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シナリオ詳細

<痛みの王国>痛みの始まり

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●痛みの王国<ペインフルキングダム>
 それは、永遠の痛みを抱え続ける者、『カインドマン』だけが自由を許される国。
 それは、痛みを知らずに大人になった者、『デッドマン』が人並みに生きる事を許されない国。
 異邦人は誰もが言う。『そんなものは間違っている』と。

 『デッドマン』の中には、異邦人の言葉を信じる者も現れ始めた。
 痛みを知らない事は、この国では罪かも知れないけれど。
 一度痛みを知ったなら、それを癒す事もいけないのか?
 『デッドマン』の苦しみを芸術に昇華する事もいけないのか?
 『カインドマン』の苦しみを知る事も、いけないのか?
 ――しかし、『デッドマン』の窮状を王に伝える事だけは、誰もしようとはしなかった。

●王へ
 境界案内人が一冊の本を開き、そのページを捲っていた。
「前にイレギュラーズの皆が痛みの王国へ行った時、同じ顔をした幼い男女の魔法使いが現れたんだよね。
 あれは、王国の警察組織『エース』。意志も記憶も殺されて、偵察能力と魔力を与えられた、みんな同じ絶対服従の衛兵。そして……造り変えられた元『デッドマン』なんだ」
 造り変えられた、とは。
 誰かが尋ねたなら、案内人は「文字通りの意味さ」と肩を竦めるだろう。
「『デッドマン』は生きている事自体が罪な国だから、あの国では些細な罪で殺される。過去にも、そんな理不尽に耐えられなかった彼らが蜂起しようとした事は、あったんだよ。
 ……事前に『エース』に見つかって、王様によって新たな『エース』に造り変えられちゃったけどね。『デッドマン』は皆それを知ってるから、王様に強く逆らう事はしたがらない」
 別の何者かに造り変えられてしまうくらいなら、今の自分のまま殺された方がまだマシだと。『エース』への改造は、『デッドマン』にとって極刑よりも惨い意味を持っているのだ。
「このままじゃあ、変わりたくても変われないよね、あの国。……会ってみるかい? 痛みの王国の王様」
 『デッドマン』による王への直訴は、最悪彼らが改造されてしまう。しかし、異邦人の客――異世界からのイレギュラーズであれば、『会話』のテーブルにはつかせてくれるだろうと案内人は言う。『交渉』が成立するかは別問題だが。
「あの国のルールを作ったのは、王様だ。王様の意識を変える事ができれば、何か変えられるかもしれない。何か話すつもりなら……王様の昔話とか、知っておくといいかもね。『痛みの王国』が今の形になった発端さ」
 彼は一度本を閉じると、ページを数十ページほど戻した。

●痛みの始まり
 昔々。この国が「痛みの王国」でなく、名も無き街であった頃。
 領主の王は、「痛みを食べる」能力を持っていた。
 王にとって「痛み」とは、それを負うに至った人生の形であり、個性であり、人を人たらしめる魂であり。彼はその魂を食らう事で、抜け殻となった者を傀儡軍団として使役していた。

 ある日、王自身が胸に苦しみを覚えた。怪我や病の覚えはない。
 ただ、一人の娘から目が離せなかっただけ。
 娘はあまりに美しかった。身も心も、傷ひとつつけたくないと執着した。
「何故、僕だけが。このような痛みを抱えねばならない」
 この痛みの理解者はいない。己のこの痛みは誰も食えない以上、抱え続けねばならない。娘が視界に入る度、痛みは増す一方だった。
「あの娘を国外へ追放しろ! その後にこの国は、痛みを知る者の国――『痛みの王国』とする!」
 痛みを知らない者が、罪となる国なら。あの娘は二度と戻ってこないだろう。理不尽であればあるほど良い。
 あの娘に、同じ痛みを与えたくない。これは自分の知らない、悪い病かも知れないから。

 我が民よ、今日より痛みを知れ。痛みを知る人は善き人だ。
 痛みを知らぬ人よ、生涯苦しめ。苦しみ抜け。その長い苦しみこそが我が癒しとなる。

 *

「おうさま、なにをかんがえてたの?」
 痛みの王国、王の私室にて。無邪気に語り掛ける娘は、王の顔を覗き込んでいた。
「……お前には関係のないことだ、王女」
 傍から見れば、兄妹のような。王とよく似た髪と瞳を持つ彼女を一瞥して、少年王は窓の外を見た。

 ――胸の痛みは、消えないままだ。

NMコメント

仄香みりんです。調味料です。
なんて横暴で困ったちゃんな王様でしょう。

●目標
痛みの王国の王と会話し、『デッドマン』が虐げられる現状を変える切っ掛けを与える

●世界
痛みの王国<ペインフルキングダム>
(※『<痛みの王国>生きているはずのない人』の舞台と同じ国ですが、該当シナリオを読んでいなくても参加できる内容となっています)
『痛みがわかる人は善き人である』というルールの下に、成人までに物理的あるいは精神的、且つ【永久に消えない痛み】を抱えた人達『カインドマン』が住む世界
成人までにそれらの痛みを得なかった人は『デッドマン』としてかなり差別されています

城で異邦人(王国の民ではない)であることを示せば、客として王と王女がもてなしてくれます
王の過去から彼を揺さぶったり、難しい事はよくわからない王女を抱き込んでしまう事が効果的でしょう
実力行使で王を暗殺してしまう事は、国の今後を考えるとあまりお勧めできません

・王
少年の外見をした王 特に外傷は無い
胸に消えない痛みを抱え続けている事は王女との秘密
(イレギュラーズの皆様は境界案内人からの話で知っています)
「痛みを食べる」能力は健在で、『デッドマン』が強く反発すれば記憶も感情もない警察組織『エース』へと改造して従わせる
客をもてなす気はあるが、現在の制度には微塵の疑問も抱いていない

・王女
少女の外見をした王女 特に外傷はない
兄妹のように王と似ている
王とよく一緒にいて彼を慕うが、難しいことはわからない
実は警察部隊の長

=========
●サンプルプレイング
オイコラァ!痛みを知る人は善き人っつーが、テメーのは痛みの押し付け…って、
茶菓子とか出されても絶対靡かねーかんな!!
ったく…本当によ…(無意識に貪りながら)
こちとらテメーの恥ずかしい秘密知ってんだコラァ!
テメーの秘密の為にデッドマンが苦しみ続けていい理由なんてねェッ!
とっとと国のルールを変えやがれ!

  • <痛みの王国>痛みの始まり完了
  • NM名仄香みりん
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年02月22日 22時45分
  • 参加人数4/4人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

御堂・D・豪斗(p3p001181)
例のゴッド
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)
煌めきの王子

リプレイ

●来訪
「痛みを持つ者こそ正義で、痛みを持たざる者は悪なのか、この国は」
 皆で王城へ向かう道中、『煌めきの王子』クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)は境界案内人の言葉を思い出して言った。同じ国の民には変わりないだろうに、何故差別させてまで、痛みを得ていない事を憎まねばならないのか。
「物事を変えるには、確かに上を変えるのが一番なのでしょうが……王と謁見ですか」
「聞く限り、王様は必ずしも冷血な人じゃない……」
 以前に訪れた時から、この国の異常性を感じ取っていた『協調の白薔薇』ラクリマ・イース(p3p004247)と『ホンノムシ』赤羽・大地(p3p004151)。今回はこの国に確かな変化をもたらせる機会となるだろうが、重圧も大きい。
「ま、ともかく諸君にはこのゴッドがついている! ビッグシップに乗ったつもりでいるがいいぞ!」
 『例のゴッド』御堂・D・豪斗(p3p001181)が胸を張って豪語する視線の先。城門が見える。こちらの姿を認めるなり、城門の前に特徴的な杖を交差させて侵入を拒む小さな衛兵――警察組織『エース』の姿も。
「俺達は、この国の外から王様に会いに来た異邦人だ。……こういうモンだって言えバ、わかるカ?」
 二人の衛兵に見えるよう、『大地』と『赤羽』が持ち込んだ一冊の本を取り出せば、本は末端から虫喰いのように蝕まれ消滅した。
「しらないちから、おきゃくさま」「おうさまに、つたえてあげるね」
 衛兵の言葉と共に城門が開くと、彼らは交差させていた杖を解いてイレギュラーズを先導するように歩き始めた。

●堅持
 揃いのラベンダーアイスの髪に、フクシアの瞳。兄妹のような少年王と少女の王女との謁見が許されると、一行は茶菓子が用意された客間での接待を受けた。
「キング&プリンセス! ゴッドである!」
「ごっどだー!」
 豪斗が大きな声で自己紹介すると、王女が楽しそうに復唱する。随分と人懐こい性分のようだ。
「王女、少しばかりお話があるのですが」
 そんな彼女にラクリマが声を掛けると、王女は二つ返事で応じて席を外した。

(王女の説得はイース君に任せるとして……)
 友をちらりと見遣ってから、クリスティアンは改めて王に向き合う。彼はまだ豪斗の挨拶を受けていた。
「ゴッドはゴッドであるが故に全てを知る! 無論、ペインも知るゴッドである!」
「それは喜ばしい事だ」
「だがこのワールドの事は知らぬゴッドである! ゴッドであっても知らぬものはあるのだ! 人の子が知らぬことがあるとして何を恥じることがあろうか! ゴッドは痛みを知らぬものを笑う事はしない!」
 それまで概ね好意的に、特にペイン――痛みを知ると聞いた時は表情を和らげもした王だったが、痛みを知らぬものへの態度を聞いた途端にその目を鋭くさせた。 
「……貴方がたも我が国の在り方に物を申すと」
「『カインドマン』の抱える痛みを否定はしない。避けられなかった不慮の事故や事件で、痛みが癒えなくなってしまった人もいるんだろう」
 王の意識がこちらへ向いた事を確認してから、『大地』はマフラーを緩め首を露わにする。頭と胴を繋ぎ合わせるような一筋の傷を見せながら、『赤羽』が続けた。
「けド、その痛みを他の人間に強要するとはどういう了見ダ? 俺モ、この通り首の傷があル。この跡ハ、この体が死に朽ちるまデ、ずっと消えないだろウ」
「逆に尋ねるが異邦人。我が国の『カインドマン』と同じく消えない傷を負う身でありながら、他の者も斯くあれかしとは思わないのか。この国の民は、痛みの元に平等なのだぞ」
 痛みさえあれば、『カインドマン』でさえあれば、この国に身分や貧富は関係ない。『デッドマン』という存在を抹消すれば、この国からは差別という『傷』も無くなるだろう。
 ――本当に、そうだろうか?
「……俺の傷は、しょうがないことだけど。ほかの人間には、俺と同じ痛みを味わってほしくない。貴方だって、好んでその胸を痛めたんじゃないだろう。どうして他の者にも、なんて思うんだ?」
「その痛みを、同じ思いをさせたくないと心が痛む相手もいるのだろう? かつて追放してしまった女性……そしてきっと、あの王女様も」
 『大地』とクリスティアンが、王自身の胸の痛みについて触れる。本来は王の他には、王女しか知り得ない痛み。この痛みの王国の発端となった、始まりの痛みだ。
 指摘された王は席を立ち警戒の体勢を取ったものの、その間を取り持ったのは豪斗だった。
「ノーノー! そうナーバスになるでない! 言ったであろう、ゴッドは全てを知ると!」
 シッダウン! と着席を促しつつ、豪斗は続ける。
「ペインがわかる人は善き人である……ユーの言う事もまたトゥルース! ペインとはいずれヒールされるものだが、デリートされるという事ではない! 人の子のライフが続く限り残り続け、やがてそれがヒールを作り、他者をヘルプする……そういう事であろう?」
「……概ね、そのようなものだ。痛みを知らぬ者はそれができない。だが、産まれたばかりの赤子は当然痛みを知らない。そのような時分の痛みなど、成人する頃には忘れているだろうからな」
 故に、この国では『カインドマン』の条件を『成人するまでに消えない痛みを得る』としているのだと王は言った。
 少年王の心は揺るがない。自国の民は等しく痛みを負う必要があると、本気で思い続けているようだ。

●萌芽
 少年王とのやりとりが続く間、ラクリマは王女から話を聞いていた。王女はその人懐こさでラクリマの話に興味を持ち、よく聞き、また話してくれていた。
 彼女は難しい事はわからないという。生まれ育ったこの世界をいきなり否定しては却って混乱させてしまうだろうし、この国で王女という身分にある少女は、きっと外の世界から隔離され大切にされてきたに違いないと、ラクリマは思っていた。
「いたみをしらなくても、おこられないせかい?」
「はい、それが俺達の世界です。王女、貴方の大切な人が痛みを抱えているとして、嬉しいですか?」
 王女はしばらく考えるが、首を傾げるばかりだった。
「わたし、いたみをしらないひとには『エース』をおくらないといけないの。どこかがいたいひとには、おくらなくていいから。おうさまが、むねがいたいっておしえてくれたとき。うれしかった! おうさまは、いいひとなんだって!」
 この少女は、微塵も王を、王の施策を疑っていない。痛みを知らない事の方が辛いという。
 しかし、その理由が自らの管轄である警察組織にあるなら、あるいは。
「では、この世界に『エース』が無かったとして。大切な人が痛みに苦しんでいたら、どう思いますか?」
「『エース』がないのに、いたかったら? いたみがあるひとは、いいひとなんだよね? だからー……ずっといっしょにいてあげる!」
 『痛み』が本当に必要なものかどうか。無い方が幸せである……と、ラクリマは彼女に気付いて欲しかったのだが。果たして、彼女の内にどれほどの変化をもたらせたのか。
「わたし、おうさまにたのんでくる!」
 慌ただしく席を立つと、王女は王の元へと駆けていった。

●守護
 王に話をしていたのは、クリスティアンだった。
「貴方はかつて人々の痛みを食らい、傀儡にしていたそうだね。その時の貴方はきっと、人の痛みを理解する事が出来なかったのだろう……」
「痛みには、そこへ至る理由がある。人生がある。偶然であれ、必然であれだ。私が食らうのは、そういった人生の結晶たる痛み。私ほど痛みを知る者もいないと思うぞ」
 語る王に、クリスティアンは首を横に振る。
「それは、捕食者としての価値観だ。では、貴方が今抱えている痛みは何なんだ?」
 問うて、彼は己の痛みの話をした。
 大切な父王を亡くし、苦しんだ事。それとは関係なく、幸せそうに暮らす民を恨めしく思ってしまった事。
 その幸せな民の姿こそ、亡き父が望んだものであった事。民の幸せの声は、父への感謝の声であった事。
「……それを知った時、僕の心にあった痛みは不思議と無くなったんだ」
 どうか、民の声を聞いて欲しい。大切な人を慈しむ心がある王ならばそれができるはずだと、クリスティアンは請うた。
「キング。一つ訂正して、一つ問おう。一つ、ペインを知らぬものは他者をヒールできないと言っていたが、そんな事はナッシング! 何も知らぬベビーは、バースするだけで周りを癒やすのだから!」
 もう一つ、と指を立てて豪斗は畳みかける。
「ペインを知るものは他者のハートを傷つけぬのだろうか! そのアンサーは……ユーが誰より知っているのではないかね」
 『エース』と呼ばれる警察部隊。その元になったのは、王の制度に耐えきれず蜂起した『デッドマン』達。その事実が存在する、答えであろう。
「『カインドマン』ハ、痛みのわかる優しい人間なんだロ? なら……この声、聞こえるよナ?」
 『赤羽』の求めに応じ、周囲に声が満ちていく。生前には悲鳴も涙も許されないまま殺された『デッドマン』達のものだ。無念、未練、怨嗟、憤怒――『この世界』に殺された者達の怨恨は、王唯一人の痛みを遙かに凌駕する。
 王は表情ひとつ変えず、ただ声を聞いていた。ある瞬間までは。
「おうさま!」
 駆けてきた王女が王を庇うように立つと、響く声に対して毅然と言い返す。
「『エース』がいなくても、わたしがいっしょにいるんだから! おうさまわるくいわないでっ!」
「――!」
 必死なその様に、王は気付いた。無垢だったはずの王女が、痛みを知ってしまった。
 何も知らないままでいて欲しかったあの王女が、これほど必死になって。
「同じなのですよ。王女が、王を悪く言われたくないのも。『デッドマン』が、『デッドマン』になってしまうのも」
 王女と話していたラクリマが一言だけ、最後に告げた。

 痛みは、無い方が幸せである、と。

成否

成功

状態異常

なし

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