シナリオ詳細
偽物アンティークを救い出せ!
オープニング
●ある従者の嘆き
私達は皆、人の手によって生み出され、人に尽くす生涯を送る事を許されて参りました。
気づけば私も齢250年。一時は部屋の片隅を飾るだけの身でありましたが、今ではすっかりこの群れの家長です。
だからこそ救わねばならないーー若い命を。
おお、親方様! どうぞ彼らをお許しください。
彼らとて、好んで"そう"生まれたのではございません!
もしも、許されないというのなら……願わくば彼らに、救いの軌跡があらん事を!!
●偽物アンティークを救い出せ!
「うーん、また厄介なのと"繋がった"なぁ」
微睡から目覚めた『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)は、人の気配に気づいてゆるゆるとテーブルから身を起こした。
今回集められたのは、特異運命座標達の中でも"ある分野"において優秀だろうと蒼矢が予測し、頼み込んだ者たちばかりだ。彼らを前にして、欠伸を噛み殺しながら蒼矢は問う。
「君たち、アンティーク家具は好きかい?」
聞くところによると、これから向かう先は富豪ヴォルカン氏の大豪邸。
彼自慢のアンティークルームには、珍しい家具が所せましと並んでいるのだとか。
しかし、とここで蒼矢の声が曇る。
「そのアンティークルームの中に、4つほど偽物が紛れ込んだらしいんだよ」
ただ紛れただけならば、時間をかけてでも見極めていけばいい。
しかし、そんな猶予は彼にはないのだ。
何故ならあと数時間も経たないうちに、この部屋の物を使った一大オークションが開催されるのだから!
「ヴォルカン氏は偽物探しに血眼になっている。何せ大がかりなオークションで偽物が出回ったりなんかしたら、笑い者になってしまう事請け合いだからね」
その様子を心配している者がいたーー正確に言えば"物"なのだが。
部屋に集められたうちの本物、燭台のアンティーク家具だ。
恐らくヴォルカン氏は、選りすぐりの鑑定士を集めて偽物探しを始めるだろう。
それ自体は構わないのだが、見つかった偽物達はその後どうなる?
きっと廃棄されるに違いない。紛れ込ませた犯人は悪であっても、偽物達に罪はないのに。
「そんな訳で、君たちの依頼人は"無数のアンティーク家具の中から偽物を見つけ、かつ彼らを救う方法"をご所望だ。
……やってくれるかい?」
- 偽物アンティークを救い出せ!完了
- NM名芳董
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年03月08日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●
「オークションまでもう半日もないぞ。えぇい、偽物はどれなのだッ!」
眉間に皺を寄せ、気難しそうな中年男が部屋の中を落ち着かなそうに歩いている。彼の名はヴォルカン。このアンティークルームの主だ。
その焦りを諭すように、『双惺霊剣』ゲンセイ(p3p007948)が杖を突いて歩み出る。
「心中お察しします」
カッチリと洋装を身に纏い、夜空色の瞳を細めてーー何処からか『やれやれ、よくやる』と言わんばかりの嘆息が聞こえたがーー笑顔で話を続ける。
「我々が迅速に解決しますので! はは、ご安心ください」
「鑑定士もああ仰っておりますし、参りましょう父上。事前の打ち合わせをしなければ」
「うむ。それでは頼んだぞ」
後から来た息子に促され、富豪は後ろ髪を引かれながらも外へ出た。部屋に残されたのは特異運命座標のみ。『深海ルーレット』アルゲオ・ニクス・コロナ(p3p007977)は、ほっと安堵の息をつく。
「何だか息が詰まっちゃいそうでした」
オークションまでそう時間はない。ピリピリした現場になると覚悟はしていたが、彼女はそれ以外にも言い様のない緊張感を覚えていた。
その正体が何なのか、これは調べ甲斐がありそうだ。まずはぐるりと部屋の中を見渡して――
「う~ん、正直家具を見ても本物、偽物わかりませんね!!
燭台さんとお話できるなら、お話して偽物を教えてもらいましょう」
「諦めが早すぎるですの!?」
竹を割ったような判断に『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が肩をこけさせる。とはいえ、依頼主に話を聞くのは賛成だ。
「いらっしゃいました」
"ありました”言うべきか、"いらっしゃいました"と言うべきか。少しの迷いの末、後者をとって『イエスマスター』リンドウ(p3p002222)は部屋の端から古びた燭台を持ってくる。
「この物語の主人公……貴方は、物でありながら心を持つのですね。
……生憎、私には物と会話する能力はないですが」
「わたしも普段は、そんな力はありませんの」
でも、とノリアの目が強い意志を帯びる。
「この世界でのわたし達は、凄腕鑑定士になっているはずですの!
ですからきっと、望みさえすれば……かれらとお話も出来ると思いますの」
「そうだな。俺も普段からシュウレイと喋ってるし」
『小僧、私を他の道具と同じと考えるな』
同調するゲンセイに《七星剣》は不満そうだったが、彼の手元で仕込み杖の姿をとったまま、燭台の方へと意識を向ける。
『とはいえ、ここまで期待されているのだ。裏切る訳にはいくまい?』
『仰る通りですね。皆様、どうもご挨拶が遅れまして』
促されるままに口を開いた燭台は、家長を名乗るに相応しい老年の男の声だった。発声による声ではなく、心に直接語り掛けるような不思議な力で彼は続ける。
『どれが偽物かとの事ですが、それは黙秘と致しましょう。皆様に真に救いたいという気持ちがあれば、私が語らずとも気づける筈です』
自力で見つけ出す事の出来ぬ輩に彼らの命を預ける事は叶わない。期待からの黙秘である。
「まぁ、そう簡単に事が進むとは思ってないさ」
ならば期待に応えるまでだ。4人は頷き合い、各々のすべき事をしに屋敷の中に散って行った。
●
「ご主人様について?」
「はい! 鑑定士の業界でも、ヴォルカンさんは有名なんです。貴重な品を沢山持っていらっしゃるので」
持前の人懐っこさで、アルゲオはすっかり屋敷のメイドの井戸端会議の輪の中に溶け込んでいた。
噂話をきっかけに、不審な人間が家具を売りに来てないか調べる作戦だ。
「ここだけの話、欲しい物は強引な手段で手に入れる事もあるらしいわ」
「それはお仕えしてる皆さんも心配ですね」
「でも、いざとなったらエル様が守ってくれそうよね」
きゃあ、とメイド達が華やぐ。先程ヴォルカンを『父上』と呼んでいた男の事らしい。
「ヴォルカンさんに息子さんがいらっしゃるの、今日はじめて知りました」
「本当に? ご主人様よりエル様の方が、鑑定士様の間では知られていると思ってたわ」
「……それ、どういう事ですか?」
細く息を吐き、ゲンセイは瞳を伏せる。武人として気の流れには敏感なつもりだ。
研ぎ澄まされた直感力が、他とは異質なる気を持った存在を嗅ぎつける。
部屋の隅に置かれていたチェストのうちのひとつに向かい、彼は目線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「もう大丈夫。俺達が来たから」
感じ取れたのは怯えによる気の乱れ。きっと”彼ら”も怯えきっているのだろう。
優しく触れてやると、ほんの少しその乱れが緩和されたような気がした。
「よし、これで2つ目だな。そっちはどうだ?」
声をかけられたのが自分だと気づくと、リンドウは頷いた。
先に見つけられた偽物アンティークの椅子を見下ろしつつ、手元の鑑定書に書き込んでいる。
「やはり今回の偽物、かなりの精巧な物のようです」
リンドウは考える。例えば、1から偽物を作るにしても出来るのは新品だ。
アンティークは時を経て熟成されるのが魅力だが、それらと新品の区別はヴォルカンなら分かるはず。
彼が分からないなら、それぐらいの技量を持った方が作ったという事だと。
「逆に言えば……それだけの技量を持った方に偽物作成の依頼をするぐらい、誰かの怒りを彼が買ったという事ですが」
「富豪の家具に対する意識変えられないかな。俺の自己満足だけど、優しい燭台さんの“願い”大事にしたい」
偽物達も、望んでその姿で生まれた訳ではない。願わくば破棄されず、第二の人生を。
その為にもリンドウが、偽物の価値を『美術知識』と『鑑識眼』で見つけ出そうとしていた訳だが。
(不思議です。調べるほど、この偽物達からは愛情を込めたような作り手の丁寧さが感じられる。……Mr.アオヤ、貴方はこれを知った上で私達に託したのですか?)
己にこの依頼を持ち掛けた境界案内人を思い出し、リンドウは口を紡ぐ。
考え込む彼女の隣に、新たに見つけた偽物のアンティークランプを抱えたノリアが、家具の間をスーッと泳いで舞い戻る。
「本物には、高くて手が届かないけれど、アンティークな内装がほしい、という方は、きっといますの。リンドウさんが鑑識眼を持っていらっしゃって、助かりましたの!」
「皆さんが彼らを探し出してくれるから出来る事です」
リンドウに真っすぐ褒め返されて、ノリアは照れながら尾ヒレを動かし空中でターンした。最後のひとつを見つけるために、もうひと頑張りしなくては!
「あなたは、アンティーク家具でしょうか? それとも、アンティーク風の家具でしょうか?」
彼女の偽物探しの方法は、家具ひとつひとつに声をかける地道な作業によるものだ。
《偽物》ではなく《様式を模倣した家具》として丁寧に扱う彼女に、家具達は心を開いて返事を返してくれていた。
『ワタクシは違いますわよ』
『俺は齢120ほど。立派なアンティークだ』
『ケッ、そう簡単に教えてやるかよッ!』
語り掛ける中で、コート掛けの家具が怒ったように言葉を返し、ノリアは目をぱちくりさせる。
(この子の態度、もしかしたら模倣の品だからかもしれないですの)
「たとえ貴方が模倣でも、本物には高くて手が届かないけれど、アンティークな内装がほしい、という方は、きっといますの
どんなものでも、最初は、質なりの値段……大切にされた思い出を重ねて、価値を高めていってほしいですの」
だから安心して欲しい。優しさのこもったノリアの囁きに、コート掛けは『お前……』と言葉を詰まらせた。
『信じていいんだよな。俺達みんな、助かるよな?』
「勿論ですの!」
破棄なんて、絶対にさせるものか。固く誓うようにノリア達が頷くと、情報収集に出ていたアルゲオが息を弾ませ部屋の中へと飛び込んで来た。
「おかえりなさい、Ms.アルゲオ……いえ。アル…ちゃん?」
呼び方を本人に言われた物に呼び変えて首を傾げるリンドウに、彼女は元気なVサインを返して笑う。
「分かっちゃった。偽物混ぜた人!」
●
オークションまで、あと一時間。
ヴォルカンが部屋に戻ると偽物が選り分けられていた。
「おぉ、これが偽物か!」
「えぇ。しかし気がかりな事がありまして。実は私、物の声を人に聴かせる事ができるのですが」
深刻そうな表情でゲンセイが手近に置いてあった燭台を手に取る。
『……親方様…どうか全ての家具に憐みと慈しみを』
どこからかさめざめとした少女の声(で演技している七星剣)の声に、富豪は驚きながらも声を荒げる。
「知った事か、こいつらは破棄だ! 全くワシを惑わしおって!」
「それが例え、息子さんの作品でも、ですか?」
アルゲオの問いかけに驚いたのはヴォルカンだけではなかった。後ろに控えていた息子のエルもだ。
リンドウが手元の鑑定書を2人へ向ける。
「偽物は全て『エル・コレクション』。Mr.ヴォルカンのご子息が立ち上げたブランドと断定します」
「息子さんの部屋からアンティークルームへ業者が何か移動させたっていう証言も、今回のオークションを富豪さんに提案したのが息子さんだって事も、アルちゃん証言を取って来ました!」
何故こんな事を? アルゲオに問われると、エルは自嘲しながら顔を背ける。
「私怨ですよ」
父親が家具好きと知って、デザイナーを目指した。けれど愛されるのはアンティークばかり。
ならば混ぜよう、偽物を。そして証明するのだ。本物と違わぬ価値がある事を――。
「本当に私怨だけでしょうか」
リンドウが見抜いた、偽物に込められた愛情。その真意は。
「お父様のお傍に、自分の家具を置いて貰いたかったのではありませんの?」
ノリアが言い当てた瞬間、エルは膝から崩れ落ちた。
「父上、私は――」
「もうよい」
ヴォルカンが上を向く。零れそうになる涙をこらえる様に。
「オークションは中止だ。今すぐこの家具達を、ワシの部屋に飾るのだ!」
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
花粉が多くて大変な時期になったので、室内で頑張っていきましょう!
●目的
今回達成すべき目的は2つです。
・アンティークルームに紛れた4つの偽物を見つける。
・偽物アンティーク家具達が廃棄されない方法を用意する。
●世界『ある家具の一生』
とある家具の一生を描いた一冊。得意運命座標に依頼を出した燭台アンティーク家具さんが主人公の本です。
●登場人物
燭台さん
古びたアンティーク家具。約250歳。この本の世界の主人公でもあります。
色々な人の手を渡る中で、人間と家具の関係が素敵なパートナーであり続ける事を願う、心優しい家具として育ったようです。
富豪ヴォルカン
その名の通り富豪です。現在の燭台さんの主人でもあります。アンティーク家具を集めるのが大好きなのですが、欲しいものを手に入れるために手段を選ばない、やや強引な性格のようです。
今回偽物を混ぜられたのも、誰かからの私怨によるものと、屋敷の仕様人達が噂しています。
『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)
皆さんに今回の依頼を任せた案内人です。怠惰ですが、誰かが困っていると助けずにはいられないお人よし。得意運命座標のサポート役として、呼ばれれば小さな手伝いくらいはするかもしれません。
●その他
・この世界では皆さんは『凄腕鑑定士』です。そういう設定で潜り込めるように境界案内人が手配しました。ヴォルカン氏は皆さんを協力者として信頼しています。
・偽物アンティークを見つけるために「この非戦スキルが必要です」というのはありません。自由な発想で見つけ出してください。
それでは、よい旅を!
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