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シナリオ詳細

ワルセザ沼の熊

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ワルセザ沼の熊
「古くより、この沼にかかる霧は生きておると言われております」
 小柄な老婆は杖をつき、板張りの床を歩いて行く。
 椅子に腰掛ければ、太ったネコがその膝に飛び乗った。
「いたずらに獣を狩る者。木々や草を焼いて居座る者。
 そんな連中たちが霧に呑まれて町外れで見つかるなんてことは、よくある話でございました」
 ネコを撫でてやれば、ぶなあと鳴いてしっぽを揺らす。
 老婆はその様子を眺めながら、椅子の手すりを握った。
「そういうとき、決まって連中の死体を運んでくるのが……霧沼熊(ワルセザ・ベアー)でした」

 干し肉や羽根飾りを売る老人が、麦わら帽子のつばをあげた。
「ワルセザ・ベアーはいい素材さ。捨てるところがねえ。
 肉は硬いが保存が利くし、毛皮は水を弾いて暖かい。骨は粉にすれば薬になるし、胆嚢は言わずもがなさ」
 からからといくつもの風鈴が鳴る。
 風車が回り、老人はなにかを思い出すように上向いた。
「けど手を出そうって奴は少ねえな。
 熊狩りのつもりで沼に入って、死体になって帰ってきた奴なんざいくつも見てきた。
 アンタ、そのつもりなら帰った方がいい。狩人一人猟銃一本でどうにかなる動物じゃあない」

 馬車の手入れをする商人が振り返る。
「ワルセザ・ベアーを見たい?
 結構。賃金さえ頂ければ沼までお連れしますよ。
 奴は不思議な動物なんです。白い毛皮の上に濃い霧を纏っていてね。
 それをまるで衣のように纏って歩くのさ。
 狩りをする姿なんて見物ですよ。手を翳せば霧が爪のように鋭く固まって、魚をひとつきにするんだ」
 楽しそうに笑って、馬にブラシをかけていく。
 その手がぴたりと止まった。
「……えっ、倒そうっていうんですか?
 いやあ……その装備と人数では、ちょっとやめたほうがいいね。
 大怪我をして逃げ帰るのがいいとこさ」

●霧沼熊狩り
「ここまで来て貰ったのは、依頼書にもあるとおりワルセザ・ベアー狩りのためなのです。
 ワルセザ・ベアーの素材はとてもよい取引がされるので、仕入れのために商人ギルドから依頼が出されたのです」
 ハンバーグをもっふもっふと食べる『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。
 鉄板の端でじゅうじゅういっているフライドポテトにフォークを立てると、目をきらりとさせた。
「狩猟数の下限は3。
 けど沼は沢山木が生えていて、濃い霧がかかっているのです。
 しかもワルセザ・ベアーは集団で移動する人間たちを警戒するので、
 多くても4……できれば2人くらいの規模で別々に動いておきたいところ、らしいのです」
 動物知識のあるひとからの受け売りなのです、といってユリーカはポテトを頬張った。
「ワルセザ・ベアーはとっても大柄なので、一体狩ったら戻ってくる必要があると思うのです。
 重い荷物を抱えたままうろうろするのはとっても危険だってガイドの人が言ってたのです。沼の主が現われるっていうのです」
 どんなのかは知らないのです。ぬしといったらぬしなのです。
 ユリーカはそんな風に語って、しゅわしゅわコーラをぐびっとやった。
「けふー。あっ、これは依頼主さんからのお気持ちなのです。ご飯を食べていってください、なのです!」
 コインをぺいーんとテーブルに置くと、ユリーカは高めの椅子から飛び降りるようにして立った。
「それでは、あとはよろしくお願いするのです!」

GMコメント

 いらっしゃいませ、イレギュラーズの皆様。
 こちらは鉄板焼きの店『ワルセザプレート』。
 ワルセザ村で(唯一にして)一番の焼き肉店でございます。
 ハンバーグにステーキ、チャーハンといったメニューもございます。
 まずはご注文をどうぞ?

【依頼内容】
 依頼は狩猟代行。
 『ワルセザ・ベアー3体以上を狩ること』です。
 倒したらそれを抱えて一度沼の外まで運び出す手間があるので、その分も含めて作戦を立てましょう。

【ワルセザ沼】
 生きた霧のかかる沼、と言われています。
 実際どう生きているのかは分かりませんし、入ってみた感じでは普通に霧が濃いだけの沼に見えます。
 背が高い木が沢山生えており、草や苔もたくさんあります。もし草花と疎通できたなら、ちょっぴり排他的な雰囲気が感じられることでしょう。
 また濃い霧がかかっています。具体的には視程100m程度です。

 沼地であるため、所々で10センチ弱の浅い水がはっており、水草が生息しています。
 深いところでは水深2m強ありますが、水が澄んでいるため目視で区別がつくでしょう。
 通常では移動に『機動力-1』の影響を受けます。

【ワルセザ・ベアー】
 沼地に生息する熊です。
 立ち上がった際の大きさは2~3mと大きく、白い毛皮に分厚い霧を纏って歩くと言われています。
 沢山の人間を見ると警戒して逃げてしまうため、探索時は4~2人までのチームに分けると効率がよいでしょう。

 HP、回避、防御技術が高く、その一方でAPやEXAが低いとされています。
 使用スキルは以下の通り
・熊格闘(物近単APゼロ):熊の体躯を活かした格闘です。
・霧の爪(神近単【流血】):霧を爪のように鋭く固めて切りかかります
・霧沈め(神中範【窒息】【暗闇】):凝縮した霧で相手を覆います。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • ワルセザ沼の熊完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年03月29日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
エスタ=リーナ(p3p000705)
銀河烈風
幽邏(p3p001188)
揺蕩う魂
ミア・レイフィールド(p3p001321)
しまっちゃう猫ちゃん
陰陽 の 朱鷺(p3p001808)
ずれた感性
Λουκᾶς(p3p004591)
おうさま
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
ルチア=ウェンデル(p3p004943)
鋼鉄の冒険者

リプレイ

●ワルセザ沼の霧は生きているという
 真っ白な森であった。
 どこか非現実的な霧は肌に張り付くかのようにどこかべったりと森に満ち、遠い木々を隠していく。
 息を吸えば当たり前のように水っぽくて、少しだけ息苦しい。
 対して木や草はえらく元気が良くて、不気味なほどくっきりと澄んだ沼の先に水草が並んでいた。
 そんな中を、陰陽 の 朱鷺(p3p001808)が注意深く進んでいく。
 後ろにはトカゲのような頭をした人型の式神が追従していた。形の理由を問うと『沼地ですしリザードマンにしました』と語った。
「熊退治ですか。まぁなんでもいいんですけどね。熊鍋は美味しいらしいですし。……って、私達は食べれないのでしたっけ?」
「…………」
 頭上をやんわりと飛行していた『揺蕩う魂』幽邏(p3p001188)が視線だけよこすが、何も応えずに周囲の警戒に戻ってしまった。ネコのような反応である。
 二人の前を歩いていたのは『銀河烈風』エスタ=リーナ(p3p000705)と『くわがた』ルチア=ウェンデル(p3p004943)だ。
「熊を倒すという、シチュエーション!」
 胸の前に掲げた右手をぎゅっと握り拳にするエスタ。
「最強を目指す者として燃えないハズがない。乙女に生まれたからには一生に一度は最強を夢見るものだ、な……」
「え……」
 乙女の常識として語られたからか、熊殺しに共感したのか、いまいち判別できない顔でルチアが振り返った。
 エスタは目をキラキラさせて反応を待っている。ルチアは暫く考えた後……。
「地面に埋めれないのが残念だ」
「埋め……」
「いや、趣味でな……」
 いい男の上半身を無理矢理埋めるのが好きなのだ、と軽く身振り手振りで説明しはじめるルチアである。
 エスタは理解の難しい目をしていたが、その二人を見ていた幽邏や朱鷺たちも似たような目をしていた。
 ウォーカー慣れしていても特殊趣味(性癖?)には慣れないものなのだろうか。

 さて、今回の作戦は4人1組の2チーム制でワルセザベアーを狩る作戦だ。
 これで行ったり来たりを繰り返すと途中でバテる危険もあるということで、持ち帰りメンバーを少数に絞って残るメンバーで合流。即時狩りを再開するパターンをとることにした。
 そんなわけでこちらは別チーム。
「困っている人を助けるのも王様の仕事ですから」
 そう言って、『おうさま』Λουκᾶς(p3p004591)は巨大な車輪を武器にして意気揚々と沼を歩いていた。(以下、名前の読みである『ルカ』と表記する)
「美味しいハンバーグも頂いた事ですし」
「はんばーぐ」
 『しまっちゃう猫ちゃん』ミア・レイフィールド(p3p001321)がふと虚空を見上げた。
「熊のお肉も……持って帰りたい……にゃ」
 ルカとミアは同時に唇をぬぐった。
「はー」
 上がってるのか下がってるのかどちらともつかないトーンで声をあげる『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)。
「熊の被害って凄い多いからねー、変なもん沼に彷徨ってなければいいんだけどねー」
「変なもの……」
 方位磁石を見ながらメモをつけていた『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)がはたと顔をあげた。
 ぶんぶんと首を振る。
「これも自然の摂理、なのかしらね。人とて自然の一部なのだわ」
「そうだねー。明日の熊は明日の種籾みたいなもんだよねー」
「たねもみ……」
 噛み合っているのかいないのか。
 暫く進んだ瑞稀たちは、ふと遠くに動く影を見つけた。
「待って、何か近づいてくるわ!」

●霧沼熊(ワルセザ・ベアー)――サイドA
 そのシルエットが熊であることは、場にいる誰もが理解できた。
 2mを超える身長。どっしりとした体格。ほ乳類らしい頭。臭いを確かめるように鼻先を上向け、そしてこちらにしっかりと視線を合わせたのが分かった。
 向こうから出てきてくれるとはむしろ好都合。
 瑞稀はマジックガントレット越しに魔力を充填。
 思い切り投擲するかのように魔力の塊を投げつけた。
 攻撃を腕で防御し、二足歩行から四足走行へと移行するワルセザベアー。突っ込んでくるのを悟ったルカは車輪を盾のように翳して身構えた。
「では、誠心誠意エスコートさせて頂きますよ」
 彼の後ろでバリスタを構えるミア。
「えへへ。王様……エスコート、よろしく、なの♪」
 ワルセザベアーの重い初撃。まずは体躯を活かした突進である。それを正面から受け止めたルカは大きく押し込まれたが、木の幹にぶつかることで止まった。
 リンネは『よっ』と杖を降ってベルを鳴らすと、ルカから痛みや苦しみを取り去っていく。
 陣形の中央に入るように立ち位置をとると、ミアと瑞稀にアイコンタクトをとった。カウンターヒールの合図である。
 上半身を持ち上げるワルセザベアー。
 ワルセザベアーを覆っていた分厚い霧が、ベッドのシーツを引きはがすかのように外れ、リンネたちへと覆い被さっていった。
 来ると思ったよ、とばかりに杖で霧を引っかき回すリンネ。
 ベルの音が激しく鳴り響き、リンネを中心とした仲間たちからも霧を払っていく。
 ここぞとばかりに車輪を回してワルセザベアーの腹を切り始めるルカ。
 側面へ回った瑞稀がワルセザベアーの脇腹へ魔力を込めたパンチを打ち込めば、しっかりと距離をとっていたミアが狙い澄ましたように魔術弾を発射した。
 矢がワルセザベアーを貫通し、動きを鈍らせる。
 痛みか苦しみか、それとも強い抵抗の意志か。ワルセザベアーは激しい咆哮をあげてルカを殴り飛ばした。霧がぎゅっと凝縮され爪と化したその一撃は、ルカを背後の樹幹ごと吹き飛ばすに充分だった。
 大きく吹き飛ばされ、沼をバウンドして転がるルカ。
 しかし起き上がったルカには泥のひとつもついていない。どころか最初の表情を保ったまま、再びワルセザベアーへと車輪を翳したタックルを仕掛けにいった。
「ルカさん、そのまま押さえていて!」
 一度魔術掌底でワルセザベアーを転倒させた瑞稀は、のしかかってホールドしにかかるルカと入れ替わるように飛び退いた。
 バリスタのターゲット針と目標を重ね、しっかりと狙いをつけるミア。
「回復は?」
「いらない、にゃ」
 次で決める。ミアの確信にも似たまなざしに、リンネは杖を逆回しにした。
 振り回されたベルが鳴り響き、魔力が渦を巻いてワルセザベアーへ襲いかかった。
 そのなかを抜くように、トリガーをひくミア。
 綺麗に脳天を抜けた矢。
 ワルセザベアーはほんの僅かにルカに掴みかかった後、ぐったりと前進から力を抜いた。
 覆っていた霧もふわっと散り、そこには巨大な熊の死体がのこるだけとなった。

「解体、できたら……持ち帰りやすいと、おもうの」
 魔法のバッグを呼び出して、口を開いてみせるミア。
 両手を入れてもまだちょっぴり余裕のある口だが、流石に熊は入りそうにない。2m超えということもあって、頭からしてつかえそうだ。
「解体ですか? 構いませんよ。皆さんに頼られるのも王様ですから」
 そう言ってルカがワルセザベアーの腕を持ち上げたり首の付け根を観察したりしてみたところ……。
「けど、そこまで小さくするのは難しそうです」
 ということになった。
 熊をその場で解体できるだけの専門知識や技術、加えて適切な道具類が欲しいところだ。ミアの鞄の中(?)をどろどろの生臭空間にせずに済んだと考えると、それはそれで良かったような気もした。
 ミアは残念そうに鞄を閉じて、代わりにと瑞稀とリンネに視線をなげかけた。
「これだけデカいと一人じゃ大変だよね。わかった、二人で行こっか」
 リンネは杖を背中にくくりつけると、息絶えたワルセザベアーの片方を持ち上げた。
「メモの出番ね。任せて」
 もう片方を担ぎ上げて、瑞稀は手帳を開いた。
 まるで酔いつぶれた人を運ぶかのように、リンネと瑞稀は来た道をできるだけ正確に戻っていく。

●霧沼熊(ワルセザ・ベアー)――サイドB
 一方、霧の中を進む幽邏たち。
「とまって」
 幽邏の声に、仲間たちはすぐさま戦闘の構えをとった。
 霧の向こうからどすどすと音がする。それはばしゃばしゃという音に混じりはじめ、ほどなくして黒く大きなシルエットとなって現われた。
 ワルセザベアーだ――と皆が感じたその瞬間には、幽邏は既に撃っていた。
 無骨なライフルの引き金を正確にひき、正確に撃鉄が雷管を叩き、正確な炸裂と正確な衝撃によって弾頭が押し出され長い筒の中に刻まれた螺旋状の筋をなぞるように回転。銃口から飛び出し、霧という霧を穿ってワルセザベアーの肩へと命中させた。
 さすがの腕前と言ったところだろうか。見事なクリーンヒットである。
 常人ならそれでくたばってもいいくらいだが、相手はワルセザベアー。勢いをまるで殺すこと無くそのまま突っ込んできた。
 朱鷺は式神を下げ、呪符を取り出し呪術攻撃を開始した。
 前衛を頼みますという呼びかけに、エスタとルチアがそれぞれ身を乗り出していく。
「行くぞ、合体技だ――!」
「え……」
 エスタが急に知らないことを言い出したが、なんとなくやりたいことを察したルチアは膝に手を突いて右肩を開くように構えた。その背中と肩をジャンプ台代わりにして跳躍するエスタ。
「流星爆裂脚(リーナたんキック)!」
 正面から飛び込むエスタ。
 一旦パワー勝負になったかに見えたが、すぐさまエスタは足を掴んで放り投げられてしまった。
 なんてパワーだ。そう呟くエスタをよそに、ルチアが真正面から組み付きにいった。
 同じように投げ飛ばそうとするワルセザベアーと肩をぶつけあい、がっちりとうごかなくなる。力の勝負が拮抗しているのだ。
 元々頑丈なルチアである。頑張ればワルセザベアーの恐ろしい打撃を何発も耐えることができるだろう。
 その狙いを察した朱鷺がライトヒールによるルチアの回復にシフト。
 一方で幽邏は再び適切な射程をとりなおし、リロード。額を狙って弾を撃ち込む。
 今度はギリギリで頭を動かされ、弾は側頭部を掠めていった。
 周囲の霧がぎゅっと凝縮され、ワルセザベアーの爪へと変わる。
「ルチア、次も合体技だ!」
「え……」
 またまたエスタが知らないことを言い出したが、今度はすぐに意図が分かった。
 肩をぶつけて組み合わさったルチアに加わるように、自らもワルセザベアーに組み付いたのだ。
 瞬間的に体勢を変え、二人の力でワルセザベアーを持ち上げる。
 ダブルブレーンバスターと呼んで伝わるだろうか。要するに二人がかりでガッを上げてドンである。
 足場が沼地とはいえ全体重にプラスして叩き込まれた衝撃に、ワルセザベアーは流石に意識を失った。

「ドラゴンクローの出番だな……」
「手伝いましょう」
 (念のためトドメをさした)ワルセザベアーは、ルチアと朱鷺で協力して運ぶことにした。
 頑張れば一人でも運べるくらいルチアは力持ちだったが、一人で運んでいる所でワルセザベアーに出くわしたらと考えるとなかなか恐い。
 朱鷺は式神に運搬を手伝わせつつ、周囲の警戒や護衛をすることにした。
 『次はどうする』と視線でうったえてくる幽邏。
 エスタは胸を張って、ぴったり西南の方角を指さした。
「まずは残った仲間と合流するのだ!」
 後の証言を照らし合わせてみると、このとき別の仲間たちは南東の方角にいたらしい。

●ワルセザ沼の帰り道
「ヤな予感がする」
 ワルセザベアーの死体を運びながら、リンネがげっそりとした顔で呟いた。
 隣で抱えていた瑞稀が首を傾げる。
「仲間の回復は忘れずに済ませたわよ?」
「そうなんだけど」
 その時である。
 ぞくりという感覚で、二人は同時に足を止めた。
 『蛇ににらまれたような』という表現があるが、これはその比ではない。
 遠くから熊の威嚇する声がして、周囲の霧が奇妙に重くなっていくのを感じるのだ。
 事前の情報では二人がかりでもなんとかなりそうな話だったが、死体を抱えたままではつらかろう。
 ここで倒してしまっても、二人でワルセザベアー二体を運んで沼を出るのはキツそうだ。もっと言えば、片方の味方が倒れたら熊どころではなくなってしまう。
「逃げよっか?」
「賛成だわ!」
 二人は力を振り絞り、2m超えの熊の死体を抱えたまま、沼地に足を取られながら全力疾走することにした。
 結果として、命からがら逃げ切ることができたのだが、それは瑞稀がしっかり来た道をメモしたり棒をさして目印にしたりとルートの工夫をしていたのと、いざとなったらパンドラを割ってでも成し遂げようとする強い意志があったからである。

 さて、リンネたちがワルセザベアーから逃げ出したように、ルチアたちもまたワルセザベアーに追われていた。
「たいしたことはできんと思っていたが……」
 ルチアは御神輿でも担ぐように熊の背骨の上部分を担ぎ、両足を朱鷺の式神に支えさせていた。
 その状態での、思い切った全力疾走である。
「腕力は全てを解決するな……」
「それはどうかわかりませんが」
 朱鷺は横を走りながら振り返る。沼を激しく散らしながらワルセザベアーが猛突進を仕掛けてくるのだ。
 まっすぐ走ればそのうち沼から出ることができそうだが、木々が邪魔をして完全な直進移動がしにくくなっていた。霧に閉ざされたせいでどこまで走れば沼から出られるのか検討もつかない。
 朱鷺はザッとその場で反転すると、呪符を取り出した。
 先に行けというのだろうか。確かにここで全面的な戦いになったら大きな成果を失いかねない。とても効率のよい、そして立派な犠牲の選びかたであった。
 ルチアは死ぬなよと告げると、走る足に力を込めた。
 この後、ルチアはなんとかワルセザベアーを担いだまま沼を抜け、朱鷺はその暫く後から沼の外で見つかった。意識を失ってはいたが命に別状は無かったという。

 さて、さて、二つの成果をえることのできたイレギュラーズたち。
 彼らは三つ目の成果を得ることができるのだろうか。
 その分かれ目に――ルカとミアは立っていた。
「――っ!」
 霧を凝縮させた爪を振り回すワルセザベアー。
 対抗するように車輪をうちつけるルカ。
 距離をとってバリスタでの射撃を繰り返すミアの肩からは、べったりとした血が流れていた。
 カンテラを開いてホラ貝吹き鳴らし、仲間との合流をはかろうとしていた二人。
 暫くしてからなーんだか嫌な支線を感じるなと思っていたら、音で様子を見に来ていたワルセザベアーが勢いよく襲いかかってきたのだ。
 仲間の到着まで持ちこたえられるかどうか。それが運命の分かれ道だ。
 噂の通りワルセザベアーに抱えられて外に出るか、逆に抱えて外に出るかの、である。
 ルカを掴み上げ、ぐるんぐるんと振り回し始めるワルセザベアー。なんとか頑張っていたルカもそろそろ限界だ。薄目をあけて意識を保とうとしている。
 そんなルカを近くの木へと思い切り叩き付けようとした、その時――キュンという音と共にワルセザベアーの腕から血が噴き出した。
 腕から離れ、地面を転がるルカ(余談だがこの期に及んでまるで汚れていない)。
 ふと見上げると、木枝を足場にした幽邏がライフルの狙いをつけていた。第二射。ワルセザベアーの足を抜けていく。
「……にゃ」
 幽邏の視線から全てを察したミアはワルセザベアーの膝めがけてハイロングピアサーを発射。
 見事に膝を抜けていく矢。僅かにバランスを崩すワルセザベアー。
 そこへ、両手を胸で揃えたエスタがドリル回転しながら突っ込んできた。どこからって、上からである。
 ずどんという音と共にワルセザベアーの顔面に両足がめり込み、その勢いで後頭部から沼に埋まるワルセザベアー。
 一方でバランスを崩して沼に転落するエスタ。
「な……しまった!」
 顔を上げ。
「技名を言い忘れた!」
「それは、もういいの」
 バリスタをおろし、ミアは深く深く息をついた。

 かくして、イレギュラーズたちは結構な怪我を負いながらも目標となるワルセザベアー3体の狩りに成功したのだった。
 偉大なるは力なり。目的を達して沼から生還した彼らに、付近の村人も驚いた様子だ。
 一旦近くの業者に熊の解体を任せ、まずは休息をとることにした。
 熊は余すところなく使われ、人々にとってなんらかの糧となるだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

陰陽 の 朱鷺(p3p001808)[重傷]
ずれた感性

あとがき

 Walza bare――mission complete!
 ――congratulation!

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