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シナリオ詳細

強欲老人貴族・カラック卿の我儘

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 幻想国内の貴族の1人、カラック卿。若かりし頃から多くの合法的ないしは超非合法的なビジネスを手がけて財を増やし続け、その余りある財力でびっくりする程多種多様なの趣味を楽しんでいる、齢99の元気なおじいちゃんである。
 そんなおじいちゃんことカラック卿の最近のマイブームは絵画収集。今日も自ら大量の護衛を引き連れ商館へ向かい、品定めを行っていた。
「カッカッカ!! いやー、やっぱりこう、ゲイジュツ的な絵っていうのは、眺めているだけで心身がリフレッシュするのう!! なあ大将!!」
 商館内にひしめく大量の絵画に大層満足なカラック卿は、商館の主である獣種(タヌキ)の男にそう声をかける。
「へえ。私めの商品がお気に召した様で何よりでございます」
「カッカッカ!! それはもう気に入ったわい!! とにかくこの店は品揃えがよい!!」
「ウチでは混沌各地から無名有名を問わず、色んな画家の作品を買い付けておりますので。品揃えにはそれなりに自信があるのでごぜえます」
「うむうむ、素晴らしい! 今日は景気良く沢山買っていくぞい! えーと。アレとアレと、あの落書きみたいなやつと、アッチの真っ赤な奴と……」
 次々と商品を指差し、館主のタヌキ男は大慌てで購入品のメモを取っていく。
「あっちの雪だるまみたいな絵と、あのちょっと引く位グロい奴と……あれじゃ!!」
 最後にカラック卿がビシィッ!! と指差したのは、商館の入り口正面の壁に堂々と掛けられた絵。
 幻想三大貴族の1人であり、『暗殺令嬢』の異名を取る少女、リーゼロッテの肖像画である。
「いやあ、最初に店に入った瞬間から、アレだけは絶対に買うと決めておったんじゃ!! どこの画家が書いたか知らんが、リーゼロッテちゃんの可愛さが十二分に表現されておる!! 何を隠そうワシはリーゼロッテちゃんのファンでの。貴族同士の権力争いなんぞ心底どうでも良いと思ってたんじゃが、リーゼロッテちゃんには是非頑張って貰いた……」
「あの、お客様」
「ん? なんじゃ?」
 テンション爆上がりのカラック卿に、タヌキ店主は心底申し訳無さそうな顔で頭を下げる。
「申し訳ねえですがアレ……売り物じゃねぇんでさあ」
「……え?」
「あの肖像画はとある高名な画家が描いた一品で……奇跡的にウチが手に入れられた絵なんでさぁ。ですからあれは飾ってるだけで……」
「カッカッカ! カッカッカッカッカ! まあまあ大将! そんな固い事は言いっこなし……」
「いえあの……すんません」
「いやいやいや、そこを何とか!! 大将!!」
 必死で問答を繰り広げるタヌキと老人。実際の所、こんな肖像画を後生大事にしていることが本人に知れれば、2人揃って真冬にさぞ涼しい思いが出来るだろう。
「いやいやいやいや、こればっかりは……」
「いやいやいやいやいや、あ! 金ならいくらでも出すぞい!! 言い値で買おう!! 幾らじゃ!?」
 しかし同好の士、好事家共は恐らくわかってやっているのだろう。かなり悪趣味である。
「いやもう絶対無理です、本当にすいません。正直に言いますと私めもリーゼロッテちゃんのファンで……」
「えー」


 ギルドローレットに、カラック卿がやってきた。多数の護衛を引き連れ、徒歩で。背筋をピンと伸ばしながら、大股で。朝っぱらから。
「カッカッカ!! おはようイレギュラーズの方々!! 御機嫌如何かな? ワシは元気じゃ!! カッカッカ!! 別にワシが来る必要は無かったんじゃがな、御主らの顔を一度拝んで見たかったんじゃ!!」
 元気というか喧しいカラック卿。一見気さくな良い感じの老人に見えてしまうかもしれないが、『超非合法的ビジネス』を行い金を荒稼ぎしている、結構悪どい貴族だと言うことを忘れてはいけない。
「早速じゃが、仕事を頼みたいんじゃ!! 盗みの仕事じゃ!! ワシはもう絶対あのリーゼロッテちゃんの絵が欲しい!! 超欲しい!!」
 カラック卿に寄れば、カラック卿は先日訪れたとある商館で三大貴族リーゼロッテの肖像画に一目惚れした。だが買おうとした所、頑固なタヌキ館主がそれを頑なに拒否。
 だけどカラック卿は絶対その絵が欲しい。欲しいったら欲しい。ならもう盗むしか無い。そういった話である。
「ワシにも色々ツテがあっての、あの商館について色々探らせておったんじゃが……流石に白昼堂々突撃して絵をかっぱらうのはリスクが大きい。目撃者も相当出るじゃろうからな。当然盗みに行くのは深夜って話になるんじゃが……」
 カラック卿が死ぬ程欲しい絵画を含め、商館内の全ての絵画は午後6時の閉館後、地下の保管倉庫へ運び込まれ固く施錠される。その後は合計10人の雇われの警備兵達が商館を警備している。
「警備兵はそれぞれ通信機を持ち、互いに異常が無いか定期的に連絡を取り合っておる。商館外部の巡回に4人。商館内部の巡回に4人。地下の保管倉庫の前に2人配置されとる。いやあ、ここまで調べるのにも結構金使ったわい!! 保管倉庫に通じる扉の鍵がどこにあるかは分からんかったがの! カッカッカ!!」
 カラック卿が調べた情報に寄ると、警備員は9人の人間種の一般警備兵と、狼に酷似した獣種の警備隊長で構成されている。
 警備隊長は他の警備兵よりも高い戦闘能力と鋭い感覚を持ち、獣種の為ほぼ確実に不意打ちは受けない。十分に警戒する必要があるだろう。
「……と。まあワシが調べられた情報はこんな所じゃな!! やり方は御主らに任せるわい。警備兵共も生かそうが殺そうがどっちでもいいわい。ワシはリーゼロッテちゃんの絵が無事に手に入ればそれでいいんじゃ! それじゃ、頼んだぞい!!」

GMコメント

 のらむです。我儘なおじいちゃんの手先となって盗みを働いて貰います。

●成功条件
『暗殺令嬢』リーゼロッテの肖像画の入手

●警備兵
 オープニングの通り、全部で10人。全員が共通して拳銃と、何かしらの近接武器を装備している。

●商館
 2階建ての商館。絵画は全て撤収してある為、かなりガランとしている。
 正面入り口、裏口、地下保管倉庫を含む全ての扉、また窓には施錠がされている。
 商館内部の地下に通じる階段以外に、地下保管倉庫へ向かうルートは存在しない。

●商館周辺
 深夜の為元々人通りは少ないが、ギルドローレットの手によって人払いは行われている。

●注意その1
 依頼を達成するに当たり、多少の騒ぎを起こしたり、容疑不十分の嫌疑を向けられても権力とローレットのツテでどうにかなります。
 が、余りにも決定的にバレるような行動を取った場合、カラック卿は知らぬ存ぜぬで無かった事にし、身の安全は保証されませんので、参加の際はご注意下さい。

●注意その2
 この依頼は悪属性依頼です。
 通常成功時に増加する名声が成功時にマイナスされ、失敗時に減少する名声が0になります。
 又、この依頼を受けた場合は特に趣旨や成功に反する行動を取るのはお控え下さい。

 以上です。皆様のご参加、お待ちしております。

  • 強欲老人貴族・カラック卿の我儘完了
  • GM名のらむ
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月25日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

国東・桐子(p3p000004)
斬り裂き魔
シルフィア・カレード(p3p000444)
リベリスタ
ジーク・N・ナヴラス(p3p000582)
屍の死霊魔術師
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
HaL(p3p002142)
Dr.
雫(p3p002862)
生き人形
ルディス(p3p003110)
特異運命座標
レイア・クニークルス(p3p003228)
いかさまうさぎ

リプレイ


 深夜。商館の警備兵の1人、クラフは、眠たい目をこすりながらいつもの退屈な仕事を行っていた。
「『こちら警備隊長デキス。報告しろ』」
「あー……こちらクラフ。異常なし。どうぞ」
 そしていつもの様に定時連絡に応えた、次の瞬間。
「よし、音は取れた……今だ!!」
 『斬り裂き魔』国東・桐子(p3p000004)の合図で、潜伏していたイレギュラーズ達が一斉にクラフの周囲に飛び出した。
「な……!!」
「恨みも何も無いけれど、これも仕事なの。生まれ変わったら、もっと安全な職を選ぶ事ね」
 『生き人形』雫(p3p002862)は後方から呪術を発動。手元から放たれた赤黒い風が、警備兵の鳩尾を一瞬にして打ち付けた。
 内臓が揺れる感覚がした。だけど何故か、痛くは無い。斬られようが刺されようが、クラフはなぜか全く痛く無かった。
「やれやれ、専門外なんだが」
 困惑するクラフの顎先に、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)の上段蹴りが叩き込まれる。グラリとクラフの上体が揺れた。
「なんだ、これは……? 夢か?」
「『麻酔』が効いてるだけだ……なんなら、試してみるか?」
 よろめくクラフに、『特異運命座標』ルディス(p3p003110)が剣を携え突撃。そしてそのまま大きく一薙ぎした。
「残念だがこれは現実だ。この世界に来世とやらがあるといいな」
 べチャリとクラフの首が地面に落ちた。最後まで、痛みを感じる事は無かっただろう。
「あ、装備は頂いていきますよ。ちゃ~んと私が有効活用してさしあげます♪ いくらで売れ……うーん? この拳銃、ローレットでタダで配ってた物と全然性能差無いような……まあ拾いますけど。危ないですし」
 早速拳銃を拾った『いかさまうさぎ』レイア・クニークルス(p3p003228)。どうせ稼ぐなら、沢山の方が良い。当然の感情である。
「出だしは上々……まあ、盗みに入るのも初めてじゃない。魔術師の工房じゃないぶん楽に終わるだろうさ」
 『リベリスタ』シルフィア・カレード(p3p000444)は事も無げに言い切った。見た目に違わず、人生経験豊富なのだろう。
「そうそう、オレ達は絵画をちょいと失敬するだけ。あんまり気張らずにいこーぜ」
 『Dr.』HaL(p3p002142)がそんな事を言いつつ、クラフの身体から無線機をぐいっともぎ取った。
「皆結構場馴れしているみたいだね。かくいう私もコソコソ何かをやるというのは、昔の逃亡生活時代を思い出す……さて、次の定時連絡までそう時間はないだろう。早速二手に別れよう」
 『屍の死霊魔術師』ジーク・N・ナヴラス(p3p000582)がそう言い、イレギュラーズ達は行動を開始するのだった。


「『こちら警備隊長デキス。報告しろ』」
「『あー……こちらクラフ。異常なし。どうぞ』……流石に次は通らないだろうな」
 二手に分かれた直後に定時連絡があったが、桐子が『記録』していた音声を無線に流し、ひとまずはやり過ごせた。
 その後、囮班のメンバーたちは2人の警備兵の位置をそれぞれ確認。物陰を利用し、正面扉から離れた方の警備兵にギリギリの所まで接近する。
 コツン、と。桐子が投げた小石が警備兵の後方で音を立てた。そしてほんの一瞬だけ、警備兵の気が逸れた。
「よう、こんばんは。良い夜だな。それはそれとして切らせてくれ」
 その一瞬の隙に、桐子は物陰から凄まじい勢いで警備兵に飛びかかる。肩を掴み上げ、肉の裂きやすい場所――即ち防具の薄い場所を瞬時に把握する。
「まずは人の肉。犬肉の切り心地との違いが味わえそうだ」
 ブスリ、と鎧の隙間に刃を突き立て、そのまま隙間に沿って力いっぱい掻き切る。一瞬骨に当たった気がしたが、それ以外はオーソドックスな切り心地だった。
「グァ……!!」
 今の一撃がかなり効いた様子で、警備兵は傷を押さえながらよろよろと後ずさる。イレギュラーズ達は容赦せず、そこに追撃を叩き込む。
「すぐに済ませるわ」
 雫の手から放たれた赤い花。それは警備兵の元までふわりと漂うと、激しく弾けてその全身を焦がした。
 警備兵は腰に提げた拳銃に手を伸ばしかけるが、
「まあまあ、抵抗なんかせずに大人しく殺されてくださいよー……人助けだと思って、ね?」
 それよりも早く、レイアはクルクルと弄ぶように槍を扱いながら、警備兵に急接近した。
「あなたが死んでくれたら~……私達が楽にお金を稼げるんです♪」
 軽い口調とは裏腹に、素早い動作でレイアは警備兵の鼻先に思い切り盾を叩きつけ。怯んだ所に槍を突き出した。
 槍は警備兵の鎧を突き破り、骨の隙間を潜って心臓に到達。くぐもった声を上げ、警備兵はズルリと地面へ崩れ落ちた。
「『警備隊長デキス。報告しろ』」
「ゲッ。早えよ犬っころ! どんだけ頻繁に……もういいや。あー……『こちらクラフ。特に異常無い。相変わらずな』」
 2人目の暗殺完了直後、警備隊長の通信が入った。HaLは咄嗟にクラフの声色を思い出し、無線に応える。他の警備兵たちもそれぞれ報告をしていくが……。
「『……サントとノルはどうした。報告しろ!』」
「あ、今しがた殺したのはノルです。さっきチラッと見えました」
 正面扉の警備兵と恐らく暗殺されたであろう裏口の警備兵。どっちがどっちか一瞬判断に迷ったHaLだったが、レイアが小さく耳打ちする。拳銃を抜き取るため死体を漁った際、警備兵だと示すネームプレートが偶々目に入っていたのだ。
「サンキュー……『こちらノル。悪い悪い、無線機の調子が悪かったみたいだ。それ以外の異常は無し』……『こちらサント。あー、寒さで喉がやられたみたいで報告が遅れた、すまない。異常なしだ』」
「『…………こちら警備隊長デキス、了解した。気を抜くなよ』」
 HaLは一瞬聞いただけのノルの声色を真似、聞いた事のないサントの声はその場しのぎの嘘でごまかせた。無線機越しという状況が有利に働いた事も大きいが、フェイカーの名は伊達ではないという事だろう。
「上手くやったわね……だけど聞いた感じ、向こうもかなり怪しんでいるわ。手早く済ませましょう」
 雫が言い、囮班一行は建物外部の最後の1人、正面扉付近の警備兵の元へ向かう。
「よし、そろそろ暴れだす頃合いか……頼んだぞ」
「任せろ……『こちら正面玄関前。何か反射したみたいだ、ちょっと見て来る』」
 桐子に促され、HaLは誰でもない声で無線を入れる。
「は……? 今のは……」
 謎の無線に、実際に正面口を警備していた警備兵の意識が大きく逸れた。
「余所見注意だ」
「3人目にもなると大分手慣れて来ましたね~」
 そして例の如く隙を突かれた警備兵の身体に、ザクリブスリと桐子の包丁とレイアの槍が突き刺さる。
「『こちら正面玄関前! 襲撃がッァ!!』……お前の代わりに言っといたぜ」
 HaLはニヤリと警備兵に視線を向ける。
「グ……!! 貴様ら、一体……」
「泥棒兼人殺し……あなたにとっては運が無いとしか言えないだろうけど……せめて苦しみが一瞬で終わるようにしてあげる」
 警備兵の懐まで潜り込んだ雫。両拳に炎を纏わせると、その胴体に無数の拳を叩き込む。
「ふ、ざけるな……!!」
 警備兵は血反吐を吐きながら、雫の腕を斬りつける。人間らしからぬ、硬い感触だった。
「あら、痛いわね……でも、これで終わりよ」
 そう呟くと、雫は舞うように跳び上がる。脚に纏った雷は白い軌跡を描き、そのまま警備兵の顔面に直撃。全身を雷に焦がされ、警備兵は煙を吐きながらドサリと倒れた。
「『こちら警備隊長デキス。オストー、報告しろ!! 正面口で何が……』」
「『オストーは死んだよ。残念だったな、クソ犬』」
 HaLは再び嘘を吐く。自らを『警備隊長個人への復讐者』と思わせる為に。
「『久しぶりだなぁァ、クソ犬。テメェが番犬の真似事とか何の冗談だ?』」


 時間と視点は切り替わり、潜入班。最初の暗殺を終えた後、潜入班の面々は裏口へと向かっていた。
「……裏口付近に2つの魂を感知した。恐らく警備兵と……霊魂だろう。そこを曲がってすぐの所にいる」
 ジークが仲間たちにそう告げ、一同は慎重に足を運ぶ。
「数はさっきの半分だが……まあ問題ないだろう。騒がれる前に無力化する」
 ルディスは警備兵を視界に捉えられる位置まで慎重に移動すると、再びギフト『心の麻酔』を使用。警備兵の痛覚を遮断した所で腕を上げ、仲間たちに合図を送る。
「正直暗殺ってのはあんまり得意じゃないんだけどねぇ」
 陰から警備兵の前に飛び出したシルフィア。手にした魔術書をバサリと開くと、素早く魔術を詠唱する。
「あんまりうるさくしないでおくれよ。その方がお互いスムーズに事が済む」
 シルフィアの身体から魔力が溢れ出す。すると虚空から数枚の赤い刃が顕れ、警備兵の身体を瞬く間に斬りつけた。
「スムーズなだけでなく、無駄に痛みを感じる事も無くなるぞ」
「別に絵になど興味は無い……だが依頼は絶対だ。邪魔になるなら対処するまで」
 ジークの魔弾とルディスの剣が、更に警備兵を追い詰める。
「また荒事か……まあ、これも仕事と割り切るしかないか」
 ゼフィラは警備兵が反応するよりも早く、その間近まで接近。警備兵の肩を掴み、壁に押し付けた。
「すまないな。私達はそこを通して欲しいだけなんだ」
 そして壁に押し付けたまま、思い切り腹を殴りつける。硬い拳は鎧を突き破り、腹を潰された警備兵は力無く地面に倒れ伏した。
 すぐさまシルフィアは倒れた警備兵から無線を拝借。囮班の挑発はまだ始まっていない事を確認した。
「聞いていた通り、扉には鍵がかかっているな……こういった小技も習得してみたが、さっそく役に立ちそうだ」
 ゼフィラは裏口の扉に近づくと、ピッキングを開始した。そこまで複雑な構造の鍵でな無かった為、そう時間はかからないだろう。
「さて、それでは今の内に……そこの君。私の声がわかるか?」
 ジークはその間に、裏口付近に漂っていた霊魂に接触を図る。
「分からん」
「……分かってくれた様で何よりだ。君に1つ頼みたいことがある……この商館内のどこかに、地下保管倉庫の鍵があるんだ。君にはそれを探して欲しい」
「断る。なんで死んでまで人の命令を聞かなきゃ……」
「ふむ、そうか。断るか……だが、『これは命令だ』。二度は言わせないでくれ」
 ジークが魂魄遣いとして命じると、霊魂は怯える様に震え、そして承諾した。
「わ、分かった……言うことを聞くよ……」
「頼んだよ」
 霊魂を見届けた頃、カチャリと小気味よい音が響き渡る。
「鍵が開いたぞ。いつでも潜入できる」
 ゼフィラはゆっくりと扉を開く。ひとまず周囲に敵の気配は無い。一行は商館に突入する。
 情報によれば館内は4人の警備員が巡回しているのだが、ジークのギフトを用いた索敵とルディスを先頭とした隠密移動を合わせ、驚く程すんなりと地下に続く階段まで到達する事が出来た。
「……おや、丁度良いね。向こうも本格的に動くみたいだ」
 階段を慎重に降りる最中、シルフィアが持つ無線からHaLと警備隊長のやり取りが漏れてきた。
「『久しぶり……? 貴様何者だ』」
「『俺を覚えてねェ……? こっちはテメェを忘れた事なんざ一瞬たりともねェのによ!!』」
「『……何が目的だ。貴様本当にオストーを……』」
「『知りたいか? 知りたきゃこの薄汚い犬小屋から出てきな、クソ犬。グズグズしてたら火でも付けちまうかもなァ? ……散歩の時間だ。早くしねェと住処が無くなるぜ。オストーの原形もな』
「『……クソ!! 保管倉庫担当の者以外は、至急正面口へ向かえ!! 賊を捕らえろ! 殺しても構わん!!』
 通信が終わると、地上からドタドタと走り回る音が響いてくる。更に階段を降りた先から、警備兵達の話し声が聞こえてきた。
「おいおい、何が起きてるんだ? オストーが殺されたってマジか? ホントに俺らここに居て良いのかよ?」
「分からん。だけど、ここを放置するわけにもいかないだろ。誰だか知らないが、隊長が早々負ける訳……」
「それはどうだろうな」
 地下に到着し、ルディスは一気に警備兵まで接近、そして攻撃。他の潜入班メンバーも次々と姿を表し、戦闘を開始する。
 流石に2人の警備兵を同時に相手した為、すぐに仕留め切れたのは片方の警備兵のみだった。残った警備兵は抵抗を試み、地下に数発の銃声が響き渡る。
 しかし既に状況は混沌としている。地下の異変を地上の敵に察知される事は無かった。
「くっ、こっちが本命か!! 応援を……」
「させないよ」
 無線に手をかけようとした所に、シルフィアが放った魔弾が警備兵を直撃。地下の制圧が完了した。
「それじゃ、肝心の保管倉庫だね……アタシは先に入って目的の絵と高そうな絵を見繕っとくから、鍵は頼んだよ」
 シルフィアは物質透過を用い、保管倉庫の中へ侵入。倉庫の扉の錠が内外どちらでも鍵が必要な物だと確認すると、絵の捜索を始めた。
「……この鍵はかなり上等な代物だ。解錠には相当時間がかかるぞ」
「いや……大丈夫だ。彼が帰ってきた」
 ルディスが解錠を試みようとした時、ジークの元に先程の霊魂がふわふわとやって来た。
「やあ、おかえり。首尾は?」
「保管倉庫の鍵かどうかは見ただけじゃ分かんないけど……館長室とか書かれた部屋があんだよ。まあその部屋にも鍵かかってんだけど、その部屋に……」
「よし、上出来だ。案内してくれ」
 

 正面玄関前では、イレギュラー達と警備兵達の激しい戦闘が繰り広げられていた。
 警備隊長デキスと3人の警備兵達は、多少の時間差はあれど正面玄関前に全員到着。HaLの挑発によって既に頭に血が昇った状態ではあったが、レイアがぐっちゃぐちゃにした死体を目の当たりにし、更に怒りを覚えた様子だった。挑発としては十分効果があったと言えるだろう。
 そして戦闘が開始し、それから幾許かの時間が経過していた。2人の警備兵はどうにか仕留めたが、隊長と警備兵1人は未だ健在である。
「この薄汚い賊共が! 私の部下を殺した罪は償って貰うぞ!!」
 デキスは戦槌を駆使し、重い一撃をイレギュラーズ達に放っていく。その戦闘力は他の警備兵とは一線を画しており、イレギュラーズ達は徐々に浅くない傷を負っていく。
「隊長というだけあって中々やりますね~……ワンちゃんですけど」
 レイアは自らの身体能力を魔術で補強。大幅に増加した素早さで鋭い連続突きを繰り出し、着実にダメージを与えていく。
「ハッ! 薄汚い賊共とやらを相手に、随分と時間がかかってるじゃねェか? さっさと殺して見せろよ、出来るもんならな!!」
 HaLはひたすらに隊長を挑発しながら、仲間を援護する。
 警備隊長という立場を忘れる程の怒りを覚えたのか、最早デキスの意識は守るべき商館には無く、目の前の敵を殺す事のみにあった。
「言われなくとも殺してやる……!! 貴様らだけは許さんぞ!!」
「……まあ、人道に反する行為だという事に関しては反論の予知も無いだろうな。だがそれでも、むざむざ殺される訳にはいかないんだ」
 デキスの後頭部に強烈な拳が叩き込まれる。よろめきながらデキスが振り返ると、そこには潜入班のゼフィラが立っていた。
「ブツは確保した。終わらせるぞ」
 更に館内から姿を表したルディスは最後に残った警備兵の背を叩き斬り、殺害。絵を抱えたシルフィアとジークが、その背後から姿を表した。
 潜入班メンバーのジーク、ルディス、ゼフィラは、地下制圧後にジークが命令した霊魂の案内の元、館長室に到着。無事保管倉庫の鍵を入手した。
 そして地下に戻ると、保管倉庫の扉を解放。シルフィアが見つけた目的の絵と他数点の絵を持ち、大急ぎでここまでやって来たのである。
「どうやら、皆無事みたいだね。これで作戦はほぼ完了……最後の後始末をして、帰るとしようか」
 ジークがデキスに杖を向けると、杖の先端から禍々しい黒い炎が放たれデキスの背を焦がした。
「全く、アタシも荷物持ちかい……これも支援役の定めかねぇ」
 ぼやきつつも、シルフィアは片手で魔術書を開き術式を発動。放たれた2本の氷の槍が、デクスの両脚を貫いた。
「グ……!! オノレェェェェエエエエ!!」
 デキスは雄叫びを上げ、戦槌を振るう。憤怒が込められた一撃は、デキスをマークし続けていた雫の頭部を直撃した。
「っ!! ……ふふっ、やってくれるじゃない……」
 意識を失ってもおかしくない強烈な一撃。しかしその一撃を受けて尚、雫は立ち続けていた。そして小さく笑みを浮かべると一気に距離を取り、デクスの脳天に怨念の込められた矢を放つ。
「グアアアァッ!! この賊共がぁぁああああ!!」
 苦悶の叫びを上げるデキス。ダメージを蓄積し続けてきたデキスの身体は、限界を迎えようとしていた。
「薄汚い賊……あながち間違ってもいないのかもしれねーけどな。はみだし者たちが全力で暴れたら、優秀な忠犬だって噛み殺されちまうんだ。覚えときな」
 桐子の包丁がデキスの首元を捉えた。湿った音と共に肉が断ち切られると、デキスは血を噴き出しながら地に倒れ伏し、そして死んだ。
 戦闘終了。イレギュラーズ達は血溜まりを超え、一気に静まり返った商館を後にする。
 仕事は完了した。注文の品を依頼人に届け、早いところ報酬を受け取るとしよう。

成否

成功

MVP

HaL(p3p002142)
Dr.

状態異常

なし

あとがき

 これにて依頼完了です、皆様お疲れ様でした。
 MVPは、情報戦を制圧したあなたに差し上げます。
 またのご参加、お待ちしております。

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