PandoraPartyProject

シナリオ詳細

酒が駄目になる、その前に

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●彼曰く、特段呪われる理由に思い当たる節は無いようです
 世界全体で雪と空っ風が吹き荒ぶ世界の、とある片隅。
 ユルコフスクの町のさらに片隅に小さな店舗を構える、酒場「リーヴニ」にて。
「くそっ、今日もダメだ!」
 酒場を一人で切り盛りする老イリヤは拳をカウンターに叩きつけた。
 カウンターに残された数本の酒瓶。日が昇るまではちゃんと中には酒が入っていたはずなのに。
 今ではそのいずれも、腐って饐えた臭いを瓶の中に充満させていた。
 ワインも、ウイスキーも、ウォッカでさえもだ。
 水やジュースには何の問題もない。貯蔵庫の食糧にも一切影響はない。酒だけが、商売道具の酒だけがこうして腐っている。
 理由は明白だ。あのふざけたヴラディーミルの野郎め。こんな厄介な呪いをこの店に置いていきやがって。
「どうする……司祭様はもう頼れねぇ、解呪師どもも役には立たねぇ。このまま店を閉めようにも、土地が呪われてちゃ話にならねぇ……」
 老イリヤは頭を抱えた。このまま廃業しようにも出来ない、解呪の専門家には匙を投げられた。こんな場末の小さな酒場、人を呼び込むにも限界がある。
 呪いを解かない限りは、八方塞がりだ。
「頼む……誰か何とかしてくれ……!」

●彼曰く、推しの店を救うための出費ならいくらでも出すそうです
「やあやあお歴々、このグリゴリー・カシモフと相まみえるとは全く以て運がいい、いや実に幸運だとも!」
 境界案内人、『ツンドラの大酒飲み』グリゴリー・ジェニーソヴィチ・カシモフは大仰に両腕を広げながら、居並ぶ特異運命座標にそう告げた。
 一体何がそんなに幸運なのか、訝しむ視線を向ける特異運命座標たちに、獅子の頭部を持つ境界案内人は口角を持ち上げつつ人差し指を立てた。
「何がそんなに幸運なのか、と言う表情だな? 旦那にお嬢さん。だが喜ぶがいい、今宵、お歴々は少々の元手で浴びるほどに酒を飲めるのだ!」
 そう言いながら、グリゴリーはウイスキーをなみなみ注いだ手元のショットグラスを、高々と掲げた。
 面食らう特異運命座標の前で、彼はそのウイスキーを一息に呷ってみせる。そうしてごくりと飲み込んで、深く息を吐いてから、赤ら顔の獅子は口を開いた。
「無論、単なる飲み会の誘いなどではないよ? れっきとした仕事だとも。
 いやなに、俺の懇意にしている小さな酒場が、ユルコフスクの町にあるんだが……そこの主人がどこぞで誰かから恨みを買ったのか、酒場に呪いをかけられてしまってね」
 笑顔が一転、難しい表情になって眉間に皺を寄せるグリゴリー。ピンと立てていた指をもってその狭い額をしゅっとこすりながら、忌々し気に彼は言った。
「その呪いと言うのが何ともおぞましい、一夜にして仕入れた酒の悉くが『腐ってしまう』という呪いなのだよ。
 当然のごとく、主人は解呪に奔走したとも。こんなことになっては商売あがったりだ。
 だが、どんな高名な解呪師も、司祭も、この案件には揃って匙を投げた。何故だか分かるかい?」
 口をへの字にしたままで、グリゴリーは特異運命座標たちに視線を投げた。
 投げられた彼らが揃って首を傾げると、グリゴリーは宙を仰いで両手を広げた。そのまま吼えるように言葉を吐き出す。
「そうだろう、そうだろうとも! 彼等だって思うまいよ、呪いを解くためには仕入れた酒が『腐ってしまう』前に、全て、全てだ! 飲み切らなくてはならないのだと!
 何しろ小さな酒場だ、一度に立ち入れる人数など高が知れている。入れ代わり立ち代わり人を入れようにも、呪いを恐れてなかなか人が立ち寄らない。そもそもが知る人ぞ知る、小さな酒場であるからね。
 少量仕入れるにしたって利益が取れないし、どうやらある一定量以上の酒を一夜に飲み切るというのが条件らしい。何度か酒瓶数本程度を仕入れるだけにしてみたが、効果はなかったそうだ」
 憎々しそうに小さく舌打ちをしながら、歯噛みする彼だ。馴染みの店が苦しんでいるのに力になりきれない、そんな歯がゆさもあるのだろう。
 しかして、改めて獅子は特異運命座標に向き直った。左手を広げ、その手の肉球を見せながら差し出してくる。
「と、言うわけでだ旦那にお嬢さん。ワインを数本空けてもなお正気でいられるというお歴々。その力を是非ともお貸し願いたいというわけなのさ。
 酒場の主人もいよいよ業を煮やしてね、ある一定の元手を先に支払えば、あとはいくら飲んでもいくら食べても構わない、という営業形態でやるそうだ。俗に言う、『食べ飲み放題』という形だね。
 ああ、資金は気にしなくていいとも。俺が全て持つ。馴染みの店を救えるとあれば安いものだ。料理も言ってくれればその場で作るということだよ」
 そう力強く言いながら、彼は微笑んだ。その微笑みが消えぬうちに、左手を横へと流す。
「さあお歴々、しこたま飲んでくれたまえ。くれぐれも、途中で酔いつぶれることの無いようにね?」

NMコメント

 特異運命座標の皆様、こんにちは。
 屋守保英です。
 飲んだくれましょう。楽しく飲んでいれば呪いも解けます。

●目的
 ・酒場にかけられた呪いを解く。

●場面
 グリゴリーの出身世界でもある、寒冷地帯が広がる世界のとある町にある酒場です。
 酒場の主人が、かけられた呪いのせいで一夜にして酒が腐ってしまうことに頭を抱えています。
 日付が変わるまでに仕入れられた酒をしこたま飲んで、呪いを解くことが今回の目的です。
 目安として、ワインのフルボトルを夜が明けるまでに12本空けるくらい飲めば、呪いは解けます。

 それでは、皆さんの楽しいプレイングをお待ちしております。

  • 酒が駄目になる、その前に完了
  • NM名屋守保英
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年02月19日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ルウ・ジャガーノート(p3p000937)
暴風
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
小平・藤次郎(p3p006141)
人斬りの鬼
紅楼夢・紫月(p3p007611)
呪刀持ちの唄歌い

リプレイ

●それは青天の霹靂
「老イリヤ! 朗報を持ってきたぞ!」
 『ツンドラの大酒飲み』グリゴリー・ジェニーソヴィチ・カシモフが小さな酒場『リーヴニ』の扉を開け放ちながら言うと、店主たる老イリヤは目を丸くしてから難しい顔をした。
「誰かと思えばグリゴリー。今日は貴様好みの酒を仕入れてないぞ、帰れ」
「つれない事を言う。折角、店の呪いを解けると俺が確信した人材を連れてきたと言うのに」
 ぶっきらぼうに言ってのける老イリヤに、苦笑を返しながらグリゴリーが扉を押さえる。と、店の中に飛び込んでくる影があった。
「うー、寒っ! どうも寒い所は苦手だぜ、霜降りになっちまう!」
「それを言うなら霜焼けじゃないっきゅ?」
 『暴猛たる巨牛』ルウ・ジャガーノート(p3p000937)が身体を震わせて入ってくる後ろから、『乗りかかった異邦人』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)が顔を覗かせると。
「久し振りのお酒っきゅ! イレギュラーズとして合法的に飲めるっきゅ!」
 グリュックに抱かれたレーゲンが、前ヒレをび、と持ち上げる。
 その後ろからゆらりと店に入ってくるのは『人斬りの鬼』小平・藤次郎(p3p006141)だ。
「全くじゃのう。しかもタダ酒じゃな! 最高じゃ!」
「おうとも、仕事で酒が飲めるなんて最高じゃねえか!!」
 藤次郎の発言にジャガーノートも同調して声を上げる。そんな二人を見ながらくすくすと笑みをこぼして、リーヴニの扉を閉めるのは『呪刀持ちの唄歌い』紅楼夢・紫月(p3p007611)。
「飲み干す事で呪いが解かれるんなら、頑張って飲むとするかねぇ」
 ふわりと老イリヤに笑いかける紫月を真正面に見て、老人は狼狽した。
 見た目も、出自も、明らかにバラバラな四人。相互の繋がりなど無さそうな彼らを、この獅子の男はどうやって集めたというのか。
「こいつらは……」
「俺が集めて来た。どうだ? 頼もしいだろう」
 老イリヤの困惑気味の顔に、グリゴリーは屈託のない笑みを以て返す。まるで何を気にする風でもないように。
 そして、懐から取り出した小さな革袋を、グリゴリーは板張りのカウンターに乱暴に置いた。重いものを下ろした時特有のドスンという音が店内に響く。
「前払いだ老イリヤ、このお歴々にありったけの酒を飲ませてやってくれ!」
 グリゴリーがカウンターに置いた金貨の袋と居並ぶ五人を目にして、目を白黒させる老イリヤ。
 すぐさま、グラスの準備のために動き出したのだった。

●それは宵越しの宴会
 カウンターに横一列に並んだ六人(レーゲンとグリュックで二人分使うのでグリゴリーを含めて六人だ)の前に、コルク栓の抜かれたワインボトルが一気に二本、ワイングラスが六脚置かれる。
 ボトルの一方は赤、一方は白。出てくる料理を選ばないよう、との老イリヤの心遣いだ。
 とはいえここに居並ぶのは、古今無双の酒飲みであるがゆえに。
「やっぱ肉だろ肉! 北国だから辛いもんも食いたいな!」
「レーさん焼き鳥食べたいっきゅ! ハツの食感とか好きっきゅ!」
「今日は思いっきりやるぞ! おんしら、覚悟せい!」
 どうやら肉食系が多い様子。白は紫月が手を付けているが、残り三人は赤で行く様子だ。
「焼き鳥が出来るなら、私も欲しいわぁ。胸とかささみとか、淡白な部位を貰えるかなぁ?」
「よ、よし、待ってろ!」
 柔らかく笑う紫月に、老イリヤがすぐさま動き出す。鶏の胸肉に包丁を入れては炭火で焼いていく彼へと、既に一杯目のグラスを空にしたジャガーノートが顎をしゃくった。
「店主、一夜のうちに腐っていくって事は……段々と酒が悪くなるってことでいいのか?」
「いいや、そうじゃない」
 炭火の上に置いた網いっぱいに鶏肉を広げ、老イリヤは首を振った。
 不思議そうな表情のジャガーノートへと、老人は切れ長の細い目を向けて言う。
「太陽が登り始めるまでは普通なんだ。登ると同時に急速に腐り始める」
「じゃあつまり、日が昇り始めるまでに飲みきれば、美味いままで飲めるんだな?」
 嬉々としたジャガーノートの言葉に、老イリヤが頷くと。
 彼女は勢いよく椅子を蹴って立ち上がった。赤ワインの瓶の首を掴んで高く掲げる。
「お前ら聞いたか! 焦って飲んで潰れんじゃねーぞ!」
「勿論っきゅ!」
「ふふ、タダ酒とはいえ、酔い潰れちゃあ元も子もないものねぇ」
 ジャガーノートの言葉に、レーゲンが声を上げ、紫月も一層笑みを深める。レーゲンの隣ではグリュックが、無言のままにワイングラスを掲げていた。
 そうして再び始まる大宴会。あれよあれよとワインの瓶が空になっていくのを見て、老イリヤはカッと見開いた目を、カウンターの端でにこにこ笑っているグリゴリーに向けた。
「おい、グリゴリー……お前、こんな人材をどっから連れてきた?」
 信じがたいと言いたげな老イリヤに、グリゴリーはその翠玉のような目を細めた。
「ふふ、知りたいかい? と言っても、老イリヤに話しても酔っ払いの戯言と、一蹴されることと思うがね」
「ふん、言ってろ」
 思わせぶりな言い方に、ついと目を逸らして。
 老イリヤの節くれ立った手が二本目の赤ワインを抜栓した。

●それは呪詛の敗北
「店主、ワインはもうないのか!?」
「ウイスキーの瓶ももう殆ど無いっきゅ!」
「よーしおんしら、最後のウォッカを開けるぞ!」
 宴が始まったのが夜の七時だったから、およそ四時間が経った頃。
 酒場『リーヴニ』に仕入れられた酒は、もうあとウォッカ一瓶を残すばかりになっていた。
 恐るべき酒豪ぶりだ。グリゴリーは最初から手伝う様子を見せていないし、しかも途中から紫月につまみを作る手伝いに入って貰っているから、四人がかりで、これだ。
「おいおい……まだ十一時を回ったばかりだぞ?」
「ふふ、よもや酒が足りなくなるとは、予想外やったかねぇ?」
 ソーセージをフライパンで焼きながら、紫月が困惑顔でパスタをかきまわす老イリヤに告げる。
 相当量の酒を飲みながらもなお、しゃんとしたこの女性は、ついと視線をカウンターの端に向ける。
「グリゴリー、どうしようかねぇ? レーゲンはともかく、ジャガーノートと藤次郎はまだまだ余裕綽々という様子だけれど」
「聞かれるまでもないことよ、俺がひとっ走り行って買ってくる! 老イリヤ、領収書は店につけるのでいいな!?」
「あ、あぁ、それでやってくれ!」
 紫月の言葉に、グリゴリーがすぐさま立ち上がった。悠長に買い物をしていたら、この四人はウォッカの瓶も数十分で空にしてしまうだろう。
 老人イリヤが頷くのを見るや、グリゴリーが店の扉を開けて飛び出す。この街は彼がよく知っている、酒を売る店もよく知っているだろう。
 まさかの酒の追加購入に、呆れたように老イリヤが手元のフライパンに視線を落とした。
「ったく、あの野郎、この様子を目にしたら泡吹いてぶっ倒れるだろうな」
「そうやねぇ、まさかこんなにあっさりと、かけた呪いが解かれるなんてねぇ」
 そんな彼へと、くつくつと喉の奥で笑いながら紫月が答える。
 確かに、予想外と言う他ない。
 こんなにあっさりと、店の酒をすべて飲み尽くす輩が現れるなど、どうして想像できようか。
 先程までウイスキーを入れていたショットグラスにウォッカをストレートで注ぎながら、吐き捨てるようにジャガーノートが零す。
「こんなしょーもねえがある種恐ろしい呪いをかけた野郎はとても陰湿に間違いないぜ」
「全くだっきゅ! 陰湿で陰険っきゅ! 全酒飲みの敵っきゅ!」
「その通りじゃのう、じわじわと損失が嵩んでくる……こんな小さな店では尚更じゃ。いつかぶちのめしてやらねばのう」
 レーゲンが空のままのショットグラスを手に立ち上がると、藤次郎も腹立たしげに舌を打った。
 やはりというか、酒飲みとして各々、ヴラディーミルという輩への怒りは募っているようだ。
 注いだばかりのウォッカを一息に呷り、はーっと息を吐き出したジャガーノートが憎々しげに言う。
「ああそうだ、全酒飲みを敵に回したクソ野郎を今回ブチのめせないのは残念だが、また別の機会までとっておくぜ」
「ふふ、そうやねぇ。この落とし前は、どこかでつけさせなくちゃならんねぇ」
 彼女の物騒な発言を止める様子もなく、紫月がソーセージに包丁を入れた。ぷつり、と皮の破ける音がする。
 それを薄ら笑いを浮かべて盛り付ける紫月に、口々に文句を付けながらウォッカの瓶の目方を減らしていく四人に、老イリヤは乾いた笑いを零すしかなかった。
「こいつは……ヴラディーミルの野郎、とんでもねえ奴らを敵に回したみたいだな……」
 自分の店に、土地に呪いをかけてきた憎々しい輩の、その無残な行く末が想像できるようで。
 力無く笑う老イリヤがドアの開く音に顔を上げれば、そこには買い物を済ませたグリゴリーの姿がある。
 買い足したワインとウイスキーの瓶が、ドン、とテーブルに置かれて音を立て。
 『リーヴニ』から漏れ聞こえる楽しい声と一緒に、厨房の煙が一筋、曇天の夜空へとたなびいていった。

成否

成功

状態異常

なし

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