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シナリオ詳細

<バーティング・サインポスト>セイレーンの海~幽霊船迎撃戦~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●深海の令嬢、再び
「絶望の青(あそこ)まで行かなきゃならないの?」
 可愛らしい眉をひそめて、『深海の令嬢レベッカ』は口を尖らせた。
 レベッカがいるのは、あちこちに戦闘痕の残る鉄帝の船の上だった。先のグレイス・ヌレで戦いにて手に入れた、レベッカの戦果――愛しい人たちと海洋の船には逃げられてしまったが、一隻の船と、そこに乗る人々を家族にすることは出来た。
 まぁ、それらもすでに、腐り果てたただの魔物――アンデッドと化してしまったのだが。
 レベッカはつまらなそうに、ストレスのはけ口を探し求めて舵輪を回して見せた。絶望の海とは反対方向へ。錨をおろした船は動かないが、この船の船長は、今は自分なのである、と強く認識させるように。
 情報によれば、海洋の船団は絶望の青の後半海域に向かう為の中継地の島――奴らの言う『アクエリア』――を発見したらしい。
 となれば、面白くないのは冠位嫉妬アルバニアだ。麾下の魔種たち、そして狂王種たちを動員し、件の島の防衛に回らせた――それは、この海に生きるレベッカの下にも届いた召集令状だったのだ。
「やなのよね、あそこ。お肌が荒れちゃうし」
 死に至る病を、肌が荒れる、程度に言い放つのは、魔種たる強靭さか、あるいは。
 レベッカはほっぺたに人差し指を当てて、むー、と唸った。しばし考えるそぶりを見せて、レベッカは再び、舵輪を回す。今度は、絶望の海の方向へ。
「でも、そっか。あそこにはきっと、特異運命座標たちがいる――あたしの本当の家族になってくれる人たちがいる」
 そしてそこにはきっと、愛するあの人も。
「なら、なら、いいよね。そうね、ちょっとくらい、遊びに行っても」
 くすくすとレベッカは笑う。
 骸骨とゾンビの船員達が、身体を鳴らしながら錨をあげた。
 かくして『セイレーンの海』は、深海の令嬢レベッカは、再び『海域を動かす』ことになる。

●絶望と歌姫と
 天気晴朗、波も穏やか。しかし一瞬先にはそれがひっくり返る可能性があるのが絶望の青だ。とはいえ、今の所、海洋の二隻の船は順調に航路を――絶望の青を進んでいた。
 二隻の船は、その腹に大量の食糧と武器を満載していた。これから始まる一大決戦――『アクエリア』奪取作戦とでもいうべき戦いに備えた、補給船である。
 絶望の青を大船団で向かうわけにもいかず、少数精鋭、必要最低限の荷物を載せるだけになってしまったが、それでも現地で戦いを始める船団にとっては、有難い補給となるだろう。
「今の所、狂王種の影は見えません」
 船長が、船団に乗船していたイレギュラーズ達へと声をかけた。ある程度の航路が確認されたとはいえ、安全には程遠いのが絶望の青という海域だ。護衛として、イレギュラーズ達に乗船願うのも、当然の措置と言えた。
「このまま、何事もなく本隊と合流できれば良いのですが……」
 しかし、そのささやかな願いは、見張りから発せられた叫びによって打ち砕かれることとなる。
「3時方向、不明船が近づいてきます! それから……歌?」
 その叫びに、乗員たちの緊張が一気に高まった。指定された方向を見てみれば、それは一隻の、鉄帝の船のように見えた。だが、なぜこんな所に鉄帝の船が――? その疑問は、悲鳴にも近い見張り番の叫びによって、あかされることとなった。
「あ、アンデッドです! アンデッドが船を動かしてやがる……幽霊船です!」
「ゴーストシップか!」
「幽霊船より、砲撃確認……着弾、来ます!」
 その言葉と同時に、周囲の海に波しぶきが舞い上がった。一発目は外れ――だが、次は照準を合わせてくるだろう。
「ふむ……此方も位置合わせ、砲撃を開始しろ! ……それから、イレギュラーズさん。少々危険な作戦になりますが、聞いていただけますかな?」
 船長はそう言うと、イレギュラーズ達に語り始めた。
 曰く、敵は幽霊船ながら、鉄帝の高性能な船――海洋の船との性能差は大きく、このまま撃ち合っていては、此方の損害は小さいものでは済まないだろうという。
 そして、万が一ここでこの幽霊船を逃してしまっては、アクエリアへと幽霊船がなだれ込み、味方船が背後から教習を受ける可能性があり、それも避けたい。
 結果、我々がとれる最善の策は、此処で幽霊船を沈黙させることなのだ、と。
 そこで、イレギュラーズ達には、小型船を利用し、敵幽霊船に乗り込み、海洋の船が撃破される前に、敵砲撃手と、船長クラスアンデッドの撃破をお願いしたい。
「皆さんを危険にさらすことになりますが、恐らくこれが、此方が取れる最善の策……」
 頭を下げる船長に、イレギュラーズ達は頷いた――。


「あはは、みーつけたっ♪」
 深海の令嬢は、船上で歌う。
 家族になってくれる人たちを見つけた、その喜びの歌を。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 深海の令嬢、レベッカが動き始めました。
 彼女の駆る幽霊船を沈黙させてください。

●成功条件
 幽霊船の沈黙

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 絶望の青に存在する島、『アクエリア』へ向かう補給船団に乗船していたイレギュラーズ達。
 そこへ、同様にアクエリアへと向かうレベッカの幽霊船と遭遇してしまいました。
 このままで補給船団は全滅。野放しになったレベッカは、アクエリア攻略部隊を背後から襲いかねません。
 そこで、此処で幽霊船を沈黙させる必要があります。
 皆さんは、速やかに幽霊船に乗り移り、アンデッドの船員達を撃破してください。

 なお、戦闘開始時のイメージは、以下のような状態です。(あくまでイメージ

 ◇◇レ◇◇
 砲◇船◇砲
 ◇アアア◇
 砲◇◇◇砲
 ◇ア◇ア◇
 砲◇イ◇砲

 ◇:船上タイル
 レ:レベッカ
 船:船長アンデッド
 ア:雑魚アンデッド
 砲:砲撃手アンデッド
 イ:イレギュラーズ初期位置

●エネミーデータ
 砲撃手アンデッド ×6
 特徴
  海洋の船へ、大砲を使って砲撃を子なっているアンデッドです。
  このアンデッドを撃破できれば、砲撃が中止されます。
  基本的に砲撃を優先しますが、イレギュラーズ達に近接距離に接近されれば、そのキャラへの近接攻撃を優先します。
  なお、海洋の船はあまり長く砲撃には耐えられません。
  速やかに撃退してください。

 雑魚アンデッド ×5
 特徴
  鉄機種である、元鉄帝軍人たちのアンデッドです。
  アンデッドでありながら、生前のタフさを持ち合わせています。
  主に近距離~中距離攻撃を行ってきます。

 船長アンデッド ×1
 特徴
  現在船を統括している船長のアンデッドです。
  幽霊船を完全に沈黙させるには、船長のアンデッドを撃退する必要があります。
  主に至近~近距離攻撃を行ってきます。なかなかの強敵です。

 『深海の令嬢』レベッカ ×1
 特徴
  第三次グレイス・ヌレ海戦で遭遇した嫉妬の魔種。
  アルバニアに呼ばれ、お遊び気分で絶望の青へと訪れました。
  主に遠距離~超遠距離攻撃を行い、後方からイレギュラーズ達を狙ってきます。
  なお、今回は前述した通りお遊び気分なので、5ターン終了時にレベッカのみ撤退します。
  なお、以下のスキルを持ちます。
   原罪の呼び声『嫉妬』
    呼び声に応えた純種を反転させる。
    フィールド上にいるすべてのユニットは、『怒り』にかかりやすくなる。

●重要な備考
<バーティング・サインポスト>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <バーティング・サインポスト>セイレーンの海~幽霊船迎撃戦~完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年03月20日 23時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
亘理 義弘(p3p000398)
義に篤く
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
コラバポス 夏子(p3p000808)
今日も良い日だ
シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)
花に集う
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年

リプレイ

●幽霊船へ
 小型船が海を行く――その海原に、数発の大砲が着弾した。
 ぐらり、と波が小型船を揺らす。砲撃は時間と共に、より正確に確実に、海洋の補給船団に狙いをつけている。
 一刻の猶予もなかった。全力で小型船を進ませながら、イレギュラーズ達は前方――現れた幽霊船を見据える。
「間違いない……あの時の船か……」
 『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は悔し気に……同時に哀しげにうめいた。リゲルには、その船に見覚えがあったのだ。以前のグレイス・ヌレでの海戦の折に、自分たちに相対した鉄帝の船。両者ぶつかるその時に、乱入してきたのは魔種――レベッカだった。
「見覚えが?」
 『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)が尋ねるのへ、リゲルは簡潔に説明した。そして、その船が幽霊船として、今ここにある意味も。
「なるほどな……気休めに聞こえるかもしれないが、これはおまえさんのせいじゃない」
 義弘が言う。かつての戦いにおいて、リゲルたちイレギュラーズは間違いなく、正しく、適切な行動をとった。鉄帝の船が敗北した件は――仕方のない事ではあったのだ。
 だが、幾ら仕方ないとはいえ、リゲルの胸中には重いものがのしかかっていた。もしかしたら救えたかもしれないという後悔と、そしてレベッカが――かつての友人が、彼らの命を奪ったのだという事実が。
「あえて言うけれどね」
 『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は頷きつつ、続ける。
「ジュリエット――レベッカを止められるのは、やはりロミオたる君だけだ。どのような結末になろうとも、その覚悟だけは抱いていてほしい」
 セレマは饒舌なる口を、今は少しだけ封じ込めた。これが自分たちに何ら深い関係のない――ただ解決すべき事案というだけならば、彼の言葉は詩的に、饒舌に、語っただろう。しかし、沈黙もまた美であることを、セレマは充分に理解していた。そしてリゲルは頷く。
「さて。此度の物語は、色々と複雑なものになりそうですね……」
 『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)が静かに呟いた。前方に浮かぶ幽霊船を見据えて。
 近寄って来るにつれて、頭上を通り過ぎる砲撃音は大きくなり、また同時にその巨体もよく見えるようになっていた。勇壮たる鉄帝のその船は、今は戦いの跡をろくに補修もされなかったのだろう、些か傷ついて見えた。
「準備は良い?」
 『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)が尋ねるのへ、仲間達は頷いた。アルテミアは小型船に備え付けられていた縄梯子を取り出すと、頭上へと放る。果たして縄梯子の先端のかぎ爪は確りと鉄帝船の肌に食い込んだ。力を込めて引っ張るが、外れる様子はない。
「行くわよ……ここからは敵の船だから、充分気を付けて」
 アルテミアの言葉に頷き、イレギュラーズ達は縄梯子を登る。不思議と、敵からの妨害はなかった。まるで誘われているかのような感覚が、肌を走った。
 甲板に乗り移ったイレギュラーズ達が感じたものは、浅い腐臭である。腐りきった、というよりは腐りかけの匂いが、甲板のあちこちから漂っている。
「アンデッドのにおい……なのです」
 『花に集う』シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)が言った。
「これでは、死者が死者を生み出している……地獄のそのものなのです……」
 エリスタリスは眉をひそめた。その言葉通り、これは死の再生産とでもいうべき事態である。
 と――。
「いらっしゃい」
 声が聞こえた。
 イレギュラーズたちが一斉に声の方を向けば、そこにはどこか甘ったるい笑顔を浮かべた一人の少女の姿があった。
「レベッカ!」
 リゲルが声をあげる。
「なるほど、この子が……!」
 『一兵卒』コラバポス 夏子(p3p000808)が言った。その表情は複雑な心情を如実に描いている。相手は魔種。世界の敵。それは理解しているのだが。それはそれとして、やはり美少女とは戦いづらい。
 とはいえ、それで気もそぞろになるほど、夏子は場慣れしていないわけではない。夏子は油断なく、武器を構えた。仲間達も合わせるように、武器を構える。
 当のレベッカは楽し気に跳躍(ステップ)――すると、柱の影より現れた船長アンデッドの後ろへと隠れた。それを合図にしたように、数体の兵隊と思わしきアンデッドが姿を現す。
「なるほど、随分と大所帯な”家族”ですね」
 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)があたりを見回しながら、声をあげた。油断なく周囲を見渡し、標的たるアンデッドの位置を確認する。砲手6。兵隊5。指揮者1。魔種が1。
「ふふ、羨ましい?」
 脳髄を侵蝕するような甘い声に、しかし寛治はくすりと笑って頭を振った。
「いいえ。生憎と、気分次第で使い捨てるような”家族”など、持つつもりも、なるつもりもありませんので」
 その言葉に、レベッカはむっとした様子を見せる。
「……いいじゃない。だってこいつら、本当の家族じゃないもの」
 レベッカは船長アンデッドの足を蹴り上げた。
「すぐに死んで、腐っちゃう――でも、あなた達なら。イレギュラーズ達なら、違うのよね? 一緒に、ずっと一緒に、水底にいてくれる。本当の家族に、なれるんだよね?」
 ぞわり、と。
 イレギュラーズ達の肌を、冷たいものが走る!
 それは、殺意とも悪意とも違う何か。いうなれば、執着。ねばつく蜘蛛の糸のように、獲物をとらえて離さぬ執着――!
「……いいですね、アークライト様」
 寛治の言葉。確認するような、諭すような、そんな色を乗せた言葉だった。
「ああ……此処で、彼女を……止める!」
 リゲルが叫ぶ。それを合図に、両者は一斉に動きだした――。

●船上の戦い
「やれやれ――酷い有様だ。嘆かわしい」
 ゆっくりと、セレマが甲板の上を歩いた。その様は、ランウェイの上を行くモデルのようでもある。
「男どもは血色悪く、退屈な令嬢の相手もしない。まるで生きる喜びを忘れているようだ」
 そんな、血色の悪い死者どものど真ん中で――セレマは笑った。
「君たちに必要なのは、太陽だよ。ボクのような、ね」
 その微笑は、魔性のものである。受けたものは、引き付けられなければいられない。そんな魔性の笑み――アンデッドたちの注意が、一気に引き付けられる。それは、レベッカの持つ呼び声の力ものって、雁字搦めの鎖と化していた。
「ふぅん? ちょっと気に入らないかも」
 レベッカは些かむっとした様子でその手を掲げた。途端、中空に描かれた魔法陣から飛び出す嘆きの死者たちが、セレマを包み込む。直撃。無数の怨嗟がセレマを物理的に傷つけ、消滅する――が。
「おっと。ボクは華奢だが、しかし美少年と言う物は、決して倒れないものでね?」
 しかし倒れず、船上に立つセレマはくすりと笑ってみせた。
「レベッカ! 君の相手は、俺だ!」
 リゲルが刃を振るう。振るわれたそれは断罪の黒き刃となって、レベッカへと迫る。レベッカは死者の肉体を召喚し、盾としてその斬撃を受け止める。
 受け止められた、とリゲルは何かを飲み込むように思った。リゲルの知る少女であったならば、今の一撃で命を取ることができただろう。だが、それは防がれた。それは彼女が魔種に――ヒトならざるものと化してしまったことの証拠でもあった。
「リゲル! 来てくれるんだね。今日は、あの人はいないの? 嬉しい♪」
 レベッカの注意が、リゲルへと向けられる――望む所だ。
「レベッカ! 人を殺めるな! 殺りたければ俺を殺れ! 俺だけを見ろ!」
 リゲルが駆けだす――レベッカへと向けて。
「あらあら、やはり令嬢には意中の相手がいるご様子。ならば」
 四音はにこりと笑い、回復の術式を編み始める。
「魔種はリゲルさんが止めてくれます! 今のうちに、砲撃を止めさせるのです!」
 エリスタリスもまた、四音と背中合わせに回復術式を編み始める。両者の放つ回復の術式が、一気に周囲に広がって、イレギュラーズ達の背中を押した。
「雑魚どもは俺とセレマで抑えるッ!」
 襲い掛かる無数のアンデッド――セレマを狙い、斬りつけるそれらに、義弘は存分に己の腕力を振るった。単純ながら圧倒的な暴力の旋風が、近寄るアンデッドたちに強かに叩き込まれる!
「やれやれ、美少年の仕事じゃないけど、美少年は傷つかないから仕方ないネ!」
 セレマはくすりと微笑して見せる。
「頼りにしてるぜ、おまえさん! 早いとこを砲撃を止めてくれ! あまり長引かせるとまずい!」
 義弘の言葉に、仲間達が頷く。
「了解よッ!」
 二振りの細剣の切っ先をクロスし、集中状態を維持しながらアルテミアが、手近にいた砲手へと斬りかかる――腐った肉が飛び散り、うめき声をあげる砲手。繰り出した反撃の斬撃は、アルテミアの蒼の細剣がいなし、弾き飛ばした。
「やれやれ、こっちの相手は腐りかけた野郎どもかい……嬉しくはないね! まぁ、任務に集中集中! 相手魔種魔種美少女……違う!」
 手にした槍を振り回し、駆ける夏子の斬撃が、砲手アンデッドの腹部を貫いた。そのまま斬り上げ、内部から斬り捨てる――腐った肉を散らし、砲手アンデッドが大砲からその手を放す。
「速やかに――しかし確実に行きましょう」
 寛治は黒い傘を構え、柄に仕込まれた引き金を引いた。まずは、一発。ステッキに仕込まれたライフルが火を噴いて、最遠に居た砲手の腕を吹き飛ばす。
 その衝撃にくるりと回転する砲手の、今度は頭を狙っての一発。果たして放たれた銃弾は砲手の頭部を破壊して、その腐った身体を甲板へと横たえた。
「ワン・ダウン」
 冷たく――狙撃手は硝煙の登る傘の奥から、討ち取った獲物を見据えていた。


 煌く刃と、死者の肉体。
 踊る様に使い捨てられる死者の肉体を、リゲルは刃にて受け止めた。
「レベッカ……なぜ君が、こんな所にいるんだ……!」
 リゲルは叫ぶ。その刃が、レベッカを狙うことは無い。
 リゲルは只々、レベッカの攻撃を受け止めて、耐えていた。
 それが己に対する罰のように。
「どうして……どうして、魔種になってしまったんだ!?」
 その言葉に、レベッカはすぅ、と目を細めた。
「どうしてって……他に、手を差し伸べてくれた人がいなかったのだもの」
 レベッカは静かに、思い出すように、瞼を閉じた。
「あの嵐の中で……沈みゆく船の中で……私に手を差し伸べてくれたのは、狂気の呼び声だけだった」
 リゲルは表情を曇らせた。レベッカの乗った船が、嵐に合い、沈没した。その事は知っていた。
 その時に――彼女は、呼ばれた、のか。
「ねぇ、リゲル。あたし、間違ってた? あのまま死んじゃえばよかったって、そう思ってる?」
「違う! そんなことは……」
 思ってはいない。
 だが、魔種になる事を、容認できるはずもなかった。
 生きていて欲しかった。
 でも、こんなことになって欲しくはなかった。
 世界の敵などに――。
 なって欲しくはなかった。
 衝突する、相反する感情。答えの出ぬ矛盾は、リゲルの胸中を駆け巡る。
 もっと会えればよかった。もっと話していればよかった。そうすれば――。
 彼女は自分の死を受け入れたのか?
 自問自答する。それもまた、傲慢と言えることかもしれなかった。
 お前は死ねばよかったのだなどと――。
 言えるはずも、思えるはずも、無いのだ。
 剣を持つ手が萎えるのを自覚した。だから痛いほどに、それを握りしめた。
「レベッカ……今ならまだ間に合う。ここを出て、静かに暮らそう。誰にも迷惑をかけないように……」
「リゲル。ねぇ、リゲル。何を言っているの」
 レベッカは笑った。
 甘ったるい笑顔。皆に愛されてた面影。
「あたしにとっては、こうするのが当たり前の事なの」
 歪んでしまった甘さ。
 魔種とは――歪んでいる。反転している。故に。
 最初からきっと、此方の言葉など、真には――届いていないのだ。
「たのむ、レベッカ」
 それを認めたくなくて。それでも奇跡にすがりたくて、すがりたくて。
「元の君に戻ってくれ……戻ってきてくれ、レベッカ!」
 リゲルはレベッカを、強く抱きしめた。


「やぁ、砲手の数はあと何体と言った所かな」
 セレマは涼しい顔で言い放つ。涼しい顔ではあったが、常人であればその命はすでに何度も失われていただろう。
「半数と言った所ですね。良いペースです」
 耐え続けるリゲルへと、回復術式を飛ばしながら四音が言う。とはいえ、リゲルももう限界だろう。魔種の攻撃をたった一人で耐え続ける事は、決して容易くはない。四音、そしてエリスタリスによる回復サポートはあったモノの、二人とて、リゲルに付きっ切りというわけにはいかない。様々な要因で仲間に攻撃が飛ぶことはあったし、そちらの援護を行っていれば自然、リゲルへの援護の精度は落ちる。
「耐えられるかな……最悪は……」
 四音が呟く……こちらの攻撃の手を、レベッカへと向ける必要があるだろう。しかしそうすれば、砲撃手への攻撃は止むことになる……海洋艦隊が攻撃を受ける可能性は高くなる。悩ましい所であった。
「とにかく、わたしも攻撃を厚くする必要があるのです」
 エリスタリスの言葉、
「素早く砲手を制圧できれば、レベッカさんへの対処もできるはずなのですから」
「その通り、踏ん張りどころ、という奴ですね」
 四音が頷いた。
「雑魚どもの数も減ってきたが……!」
 一方で、義弘はその剛腕を存分に振るう。殴り飛ばされたアンデッドがその肉片を飛び散らせたまま動かなくなるのを確認し、吠えた。
「このまま一気に畳み込むぞ!」
 一方、アルテミアは前へと出てきた船長アンデッドの相手をしていた。踊る船長の剛剣と、アルテミアの細剣が交差する。柔と豪、二種の刃が交わり、剣戟の音を奏でた。
「流石は、鉄帝にて一隻を任された船長……」
 願わくば、これが生前の相手であったならば、どれだけ心穏やかに戦えただろう。だが今は、鼻孔を犯す腐臭が、魔種への怒りと嫌悪をアルテミアの体内に駆け巡らせる。
「私はここで、負けるわけには……いかないっ!」
 剣戟の音は続く。
「うう、男……どうして? 今すぐ美女になってくれん?」
 軽口などを挟みつつ夏子が振るう槍の刃が、砲手アンデッドの首を斬り飛ばした。くるくると宙を舞い、海へと落下していく。
「さて、後は……!」
 次なる標的を見定める夏子の見た物は、レベッカを抱きしめるリゲルの姿だった。


「嬉しい……」
 と。
 レベッカは呟いた。
 その言葉に――リゲルは静かに目を開いた。
 通じたのか。
 想いが――。
 が。
「でも、違うよ、リゲル」
 令嬢は。
 濁った笑顔を見せて。
「あたしが戻るんじゃない……戻れない。あなたがこっちへ、くるの。リゲル」
 笑った。
 あまりにも邪悪に、あまりにも澱み。
 令嬢は。
 笑ったのだ!
 それは、リゲルにとっては、どれだけ深い、絶望であっただろうか。
「でも、今日はもうお終い。あたし、飽きちゃった」
 くすくすと、レベッカは笑う。
「レベッカ……!」
 二の句を告げぬまま、リゲルは叫んだ。
「また会えるように、おまじない、してあげる」
 レベッカがリゲルの頬に、やさしく、口づけをした。
 甘い口づけだった。
 レベッカが、リゲルから離れる。跳躍(ステップ)、舞踏(ステップ)――船の端へ。
 刹那――一筋の銃弾が、レベッカの肉体を狙い、放たれた。レベッカは寸での所で、それを回避してみせる。
「やれやれ、飽きっぽい美人だ」
 寛治の一撃である。
「せめて顔くらいは覚えて帰っていただけないと、美女相手に成果ゼロでは此方も立つ瀬がありませんから」
 再び、傘を構え、狙う寛治。レベッカは不機嫌そうに口を尖らせた。
「……いいよ。あなたは謝ったって、家族にはしてあげないから」
 そのままばしゃり、と海へと飛び込む。
「レベッカ!」
 リゲルが叫び、追いすがろうとするのを、夏子が止めた。
「まだ戦闘中でね」
 飄々と言うその言葉に、リゲルは頷いた。
「わかってる……」
 戦いは、続く。

●戦禍の果てに
「やれやれ……結局はジュリエットは再び海の底か」
 残る兵隊の攻撃を受け止めつつも、セレマは余裕気に笑う。敵の数は確実に姿を消していく、残るは僅かな兵士と船長のみである。
「再び海の底で……よりそう死者(かぞく)を求めるのでしょうね。今は、まだ……」
 四音の回復術式が、仲間達への最後の奮起を促す。
「わたし達はこんな所で、家族(ししゃ)になったりはしないのです!」
 エリスタリスの回復術式が、仲間たちの背中を押した。リゲルの斬撃が、兵士を斬り捨てる。
「此奴で、雑魚どもはフィニッシュだ!」
 義弘の一撃が、最後の兵士を殴り飛ばした。残るは、船長アンデッドのみ!
「では、最後の大将首とまいりましょう」
 寛治の放つ銃弾が、船長の肩口を貫いた。いきおいのまま、船長の左腕が切り離され、吹き飛ばされる。
「援護するよぉ、身体が勝手に、美女美少女のために動いてしまって!」
 夏子の槍が、船長の腹部を貫き、そのまま切り裂いた。動きを止めた船長に、
「これで、終わりよ!」
 アルテミアの細剣が突き刺さる。振るわれた刃が船長の首を飛ばし、そのまま活動を停止させた。
 そして、それを最後に船上は、静けさを取り戻したのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さんのご活躍により、海洋の補給船団は大きな被害無く、現地へ到着することができました。
 消えたレベッカは、いずれ皆様の前に姿を現すのでしょう。

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