《狐の嫁入り　異聞録参》豚人之王ヲ討伐セヨ！

オープニング

■災厄は足音を立ててやってくる
「団長！姿を確認できました！」
　スーラク・ルークスが治める城塞都市。先日のオーク達の暴動を鎮め、捕らえたオーク達からの情報を纏め。オークロードの出現という一報があり。
　それからの城塞都市は、只管に壁の修繕増築。籠城の為の物資補給。旅人の出入り制限などなど物々しい雰囲気であった。
　その一方でしっかりと斥候を各地に飛ばし、オークロードの話が本当であるのかを探らせていたのだ。そして……今まさにその斥候が息を切らせて戻ってきた、という訳だ。
　騎士団長スーラクとその息子イグニス。今や立派な協力者となった猿人の長ギルダス。そして友軍として駆けつけた、森を護る者アングラーも。城塞都市の一番高みにある部屋で、重い空気を纏わせながら、対抗策を話し合っていた。
「スマンな義兄弟、わざわざ来てもらって」
「なに、オークロードが森にまで来れば……未曾有の大災害となる。当然の行いだ」
　なんとか笑ってみせるスーラクとアングラーだが、やはり重い空気を払うまではできない。
「我が部族からも戦える者を連れてきて貰ったが……」
　アングラーが森から出てくる際に。ギルダスの命で腕に覚えのある猿人の若者達が援軍として共にやってきたのだ。彼らは今、騎士団員達に混ざって訓練に励んでいる。
「有り難い話だが……それでも、正直足りるかは怪しいな」
　イグニスが、苦虫を潰した顔のままそう零す。
　伝承通りなら。オークロードは、一人で街を滅ぼす程の戦力を有し、その力と振りまく恐怖で配下のオーク達を操るという。
　恐怖に駆られたオーク達は、普段では行わない悪行に身をやつし。様々な物資を奪い、行く先々の力を減らし。そしてオークロードが蹂躙していく。
「……やはり、彼らに頼るしか、ないのか……」
　どこから来たのかわからないオークロードに対抗するには。
　同じくどこから来たのかわからない。されど信頼できる「友人達」の助力が必要だと、結論づけた。

■我こそはと思うものよ！
「……という事なの。このままではスーラクさん、イグニスさんの城塞都市はオーク達の群れに負けて滅ぼされてしまうの」
　いつもの背表紙の本を手に。悲壮な表情を浮かべた境界案内人のポルックスがそう語る。
　とにかく、いつもよりも人手が欲しい、と。折角、滅びの運命を退けてここまで続いた物語。こんなところで終わってしまうのは悲しいから。
「腕に覚えがなくても、戦う自信がなくてもいいわ。やれることは必ずあるはずだから。だから、お願い。皆、力を貸して！」
　集まったイレギュラーズを鼓舞するように、拳を握りしめて大きな声で。ポルックスは皆を送り出した。

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第2章

第2章 第1節

　無尽蔵だと思われたオークの群れが、イレギュラーズの助けを得た城塞都市の騎士団員達に蹴散らされ、残すは後少し。
　されどそこに見える姿は。他のオークよりも良い装備を身に着けた大柄のオークが１０体。
　そして、それらよりも更に巨大な、大木ほどもありそうなオークが１体。それが件のオークロードであろう。
「……フシュウゥゥ……」
　逃げ惑う仲間のオーク達を見て、大きく息を吐いたオークロード。辺りに異臭が立ち込め……
「クラウ、クラウツブスクラウコロスゥゥゥ！！」
　どこか狂気に満ちた、そして明確な殺意を以て。駆けつけた騎士団とイレギュラーズ達を見据えた。
「……不甲斐ナイ奴ラメ……オレサマガ……全部、ゼンブ……喰ラッテヤルゥゥゥ！！」

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第2章 第2節

「ハァハァ…ッ！少し傷を負い過ぎましたわね…ですが、私は倒れる訳にはいきませんわ！」
　広き戦場を、その身を盾にと駆け巡り。『「姫騎士」を目指す者』ルリム・スカリー・キルナイト（p3p008142）はそれでも歩みを止めない。
　傷ついた身体に鞭を打ち、震える足に喝を入れ。手に力を込めて愛剣を構え直す。騎士たるもの、この程度で諦める訳にはいかぬと、心を燃やす。
「私が囮になって精鋭オークを引き付けますわ！」
　オークロードに向かおうとする、スーラク、イグニス、ギルダスらの背中を見送り、ルリムは叫ぶ。自分にできる最良は、これだと信じて。
「オーホッホッホ！貴方達三下オークなど私だけで十分ですわ！我が名はルリム・スカリー・キルナイト！騎士見習いにして将来の『姫騎士』になるものですわ！」
　三下、と馬鹿にされたと気づいた精鋭オーク達が、殺気をみなぎらせルリムに殺到する。流石にやりすぎた、とルリムの生存本能が叫ぶ。
　しかし、しかして。ここで逃げ出せば目指す騎士は遠ざかる。幾万の無辜の民達が居るならば…それを守るのが騎士の務め！
　愛剣を盾にすべく、眼前に構え……。
「……させない！」
　ルリムの前に、一人の少女が飛び出した。
　オークロードの気迫に少しばかり気圧されながらも、同調しかけながらも。私は違うと、抗い続ける『闇と炎』アクア・フィーリス（p3p006784）だ。
　ルリムを狙い集まるオーク達。ならば、アクアの放つ技の餌食だとばかりに。手に宿した炎を地面に叩きつけ、大地から噴出させオーク達を業火に包む！
「相手をしてる、場合、じゃないけど……邪魔なの……！」
「あ、あの……助かりましたわ」
　炎に包まれながらもまだ立つ精鋭オークに、少し苛立ちを感じるアクア。早くオークロードの元に行かなければいけないけども、倒さない訳にはいかない。
　まだ炎を残す彼女の背に、恐る恐るルリムは礼を述べる。実際、危なかったのは事実だから。
「話は後……今はまだ、前を見ないと……！」
「え、えぇ……そうですわね！」
　即席の共同戦線。少女二人がその身を刃に、盾に。オーク達に立ち向かう。
　
　仮にも精鋭、というからか。精鋭オーク達はしぶとかった。
　動きは鈍重だが、一撃は重い。アクアを攻撃から庇ったルリムの胸当ては、役目を終え吹き飛んでしまい。庇いきれなかった攻撃でアクアもダメージを負い、憎悪の炎が彼女を焼かんと身を包んでいた。
　体力勝負では分が悪い。そう二人が感じた時。騒がしい叫び声が、戦場に似つかわしくない声が、辺りに響く。
「あたしの知ってるオークはいい人だけど、ここのオークは悪い人なんだね！？　しかもくさーい！何この匂い、身体洗ってないのかな？　おっきくて手強そうだけど、あたしがいる限り皆倒れることはないから！」
　鼻を摘みながらまくし立てるのは『イワ死兆』フラン・ヴィラネル（p3p006816）
　一見戦えるのか不思議となる騒がしさの彼女だったが、すぐに状況を把握し、ルリムとアクアの後ろに立つ。そして……。
「ボエェェェ！！」
「ひぃっ！？」
　余りにもひどいメロディに、ルリムが思わず前のめりに倒れそうになったが。不思議な事にルリムとアクアの傷は少しずつ収まっていく。
「……今の……回復？」
「め、メロディーはちょっとアレだけど！迷惑なリサイタルって言われるけど！　その効果は抜群なんだからー！」
　首を傾げたアクアに、ばたばたと手を振ってそう主張するフラン。一応捕捉すると、今のは天使が唄ったと言われる癒やしのメロディ……だったのだが。ともあれ、効果はきちんと発揮されている。
　活力が戻った前衛二人が、オークに視線を戻し。
「と、とにかく！　これで五分ですわね！！」
「うん……回復は、ありがたい……ね」
「どんなに一撃がすごくてもあたしが全部回復しちゃうんだから！」

　少女三人の即席パーティーは、徐々に徐々に、精鋭オークを押し返していく。

成否

成功

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第2章 第3節

「オークロードに引導をお送ろうど……と言いたいけど」
「え？なんて？」
「……だからなんでもないってば」
　偶然近くにいただけの二人組、『初日吊り候補』セリア＝ファンベル（p3p004040）と『新米の稲荷様』長月・イナリ（p3p008096）は即席の共同戦線を張る。その中で、ギャグを放つセリアと、それに突っ込むイナリ。
　果たして余裕があるのか。もしくは余裕がない中で無理に余裕を作ろうとした演技なのか。それは彼女らにしかわからない、が。
　それでも彼女らは既に。３の精鋭オークを打ち倒していた。
　二人ともが遠距離戦を得手とする者。故に騎士達の背に隠れて。セリアの精神の弾丸がオークの身体に穴を開け、それにイナリの振るう爆炎の剣が追い打ちをかける。
　単純にして有効な戦法を、彼女らは行使していた。

　そして、それが実を結び。彼女達と、その前に立つ騎士は。オークロードへの道を切り開く。
「グォォォ……！　貴様、ラァ……喰ラッテ、クレルゥ……！」
「私を食べるの？　狐って、エキノコックスっていう寄生虫が居るから食べない方がいいと思うのよね……私、エキノコックスフリーじゃないし……」
　ため息をつきながら、オークロードの憤怒と狂気の叫びを聞き流すイナリ。恐らくそういう問題ではないはず、なのだが。
　しかして鈍重なオークロード。先手を取るのは彼女達。イナリは温存していた自己強化を解禁し、強化した一撃を！
　セリアも手慣れた様子で、精神の弾丸をオークロードへ叩きつける！
「グァァァ……！」
「効いてるわね」
「ええ、それじゃこの調子……っ！」
　もう一度、と武器を構え直す彼女達に、オークロードは無造作に。ただ手にした大斧を、腕力にまかせて大地へと叩きつける。
　ズンッ！！
　ただそれだけ。それだけだが純粋に強い力は、全てを飲み込まんとする。斧を受け止めようと盾をかざした騎士は、盾ごと地面に埋め潰され。斧が大地に刺さる衝撃でまき起こる砂嵐が、セリアを、イナリを襲う！
「くっ……目が……！」
「でも……この程度なら……！」
　距離を開けていた為に大したダメージを負っていない二人は闘志を失わず。少しばかり犠牲になった騎士への申し訳無さを力に変えて。再びオークロードへと挑みかかる。

成否

成功

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第2章 第4節

「マルベート様ー？マルベート様ー！　あれぇ、いませんね……どこかではぐれたのでしょうか？」
「おや、お嬢ちゃんどうしたのｶﾅ？ここは危ないﾖ！」
　『憐れな子羊』ティル・エクスシア（p3p007028）が戦場ではぐれてしまったパートナーを探す最中、声をかけるは『風吹かす狩人』ジュルナット・ウィウスト（p3p007518）。彼の言う通り、ここはオークロードとの決戦の戦場である。
　今まさに。最高戦力たるスーラクと、その息子イグニス。更には盟友たるアングラーが率いる騎士団とオークロードが血で血を洗う戦いを始めようとしていたところだった。
「…あれは？　親玉といった所でしょうか。こうなれば、まずは撃退を優先ですね」
　一度人探しを中断し、ティルはふわりと宙に浮かび戦闘態勢に入る。
　そしてそこへもうひとり……。
「オークが多く居るネ。でも負けるわけにはいかないんだな。困難に挑んでこそ今後に経験としていきるからねえ」
　『放課後のヴェルフェゴール』岩倉・鈴音（p3p006119）が誰にも気づかれないダジャレ混じりに姿を見せる。即座に彼女は仕事を始め、１つ、皆の精神を高揚させる歌を唄う。
「これは、負けてられないﾈ。気合いれるﾖ！」
　ジュルナットが放つ矢は、放物線を描きオークロードの足を射抜き大地に縫い止める。それを力任せに引き抜こうとするオークロードだが、ジュルナットの意志が込められた矢は抜ける事なく。
「私だって……！」
　銃を構えるティル。それから放たれるは不吉を纏いし魔弾。足を縫い留められたオークロードは避ける術もなく、弾丸に肉体を、それどころか己の運すら喰われ。叫ぶ。
「邪魔、ダァァァ！！」
　しかし無様に、むやみに振るう斧は空を斬り。近くにいたスーラクとイグニスには掠りもしない。
　更に追い打ちとばかりに、鈴音が更に歌を奏でる。
「危ないぞーちょっとけちらすから離れとけ～♪」
　どこか調子外れな声と共に。しかしその音波には確実に、敵を蝕む悪意を込めて。破裂する声はオークロードの耳を塞ぎ、さらなる地獄へと陥れる。
「グヌァァァ！！」
　正気を失ったオークロードは、自らの拳で耳を殴り。その勢いのまま地に倒れる。戦場で隙を見せれば、それ即ち。
「今です！」
「折角だ、毒もプレゼントしよう！」
「最後は任せるﾖ！スーラクｸﾝ！」
　ティルの銃が放つ雷がオークロードの身体を穿ち。動けないと見て駆け寄った鈴音が毒蛇を呼び出し噛みつかせ、ジュルナットの矢が目を貫き！
「おう！感謝、感謝だ……友人達よぉ！！」
　ジュルナットの声に応えたスーラクの剛槍が、オークロードの腹に穴を開けた。
「グギャアァァァァ！！」

　最期の断末魔。暫しの静寂。そして起こる、敗軍の逃亡劇と、官軍の掃討戦。
　しかしてイレギュラーズ達は、それには参加せず。
「ロードを仕留めたなら、宴会さ。私らは先に帰るよ」
　鈴音の言葉通りに。されどその実、騎士達の勝利を、オークロードの最期を。不安に包まれた街で待つ、多くの人々へ知らせる為に一足早い凱旋へ。

成否

成功