シナリオ詳細
凍てついた慈しみ
オープニング
●凍える森
その世界は凍りついた世界だ。
暗い夜、猛威が衰える様子のない吹雪が荒れ狂う。辺りは森……けれどこの吹雪でつもりに積もった雪で、その森も木のてっぺんまで埋まるほど積もっていて。
──寒い……寒いよ……。
──どうしてこんなに寒いんだ……。
どこからともなく声が聞こえる。……と思ったが、どうやら至るところでふよふよと動き回る光から聞こえてきたようだ。
──この吹雪はいつまで続くんだ……? もう数百年は止んでないぞ。
──すうひゃく、ねん……? もうそんなになるのか?
光はグルグルと回りながら漂って、そんな会話を繰り広げる。彼等は元々普通の『人間だった者』。所謂『幽霊』という者になるのだろうが、彼等は誰一人として自分が死んでる事に気づいていない。数百年の時を重ねその光の姿の自分を見て、彼等は自身を『精霊』だと勘違いしてしまったのだ。
──大司教様は何故大聖堂の門を閉じてしまわれたのだろうか……。
──あの門だって、もう数百年開いてねぇぜ。
彼等は人間だったならば首を傾げてるかのように疑問に感じる。しかしそれも遅すぎた疑問ではあるけれど……。
──大司教様……無事かねぇ。
──きっと大丈夫だ、なんせ大司教様なんだからな。
なんの根拠もない言葉だけれど、彼等にはそれが一番の救いだからだと、今日もその大司教へと祈りを捧げる。
「ネーヴェ……目を覚ましてくれ……」
場所は変わって『精霊』達が大聖堂と呼んでいた巨大な建物。辺りは氷点下を下回っていそうな程に酷く寒い空間。
それもそのはず、その大聖堂の中央広間は今呟いた若い男の目の前にある光を中心に凍りついているのだから。
「今年の春も……あと少しだよ。でももう数百年……いや、君が眠りについてから今年で千年経ってしまった」
光を見上げて悲しげな表情を浮かべる彼の名はシェーン。この大聖堂の大司教を務める者。しかし今は当時厳しいと囁かれていたその威厳もすっかり影を潜めてしまっている。
事の発端はこの世界の女王ネーヴェの暴走によるものだった。慈愛に溢れた女王ネーヴェは優しさで溢れた女性であると同時に、優し過ぎて女王には向かないとも批判されていた。
その声にガラス細工のその心は砕かれたようで、その日からこの大聖堂の中央広間で冷気を放ちながら眠りについていたのだ。
「君は紛れもなく女王、慈しみ溢れ世界の民に寄り添える女王だ。なのに……こんな事をしてしまって……民は凍えているよ」
──っ、!……!
「!!」
かすかに声が聞こえた。
──みなの、たいせつ、する、きもち、を……おもい、だし、たい……
それは紛れもなく彼女の声で、その声にシェーンはその場で泣き崩れるばかりであった。
- 凍てついた慈しみ完了
- NM名月熾
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年02月15日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
●冷たい心を
その広間に特異運命座標が降り立つ。
「お、お前達は一体……っ?!」
大司教シェーンは突然の出来事に身構えた。
「こちらの仕事でね」
『Ende-r-Kindheit』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は冷静にそう答え、ネーヴェを見上げる。
「ああ、目の前にいるのがネーヴェかぁ……」
跪いて騎士のように恭しく礼を取ろう 『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)は軽くお辞儀をする。眠り続けるならば永久の守護を、目覚めるならば忠誠と祝福を贈ろう。そう彼は静かに微笑む。
「氷の女王ネーヴェ、ねぇ……」
幼く見える『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)はその容姿とは裏腹に強気な表情で彼女を見つめた。
『七曜の剣士』ゲンセイ(p3p007948)はと言えばシェーンの顔色を伺い、顔を拭く布を差し出しながら背中さすってみた。
「そっか。女王様の心を取り戻せばいいんだな」
「……お前達にそんな事が出来るのか? 彼女は千年も眠ってるんだぞ?」
「セオリーなんてわかんないけど……俺ができる事全力でやればいいんだよな! っとワリィ、この子見ててくんないかな。ここ寒いからさ」
「ん? あ、ああ……」
ゲンセイは話を交わしながらシェーンへ子猿の豆吉を託す。動物の温もりってほっとするから。
四人はそうして氷の女王ネーヴェを見上げる。
彼女からは冷気が流れ続けていて
●
「アタシにもさ……大切にしていた人が居たよ」
まず静かに口を開いたのはミルヴィだった。
彼の事は出会った当時、どーせコイツも若い女目当てだと思った。けれど優しかった。何も知らないアタシに生きるための事を沢山教えてくれて……最期には呪いに侵されたアタシを救うためにアタシの手で死んだ……。
「貴方が魔種になった時に成長したアタシを見せられたカナ……」
もしかしたら救えるかもなんて淡い期待。けれどミルヴィは自身の力が足りなかったばかりに貴方をもう一度殺してしまったと俯いて。
「……どうして貴方はあの時笑っていたの? 私は貴方を救えなかったのに!」
私がもっと! 強ければ! 違う運命があったのに……。
「……もう一人はそうね」
複雑な心境で語るのは力のなかった頃。ミルヴィが泣いていると、どうして泣いているのと声をかけてくれた大切な貴方。
そうしてミルヴィの無茶な我儘を、貴方は叶えようとしてくれた。いつも馬鹿みたいに走り回って涙も見せずに一生懸命……嬉しかったと彼女は語る。
兄さんを殺して貴方と離れる事になった時、自身の世界はもう無いものだと思って、勢いで出た旅の途中でミルヴィは身を投げた。
あの人もいなくなって海で流れ着いたのは練達。人がいい人に拾われて色々教えてもらっていた。傷を癒しながら必死に自分を鍛えた。
でも兄さんを殺し貴方に離れる決意をさせたのは自身の弱さだったから……ミルヴィは俯いたが瞬時に首を横に振る。
「だから、私はもういいの。一人でいい、独りがいい!」
私は強くなる! 心も、身体も……。
だから貴方は幸せになってね、こーんな馬鹿の事は忘れて
ケド貴方が苦しい時は必ず助けに行く
──だから またね。
ミルヴィの強い強い大切な人への思いは光になり、ネーヴェの胸元へ入り込み中で溶けた。
彼女にこの思いをわかることが出来ただろうか?
●
「この世界はとても懐かしい気持ちにさせてくれるし、似ても似つかない物語に興味も湧かない。ふふ、おかしいだろう? だっておにーさんだからね」
苦笑混じりにに語り始めたのはヴォルペ。
「おにーさんはね、あの方が望む者は全て捧げようと思ったし、全て叶えようと思った」
傍にいるだけで幸福で、その青く輝く氷のような美しさも、孤独に飢えた深海のような瞳も、子供のような純粋無垢な残忍さも、満たされない我儘も全てを大切に愛している。
平凡な日々を望むのならばささやかなティータイムを
世界の破滅を望むのならば徹底的な蹂躙を
心躍る物語を望むのならば様々な世界へだって旅立ってみせた。
「その存在があるだけで、見返りなんて一つもいらないほどに大切だよ」
穏やかな顔色のままヴォルペはシェーンをちらりと見た。
「ねえ、女王さま。君は本当に孤独だった? 君の世界は君を傷つけるだけだった? こんなにも長い間君を待つ者がいるのに、何を怖がっているんだい」
憔悴しきった大司教シェーン。彼の何百年にもなる思いが詰まったその祈りが何故届かないのだろうと、ヴォルペは疑問に思う。
けれど今は自身の思いを届けようか。
「さあ目を開けて、どうかその美しい瞳をおにーさんにも見せてくれないか」
ここは君が愛されて大切にされている世界だから
──祝福と解放を君に贈ろう女王さま
普段のノリとはまた違った穏やかな声色で話す彼の思いも、光になってネーヴェの胸元へ辿り着く。
その過程でシェーンからも光が浮かび上がり、二つの光がネーヴェの胸元へと入り込んだ。
シェーンの思いが、漸く入り込めたということなのだろうか? それとも……入り込むきっかけをヴォルペが導いたのか。
光の成り立ちはよく分からないけれど
けれどこれだけはわかる。
シェーンの思いの光が、ネーヴェの胸元……心へと届いたであろうことが。
●
「わたしは誰よりも自分を大切に思っているの」
静かに語り始めたのはメリー。彼女が大切に思うのは自分自身。けれどそれも大切なものの一つだ。
「自分の幸せの為に、大勢の人間を殺してきたわ。良い人も悪い人も、老若男女の区別も無く何十人もよ」
だから。だからあなたが自分の幸せのために世界を氷漬けにしようが別に構わない。メリーは冷静に言葉を重ねて
「……あなたが本当に幸せならね」
ネーヴェをそう見上げた。メリーは気づいている。この世界が彼女が望む世界ではないことに。それはメリー自身が望んできた世界がある日突然望まない世界へ変わってしまったことから思うことだろうか。
自分の思い通りにしてきたその世界で、ズドンと響いた鈍い音が今も頭から消えない。何もかもが上手くいっていた最中、突然訪れた冷たい絶望が今も心の中に。それも最近思い出したことだけれど。
他にもそうだ、死をも覚悟する程の恐怖に陥った存在がいた。逃れることが出来ないと悟ってしまった瞬間、メリーは酷く酷く震えてどうしようもなかった。だってだってあれは……自分が何人何百何千……何万といても敵わない存在なんだ。
メリーは幼い見た目ながらもこうして沢山の出来事を知ってる。だから、だからこそメリーはネーヴェに伝えたいことがあったのかもしれない。
「今の状況はあなた自身が幸せじゃないんじゃない? ……少なくとも私にはそう見えるわ」
他人を思うばかりに暴走に陥ってしまった氷の女王を見て、メリーは深くため息をついた。
「……まずは自分を大切にしなさい。他人を想うのは……それからでも遅くないはずよ」
まずは自分が自分を好きになってあげなくては。他人を本当に思いやることなんて完全には出来っこない。
自分が可愛い……それでいいじゃない。
それもまた『大切な心』なのだから。
──自分を好きに大切に思う心に変も何も無いのだから。
●
「よし、次は俺の番だな!」
『先走るなよ小僧。冷静にな』
「わ、わかってるって!」
相棒に釘を刺されつつもゲンセイの気合いはばっちり。そのまま女王の前にどっかりと腰を下ろし、じいとその姿を見上げる。
「……皆の為にって頑張り過ぎて心が溢れちゃったのかな。優しい人ってそうだからさ」
自分なりにと言葉を選びながらゲンセイは穏やかに。
「何かを想う気持ち。俺は……師匠かな」
凄く綺麗な女の人なのに武功の達人でさ、何度も地面に叩きつけられて……修練サボると拳骨食らうし。ゲンセイは苦笑混じりに、けれど楽しげに大切な人を語った。
けれど……彼は俯く。
「その師匠が殺されて……俺絶対復讐してやるって取り憑かれてた」
色んな人に諭されて正気を取り戻したけど。けれど……日々を共にした大切な師匠を殺されたその憎しみは……どうしても、どうしてもふと思い出してしまうものだ。
「師匠との日々はもう戻ってこないし、哀しくて悔しいけど……でもそれ以上にあの頃の思い出はすごくキラキラしていて……とても“愛おしい”んだ」
アンタにもきっとそういう思い出あるだろう?
ゲンセイは再びネーヴェを見上げ、そしてシェーンへ視線を向けた。
「シェーンさん、この扉は開けられないの?」
「……何?」
「俺達の言葉だけじゃなくてさ、『皆』の声も聴かせてあげられないのかな。怖いかもしれないけど向き合ってみて」
「……皆の声、か……」
シェーンは周辺の人間達が息絶えていることは、時の流れで察していた。しかし彼等の思いをどう知れるのだろうとゲンセイを見る。
「なあ、またやり直せないのかな? 前と同じは無理かもしれないけど……女王様も司祭さんも他の人も。まだ“意思”を持っているなら、きっと……」
思いがあるのなら、まだきっと間に合うはずなんだ。ゲンセイの熱い気持ちはシェーンを動かすには充分で
ゲンセイの思いの光もまたネーヴェの胸元へと入り込んだ。
●
「……開こう」
彼らに会うまで開こうとも思えなかった扉へシェーンは手をかける。そのままゆっくり扉を開けば隙間から吹雪が流れ込む……と、共に
「この光は……」
シェーンは目を見開いた。これは彼等の……思いが詰まった彼等の魂。
それがネーヴェの胸元へ吸い込まれていく。それは一つ二つではない、数百もの光。
──ああ、ネーヴェ様だ!
──漸く、漸く扉が……!
魂から喜びの声が聞こえる。ネーヴェへの思いが聞こえる。
ネーヴェ、聞こえてるかい?
これがきっと『答え』だ。
──さぁ、目を開けてくれ
その呼び掛けに答えるように
──彼女の瞼が静かに動いた。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
月熾です!
今回も心情系で回してまいります!
●依頼内容
氷の女王ネーヴェに
『大切にする気持ち』を思い出させる
●詳細
イレギュラーズの皆さんはOPの後に
ネーヴェとシェーンの前に現れます。
その際に『誰かを大切にする気持ち』についてを女王に聞かせてあげて下さい。
書いて頂きたい事は
・誰に対する気持ちか
・どんな関係か
・その気持ちを語る
※参加者以外のPCの名前は出す事が出来ません
を、最低限書いてください。
●世界観
凍りついた世界。
洋風のお城のような外観の大聖堂の周りは
雪でほとんどが埋まった森になります。
氷の女王ネーヴェがこの世界を仕切っていましたが
暴走を起こし千年の深い眠りへと堕ちてしまい
同時に無限の冷気を放ち凍りついてしまいました。
●サンプルプレイング
誰か】母様
関係】母
語り】
私は唯一の肉親である母の事を大切に思ってるかな。
結構仲良しでね、買い物とかも普通に一緒に行くよ。
今死なれたりしたら……確実に泣く自信がある。
だからね、悔いを残さないようにって
母様の事は今もずっと大事に思っているんだ。
それではご参加、お待ちしております。
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