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シナリオ詳細

いつか語り継がれる物語

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●序
 こうなったのはきっと、些細な切欠からだったように思う。
 スラムの路地裏で生まれ、親は誰とも知れず、残飯を喰漁っていた日々。
 そんな日々に嫌気がさした時からこの物語は始まっていた。
 そうさ、俺は分不相応にも願ってしまったんだ。
 ーーこのまま何もせず、誰に知られることなく死んでいくのは御免だ。
 どっかの偉ぶった神の使徒が言うにゃ、人の記憶から消えた時に人は死ぬのだという。
 だったら俺は最初から死んでいた。
 生まれた時から死んでいた。
 なら、もう一度「生」を願ったってバチは当たらねぇだろう?
 なぁ、カミサマ。


「号外!号外!!領主の娘が攫われたってよォ!」
 新聞売りの声が今日も煩い。
 なんでも屋敷に押し入った賊に領主の愛娘が攫われたとか……。
 それだけなら、スラム街育ちの青年シリウスには至極どうでもいい事だっただろう。
 自分には関係ない。他人様の心配なんてして少しの得にもなりゃしねぇ。
 ……けれど。
「なんでも、娘を取り返してくれりゃあ一生もんの金と名声を与えると領主がお触れを出してるんだそうだ」
「でも賊は人数も多いし、ここらに幅利かせてる奴らじゃあないか。アジトの場所までわかってるのに衛兵も手を出しかねてる。誰も行く度胸なんかないよ」
 なんて会話を聴けば、他人事にするわけにはいかなくなった。
 会話をしていた新聞売りと町人の肩を掴むと、低い声で囁く。
「……その話、詳しく教えてくれ」

 それがまぁ昨日までのこと。
 夜に寝静まったころを見計らって盗賊の根城に忍び込んだシリウスは、領主の娘を見つけたところでまんまと賊に見つかった。
 あっという間に縄を掛けられ領主の娘の隣に転がされる。
「ひひ、なんだぁお前。ぼろっぼろの服着やがって……。金づるにもなりゃしねぇな。殺しちまうか」
 賊どもの下卑た笑いが響く。
 きらりとナイフが煌めいてシリウスは息をのんだ。
「まぁまて、頭の指示なしに殺しはできねぇ。あの人の方がこえぇからな。頭が戻るのは明朝だ」
 メンバーの一人が言えばひとまず場は収まったようで、賊たちは散り散りに言ってしまう。
 暗い室内に縛られた二人だけが残された。
「……あの、大丈夫ですか」
 先に声を発したのは娘の方だった。
 シリウスは呻くようにそれに答える。
「大した怪我はしてねぇよ。あんたこそ大丈夫か姫さん」
 名前など知らないから、姫さんと呼んだ。
 娘が小さく頷く。
 その肩が震えていることに気づいてシリウスは舌打ちをした。
 ずりずりと体を動かし、姫さんの側に寄ってやる。
「大丈夫だよ、安心しな。俺はまぁ、やられっちまったけど。俺なんて誰にも知られてねェスラム育ちだし……あんたのことは、衛兵のお役人らが助けてくれるさ」
 舌打ちをしたのは己があまりにも無力だから。
 誰にも知られねぇ人生は嫌だと抜かしながら、震える女ひとり助けられねェ。
 何も為せない、生まれた時から死んでいたひと。
 ーーあぁ、誰にも憶えていて貰えず死んでいくのは、こえぇなァ。
 静かにふけてゆく、夜だけが彼の勇気を知っていた。


「君はさ、誰の記憶にも残らないことを『死』だと思う?」
 境界案内人カストルは呟いた。
 それはふと、口から洩れたような問いだったけれど。
 カストルは特異運命座標たちをみて微笑む。
「生きようと足掻く彼を、どうか手助けしてあげてほしいんだ」
 そう言って手渡したのは一冊の本。
 タイトルはーー『いつか語り継がれる物語』。

NMコメント

 こんにちは、凍雨と申します。
 おかしいな、ハートフルシナリオを書いていたはずなのにいつのまにか戦闘に……。
 どうぞよろしくお願いします!

●依頼について
 今回はふたつのパートをご用意しました。
 【1】賊の壊滅を目指す。
 こちらでは大勢いる賊の相手をしていただきます。対多人数の戦闘が求められるでしょう。
 【2】シリウスと領主の娘の救出。
 こちらではNPCのおふたりの救出をお願いします。多少賊の相手が必要になるかもしれませんが、NPCの護衛と脱出が最優先になるパートです。

 成功条件は「NPCふたりの救出と賊の壊滅」です!よろしくおねがいします。

●賊について
 巷を騒がせている盗賊集団です。人間です。
 頭の男は外出中なため統制は完ぺきではありませんし個々の戦闘力は高くありませんが、いかんせん数が多いので対応が必要かもしれません。
 【2】でNPCの二人を連れ出そうとするなら賊が阻止してきますが【1】が上手くいけばその数が減るでしょう。
 彼らの主な武器はナイフや鉤爪です。賊らしく結構すばやい動きをします。
 なお戦う場所は狭い賊のアジト内になります。

●シリウスと領主の娘(NPC)
 シリウス:スラム育ちの青年。親の顔は知らず誰とも関わらず育ってきた為に、自分のことを「死んでいる人」と思っています。戦闘能力は人並みですが忍耐力や運動能力、世渡り術は持っています。
 領主の娘(姫さん):プレイングでは娘さん、お姫さんなどご自由に呼んでいただいて大丈夫です。領主の娘で3日ほど閉じ込められています。だいぶ憔悴していますが、シリウスの言葉に少し元気づけられたようです。

●サンプルプレイング
 【1】賊相手なら存分に暴れられるな!数も多いしいちいち相手してんのはキリがねぇ。俺の炎の魔法で一気に吹っ飛ばしてやるぜ!あ?人質の二人には被害ないようにしてやるから安心しろよ!
 【2】憔悴してる娘さんに回復魔法をかけます……。私は戦闘は得意ではないので、他の皆さんの回復やバリアを担当しながら脱出を目指しますね。

 以上となります、どうぞよろしくお願いします。

  • いつか語り継がれる物語完了
  • NM名凍雨
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年02月18日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
グレン・ロジャース(p3p005709)
理想の求心者
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌

リプレイ


 ガァン……!!
 突如として響いた音とともに賊共のアジトの扉が破られる。
 『かくて我、此処に在り』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)はシールドを構えアジト内部に突入した。
 シールドで障害物を弾き飛ばし一気に内部まで突撃しながら、マカライトは思う。
 何者からも認識されていないことを「死」と呼ぶ、とある青年のことを。
「命を蔑ろにしかねない行いは褒められたことではないが……ま、何もしないで諦める奴よりはよっぽど高尚か」
「ああ。何かを為したいと、そう思って、実行できる人間は少ないからな」
 マカライトの後に続く『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)も同意の声を漏らした。
 勇気と蛮勇が違うように、勇敢と無謀もまた違うけれど。
 少なからず、捕まって尚少女を気にかけられるシリウスの勇気を、ジョージは好ましく思うのだ。
 その時、二人が突き進む通路の先に光が見えた。
 耳に届くざわめきと人の気配に、ジョージが鋭い眼光で前を睨む。
「さぁ、望む結末を引き寄せる戦いを始めよう」
 
 狭い通路を抜けると、目の前に広がるは広間だろうか。
 大勢の賊共が一斉にこちらを向く。その目に卑しい光を宿らせ、侵入者に下卑た笑いを漏らした。
「ヒヒッなんだぁ? 今夜は客が多いなァ!!」
 賊の手でぎらりと鈍く刃が煌めく。
 瞬間。賊共が一斉に二人に襲い掛かった。
 ザリ、と床を踏み締めマカライトとジョージがそれぞれに構え。
「真正面から蹴散らさせて貰うぞ」
「来い、下っ端共! 俺が相手だ」
 ーー朗々とした啖呵を合図に、暴風が吹き荒れた。
 互いに刃を旋回させ、生まれたふたつの風の渦はまるでひとつの暴風域。
 風圧に負けた賊が吹き飛ばされ散らされた、その隙に二手に分かれ息を吐く。

 マカライトは広間の中心までそのまま突っ切り、賊の密集した地点を狙ってストライクチェーンを放つ。
 鎖がジャラリと高く音を鳴らし、鋭く射出された苦無は賊共を穿ちて風穴を空けた。
「うわあぁっ、な、なんだこいつ……!」
 恐怖に顔を歪ませた賊を、苦無の切っ先が貫いて黙らせる。
「うろたえんなァ!! 相手は一人だ、まとめてかかりゃァ……!」
「そうか?」
 ただ一言の呟きと同時。マカライトを中心に暴風が吹き荒れ、とびかかった奴らがまとめて弾き飛ばされていく。
 追い打ちを掛けるように、走る片刃の切っ先が吹き飛ばし切れなかった賊を切り伏せた。
 伸びて床に転がる賊。
 そして遠巻きにマカライトを睨む賊。
 ジャラ、と鎖が啼く。感情を灯さない虚ろな瞳がそれらを交互に見やる。
「まさか、これで終わりとは言わないだろう?」

 ーーダンッ!
 狭い通路内へ戻ったジョージは壁を利用して跳躍し、追っ手の賊に回し蹴りを喰らわせる。
 戦場を狭めることで一人一人を確実に潰していく作戦だ。
 こちらで派手に騒ぎを起こしておけば、救出に向かった二人から目を反らすことができるだろう。
 ーー陽動で終わるつもりもないがな。
 頭目がいないのであれば好都合。徹底的に叩き潰せば良い。
 新たに飛び掛かる賊の手からナイフを叩き落とし、下から顎に蹴りを打ち込む。
「く……っ! 舐めてんじゃねーぞォ!!」
 賊の構える銀色のナイフが閃く、刹那。
 ーー海洋式格闘術、基礎の壱。
 海で嵐の訪れを告げる海鳴が、賊のみぞおちに重い一撃を叩きこんだ。
 手加減などない。ジョージの全力の一撃に呻き声を残して、ひとりが床に崩れ落ちる。
 眉間に刻む皺も濃く、ジョージは闘志冷めやらぬ賊共を一瞥した。
「下手に残して再起されても厄介だ。やるからには、貴様ら、一人として逃げられると思うな」
 
 夜はまだ、終わらない。


 同刻。
 表の騒ぎに紛れ、二つの影がアジト内に潜入していた。
「お姫様達の居場所を吐きなさい。今すぐ!」
 『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)に身の丈ほどのテーブルナイフを突きつけられ、賊は震える声で呻く。
 迷いのない切っ先がずい、と賊の眼前に迫り慌てたように声を上げた。
「この先の階段を下りた、牢の中だぁッ……!」
「だそうです。行きましょう、グレンさん! 動機はどうあれ、勇気を振り絞ったシリウスさんは報われるべきです……!」
「あぁ、わかった。にしてもお転婆なお嬢さんだぜ」
 ははっと笑った『地元最強?』グレン・ロジャース(p3p005709)は階段へと走りながら、シリウスに多少の共感を抱く。
 グレン自身がスラム育ちということもあり、毎日を死なない為に生きてきたから。
「生きる目的なんてのはきらびやかな宝飾にも等しい贅沢品だからな」
「グレンさん?」
 ーーだから気持ちはわからないでもないぜ。
「生きる価値のある誰かを助ければ、こんな自分の人生にも意味や価値ができる気がする……なんてな」

 階段を駆け下りると、そこには牢がいくつも並んでいた。
「こっちだ! 助けを呼ぶ声が聞こえるぜ!」
 いくつか牢を通り過ぎ、暗い牢の中に縄に縛られた男女が座り込んでいるのが見えた。
「居ましたね、お姫様と…白馬の王子様!」
 ウィズィが歓喜の声を上げ、同時に未来を齎すナイフで牢を叩き壊す。
 飛び込んだグレンが憔悴した様子の娘の縄を解き、恭しくその手を取った。
「姫さんが過ごすには、ここはちょっと華がないよな。抜け出して街でお茶でも如何?」
「あ、あの……」
 突如のヒーローの登場に娘が掠れた声を漏らす。
 喉の乾いた様子にウィズィが飲み物を手渡していると、細身の青年シリウスが唸る声。
「……あんたらは?お役人、じゃあねェよな」
 娘を守るように二人を睨むシリウスに、ウィズィは愛嬌たっぷりにウィンクした。
「お姫様と、あなたの勇気を助けに来ました!」

 柱の陰からアジト内の様子を伺う。
 出口に繋がる通路には少数の見張りだけが見えた。
 マカライトとジョージの暴れる音も聞こえ、どうやらそちらに人が集まっているようだ。
「流石だな、この隙にさっさと脱出しちまうか。シリウスと姫さんを守ってみせるぜ」
 騎士なんてガラではないが、憧れがある。
 見ず知らずの誰かの為に戦うその姿が、誰かを守るその背が。
「一丁カッコつけてやるぜ。いくぞ!」
「ええ、攻撃は任せて下さいよ!」
 ーー何より一番カッコいいのだから。
 堅牢な要塞の如く構えられた盾は、シリウスと娘への如何なる攻撃をも阻む。
 こちらに気付いて攻撃を仕掛ける賊共の素早い剣戟が盾に弾かれ、カウンターの如く賊を吹き飛ばしたのはウィズィから放たれる重圧だ。
「レディ相手じゃないと腰も引けちまうか? ハンデキャップだ、纏めてかかってこいよ」
「さっすが、安心感が違いますねグレンさん!」
 グレンはイレギュラーズでも指折りの盾だ。ならば自分は道を切り拓く刃をとウィズィの刃が風を切る。
「怯むなァ! 地の利は俺たちにあるんだ!」
 しかしここは賊共のアジト。慣れた様子で壁や床を蹴って疾風のような剣戟が襲う。
 しかしウィズィは臆さない。速さなら負けはしない。
 ーー私はどんどん‪──‬“加速”していきますよ!
「さあ、Step on it!! 私の速さについてこれますか!」
 剣線の隙間を縫い、ウィズィの刃が光を弾いた。
 その刃の振速はぐんぐんと加速していき、目にもとまらぬ速さで賊を切り裂いていく。
「くっ、人質だけでも奪い返せェ!」
「おいおい、わざわざ盾を狙ってくれなくていいんだぜ?」
 剣戟をすり抜け一閃、グレンの元まで届いた刃も壁のような守りに弾かれ、折れぬ意志の槍が賊の身を穿った。
「出口です、皆さん! このまま突っ切りますよ!」
 ウィズィが追っ手を蹴散らす間に、三人は外へと転がり出る。
 
 遠く空向こうに見えるは夜明けの来光。
 夜が明けようとしていた。


「命を危険にさらすのは決して褒められた行いではないし、今回の場合、助ける手間が増えただけだ。……わかっているのか、坊主」
 冷静な声でシリウスにお小言を連ねるマカライトは、歩けない様子の娘をティンダロスに乗せて引いていた。
「賊がすぐに殺さなかったから助かったものだが、今後はよくよく気を付けてだな……」
「わーったよ! もう無茶しねぇよ!」
「はは、俺は嫌いじゃねーぜ?誰かの為に無茶する馬鹿はよ」
 グレンが気安くシリウスの肩を叩く。
 チッ、と舌打ちをひとつ。シリウスは顔を顰めた。
「……んなこと言われる筋合いはねぇよ。最初は褒章目当てで行ったんだ」
 ーーそれに、結局あんたらに助けられただけだ。

「そんなことありません……!!」

 口惜し気なシリウスの呟きに割って入ったのは、領主の娘だった。
 彼女はまっすぐにシリウスを見詰めて微笑む。
「あなたは自分が捕まった時も、私のことを気にかけて下さいました。あなたは優しい人です」
「ええ。それに私達はシリウスさんを手伝っただけですから!」
 娘とウィズィの笑みに、シリウスの声は揺れる。
「……んなこと言ったって。姫さんだって俺のことなんざ、明日には忘れて……」 
 捻くれたその言葉の先を、娘は継いだ。
「憶えています。あなたは私の命の恩人ですから。もちろん、皆さんのことも」
「あぁ。シリウス少年のことは、俺も記憶に刻もう」
 ジョージも言葉を重ねる。
 少年はこれからきっと語られるような男になるのだろうと思う。
 『いつか語り継がれる物語』と銘打たれたタイトルの様に。
 シリウスの瞳が見開かれーー…「そうか」と、ただ一言。
 それだけで、生きていられる気がした。

 その後賊は衛兵に捕まり、シリウスには褒賞が与えられた。
 というのも、娘を引き渡す際にウィズィが「この勇気あるシリウスさんがお姫様を救ってくれました」と強調したのだ。
 夜だけが知っていた彼の勇気が、夜闇を照らす一等星となるように。
 いつか語られるべき彼の物語は続いていく。

成否

成功

状態異常

なし

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