シナリオ詳細
灰霧のゾンダーコッツ
オープニング
●死者は語りき
『ゾンダーコッツは十七本の足と七枚の翼、七十七の目をもつ怪物である』
兵士はかつて指揮官からそのように聞いていた。
外見がまるで想像に及ばぬ。足はどのような足だ。虫や、犬や、はたまたタコのような足か。翼が七枚では非対称ではないか。目がそんなに沢山あればさぞかし痛かろう。
もし現われたならその不格好な怪物に銃弾の一つでも打ち込んで、目を痛めてもがき苦しむ間にとどめをさしてやればいい。
……などと。兵士は1分前まで思っていた。
今は1半mほど深く掘られた戦時中の塹壕に潜み、拳銃を両手で握りしめている。
喉が張り付くように渇き、逆に目を開けるのもつらいほど汗が噴き出しては流れていく。
手の甲で顎の汗をぬぐい、そっと塹壕から顔を出した。
軍靴が十七つ見えた。
黒く輝く板が七つ見えた。
灰色の霧がもくもくと辺りを覆い、そのなかに無数の眼球が浮かんでは消えていた。
直に目にしてようやく悟ったのだ。
ゾンダーコッツがただの怪物ではないことを。
ゾンダーコッツが獣と同じと侮ることが、いかなる代償をもたらすかを。
あれは呪いだ。
死を撒き、死を喰い、大地を這いずる呪いなのだ。
言葉にならない絶叫と共に銃を乱射する。その全てがゾンダーコッツをすりぬけては空の彼方へゆく。
数発も撃たぬうちにドクロのごとき呪いの塊が打ち出され。
迫り。
迫り。
我を喰った。
……以上が、『強制蹂躙呪術ゾンダーコッツ』に投入された調査兵の記録である。当人は生存していない。
●討伐を要する。即刻にして全霊による討伐を。
ピアノの上品なクラシックジャズが流れるカフェに、ワイングラスが人数分。
アルコールの有無はあれど、どれも上質で高級な葡萄畑によるものだ。
ある貴族が相応の金をかけ、そのサイクルの中にこの依頼があることが暗黙の内に知れた。
「ブラック……ブラック……憲法黒茶な気分だわ」
グラスの端を指でなぞる『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)。
「この依頼で死ぬことはないと思う。けど、大けがをおったり、痛い思いはするはずよ。だから……いやだと思ったらここで帰ってかまわないわ。それでもいい人だけ、ここに残って頂戴」
ピアノの演奏がやみ、奏者が蓋を閉じ去って行く。
ドアの閉じる音を聞いてから、プルーはやっと説明をはじめた。
「『強制蹂躙呪術ゾンダーコッツ』の再発動が観測されたわ。
幻想の西にある戦地跡でずっと昔に使用された呪術が、まだ生きていたみたい。
伝説上のデータしかないけれど、戦争中に戦線の一つを味方ごと破壊するために投入された呪術兵器だったそうよ。
膠着状態にあった戦線は跡形も無く蹂躙されて、死体すら残らなかったとか。
確実なデータがないのは、その場にいた人間の誰も生き残らなかったからよ。
幸いというべきかしらね。伝説に聞くほど絶望的じゃあないわ。経年劣化による縮小だと言われてるけど、それにしたってまだ凶悪よ」
ゾンダーコッツの性能を一言で表わすと、『必殺の呪い』である。
超広範囲にわたって発生させる呪術空間には特殊抵抗や回避の力を鈍らせる効果があり、一方でゾンダーコッツ本体は幻覚で身を覆うため乱発した攻撃では当たらないこともしばしばだ。
さらには敵を確実に破壊するための大火力呪術砲撃をそなえている。
「強いて言うなら射線を遮れる塹壕が役に立つかもしれないけれど、それだって絶対じゃないわ。キッチリとした作戦を立てて挑んで」
現地に行くための大きな箱馬車と、そのキーを翳す。
「それと……この依頼は名目上『ゾンダーコッツの撃破』になっているけれど、本来的には周辺地域の避難が完了した時点で成功扱いになるわ。私たちはそのための時間稼ぎとも言えるわね。くれぐれも……」
息を吸い、震えるように吐く。
「くれぐれも、死なないようにね」
- 灰霧のゾンダーコッツLv:3以上完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2018年03月24日 22時00分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●強制蹂躙呪術ゾンダーコッツ
あちこちで声があがり、布にくるんだ大荷物を抱え人々が大馬車へと走って行く。
ここは作戦エリア内の村だ。避難誘導や移動にかなりのコストが投入されているらしく、武装した人々が呼びかけ、馬車が埋まったそばから走り出す。
だがそんな努力をしても、避難が済むよりかのものが村へ到着するほうが早いだろう。放置すれば途方も無い人命が失われ、文化が削り取られ、善き悪きに関わらず多くの人々の苦を生むだろう。
『叡智の捕食者』ドラマ・ゲツク(p3p000172)はそんな村の端。
戦地へ向けて開かれた封鎖板の先に仲間と共に立っていた。
「強制蹂躙呪術ゾンダーコッツ、ですか。とっても、危険な鬼ごっこになりそうですね」
言葉ではそう述べたが、内心ではあの技術が戦い以外の色々なものに役立つだろうとも考えていた。
爆弾が人の四肢を吹き飛ばす以外に、山を削って鉱石をとったりトンネルをあけたりするのに役立つのと一緒だろうか。
フードの縁を指で引き、歩き出す。
同じく『泡沫の夢』シェリー(p3p000008)も、マルク・シリング(p3p001309)も、遠くからきたるおぞましいなにかを察しながらも、歩みを進めていく。
淡々と黙って歩くシェリーとはどこか対照的に、マルクは白い手袋の縁をきゅっと引き締めて言う。
「逃げ出したいくらい怖いけど、それ以上に、犠牲を出したくないんだ」
「うん。ここで終わらせなきゃね! 絶対、倒すよ! なんとしても!」
『忘却の少女』リィズ(p3p000168)は手をぎゅっと握りしめ、肩から提げていたマジックライフルを手に取った。
気持ちは『夢幻泡影』鏡・胡蝶(p3p000010)も同じなようで、『私たちが踏ん張らないと、被害もっとでちゃうし』と歩みのスピードを更に強めていく。
「気を引き締めて臨まないと、ね」
「…………」
黙して頷く『尾花栗毛』ラダ・ジグリ(p3p000271)。
彼らは早足で歩きながら、ゆっくりと横に広がっていく。
中央を歩く『甲種標的型人造精霊』歳寒松柏 マスターデコイ(p3p000603)が作戦をまとめたメモを取り出した。
「ボーイ&ガール。作戦内容は頭に叩き込んでいるな? 本件は『5分の時間稼ぎ』が最低ラインではあるが……」
「逃げるどころか、ぶっ飛ばす!」
『白銀の大狼』ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)が肩をぐるぐると回し、かついでいたバリスタの安全装置を外した。
「アタシの冒険譚の伝説に刻んでやるわ!」
「……」
『白き旅人』Lumilia=Sherwood(p3p000381)はいつもの楽器をしまい、儀式用のナイフを抜いた。剣の英雄のバラッドを歌い始める。
(旅人は割に合わない仕事を引き受けるべきではない。わかっているはずです。わかってはいたはずなのですが…あまりに危険過ぎる魔物を見過ごして、私一人が帰るなど、どうにもできそうにありません)
「ここで死ぬなど死んでも死にきれない。必ず生きて見せます」
「……そうだな」
『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)もまた、彼女を覆わんばかりの美しい金髪がくるくると動き、勇ましい気持ちを体現するかのように広がり始める。
うむと頷き、マスターデコイはメモを翳し、手を離した。
生ぬるい風にメモが飛んでいく。
風の出所は――十七本の足と七枚の翼、七十七の目をもつ怪物である。
強制蹂躙呪術ゾンダーコッツ。お互い全力で走れば額をぶつけ合える距離。戦闘範囲内。
マスターデコイは心の中で思った。
5分(30ターン)逃げ回り続ける作戦よりも、撃破を目的とした作戦がその複雑さを増すであろうことを。
マスターデコイはバリスタを構え、叫んだ。
「散開!」
一斉に大きく広がるように走るイレギュラーズ。
ゾンダーコッツはどこを見ているのかわからないような姿をして、ぶわりと幻影を揺らした。
周囲の空間のあちこちで、大量の目が開く。
必殺の呪いが、始まった。
●作戦
マスターデコイやエクスマリアたちは、それぞれ出発前のことを思い返していた。
最終的な作戦会議の内容だ。
『ゾンダーコッツの攻撃手段は三つと言われている。
30m先の単体を打ち抜く見敵必殺。
20m先の広域対象(半径10m円形)を縛る呪怨連鎖。
3m至近距離の列(横同一レンジ内)を襲う××××。
このうち複数への同時攻撃を防ぐために、散開する作戦をとる』
『10名が1個体を中心に、それぞれの攻撃射程を維持しつつ20m以上の距離を開ける方法は数少ない。
距離計算を正確に行なえない以上、きわめて単純な陣形をとることになるであろう。
それはすなわち……』
マスターデコイがバリスタを構え、全力射撃の準備をとる。
斜線軸をずらして近づいたエクスマリアが、予めセットしたミスティックロアの魔力増幅をうけ、中距離から全力の魔力放出を仕掛けた。
彼らの並びは、例えるならレーダーチャート。もしくは円陣。
できるだけ正確な8~10角形軸を、敵対象を中心にとるのだ。
シェリーがエコーロケーションをかけながら急接近。
シャドウステップを交え、レイピアを用いた全力の格闘攻撃を仕掛けていく。
ほぼ反対側からは、Lumiliaが、中距離からの毒撃を開始した。
『敵を中心として同軸上に並ぶ場合……。
決して至・中、中・遠、遠・超といった近さで並んではなりません。
また円陣を維持し続けるために、相手が動いたら必ず自分も動く必要があります。
もし相手がこまめに移動を繰り返した場合、副行動は移動に限定されることになるでしょう。
勿論それは、副行動で使用可能な付与系スキルも主行動で使用する必要があるということです』
リィズとマルクが全く逆側から敵を中心点とした半径40mずつの幅をとり、同時にマギシュートを打ち込んでいく。
『皆のことはできるだけライトヒールの射程内(30m範囲内)に入れておきたいけど、陣形の都合そういうわけにはいかないの。
だから次善の策として、敵を中心とした15m円線上を移動してライトヒールを使うことにするね。この時、中距離と近距離の攻撃担当者は必ずかぶらないように移動してほしいの』
同時にこのとき、マルクは自分が敵に接近された際に前衛担当の仲間の方へ走って誘引する提案をしたが、双方が攻撃に巻き込まれる危険があるため仲間から禁止された。
重火器を構えたラダが配置につき、狙撃銃を構えた胡蝶へと合図を送る。
二人は射撃を開始。
ゾンダーコッツへと集中砲火を浴びせていく。
『ここまで打ち合わせての感想だけど……逃げ回るだけなら敵に攻撃を加えるための射程を考えなくていいぶん、陣形は楽にとれたね。
問題は……逃げ回るのと、倒してしまうのとでは、どちらが容易かなんだけど……』
『どうかしら。案外それほど体力がなくて、2分ほど攻撃を続けていけば倒しきれてしまうかも……』
ルーミニスがマッスルパワーで攻撃力を大きく増し、バリスタによる射撃をはかる。
と同時に、始まりの赤で攻撃力や命中を高めたドラマがマギシュートを打ち込む。並ぶように射撃をはかるマスターデコイ。
『倒そうと考えるなら高い火力をとにかく安定してたっくさん撃ち込まないといけないわ。
だからアタシ(ルーミニス)とドラマ、マスターデコイの三人は必ず待機して最後に攻撃を打ち込むの。
クリーンヒットが望めるはずよ』
狙い通り、三人の攻撃は凄まじい火力となってゾンダーコッツへ叩き込まれた。
彼らの無強化状態での攻撃力はかなりのものだ。
ドラマがマギシュートで460+始まりの赤で30。
ルーミニスが通常攻撃で305+マッスルパワーで50。
マスターデコイが射撃で298。
合計して1143ものダメージが期待できる。
他のメンバーの攻撃が全てライトヒットであると仮定するとトータル777程度なので、とても素晴らしい数字のように思えた。
しかしこのとき、ドラマはふと思った。
(最大攻撃力をもったメンバーから順に潰された場合……作戦そのものが崩壊してしまうのでは……?)
そしてこうも思った。
(より高い攻撃力をもったマルクさんとリィズさんは味方が大きなダメージを受けたときライトヒールやキュアイービルを使う作戦になっていたはず。
この時点でトータル250~500ものダメージ期待値を損なうことになるのでは。
そしてライトヒールの回復量でどうにもならないと分かったときの対策を……二人がしていてくれるでしょうか……)
そして、なんとなく、誰もがぼんやりと思っていたことがある。
『3人残れば撤退可能な戦場で30ターンをねばること。
それは7人で一人頭4ターンねばっても足りないということ。
そのラインがすでにハードなこの依頼で、敵が繰り出す攻撃の威力は恐らく……』
●良策
消し飛んだ。と表現するのはいささか不正確だ。
咄嗟にガード姿勢をとった胡蝶に、幻影がねじくれた尾を引いて急速に接近し、胡蝶と胡蝶が立っていた地面と周辺の空気をまとめてグチャグチャにしたのだ。それも二度続けて。
HPにはそれなりに自身のある胡蝶のこと。この二連撃で消し飛ぶなんてことはなかったが、防御しても半分以上そぎ落とされる事態には直面した。
「回復を――!」
自己申告で体力の急速低下を訴えると、リィズとマルクが即座に回復に走った。
体力回復だけではない。【狂気】によるバッドステータスも回復するつもりだ。
マルクが60%でBS除去ができるキュアイービルを、リィズが120のHP回復ができるライトヒールをそれぞれ使用して胡蝶の回復を始めた。
ドラマは少し迷ったが、ハイ・ヒールは中距離回復スキル。最大で400ものHP回復が可能だが、それによって広域攻撃の範囲に被ってしまう恐れがあった。
『散開し、範囲攻撃による複数同時脱落を避ける』という方針が前提にある以上、この選択は危険すぎた。
一方で胡蝶は、味方の円陣から大きく離れるようにダッシュ。塹壕へ向け、防御姿勢をキッチリと整えながら走り出したのだ。
この時点でイレギュラーズたちにおける幸運は、敵の最初の狙いが胡蝶になったこと。
ゾンダーコッツにとっての不幸は、イレギュラーズたちの実力差がよくわからないからと適当に胡蝶を最初のターゲットに選んでしまったことだ。
胡蝶は、10人の中で最も時間を稼ぐことに優れた選択をとっていた。
自分が標的となったと知るや防御と逃げに徹する。
全力防御による防御技術+20の効果でトータル防御技術はなんと49。
仮にクリーンヒットが起こっても、かなり現実的な確率でダメージをほぼ半減できるのだ。
その対策としてゾンダーコッツは見敵必殺による高CTを狙うも、胡蝶は塹壕へと転がり込んだ。
射線がとれない以上近づくしかない。
この流れでなんと一人で4ターンもの間、敵を引きつけ続けることに成功した。
最後には籠もっていた塹壕ごと爆発するかのように吹き飛んだが、この戦いにおいてかなり優秀な働きをしたことは、しっかりと述べるべきだろう。
●崩壊
胡蝶の行ないの素晴らしいところは、まず塹壕へ向けて逃げたところにあった。
おかげで敵の動きに引っ張られるように動き続けなければ行けなかったイレギュラーズたちが、改めて塹壕を戦場の中心に置くことが出来たのだ。
対するゾンダーコッツはイレギュラーズたちの細かい戦力情報を把握しているわけではない。
ここへきてもまだ、倒すべき順番を計りあぐねている様子だった。
「しかし……随分とタフですね」
ドラマはそんなゾンダーコッツに追い打ちをかけるべく、美しい本からわき出した魔力をマギシュートとして打ち込んでいく。
ここまで(回復に回ったメンバーの減少分を考えても)マックスで8000強。防御によるダメージ軽減があったかどうかは定かでないが、それなりにデカいダメージを受けている筈である。ドラマだったら五回は死んでいたろう。
そんなドラマが次を撃とうと構えた所で、ゾンダーコッツが彼女を見た。
否、周囲に浮かぶ大量の眼球が彼女に集中したのだ。
来る。
そう判断した彼女は攻撃を魔力放出へ変更。急接近するゾンダーコッツとぶつかり合った。
自らとその周囲がグシャグシャになっていくさまを見ながら、ふと、もういちど思う。
『敵に、撃破する順番を自由に選ばせたのはよろしくなかったのでは……』と。
ゾンダーコッツから逃げ回ることと、立ち向かうこと。
後者のほうが作戦が複雑化する理由が、先程ドラマが思いついたことである。
もしターン数を稼ぐだけであれば、倒される順番は殆ど影響しない。
しかし敵を撃破するつもりであれば、高い火力を出せるメンバーをできるだけ最後まで残しておきたいものだ。どうしてもそうしなければならないわけではないが、順番はそれだけ影響が大きいのだ。
ドラマの後に狙われたのはシェリーだった。
エコーロケーションの影響か、そうでないのか、以外と良い頻度でクリーンヒットを繰り出していた彼女が攻撃の対象となった。
向かい来るゾンダーコッツに、対抗するように剣を突き立てる。
何かに深々と刺さった感覚を残して、シェリーは地形ごと吹き飛んだ。
「前衛は任せるのである!」
そこで飛び込んだのがマスターデコイだ。
射撃に使うバリスタを振り翳し、ゾンダーコッツに急速接近したマスターデコイはスーサイドアタックを叩き込んだ。
その威力たるや473。とんでもないパワーだ。
衝撃によって幻影が一部吹き飛び、なにか黒いものが見え隠れした。
しかしそのやりとりも長くは続かない。決死の全力攻撃であったことも影響して、マスターデコイはそのボディを激しく損壊することになった。
といっても棒人間そのものなので、仮にバラバラになっても棒と丸でしかないのだが。それも混沌医療なれば暫くすればくっつくらしいという話である。
さておき。次は私だとばかりに飛び込むルーミニス。
彼女はもっとすごい。マッスルパワーにスーサイドアタックを組み合わせて威力なんと555。
ドラマやマスターデコイより一回り上の衝撃が襲った。具体的にはバリスタをいつもの剣のように無理矢理叩き込み、ゾンダーコッツの『なにか』を吹き飛ばしたのだ。
そうして感じる、なにかの感情。
怒りとも憎しみとも違う、とても純粋ななにか。
いわば『純粋なる殺意』である。
「……見えた」
そんな言葉を最後に、ルーミニスは足場と周辺の大気もろとも吹き飛んだ。
重ねたダメージは決して少なくない。
ドラマもルーミニスもマスターデコイも、たった1ターンで倒されてしまったわけではないからだ。
残るメンバーはマルク、リィズ、ラダ、Lumilia、エクスマリアの5名。
このうち3名になるまでは戦い続けようと、彼らははじめから決めていた。
ここで輝いたのはエクスマリアである。
髪の毛を手足のようにたくみに動かすと、ルーミニスたちを比較的安全そうな所まで移動させたのだ。
今回ばかりではない。胡蝶が倒されたその最初から、エクスマリアは撤退が容易になるよう、そして仲間が必要以上に損壊されることのないように取りはからっていた。
エクスマリアはちらりとマルクとリィズに目をやった。
「BSの回復は必要ない。体力もだ。どのみち、もちはしない」
その代わり、徹底的に打ち込むべし。
エクスマリアは美しい髪を大きく広げ、ゾンダーコッツに魔力の限りを叩き込んだ。
その反対側からはLumiliaが毒撃を徹底的に叩き込んでいく。
エクスマリアとLumiliaは精神耐性をもち、【狂気】の効果を受けない安心があった。特にエクスマリアは麻痺耐性と不吉耐性ももっていたため、ゾンダーコッツの繰り出すあらゆるバッドステータスの効果を受けないことになる。
エクスマリアが吹き飛ばされ、地面を大きくバウンドして転がっていく。
その姿を横目にLumiliaは勇敢にもゾンダーコッツに突っ込んだ。
これまでの流れで分かる。一度攻撃対象に選ばれれば、そのまま放置してくれはしない。
ひたすらに機動力5の移動で接近し、最大攻撃を叩き込んでくるだろう。『攻撃→移動、移動→攻撃』の2ターンかけてのヒット&アウェイ戦法が触れられなかったのもこの理由である。
吹き飛んできたLumiliaを、マルクが急いで抱え上げる。ラダやリィズも、エクスマリアを一とする倒れた仲間を抱えた。
「逃げ切れそう?」
「できなければ死ぬだけだよ。全員が」
ラダが馬の足を用いて力強く走る。後方から打ち込まれるドクロのごとき何かが、ラダの頭上を掠めていった。
攻撃が外れたのか……と思ったが、そうではない。
追いかけてきたゾンダーコッツが、一度その動きを止めたのである。
覆っていた幻影が、霧でもはれるように消えていき、人型のシルエットが浮かび上がった。
黒い軍服を着た少女がいた。
光のない鉛のような目で、走り去るラダたちを見ている。
「もう少しで倒せるってことかな」
「まさか」
ゾンダーコッツはウッドストックのライフルを肩に担ぎ、立っている。
まだ戦えるぞと言わんばかりに。
その後のことを語ろう。
ゾンダーコッツは村へと襲撃を開始。
イレギュラーズたちが3分強は持ちこたえたおかげで、村の大部分が避難を完了することができた。
避けられぬ被害も出てはしまったが、人命が失われることはなかった。
充分褒められるべき成果であり、多くを救った3分間であった。
ゾンダーコッツはそれきり姿を消し、その後の行方はまだ知れない。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。皆様が無事に帰られたことを、まずは一人のひととして嬉しく思います。
そして村への(経済その他の)被害が出てしまったとはいえ、人命が失われなかったこともあって、人々は皆様に深く感謝していることでしょう。
ゾンダーコッツがこの後どのように動き、そして再発生するのかはわかりません。
しかしその日は、きっと来るでしょう。
GMコメント
こちらのリプレイにはとても暴力的ないしはグロテスクな表現が用いられることもありますので、苦手な方はご注意ください。
【依頼内容】
『ゾンダーコッツとの戦闘。できれば勝利してほしい』
周辺地域における最低限の避難完了までの時間をネバれば、判定上は成功となります。
避難にどれだけかかるかはその時になってみないと分かりませんが、長めの時間は要するでしょう。
予想では最低限の避難にかかる時間が『5分(30ターン)』と言われています。
【呪術空間『灰色の霧』】
戦場には特別な呪術が展開され、PC全員に『回避-40』『特殊抵抗-40』がつきます。
またゾンダーコッツは空間内にあるほとんどのものを『視る』ことができるため、物陰に隠れても見つかってしまいます。
また、戦時中に使われていた塹壕が直線一本分ひかれています。
他に草地や物陰といったものはありません。高低差もあまりない平野です。
【ゾンダーコッツ】
幻影で身体を包んだ呪術兵器。
特殊抵抗、神秘攻撃力、EXAの値がとても高い。機動力は5。
特殊な幻影に包まれているため、3人以上宣言していればマーク・ブロックが可能。
攻撃スキルに以下のものがある。
・見敵必殺(神遠単【呪殺】【必殺】高CT)
・呪怨連鎖(神中域【呪縛】【呪い】)
・××××(神至列【狂気】大威力)
【撤退について】
きわめて危険な戦場ですが、参加者のうち3名以上が戦闘続行可能である場合、力尽きた味方を抱えるなりして撤退が可能であるものとします。
周辺地域の避難が完了した時点で魔術による信号弾が打ち上がります。成功条件ギリギリでの撤退を行なう際にご利用ください。
【アドリブ度】
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。
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