PandoraPartyProject

シナリオ詳細

春風を連れ帰っておくれ

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●愛おしき想い出
 見たことがないほど美しく、その色は淡く融ける雪のようだった――――
 当時少年少女だった妻とわしは、吹雪の中を歩いていた。顔に打ち付けて痛いほどの雪で、村の場所などとうに分からなくなっていた。二人で死を覚悟したその時だった、目の前を薄桃色の何かが掠めたような気がしたのは。わしは妻の手を引きながら、ふらふらと一瞬の幻のようなそれの後を追った。
 豁然、吹雪が止んで目の前が開けた。視界に飛び込んできた光景に、わしは一瞬天の国まで来てしまったのかと思った。
 目の前には緑の野が広がり、目にも美しい花びらが舞っていた。足元をその花びらが敷き詰められたように埋め尽くす中、野原の中心に一本の立派な樹が立っていた。その樹が薄桃色の花を溢れんばかりに咲かせ、花びらを散らせていたのだった。その花びらの量と来たら、両手いっぱいに掴んでも花びらがまったく減らないほどだ。想像できるかね?
 一片がハートのような形をした薄桃色の花が舞っているのを妻とわしは呆然と眺めていた。その内、宙を舞っているのが花びらだけではないと気が付いた。花びらとまったく同じ形と色をした翅を持つ蝶々がひらひらと飛んでいるのだ。それこそが我々を此処へと導いたものの正体なのだと、わしは気づいた。それが一匹だけではなく、花びらに紛れて何匹も飛んでいた。そしてわしらを歓迎するかのように周囲に寄ってきた。その蝶々が翅を音も無く羽ばたかせる度に、優しい花の匂いが鼻を擽るような気がした。わしらはきっと彼らはこの野原だけに棲む妖精なのだと思った。
 気が付くと、野原から一本の道が伸びていた。それは見覚えのある景色へと繋がっているようだった。その道を行けばわしらは村へ帰れるだろうと理解できた。
 わしらは薄桃色の花を咲かせる樹を振り返った。蝶々の妖精たちが枝に集まっては飛び立ったりを繰り返しているその樹は、妖精たちの親のように見えた。わしらはその樹のことを「妖精樹さま」と呼ぶことにした。
 そしてわしらは無事に村へと帰れたのだ。妖精樹さまはわしらの命の恩人だ。
 その翌年、妖精樹さまへの感謝を伝える為にその地を訪れたのをきっかけに、わしと妻は何度も"春の野原"へと足を踏み入れた。その度に花びらの翅を持った妖精はわしらを案内してくれた。
 妻と結婚した時も、わしらの子供が立って歩けるほど大きくなった時も、妻の背が曲がるほど老いた後も、あの地を訪れた。でも……妻が亡くなってからは、一度も。
 こうして病に身体を侵され寝床から身を起こせなくなってから、ようやくまたもう一度あの光景を見たいと、あの春風を感じたいとわしは思ったのだ。手遅れになってから請い願うなどと、愚かなものだろう……。

●雪解けと妖精樹の世界
「ということで、病で気力を失った一人のおじいさんを元気づけてあげてくれないかな」
 事の次第を説明した境界案内人カストルはにこりと笑った。
「おじいさんは行けないから、その代わり君たちに"春の野原"へと赴いてもらいたい」
 カストルの手の中の本は、蝶の翅のようにはらりはらりと頁がめくれていく。
「そして『春』を感じるものを持ち帰ってもらいたいんだ。話に出てきた淡桃色の花びらを拾って帰ってきてもいいし、見てきた光景をおじいさんに語ってもいい。手先が器用なら絵に描くのもいいかもね」
 けど、とカストルは一言添える。
「枝を折ったりその他妖精樹に危害を加えるような行為は推奨しかねるかな」
 カストルは笑顔でイレギュラーズの面々を見渡した。
 まあ君たちの中にそんなことをする人はいないだろう、とカストルは呟く。
「"春の野原"まで行く際には何とかして妖精の協力を得てくれないかな。丁寧に頼み込めば応えてくれるかもしれないし、妖精の性質としてよくあるように歌や踊りみたいな賑やかなもので惹き付けられるかもしれない」
 ぽん、とカストルは本を閉じる。
「じゃあ、頼んだよ」

NMコメント

 こんにちは、初めまして。野良猫のらんと申します。
 今回が初めてのライブノベルです。
 どうか皆さんに楽しんでもらうことが出来ればと思います。

 今回の目的は、桜の花びらの翅の蝶々の心を掴み、"春の野原"に案内してもらい、そしておじいさんを元気付ける、という内容になっています。

 まず最初。雪原にて、皆さんには何処かにいるであろう妖精に訴えかけてもらいます。吹雪はありません。雪が積もっているだけで良天候です。諦めずに呼びかけるか、カストルが言っていたように気を惹くようなことをすれば妖精は現れてくれるかもしれません。

 その次に、妖精に導かれて妖精樹さまのいる春の野原へと誘われます。おじいさんに『春』を届けるための準備をしましょう。あるいはピクニックをしたりのんびり寛いでも構いません。

 最後に、おじいさんに会いに行ってあげましょう。おじいさんのところまではきっと妖精樹さまが道を繋げてくれます。
 カストルが挙げていたように、様々な方法で自分の見てきた『春』をおじいさんに伝えてあげましょう。
 上手くいけばおじいさんは元気を取り戻すかもしれません。

●春風の妖精樹
 桜の木にとても似通った外観をしています。基本的に妖精樹の方から何らかのアクションを起こすことはありません。ただ野原の中心で美しく花を咲かせています。枝を折られるなど害を加えられると、侵入者を"春の野原"から締め出します。枝を折られてもイレギュラーズを攻撃することはありません。

●春風の妖精
 桜の花びらが翅になった蝶のような見た目をしています。人懐こく、肩や指先によく止まってきます。あるいは鼻先に止まることもあるかもしれません。気ままに飛んでは、気に入った人間がいると"春の野原"へと案内しているようです。

●サンプルプレイング
 まずは妖精さんに会うために歌を歌いながら雪原を歩いてみます。アカペラだけど、きっと賑やかさに惹かれてくれるはずです!
 そして無事妖精さんに花の咲き乱れる原っぱへと連れて行ってもらえたら、持ってきた布を広げて、作って来たサンドイッチを入れたバスケットを取り出してランチです! 腹ごしらえをしなければ始まりませんからね! そうしてサンドイッチを味わいながら、"春の野原"の景色を何となく目に焼き付けます。
 昼食が終わったら、道を辿っておじいさんの元へ行きます。それからおじいさんに原っぱでのピクニックがどんなに楽しかったか伝えます。笑顔で心からの思い出を語れば、きっとおじいさんにも伝わると思います。
 「おじいさんも、きっとあの場所で奥さんと楽しい時間を過ごしたんですよね!」って!

  • 春風を連れ帰っておくれ完了
  • NM名野良猫のらん
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年03月24日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
夏宮・千尋(p3p007911)
千里の道も一歩から
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ

●出発前の下準備
 ほかほかとまだ湯気の立っているそれに具を入れると、少女の手がそれを綺麗に綺麗に三角形に握っていく。
「そうそう。硬くなり過ぎないようにね」
 微笑みながらおにぎりの握り方を教えている黒髪の少女は『いつもいっしょ』藤野 蛍(p3p003861)、そしてそれに耳を傾けながら丁寧に手を動かす華奢な少女が『いつもいっしょ』桜咲 珠緒(p3p004426)だった。
「珠緒さんと一緒にすると、こんな準備もなんだか特別なイベントに思えてきちゃうわ。ふふ」
「ええ」
 そんな風に、二人の少女は微笑みを交わし合った。春の日差しのような、穏やかな時間だった。
 そこへ金髪碧眼の美形の男と、凛とした赤目が涼しい少女が戻ってくる。
「人のために力を尽くすのは精神修養によい」
「ああ。ご老人自身が赴けないのは残念だが」
 青年の方は、境界案内人から今回の話を聞いた時に二つ返事で「この依頼、確かに引き受けた」と請け負った『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)。そして老人には元気になってもらいたいものだとその身を案じていた少女の『千里の道も一歩から』夏宮・千尋(p3p007911)だった。
 蛍と珠緒がおにぎりを作っている間、二人は雪原を歩く為の防寒具を揃えに出ていたのだ。
「春風なるつかみどころのない物を連れ帰れるかはわからんがやれるだけやろう」
 自分に誓うように口にした千尋の言葉に、一同も賛同して頷いた。

●一面の銀世界に響く
 一歩、歩みを進める度に雪の中に深く足が沈んでいく。
 雪を踏む独特の感触を楽しみながら、イレギュラーズの彼らは村の人もあまり足を踏み入れない辺りまでやって来た。人気がないどころか物音すら消えてすべてが白に置き変わったかのような銀世界だった。
 妖精は賑やかなものが好きだというのは境界案内人の言葉。
「ふむ、歌、踊りであるか」
 千尋はすっと姿勢を正すと大きく息を吸った。冷たく清涼な空気が肺の中に入る。

「アカシア繁る学び舎の 誉れぞ高き乙女たち
 歌劇に踊る舞手らの 初音の響き遠くまで
 憂うことなかれ 珠の巫女らよ
 辛きことやがて 花ぞ薫る日へ
 嗚呼皇国女学院 嗚呼皇国女学院――――」

 千尋が通っていた学び舎の校歌だ。彼女の歌声が気持ちいいほどの青空の中に吸い込まれていく。
 それを見た蛍と珠緒も、自分たちも歌うことにした。二人は声を合わせて歌を口ずさんだ。

「天に満ちる希望よ、地にもあれ。限りある夜が、より素晴らしく輝きますように――」

 日の光にきらきらと輝く雪原は、地にもあれかしと讃えられた星々が瞬いているようにも見えた。
 少女たちの清らかな歌声に妖精は興味を惹かれただろうか。雪原を見渡してもまだそれらしき姿は見えない。
 やがてベネディクトも子供の頃に慣れ親しんでいた歌なら何とか、と躊躇いがちに口を開いた。
 素朴で優しい子守唄が紡がれていく。母のようにはいかないなとベネディクトは内心苦笑するが、ゆったりとした子守唄は真面目で優しい彼の心根そのものだった。
 その時、彼らの視界の端にちらりと何かが映ったような気がした。向こう側が透けそうなくらい淡い色合いだけれど、決して雪の白と同一ではない何か。
 慌てて見回しても妖精の姿はない。だが。
「おーい! 妖精達、お願いがあるんだ! 姿を見せてくれないか!」
 ベネディクトはすかさず叫んだ。駄目なら何度でも叫ぶ、どうしたって諦めることはできないから。ベネディクトは額に汗を滲ませた。
 そして彼の必死の思いに応えてくれたのか――――ひらり、桜色が舞った。
 ベネディクトの肩に、薄桃色の翅を持った蝶が止まっていた。話に聞いた春風の妖精だった。
 触れるだけで崩れてしまいそうな繊細なその妖精を驚かせないように、ベネディクトはそっとお願いする。
「春の野原にどうか連れて行ってくれないだろうか」
 彼の言葉に妖精が微かに頷くように翅を動かした。
 そして、妖精は音もなく舞い上がるとふわりふわりと宙を飛び出した。彼らを春の理想郷へと導いてくれるのだ。

●春の理想郷
 青々と茂る下草に、舞い散る無数の花びら。花びらと共に飛ぶ蝶に似た妖精たち。そしてその中心に立つ巨大な樹。その姿は堂々たるものでありながら、むしろ穏やかさを感じさせた。
 あれが妖精樹さまであろうとイレギュラーズの面々はすぐに気が付いた。彼らはまず野原を歩き回る前に、妖精樹さまに挨拶をすることにした。
「ほう。彼方が妖精樹さまか。枝ぶりの良さが見事だな。老人と妻が惚れこんだのもうなずける」
 妖精樹を見上げた千尋が感嘆の声を上げた。
「奥さんが亡くなってしまって、おじいさんが元気を失くしてしまっているわ」
 蛍は妖精樹に老人の現況を報告した。老人が病に倒れたこと、そしてその妻がこの世を去ったことを愁いるかのように木漏れ日が揺れた。
「構わなければ、ここでお昼をとっていいかしら?」
 蛍は謙虚に尋ねた。妖精樹はそれに対して特に反応を見せなかった。構わないという意思表示だと受け取り、一同は妖精樹の下で昼食を摂ることにした。
 昼食のおにぎりを広げると妖精たちが集まってきた。蛍と珠緒は顔を見合わせて笑うと、彼らにもおにぎりを分けてあげたのだった。花びらのような翅が嬉しそうに二人の少女の周りを飛び回っていた。

 ひらり、ひらり。落ちていく花びらを受け止めようと手を伸ばす。だが花びらは不規則に動いて、手の平の上を避けていってしまう。
「存外難しいな」
 千尋は次々に舞い落ちてくる花びらを前に呟いた。
 地に落ちる前に連続で5枚。ちょうど花の形になるように受け止めれば願いが叶う。
 いかにも年若き乙女らの間に伝わるおまじないめいた噂話である。千尋もそれを本気で信じている訳ではなかった。
「まず、一枚」
 ひらり。千尋の手の平の上に一つの花びらが上手く乗った。
 あと四つ。道のりは遠い。
「二枚目」
 ただの噂話だと分かっていてそれでも千尋が挑むのには理由があった。
 自身の鍛錬の為と、あと……
「三枚目!」
 掴みどころの無いものを掴む為。そんなことをどうやったら実現できるのかは分からない。それでも行動したその先に、結果がある筈だと信じて千尋は動く。私は春風なるものを掴み取り、老人の元へと持ち帰ると。
「四枚目……っ!」
 凄まじい精神集中の末に、遂に残す花びらはあと一つとなった。ここで取り零したり形を崩したりしてしまえば水の泡だ。緊張に千尋の額を汗が伝った。
 そして――――
「…………ッ!」
 それは成った。五つの花びらが花の形に千尋の手の上に乗っていた。
 その花びらを崩さぬように、千尋は静かに喜びを噛み締めた。

「何度もこの場所に足を運んでいた方が病で動けなくてね…こういった方なんだが、覚えているかな」
 ベネディクトは肩に止まったり周りを飛んでいる妖精たちにたどたどしく老人の容姿を説明していた。
「この場所を思い出させるような、何か良い贈り物はないだろうか。ああ、いや、急にこんな事を相談しても駄目かな……」
 身振り手振りで必死に伝えようとする彼の手に、一匹の妖精が止まる。
「うん?」
 すっと軽い感触がしたかと思うと、いつの間にかベネディクトの手の中には木製の小箱が納まっていた。彼が手を握れば包み込めるくらい小さな箱だ。
「これは大切なものだな。必ずご老人に届けよう」
 ベネディクトは妖精たちに誓った。

●春風を届ける
「ああ。どうだ、あそこは美しかっただろう」
 老人は戻ってきた一同に目を細めた。
 千尋が一歩前に進み出る。
「病が快癒するように願いを込めた。受け取ってくれまいか」
 花の形に花びらを受け止めれば願いが叶うという話を千尋は老人に伝える。そして千尋は老人の手の上に花びらを置いた。老人の手の平の上でそのまま花びらが花の形に広がっている。
「おお……これは確かに妖精樹さまの花だ」
 老人の目が見開かれる。
「いかがか?」
「ありがとう。そうか、斯様に繊細で美しい花だったか」
 手の平の上の花弁を見つめる老人の瞳は潤んでいた。花びら舞い散るかの地の鮮やかな美しさがその脳裏に蘇っているのだろう。
「大切な記憶を思い出す拠り所となって何よりだ」
 千尋は夏の日差しのように鋭い眼差しをふっと和らげて微笑んだ。
 花びらのような淡い桜色の髪をなびかせた珠緒が口を開く。
「おじいさん、珠緒には【桜花水月】という技があります」
 珠緒の持つ技術の中には湖面に浮かぶ月のような虚像ではあるものの、今そのものを見ているかのように見せる情報伝達の技があることを伝えた。それを受け入れてくれるだろうかと珠緒は尋ねた。
「君はそんなことが出来るのか。もちろん、頼む」
 老人は珠緒の言葉にこくりと頷いた。
「では、いきます」
 珠緒が術を行使すると、老人の視界に春の野原の光景が映し出された。
「お、おお……」
 緑の野原を覆い尽くさんばかりの花びらの嵐が再現される。珠緒が実際に行って、触れてきた春の野原の光景だ。老人はそれに感じ入った様子で釘付けになった。
「ご老人。妖精たちから預かったものがある」
 ベネディクトが春の妖精たちからもらった木の小箱を差し出した。老人が木箱を受け取ると、それは一人でに開いた。
 部屋の中に一陣の風が吹いた。暖かく柔らかく、ふわりふわりと浮かぶような心地にさせるほのかに甘い風。それがまるでかの地に立っているかのように錯覚させる。箱の中に入ってたのはまさしく春風だった。
 老人の頬を静かに涙が伝った。
「あれは一度でも見れば忘れられない光景だ、きっと貴方も奥方もそうだったのでしょう」
 ベネディクトが静かに言った。
「おじいさん」
 最後に蛍が老人に声をかける。
「貴方の求めた『春』はきっと、今日ボク達が感じた喜びそのままの、体も心も暖かく包んでくれる幸せの春だったんですね――――」

成否

成功

状態異常

なし

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