＜Despair Blue＞海を喰らうもの

オープニング

●絶望との遭遇
　『海洋王国大号令』をもって動き出した『絶望の青』への挑戦。
　数多の船舶が、この謎に満ちた海域へと向け出港した。
　そして、これにはローレットのイレギュラーズを擁した船団も含まれる。未知なる世界への挑戦がまさに始まったのである。

　――しかし。
　『絶望の青』への挑戦は、まさに至難の航海となっていた。

　海洋王国が示した航海作戦は『船団を派遣し、周囲の安全を確認しながら橋頭堡を確保する』である。
　『絶望の青』へと至る航海路を作り出そうという話だ。
　だが、『絶望の青』へと近づくにつれて、海の安全は霞のように霧散していったのだ。
　イレギュラーズ擁する旗艦と、それに随伴する艦隊を含めた船団は、その海域へと侵入した。
　深い深い青へと色を変えた海は、目まぐるしく変わる天候を伴って、荒れ狂う暴威となって船を襲う。
　歴戦の船乗り達でさえ恐れるような荒れ狂う波を乗り越えて、船団は徐々に『絶望の青』へと足を踏み入れていく。
　妙な胸騒ぎがしたのはその頃だろうか。
　その海域へと踏み入れてから、どこか気分が優れず、体調がおかしい気がする。
　それがいつから起こったのか。振り返ってみると思い出す。そうだ、あの日妙に鼻につく臭い匂い。あの臭いを嗅いでから、様子がおかしくなった。
　そうした異常に僅かな危機感を覚えながら海を進んでいた時、絶望が文字通り口を開けて待っていた。

　――なんだあれは！　海に穴が！！

　船員の一人が指さして叫んだ。
　旗艦に乗るイレギュラーズ達が指さした方向を見ると、随伴艦の進路上の海に大きな穴が空いていた。
　さっきまでは、何もなかったはず。なぜ急に？
　突然の出来事に唖然としていると、穴はまるで海を飲み込むように周囲の海水をすべて穴へと落としていく。
　そして随伴艦は為す術なく、まるで飲み込まれるように穴の中へと落ちていった。
　船員の一人が、気づいたように言った。

『ディープフォールだ……！！』

　ディープフォール。
　それは以前どこかで噂に聞いたことのある御伽噺の存在だ。
　海に潜み、あらゆる物を飲み込む狂王種。
　その体長は百メートルを優に越すという。
　出会ったのならば、即座に逃げること。それだけが助かる道に他ならない。

　船員達が慌てふためきながら船の針路を変え始める。だが、絶望はまさに今始まったところなのだ。
　盛大な波飛沫をあげて、船の周りに十本の巨大な触手がそそり立った。同時に進路上の海が凹み、全てを飲み込もうと口を開ける。
「このままじゃ触手に捕まり飲み込まれちまう！　奴の口に飲まれないように船はなんとかしてみせる！　お前さんたちは触手の対処を頼む！！」
　叫ぶ船員にイレギュラーズは強く頷き返した。

　海喰らう悪魔からの逃避行が始まろうとしていた。

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●絶望との対峙
　空がこんなにも暗くなっていたのはいつからだろうか。
　まるで墨汁で染め上げたかのように暗くなった暗雲は、目の前の状況を指し示すかのようだ。
　ディープフォールと名付けられた得体の知れないその怪物は、まさに規格外と呼ぶべき巨大さで、イレギュラーズが乗り込んだ船の足下に潜んでいた。
　陽射しの差し込まない海がディープフォールの影によって一段と暗くなる。
　大きく揺れる船の下で、一体”何”が”何”をしているのか。
　素性の知れぬ未知との遭遇は、それだけで恐怖心を煽ってくる。
　だが、恐怖に怯えているわけにはいかない。
　周囲を見渡せば、甲板を忙しそうに走る船員達が見える。
　彼等の目は死んではいない。
　そう、未知との遭遇は望むところなのだ。
　『絶望の青』へと乗り出すと言うことは、まさに未知との遭遇である。であれば、今の状況はまさに起こるべくして起こった事態と言える。
　ならば、この状況を乗り越えさらに先に進むことこそが、この船に乗る者に課せられた役目と言えた。
（船旅は慣れてないし、外洋は荒れてそうだし――船酔いを危惧していたが、それどこれではなさそうだ）
　大きく動く波に合わせて揺れる船の上で『剣砕きの』ラダ・ジグリ（p3p000271）は努めて冷静に状況を把握していた。
　『絶望の青』へと近づけば近づく程に荒れる海であったが、今が一番状況が悪い。一気に『絶望の青』の名に相応しい景色になったじゃないか、と周囲の暗い海を見渡し思うのだった。
「アレがディープフォールか。……どう見てもヤバそうだなァ」
　船首から海を見渡し、俄に蠢く巨大な影を見ながら『蒼の楔』レイチェル＝ヨハンナ＝ベルンシュタイン（p3p000394）が呟く。
　未知の怪物ディープフォールに出会ったら逃げるのみ。船員達が繰り返した言葉を思い出す。なるほど、確かに何の準備も無しに挑む相手ではなさそうだ。
「敵前逃亡は趣味じゃねぇが、今は一旦逃げて立て直すぞ」
　無謀な幽鬼は無駄死にに繋がる、とレイチェルは仲間達に言った。
「同感だね。
　童話でもあるまいに、腹の中で偶然助かるなんて奇跡もなし。クルー達の言葉に従うのが正解だよね」
　『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ（p3p002535）が頷きながら、すぐに保護結界を展開する。意識的な攻撃に結界は意味を成すわけではないが、とにかく船体へのダメージが懸念であるから、気休め程度にはなるであろう。
　規格外の怪物を前に、気休めがどの程度有効であるかはさておいて、此処は意地の見せ所だと、ルーキスは奮起する。
「ディープフォールがどんな生物かよく知られてないみたいだけど、話を聞くに海の中を漂って好きなときに口を開けてなんでも飲み込むって、完全に食っちゃ寝生活だよね。
　寝てるだけでメシが食えるとかうらやましいんですが！」
　実際の生態がどうなっているのかは不明だが、傍から見れば『女王忠節』秋宮・史之（p3p002233）の言うように自堕落極まりない存在にも思える。
　そんな奴にはオードブルに爆弾でも用意したい所ではあるが、あいにくと史之は怪物に対してそこまで優しくない。オードブルを用意するつもりもなければ、自分達をメインディッシュにしてやるつもりはサラサラないのだ。
「……」
　甲板から海を覗き込み、ディープフォールの存在を確認する『雷雀』ティスル ティル（p3p006151）。
「……え、コレ本当に生物？　絶望の青、というか狂王種ってこんなヤバいのもいるんだね？」
　大きいなんてレベルじゃないと、ティスルは戦々恐々とする。これは戦うという次元での話にはならないと、即座に理解した。
　三十六計逃げるに如かず。やるべき最善の手は逃げることのみだ。
　同じように海を見て同様の考えを持った『Tender Hound』弓削 鶫（p3p002685）は努めて冷静に現状を言葉にする。
「前方には帰ることの出来ない深淵への入口が。そして周囲にはそこへ誘おうとする触手が十本。絶体絶命の状況下というやつね」
　このような事態にあるからこそ、冷静さと判断力が試されると言うものだと鶫は思う。冷静さを欠き、判断を誤れば、即座に死に繋がると理解しているのだ。
　それを理解しているかどうかは別として、こんな状況下でも普段と変わらぬ様子でゆるっとふわっとしている『楽しいお花見お餅ぱーちーを』レスト・リゾート（p3p003959）が考えるように言葉を零す。
「あんなのと戦って、ここで死んじゃうなんてゴメンよね～。
　まだまだ色んな所を旅行したいし、お買い物もしたいし、美味しいお料理も食べたいし…あとねあとね、え～っとぉ～……」
　指折り数えながらしたいこと、やり残したことを言葉にするレストに、思わず周囲の者は笑みを零した。
　そうだ、やり残したことはまだまだ沢山あるのだ。こんな自然災害のような魔物と偶然であっただけで諦めきれることではない。
　間延びしたレストの声が、程よく緊張を解きほぐし、そして生き延びるという強い意思を改めて芽生えさせるのだった。
　そんな中、一人鋭く海へと視線を向ける者がいた。『パンドラの匣を開けし者』ラルフ・ザン・ネセサリー（p3p004095）だ。
「規格外とはいえ、狂王種であることに違いはない……ならば、廃滅病の手がかりに繋がるやもしれんな」
　廃滅病。
　『絶望の青』へと挑戦を始めた最中、知ることとなった病だ。その病気の解決策は――冠位魔種アルバニアを斃すこと以外――未だ不明である。
　ラルフは廃滅病と時を同じくして遭遇することとなった狂王種が密接に関係していると睨んだ。廃滅病の手がかりになると目した狂王種との出会いを待ち望んでいた節もある。
　状況的にはかなり絶望的ではあるが、同時にチャンスとも取れる。狂王種のサンプルを手に入れる絶好の機会を逃す手はないのだ。
　そうまで固執する理由は、『死兆』に蝕まれた仲間の為ではない。そんなことを言われれば鼻で笑うのが研究者たるラルフというものだ。
　未知への探求を前に、彼が手を拱くということはありえないのだ。

　海がゆっくりと穴に吸い込まれていく。
　未だその速度は抵抗出来るものであるが、徐々にその穴の深度は深くなり飲み込まれる海水も多くなる。それは同時に吸い込まれる速度も増加することを意味していた。
　食べ残しがないように触手が海上海中をうねって、獲物を探す。イレギュラーズが乗り込んだ船も、捕捉されたようだった。
　船が大きく旋回する。
　作戦はこうだ。穴と真逆に航行し脱出を図る。
　当然触手達が邪魔となるだろう。そこはイレギュラーズの力が試される場所だ。
　海そのものを相手にするような絶望的な状況だが、生き延びるにはこれしか道がない。
　未知の怪物からの逃避行が、今始まった。

●ディープフォール
「なにか手伝えることはないかな？　触手に近づくまでまだ時間がありそうだし、手伝えることは手伝うよ」
　ティスルは船員に話しかけ、手伝いをしたいと申し出る。
　船上で使えるスキルを身につけてはいないが、何かしていないと落ち着かないようだ。
「なら、こっちを手伝ってくれ！
　少しでも船を軽くするのに、余計なものは全部捨てるんだ！」
　船室から運び出した調度品や、雑貨類。生きていくために必要な水と食料以外に重量になるものは捨ててしまおうということだった。
「結構な重労働かも……なんて言ってられないよね！」
　持ち上げ海へと投げ入れる。勿体ないとは思うものの、これによる航海速度の差が最後には決め手になるかもしれない。どんなに高価なものであっても、命には代えられないのだ。
「暗雲に隠れちゃいるが、いくつか観測できたものがある。これを基準に方角を定めて、脱出ルートを算出したぜ。
　潮の流れは逆向きだが、風はコッチの味方をしている。諦めるなってことだなァ」
　船を操舵する船員や、観測員達を集めながら航海プランを提案するのはレイチェルだ。
　操船技術に航海術を持ち、セイラーとしての素養もある。その的確な”読み”は共に航海する船員達も納得の判断で、信頼に価するものだ。今日という日ばかりは、レイチェルが同乗していたことは幸運だったと言えるかもしれない。
　そうして船は加速し、ディープフォールの”口”から僅かに遠ざかろうとする。
　このまま何事もなく進めば、余裕を持って逃れられるかも知れないが、絶望とも呼べる舞台からはそう容易く逃れられるものではなかった。
「なに……あれ……！」
　調度品を海へと投げ込んでいたティスルが目を見開く。
　船の真下。海に揺らめく巨大な影に、無数の赤い星が煌めいた。それはまるで目のようだと、ティスルは感じる。
　同時、船を取り囲むように立ち上っていた触手が、意思を持って船を掴もうと近づいてくる。
「なるほど、そう簡単には逃しちゃくれねぇわけだァ！」
　船員達と協力しながら船を操舵していくレイチェルが、迫り来る状況に口の端を吊り上げて、鋭い視線で触手を睨んだ。
「ならいよいよ俺達の出番な訳だね。レストさんやりましょう！」
「ええ～、触手の注意はおばさん達が引き受けるわ～。みんな、おばさんと秋宮ちゃんには近づかないように気をつけてね～」
　史之とレストが甲板の広い場所に移動し、触手を迎え撃つ。
「そっち行っちゃめぇでしょお～！　こっちにきなさぁ～い！」
　レストが腕を振るえば、チェックの赤いリボンが召喚されて、巨大な触手にこれでもかと巻き付いた。そのまま引き寄せるように引っ張り、相手は自分なのだと知らしめる。
　レストが抑えきれなかった触手には史之が対応する。
「いつものいくねー。
　俺は秋宮史之！　イザベラ女王陛下（絶賛片思い中）の御為、この海を「希望の青」へ塗り替えに来た！　おまえが神だろうと邪魔立てはさせない！」
　愛する女王への想いを宣誓し、史之が触手を相手取る。そのメガネの奥の赤い瞳が鋭い眼力で触手の動きを掴み、予測不能の動きすらも読み切って、触手の敵視を稼ぐ。
　触手が船を航行不能にしようと、叩きつけるように振るわれる。
「あっ、危なぁ～い！　みんな早く倒して倒して～！　ひゃあ～！」
「このっ、力任せに振るえば良いってものじゃないだろう！」
　その一撃をレストと史之が身を挺して防ぐ。巨大な触手による一撃は、周囲への被害をもたらすが、二人の立ち位置と注意喚起のおかげもあって、被害は最小限にすることができた。
「なるほど。他の触手を持つ魔物と同じような行動予測だが――その巨大さ故に繊細な動きは苦手のようだな」
　ラルフの観察眼は事実ディープフォールという怪物の本質を見抜いていた。その巨大さ故に大抵のことは大雑把に済んでしまうのだろう。一つの物を狙うような繊細な動きは出来ないようだ。
　そうした敵の本質を見抜けば、行動予測に繋がり、それは即ち最大の攻撃力へと転換される。
　触手が横薙ぎに振るわれるその位置を予測して、ラルフが構える。全身のバネを溜め、邪悪な闘気を込めた必殺の貫手が巨大な触手を突き破り破壊と共に肉片を散らばらせる。
　先にも記したようにラルフの第一目的は狂王種のサンプルを入手することにある。散らばった触手の破片や、体液をすぐさま回収し、万能金属で作った容器に収める。
　手がかりとなるかは未知数だが、十分なサンプルを回収できたと言えるだろう。
「的には困らないけど、えぇいクソでかいな！」
　ルーキスが愚痴りながらアメジストの宝石魔術を行使する。
　指向性を持った魔術の霧が巨大な触手を包み込み、神経系を狂わせる。確かに攻撃は効いているようだが、その判断がいまいち分からないのが巨大すぎる故の問題か。
「ホントどういう進化したんだか！　さーおいで眷属達、仕事だよ。ついでに電気も喰らっておけー」
　暗雲渦巻く空に、翼持つ悪霊達が出現し、縦横無尽に戦場を舞った。同時、ルーキスより放たれるチェインライトニングが、居並ぶ触手を焼き貫いて船の行く手に穴を開ける。高い攻撃力を誇るルーキスの火力が、船の針路を切り開いたことは言うまでもないだろう。
「さぁ血路を開こうか――」
　甲板上を移動しながらラダが船体を掴もうとする触手に狙いを定める。
　巨大な触手に掴まれれば転覆もあり得るだろう。それだけはさせるものかと、構えたライフルが大嵐のような銃声を響かせる。
　弾丸の直撃を受けて触手の先端が爆ぜる。痛みを感じているのかは定かではないが、居やがるように船体から触手が逸れた。
「狂王種といえど生物か……？　なら、その腕を失って困るのは自分だと、理解してくれないか！」
　ディープフォールに声が届くことはなさそうだが、口にした言葉を込めてラダは更なる銃声を響かせていく。ジェットパックを適宜使った移動と、的確な安全地帯の読みは鋭く、触手の攻撃に巻き込まれない立ち回りは、まさに狙撃手の名に恥じない動きといえた。
「上手く進行方向の触手に穴が空きましたね……このまま残る邪魔な触手も排除していきたいところですが――！」
　叩きつけるように振り下ろされる触手を飛び退って躱す鶫。受け止めた盾役二人の支援へと回る。
「先端を吹き飛ばしても焼け石に水ですね。出来れば、より根元近くを吹き飛ばしたい所ですが――！」
　力ある言葉とともに鶫は召喚兵装を取り出す。霊子圧縮器が唸りを上げて作動する。腰だめに構えた二メートルに及ぶ霊子砲を構え照準を付ける。
「並びましたね――もらいました！！」
　全身に力を籠めてトリガーを引けば、閃光と共に霊子ビームが放たれる。触手の根元を狙ったビームは、さらに鶫によって横薙ぎに払われ、複数本の触手を巻き込んでいった。
　鶫とレイチェルの呼び出したファミリアーを通して周囲を見れば、進路上に抜き出ることのできる穴を作り上げていた。
「風は変わらずこっちの味方をしてくれている！　一気に抜けるぞ！」
　側面より追いすがる触手の攻撃を、レイチェルが船員を庇い受け止める。イレギュラーズでなくとも、共に命を預け合う仲間だ。黙って見過ごすことなどできはしない。
「前方にもまだ触手が！？　こんなところで死んでたまるかー！？」
　叫びながらティスルが蒼き彗星となって触手へ突撃する。自身の速力をそのまま力に変換するこの技は、まさに絶大な威力となって触手を破壊した。
　このティスルの一撃をもって、進路上の障害物は全て排することが出来たように見えた。変わらず側面から追いすがる触手達もいるが、レストと史之が自らの限界まで引きつけることに成功し、船を守ることができた。
　だが、海喰らう悪魔は獲物を決して逃がすまいと、赤き無数の瞳を輝かせる。
「――！？　さらに触手が！？」
　大きな波飛沫を上げて、さらに五本の触腕が姿を現した。
「後方だが……チッ、結構早いな……！」
「ならば、残る力を全て集中するほかあるまい」
「捕まったらその時点で終わりっぽい……？　やってやろうじゃん！」
　力は底を尽きそうではあったが、ここまで来て諦めるわけにはいかなかった。イレギュラーズと船員達は決死の覚悟でディープフォールから逃れようと足掻き続ける。
　そうして、気づけば――光輝く青空と海が周囲に広がっていた。

●脱出の後
「た、助かったー」
　へろへろになったティスルが甲板上に寝転んだ。
　周囲を見ればイレギュラーズ、船員共に似たようなものであった。
　ディープフォールという未知の怪物からの脱出は、まるでパニック映画をなぞるようでもあった。
「皆お疲れ様ね～、すぐに傷を癒やすわね～」
「レストさんこそ傷を癒やさないと。一番大変な役割だったんだから」
「それを言うなら秋宮ちゃんもね～」
　盾役の二人は苦笑しながら互いの傷を癒やす。
「周囲に魔物などの気配はなさそうですね……絶望の青の海域ですが、一転して穏やかなものです」
　鶫の言葉にレイチェルが頷く。
「まあ、それもいつまで続くかわからんがなァ。ひとまず真っ直ぐ帰るのが得策だろうなァ」
　船員達も同じような判断だった。物資も必要最低限を除き捨ててしまっている以上、未知の海域を航海することはできないだろう。
「あんなのがこの先もうじゃうじゃしてるとは考えたくないね……凄まじいね絶望の青」
　辟易するようにルーキスが言うと、ラダも同感だと頷く。
「……そういえばラルフは？」
　ラダが気づき尋ねる。甲板上にはラルフの姿が見えなかった。
　その時ラルフは船室に一人いた。
「……ふむ、狂王種か……たしかにこれまで見てきた魔物とは組成が違うようだが……」
　それはディープフォールと呼ばれる怪物だからかもしれない、とラルフは頭の中で付け加える。
　手に入れた狂王種のサンプル。これを解析し廃滅病の原因と解決策の手がかりを見つけたい所だが――
「……少なくとも手持ちの機材だけでは、確証は得られんか」
　船上ですぐに手がかりを得るのは難しそうではあったが、地上に戻って研究すれば、なにか手がかりが見つかるかもしれない。
　ラルフはサンプルを大事に仕舞うと、仲間達の待つ甲板へと戻るのだった。
　絶望の青へと乗り出した今回の航海は、こうして未知の怪物ディープフォールから逃れることで、一つ終わることとなった。
　この先、さらに進んだ先には何が待ち受けているのだろうか――

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき

大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

依頼お疲れ様です。

MVPはレイチェルさんに送ります。おめでとうございます。

ご参加頂きありがとうございました。またよろしくお願い致します。