PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Back a Moon!

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●たとえ愚か者<バカ>と呼ばれても

 ムーンレース。それは月がこの世界に一番近づく周期である、3年に1度だけ開かれる大会だ。
 月まで手が届く高さにもおよぶムーンタワーを駆け上がる。その満月に手を触れた者には、ひとつだけ願いが叶うという。
 5人1組でチームを組み競技は始まる。妨害、戦闘、買収、ドーピング……参加者の殺害以外はおおよそ許可された、非常に危険な大会でもある。
 しかし、この世界の住民たちはこぞって、この大会で夢を掴みたいと願い、参加者は後を絶たない。
 そして開催予定日の天気は晴れと確定。今年の開催が決まり、エントリー期日を数日前に控えたある日──。

「──バッカモーン!」
 びりびりと野太い声が薄い壁に反響し耳を劈く。思わず、その長い耳を抑える。
「ルナ、おまえ、前回もボロボロで帰って来たじゃないか! あの大会は危険だ、もう行くな!」
「だって、もうパパの病気を治すにはそれしかないじゃん!!」
 あばら家に住む、野兎の父娘。ちかちか、と切れかけの裸電球が瞬いた。
 少女ルナは早くに母を亡くし、そして今は病気の父の面倒を見ながらけなげに働いていた。
 少々跳ねっかえりがあり、頭も要領も良くないが、まっすぐで優しい少女だった。
「とにかく、もう参加を許すことはできな……ゴホ、ゴホッ!」
「パパ!」
 駆け寄って、父の背中をやさしくさすり上げるルナ。
「ハァハァ……おれは、おそらく長くない。おまえには悲しい思いも、辛い思いもさせたな。
 年頃の娘なのに働きづめで……おれのせいで、いい生活もさせてやれなくて、ろくな勉強もさせてやれなかった事を許してくれ」
「パパ、あたしは辛くないよ。だから、ヘンな事言うのやめてよ!」
「すまんな……でもな、もうわかるんだ。自分の身体だからよ。だからせめて、家族二人で静かに最後の時間を過ごしたいんだ……わかってくれ」
 厳しく、でも優しかった父の大きな背中。
 それがいま。さすった父の背中は、とても小さく見えた。
 家計はギリギリどころか、どんどんマイナスに。
 少女一人が稼ぐ賃金では、父の病を抑える高価な薬を手に入れるのは不可能だった。

「諦めるもんか。あたしは、パパを絶対に治すんだ! 優勝、もうそれしか……!」
 街を歩くルナ。その手には、ムーンレースのエントリー用紙。
 前回の大会に一緒に参加してくれた友人たちの元へ向かっている最中だった。
 もう一度だけ、あたしにチャンスをください。そう、頭を下げに。
「ハハハ。おまえにゃムリさ、バカのルナ!」
「!」
 歩みが止まる。そこには、チンピラのジョーと4人の仲間たちが、ルナの行く道を阻むように立ち塞がっていたからだ。
「オレたち、『ゲコク・ジョー』が居るからな」
 ジョーたちはルナを囲み、見下しながら笑う。
「どいて」
「やだね。でもまあ、今ここでストリップでもしたら道を開けてやってもいいぜ? おまえバカだけど、顔と体だけはいいからなあ!」
 ゲラゲラ。ゲラゲラ。耳障りな笑い声。
「……最低だね、あんたたち。だからろくに働き口もないし、未だにチンピラから抜け出せないんだ」
「……んだとお!」
 ジョーに胸倉をつかまれるルナ。しかし、気丈に彼の顔を力強く睨み返す。
 気の強いルナは、こうして負けずに対抗してくる。ジョーは、そんな瞳が気に食わないようだった。
「……やめなさい、大会前に騒ぎを起こすのは拙いだろう」
「あッ、アルさん! ザーッス!」
 一斉に頭を下げるゲコク・ジョーの面々。
 ゆっくりとルナに歩み寄るのは、仕立てのいいスーツに身を包み額に大きな角を持つ大男、アルだ。
「キミの親父さんには悪いが……今年の優勝も私が貰っていくよ」
「へへ……ま、そういうこった!」
「まさか……『飼われた』のか、あんたたち!」
 ぎりり、と歯噛みするルナ。
 大会開始前の買収も許可されている。ジョーたちは大会中、明確にルナの敵となるだろう。
「そうとも。そして、キミの友人たちもね」
「……!?」
「バカにゃわかんねえか? ムーンレースは5人居ないと参加できない……独りぼっちのオマエは、もうはじめからアウトってワケ」
「金をちらつかせたら、あっさりとキミと組む事を諦めてくれたよ。友情というのは薄くて脆いものだと思い知らされるね?」
 ワハハ──ワハハ──。
 冷たい笑い声が少女の頭をぐわんと揺らす。言葉も出ない。何も考えられない。
 彼らと競うどころか、同じ土俵に立つことすら許されなかったのだ。
「むしろ、オヤジと過ごす最後の時間を作ってやったんだぜ。感謝してほしいもんだね」
「その通り。キミのようなうす汚い娘が、参戦するだけムダというものだ。誤って殺してしまって、失格になってはたまらない」
 さて、と踵を返すアル。
「そろそろ作戦会議と行こうか。私たちは『ムーン・ホッパー』打倒の案を考えねばならん」
「ウス! ……じゃーな、バカのルナ! ひゃはははっ」
 去っていくアルとジョーの背中を、少女はただ見送るしか出来なかった。

 少しばかり時間は過ぎて、夜──。
 大きくて丸い月が、窓越しに少女の涙をきらりと照らす。
 もうすぐ、ムーンタワーに一番近づく日なのだ。
「このまま諦めたくない……悔しいよ……」
 膝を抱えて、吐き出す言葉。どうすればいいの。ううん、どうにもできない。
 顔は怖いし、声は大きいし、すぐ怒るし……でも、とっても優しかった父。
 そんな父の、すっかり弱ってしまった顔と言葉は、彼女にとって衝撃だった。
 パパを助けたい。そう思う事さえ、願う事さえ許されないの?
 顔を伏せて、うずくまるように膝を抱えていたルナに、影が差し込んだ。
「誰……?」
 たまらず見上げる。
 逆光に照らされたシルエットの影。目が合った。それは、優しい声色で言った。
 『ムーンレースに勝たせてあげる』──そんな言葉を。
 怪しすぎる。普通なら、そんな甘言は信じない。
 しかし彼女は確信した。この人たちの目は本気だ。
 そして──信じていいんだ、と。

●『ツキを手に、月まで走れ』

「……可哀想ね。可哀想よ。そう思わない?」
 ポルックスはおずおずとイレギュラーズを見上げる。
「お願い。あの子を助けてあげてほしいの。救われずに終わる物語なんて、そんなの悲しいわ」
 少女の青い瞳は悲しげに伏せられた。
 はたと見れば心を痛めた少女のそれだが、果たして心の中までは、イレギュラーズには覗けない。
「ムーンレースは、ものすごく過酷な大会よ。でも、みんななら出来るはず。優しい女の子の願いをどうか、叶えてあげてね」

NMコメント

 りばくると申します。よろしくお願いいたします。
 とんでもない事を成し遂げてきた人は、いつだってはじめは周りからバカにされてきたものです。
 さあ逆転劇をはじめましょう。

●成功条件

 『ムーンレース』の優勝。
 チーム『ルナティック・ヘア』としてどのチームよりも早くムーンタワーの頂上に辿り着き、『NPCのルナが満月に手を触れる』事で優勝となります。
 なお、大会中は妨害、買収、戦闘などが許可されています。参加者の殺害以外はほとんど認められています。
 アイテム、非戦スキルの使用、プレイング次第で、直接的な戦闘をする事なく優勝する事も可能です。

●ライバルチーム

『ゲコク・ジョー』

 チンピラ野兎のジョーと、そのダチコーであるゲス、コウタ、クリス、山田で構成されたチーム。
 やる事も考える事もセコいです。アルに買収され、与していると推測されます。
 ルナを非常に目の敵にしており、もし出会ったら煽りまくって【怒り】付与を狙ってくるでしょう。

『ムーン・ホッパー』

 全員が月兎と言われる上級国民のチーム。今大会の最有力候補。
 超機動力を有しており、回避も反応値も非常に高く、相手を振り切って優勝を狙うチームです。
 5人全員が攻撃を一切行わず、徹底的に全力移動で先を進む事を優先します。
 対策しなければ絶対に逃げ切られますが、数の暴力に弱く、ブロックも有効。

『アル・ミラージュ』

 一角兎の『アル』がリーダー。あくどい髭面の筋骨隆々なおっさんです。
 前回のムーンレース優勝者であり、月に巨万の富を願った、カネにモノを言わせた成金チームです。
 金で雇った強力なボディーガード4人がアルの周囲を固めており、アル自身も戦闘力はそこそこ高めです。またライバルチームを事前に買収している疑惑があります。
 ムーン・ホッパー打倒に全力を注いでおり、それ以外は気にも留めていません。
 ムーン・ホッパーを先に対処しようとすると意図せず彼らと共闘・共謀する形になる事もあるかもしれません。無論拒否する事も可能です。

『モブ参加チーム』×20

 特筆すべきことも無い一般参加チームです。
 メタ情報ですが、10組のチームがアル・ミラージュに買収されており、イレギュラーズやムーン・ホッパーに妨害や敵対行為を行います。
 残り10チームは放置や排除しても良いですが、買収や脅して仲間にしたり、罠にはめたり、うまく盾にしたりしても構いません。(要:アイテム・非戦スキル)
 戦闘力は非常に低いですが反応値が高く、ブロック・マークでの妨害が得意です。

●同行NPC

『ルナ』

 学が無くバカと呼ばれている、男勝りな性格の野兎の少女。
 しかし病に倒れた父を助けたいと願う優しい心を持ち合わせています。
 EXF、反応、機動力、ファンブル値が高く、HPなど耐久方面のステータスは低め。抵抗値はかなり低く、特に【怒り】には非常に弱いです。
 【斬神空波】、【連鎖行動】を活性化しています。
 イレギュラーズの指示には正直に従いますが、【怒り】が付与されている時は言う事を聞いてくれません。
 特に指示が無い場合は全力移動でとにかく先へ進みます。

●特殊ルール

・イレギュラーズの全ての攻撃手段(スキル含む)に【不殺】が付与されます。
・イレギュラーズは全員、ルナと相互感情『協力者』を活性化しているものとします。
・シナリオ参加者が4人以下の場合は不足人数分のモブが同行します。戦闘で役には立ちませんが、ハイ・ウォールを活性化しています。

●サンプルプレイング

 オレはとにかくライバルの排除を優先するぜ。
 【名乗り口上】で敵を集め、【ぽこちゃかパーティ】で集まった敵を一気に殴り倒す! おらおらあ!
 ……!?
 クッ、囲まれたか……気にするな、オレはここでやつらを食い止める!
 いけえ、ルナ! おまえの夢を掴むんだ!

 以上となります。
 皆様のご参加をお待ちしております。

  • Back a Moon!完了
  • NM名りばくる
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年02月22日 22時45分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
グレン・ロジャース(p3p005709)
理想の求心者
春宮・日向(p3p007910)
春雷の

リプレイ

●君たちはアポロ

 びりびりと歓声が上がる。ムーンレースはこの世界にとって大きな娯楽の一つなのだ。
『さァ始まりました、お待ちかねのムーンレースッ! 今宵は誰が月に手を伸ばすのかッ!?』
 サングラスをかけた実況の兎青年が、軽妙に捲し立てる。
『月まで駆け上がる、猛者たちの登場だァ!』
 参加チーム達にスポットライトが当たる。
『今宵も魅せてくれるのか!? 前回覇者、アル・ミラージュ!』
 スーツを着こなしたアルが、余裕の笑みを浮かべながら観客に向かって手を軽く挙げた。
『今大会は荒れるぞッ、スピードチーム、ムーン・ホッパー!』
 白いベールのような長布を纏う五人。男か女かも判別は付かない。
 その腰は深く曲がっており、異様そのものだ。
『侮れぬ連携とチームワーク、ゲコク・ジョー!』
 観客に投げキッスをするジョー。
『新メンバーを加えたのか。今回は大丈夫かあ? ルナティック・ヘア!』
 スポットライトが当たると同時に、漏れる嘲笑。手を叩いて笑う者たち。
「こりゃ、随分な歓迎のされ方だな」
 飛び交うヤジに、『不沈要塞』グレン・ロジャース(p3p005709)はやれやれと髪をかき上げた。
「あたしのチーム、前の大会で最下位だったから……ごめんなさい」
「大丈夫ですよ。言ったじゃないですか、勝たせてあげるって」
 耳を下げて俯いたルナに、『慈愛の英雄』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)が優しく声を掛けた。
「ルナさんの行動は、無謀な事かもしれませんの。だからといって、それを馬鹿にする権利は誰にもないと思いますの」
 観客を見渡し、『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は呟いた。この大会を通じて彼女を見直してくれる人が出てきてくれればいい。そう願いながら。
「でも、そんなチームがテッペンとるなんてサイコーじゃん。ね?」
 不利な状況ほど面白い。『瓦礫クラッシャー』春宮・日向(p3p007910)はルナの肩を叩いて笑ってみせた。

「どこからかき集めたか知らんが……兎人ですらないとは。所詮寄せ集めチームだな」
「アル!」
 不敵に笑いながら近づいてきたアルの前に、グレンが割り込む。
「おっと、そこまでだ。アンタがリーダーなんだろ? ムーン・ホッパー打倒に、一つ俺の腕前を買ってみないか?」
「何だ、キミは」
 怪訝そうな顔をするアルに、グレンは構わず己の実力を売り込んでいく。
「あんな不気味なウサギ共に優勝はされたくなくてね。どうだ?」
 ずしりとした威圧感。その瞳の奥には、只ならぬ気配の予感。
「キミはそこそこやれるようだね、面白い。精々ムーン・ホッパーの足を引っ張ってくれたまえ」
 笑いながら去っていくアル。
 グレンの手に握られた、いくらかのコイン。
「……これ、おいくらくらいなんですの?」
「明日のパンが買えるくらい、かな」
「ふーん、ずいぶん安く見積もられたってワケ」
 ルナの言葉に、日向は首をこきりと鳴らし、ノリアは眉を下げた。
「よし。準備はいいか?」
「おう、旦那」
「皆さん、よろしくお願いします。全部終わったら、クッキーとジェラートで祝勝会しましょう!」
「ハハ、祝勝会ねえ。ま、カネ貰った以上は頑張りますよっと」
 グレンとユーリエが声を掛けると、男たちが乾いた笑いをした。
 ルナティック・ヘアの周りを、三つのチームが囲んでいる。
 ユーリエ、日向が持ち込んだ小切手、グレンの袖の下が有効に働き、三組のチームを買収できたのだ。

『さァ、各チーム、スタートラインへ! ツキを手に、月まで爆走(はし)れ、ムーンレース──レディー・ゴーッ!!』

 戦いが、幕を開けた。

●激走、ムーンレース!

 やはり序盤はムーン・ホッパーが独走状態だった。
 四足歩行にも見える不気味な走り方。グングンと抜きん出て、第一階層の階段を駆け上がっていた。
「うおおお!」
「ちいっ」
 襲い来るナイフを持った男のルナを狙った攻撃から庇い、打ち払う。
 こういう手合いがいる限り、鎧は脱げない。思うように進めず、グレンは舌を打つ。
「アル・ミラージュに買収されてるチームみたいですね」
「せっかく取り入ったのに、細かい伝達はされてないみたいですの……」
 先を泳ぐように進むノリア。彼女は独自の計画を持っているが、未だ穴を見つけられず並走中。
 ユーリエがふう──と息を吐くと剣から生み出した魔力の矢を弓のようにを引き絞り、前方を走るムーン・ホッパーに放つ。
 絶対命中の自信があったが、どういう訳か白装束が不自然に曲がり躱された。
「普通じゃ出来ない動き……本当にヒトなのでしょうか?」
「不気味すぎー。てか、邪魔」
 剛、と放たれた日向の攻撃が、近寄って来た大男を吹き飛ばした。初見では避けられぬ一撃。
 まだ立ち上がろうとする大男に、スピードの乗ったルナの一撃が叩き込まれた。
「ふつーに強くね?」
「パパが教えてくれたんです。護身術にって」
『チーム・ジェミニ、脱落ゥ──!』

 走る。走る。その間にも脱落していく数多のチーム。
 残り七組の時点で、ノリアがついに天井の無い場所を見つける。
「先行組に、追いつきますの!」
 飛行でグングンと上を目指すノリア。そして、先を行くムーン・ホッパーの前に立ちふさがる。
「こっちは行き止まりですの──!」
「!」
 両手を広げて、叫ぶ。ピタリと止まると、ムーン・ホッパーはうぞうぞと後戻りをし始めた。
「……時間稼ぎにはなれたですの?」

「ムーン・ホッパーが戻ってくる?」
「アルさん、チャンスです!」
 後続のアルとジョーたちがムーン・ホッパーに武器を向けた。
「てめえらが消えれば、アルさんの勝ちだ!」
「全弾使っても構わん、やれ!」
 ナイフを投げつけるゲコク・ジョー、マシンガンのようなものを乱射するアル・ミラージュ。
 しかし、ムーン・ホッパーはぐねぐねとすべての攻撃を回避している。
「どうなってやがる……!」
「奴らを行かせるな!」
 息切れや弾切れの隙を見計らい、人垣をすり抜けていくムーン・ホッパー。
「させねえ!」
 しかしすかさず、先行組に辿り着いたグレンがブロック。聳え立つ巨壁を前に、白装束達は先行を許されない。
 そしてアル、ジョーもブロック。後退も、進むことも出来ないムーン・ホッパー。
「はあっ!」
「殴り、とばーすっ!」
 そこに日向とユーリエの攻撃が炸裂した。白装束が、飛んでいく。
「こ、これは……」
 蜘蛛の子を散らしたように、ふわふわな毛皮を持つ小さな兎達がわあっと逃げていく。
『ムーン・ホッパー脱落! 正体は下級兎の集団だったァ──!』
「成程、上級国民なんて真っ赤なウソ。ヒトにもなれない低俗な兎が身を寄せ合っていただけと」
「道理で、ワケ分からねえ動きするハズすね」
「下級兎ごときが、手こずらせてくれたものだ。まあいい、これで邪魔は消えた」
 高笑いをするアルとジョーに、イレギュラーズが立ち塞がる。

「そいつはどうかな。信用出来るのは中盤までだぜ、俺を含めてな?」
 盾を構えるグレンがキザったらしく笑う。
「ふん、最初からこのつもりで……構わん、やれ」
 はじけ飛ぶ散弾。襲い来る猛攻を一身にグレンは受けるが、彼は倒れない。
「まだまだぁ!」

「ルナ、どうしてオレの元に来ねえ!」
「あんたの女になんて、誰がなるもんか!」
 ジョーのナイフが、ルナの頬をかすめて鮮血が舞う。
「ああ、腹が立つぜ。オレがここまで言って靡かねえのは、おまえだけだ。
 それもこれも、あのクソオヤジのせいだ。だから毒を盛って、死なせてやろうと思ったのに──」
「……ッ!!」
 目を見開き、がちがちと歯を鳴らすルナ。今にも飛びかかりそうな、怒りの目だ。
「はい、行っちゃダメ」
「離して、離せ! あいつがパパをッ!」
 あーしが人の面倒見るなんてねー。日向はルナの腕をぐいと掴んで抑えこむ。
「あまり喋るとその耳、片方聞こえなくしますよ?」
「ぎゃあ!」
 一瞬で美しい茶髪から銀髪に変貌させたユーリエが、鎖をジョーの耳に巻き付けて力を籠める。
「この人たちの相手は私たちがします。だから今は──前へ」
 囁くような言葉。きらりと光るような白い光が包むと、不思議と怒りが消えていく。
「あ、あたし……」

「行かせると思うかッ!」
 突っ込んでくるアルたちの前に、15人の男たちが立ちはだかった。
「ここは俺達に任せろ!」
「貰ったカネのぶんくらいは働かないとな」
「行けよ、ルナ! おれはな、大穴のおまえに全額賭けてんだ!」

 始まる乱闘、そこに加わるイレギュラーズ。
「そういう事だ。行け!」
 グレンが弱き者に寄り添う槍を振りかざす。
「夜が明ける前に急げー、ルナちんっ!」
 生命力を力に変えて、日向は敵へと走っていく。
「ルナさん! 希望を、未来を! 繋いでください!」
 ユーリエが全力で鎖を解き放ち、ジョーやアルたちを圧倒していく。

「……ありがとう!」
 もう、彼女を邪魔をする者は居ない。

『ソユーズ、スカイラブ、オービター、脱落!』
 イレギュラーズが買収していた三組のチームが倒れた。
 遠耳で聞きながら、ルナは走る。
 残してきた三人は無事だろうか。でも、立ち止まれない!
「ルナさん!」
「ノリア、さん!」
「もうすぐですの。頑張って、ですの!」
 ゴールの近くで待っていたノリアが、ルナの背を押した。
 息も絶え絶え、這う這うの体で、ルナは階段を駆け上がる。
 そして頂上。
 嗚呼、そこには。
 綺麗な夜空と、大きな大きなお月様。

●Back a Moon

 一人の少女が、月に触れた。
 誰かを見返せるほどの権力も、お金も、誰かに復讐するほどの力もいらない。

「パパの病気を、治してください」

 バカな少女の、優しい願い。
 月が離れていく。この距離まで近づくのは、また、三年後。

『お、大番狂わせッ! ムーン・レース優勝は……ルナティック・ヘア──ッ!』

 夜空に浮かぶ満月を背に、五人の影がシルエットとして浮かび上がっていた。

成否

成功

状態異常

なし

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