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シナリオ詳細

白灰の飢えた街道

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●灰色の影
 小さな雪が肌寒い風に揺られて降ってくる。薄っすらと雪の積もった白い街道を一台の馬車が、蹄と車輪の後を残しながら進んでいた。
「父さん、今回は本当に良い商売だったな」
「あぁ、これで村のみんなも喜ぶぞ」
 十五歳ほどの少年が嬉しそうに言えば、馬車の手綱を持つ父親が笑顔で答える。彼らはこの近くにある小さな村の住人。
 村で作った品を街に持っていき売り、そして村に必要な物を買い込んで戻るという、村の生活を支える上で必要な仕事を任されていた。
 織物はとても高く売れた、頼まれた流行りの本が手に入った、珍しいワインを買ってきた。
 きっと村のみんなは今か今かと待っているだろう。
 届けた時のみんなの笑顔が楽しみだというように、御者台に座る少年は足をぱたぱたさせていた。
 元々モンスターもあまりいない街道だ。馬車は順調に進んでいき、街道の側にある林を通り過ぎようとした……その時だった。
 ――アウォォォーーーン!
「な、なんだ!?」
 遠吠えが響いたかと思えば、近くの林から灰色の影が複数飛び出してきた。飛び出た影が馬を襲い、走っていた馬車がふらふらと道を外れて横転した。
 雪の上に飛び散った荷物と投げ出された二人。
 さくり、さくり。雪を踏みしめ、彼らを囲う影が複数。
 餌を前に行儀悪く涎を垂らし、鋭い牙を覗かせる、灰色の獣たち。

 ――狼の群れが彼らを囲っていた。

●飢えた狼たち
「今回の仕事は簡単だ。街道に出た飢えた狼たちを倒す、これだけさ」
 集まったものを見渡して『黒猫の』ショウ(p3n000005)はそういった。街と村を結ぶ街道、そこに十頭ほどの狼が現れたという。
「運悪くこの街道を使っていた馬車が狼たちに襲われた。幸いにも子供が一人生き残って逃げてきて、このことが分かった」
 場所は平原に続く街道。近くに林があり、そこに狼たちが潜んでいるようだ。
 この狼たちは近くの山から来たようだ。
 他の群れに縄張りを取られたか、餌となる動物がいなかったか……理由は不明だが非常に飢えており、人を見れば餌とみなして食べるために襲ってくるだろう。
「近くの林までいけば、特に探す必要もなく出てくると思うよ。それだけ飢えているみたいだからね」
 街道には雪が少し積もっているが、移動や戦闘には支障がないそうだ。
 群れの数は十頭。うち一頭は群れのリーダーであり、他の狼をまとめているそうだ。
 飢えているとはいえ、狼に変わりない。むしろ生存本能が高いため、弱っている動きは見せることはない。
 噛みつきによる攻撃や、素早い動きを生かして体当たりなどをしてくるだろう。
「あの街道は街と近隣の村の物流を繋ぐ大切な街道でね。また通行人が襲われて被害が出る前に、狼たちを倒してくれないかい?」
 あとそれからと、付け足すようにショウは言う。
「もしかしたら、襲われた馬車の残骸があるかもしれない。……子供の父親が帰ってきてないんだ。これは依頼の成功には関係ないけど……どうするかは君たちに任せるよ」

GMコメント

 初めまして影浦と申します。どうぞよろしくお願いします。

●成功条件
 飢えた狼たちの討伐

●状況
 見通しのよい平原にある街道です。
 雪が少し降ってますが、移動や戦闘に支障はありません。
 また、近くに襲われた馬車の残骸があるようです。

●敵の情報
 飢えた狼が十頭。うち一頭が群れを取りまとめるリーダーです。
 体格が少し大きいのでひと目で分かるでしょう。
 遠吠えなど鳴き声で群れの仲間に支持を出してきます。
 攻撃方法は噛み付きや突進など。いずれも動きが早いです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 白灰の飢えた街道完了
  • GM名影浦
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年02月21日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
光の槍
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
桐神 きり(p3p007718)
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい
言葉 深雪(p3p007952)
護りたい意思の欠片
ロロン・ラプス(p3p007992)
見守る

リプレイ

●純白の街道
 肌寒い風が街道を通り抜ける。辺り一面は雪の絨毯が広がっており、踏みしめるとさくりと僅かに音を立てて歩いた跡を残す。
 だが『暗躍する義賊さん』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)の歩く音は聞こえることがない。
「人種側から見て被害が出たので駆除をするというのは身勝手かもしれませんが、彼らは人を襲い味を知ってしまった可能性があります。ここで掃討しなくてはいけないのです……」
 ギフト『Invisible shadow』の効果で気配を隠しつつ、慎重に狼たちの姿を探していた。
「まだ手遅れって決まったわけじゃないはず……」
 父親はまだ生きているかも知れない。僅かな希望を抱いて周囲の警戒をするのは『学級委員の方』藤野 蛍(p3p003861)。
「そうですね。でもまずは討伐を終えねばなりません。環境や縄張り、生存競争論等様々ありますが、今は語るより駆ける時なので」
 同じように遠くから見渡して警戒するのは『司令官』桜咲 珠緒(p3p004426)。
 なぜ狼たちがこの街道に流れ着いたか理由は不明だ。倒したとして分かるかも分からないが、今すべきは駆除することだろう。
「狼だって生きて行く為、食らう為。そうして行かなきゃならないもの。……だとして、運が悪かったの一言で済ませる程、私もスレちゃいないわよ」
 街道の雪道を調べていたのはゼファー(p3p007625)だ。
 一晩経過して雪が上から降りかかり少し消えてしまっていたが、微かに轍が残っていた。
 その後から馬車が一台通ったことが分かり、そして複数の獣の足跡も見つける。
「どうやら馬車はここで襲われたみたいね。狼たちが近くにいるかもしれないから気をつけるのよ」
 ゼファーの言葉に桐神 きり(p3p007718)は頷いて警戒しながら辺りを見渡す。
「ふーむ、狼の討伐依頼と。仕事としてはよくあるやつですが、だからこそ失敗する訳にはいきませんね」
「そうね……絶対に失敗しちゃいけないわ」
 『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)は子供のことを思えば、すぐに解決してあげたいと思う。
「弱肉強食は悪ではないけれど。でも……悲しみは、濯がなくちゃいけないわ」
 ラヴは温度視覚で熱源を探す。周囲は銀世界。生き物の体温を奪う程の冷たさを感じ取る。狼たちもこの寒さの中を生きようと必死だったのかもしれない。それでも……。
「動物は感情を隠せないだろうから、ね。空腹による飢餓感で探知してみよう」
 『ひとかけらの海』ロロン・ラプス(p3p007992)も感情探知で周囲を警戒する。
 今回の狼たちは腹を空かせて飢えている。飢餓の感情は他の動物たちより抱いていることだろう。
 それにロロンにとって、その手の感情を感じ取ることは容易いものだ。なにせ彼もまた青い腹の中に狼を収めようとやってきたのだから。
「街道に出現する狼の群れを討滅する……表向きそれだけなら楽かも……だけど」
 『可愛いメイドちゃん(男)』言葉 深雪(p3p007952)も子供のことを思いながら周囲を警戒する。
 あの少年も可能ならば父を助けたかったかもしれない。
 彼だけが無事に逃げて生き延びた……その境遇は少なからず、深雪にも通じるところがあった。
 乱れた轍を追うと、遠くに馬車らしきものが見えてくる。そして――。
「――ッ! こっちから……狼、来てるよ!」
 深雪の言葉に同じく、皆も狼の接近に気が付いた。
「――アオオォォン!」
 それぞれが武器を構えたところで、大きな遠吠えが一つ。それを合図に林から複数の狼たちが飛び出してきた。

●雪上の戦闘
 奇襲に対する警戒は十分だった。飛び出してきた狼たちに驚くことなく、彼らは素早く対応できた。
 先に動いたのは蛍だ。眼鏡越しのその瞳はしっかりと狼たちを捉えていた。
 ――狼たちの背の向こう。そこにあるものも視えていた。
 横転した馬車の残骸と散乱した品物に――雪に残る赤い跡。
 視えた光景に蛍は少し戸惑うも、まずは目の前の邪魔なものを退かさなければならない。
「子供のためにも……倒さないとね!」
 舞い散る白に薄紅が交じり始めた。満開の桜が蛍の周囲に突如として現れたのだ。
 驚き足を止めた狼たちを包むように、吹き荒れた桜吹雪が飢餓の心を塗り潰していく。
 桜の結界に囚われたその獣の瞳は蛍のみを映し、思考は湧き上がる激情に支配された。感情に流されるまま二匹の狼が牙の刃を突き立てんと迫るも、蛍は桜花の影を残して躱した。
 狼の攻撃を躱した動きはすでに熟練者の動きだ。背に守る味方の為に――先達者としての経験と意思の強さがよく表れていた。
 ――ボクはただの女子高生だったのにね。
 自分を委員長と呼んだ同級生たちが今の姿を見たらどう思うだろうか。
 静かに教科書の表紙を撫でる。己と同じく“普通”とは程遠いモノに変わったそれを。
「さぁ、かかって来なさい!」
 国語の教科書がパラパラとページを分離させ、強固な防衛武装を急速に綴りあげていく。
 例え昔と少し違ってもやるべきことはかわらない。委員長として、率先して前線に立ち、皆を引っ張ることには。
『蛍さん、気をつけてください。右から狼が来ます』
 耳に届く珠緒の声に蛍しっかりと頷いた。今回の依頼は彼女もいる。ならば尚更、狼たちを後衛に行かせるわけにはいかないのだ。

 ラヴは紺の瞳で目の前の戦場を見渡した。
 舞い散る桜と冷たい白の世界にいくつもの生命の熱を感じる。
 ――でも、探している温かみがない。馬車の周辺を注意深く見るも見つからない。
「……今はそれよりも」
 白の世界から目の前を駆ける灰色へ視線を移す。
 事前に珠緒の伝達もあり、全ての狼たちの距離と位置は正確に分かっていた。横に広がり、自分たちを囲むように群れは展開している。その多くは蛍を狙っていることも。
 リーダーはこの位置から狙えない。ならばまずは、狙いやすいものから狙うまで。
 生存本能を今は怒りに変えて桜を追う一匹の狼に狙いを定めると、ラヴは両手に持つそれの銃口を向けた。夜闇と傷の夢――二つの拳銃から銃弾が放たれ、精密な射撃は狼の頭を撃ち抜いた――優しくも残酷な、終わりの夢を見せて。
「おやすみなさい」
 血溜まりに沈み倒れた狼にラヴは静かに涙を流す。それが徐々に熱を失っていくのを感じながら。

「一体、倒しましたのです。残り八体とリーダーです」
 前線に桜が咲いているが、後衛にも桜が咲いていた。淡い血の光を宿す幾つもの画面には周囲のあらゆる情報が羅列されている。
 その中心に立つ珠緒は瞬時に情報を処理し、仲間へ伝えていく。
「今は蛍さんが多くの狼を引きつけています。引きつけているとはいえ、リーダーは奥にいるので狙いづらいです」
 狼の攻撃を避けては流す恋人の勇姿を見つつも、冷静に場を分析する。彼女の声一つ、その存在が周囲の者への手助けとなっている。戦場を常に見渡し、指示を出す者がいるといないでは、勝率も変わってくるだろう。あの群れにも指示役のリーダーがいる。だが今は乱れた統制により指示は意味をなしていない。

「ふむふむ……じゃあまずは雑魚敵を一体でも多く倒しましょうか」
 珠緒の情報を聞き、そう返事を返したのはきりだ。
「本当、クエストの序盤にありそうな依頼ですねー。いやいや、これがゲームじゃないって分かってますよ」
 踏みしめる雪も感じ取る寒さも、けしてデータが作り出す幻ではない。けれどこの体はあの時使っていたMMOのアバターのままだ。
 どこかちぐはぐな現実にはもう随分と慣れてしまったように感じる。ならば今日もいつものように、仕事をするまで。
「――ギャンン!!」
 戦場に一筋の光が走り、獣の悲鳴が上がる。
 きりが放ったのはライトニングだ。その雷撃は二体の狼を狙ったもの。一体はギリギリの所で躱し、もう一体は避けきれず当たり痺れに蝕まれた。
「まだ終わりじゃありませんよ!」
 素早く二撃目の準備を終えたきりが、再び雷を走らせる。狙われた二匹は一撃目を躱し受けた直後だったのもあり、二撃目を避けられず二匹は揃って雪の上に倒れていった。

 次々と倒れていく仲間の様子にリーダーはギチギチと牙を食いしばる。唸り声をあげ、雪を蹴る。
『蛍さん!』
「ええ、見えている!」
 珠緒の警戒の声に蛍は応え、突進してくる大きな狼に構える。まともに喰らえば吹き飛びそうな重い一撃をうまく受け流した。
「こっち側は私に任せなさい」
 リーダーを相手取る蛍、その左側にいる狼を狙って走り出したのはゼファーだ。彼女の役目は露払い。仲間を守り立つ蛍を囲う一匹に、古びた槍の切っ先が鋭く刺さった。
「師匠の技はこれで終わりじゃないわよ?」
 さらに二撃目。連続した槍の攻撃に狼はよろめく。
 足を引きずりながらも狼はまだ倒れることなく、ダラダラと血を流しながら、ゼファーの脇をすり抜けていく。
「悪いけど引き付け役は蛍さんだけじゃない。さあ、相手はこっちだよ! ……命を奪い合うのは、厭だけどね……!」
 血だらけの狼の前に立ち塞がる深雪。名乗り口上を上げれば、目の前にいる狼だけでなく他の狼たちからの鋭い目線が飛んできた。
 だがこれでいい。蛍と共に皆の盾にとなるように行動することが、深雪の役目なのだから。
 立ち塞がった深雪を前に、走る血だらけの狼は止まることがない。そのまま体当たりするように、深雪の腕を狙って噛み付いた。
「くっ……」
 食い込む牙に痛みを感じるも、深雪は剣を振る。噛み付いていた狼はそれを避けるために離れたため、うまく振り払うことができた。さらに別の一体から突進をくらうも受けきった。
「ごめん、そのまま引き付けててね!」
 すり抜けた狼を追いかけて、ゼファーが深雪を狙う狼にとどめを刺した。今度は確実に、狼の首を刎ね飛ばして。
「怪我は大丈夫? 女の子が顔に怪我したら大変だし」
「これくらい平気だけど……あの、僕は女の子じゃなくて男の子だよ」
「まぁごめんなさい。可愛かったからつい、ね?」
 ――間違えはわざとかもしれない。愉快に笑うゼファーを困ったように深雪は見た。

「言葉さんは大丈夫よね?」
『珠緒が回復します。それより深雪さん、少し下がるのです。その位置だと仲間の範囲攻撃に当たってしまいます』
「了解だよ」
 珠緒の声に蛍は少し前線を下がった。下がりながら蛍は自分を狙っていたリーダー達に向けて、狂咲の桜を残していく。
 蛍が下がったタイミングに合わせて、再びきりの雷が迸る。狙っていたリーダーともう一体に当たることはなかったが、二体の狼にダメージを与えさらに一体を倒した。
「よし、ここだ!」
 きりの雷を受けた二体の頭上が撃ち抜かれ、魔法陣が展開されていく。雪と桜に合わせ、光り輝く銃弾の槍が降り注いだ。ルルリアの聖浄の槍が狼たちの体力をさらに削っていった。
 その間に珠緒が深雪の怪我を回復する。戦場は前で敵を引き付ける蛍と深雪のおかげもあり、後衛は動きやすい。
 きりの雷を避けたリーダーは蛍を狙っていた。それを見たロロンはリーダーに向けて衝撃波を放つ。己の体と同じ青の一撃はリーダーの鼻先を掠める。
 その一撃に込められた威力にリーダーは言い知れぬ恐怖を感じ、身震いする。
 ――いや、この感覚は同じだ、己が抱き悩ます感情と。
「気が付いたんだ。そう、ボクもキミたちと同じ。食べるためにやってきたんだよ」
 海の青を宿す丸いスライムが言う。波打ち光る水は捕食者として狼たちを映し込んでいた。

 戦況はすでに半数の狼を倒した。それによりリーダーも狙いやすくなった。
「狙うなら、今ね」
 ロロンに続いてラヴもリーダーへ攻撃する。二つの銃口を並べ、光の束を放った。少女の夢が込められた銃弾はリーダーに当たり徐々にその体力を減らしていく。
「だいぶ減ってきたし、あともう一息ですね」
 凶冥刃クルシェラを構えたきりの左目は赤く光った。自身の肉体と武器を超凶化させ、疾走し近づいた一匹の狼に刃を突き立てる。
 凶刃乱舞の名に相応しい、幾つもの銀の閃光が瞬く。その刃に身を晒した狼は灰色の身を赤く染め上げた。
「こちらの狼は僕に任せてください」
 剣の柄を握る手に痛みが走るが、これは出血だけのせいではないと深雪には分かっていた。金糸の髪を靡かせ体躯に似合わぬ太刀を振り回す。居合の一閃が二体の狼を斬り伏せていく。
「ま、お生憎様? こっちだって大人しく餌になりに来た訳じゃー無いのよ」
「飢える苦しみは分かるけど……人を襲う狼を放ってはおけないのです。これで終わりにしましょう」
 リーダーに向けてゼファーの槍が振るわれ飢えた腹を裂き、ルルリアの銃口からファントムチェイサーが放たれる。
「ガァ……アアァ……」
 ゼファーの裂いた腹にルルリアの攻撃は撃ち込まれた。その一撃がトドメとなったのだろう。掠れた声を出して、大きな体を雪に沈ませた。
「リーダーは倒したけど残っていますね!」
 すぐさま銃口を次の標的に向けたルルリア。再びファントムチェイサーを繰り出せば、リーダーと同じくその狼も倒した。
「残り一体、ボクにまかせて」
 ロロンは最後に残った一体に、衝撃の青を放つ。その一撃は重く、雪を巻き上げ吹き飛ばし、リーダーや他の仲間の後を追わせた。

「戦闘終了です。皆さん、お疲れ様でした」
 周囲に敵の反応がなくなったことを確認し珠緒が伝える。

 白に埋もれた灰色の死体が十体。
 ――ちらちらと降る雪がまだ生暖かい血の上に落ちて溶けていった。

●運び屋の仕事
 狼たちを倒した彼らは横転した馬車に近づいていった。
 散乱した荷物は実に様々だ。元は可愛いドレスだったのだろうそれは裂けて泥だらけ。
 流行りの本は破かれ、ページが雪に埋もれ濡れている。ワインの瓶は割れて中身が溢れていた。
 食料の類に至っては全て食い散らかされた後のようで、何も残っていなかった。

 そして、同じように――無残にも喰われた人の死体があった。

「もしかしたらまだ手遅れじゃないって思っていた……でも」
 先陣を切った蛍が最初に気が付いていた。馬車の向こうに生者の気配がないことを。
 眼鏡の下の瞳は常に人の変化を察するのに鋭かったが故に。
「……せめて、無事な荷物と遺体を村に持っていきましょう」
 悲しむ蛍と共に、珠緒は父親へ冥福を祈る。
「貴方の子供は無事だったわ。そう言って、貴方が救われるでもないでしょうけれど」
 ――それでも。貴方があの子の命を繋いだ。……私はそう思うよ。
 ゼファーは父親の遺体の側に片膝を付き、静かに伝える。
 子供が今も生き残ったのは父親のお陰だ。十頭もいる狼の群れの中から、子供を逃がすというのは至難の業だっただろう。
「よくがんばったお父さんへ。――"今はもう、おやすみなさい"」
 涙を流しながらラヴは僅かに残った遺体を毛布に包んでいく。
 きちんと連れて帰ってあげたい。家に帰れないのはもっと悲しいのだから。

 遺体と共に散らばった品物も回収し、ここに来るまでに使っていた馬車に乗せていく。
「これは……」
 品物を回収中、ルルリアは雪に埋もれた帽子を見つけて拾い上げた。
 使い古された帽子には血の跡が残っていた。
 父親の遺体の側に落ちていたから、もしかしたらこれは父親の遺品となるかもしれない。
「ルルたちにできることはこれくらいしかないのです……」
 ルルリアは大事に帽子を持つ。これもきっと届けなければならないものだ。

 回収を終える少し前。ロロンは一人先に街道に戻ってきていた。
「肥えていようが痩せていようが、溶かして食べる分にはあまり関係はないかな」
 目的はもちろん、狼の捕食だ。倒れた狼の死体の中から傷の少ない個体を選ぶと、ロロンはその大きな水の体を広げて丸呑みにした。捕食者であった狼は今、被食者として飲み込まれていく。
「ごちそうさま」
 青い水の中に沈んだ狼はとても目立つ。ロロンは隠すようにマントを巻きつけた。

 遺体と荷物を乗せて馬車は街道沿いを行き、目的の村に到着した。やってきた彼らを村人たちは感謝を述べて暖かく出迎えた。
「……お父さん、お父さん!」
 毛布に包まれたそれが父親だと知ると少年は母親と共に泣き崩れた。
 昨日まで共に居た、笑い合っていた父親が今は居ないと知った。もしかしたら生きているかも知れないという願いは潰えてしまった。
「……あの、これを」
 少年がある程度落ち着くのを待ってから、ルルリアは手にした帽子を差し出した。
「これ、お父さんの……いつも使っていた帽子だ……」
 泣き腫らした目から再び涙を流しながらも、少年は震える手で帽子を受け取る。
「立派に君を守ってくれたお父さんの分まで、強く生きて……!」
「……うん、もちろんだよ。いつかお父さんのような運び屋になるんだ」
 蛍の励ましの言葉に頷くと、溢れてくる涙を何度も拭って、少年は一生懸命に伝える。
「お父さん、いつも言っていたんだ。運ぶ荷物はただの荷物じゃない、みんなの想いがこもった大切な荷物だって……。ありがとう、お父さんを運んできてくれて。あなた達も、お父さんと同じ、想いの運び屋だね」

 父親はけして助かることはなかった。
 だが彼が運ぼうとした想いを、代わりに運ぶことができただろう。

 ――村を後にした時には、降り続けた雪がやみ灰色の空が晴れていった。

成否

成功

MVP

ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい

状態異常

なし

あとがき

依頼お疲れさまでした。
狼たちの討伐のみならず、少年や荷物に対しての気配りもありがとうございました。
父親が助かることはありませんでしたが、皆さんのお陰で少年の心は救われたでしょう。

またご縁がありましたら、どうぞよろしくお願いします。

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