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シナリオ詳細

<サイバー陰陽京>欲と憎悪の戮力

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●秘密会合
 林立する完全環境型超高層建造物(アーコロジー)群の立ち並ぶ『洛外』地区の西の果てには、巨大コンビナート地帯が広がっていた。それらが要求する莫大な資源、それから洛外で消費される無数の商品を日夜供給するために、一帯に隣接する『ヨドノツ港』は常にキャパシティぎりぎりでの稼動を行なっている。
 だが、そんな洛外の玄関港を訪れるのは、無数の荷と船には限らなかった。時にはそれらの姿に紛れ、恐るべき陰謀までもが敷居を跨がんとする。

 ヨドノツ港、『徳大寺重工』私有貨物ターミナル――。
 その中に侵入したリムジンは、本来行なわれるべき保安検査をパスし、密かに一棟の倉庫の前で停止した。それもそのはずこのリムジンは、一帯の所有者たる徳大寺重工の社長専用車の一台。如何なる検査も必要あろうはずもない。
 ――が。
 その内より現れ出でたのは社長ではなく、一介の常務に過ぎぬ男だった。その青灰色の瞳はどんよりと薄暗く、一方で渦巻くような鋭さに満ちている。あたかもこの世の恨み辛みを凝り固め、憎悪でコーティングした時のような――。

 常務は迷わず倉庫に向かい、「さて、時間だ」と囁いた。するとまるで応えるかのように、“倉庫の中の”海面が大きく盛り上がる。まるで小型の鯨のようなフォルムを現したそれは……小型潜水艇だ。艦首に木瓜紋にTDJのロゴの記された『徳大寺重工』所有の潜水艇は、この倉庫に偽装した秘密ドッグに、今まさに接舷したのである。
 潜水艇から顔を覗かせたのは、癖毛をお座なりにポマードで撫で付けた、無精髭の男だった。
「やあ。ちょいとばかり待たせちまったかね同志?」
「そのように呼ばないでくれたまえ、革命志士君。我々の行動はあくまでもビジネスの都合に過ぎぬのだよ……我々は諸君の成功に“投資”しているのだ。しかし、問題はその“原資”の方なのだがね」
 苦虫を噛み潰したかのような顔を作る常務に、聞いている、と革命志士は返した。
「奪いたかったものを奪えなかったそうあじゃないか。しかも、俺たちの関係性まで流出しちまった……まぁ、俺らの方は何があっても計画通りやるんだがね。今日は、その先の話をしようじゃないか……」

●仕事(ビズ)
 境界案内人が本のページを捲れば、ひとひらの揚羽蝶が中より飛び出してきた。蝶は境界案内人と会話するように羽ばたくと……まるで一仕事を終えた時のように、黄緑色の電子の粒へと還ってゆく。
「ようこそ、おいで下さいましたどすえ」
 本を閉じ、着崩した着物姿で微笑みを浮かべて坂東イントネーション混じりのピジン京言葉で微笑んだオハナは、サイバー陰陽小説『ネオホーゲン』シリーズの舞台世界、『八紘』で起こりつつある事件を語るのだった。
「八紘は凄惨な第三次世界大戦を経て、帝さんの統治する『キョート』に国家が統一されてはりますのや。けれども、それを良しとしいひん、『白峯』ちゅう反政府武装勢力がありましてなぁ……同じゅう帝さんに不満のある徳大寺重工さんが、港で秘密会合を開いてはります」

 依頼は……この会合の実態を調査し、彼らの計画を暴くこと。よしんば彼らの主張の通り、帝の統治が間違っているのだとしても、彼らの手段は徳大寺重工の工業力と白峯の自棄的な行動力を利用したテロである。多くの無辜なる市民の血が流れることは、疑いようもないのだから……。

NMコメント

 サイバー陰陽小説『ネオホーゲン』の世界へようこそ。椎野です。
 『八紘』は、『キョート』と呼ばれる国家が地球上の全てを統治するサイバーパンク世界です。舞台となる『洛外』地区の上空には陰陽術に守られた空中都市『洛中』が浮かび、地上には無数の企業アーコロジーが林立する……そんな中で人々は、金と権力にしがみつきながら生きているのです。

●今回の舞台
 そんな洛外地区の西、ヨドノツ港の倉庫にて、徳大寺重工常務『多田 頼範』と、『陸奥 四郎』と名乗る白峯幹部が会談しています。今回の依頼の目的は、この倉庫に潜入し、会談内容を調査することです。
 現在、倉庫周辺は完全に立入禁止とされており、侵入者は重武装警備員による苛烈な歓迎を受けることでしょう。また侵入者の存在が会談者たちに伝われば、会談が中止され目的を達成できなくなる可能性もあります。いかに隠密行動を行なえるかが、今回の依頼の鍵となります。

●周辺設備
 見た目は通常の港湾施設ですが、至るところに監視カメラ網があり、侵入者を監視しています。監視カメラ網をハッキングできればダミー映像を流し、侵入を誤魔化すことが出来ますが、電脳空間(※後述)にはハッカー2名が陣取っているため、電脳戦闘によりこれを倒さなくてはなりません(戦闘で勝利すれば、ハッカーから侵入者の報告がゆく心配もありません)。

 一方で、倉庫内部には一切の電波がジャミングされ、有線通信設備もないため、ハッキングにより会談内容を調査することは出来ません(そればかりか陰陽術による結界まで張られており、超常能力による調査も不可能です)。誰かが物理的に侵入し、各所に散らばっている違法サイバー化工作員たちを躱すなり倒すなりし、会談に使われる倉庫内の小部屋に辿り着く必要があります……電子機器がないということは侵入者の報告も直接行なうしかないため、工作員さえ逃がさなければ会談が中止される心配はないことだけが救いです。

●敵一覧
・ハッカー
 どちらも防戦重視ですが、危険な攻撃をしてこないわけではありません。片方は搦め手(BS)、もう片方は強力な攻撃も好みます。

・工作員
 侵入者の報告よりも排除を優先しています。彼らは熱光学迷彩により姿がほとんど見えないため、発見の工夫や侵入経路の工夫がなければ奇襲を受けてしまいます。
 数は少ないため、同時に複数を相手取ることはありません(戦闘音等が他の工作員にバレて侵入報告されてしまうこともありません)。

・重武装警備員
 ハッカーを排除し監視カメラ網のハッキングに成功した時点で、侵入者に気付けなくなり、無力化されます。ハッキングなしで全員で物理的に押し通る作戦を取るのでもなければ、一切無視して構いません。

●本ライブノベルの特殊ルール
 データは通常のルールに従い解釈されます。
 ただし皆様は、自身が『電脳体である』として、物理空間ではなく電脳空間上に存在することもできます。その場合、皆様のデータは電脳戦用アバターとしてのものだということになります(物理存在としてのデータがどうなっているのかは、ご自由に決めて構いません)。
 倉庫内を除いて、物理空間と電脳空間の間での通信等は自由です。

  • <サイバー陰陽京>欲と憎悪の戮力完了
  • NM名椎野 宗一郎
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年02月15日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談10日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
霧島・トウゴ(p3p007102)
疾風の先導者
リコシェット(p3p007871)
跳兎

リプレイ

●情報戦
 二方向からの電子の弾丸が、同時に邪悪な顎を開けた。片や虎の如く鋭い牙を立て、片や蛇の如き毒液を撒き散らし、狙うはつい今しがた、清らかなる泉より姿を現せし女神。あるいは、水鏡にも似たポータルを通じてログインを果たした、『水天』水瀬 冬佳(p3p006383)の電脳体。
「どうやら、事前情報の通りのようです」
 冬佳は滴る水を振り払う時のような仕草で髪を掻き上げる。それと同時、まるで何事もないかのように、神妙にその足先を前に出した。禹歩――情報技術の粋たる電脳空間にそぐわぬ、神秘を孕む足捌き。それは先手必勝とばかりにハッカーたちが放ったプログラムを紙一重で躱し、のみならずその歩にて一つの陣を描く!
「げ……やばっ」
「くそっ、防御プログラム展開――!」
 気休めのデコイをばら撒いたハッカーたちの頭上から、無数の氷片が雨霰と降り注いでいった。その様は、遠くから戦いの様子を見た者がいたならば、白鷺の羽が辺りに舞い散ったようにも思えただろう……しかし、その正体は全ての不浄を切り刻む刃。この埠頭の奥で生まれつつある邪悪の正体までは知らぬ彼らを、止めまで刺そうとまでは思わない。だとしても彼らを排除できねば――恐らくは、『白峯』が何かを引き起こすのだ。

 身構えたままのハッカーたちの間を、冬佳はゆっくりと歩いて通り抜けようとしてみせた。両者は慌てて行く先を阻み……再び放つ電子の顎。猛虎は喰らい、冬佳の色白の肌を0と1の血液に濡れさせた。けれども……毒蛇の方は逆側の肌に噛み付きはしたが、そのまま唖然とした表情を浮かべたままだ――牙は確かに立ったものの、注入したはずの自慢の不正コード詰め合わせが彼女に、何の効果ももたらさないことに。
 電子化された『氷蓮華』の一閃が、哀れな毒弾とその主を両断し強制ログアウトさせた。あと一人――倒せぬ相手とは思わぬが、それなりの代償を支払わぬとも言わぬ。

 さて……あの男はどこに行ったのか?
 彼女と共に電子対応するはずだった男は、電子・物理両面のマップを冬佳に送信してきた後に、そのままどこかへと雲隠れしてしまった。なるほど、彼は情報のプロフェッショナルだ――ただし、情報“技術”とは限らぬ“情報”一般の。
 埠頭にほど近いカフェの一つにて。『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は経済新聞を片手に、優雅な憩いのひとときを過ごして独りごちていた。
「こういう“ビジネス”は、いざ動き始めるまでの根回しこそが肝心ですよ」
 システム的には完璧に思えるセキュリティを崩すのは、いつだって運用する人間だ。とりわけ港湾労働者などという、誰とも知れぬ輩が平気で混ざる環境であれば、コンプライアンスも何もあったものじゃない。
 実際には何も目に入れていない新聞の記事に頷きながら、彼は今回彼が行なってきた“戦い”を想起する。
(確かに彼らは何も知らされてはいないし、仮に知ったとしても理解はしていない……しかし、“然るべきコネ”を用意して膨大な情報を集めさえすれば、それであっても何かしらは見えてくるものです。……それにこの『八紘』という世界、“趣味や独りよがりの正義感で情報収集するハッカー”の類にも事欠きませんからね)

 そこまで思索したところで腕時計に目を落とし、寛治はさて、と立ち上がった。
(そろそろ事前情報を元に、水瀬さんもハッカー二人を仕留めて、監視カメラ網を掌握した頃でしょう)
 では……昔取った杵柄といきましょう。近くに愛用のバイクを止めて電灯を伝って壁を越えてゆく『跳兎』リコシェット(p3p007871)の気配と、遥か上空を飛ぶように駆ける『疾風の先導者』霧島・トウゴ(p3p007102)の姿を認めると、寛治もまたスーツを着ているとは思えぬ身のこなしにて、無数のコンテナの立ち並ぶ貨物ターミナル内へと身を躍らせていった。

●厳重なる秘匿
 すっかり平時のものと差し替えられてしまった監視カメラの映像が、侵入者たちの存在をオペレーションルームに伝えることはなかった。必然、武装警備員らが差し向けられることもなく、安全な道のりが保障されている……のは、あくまでも倉庫に接近するまでの話だ。
(かなり、きな臭い感じがするな)
 リコシェットの鋭敏な聴覚が、巨大な倉庫の中に潜む、不審な息遣いを聞き取っていた。然るべき能力がなければ気付くことさえできぬ、慎重かつ厳重なる警戒体勢。しかしながら“気付ける者”――リコシェットのような――からすれば、わざわざ「悪いことを話してます」なんて喧伝してるようなものじゃあないか。
「最初は兵器の情報盗もうとしてて、今度は反政府組織だろ? 悪には悪の主張も正義もあるんだろうけど……これじゃあ嫌な予感しかしないよな」
「まったくだ。まるでヤクザの戦争か何かだな」
 トウゴがリコシェットの独り言に応えて、気配のない辺りの壁をレーザートーチで焼き切った。立てかけた資材は外からの、中の荷物は内からの視線を阻み、侵入口の存在を隠蔽してしまう。あとは……邪魔してくるだろう工作員をぶちのめし、肝心の会談とやらを録音するだけだ!
(正直、正面から突っこんでいってシメる方が性には合ってるんだけどなぁ)
 そんな文句は事が済むまで呑み込んで、ひらりと梁へと駆け上がる。工作員がどこにいるかって? そんなのトウゴはリコシェットと違い、探る術など持ってはいない。だがまぁ……相手がよほどの間抜けでもなけりゃ、こちらがどんだけ痕跡を隠したところで、向こうから襲ってきてくれるだろう。その時ゃ、迎撃して排除してやるだけだ!

 ほうら、予想通り鋭い単分子鞭が、トウゴの喉元へと密かに触れた。目視さえ困難なワイヤー状の鞭は、容易く首の皮膚を裂き、肉にまで食い込んで、そのまま気管、血管、頚椎までを断ち切らんとする。
 危ない……だがワイヤーが首にめり込んでゆく速度など、トウゴから見ればカタツムリの足取りだった。体を折り曲げ足を前に出し、纏った風を蹴飛ばせば……トウゴは亜音速の鞭さえ置き去りにしてワイヤーを首から抜いた。
 さぁて。攻撃してきたのはどこのどいつだ? 工作員の姿はトウゴの目には見えないけれども、リコシェットの耳が聞いている……微かな風切り音の根元から、誰かが驚き息を呑んだ声!
「その熱光学迷彩とやら、きっと随分とすごいんだろうな」
 けれどもリコシェットが手に握った砂をばら撒けば、バラバラと何かにぶつかる音と同時に、弾かれた砂がシルエットを生み出した。
「アンタ、見えないはずだって思い込んで、慢心してたんじゃないか?」
 シルエットへとリコシェットの疑問が投げかけられる。確かに敵は姿を隠していたし、呼吸音だって距離の割には小さく聞こえた……けれどもどんな道具も完璧じゃない。一台のバイクがメンテナーとツーリストの腕次第で最高の相棒にもポンコツにも変わるのと同じで、最高の科学技術の産物だって、僅かな綻びによって容易く打ち破られる――完璧なセキュリティが扱う者自身の手で崩れ去るように。
 が……そんなリコシェットの忠告に応えるべき者はもういなかった。代わりに返ってきたものは、驚きと恐怖の混ざった独り言だけだ。
「まさか……あの状態から反応できるとは……ぐはっ!?」
 その声の主は今や床に置かれたドラム缶とドラム缶の間に叩き落されて、すっかり目を回して気絶していた。
 眉を顰めたリコシェットの目に映ったものは……ようやく首元についた血を拭い、それから再び風と同化したトウゴくらいのものだ。

●極秘裏の暗殺計画
 そんな戦いを幾度か経験した頃には、リコシェットとトウゴは倉庫内に設えられた、あたかも作業員用のプレハブ小屋といった体の建造物へと辿り着いていた。その中で……邪悪な陰謀に関する会話が行なわれているのだろう。本来、当人たちには窺い得ぬはずのそれらに対し、ひっそりと両者は接近を果たす。
(さて、鬼が出るか蛇が出るか……)
 大方、ロクなもんではないのだろうというトウゴの予想は的中し、語られるのはあまりに大胆な破壊工作の計画だった。
「まさか政府からの内々の通達が、世界の徳大寺サマに届いてないなんてこたぁあるまいよ? “その時”までに“協力”が済んでいてくれないと、俺たちは困るのよ」
「安心したまえ、承知しているとも。近々『体仁(なりひと)』親王立太子の宣旨が行なわれることは確実で、立太子記念パレードは諸君にとって格好の“活動の場”なのだろう? “物資”の準備は済んでいる。後はこれまで通り全く無関係な取引を装って、この街の各所で諸君らに引き渡すだけだ――」

 それが意味するものを理解した途端、リコシェットの顔からは血が引いてゆくようだった。
 何せ立太子記念パレードなどという慶事だ。沿道に顔を出す人々の数も、きっと途方もない数になることは疑いようもない。
 そして兵器の情報をライバル企業から盗もうと目論んだ徳大寺重工と、反政府武装勢力の蜜月――戦場で流れる血でさえないほうがいいに違いないのに、彼らは喜びに沸き立つ街さえも、戦渦の中に突き落とさんとする!

「……なるほど、聞かせて貰いましたよ」
 その時、まるで背景から滲み出てきたかのように現れた寛治の口許は、僅かばかり興味深げに綻んでいたように見えた。
「既に各機関との調整まで終わっているのでしたら、今更テロ情報など出てきたところで、はい中止ですとはゆかないでしょう。かと言ってそれまでに、地下組織を全て叩くなども到底不可能です」
 どうやら実りある会談でしたようで何よりです――そんな皮肉をひとつ叩いて踵を返した寛治からの通信が復活し、事の次第を知った冬佳は全てを理解した。
 彼女らがかつて徳大寺からの機密情報を回収したことは、不可避のはずのこの世界の命運を、大きく変えることになるのかもしれぬ、と。

成否

成功

状態異常

なし

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