シナリオ詳細
その命の火をもって
オープニング
●鍛冶神に願うは
長く、長く刀を打って来た。
火を見、たたらを踏み、鎚を振るって刀を打った。
やがて片目は潰れ、鍛冶神マヒトツ様と同じになった。
文字通り半生を捧げて来たという証だ。
だがしかし、頭を垂れて乞い願う。
マヒトツ様、貴方様の似姿となった身を憂う罪をお許しを。
儂はまだ打ちたいのです。儂はまだ鍛えたいのです。
どうか、どうか、この老いた身が朽ちるまで刀を打つ事をお許し下され。
●神頼みと人頼み
「ヒノモトって知ってるか!!!!!!!!!!」
賑わうギルド・ローレットに爆弾が落ちたかのような大声が炸裂する。
声の主、『小さな勇者』ベリィ・リトル・ブレイブ(p3n000017)は紙の束を持ってニコニコとしている。おそらく吹っ飛んだ周囲の人達の事は見えていない。
「ヒノモトってのはな! 和の国とか日本とか戦国だとか、まあ色々呼び名はあるんだけどな! 別に特定地域の事じゃないんだ! まったく別の異世界の中にも似通った文化とかがあるだろ? ヒノモトってのは一定のよく似た文化の事を指すんだ!」
ヒノモト式とかヒノモト風とかなー!と叫び続けるベリィ。周囲は成程和風の事か、日本式ね、戦国風か、などなど言いやすいように言い換えて理解している。
「でな! ヒノモト式の鍛冶師からの依頼が来たんだ! と言うか貰って来た!!」
そこで紙の束を突き付ける。
「依頼内容は『目占返しの霊薬』の入手! こいつは数百年を生きた霊樹の樹液から取れるんだけど、この霊樹がな! ぶっちゃけ強力なモンスターみたいなもんなんだ!!」
迂闊に近寄るとぶっ飛ばされるぞ!なんて相変わらず楽しそうに言う。
周囲はそんなベリィの態度にいい加減慣れて来ていた。
「本来なら私が出向きたいんだけどな! お父さんが私の冒険を反対してるんだ! どうしてもと言うならお父さんを倒してから行け!って言うからワンパンで沈めたのに全然認めてくれないんだよなー!!」
「父親殴んなや」
「そういうわけでお願いだ! せっかく手に入れた銀色スライムを勇者ソードに加工できるのはあのおじーさんしかいないんだ! あのおじーさんが鍛冶師に復帰できるように、ウォーキングツリーをへし折って樹液をたっぷり回収してきてくれ!!!」
ドゴン!とテーブルに下げた頭を叩き付けるベリィ。うるせえ。うるせえし私利私欲にまみれている、が、イレギュラーズは「うーむ」と首をひねった。
「それに、あのおじーさんが復帰出来ればヒノモト式の刀剣とかヒノモト細工の武器飾りを作って貰えるかもしれないぞ!」
がばっと顔を上げてそう言うベリィに、何人かが「あ、それは良いかも」と答えたのだった。
- その命の火をもって完了
- GM名天逆神(休止中)
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年03月28日 21時30分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●万全を喫して
森は深く、広い。
しかし迷うことなくマヒトツダタラの居場所は知れた。
上空から見れば頭一つ突き抜けてでかい樹が有り、案の定それがマヒトツダタラだったからだ。
イレギュラーズは早速マヒトツダタラを中心としてバリケードを構築し始める。今回の作戦は障害物を沢山用意してマヒトツダタラの動きを阻害しつつ戦うというもので、ともすれば実際の戦闘と同等にこの作業は重要だった。
「実に私利私欲だらけの依頼だなあ」
仲間がバリケードを組み立てている様子を眺めながら『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)はぼやく。どうやら依頼を持って来た小さな女の子の言葉が気になっているようだ。
仕事を頼みたいから鍛冶師アメハルに復職して貰いたい。たしかに私欲である。が、
「ぜひとも復職して私の武器も手掛けて貰わないとねっ!」
飛び回りながらせっせと作業している『chérie』プティ エ ミニョン(p3p001913)も同じような私欲に燃え、その熱量で作業をどんどん押し進めていた。
私利私欲も集まれば大衆の声になる。プティに限らず、引退を惜しまれていたアメハルの復帰を求める声は多いだろう。
そうでなくてもアメハル自身が再び鎚を取る事を望んでいた。イレギュラーズはむしろ彼に寄り添う思いの者が多い。
「相手が木とあらばこの私の領分なのです。巨木だけと言わず、森ごと私の焔で焼き尽くして……へ? 今回火気厳禁なのです? そんなあ……」
約一名、メイド服着たやべー奴、もとい『万古千秋のフェイタル・エラー』クーア・ミューゼル(p3p003529)みたいなのもいるが、きっと作戦には支障ないはずたぶん。
そうしてバリケードは作られていく。
持ち前の陣地構築スキルを活かして『藤の花』藤花・遥音(p3p004529)と『森の一族』ロクスレイ(p3p004875)が指揮を取り素人がその辺にある物の寄せ集めで作ったとは思えないほどのクオリティになる。
「……戦うの大変そうだな。それはさておき、あのモンスター食べられるかな?」
「はっはー! 自然の中での依頼ならお任せだぜー! ……では」
マヒトツダタラを見上げながら遥音が妙な事を呟き、ハイテンションで作業に取り掛かったロクスレイが唐突に寡黙になる。
「斧もあれば完璧でしたね」
スキルが無くとも『見習い』ニゲラ・グリンメイデ(p3p004700)も追い口、受け口を刻みながら木々の上部をロープで結ぶ。木々が倒れる時に支え合うようになるこの手法は確実に木の命を奪う事にはなるがバリケードとしての効果を高める事が出来るだろう。
飛行持ちのプティと協力し敵の上部にロープを張って目印として白い布を巻いていく。効果はまだわからないが、出来栄えは上々だ。
同じく木が倒れる方向を調整したロクスレイだが、これは敵に向かって倒し足止めする狙い。必然的に敵との位置関係が確定している最前線のバリケードに用いられた。
ロープを持ち込んだ『ニーマンズ』イース・ライブスシェード(p3p001388)はバリケードの補強にそれを用いた。蔦や蔓なども有るとは言え、それだけでバリケードを構築するのは難しい。足りない物、有ると便利な物を持ち込んで作られたバリケードには隙が無い。
「ルーキスさんも、そちらを手伝ってください」
スキルを有する二人に任せていたルーキスに『幻想乙女は因果交流幻燈を夢見る』アイリス・ジギタリス・アストランティア(p3p000892)が声を掛ける。時間はあっても手が足りなければ作業は進まない、スキルが無くても創意工夫と道具、そして努力でもなんとでもなる、すくなくとも補助くらいはできるはずだ。
創意工夫と言えば、遥音は作業しながらマヒトツダタラを観察していたようで、それとなく全員に弱点となりそうな部分は伝えていた。と言っても知識と観察から分かったことは幹より枝や蔓の方が脆く、攻撃部としてもそこから削ぐのが効率が良いという事くらいで、あとはやはり火が効きそうとかだった。
「火……」
「火はダメよ」
「マジックフラワーは?」
「それも火ぃつくからねえ」
有効だが大惨事になり得るということで火気厳禁も徹底されていく。
更なる創意工夫として、ロクスレイとプティは罠をも作り設置していく。ロクスレイは無尽蔵かのような体力を活かしてペースを維持したまま大量の矢撃ち案山子を、プティはかなり高い位置に簡単なロープと丸太の振り子型罠をあちこちに。
「良い感じだな」
「……」
遥音の言葉にロクスレイが頷いたのは、陽が大分傾いて来たころだ。
このまま数日にわたって罠とバリケードを揃える事も可能かもしれないと、そう思った時、頭上でプティが声を上げた。
「マヒトツダタラ君が動いたよ!」
●開戦と成果
「動かないんじゃなかったのか?」
「基本的には、な……」
「まーモンスターだしねえ」
イースは安全に先手を打つ気でいたが、ロクスレイとプティはこれを見越して動いていた。
しかし動いたと言っても根で地を這うようにしてゆっくりとだ。いきなり戦闘が開始されるわけではない、先手は十分に打てるだろう。
「バリケードは十二分。問題無い」
手伝いを終えてルーキスも戻る。他の面々も作業を切りの良い所で切り上げて合流した。
「罠に掛かる前に仕掛けましょう」
アイリスの言葉に応えるように各々が得意レンジへと移動する。
逃げながらバリケードを盾にして戦う。それには陣形が何よりも重要だ。特に最も熾烈を極める至近距離での攻防を挑むイースは、万全を喫して挑まなければならない。
至近距離。それは障害物が介入する余地のない必殺の間合いであり、今回のバリケード作戦ではフォローしようのない戦域だからだ。
息を呑む。
そして、
「全員一斉攻撃、開始!」
クーアの号令と共に戦いの火蓋は切って落とされた。
「後衛だからって甘く見ないでね?」
クーアは号令と同時に魔力を集中、同じくルーキスも魔導書から魔導銃へと魔力を巡らせ、二人は同時にマギシュートを放つ。二条の光撃がマヒトツダタラを撃ち抜き、そのゆるゆるとした歩みを止めた。
「如何な強敵が相手だろうと退く訳にいきません」
盲いてなお失われない職人の情熱に敬意を表す。そう心に誓うアイリスが放った毒薬入りの瓶はマヒトツダタラの根元に当たり、異常な発煙と共に猛毒に侵す。
「毒を盛るのは気が引ける」
同時に毒撃を叩き込む遥音。隙在らば食べようと思っている相手に自ら毒を流し込むと言う暴挙だが、そもそも食べられそうにないので問題はない。撃ち込まれた毒はアイリスのぶちまけた猛毒と相まって凄まじい勢いで幹の表面を溶かしていく。
「そこだ」
「外さないよ!」
後衛に陣取るロクスレイの精密射撃が枝を抉り、更に後方で構えたプティの狙撃が枝を一本吹き飛ばした。
「……今の、俺の捨て身攻撃並の威力があった気がするんだが」
振り返るロクスレイはパッと見ぬいぐるみのような愛らしい見た目のプティの一撃に驚いた。森林戦のプロフェッショナルじみたロクスレイに対し、戦闘特化の狂戦士たるプティは見た目からは想像も出来ないほどの火力を有す。
そんなプティが愛らしくガッツポーズを取りつつ次弾を装填し、ロクスレイにサムズアップと共にウインクを投げ付けると、ロクスレイも肩をすくめてサムズアップだけ返す。
「ふ――!」
削れ穿たれ蝕まれ、されど大過なく健在なマヒトツダタラに向かってイースが大きく踏み込む。拳に展開した術式は鋼の強度となり、肉薄したマヒトツダタラの表層を叩いては爆ぜる様に抉っていく。
零距離は死地、しかし先手を打てるなら問題は無い。
数多の拳撃を見舞ったイースは拳からマヒトツダタラの動きを感知し、即座に距離を取ってバリケードの陰へと滑り込む。
その直後、マヒトツダタラの幹が、根元から枝葉の先まで、身じろぐ様に震えた。
いや、回転した。
根で地を掴み己が身を捩り、枝を、蔓を、思いきりに振り回す。
「危なかったな……!」
隠れたバリケードの表層が強靭な枝のしなりによって薙ぎ払われ弾け飛ぶのを横目にイースが冷や汗を流す。
他の面々も同じ心地だ。盾としたバリケード、そして周囲の木々によって鞭も蔓も狙ったであろう場所へは向かわず、でたらめにあちらこちらを叩いている。だがその威力もまたでたらめだ。
「時間かけて正解でしたね……!」
攻撃には参加せず敵の攻撃に備えていたニゲラが言いながら枝を盾で打ち落とす。衝撃で体が軋むが、その衝撃を敵に返しつつルーキスを守る。
嵐のような初撃が止み、全員が周囲を見渡した。
鞭打たれ抉られ圧し折れた周囲の木々や枝葉。
しかしバリケードはまだまだ健在。そしてその効果のほども十二分!
「いける!」
「行こう!」
作戦の成功を確信したイレギュラーズはバリケードから顔を出す。
マヒトツダタラの単眼に似た洞が虚空を泳ぐ様に見る。その様子を仰ぎ見て、次の十秒を走り出した。
●破壊と暴力の嵐
巨大樹。
それは無数の手足が生えた二階建ての一軒家のような物。
そんなものが鬱蒼とした森の中で大暴れを始めたらどうなるか。
簡単だ。破壊と暴力の嵐になる。
だがイレギュラーズは嵐に備え防波堤ならぬ防衛線を築いていた。
幾度となく鞭に打たれ蔓に締め上げられようと壊れず、削られながらもイレギュラーズを守り続ける。
「思った以上の効果なのです!」
クーアがぐっと拳を握る。
バリケードは根元から掘り起こされたり跳躍したマヒトツダタラに踏み潰されたり、あるいは幹を叩き付けられたりしない限りは残り続けていた。そしてバリケードを壊す移動や攻撃は予備動作が最も大きく、それ故に対処はしやすい。
問題が有るとすればバリケードに隠れた仲間に回復用のポーションが届かず、隠れている場所に近付かなければならない事だったが、そもそもの被弾が少ないためそれがもとで瓦解することは今のところはない。
さらにそれ以上の問題点、バリケードが有るが故に不利に働く部分。
視界の悪い場所で逃げながら戦う事で仲間とはぐれる可能性を、飛行を駆使しマヒトツダタラの射程外から攻撃していたプティの指示で回避していた。
「こっちこっち! 離れ過ぎないで!」
叫ぶプティは空中という不安定な場所にありながら他の木々の枝葉まで活用し時折強襲され枝の一撃を貰いそうになるも防ぎ切っていた。なにより危険な幹も根も超高度に陣取るプティには届かず、高所から見下ろすが故に仲間の位置もバリケードの損傷具合も把握できていた。
更にはクーアの聞き耳で得た情報も指示に織り込めばもう隙は無い。
「最強タッグなのです!」
「自慢の命中力が落ちちゃうのが難点だけどね……!」
そう言いながら枝を狙い手数を減らそうとするが、外れて幹を深く抉る。
「任せてください!」
「私達が担おう!」
逃げ回るうちにマヒトツダタラを挟み込むように位置取っていたアイリスと遥音、二人が放つ二つの毒がマヒトツダタラの上部に直撃し、多くの蔓と幾つかの枝を溶かし腐らせる。
最初に比べて明らかに手数の減ったマヒトツダタラが苦し気に身を捩ろうとも振るわれる鞭の数もまた各自に減っている。
いな、枝や蔓だけではない。
「さっさと倒れてくれると助かるな!」
「根っこからいくのです!」
ルーキスとクーアのマギシュートが爆ぜ、穿ち、抉り、マヒトツダタラの根を幾本か契り取っていた。枝よりも堅牢であろうと跳躍や地面ごと掘り返す様な技はかなり使用頻度が少なくなってきている。
「助かる!」
その変化は近距離戦を挑み続けるイースにとっては何よりの朗報だ。
バリケードに隠れる前を狙われたり幹や根に叩き伏せられたり、環境を味方にしたとは言えやはり辛い。
だがその見返りとして、誰よりも多く攻撃を当て続けていた。
幹にはほとんど無傷な部分が無く、一撃の威力が薄くとも無数に撃ち込まれた拳が確実にマヒトツダタラを弱らせているのだ。
故にマヒトツダタラもイースを執拗に狙う。
「ッく!?」
身を隠していたバリケードごと、イースはマヒトツダタラの幹に薙ぎ払われ、吹き飛ばされた。
轟音と共に巻き上げられる土と木片の中、イースが頭を庇う。
(まずい、距離を取って――)
そう思った瞬間、イースは別のバリケードに背中を強打した。
息がつまる。が、それ自体はダメージとは言えない。問題はマヒトツダタラの攻撃範囲から出られず、バリケードを迂回しなければ隠れる事も出来ないと言う事。
その窮地を知ってか知らずか、マヒトツダタラはその根を地面に突き刺し、地面を丸ごと巻き上げるかのようにイースへ襲い掛かる。
「安心して下さい! 僕が守ります!」
その瞬間に割り込み、ニゲラがイースをその盾の陰へと隠す。
声が聞こえないほどの轟音、遅れて降り注ぐ土砂の雨。
天と地の区別がつかなくなるほど叩きのめされながら、ニゲラはイースを守り抜き、そして立ち上がった。
が、
「これは……!」
すぐにぐらりと膝をつく。
体力の限界、ではない。
逃げながらも回復をこまめに挟んでいたニゲラにはまだ余力が有る。
しかしマヒトツダタラの根こそぎを受けたニゲラの体勢は崩れ、鉄壁の防御が機能しない。
「一難去ってまた一難、というやつですか」
盾を構え、それでもイースを守りながら立つ。
マヒトツダタラの身体がうねる。幹薙ぎの予備動作だ。分かっていても躱す余裕はない。
後衛から援護射撃が飛び交うが、しかし幹が真っ二つに折れて辛くも助かると言う事は無い。
「ロクスレイ君、お願い!」
「……ッ!」
そんな窮地で、プティとロクスレイの攻撃はあらぬ方向へと飛んでいった。
なにを――
皆がそう思った瞬間、ガツッと鈍い音がし、マヒトツダタラの幹薙ぎがニゲラの目の前を通り過ぎて別方向の木々をぶち壊した。
「……上手くいったか」
ロクスレイがリロードしながら息を吐く。
彼が撃ったのは振り子の罠。それをむりやり発動させ、マヒトツダタラに当てただけ。
ここまでで案山子の罠から放たれた矢がマヒトツダタラの気を引けるのは見てきて知っていたが、土壇場の賭けには肝が冷えた。
あとはマヒトツダタラが動かなくなったニゲラよりいきなり別方向から攻撃してきた何かを優先しただけの話だ。
そして、マヒトツダタラの猛攻はそこで止まった。
ニゲラが受けた洒落にならないほどの衝撃、それが莫大だったからこそ、その衝撃を跳ね返されたマヒトツダタラは無事では済まず、致命的な隙を晒すに至る。
「さて」
イースとニゲラが立ち上がり、バリケードや木々の陰から雨のように攻撃が飛び交う。
残っていた枝も根も一本また一本と削ぎ落とされ、マヒトツダタラが、遂に傾いだ。
その先に立つ、ウサギ程度の身の丈しか持たない旅人がにっこりと笑う。
「君の命はアメハル君に継がせて貰うよ!」
宣言と共に振り上げたバリスタがボロボロの幹に減り込み、それは杭打機の如く、マヒトツダタラの巨体を粉々に吹き飛ばした。
イレギュラーズと言う名の破壊と暴力の嵐は、ここにマヒトツダタラと言う大木すらを圧し折るに至ったのである。
●その命の火をもって
「ヤー、お疲れさーん。森に生きる者としての義務は果たしたぜ」
ロクスレイが始めと同じテンションに戻って「ふいー」とだらける。
イレギュラーズがアメハルの鍛冶場に木片を持ち込むと、目占返しの霊薬は大量に作られた。
バリケードの撤去し、掃除し、苗木を植えたりしつつマヒトツダタラの破片を掻き集めた結果、集め過ぎたとの事らしい。
「しかしな、これだけありゃあ年寄りの衰えた治癒力でも効いてくれそうだわな」
依頼人であるアメハル老人はそう言って笑った。
霊薬は目薬のようにして日に数度点眼する。ただちに目が見えるようにはならないらしい。
「アメハルさん、神秘攻撃型の『霊剣』を打って頂きたいです」
さっそく数滴目に垂らした老人にアイリスがおずおずと切り出した。老人は「ほう」と唸り、考える。
「ふむ。開発は専門ではないが、既にある武器を霊剣の形に仕立て直す事ならできるかも知れんのう」
そんな返事を聞いて、にわかに周囲が騒ぎ出す。
「私の武器も手掛けて欲しいな!」
「私は近接武器あんまり使わないし、髪を結う為の紐でも頼もうかな」
「焔が見たいのです」
「私は刀を作ってくれないか?」
などと矢継ぎ早に老人へ仕事を頼もうとする。
仕事を頼まれたのはイレギュラーズの方なのだが、と、老人は苦笑しながら笑う。
「ああ良いとも。目が見える様になれば必ず受けさせて貰おうとも」
言って、外へと目を向ける。
落ちる夕日の朱色を見て、目元を拭うアメハル老人は、「数年ぶりの光だ、目に染みるわい。おっと霊薬が零れっちまう」などと嘯く。
「……よかった」
「そうだな」
ニゲラとイースはその様子を見て微笑む。
鍛冶に一生を捧げる老人の覚悟、出来ることなら最期の最後のその一瞬まで貫きたいだろうと理解していた。その心の炎の為にも、無事に依頼を達成したいと願っていたのだ。
きっとアメハル老人はすぐに視力を取り戻し、再び鎚を手に取る事になるだろう。
その命の火をもって鉄を打ち続ける限り、
燃え尽きるまで、彼は職人なのだから。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼お疲れ様でした。
割と殺意高めの攻撃いっぱい用意したんですけど全員無事でしたね。
素晴らしいです!
MVPは組み合わせと穴埋め、補強的に大変優秀だった貴方様へ。
作戦は素晴らしいけれど、あわや大惨事も有り得たかも知れない、
そんな危うい可能性を潰した人がMVPになるのも良いんじゃないかと思います。
余談。
森への被害は最小限。
その内苗木も育って元通りになるでしょう。
アメハルも皆様が帰還なさる頃には簡単なものなら作れるくらいになっています。
いずれは以前同様に、あるいはそれよりも高みへと至れるでしょう。
神に似るのは命終えてからで良い。
命の火が有る限り、彼は鍛冶を辞めません。
皆様方の助けられたのだから。
GMコメント
モンスター討伐です。
以下詳細です。
●依頼人について
引退したヒノモト式の鍛冶師、アメハル。
古いヒノモト式の鍛造法に惚れ込み、山中に仕事場を設けた職人。
芸術にも長け、日本刀は鞘から紐まで全て作れる。西洋剣もヒノモトアレンジで作る事で有名。一部のヒノモト愛好家に愛されていたが、片目の視力を失った事で惜しまれながらも引退した。
とてもご高齢だが頑固一徹職人気質と言うわけではなく、趣味と信仰に生きただけの優しい老人。
なお、一流の職人ではあるが特別強力な武具が作れるというわけではない。彼の持ち味は美品でありながら実用に耐えうる武具づくりである。
彼の手掛けた作品には『天晴』と銘が刻まれる。
●依頼内容
目的:『目占返しの霊薬』の入手
霊樹マヒトツダタラの樹液から作れる。
マヒトツダタラを撃破後、その破片等を依頼人に届ける事で依頼達成となる。
●霊樹マヒトツダタラ
数百年生き、モンスターへと変異した大木。
巨大な木の洞が目玉に、跳ねて移動する様が一本足に見える事から、マヒトツダタラ、あるいはイッポンダタラと呼ばれるようになった。
意思らしい意思はないが害敵には苛烈で執拗な攻撃を加える。
鈍重だが巨体故に滅茶苦茶な攻撃力を有し、周囲の木々を薙ぎ倒したり、物理的広範囲の攻撃を行う。
●戦闘データ
マヒトツダタラ
・枝鞭 :物遠単:長く太い枝で打ち付ける。大ダメージ
・蔓絡め :物近単:細い蔓で締めあげる。小ダメージ+窒息or足止め
・幹薙ぎ :物至域:巨木が横薙ぎにうねる。大ダメージ+飛
・根こそぎ:物至列:足元の地面ごと掘り返す。特大ダメージ+体勢不利
・巨木 :移動阻害等を無効化
・全身武器:複数回攻撃する。受けたダメージ等により攻撃回数が減る
・障害過多:攻撃範囲に他の木々などの障害物があると自身の命中や攻撃力が落ちる
●ロケーション
山の鬱蒼とした広大な森に到着した所から始まります。
事前準備は可、霊樹は一際大きいのですぐ見つかります。
●ベリィからの助言
基本的に攻撃するまでは動かないだろうから色々準備できると思うぞ!
あと火は効くと思うけど他の樹に燃え移ったり樹液回収出来なくなったりするだろうから気を付けてな!
●鍛冶神
アメノマヒトツノカミ。
漢字では天目一箇神。
混沌に居る神なのか旅人が語り継いだ神なのかは不明。それ故に同名異神が居るかも知れないとも。
鍛冶と製鉄の神とされ、その姿は隻眼の男神と言われる。
鍛冶師が火の見詰め過ぎで片目を失う、あるいは火を見る時に片目を瞑る事から、隻眼・単眼であるマヒトツ様は名のある鍛冶師達が神格化した姿とも言われる。
マヒトツダタラの樹液が鍛冶師の萎えた目に効くのは偶然とも必然とも取られる。
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