PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ディグアウト・ディグ・ディグ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング



 大地に注ぐ穏やかな陽光。程良く温まる体を冷たさの残る風が撫でていく。そんな眠気を誘う穏やかな春の街道を、一台の幌馬車がのんびりと進んでいた。
 首都メフ・メフィートへの道はそう穏やかなものばかりでは無いが、芽吹き始めたばかりの大地には、そうそう人の隠れられそうな茂みは無い。廃屋や洞穴の類も無く、その区画に限れば比較的安全と言えた。
 よって、御者が転寝をしてしまうのも、致し方ない話では有った。手綱を握ったまま、こっくりこっくりと船を漕ぐ。それ程までに穏やかな日だ、主である商人も、馬車の中で寝息を立て始めていた。
 甲高い馬の嘶きが響いたのはその時だ。御者が肩を跳ねさせて飛び起きれば、馬車引く馬が何かを訴えるような瞳で御者を見ていた。周囲に人影は無く、春の日差しは相変わらず穏やかだ。怪訝に思う御者だったが、馬は指示を仰ぐように彼の顔を見つめたままだ。寝ぼけ眼を擦り、馬から降りて状況を確認する。街道に視線を落とせば、ははあ、と御者の口から納得の息が漏れた。
 穴だ。街道に穴が空いている。それも多数。ぽっかりと空いた穴は規則性も無く、乱雑に掘り返されているように見える。凡そ、人の手によるものでは無いだろう。となればここで、盗賊の類に襲われる心配はなさそうだが。ぐるりと周囲を確認すれば、成程、気付かなかっただけで通ってきた道にも所々穴は開いていた。ますます何かの意図があるとは感じられない。思案する御者は商人と護衛の傭兵数人に状況を説明すると、一度街道を引き返す事を提案した。渋る商人を何とか説き伏せ、さて馬に跨ろう、と幌馬車の裏手から前へと戻ったのだが。
 馬が居ない。はて、繋いだままの馬が何処かへ逃げる筈も無く、また良く調練された馬が御者が少し離れたくらいで逃げ出すとは考えにくい。どうしたのか、と首を傾げながら歩を進め、

 御者に出来たのは、そこまでだった。

 彼の背後に空いた穴から這い出したそれが、巨大な嘴で御者の首をもぎ取ったのだ。
 それは大柄の御者と差は無い程の体格を備えた怪鳥だ。翼は退化して名残を残すのみだが、下肢は異様に発達し、隆々とした筋骨を備えている。血に塗れた嘴はへらのように扁平で、所々に土がこびりついていた。
 怪鳥はぐるりと長い首を巡らせると幌馬車へと目を向ける。幌馬車は既に彼の仲間に襲われていた。車輪を噛み砕かれ、傾ぐ車体から面食らった傭兵が飛び出し地面へと引きずり込まれて悲鳴を上げた。簡素な革鎧に身を包んだ別の傭兵は、防具の上から心臓を貫かれて絶命する。その隣では、脇腹を食い破られたまた別の傭兵が、夥しい量の血を流しながら痙攣していた。獲物の無い数羽の怪鳥が馬車の中へと押し入り、やがてくぐもった悲鳴が響く。
 そうしてものの数分後には、馬車すらも解体され、後には穏やかな春の日差しと、穴だらけの街道が残るのみだった。



「何というかその、大惨事、なのです……」
 やや青褪めた顔のユリーカが、イレギュラーズを前に声を落とす。テーブルの上に散らされた書類には被害状況が記されており、それによれば既に死者は十人を超えたという。発覚していないのも含めれば、数はもっと多いかもしれないが。
「ローレットに依頼されたのはこの怪鳥、便宜上ディグディグと呼ぶ事にするのですが、これの殲滅なのです」
 ちなみに名前はボクが付けました。ユリーカが真顔で余計な情報を付け加える。
「報告によれば『周囲は遮蔽物の無い街道のど真ん中。相手は自在に地中を移動する為対策は必須。どうやら音を感知して地上に頭を出すようで、試しに石を投げてみたら顔を出した。目は然程良くないようで、息さえ潜めて居れば近くに寄っても感知されない。獲物が見つからなければすぐ地上に戻る。数は十、きっちり全員誘き出したから間違いない』……とのことなのです」
 ほーこくしょ、と銘打たれたそれを読み上げ、ユリーカはイレギュラーズへと向き直る。
「穴だらけになった街道はメフ・メフィートの商会の方から人員が派遣されるそうなので、気にしなくても良い、との事なのです」
 大口の取引のため何処が取るか纏まらず、施工まで時間が掛かるかもしれないが。
「とにかく、依頼されたのはディグディグの駆除まで。いっそ派手に穴をあけるくらいの勢いで、ばばーんとやっちゃうのが良いと思うのですよ!」

GMコメント

 どうもこんにちは。へびいちごです。風邪も完治しました。
 今回はシンプルな討伐依頼。ダッといってガッとやる簡単なお仕事です。
 以下、判明している情報。
『幼鳥ディグディグ』
・普段は地面を潜行し、狩りの時のみ地上に姿を現す。
・地上に姿を現した際、至近に獲物が居ない場合、すぐに潜行し直す。
・音で獲物を感知するようで、それ以外の感覚器官は鈍い。
・地中に引きずり込んだり、スコップの様な嘴で突き刺したりと攻撃パターンは多様。ただし、遠距離攻撃手段は持たない。
・数は10。他に群れも無く、恐らく好事家の貴族が何処かから秘密裏に取り寄せようとしたものと考えられる。
・肉は淡泊でクセの無い味。

 以上。皆様の創意工夫溢れるプレイングをお待ちしております。

  • ディグアウト・ディグ・ディグ完了
  • GM名へびいちご(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年03月27日 21時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アート・パンクアシャシュ(p3p000146)
ストレンジャー
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
ハクウ(p3p001783)
静寂の白
ヴァレット=クレッセント(p3p004087)
第二の月のアサシン
ヴィエラ・オルスタンツ(p3p004222)
特異運命座標
シレオ・ラウルス(p3p004281)
月下
ルクス=サンクトゥス(p3p004783)
瑠璃蝶草の花冠
ケイティ・アーリフェルド(p3p004901)
トラッパーガール

リプレイ

●ディグイン・ディグディグ
「今回はモグラみたいなのが相手なのね」
 乱暴に揺れる馬車の中。広げられた資料を確認しながら、『特異運命座標』ヴィエラ・オルスタンツ(p3p004222)は臀部に感じる振動に身じろぎする。今回用意されたのは彼女の良く知るキャリッジではなく、貨物運搬用のワゴンだ。乗り慣れていない者にとっては辛い道行きで、見れば他にも黙って座り直す者、僅かに眉を顰める者も居た。「モグラ叩きかよ」と零す『月下』シレオ・ラウルス(p3p004281)も、些か居心地が悪そうだ。
「幼鳥ディグディグ……今のうちに、何とかしないといけないね」
 『ストレンジャー』アート・パンクアシャシュ(p3p000146)が、同じく資料を眺めながら呟いた。参考として加えられた一文には、成体の体長は五~十数メートルにも及ぶ、と有る。想像するだに恐ろしい相手だ。万一打ち漏らしでもすれば、より被害が拡大するであろう事は想像に難くない。
「危険な相手には変わりない。気を付けて戦おう」
 矢筒に矢を詰めつつ、『静寂の白』ハクウ(p3p001783)が淡々と告げる。矢筒から除く赤い印の付けられた矢羽を見て満足気に頷くハクウに、勿論、という声は聞こえたかどうか。
「どうあれ、これ以上被害が出る前に終わらせんといかんのぅ」
 成熟する・しないに関わらず、既に少なくない被害は出ているのだ。会話に参加しながらも、『瑠璃蝶草の花冠』ルクス=サンクトゥス(p3p004783)の視線は並べられた触媒に注がれていた。ひとしきり確認を終えると、慎重に鞄に詰めていく。
「あら、クレッセントさん裸足ですのね」
 雑嚢を漁る『第二の月のアサシン』ヴァレット=クレッセント(p3p004087)に『Pitfall』ケイティ・アーリフェルド(p3p004901)が声を掛ける。確かにヴァレットは裸足だ。細くしなやかな脚には、申し訳程度に包帯が巻かれているに過ぎない。しかしそれでは危なかろう、と。
「良ければ私の靴をお使いになって下さいな」
 差し出された予備の靴を前に一瞬、視線が泳ぐ。短く礼を言ってヴァレットは靴を受け取った。足を入れてみれば少しだけ踵が余る。視線を雑嚢の中に落とし、
(後で履き替えよう)
 残念だけれど。気持ちだけは有難く頂戴して、内心で独り言ちた。幸いにしてケイティの目は、すぐに御者席から顔を覗かせた『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)へと向けられた。
「そろそろ現場につくわ。準備は良い?」
 レジーナは先んじて飛ばしていたファミリアーの視覚から、自分たちの乗る馬車が現場に近付きつつあると知ったのだ。知らず相手の狩場に足を踏み入れ、全滅するのは愚者の仕事だ。そして、イレギュラーズは愚者ではない。
 全員から頷きが返るのを確認すると、レジーナは隣の御者に馬車を止めるよう指示する。
「さて、害獣駆除といこうか」
 気負った様子も無くシレオが言い、イレギュラーズは表情を引き締めて街道へと降り立った。


●ディグアウト・ディグディグ
 穴だらけ街道の上を、陽動班であるハクウとルクスの二人が飛ぶ。見下ろす光景はケイティであれば家の庭園のようだ、と言うだろう。事実、地上で彼女はそう呟いていたのだが知る由も無く。適当な石を放って一度敵の位置を確かめた後、ルクスは静かに地上に降りた。戦闘が始まれば、ギフトでの飛行は難しくなる。苦渋の判断では有ったが致し方の無い事だった。
 ハクウは鏑矢を、ルクスは緋の鳳仙花をそれぞれ放ち、二羽、三羽と釣り上げていく。陽動班に誘い出されたディグディグが四羽を数えた所で、攻撃班も行動を開始した。陽動にばかり敵の数を取られては元も子もない。
「さぁ、お仕置きの時間ですわよ、ごめんあそばせ」
 ケイティが音を寝かせてあった樽を蹴り転がす。転がる樽がたてるのは、擬音にしてごろごろ、と言う様な可愛らしいものでは無い。けたたましく鳴り響くのは硬い物同士が多重にぶつかり合う音。中には拾い集め焼いた石が詰められていた。
「盛大に音を立てて走りなさい」
 レジーナがギフトで呼び出した使い魔が鈴とクラッカーを抱えて樽の後を追い、間もなくして破砕音を響かせて樽が砕け散った。ゴムを擦り合わせるような不快な声が耳朶を打つ。飛び散った焼き石が、ディグディグの顔を焼いたのだ。周囲の石を掻き集めただけでは満載するに至らず、思ったほどの効果は上がらなかったが、それでも短時間怯ませる効果は有った――そして、それで十分だった。
 叫び、頭を振るディグディグに向けシレオが駆ける。ギアチェンジによる加速は、弾丸の如く一直線にその体を運んでいく。視界の中、急速に大きくなるディグディグの後ろで白い影が揺れた。ヴァレットだ。誰にも……それこそ味方にもだ……気付かれず背後へと忍び寄ったヴァレットがダガーを構えるのを見て、シレオも剣を振り上げる。
 瞬間。銀閃が煌めき、虚空に鮮血が舞い散った。致命的な一撃がディグディグを襲い、前後から異なるベクトルの刃に挟まれた首は捩じ切られ回転しながら宙に舞う。断末魔さえ響かぬ間の出来事だ。
 急制動をかけ靴裏で土を削るシレオの足元の土が隆起する。同時に、レジーナの使い魔の足元も。回避行動を取れないシレオは、
「ッ!」
 敢えて勢いのままに転ぶ事を選んだ。体が浮き、大地へと強かに体を打ち付ける。衝撃が体と脳を揺らし、眩暈のような感覚に自分を一瞬見失う。しかし、ディグディグの嘴が浮いた体に届く事は無かった。
「このッ!」
 悪態と共に放たれたレジーナの矢がディグディグの体に突き刺さる。が、その時には既に嘴が使い魔の体を貫いていた。使い魔はあっけなく消滅し、地面にばら撒かれる鈴にレジーナが歯噛みする。
「追い打ちですわッ!」
 始まりの赤に血潮を滾らせ、ケイティは放出した魔力を愛杖で掬い上げるようにして放つ。脚に矢を受けたディグディグは満足に回避行動も取れず、破砕の力にその身を大きく揺るがせた。嘴の間から血を零し、酩酊したかの如くぐらぐらと体を傾がせる。が、踏みとどまった。頭をぐるりと巡らせ、魔力の飛んできた方向――即ちケイティへと向き直ると、血を泡立たせながら大地を蹴った。
「させないよ」
 それを阻んだのはアートだった。多段牽制。掌中で回転するメイスがカチ上げるように嘴を捉え、ディグディグの体が仰け反る様にして上を向く。
「伏せて!」
 アートが身を屈めると同時。身を捻ったヴィエラが文字通りに飛んできた。勢いもそのままに、剥き出しになった喉目掛けて長剣が叩き付けられる。斬撃と言うにはあまりにも苛烈な捨て身の一撃はディグディグの首を圧し折り、勢い余ってその体を地面へと叩き付けた。絶命し脱力しきったディグディグの体が派手にバウンドする。
 戦闘開始からここまでの攻防で二羽を仕留めた。感慨など有る訳も無いが、例え有ったとしても浸る暇など無い。絶え間なく響く戦闘音を掻き消す為、ハクウは次から次へと矢を放ち、鳳仙花の尽きたルクスは猫型のファミリア―を放った。引き付けられたディグディグは五羽。丁度攻撃班と数を二分した形となる。
 二人がここで敵を引き付けておかなければ、全てのディグディグが攻撃班に殺到する事となる。猫のファミリア―が嘴に捕らえられるのを見て、ルクスは警戒を強める。気など抜ける筈もない。
 そう、気など抜ける筈もないのだ。攻撃後に崩れた体勢を立て直したヴィエラ目掛けて、ディグディグが襲い掛かった。防御用マントで闘牛士のように嘴をいなすヴィエラの肩が、しかし勢いを殺せず鈍い音を立てる。たたらを踏みながらも歯を食いしばり、痛みを堪えるヴィエラの表情が、次の瞬間には凍り付いた。足に硬質な感触を覚えた、と思った次の瞬間には、大地の感触が消え失せていた。背後の穴から顔を出したディグディグが、地中へとヴィエラを引き摺り込もうとしている――!
「拙い!」
 状況を瞬時に悟ったシレオが駆けだそうとするが、ヴァレットに制止させられる。何を、とは言わない。二人の前にも、大穴を開けてディグディグが飛び出して来ていた。そのまま進んでいれば、シレオが嘴に貫かれていたかもしれない。
 長剣を地面に突き立て、抵抗するヴィエラの体をアートが抱える。それをみすみす逃すような敵でもなく、もう一羽のディグディグが二人に狙いを定める。しかし、既に手は打ってある。後衛の二人に向けたサインは、援護を要請するものだ。
「させない!」「ですわ!」
 思い切り引き絞られた弓矢の一撃がディグディグの体を貫通し、魔力の奔流が傷口を押し広げて破壊の限りを尽くす。裏返る様に臓腑をぶちまけて絶命するディグディグの血液を浴びて、ヴィエラの足がぬるりと滑った。
「あ、あああああああああああああッ!!」
 叫びは恐怖からではない。痛みからでも。それは覚悟の籠った声だった。ヴィエラは長剣を引き抜くと、血液でぬめる嘴と自らの足の間へと無理矢理捻じ込んだ。衣類ごと肉が削げ、激痛が全身を駆け巡る。迸る血液の熱さを自ら感じつつ、全霊を込めて剣を捻った。
 ずるり、と。ヴィエラは刃が骨を直接擦る感触を覚えた。同時に、アートの感じていた重さが消える。肉を自ら削いでまでこじ開けた隙間は無事ヴィエラの体を解放し、アート共々尻餅をつくような形で大地の上に倒れ込む。援護を行ったレジーナとケイティも胸を撫で下ろす。それは進路を塞いでいたディグディグを斬り倒したシレオとヴァレットも同じだった。思わず深く溜息を吐いてしまう。
 無事を喜んでばかりもいられない。激痛は絶え間なくヴィエラを襲い、溢れる血液は血だまりを拡大し続けている。治療が出来るのはルクスだけだ。
(待っておれ、今――)
 残る敵の数は少なく、陽動に使える弾も危うい。合流のタイミングだ。残して有った目覚まし時計を放り投げると鳴り響くベルの音を背に走り出し、足元から聞こえた大地を掘削する音に息を飲んだ。僅かに隆起する地面に思考が凍り付いたのは一瞬。脳内を駆け巡るのは走馬燈か。否。
「『足音』じゃッ!! 彼奴らは特に、足音に反応しておる!!」
 戦闘開始からここに至るまでの記憶だ。
 音に反応する生態は確か。ディグディグを誘き寄せる為に取った全ての手段に、彼らは反応した。けれど。
 レジーナの使い魔はすぐさま貫かれて消滅した。ルクスが呼んだ猫のファミリアーも、体の小ささから鑑みれば早くに仕留められた方だ。鏑矢とクラッカーでは当初の予定よりもディグディグを誘き寄せられず、思えば樽が転がった際も、どちらかと言えば後に続く使い魔の足音に強く反応していたのでは。石を投げて強く反応するのは、それがつまり生命の移動に付随する物音だから。直下に現れないのは、対象を移動するものだと理解しているから……それを本能的、或いは遺伝的に理解していたのなら。
 ディグディグの嘴がルクスの足を削ぐ。弾け飛んだ防具が幾許か被害を軽減してくれたものの、ルクスは勢いのままに大地に倒れ伏してしまう。捕らえられる事は避けた。しかし。後は無い。
 弾かれた様に、アートが突然走り出した。ルクスの元へ、手負いのヴィエラから離れるように、だ。眼前の大地が隆起するより早く、大地に足を突き立て急制動を駆け、体を思い切り捻じりながら地面スレスレにメイスをスイングする。手には硬い感触が返り、飛び出すと同時に嘴を強打されたディグディグは後頭部を地面に打ち付ける。狙い澄ました一矢が頸部から頭部までを貫き、純然たる破壊力と化した魔力が地面ごとその体を抉り返した。アートはそのままルクスの下へと走り、レジーナもそれに続く。その後ろを、ヴィエラを担いだケイティが追った。
 ディグディグがルクスへと迫る。治療の為に用意したSPDを迷いなく自身の足へとぶちまけ、治癒を待たずに身を飛ばした。間に合わない。引き絞られた弓が矢を放つように、嘴はルクスへと突き出され、
「――痛ッてぇ……!」
 急降下したハクウがディグディグの頭部を踏みつけ、嘴は強引に身を割り込ませたシレオの腹部を抉った。ハクウが逸らさなければ致命傷だったろう。口から血を零し、シレオはディグディグの頭部を柄頭で殴り飛ばす。嘴が腹部から抜け、夥しい量の血液が溢れ出す。怒りを浮かべ激しく威嚇するディグディグ、その後ろには同じような形相が四つ並ぶ。霞む目に気合を入れる。運命の削れる音を聞く。瞬きの後には視界が晴れ、腹部の傷は癒えていた。まだいける。羽ばたき一つで距離を取ったハクウが、弓を射かけて一羽の眼を抉る。残る三つは受けなければならない。嘴をひとつ、マントを絡めて無理矢理に方向を変え、ふたつ、肩口で受けて血を流し、みっつ、奇声と共に突き出される嘴は、しかし横合いから閃いた銀閃にいなされた。
「無茶しすぎだよ」
 ナイフは弾かれ、痺れる腕に殺しきれなかった攻撃で裂傷を作ると、ヴァレットはディグディグの尻に蹴りを入れながら内心で自嘲した。無茶だった。お互いに。血の撥ねた顔で頬を緩める。
 二人。ヴィエラの元へと走り寄れなかったのが逆に功を奏したのだ。そちらよりは僅かに陽動班に近く、またシレオが陽動班を気にかけて居た為にいち早く異常に気付けた。で、あれば。反応に優れた二人が全力で移動すれば、間に合わない理由は無かった。無論、それなりの代償を支払わざるを得なかったのだが。
「大丈夫かい、皆」
 わざと足音を立てて歩く事でディグディグを引きつけつつ、アートが四人に対して声を掛ける。まちまちに返る肯定の文言に、「それは良かった」とディグディグを殴り飛ばした。その頭に矢を射かけながら、レジーナが言う。
「無事ならこちらの負傷者を治療して貰えるかしら。正直我たちだけじゃ攻撃の手が足りないのよ」
「私は今手が塞がってるので手伝えないのですわ!」
 ヴィエラを抱えるケイティが同意する。
「今治す故、少々待って居るが良い!」
 アートとシレオがディグディグ達を引き付けている間に、ルクスがSPDによる治療を開始した。ヴァレットは飛来する矢を掻い潜りながら忍び足でディグディグの背後に接近。とんとん、と地面をタップすると、そのままディグディグの背に片手を突いて跳び上がった。一瞬後にヴァレットのいた空間をディグディグの嘴が通り過ぎ、彼にとっての同胞を刺し貫く。仲間を殺したと知らぬまま嘴を引き抜こうとするディグディグの頭にシレオの刃が減り込む。その上から更にアートのメイスが振り下ろされ、湿った音と共に頭が凹字型にスライスされた。
「御免なさい! 戦線に復帰するわ!」
「私も復帰ですのよ!」
 散々矢を射かけられ、失血でふらつくディグディグを大上段から斬り伏せてヴィエラが叫ぶ。念の為控えていたケイティも復帰し、魔力を放出して今まさにシレオに襲い掛かろうとしていたディグディグを吹き飛ばした。ハクウとレジーナがそれに追い打ちをかけ、あっという間に矢衾にする。
 ルクスが完成したSPDをシレオとヴァレットに投げつけると、二人の傷はみるみる内に癒えていく。短く礼を言うとシレオはそのままディグディグに躍りかかり、ヴァレットは弾かれたダガーを拾い上げると、駆け抜け様に振り抜いた。退化した翼が斬り離され、夥しい量の血液が噴出する。
「これでお仕舞、よっ!!」
 ヴィエラが縦一文字に剣を振り下ろすと、首の半ばから断たれたディグディグの体が左右に割れた。湿った音を立て、そのまま大地に沈む。最後の一羽。その命の灯が消えるのを確認して、イレギュラーズはようやく詰めていた息を吐き出した。


●アフター・ディグアンドディグ
「全く、こっちの世界の貴族も碌な事をしねぇな」
「本当、全くね」
 討伐が終わり、レジーナが使い魔に呼ばせた馬車を待つ間。思わず、と言った風にシレオが呟いた言葉に、ヴィエラも同意してしまった。幻想の貴族と言うのは、どうしてこうも厄介事しか起こさないのか。
「罪滅ぼしにはならないけれど。お肉を売ったお金を被害者への補填に充てようかしら」
「それが良いかも知れないのであるな。中には大黒柱を失って路頭に迷うておる者も居るかも知らぬし」
 父親を頼る事になるが。手間と暇と迷惑は惜しむべきではないだろう、と考え、ルクスもそれに同意した。
「一羽は私が貰う。仕留めた獲物は頂く主義だ」
「埋葬の必要は……無さそうかしらね」
 ハクウが淡々と述べ、ディグディグの羽を毟り始めた。レジーナはどうでも良さそうに独り言ち、待機させておいた馬車が来るのを待つ。アートは少し離れた位置で、皆の様子を眺めていた。それぞれ主義主張は有れど、ぶつかり合わないのであればそれでいい。今日は説教を垂れずに済みそうだ、と内心安堵する。
「さあ穴を埋めるお時間ですわよ目立つ穴だけでも埋めてしまわないと別に私利私欲でやっている訳では無く商会の馬車が通れないのでは工事に差し障るという極めて論理的な思考に基づいてええいヒールが邪魔ですわね!!」
 言葉と共に飛来した折れたヒールが頬を掠め、ヴァレットは予備の靴の必要性を強く感じた。そっと雑嚢から取り出した靴を乳酸の向こう側へ旅立ったケイティの傍に置く。気付いてくれると良いのだが。
「おーほほほほほ! おーほほほほほほ!」
 テンションの高い笑い声が響く中、迎えの馬車が顔を出す。それが襲われる事は、もう無かった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

  皆さんお疲れ様でした。へびいちごです。今回のシナリオ、いかがだったでしょうか。
 比較的シンプルな戦闘シナリオでしたが、私が今まで出した中では難易度がちょっとだけ高めで、さてどうなるだろう、と思っていましたが。相談の上きちんと対策を取って頂いたようでとても嬉しく思います。お肉の処遇に関しては、何も考えずに項目を追加した私より皆様の方がきちんと考えられていたのではと疑いを抱かずにはいられません。
 では。また機会がありましたら、どこかでお会いしましょう。へびいちごでした。

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