シナリオ詳細
<バーティング・サインポスト>蒼い岬
オープニング
●
――カリッ
『撮影者』の目線が捉えた映像が録画され、真珠の鏡に映し出されていた。いま、流れているシーンは終盤で、遠ざかる船の上で勝ち誇ったように手を振る少年の姿が映し出されている。
音はない。
それは、ほんの少し前の出来事。トリダクナの大切なペット――『狂王種(ブルータイラント)』のフライングエイがイレギュラーズどもに爆破され、散り散りになって海底に沈められるという痛ましい事件だ。
鏡を見るトリダクナの瞳の奥には、深い海すらも干上がらせてしまうような、激しい怒りが燃え上がっていた。
――カリッ
トリダクナは右の親指のツメを噛んだ。噛む音が響くほど強く、何度も、何度も。
「誰かが、この不様な失敗に終わった作戦の責任をとらなくてはならないわ」
チョウチンアンコウの執事が首をすくめる。蒼い影の中に逃げ込む前に、射すくめられ、固まった。
●
発動された『海洋王国大号令』の名の下に、ネオフロンティア海洋王国の活動は活発化していた。
近海にて海賊連合を下し、ゼシュテル鉄帝国の干渉をローレットと共に跳ね除けた王国は遂に外海『絶望の青』へと漕ぎ出しのだ。
しかしながら、絶望の青は幾多の勇者を殺し船を沈めた海洋の墓所である。
局地嵐(サプライズ)、狂王種(ブルータイラント)、幽霊船に海賊ドレイク、そして魔種。恐れるべきは多く一筋縄ではいかない。
「絶望の青に乗り込んだ船乗りの中に、奇妙な病状がでていることは知っているな?」
『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)は低く切り出した。
テーブルを囲うイレギュラーズたちが、無言で頷く。
奇妙な病状、それは……絶望の青の支配者・冠位嫉妬アルバニアの権能、即ち廃滅病と呼ばれる呪いであった。
海洋の船乗りたちより寧ろ、海洋王国に助太刀するイレギュラーズたちがこの病にかかり、苦しんでいる。肉体的なことよりも、精神的なことで。
死の呪いは恋人たちに悲劇をもたらし、愛し合うが故の生き別れを生み出していた。
友や知人の中に別れたものがいるのか、数名が顔を陰らせ、視線を下げた。
「そんなシケた顔をするな。要は魔種アルバニアを倒し、絶望の青を制覇すればいいだけの話だ」
確かにそれですべてうまくいくだろうが、口で言うほど簡単な話ではない。
暗く沈んだ雰囲気に構わず、クルールは話を続ける。
「耳の早いものはもう聞き及んでいると思うが、絶望の青を制覇する足がかりとなる大きな島が発見された」
王国はその島を『アクエリア』と仮称するが……。
「そこには魔種や魔物がうじゃうじゃいて、お前たちを返り討ちにしてやろうと手ぐすね引いて待っている。だけどな」
悪意の蠢くその島を制圧する事こそ、この先に希望を繋ぐための必須条件!
「お前たちにやってもらうのは、島の南西部に突き出た岬の完全制圧だ」
いずれはその岬に灯台を建てるのだと、クルールは言う。
「その岬には、海イグアナの魔物がうじゃうじゃいるらしい。おまけに海に、頭から提灯を下げた元海種の魔種がいて、海イグアナどもを統率している。こいつらを全部倒してくれ」
クルールは海図を丸めながら、「一つ、言っておくことがある」といった。
「この島にいる魔物、および魔種はもれなく廃滅病のキャリアだ。こんなことは言いたくはないが……万が一の覚悟をきめて行ってくれ。じゃあな、またここで会おうぜ」
無事に帰って来たなら、一杯と言わず倒れるまで驕ってやるよ、と情報屋は眼鏡の奥の瞳を潤ませた。
- <バーティング・サインポスト>蒼い岬完了
- GM名そうすけ
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年03月20日 23時00分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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鈍く重い音とともに海が白く起立した。
「取り舵一杯!」
水の壁にぶつかる寸前で鮮やかに舵を切る。
マストよりも高く上がった水柱の横を縫うように、『猫さんと宝探し』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)が繰る海賊船ツナ缶号は、右へ急回した。
(「あぶない、あぶない。やっかいな海イグアナたち……いや魔種だね」)
アクセルは『オトモダチ』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)とともに、アクエリア上陸まで、海洋国の外洋船に援護射撃を頼んでいた。
「砲撃隊諸君、諸君らの友にも廃滅病により余命幾ばくもない者がいるだろう。その者たちのため、全力で支援を頼む」、と言ったシャルロットの檄に応えてくれているのはいいのだが……。
桐神 きり(p3p007718)や『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)が、上空から魔物たちを挑発して船から引き離す一方、外洋船が砲弾して残りを散らす。
倒せないまでも、敵を分散させ、安全にかつ速やかに岬を目指せるはずだった。
それが……。
こちらの目論見を逆手に取られ、魔種にしてやられている。
提灯あんこうが海イグアナたちを巧みに動かし、行く先に外洋船の砲撃があたるようツナ缶号を誘導しているのだ。
海に突き出た岬はすぐそこに見えている。なのに近づけない。
「アクエリア攻略が絶望の青の攻略につながって、それが廃滅病の治療にもつながる……だから、橋頭保を作るためにオイラたちはオイラたちのできることをしよう!」
前方で盛り上がった波の頭に海イグアナを発見し、アクセルは舵を切った。
きりは息を吐き、言葉にならない唸りをあげた。
波をかぶるまで海面に近づき、虹の尾を引く流星の突きを敵影に叩き込むのだが、それで釣れる海イグアナはたかが一匹。
せっかく釣った海イグアナを、確実にダメージを積んでいるとはいえ、こうも度々、水柱のハサミで怒りの糸を切られてはやっていられない。
波の合間に魔物の腕や足を探すが、ひとつも見当たらない。せめて血の一筋でも、この魔の海の上に引かれていたのなら、外洋船から放たれた今の一撃が、海イグアナにダメージを与えたと思えるのに。
『暁天の唄』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)も船からの攻撃してくれているのだが、当てる前に逃げられてしまっている。
「今度釣れたら、ツナ缶号とは逆に飛んだほうがよさそうですね」
そのほうが自分たちもツナ缶号も、結果として早く岬にたどりつけそうだ。
つらつら考えていると、冷たい手で足首を掴まれた。
海中に引っ張り込もうとしている海イグアナの顔面に、流星の拳を叩き入れる。
恐竜のような顔にぽつりと開いた鼻孔から、怒ったように海水が吹きあがった。
「これを連れて、一悟さんのところへ行きましょう」
きりは顔をあげて一悟を探した。
目の端で炎が赤く閃く。
どん、と鈍い音が鼓膜を打った直後に、また水柱が立った。
「ぶあっ!」
一悟の頭や肩を水礫が強かに打つ。
真下から立ちあがってくる水柱の直撃を避けることはできても、全方向に降り注ぐ海水は避けられない。
舌打ちをくれて、額に張りつく濡れた前髪をかきあげた。
「――くしょう! 海イグアナどもはどこいった?」
足元に目を落とす。
いた。
いまの一撃は幸いにも浅いところで爆発したようだ。衝撃は海面近くで止まり、海中にいる魔物たちの怒りを散らすには至らなかったらしい。
ただ、ツナ缶号はいまの爆発で起こった波を避けるため、また回頭していた。ぐるりと船体を回して、いま舳先は外洋を向いている。
「同じ所をぐるぐる、ぐるぐる……。このままじゃ、沈められちまうぜ」
ツナ缶号が受けた、これから受けるダメージが心配だ。上陸までの時間が長くなれば長くなるほど、沈没の危険が高まる。
自分が引きつけているのは三匹、きりは一匹。海イグアナは、まだ他に八匹もいる。岬の根元にあるという巣に、一匹もいない前提だが。
それに加えて魔種がいる。
『乗りかかった異邦人』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)と『協調の白薔薇』ラクリマ・イース(p3p004247)が、海中で船に近づく海イグアナと戦っているが、すべてブロックするのは不可能だ。
船上からも『ゆるふわ薔薇乙女』ポムグラニット(p3p007218)とリウィルディア、シャルロットの三人が必死に応戦しているが、やはり船に直接ダメージが入るのを防ぎ切れていない。
「一悟さん!」
きりが海面に白浪を立てて飛んできた。海イグアナを一匹連れている。
「魔種たちがツナ缶号を追いかけて外洋へ向かっているいまのうちに、私たちは岬へ」
とにかく船にたかる海イグアナの数を減らすことが先決だ。
アクセルの腕があれば、連中の追撃をかわして岬へ船を着かせられるだろう。なにより、仲間たちがついている。
「わかった。こいつらだけでもとっとと陸に上げて、倒しちまおう」
●
ラクリマは、暗い海底から浮上して来た海イグアナにむけて腕を振るった。
指のリングにはめ込まれた天青石が光り、告死天使の蒼ざめた翼が白い泡を残しながら海中を切り進む。
(「続けて右斜めにもう一撃」)
初撃をかわされることは端から計算済みだ。つづく第二波を確実に当てるため、わざと避けやすいように撃ったのだ。
狙い通り、蒼ざめた翼の刃が海イグアナの左頬をとらえた。そのまま肩口をかすめて海底へ消えていく。
激痛にのたくる海イグアナから血が噴出し、濁った海水に視界が奪われた。
血の濁りをさけようとして横へ泳ぐ。
瞬間、ラクリマは背中に殺意を感じた。
とっさに体を捻ったが、海イグアナの鋭い爪がラクリマの背中を抉り、三本傷をつけた。さっき切った個体とはべつの魔物だ。
痛みを無視して海イグアナから距離をとる。血の濁りから抜け出たところで、立ち泳ぎに切り替えた。
(「俺とレーゲンで三匹ずつ。一匹は俺が傷つけ血を流し、もう一匹は俺を傷つけ逃げた。じゃあ、あと一匹はどこだ?」)
守るべきツナ缶号の船底を視野の隅で捉えつつ、三匹目の海イグアナを探す。
水中を進む物体には、空気抵抗とは比較にならない圧力がかかり不自然に水が動く。白薔薇の花弁が不自然に揺れて、敵の接近を知らせてくれた。
不敵に微笑みながら瞳を返す。
「白薔薇が鮮血に赤く染まる時、それは貴様の死が確定したということ」
水晶のタクトを掲げ、海中差し込む光を受けた。
「忌まわしき鼓動の旋律に終止符を」
タクトを振り下ろす。
蒼い刃が、間近にまで迫っていた海イグアナを、真っ二つに切り裂いた。
水中でもっとも抵抗がない姿勢。
グリュックはレーゲンの体を両手でしっかりつかまえ、体から力を抜いて流されるままにしている。
「そのまましっかりレーさんに捕まっているきゅよ!」
レーゲンはツナ缶号に急ぎ戻るため、水平な尾ビレを上下に動かしながら、波のない平水中を高速で泳ぐ。
うかつだった。
すべては魔種の企み。提灯アンコウは、けしかけた三匹の海イグアナへ程ほどにダメージを与えさせることで、レーゲンを夢中にさせて船から遠く引き離したのだ。
(「アンドレイ・ベルベッティ。ブサメンだけど、なかなかの切れ者きゅね」)
おかしいと気づいたのは、トドメがさせそうになると必ずやつが浮かんできて、海イグアナたちを適度に回復してはまた海底へ沈んでいく、が三度繰り返されたときだった。
手下を完全に回復させないで、レーゲンの狩猟欲をあおり続けたところがミソだ。あともう一回、あともう少し、と逃げる海イグアナたちを追い続けているうちに孤立していた。
前方に小さな船底が見えてきた。
ときおり、船の周りが砂色に泡だって渦巻くのは、ポムグラニットが使役する熱砂の精の仕業か。
泡が引くと、海水に溶けたリウィルディアの、影を揺らすような暗い歌声が微かに聞えた。
二匹の海イグアナが、ツナ缶号の真下から水中ミサイルのごとく急浮上し、ダイレクトアタックをしかけている。
船の上からは完全な死角になっており、船上からの攻撃がなかなか当たらない。
ポムグラニットやリウィルディアの範囲攻撃は正解だろう。
それでも、海イグアナの鋭い歯や爪で船底を割られかけていた。アクセルが巧みに舵を切り直撃をかわしてはいるが、穴が開くのは時間の問題か。
少し離れたところでは、ラクリマが二匹の海イグアナを同時に相手どっている。見る限り、船を助けに行く余裕はなさそうだ。
「いまレーさんが助けに行くっきゅよ!」
水を蹴る尾ヒレに力を込める。
グリュックが片手を離し、素早く背を叩いた。
振り返る。
三匹の海イグアナが、胴体と長い尾を左右にくねらせ、レーゲンたちを猛追してきていた。尖った歯を剥きだしにして、グリュックの足や尾に咬みつこうとしている。
「追いつかれたきゅ」
二人を囲んだ三匹から、レーゲンがつけたはずの傷が綺麗に消えていた。
提灯アンコウの光は近くに見えないが、やつが海イグアナたちを完全回復させたのは間違いない。
●
「つかまって!」
水礫が甲板を高い音で打ち据え、波が船体を横倒しにしようとする。すでに馴染みになった、船が水柱に翻弄される感覚が足の下を突き上げる。
アクセルは斜めになった床にしっかりと足を踏ん張って耐えた。舵を手放すわけにはいかない。
船が安定を取り戻すと、すぐに声を張って報告を求めた。
「うまくいった?」
「どんぴしゃ。海イグアナが二匹、海面に浮かんだよ! すぐ船を回して」
リウィルディアが操舵室のドアをリズムよく叩きながら大声で報告する。そのすぐあとに、弾むような足音が船首の方へ向かっていくのが聞こえた。
アクセルは舵から片手を外すと、腰の横でぐっと拳を固めた。
目を上げると、ご機嫌で空中回転を決めるシャルロットが見えた。
「よし、反撃開始だ」
魔種の作戦を奪って、今度はイレギュラーズが仕掛けていた。
アクセルがシャルロットのいる真下を目指して船を走らせ、砲弾が着水するギリギリに急回頭、ツナ缶号の真下から攻撃をしかけてくる海イグアナたちを爆発に巻き込んだのだ。
リウィルディアは白い霞のようなオーラを撚り、編んで、網を作りあげた。
「イレギュラーズになっていろんなことがあったけど、海イグアナ漁は初めてだよ」
慌てて海中の深いところへ逃れようとしている魔物に、ナッシングネスの網をうって船に引き寄せる。
白く光る網のなかでもがく海イグアナは、まさに手負いの怪物だ。爪でアミを引きちぎり、尖った歯を剥きだしにして、船の縁にいるポムグラニットに襲い掛かった。
「こわくなんて ないわ。 おともだちを たすけるため だもの」
その身に咲かせた薔薇の花弁を黒くして、ポムグラニットは敵意を銛のように尖らせると、海イグアナの口に投げ込んだ。
串刺しにされ、魔物はゆっくりと海に沈んでいった。流れ出た血が海面をゆらゆらと漂い、流れていく。
シャルロットはツナ缶号を追いかける海イグアナの鼻先に降りたつと、青火を不知火の刃に走らせた。
「統率された魔物とそれを回復させる魔種……まず何もないとは思わないわね? 教えて、あの島に――アクエリアに何があるの?」
端から答えは期待していない。魔種に使われる魔物などは下っ端にすぎず、冠位につくアルバニアが拠点とする島のほんとうの秘密を、何一つ解っていないだろう。
案の定、海イグアナは太い尻尾を使って飛び上がり、シャルロットのつま先に食らいつこうとした。
「そう、死を選ぶのね」
ならば望みどおりに。コウモリの翼を広げ、海イグアナを死の影で覆う。
瞬間、空気が重い悲鳴をあげ、冴え冴えとした刀身によって海が切り裂かれた。波が赤く沸きあがり、立つ。
再び海が凪いだ時、海イグアナは影も形も残っていなかった。
グリュックがツナ缶号の縁に手をかけて、船に上がった。全身から血を流しながらも、海に両腕を入れてレーゲンを抱き上げる。
その横で、ポムグラニットとリウィルディアがラクリマを船上に引あげた。
「アクセル!」
回復を頼むシャルロットの声を、レーゲンが遮る。
「治療なら自分でできるっきゅ」
「オレとレーゲンさんでそれぞれ一匹ずつ倒しましたが……残り四匹は提灯あんこうと一緒に深海へ逃げました。一時退却……でしょう。回復したらまた襲ってきます」
「その前に、岬へ急ぐきゅよ」
●
海イグアナが一匹、巣に向かって駆けだした。
「追え、きり! こいつらはオレがやる」
うなずいて、キリは逃げる魔物の背を追う。
前方にこんもりと、岩の山が見える。海イグアナたちの巣だ。中に逃げ込まれて、立てこもられでもしたら面倒だ。見えないところから抜け出されても困る。
「そうなってしまう前に、倒します!」
飛行速度をあげて、海イグアナに肉薄する。
きりの発する圧力が増した。
鬱憤を晴らすかのように、凶冥刃クルシェラに乗せた力を解放して振るう。
眩く燃え上がる瞳の色を乗せ、刃が乱れ飛ぶ。
怒涛の連撃は海イグアナの肉を切り裂き、骨を断った。
同じころ、一悟もごつごつとした岩の上に降りたち、トンファーを振るって残り二匹の海イグアナを倒した。
上空から一方的にダメージを与えていなかったら、二人で四匹は倒せなかっただろう。
岸に近づくツナ缶号を見つけた一悟は、両腕をあげて振った。
「おーい、こっちだ! ここに足場になる平らな岩があるぜ」
ギリギリまで船を寄せると、リウィルディアが真っ先に岩へ飛び移った。ポムグラニットに手を伸ばして、上陸をエスコートする。
ついで、グリュックが。
レーゲンはシャルロットが抱いて飛んだ。
ラクリマが飛び移ろうと縁に足をかけたとき、船に衝撃が走った。ものすごいスピードで船尾から海に引きずり込まれつつ、陸から遠ざかっていく。
ツナ缶号は渦巻く海水の中で起立し、そのままずぶりと沈んでしまった。
「ラクリマ、アクセル!」
レーゲンが海に飛び込んだ。
「届かなくなる前に、全力で攻撃するんだ!」
戻って来たきりと一悟、ポムグラニットが上空から、リウィルディアとポムグラニットが岩の上から泡立つ海に攻撃を叩き込む。
「ひゃ!?」
「わっ!?」
リウィルディアとポムグラニットが同時に悲鳴を上げた。
二匹の海イグアナが、それぞれ二人の足首を掴み、海に引きずり込む。
あっという間に二人の姿が波の下に消えた。
「一悟さんはツナ缶号を追ってください! 二人は私とシャルロットさんで助けます」
突然、波打ち際が爆ぜた。
二人は深いところへ連れ込まれないよう、まだ浅瀬で懸命に抗っている。
「早く!」
「上から何ができるか分んねえけど、行ってくるぜ」
一悟がツナ缶号の吐き出す白い泡のラインをたどっていくと、ラクリマがアクセルをつれて海面に浮上してきた。
あとを追ってきた海イグアナの上から光柱 を落として沈める。
「レーゲンは?!」
「魔種と戦っています。俺は……海イグアナの始末をお二人にお任せしても?」
「オイラたちが引き受けるよ。行って」
ラクリマが潜ると同時に、アクセルは大空へ舞い上がった。
海水を滴らせる翼でルーン文字を描く。
天かき曇ると同時に大粒の雹が降り出し、海イグアナたちごと海を凍らせる。
「いまだよ、一悟くん」
「おう!」
一悟が光柱を次々と立てて、醜い氷像を砕いた。
「今回の作戦が失敗したら、廃滅病にかかった人は間に合わないかもしれないっきゅ。そんなの嫌っきゅ」
レーゲンは三つの記念メダルをきゅっと握り込んだ。
ブレてぼやけていた提灯の灯りが次第にはっきりとしてくる。
「ぬぐぐ……なぜ私の技が効かない? すぐ目の前で術をかけているというのに」
「レーさんは旅人だけど大切な思い出ができたこの世界を人々を守りたいっきゅ! 催眠や呼び声に負けないっきゅ!」
三つの記念メダルを握るヒレを振り抜いて、回転する魔力の刃を打ち出した。
胸を切り裂かれた魔種が、驚愕のあまり目を見開く。
「レーゲンさん、加勢します」
ゆっくりと距離が開いたところへラクリマが、魔種に向けて青い衝撃波を放ち、頭から提灯を切り落とした。
「お、おのれ。描くなる上は我が身を掻っ捌き、体内の病原体を解き放ってくれ――!?」
ラクリマが急接近し、前から白い腕を回して魔種を拘束した。
「俺はすでに廃滅病の身です。何も怖くありません。アンドレイ 、貴方の苦し紛れ、封じさせていただきますよ」
「は、離せ!」
魔種は毒の棘を打ち込むが、ラクリマは力を緩めない。次第に青ざめていく顔でレーケンを振り返ると、弱々しく笑った。
「オレに構わず……やってください」
「いやっきゅ。別れはいつか必ず来るけど、こんな別れは悲しすぎるっきゅ! だから――」
レーゲンは大急ぎで魔種の背に回り込むと、回転するヒレの刃で首を切り落とした。
●
一悟たち四人が岬に戻ると、そこに仲間たちの姿はなかった。
まさか、と顔を青ざめさせる。
焦っていると、岩を切り崩す轟音が聞こえきた。振動が伝わってくる方へ顔を向ける。
「おそーい! 待っている時間が惜しかったので、先に巣を壊し始めましたよ。早くこっちに来て手伝ってくださーい」
夕日を浴びて金色に縁どられた仲間たちの影が、手を振っていた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
成功です。
島の岬に巣食っていた魔物と、それを操っていた魔種をみごと倒しました。
海イグアナたちの巣は、全員で取り壊しています。
MVPは体を張って、廃滅病を流そうとした魔種の動き封じた白薔薇の君に。
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
●成功条件
・魔種および魔物の撃破。
・海イグアナの巣の撤去
●日時
・絶望の青に浮かぶ魔の島『アクエリア』島。
・昼
※外洋船がつけられるほど岬付近の深度は深くありません。
そのため、海を泳ぐ、または小型ボートで上陸することになります。
●敵1……海イグアナの魔物/12体
海中では非常に素早く、獰猛です。
地上ではなぜか2足歩行になって、機動力が落ちます。
海中)強力な顎で肉を食いちぎり、骨を砕きます。
鋭い爪でひっかきます。
陸上)槍で攻撃してきます。
鋭い爪でひっかきます。
●敵2……アンドレイ・ベルベッティ/一体
元提灯アンコウの海種です。
【ゆ~らゆら】催眠/範囲
【毒の棘】毒/近単
【深海の言霊】HP回復/味方・全……目に見える範囲に限る。
●岬
海に500メートルほど突き出ています。
幅は太いところで50メートルほど。
平らなところはなく、ごつごつしています。
岬の根元に、海イグアナたちが巣をつくっています。
●味方NPC
イレギュラーズが望めば、外洋船から大砲の威嚇射撃をしてもらえます。
●重要な備考
<バーティング・サインポスト>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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