PandoraPartyProject

シナリオ詳細

傷つく覚悟と傷つける覚悟

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「生命とは何を持って定義するか。生きてること? 意志を持つこと? 魂を持つこと?」
 銀髪紫眼の少女が人形めいた無機質な表情で赤々とした動物の肉を加工する。
 それは料理という健全な行為ではなく、数々の死体をつぎはぎし、作り変えるというもの。
 敬虔な信仰者ならば死者への冒涜とも捉えられる行為だ。
「生命の定義は保留。暫定結論、死亡した者は、ただの物。土と木や水と同じ」
 しかし少女はそれを己の定義の上にそれを否定する。
「狩人は仕留めた獲物を余すことなく使う。それが礼儀」
 この『パーツ』は私が仕留めたわけじゃないけれど、と呟いて組み上げる。
 それは動物の肉で作られ、人の姿を象った人形。
「貴方は人の形をし、肉で作られ、血を通わせ、私の意に従い動く」
 少女が魔法の呪文らしき言葉を唱えると、人形は緩慢に動き出す。
「貴方は、生命?」
 独白の続きのように投げかけた言葉に、人形は答えない。
 それに興味なさげに、少女は別のパーツを手に取りって再び作業を始めた。


「君達は誰かの命を奪えるかい?」
 開口一番、集まった君達を前に『黒猫の』ショウ(p3n000005)は問う。
「例えば、動物、魔物、人型の魔物や、あるいは人間そのもの。殺すのに抵抗があるという者もいるだろう」
 特異運命点座標として選ばれた者には、様々な境遇を持つ。
 中には戦闘に身を置いた経験もないという者もいる。
「無論、依頼を選ぶのは君達自身だ。そういった依頼は避けるということもできる。けれど、常にそうかな?」
 どうしようもない状況というのは起こり得る。
 いざその場に直面してから考えては、守りたいものを取りこぼしてしまうかもしれない。
「さて、フレッシュゴーレムというのは知っているかな」
 ショウは急に話題を変える。
 言葉の意味自体は『新鮮』のFreshではなく、『肉』を意味するFleshだと言うことは『崩れないバベル』のお陰ですぐさま理解できた。
「曰く、土や木の代わりに肉を使っただけのゴーレムであり、死体を操るネクロマンシーとは違う、らしいね」
 一般人から見ればどちらも似たようなものじゃないか、という感覚は間違っていない。
「けど問題はそこじゃない。その見た目や、斬り、刺し、叩いた感触は肉そのものということだ」
 それが、最初の問いへと繋がるのだろう。
「今回の依頼は、新米ゴーレムマイスターからの、自作ゴーレムの戦闘テストでね。そいつらと戦って欲しいんだ」
 ようやく集めた本来の目的である依頼の内容を明かす。
 本来こういう敵を相手するならば操っている者から倒すのがセオリーだが、依頼者を狙ってはいけない。
「色々な意味で、良い経験になることを祈るよ」
 要するに、命を奪うことへの予行演習ということらしい。
 長かった前振りについて考えながら、君達は指定された工房へと向かった。

GMコメント


 白黒茶猫と申します。
 このシナリオはLv2以下のキャラクター限定となります。
 戦闘経験の少ないPC向きの依頼です。
 心情寄りのシリアスな雰囲気になるかもしれません。

●成功条件 
 戦闘の勝利。
 場所は広けた草原。

●『ゴーレムマイスター』ミリセント
 銀髪紫眼の無機質な少女。
 今回たまたま肉を素材に選んだだけで、特にフレッシュゴーレムを作る事に拘りがあるわけではないらしい。
 戦闘ではゴーレムに指示を出すだけなので倒す必要はない。

『フレッシュゴーレム』
 死んだ動物の肉を使ったフレッシュゴーレム×PCと同数。
 きちんと処理されてるので、腐臭などはしない安心設計。
 剣や盾、斧や槍などの近接武器や武装している。
 半数は単純な自動迎撃、半数はマスターが直接命令を出している。

  • 傷つく覚悟と傷つける覚悟Lv:2以下完了
  • GM名白黒茶猫
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年03月27日 21時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
ゲンリー(p3p001310)
鋼鉄の谷の
城之崎・遼人(p3p004667)
自称・埋め立てゴミ
Svipul(p3p004738)
放亡
サンズイ(p3p004752)
水心
金野・仗助(p3p004832)
ド根性魂
ウィルフレド・ダークブリンガー(p3p004882)
深淵を識るもの
アンシア・パンテーラ(p3p004928)
静かなる牙

リプレイ


「成る程のう。殺し殺されの経験が無い連中に向けた訓練か。これは、邪魔をしたかもしれんな」
 矮躯ながら老練な古強者の雰囲気を纏わせる『鋼鉄の谷の』ゲンリー(p3p001310)は自慢のドワーフの髭を撫でる。
「問題ない。私が依頼したのはただの戦闘テスト。その他は情報屋のお節介」
 混沌肯定の一つ、『レベル1』。如何に経験を積もうと、その力は統一される。
 しかし、経験や心構え。その精神性までは変化しない。
 ここに集まった多くは、その点で言えば『訓練』は不要だ。
「テストが要るのは私も同様だ。今、何をどれだけできるのか。知っておかないとな」
 それとは逆に、アンシア・パンテーラ(p3p004928)が言うように、統一されてしまった力。
 アンシアが武器の調子を確認するように付けた振るうと、そのあまりの鈍さに眉を顰めてしまう。
 訓練とはいえ実戦形式の戦闘、どれだけ発揮できるか、試す必要を強く感じていた。
「新米ゴーレムマイスターか……新米とはいえ、なかなかの技能だな」
『深淵を識るもの』ウィルフレド・ダークブリンガー(p3p004882)は、整然と整列するゴーレムを興味深げに眺める。
 剣と盾持ちが3体。槍持ちが2体。斧持ちが3体、計8体。
 武装こそ違えど、見た目は完全に整えられており、差違を見出すのは困難そうだ。
「……新米といえば、我々も同じか。様々な世界から、様々な年齢、経歴、経験、価値観を持つ者たちが召喚された」
 それは、命を奪う事に躊躇いを持つ者だけではない。
 逆に、既に覚悟を決めた者、何ら躊躇わないもの、当然と考える者だっている。
「殺し殺されなんざ見飽きて、いや嗅ぎなれてるけどよ。ま、そういうのと肩並べんのも慣れてねぇヤツには勉強なるだろよ」
 目を閉じたヤクザ顔の猫、『水心』サンズイ(p3p004752)もまた、戦闘において遠慮や躊躇など無縁となるだけの場数を踏んでいる。
「ははは、僕だけかな。元の世界じゃ殴り合いの喧嘩すらした事ないってのにね」
 『自称・埋め立てゴミ』城之崎・遼人(p3p004667)は、この中で唯一の『お節介』の対象だ。
「……何かを殺すってのはその命に対して責を負うってことだ」
 遼人が見るだけでは済まない戦闘を前に緊張と恐怖を押し殺していると、『海抜ゼロメートル地帯』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)が声を掛ける。
「まぁ、目の前にいる肉塊が命と呼べるものであるかは疑問なわけだが。果たしてこれが命を奪う行為に当たるかは……何とも言えんな」
 あくまでこれは練習、訓練だと。
 今はその責を負う必要はないと、遼人の緊張を和らげるように告げる。
「うん……この世界で生きていくなら、ずっと戦闘を避け続けるって訳にもいかないだろうし」
 遼人にとって最初の一歩……とも言い難い、半歩。
 それでもこの踏み出した脚は、足踏みではない。僅かでも前に進む。
 そしてその差が、きっと何れ守りたい者を掴める。
「安心しな! どんな敵が来ようが根性があればなんてことはねえ!!!」
 気合を入れるようにばしんと、威勢よく拳を掌に叩きつけるのは 『ド根性魂』金野・仗助(p3p004832)。
 守る者であらんとする仗助の心は、屈することはないだろう。それが彼のギフトでもある。
 一歩離れて整列するゴーレムを『放亡』Svipul(p3p004738)は無表情のまま眺める。
 『動物』とは言っていたが、それが『何の』か、少しだけ気になった。
「時に少女よ。あれらは人の肉を使っているのであるか?」
「動物の肉。人もまた動物。というべき?」
「ふむ……」
 少女の答えに、Svipulは再度じっと見るも、それらはただの獣の物にしか感じられなかった。
「冗談。普通に野犬や熊肉」
「であろうな。直に見ても、あれらが人の肉という気はせぬ」
 加工されているが、死臭ともいうべきか。
 それを感じ慣れたSvipulにとっては、物足りない相手でしかない。
「補足。まだ食べられる」
「それこそ冗談じゃないな……」
 少女のブラックな冗談に、遼人は嫌な顔を浮かべる。
 今は人型をしている解体して食べるというのは、ちょっと想像したくなかった。


「さて、どれが命令されている固体か」
 まずはそこから見極めなくてはいけない。
 エイヴァンは少女をちらりと眺めてみるが、その表情からは読み取れない。
「補足。ゴーレムへの命令に、発声、動作は必要ない」
「なるほど、そいつは厄介だな」
 後出しのようなズルさを感じるが、そうでなくては4体も操る事はできない。
 武装や戦術的役割を考慮し、単純行動で十分か、逆に対応力を持たせたいか。事前に予想する事もできたかもしれない。
 その場に適した行動を取れる者は脅威。
 その認識は皆が共通して持っていた。が、その基準となるものを予想したものはいなかった。
「まっ、見た目ではわからんじゃろうな。ならば、初動を見極めるしかあるまい」
 少女はわざわざ4体も同時に指示すると言った。
 それはそれで大した芸当だが、逆に言えば直接制御しないゴーレムに複雑な対応力はないはずだ。
「僕が観察してみるよ」
 今回のメンバーは殆どが前衛。
 『観察』という集中を割く行為は、脚を止めて戦える遼人が最も適任だった。
「合図。戦闘開始」
 各自陣形と構えを取ったのを確認し、少女が小さくパン、と手を叩く。
 同時に、ゴーレムは軍隊の行軍のように一糸乱れずに歩き出す。
「ふむ。全員が来るか」
 統一された行動。判断材料にはまだならない。
「どれが当たりかわからねぇ、ならどれ狙ったって一緒だ。一番手貰うぜ」
 サンズイがすんと鼻を鳴らせば、目を閉じていようと匂いで『見える』。
 斧持ちに正確にその二刀が振るわれる……が、それは盾持ちに庇われた。だがこれは予想通りだ。
「今のは制御された……いや、ただの防御役かな?」
「庇われたなら、狙い続けて庇わせるまでだ」
 エイヴァンが庇われたゴーレムへ続けざまに振るった攻撃は、先程と同じ盾持ちが受けとめる。
「防御役は自動で十分と判断したようだが、甘いな」
「助言、素直に受け止める。戦術は勉強中」
 ウィルフレドが少女へ聞こえるように声を掛ければ、じっと目を逸らさずに頷く。
 結果的にダメージが分散せずに、一体に集中する。
「それじゃ、そいつに集中攻撃だね。シンプルだ」
 アンシアが接近すれば、制御されていない盾持ちは考えなしに庇おうと前に立ち塞がる。
 するりとしなやかな身のこなしで、盾の防御をすり抜けて捉える。
「関節可動範囲のテストになるだろうさ」
 綺麗に決まった組技はゴーレムの脚をその細腕でがっちりと締め上げ、常人ならば痛みで動けはしないだろう。
 しかし相手は痛覚の無いゴーレム。力任せにアンシアの軽い身体ごとぶんぶんと振り回す。
 ぴきり、と骨にヒビが入る音が聞こえながらも、振りほどかれて体勢を整えて着地する。
「っとと……これは、容易には本業復帰できんぞ……」
 遠慮が要らない相手。当然アンシアは全力で技を掛けた。
 アンシアの今までの感触からすれば、このゴーレムの力ならば痛覚など関係なしに物理的に動けなかっただろうに。
「儂は『鋼鉄の谷の』ドワーフ、ゲンリー。斧の闘法の受けたい者から掛かって来るのじゃ!」
 ゲンリーは勇ましく声を張り上げ、名乗り上げる。
 それに釣られたのか、2体の斧と槍が振るわれる。
「ふんぬッ! 雑に振るうだけとは、斧の扱い方がなっておらんの」
 重心任せに振るわれたその斧を弾き、槍を重装の装甲で受け流す。
「挑発に釣られた……ってことは、アイツは制御されてないはず!」
 遼人は声を上げ、仲間に伝える。
 制御された固体なら、攻撃決定権はゲンリーの口上の範囲外にいる少女にある。
 逆に言えば、釣られたこの2体は自動迎撃固体だろう。優先撃破対象から除外する。
「早く数が減らせれば……! いくよ!」
 遼人は集中を研ぎ澄ませ、手加減抜きで魔力を一気に放出する。
「……っ!」
 炸裂した魔力は、ゴーレムの片腕を吹き飛ばし、ぼたぼたと赤黒い血を垂れ流す。
 ゴーレムは平然としているが、これが本当に人ならば。
 自らが生み出した結果だということに、ごくりと唾を飲み込む。
「流麗で華麗な戦いを魅せんとす」
 敢えて仲間へ先手を譲ったSvipulは、淑女然とした風貌に違わず、優雅に歩む。
 そして間合いに入った瞬間、鋭く踏み込みレイピアを奔らせ、トドメを刺す。
「人型なだけの肉の塊では、些か物足りぬなぁ……」
 貫いた感触は腐肉よりはマシだが、寄せ集めた肉は『本物』とは明らかに別物。
 吹き出すことなくぼとぼとと流れ落ちる赤黒い血も、鮮血と比べれば偽物めいている。
 生物の肉を貫く感触を良く知るSvipulだけに、物足りなさが先に立つ。
「っ……! 非力なだけでなく、反応速度も耐久力も話しにならん……!」
 反撃とばかりにアンシアへ迫りくる一撃を回避しきれず、斧の一撃をクローで防ぐ。
 ガードの上から持っていかれた体力に苛立たしげに舌打ちする。
 ゴーレムの戦闘力は、ハッキリ言って大したことはない。だからこそ歯痒い。
 己が受けた『レベル1』の影響を強く実感する。


(……ゴーレムを操るミリセントに話しかけたり、注意を引いたりして、ゴーレムの動きを鈍らせるのもありか?)
 重火器の弾丸を装填し直しながら、ウィルフレドはそう思案し少女へと声を掛ける。
「お嬢さんも新米ってことだし、戦闘テストは今回が初めてか?」
「肯定。だからギルドに『レベル』を制限してもらった」
 ウィルフレドが狙いを定めていきながら横目で伺うと、少女はゴーレムから視線を逸らさぬまま答える。
「自分自身で戦うのと、自作のゴーレムが代わりに戦うのとでは、違うものなのかな」
「私自身に戦闘力はない。だからこそのハンデキャップ。私は創る者。本業は戦闘でも指揮でもない」
 そもそも自分自身で戦えないと、首を振る。
「ゴーレムは手足。頭を狙うのは定石。あなたが今、私の集中を乱そうとしてるように」
 少女はウィルフレドへと少し視線を向ける。
 本来こうして前線で指示すらできない。
 少女が最優先に狙われれば、容易く崩れてしまう。
 自動迎撃だけではテストにすらならないというのは、創った少女自身が一番分かっていた。
「目的。『勝つ』ことではない。多くの情報を得、課題を見つけること」
 少女が必要としたのは実際に戦闘をその目で、肌で知ることだった。
「なるほど。それは邪魔したか」
「問題ない。今の会話程度で操作は乱れない。それと。私の観察に意味はない」
「ご忠告どうも。だがそうとも限らないな」
 少女は今度は一挙手一投足を伺うように視線を向けるエイヴァンへ、無表情でじっと眺める。
「検討はついた。遼人、ゴーレムマスターの視線だ」
「視線……? そっか、指示を出すならどうしたって動きを見なきゃいけない!」
 少女は人形のように微動だにしない。
 しかし、首や目が僅かに動く。意識を向けている証拠だ。
 前衛で激しく動きながら戦うエイヴァンは、どこまで細やかな動きは追いきれない。
 ならば、前線を支えて貰える間、落ち着いて観察できる遼人の役目だ。
「……!」
 少女は僅かに動揺を見せる。
 槍持ちと盾持ちが観察の隙を作らせまいと、前線の突破を試みる。それこそ、明らかに制御された動きだ。
「よっしゃぁ! 俺に任せとけ、根性で抑えてやらぁ!」
 待ってましたとばかりに仗助は両手持ちの大盾でその突撃を真正面から受け止める。
「根ッ! 性オォォ!!!」
 両腕に痺れながらも、雄叫びと共に槍と剣を跳ね返す。
 そして、ゴーレムが突破したということは前線にいる者達へ背を向けたという事。
「長柄の武器は、技法がなくとも力任せに振るうだけで十分重い。確かに便利じゃ。じゃが、足りぬな」
 かっと目を見開き、裂帛の気合と共に斧を叩きつける。
 ゲンリーの斧はゴーレムの盾ごと打ち割り、地に叩き伏せる。技法などない、ただただ力任せの、その極み。
「示現流、なるものがあるそうじゃが、我らドワーフの斧の闘法、それに通じるやもしれんな」
 二の太刀要らずと名高い流派を関するエスプリを持つゲンリーには、容易い芸当だった。
「無用な殺生を好むほど血に飢えてはいないが、義を貫くために必要な事であるならば躊躇う理由などはない」
 エイヴァンはとっくに決めている覚悟を語り聞かせるように口にしながら、斧を振るう。
 肉薄して防御を乱した後、斧を振りかぶらず短くスマートに、確実に削り取る。
「殺生なんてもんは何度も見てきたし経験してきたからな。今更、汚れた自分の手に潔白なんてものを期待するだけ野暮ってもんよ」
「ああ。生物が生きるためには、命を奪わねばならない。今さら命の奪い合いに戸惑うほど初心でもない」
 ウィルフレドもまた、重火器での射撃支援をしながら、頷く。
「自身が危地に陥るのだって、どうということはない。それよりも耐えがたいのは……守りたいものを守れないことだ」
 ウィルフレドの銃弾を浴びて、ゴーレムが体勢を崩す。
「人生自体に未練はないけど、痛いのも辛いのもごめんだし、いざその時になってどうにもならない、っていうんじゃ困る」
 遼人の頭に、自分の魔術がもたらした結果が過る。
 魔銃を握る手とは別に、銀のロケットペンダントを握り締める。
「……それに、不可抗力とはいえコイツを持ったままじゃ寝覚めが悪い。面倒だけど」
 元の世界での借り物。本来の持ち主に返すまで、遼人は生き抜かなくてはならない。
 だから、引き金を引く。自らがもたらす『結果』を、受け止める。
「とはいっても、俺の毛皮に血の染みがつくのは御免だがな」
 遼人の魔弾によって四散した返り血を、エイヴァンは嫌そうに避ける。
 派手に噴き出る事がないのが幸いだった。
「せめて、本来の姿に戻れば……!」
 形勢が完全に優位に傾いた今、アンシアは元のユキヒョウの怪人の姿へと『変身解除』する。
 武器であったクローを捨て、自身が持つ本来の爪牙を持ってゴーレムを引き裂く。
「……畜生! やっぱり、外見以外何も変わらん!!」
 肉を削ぐアンシアの一撃は鋭い。操り手の少女とゴーレムの死角に身体を滑らせる身のこなしも十分に速い。
 この程度のゴーレムを一撃で屠れない。その焦燥と不満だけがアンシアを苛む。
「数が減ってからが厄介かね、っと!」
 サンズイは少数の制御に集中されることを警戒し、このまま一気に決めてしまうべく、全力の叩きこむ。
 捨て身の一撃は、最も当たりどころが良かった。無傷だった一体を一気に行動不能寸前まで追い込む。
「ぐっ……!」
 その代償として、反動がサンズイの身を苛む。
 動きが鈍る事はないが、当たる事も考えれば多用はできない。サンズイ一人ならば。
「治します!」
 短く紡いだ遼人の治癒魔術が、サンズイが渾身の一撃を続けて振るった代償を癒す。
「さて、こちらの訓練としても十分。なればこれで終わりにする」
 無表情に仲間達を眺めたSvipulは抑えていたゴーレムを正面に見据え、レイピアを構え直す。
 舞うように身を躱しながら貫き、見極めた弱点と言えるゴーレムの核を的確に貫き、最後の一体の仕留めた。
「……のである」
 ついでに、はっと大事なことを思い出したように、語尾のような口調を後付けして。


「満足していただける戦いぶりであったか?」
「肯定。実にとても良いデータが採れた。感謝する」
 Svipulが問うと、少女は無表情ながらも満足げに頷く。
 Svipul個人としては、無聊を慰める程度でしかなかったが。
(わかってはいたつもりだったが……いざ戦闘でこれは……つらいな)
 一方でアンシアは、レベルダウンの影響を痛感していた。
 決めかねてはいるとはいえ、アンシアが本来の力を取り戻すまでには、多くの経験を積み直さなくてはいけないことだろう。
 少女が奮戦を讃えようと慰めにはならないだろうと判断し、代わりに指を弾く。
 木製のゴーレム達が今しがた破壊されたゴーレムの残骸を片付けていく。
 この分なら戦闘の疲労を押してまで手伝うまでもなそうだ。
「それにしても、手足が吹き飛んでも動きが衰えないゴーレムっていうのは厄介だね」
「いいや」
 腕が吹き飛んでも平然と斬りかかってきたゴーレムを思い出す遼人に、ゲンリーは首を振る。
 ゲンリーが警戒するのはもっと別のものだ。
「殺し合いの場面で最も恐ろしいのは、知恵と意志よ。ゴーレムにはそれが無い」
 意志のない人形ならば壊れるまで襲い掛かって来ても不思議はない。
 しかし、意志を持つ人が、決死の覚悟で襲い掛かってきたら。
 最も重い一撃を振るったサンズイのように、己を顧みぬ覚悟の一撃を振るって来たら。
「相手を殺し生きようとする、それの何と恐ろしい事か」
 人の意志は力となる。それが良い物でも、悪い物でも。
「ああ。ただ平然と襲い掛かってくるなんてマシなほうだ。殺しを楽しむような連中はもっと残酷で悪辣な方法を取ってくる」
 叩き上げの軍人であるエイヴァンは、パイプの煙をふかしながら頷く。
「……意志」
 単語が気になったのか、少女は小さく呟き思案に耽る。
「残念ながらこの訓練は、命の遣り取りまでは学べぬということじゃ」
「それでも、こういう訓練みたいなのは助かるな。実際に経験を積んだ人達の聞けたしね」
 ゲンリーはそもそもの前提を否定するが、遼人は前向きに捉えた。
 覚悟を既に付けた者達だった分、経験のない遼人にとっては多くを学べたことだろう。
「今回は本当に興味深かった」
 新米マイスターにとっても、良い経験になったのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 覚悟を決めた皆さんのそれぞれの意志や想いは、依頼者の少女にとってもただの戦闘テストという想定以上に得るものが多かったことでしょう。
 そして、この経験が皆様にとってもよい経験となれば幸いです。

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