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シナリオ詳細

旅館のお仕事、しませんか

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●旅館のお仕事しませんか
 畳部屋。木と草のまざる独特の香りに乗せて、どこか心の落ち着く香を炊く。
 座椅子に腰掛けて外を見やれば、山々とはるか眼下の湖。
 ここは山中に建てられた温泉旅館だ。
 混沌事情にマッチして部屋は板間畳間水槽間。お風呂も男湯女湯不詳湯と揃えたこの旅館……創業なんとゼロ年である。
「いい建物に仕上がったねえ」
 くるりとした髭を指でつまむ小太りな男、幻想貴族のノージィ氏である。
 そのそばに立って香を炊いていたのはメイド長のカチュウ。カチュウは資料のファイルを開くと、眼鏡のブリッジを中指で押した。
「ノージィ様、ひとつお窺いしたいことがございます」
「怒らないで?」
「まだ何も言ってません」
 キラリ、と眼鏡のレンズが光った。
 ファイルのページを一つつまんで見せる。お金関係の書類である。
「建物の費用に全てつぎ込んだとはどういう了見でしょうか」
「だっていろんな人が喜ぶ旅館にしかたったからァ……!」
 頭を押さえてうずくまるノージィ氏。
「予算をほぼつぎ込んでまで……」
 はあ、とカチュウはため息をついた。
 よかれと思ってやったこと。人のためにやったこと。
 貴族らしい立派な行ないだが、貴族社会ではすぐ死にそうな行ないである。
 なれば叱るは道理にたがう。
「入場料を増やすというのは?」
「えっとね、それがね……」
 両手の人差し指をつんつんとつつきあわせるノージィ氏。
「なんでしょう」
「怒らない?」
「もう怒ってます」
「ごめん……! 初日の招待券を沢山配っちゃったの……!」
 頭を下げるノージィ氏。
 メイドに頭をさげるな、と言う場面でもあるまい。
「仕方ありませんね。お金はノージィ様のポケットマネーでまかなうとして」
「えぇ……」
「人手不足は必至。ならば、困ったときの『あの方々』です」
 カチュウはピッと万年筆を取り出すと、手紙を一筆したためた。

 ギルド・ローレットの皆様。
 旅館のお仕事しませんか。

●料理に接客掃除に洗濯、メイドの仕事は百万通り
 かくして、ローレットに『旅館のお仕事』が依頼された。
 依頼内容はざっくりシンプル。
 掃除、料理、給仕に挨拶。その他接客もろもろ。
 得意な(または好きな)ポジションへ入ってもらってよいという。
 今回はあくまで助っ人扱いではあるが、どこのポジションも人手不足であるため、どこへ入ってもらっても助かるという具合だ。
 乗り切るべきは初日の大賑わい。
 分からないことやできないことはメイド長のカチュウさんが教えてくれるというので安心だ。
 さあ、山の温泉旅館へ出発しよう!

GMコメント

【依頼内容】
『スタッフとして温泉旅館の大賑わいを乗り切る』

ポジションは好きなところに入ってもらって構いません。
既に通常運行くらいはできる人員がいるんので、そこに加わる形になるでしょう。
なにげに皆、殆どの人たちが初対面同士なので場をなごませる役目なんかも、あるととっても喜ばれます。

【旅館のお仕事】
 いくつかポジションによって異なりますが……

・料理場
 朝、昼、晩の料理を作って作って作りまくるのがお仕事です。
 食材はなんとか調達できますがとにかく人員がたりません。
 料理の内容を工夫する提案をしてみたり、料理のしかたを変える提案をしてみると、調理場全体の効率が上がったり下がったりするでしょう。

・給仕
 各お部屋に料理を運ぶタイプの旅館ですので、お膳をもって運ぶ必要があります。
 なんといってもスピードと安定性が大事。
 たまに話し相手になってあげたりすると喜ぶ人もいるでしょう。

・掃除
 人が沢山いるとそれだけ沢山汚れます。
 館内やお風呂の掃除が欠かせません。
 割と全員がやるお仕事なので、ポジションにかかわらずみんなやることかもしれません。

【旅館の特徴】
 ノージィ氏が新しく建設した温泉旅館です。
 こじんまりとしているが趣のある、落ち着いた所です。
 部屋数は(満員状態でも8人増やすだけで足りるくらいには)多くないですが、比較的お金持ちのお客さんが多い印象があるようです。

【NPC紹介】
・『貴族』ノージィ氏
 幻想貴族。王都寄り。
 人がよく人望があり領地の民にも好かれている。
 そのぶん周辺貴族からのプレッシャーに弱い。
 頼まれると嫌とは言えない性格。
 オーナーなので初日は事務所にいる。今回、お金出す以外はあまり役に立たない。

・『メイド長』カチュウさん
 ノージィ氏のメイドを束ねる存在。
 しっかり者でノージィ氏のサポートをよくする。
 今回のPCサポート枠。今回は『家事全般』『接客』『礼儀作法』のスキルをとっており、分からない人や苦手な人に教えることができる。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • 旅館のお仕事、しませんか完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年03月24日 22時00分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

レンジー(p3p000130)
帽子の中に夢が詰まってる
那木口・葵(p3p000514)
布合わせ
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
クォリエル・クォンタイズ・クィジナート(p3p001026)
お気楽極楽羽鳥天
琴葉・結(p3p001166)
魔剣使い
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
ボルカノ=マルゴット(p3p001688)
ぽやぽや竜人
えーこ(p3p002219)
影女
メリル・S・アステロイデア(p3p002220)
ヒトデ少女
マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー

リプレイ

●接客は心の技術
 庭にししおどし。
 水の流れは悠久に、遠い木々のざわめきは被る。
 ここは幻想貴族ノージィ氏の新設した温泉旅館である。
 お金になるから流行っているからという理由でなく、喜ばせたいからでぽんと作ってしまうあたり、幻想小貴族ならではといったところか。
「ノージィさん、また思いつきで大変なことになって……」
 断われない性格って大変そうだなあと、少し前を懐かしむ『空歌う笛の音』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)。
 彼はいつものキチッとした服装の上に旅館専用のハッピを来て、いつもの帽子をとっていた。
 不思議なもので、こうしてみるとすっかり旅館の従業員に見える。
「アクセルさん、今回もどうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ。色々教えてね」

 まだ使われていない広間では、早速カチュウさんによる接客練習が始まっていた。
「色々と新しい体験もできるかなと思って依頼を受けてみたよ。期待に答えられるように精一杯頑張るよ! よろしく!」
「私も勉強になると思って。精一杯勤めましょう!」
 『大賢者』レンジー(p3p000130)や『布合わせ』那木口・葵(p3p000514)が、同じく練習中の従業員たちに混じっている。
「それにしても、マニュアルはきちんとあるのね」
 『魔剣使い』琴葉・結(p3p001166)ははじめに渡された『もてなしの作法』というハンドブックをぱらぱらめくっていた。
「恥ずかしい話ですが、それはお屋敷にお客様をお招きする際の手順書なのです。旅館専用のマニュアルは、これから作らねばなりません」
 なるほど、あちらもこちらも駆け出しということか。
「なるほど……なかなか難しいね。……こう、かな?」
 早速お膳の出し方や下げ方を実際に練習しはじめるレンジーたち。
 それらしい形があるというのはなかなか難しいもの。
 『お気楽極楽羽鳥天』クォリエル・クォンタイズ・クィジナート(p3p001026)も手際の良さには自信があったが、形を覚えるにはなかなか苦労した。
「けど大丈夫、孤児院で鍛えたおもてなしスキルが今こそ火を噴くっすよー! ねっ、カーさん」
「カーさん」
 真顔のカチュウさんを何かが打ち抜いた。
 クォリエルを胸に抱きかかえると、シャッとノージィ氏を振り返る。
「この子を」
「持って帰ったらダメだよ?」
「扱い方を知ってるっすね、ボス」
 ボスと呼ばれたノージィ氏。ボスっていうか気の弱い親戚のおじさんみたいな人である。
 隣では『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)がポチをつれて一緒にお茶を飲んでいた。
「本当に助かったよ。急なことで、ごめんね」
「よかれと思ってやった事かもしれんが、次からはちゃんと気を付けるようにな」
「まったくだよ。どうにもね」
 頭をかりかりとやるノージィ氏。
 潮は窓の外を見上げた。

「よろしくねー。あ! よろしくお願いします! 色々教えてもらえると嬉しいです。料理は食べる方が好きです!」
 『ヒトデ少女』メリル・S・アステロイデア(p3p002220)が元気に両手を挙げた。
「従業員どうして敬語なんかつかわなくていいよー。歳も同じくらいだし」
 持ち前の人なつっこさで早速空気になじんでいくメリル。
 その一方で『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)は自作した研修バッジを胸につけていた。
「どーも、こんにちは、マリナです。船を買う金欲しさにこのお仕事を希望してみました。よろしくおねげーします。接客経験とかまったく無いですけど……やる気はあります、たぶん」
 むん、と片腕だけで軽くガッツポーズをしてみせるマリナ。
「服装は和服がいいんでしょうか? メイド服がいいんでしょーか?」
「ああ、それなら……」
 しばらくして、メリルとマリナは水色の可愛らしい和服に着替えていた。
 柄物のちょっぴり華やかな和服である。旅館っぽいようなそうでないような、どっちにしろ二人がそうそう着ない服なのは確かだ。

 一方、広々とした厨房では。
「はい! イレギュラーズの我輩こそボルカノ=マルゴットである! 皆さんよろしくであるよー!」
 『ぽやぽや竜人』ボルカノ=マルゴット(p3p001688)は赤く屈強な身体にどこか人好きする笑顔をした竜人が割烹着をきて胸をはっていた。
 岩とか素手で握りつぶしそうな見た目をしているが、ちょっと話せば気のいい奴だとすぐにわかったようで、厨房スタッフからは割と早く受け入れられた。
 その横には『影女』えーこ(p3p002219)。モノクロカラーのぺらぺらした影が浮かんでいる。
「影女のえーこでごぜーます。今日はMPを補充させていただくつもりでごぜーます」
「MP……」
「MP(メイドポイント)でごぜーます」
 えーこはそう言うと、自分の姿に色をつけ始めた。なぜかポーズをとって。
「潮さんとはもう挨拶が済んでる。二人は料理が得意ということだから、まずはメニューのひとつを集中して手がけてほしい。希望や提案はあるかな?」

●憩いの日常、非日常
 接客というものは、なんと壮大な技術であろうか。
 例えば天と地を作り海をはり森をはやすように、旅館を建て温泉を沸かし膳を置くのだ。
 客はそれまでの日常から離れ、地続きの異界にて心と身体を休めに来る。
 温泉旅館とは、人の作りし異界の楽園である。
 ……とか、ふと思ってみた。
「この分だと、神様もさぞ重労働におわれているんだろうね」
 レンジーが珍しくぜえぜえと肩で息をしていた。
 空っぽになったお膳を沢山重ねて、競歩と歩きの中間くらいの、それでいて背筋をぴんとのばした整った姿で旅館の外道をゆくのだ。
 時折客の目にとまれば、必ず気づいて礼をする。
 そのからくり人形のようなキッパリとした動作をこなすことの困難さたるや……。
 レンジーはいつもの帽子やコートを脱いで、華やかな和服に身を包んでいる。長い髪も綺麗にまとめ、美しいからと花弁のような耳を見せるように晒していた。
 葵もそれは同じだが、元々あちこち整った彼女であったので和服を着せてみただけで随分と様になった。
 大きなぬいぐるみたちを後ろに連れ、空の膳を多く運ばせている。
 カチュウさんに教わったきっちりとした礼儀作法や接客の振る舞いは、さすがにぬいぐるみたちにまで教え込めなかったものの、その分を葵自身が補っている形である。
 それだけでは寂しかろうと、葵はぬいぐるみたちにも簡単な和服をきせて旅館の雰囲気に合わせていた。
「それにしても……」
 と、足下をみやる。
 ぬいぐるみが歩けばホコリだらけになってしまうのではと足袋をはかせてはいたが、裸足で歩いてもホコリひとつつかないのではというほど、廊下は綺麗に磨かれていた。
「どうやら、みんな頑張っているみたいだね」
 わたしたちも負けていられないなと、レンジーは背筋を伸ばした。

 お客様は神様というが、どちらかといえば神は施す側にあるのでは。
 お家を建てるもご飯を作るも、それをみんなの前に並べるも、みな神の所行にほど近い。
 などと、そんなことをまるで考えさせもしないクォリエル。
「炊き出しと集団生活で培った素早く正確な配膳には自信アリっす!」
 てやーと言って空のお膳を布にまとめ、両手の下にぶら下げて旅館の外を飛んでいく。
 愛嬌というのは大事なもので、客とすれ違うたびにチョット無理をしてでも手を振って笑ってみせるクォリエルに、気分を害する者はなかった。スキルやクラスとはまた別の、人柄による恩恵であった。
 放っておくと、宴会場で酔っ払った客と一緒に肩を組んで歌ったりしているので、たまに引っ張っていく必要はあるが……どうにしても、客に愛される娘であった。
 愛されるといえばマリナもたいしたもので、風呂場や廊下をデッキブラシやモップでたったかお掃除したかと思えば、いつのまにか裕福そうな客と話し込んでいたりする。
「おうちの家計が苦しくて……。少しでも助けになればと思いまして……。家の為を思えば、全然大変じゃないです」
 なんて、少し(もしかしたら全部)嘘みたいなことを言って、心付けを貰ってガッツポーズをとったりしていた。
 『ふっふっふ、完璧な策略でごぜーますね』なんて言ってはいるが、これはこれで愛嬌のある子のようで人を見かけるたびに挨拶を欠かさず、誰かが困っていればすかさず手を貸す機敏さがあった。愛嬌というより、むしろ要領がいいのやもしれぬ。

 慌ただしく初日の仕事が流れていく。
 早朝、アクセルはせっせと廊下や空き部屋の掃除にかかっていた。
 気立てのよいアクセルは随分となじみ、ディープシー向けの水槽間の水を入れ替えては壁をせっせと磨いている。
「そうだ。そろそろお風呂の掃除もしなくっちゃ。あっちはどうなってるのかな」
 ふと外を見やれば、青空に雲が流れている。
 同じ雲の下。
 メリルは風呂場の掃除に勤しんでいた。男湯と女湯の間にある不詳湯である。
「やっぱり眺めいいね! よーし、ぴかぴかにするぞー!」
 えいさーいといってデッキブラシを振りかざすメリル。
 何事もがんばりが肝心だ。
 端からしっかり、一生懸命掃除をしていると、手伝いにレンジーがやってきた。
「昨日から思っていたけれど、この香りは……」
 どうやらレンジーは温泉に含まれる薬効が分かるらしい。肩こりや皮膚の傷にもよい効果がありそうだ。
「看板に薬効を書いておくと、喜ばれるかもしれないね」
「そういうものかな。後でノージィさんたちに言ってみようね!」
 一方こちらは女湯側。結がデッキブラシを手に露天風呂の掃除を始めていた。
「さぁ気合いれて掃除しましょう!」
『イヒヒヒ、せいぜい仲間の足を引っ張らないように気を付けるんだな!』
 彼女の魔剣がちょっかいをだしてきた。
 口をとがらせてぺいっと壁際に置いておく結。
『ほら、角の掃除を忘れてるぞ』
「分かってるわよ」
 温泉は旅館の目玉。楽しみにやってきた人ががっかりしてはいけないと、結は念入りに掃除を続けていた。
 するとどうだろう、ふんわりとどこかから良い香りがしてくる。
「これって……」
「お料理が始まったのでごぜーます」
 えーこと葵が鶏卵の入った網袋を手にやってきた。
「確か以前会った旅人の方が温泉には温泉卵と言っていました」
「葵様がこう言いますので、厨房でも今日だけ試しに作ってみようかと」
 源泉からの熱で調理をする機材は(専用の調理機材とは別に)存在しているが、古典的な作り方もよいものだ。何かしらよい影響があるやもしれぬ。
 厨房では早朝から仕込みが始まり、朝ご飯に向け忙しい時間が始まろうとしていた。
 温泉から戻ってきたえーこがきゅっと帯(?)を締めた。
 ボルカノや潮もそれぞれ厨房に入り、せっせと作業にかかっている。
「MPのお嬢さん、あんたには蒸し物を頼みたいんだが」
「わーちにお任せあれ、でごぜーます」
 魚や野菜の蒸し物を作る作業にかかるえーこ。
「それにしても……家庭的な料理ばかりでごぜーますね。お金持ちが多くやってくるのでは?」
「逆さ。家や近所で高級な肉料理や珍味ばかり食べていると、静かな場所で静かな料理を食べたくなるのさ」
「なるほど、納得である」
 ボルカノが巨大な鉄鍋に油を満たし、手際よく衣をつけたエビを滑りこませている。
 このボルカノ、釣ってきた魚をまるごと油で揚げそうな外観をしているものの、中身は繊細で丁寧な男であった。
 厨房の掃除をするときも『きれいになあれーきれいになあれー』と小さく口に出しながら雑巾がけをしているものだから、今では一部で『ボルちゃん』と呼ばれるほどである。
 一方で潮は味付けの優しいお吸い物を作っていた。
 寸胴鍋をくるくると混ぜ、小皿にとって味を見る。
 みるからにサメの潮であるが、中身は心優しくマメなダディのようで、厨房に入るなり道具の配置や消化器の確認などひたすら細かい仕事をこなしていた。
 彼も彼で潮ちゃんとか呼ばれていた。
「ボルちゃん潮ちゃん、どうだい」
「あがったのである。味見を」
「こっちも良いぞ。頼めるか」
 味見を通して、親指を立てる料理長。
「グッドだ。明日からもここで働くかい」
 はっはっはと冗談を流していると、ポチがふよふよとやってくる。
 みっちり練習した従業員たちほどキッチリした接客ができないとはいえ、なんだか愛嬌のあるポチ(空を泳ぐサメ)は客たちに愛された。
 かくしてできあがったメニューは小皿の多いコース料理だ。
 えーこや潮、ボルカノたちのアイデアも交えて作ったものだ。
 全体的に和風のつくりで、コースのカテゴリーも和風である。和風ってなんだという話ではあるが……さておき。
「小鉢、青ゼンマイの酢味噌和え。八寸、回転キノコを中心にした前菜の盛り合わせ。焼き合わせはワタリオサシミの炙り。御造りはイカオサシミとマグロオサシミを中心にした。進肴に温泉卵と豆腐を添え、焼き物としてテリヤキチキンの味噌焼きを選んだ。蒸し物と揚げ物は……」
 えーことボルカノがそれぞれ膳に並べていく。
 魚や野菜の蒸し物と、ワタリエビオサシミの天ぷらだ。
 酢物としてポポポ酢が選ばれ、釜飯と同時に並ぶ。
 潮の作ったお吸い物やつみれ汁が脇をがっちりと固める、幻想の和食コース料理である。
 一度カチュウさんとノージィ氏に味見をさせ、これでよしという承認を得てからの配膳である。二人はやってくれと頷きを見せ、レンジーや葵、アクセルにクォリエル、結、メリル、マリナといった面々が配膳のために勢揃いして帯を締め直していた。
「さあて、もう一日いきますかっ」
 誰からそんなことを言ったのか。されど心はひとつ。気合いを入れて、彼らは今日も地上の楽園を作りに行った。

●楽園は続く
「追加人員も到着しました。これで旅館の業務も軌道に乗るでしょう」
 人数分の封筒を、一度ノージィ氏へとわたすカチュウさん。
「皆、ありがとうね。急なこととだし専門外なことも多かったのに、精一杯働いてくれたこと、とっても嬉しかったよ」
「そうですね。皆さんには『業務の穴埋め』という枠を超えて、沢山お世話になりました」
「ひゃっほう!」
 封筒を貰ってぴょんぴょんするマリナ。
 メリルもなんだかほっこりした様子だ。
「だってさ! ねえ、カチュウさん、あれもいいよね!」
「……まあ、構いませんよ。はじめからその積もりでしたから」
 ボルカノや潮たちが首を傾げていると、ノージィがさっとチケットを取り出した。
「契約期間はまだ一日残ってるよね。だからこの間、僕が一泊分ご招待するよ!」
 ほほうこれはまた、とえーこ。
 結は魔剣が余計なことを言わないようにぺしんとやって、クォリエルやアクセルはどこか満足そうに頷いた。
 この旅館がいいところなのは自分たちが知っている。よくしたのも、自分たちだからだ。
 レンジーと葵が顔を合わせ、『やってよかったね』と頷きあった。

 このあと、皆は温泉旅館を一日たっぷり味わって、心身共に回復してから帰って行った。
 またいつでもおいでと、こっそりもう一枚のチケットを貰って。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。
 温泉旅館のお手伝いだけでなく、一泊して堪能してこられたのですね。
 きっと旅館の皆様にとっても、よい思い出になったことでしょう。

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