗賊団『ジ・オグ・ラウス』の壊滅が確認されたのだった。
●そして少女は掴み取る
戦いが終わり、傷の治療を終えたイレギュラーズはホールの奥の通路へと足を運んだ。
ホールの奥は、ラウスの私室になっていたようだ。隠し通路などもなく、これまでに強奪してきたものであろう、金品の山が残されていた。
ファウの言葉を辿り、その私室を調べてみると、ファウの足枷の錠前をはずす鍵が見つかった。鍵を取り、すぐにイレギュラーズ達はファウの元へと戻った。
実に二年ぶりに外される足枷。これで、もう奴隷ではないのだと誰かが言った。
その言葉に、ファウの瞳から静かに、ゆっくりと涙がこぼれ落ちる。暴力によってしか生み出されなかった涙が、自然と溢れ零れていく。
「願いは、届いたか」ヴィクターの言葉にファウが頷く。「――そうか」
「貴方の勇気に労いと感謝を」
愛がファウの肩を優しく叩く。
「今は泣けばいいさ。すぐに泣く暇もないほど楽しい毎日が襲ってくる」
「もう夜明けね。きっと朝日が眩しいわ」
「さぁ、帰りましょう」
陽光が涙を洗い流していく。イレギュラーズがファウに手を差し伸べた。
この差し出された手こそ希望の形。ファウは溢れる涙を拭うと微笑んで、そっとその希望を掴み取った。
――瓶詰めに籠められた希望は、確かに少女にもたらされたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
澤見夜行です。
詳細はリプレイをご確認ください。
作戦は悪くなかったですが都合の悪い事は起こる物です。
また頭目がフリーで暴れていた結果、パンドラに頼る必要が出てきてしまいました。
MVPはその身を盾に護り抜いたあなたへ。
あなたの鼓舞でファウの決意が固まったと思います。
依頼お疲れ様でした。
ゆっくりと身体を休め、次の依頼に備えて下さいませ。
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
悲劇の少女は最後まで希望を捨てず瓶詰めに込めました。
手強い盗賊団ですがイレギュラーズの力を見せ付けましょう。
●依頼達成条件
・ファウ・ミュリヤの生存
・頭目ラウス及び盗賊十体の討伐(生死は問いません)
●情報確度
Bです。想定外の事態が起こる可能性があります。
●盗賊団『ジ・オグ・ラウス』について
頭目ラウスに付き従う十名の部下がいます。
・頭目ラウス
格闘戦を好む大巨漢。格闘戦の他に『振り回し』を使用します。
『振り回し』 物近範 命中+3 物攻+50
・部下の盗賊達
獲物はナイフ・手斧・弓を装備。
ナイフ4、手斧4、弓2の割合です。
それぞれ得意距離で格闘戦と射撃戦を行ってきます。
●戦闘地域
ある山間にある洞窟内部です。
迷宮にはなっていないので、すんなりアジトへとたどり着けます。アジト内は広く戦闘は問題なく行えます。その他目に付く障害物はなく戦闘に支障はでないでしょう。
●ファウ・ミュリヤについて
ある村に住んでいた心優しい少女。
村がラウスに襲われた際に逃げ遅れ捕まった。
奴隷としてラウスの身の回りの世話をさせられ、事ある毎に暴力による恐怖を植え付けられ生きてきた。
長く自慢だった金髪は自身の血に染まりくすんだ色へ。笑顔の絶える事のなかった表情は感情を示さなくなった。
拉致されて一年、偶然手に入れた羊皮紙を前に少女は最後の希望を込める。
そしてさらに一年。チャンスを待ち続けた少女は瓶詰めに希望を託して川に流すのだった。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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