シナリオ詳細
『Despair Blue』ボク悪いすらいむぅ!
オープニング
●スライム
カビ臭い水で1週間を過ごした後、綺麗な川を見てしまった。
「新鮮な水だぁ!」
「水が甘いっ」
煮沸消毒しないと危険だとか、見張りをおかないと野生動物に襲われるかもだとか、そんな真っ当な考えは頭から吹き飛んでいた。
「はひぃ」
「腹がたぷたぷだぁ」
水で濡れた水夫達が、顔を見合わせ笑い出す。
ここは『絶望の青』からは遠い、しかし海洋王国の拠点からは離れた無人島だ。
木がたっぷりと生えて水も豊富。
『絶望の青』へ向かう途中で寄るなら遠回りになるが、水と燃料の補給だけでなく休憩も可能な島なのだ。
「ここに戻ってくるまで生きた心地がしなかったもんなぁ」
「本当にな。『絶望の青』まで行く船なんて乗れる気がしねぇよ」
イレギュラーズに守ってもらえて安全だったはずなのに、緊張で文字通り心身が削られていた気がする。
ぷるぷる。
滑らかで、しかも絶妙な揉み応えがある何かが掌に触れた。
何度揉んでも飽きない。
最初ひんやりしていたのが徐々に暖かくなる。
「何だこれ」
我に返って自分の手を見る。
手の形に歪んだ、半透明のボールに見える何かがふるふると震えていた。
「なぁ、練達のクッションでも買ったのか? ……おい?」
返事がないのに気付いて振り返り、絶望して目を見開いた同僚と目が合った。
半透明の何かに頭が完全に覆われている。
口が助けてと動く。
半透明の何かの色は、手元の、スライムと同じだ。
「うわぁっ!?」
ボールと思っていたスライムを投げ捨てる。
この航海で命を預け合った同僚を助けるため、頭部を覆うスライムに指をめり込ませ掻きむしるようにして引き離す。
「ぉぽっ」
スライムがずるりと抜ける。
間抜けな音を立てて同僚の呼吸が再開される。
「にに逃げるぞっ」
「ぉおー!」
水夫達が逃げ出す。
平和に見えていた川の周囲が、今は化物に住処にしか見えない。
草が揺れた。
黒いスライムがぴょんぴょん飛び跳ねながら現れ、1度動きを止めてぐっと力を溜める。
「うひっ」
どむ、と爆発じみた音を立てて黒スライムが加速する。
水夫は無理矢理に自分の足を止め、前のめりに倒れそうになりながらぎりぎりで回避する。
黒い、人間の頭くらいに大きなスライムが足先を通過し、太い木の幹にめり込み姿が見えなくなる。
みしりと異様な音が鳴り、折れた木がゆっくりと倒れてきた。
「あ、わ」
青いスライムも追って来る。
黒いスライムの新手が茂みから、いや青い別スライムまで草を揺らして現れる。
「あっちだ。あっちに行けばイレギュラーズがいるぅっ」
感情が高ぶり過ぎて怒っているのか泣いているのか水夫自身にも分からない。
相棒と一緒に生き延びることをだけを考え、これまでずっと守ってくれているイレギュラーズとの合流目指してひたすら駆ける。
人間が去った後の川面が揺れた。
風もないのに1メートル以上盛り上がり、ゆっくりじっくりぷるぷるしながら小川から上がる。
全幅6メートル。
全高3メートル。
実に良く育ったスライムが、透明に近い身体を日の光できらきらさせ移動を開始した。
●数日前。ローレットにて
「護衛任務なのです」
頑張って最後まで聞いて下さいですと、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)自身ちょっとうんざりした表情で海図と地図をテーブルに広げた。
要するに輸送船の護衛だ。
護衛対象は、『絶望の青』に向かう船が立ち寄る島に物資を運ぶ船だ。
長距離を移動し最後に島に寄ってから帰還するという予定で、時間がかなりかかりそうだった。
「多分びっくりするほど平和です」
この予定だと、『絶望の青』の強力な敵に遭遇する可能性は0ではないが限りなく0に近い。
「敵が現れなくても油断は禁物なのです。海は危ないのです!」
数日後、イレギュラーズは海ではなく島で脅威と相対することになる。
- 『Despair Blue』ボク悪いすらいむぅ!完了
- GM名馬車猪
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年02月13日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●ぷるぷる!
足下には白い砂。
後ろには青い海。
そして、目の前には特盛りのスライム。
逃げ惑う水夫の悲鳴がとても五月蠅くて、パニック映画の一場面じみていた。
「そこまでだ!」
凜とした声が空気を変えた。
『自称!正義の味方』蔓崎 紅葉(p3p001349)が水夫を庇う位置で立ち止まる。
彼女は最も小柄な水夫よりも背が低く手足も細い。
だが、大小無数の脅威を認識した上で一歩も引かない姿勢が全ての水夫に安堵を与える。
人助けセンサーが大量の反応を捉えているがスライムの近くにはいない。
仲間と手分けしてスライムを防げば、皆助かるはずだ。
「私はイレギュラーズ、蔓崎紅葉!」
細い腰に巻かれたベルトが、動力もないのに自ら震えた。
数多の世界で戦うヒーローに似た力が、ベルトから紅葉の体に広がり鮮烈な輝きで包み込む。
「ヒーローとして!」
光が弾ける。
紅葉の細い手は無骨な手甲に包まれ、首から手足の先にかけて実戦的な戦闘服に覆われた。
異界の創作を知っている者なら、変身バンクと表現したかもれない。
「先に私を倒してから向かって貰おうかっ!」
黒くて力強いスライムがふるふるっ、と震えた。
だむ、と凄まじい踏み込みの音を残し、装備を身につけても細い紅葉を目がけて跳躍する。
「くっ」
水と同程度には重い、サッカーボール大の突撃だ。
接触する位置とタイミングをずらしてダメージを最小限に留めたが、両腕の骨に微かではあるが痛みが残った。
「効かないっ」
背後からは水夫の歓声が聞こえる。
紅葉は黒スライムを地面に叩き付ける動作で自らは真上へ跳躍。
狙いに気付いて逃げようとするスライムに、踵を揃えた蹴りを叩き込んだ。
ぱん、と音をたてて黒が弾け、踏み固められた白い地面に染みこんで消えた。
「わぁヒーローみたいだぁ」
『ぽやぽや竜人』ボルカノ=マルゴット(p3p001688)は、青スライムと黒スライムの連合軍に包囲されている。
もう、滅多打ちだ。
「た、たぶん他と比べたらすんごく平和であるがー! 平和でないようなー!! 気がするのであるなー!!」
ぽよんぽよんと跳ぶスライムはコメディじみているが威力は人を殺すのに十分だ。
が、常人を殺せる程度の威力ではボルカノには通じない。
鍛え抜いた筋肉は衝撃に耐えるだけでなく吸収し、ボルカノの体を揺らすことも許さない。
「へ、へいへーい! ふつうの人より赤くておっきな我輩のほうが! 良いと思うのであるが!」
ちょっと涙目になりながら、しかし上体を揺らさず移動する。
紅葉が少数引きつけ攻撃しているスライムは効果範囲に入れない。繊細かつ有効な口上の使い方だ。
「痛っ」
後頭部に黒スライムが当たる。
どれだけ見事に防御しても完全に防ぐことは出来ない。
しかし1度や2度直撃を受けたところでボルカノの鱗が割れることはないのだ。
「わ、我輩にあたったら死ぬのであるー! 特にくろいのー! でもあんまりいたくしないで!!」
顎を撃ち抜くように跳躍した黒スライムを、容赦のない拳がカウンターで撃ち抜き爆散させた。
「陸の上での戦いは不得手らしいな」
『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)は意図してゆったりと笑う。
スライム程度敵ではないと態度で語って水夫を安心させる。
同時に、目と特に耳に意識を集中させて敵の動きを探っている。
「本命は川向こうか」
懸念していた伏兵はこちらにはいない。
義弘は、その場に落ちていた大型オールを片手で拾い、ボルカノの背後から迫る青スライム4匹に対して力任せに振り抜いた。
空気が押し退けられ、小さいけれど凶悪な竜巻が砂浜に出現する。
野球のボール程度の大きさしかない青スライムでは耐えることなど不可能で、竜巻から出る前に風で切り裂かれてただの粘液と化し地面に吸い込まれる。
「頼りにしてるぜドラゴンさんよ」
強力な壁役がいるから得られた戦果だ。
義弘はそれを理解しているから、遠慮無くボルカノを利用し川のこちら側のスライムを殲滅していくのだった。
●TAKE1
造詣も仕草も、陽光を浴びた宝石を思わせる煌めきだ。
だからこそ、『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)の内面の黒さが強烈に強調される。
「は? 冗談じゃねえよ。一体何で取りつかれたら死ぬような奴の相手を……」
目視してしまった水夫が、気のせいと己に言い聞かせて見て見ぬ振りをする。
「は……?」
『バールマスターリリー』矢都花 リリー(p3p006541)がすごい表情になった。
銀糸の如き髪も、透き通った翠眼も、儚げな細身の体も、全てドブ色の印象に変えるため息だった。
「なんで休憩地点にスライムがいるのさ」
でかい貝殻を被ったまま、のったりのったりと見る者の血圧を上げる鈍さで貝殻に潜りかけて途中で止める。
はぁ、と吐いたため息は、イレギュラーズがして良ものではないが異様なほどに違和感がない。
「予定と違うじゃん。コンプラ案件だよぉ。誰か知らないけど情報収集した情報屋、ギルティ」
単語と単語の間には嫌な意味で絶妙な不快感を漂わせ。
「もちろんスライムもギルティ。やどかりの安息を邪魔した罪は上から3番目ぐらいに重いから……」
面倒臭げに取り出されたエクスカリバールが異様な気配を纏う。
それ以上に凶悪な力と気配がリリーに宿ったのに気付かなかったのは、水夫にとって幸運なことだった。
「バールですりつぶしの刑だねぇ……」
イレギュラーズによる蹂躙劇の始まりだ。
と水夫が思った瞬間リリーが投擲動作を中断して水夫達に振り返る。
「てか後ろの水夫たち、うるさいんだけど……」
騒がれると気が散る。
そう言われた気がして、水夫達は善属性に見える紅葉に助けて貰おうと必死に駆け出した。
「ごめん。今のは美少年の発言じゃなかったね。空気も変だしもう一回やらせて」
セレマが猫を被るが、ちょっと遅かった。
●TAKE2
「スライムの群れか……非常に厄介だ」
窒息死という、苦しい死因の中でも上位に入るもので攻撃されているがなんとか躱す。
「一口にスライムと言ってもその種類は多様で特定し辛く、対策も難しい。特に今回は、多数のスライムが特大スライムに追随する『群れ』に似た形をとっている」
見栄を張らずに余裕をもって距離をとり、敵全体を冷静に警戒する。
「単細胞生物ではなく、群生成物か他の生態である可能性が高いということだよ」
性格のどす黒さの代わりに知性が表に出て、美少年が美少年に見えてくる。
「中々骨が折れそうだけど……なに、ボク達なら心配いらないさ。ティータイムまでには終わるよ」
水夫達はこの戦いの後、美人を見ても興奮しない内面最重視派に転向した。
「セレマ、遊びすぎだ」
ローレットが用意した騎士風重鎧を身に纏い、兜の代わりにちっちゃい王冠を頭に載せた『月氷の騎士』エレジア・アイス(p3p008049)が力強く踏み込んだ。
力すなわちパワー。
体重の軽さは重鎧で補い、重鎧同様ローレットから支給された剣で重い一撃を小さなスライムに当てる。
掌に確かな手応え。
命を1つ砕いた感触を魂で感じる。
「セレマが強いのは分かるが数を甘く見るな。小さなスライムでもっ」
青スライムの跳躍を盾で防ぐが乗り越えられてしまう。
性別不詳の銀髪ロング儚げ騎士が青スライム相手に抵抗する。
特定方面に需要がある光景だが、やっている本人は真剣できつく口を閉じて内部への侵入を防ぐ。真剣だ。
クソザコクラウンが何故か姫騎士という単語を連想させ、安全な場所まで逃げた水夫から熱い視線が集中した。
「はぁ。疲れるなぁ……。やろっか」
キン、と明らかに危険そうな音が響く。
ニート(として)エリートヤドカリの手により血染のバールが投擲される。
見た目は美少年をぎりぎり掠め、進路上のスライムを一瞬で消滅させながらシリアス騎士っぽい新人特異運命座標の真横を通り過ぎて遠くへ消える。
エレジアは驚き、けれど圧倒はされない。
鍛えた足腰とを活かし、鼻を狙う青粘液を腕で防いで剣で削る。
「核は右手側っ」
『蒼海守護』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)の分析は完璧で指示は的確だ。
エレジアは盾でスライムの核を含んだ部位を殴りつけてから後退を強い、気合いを入れ肉体の力を呼び覚まして剣を斜め下へ突き出す。
最後の突撃を試みたスライムが、核ごと綺麗に2つに断たれて絶命した。
「支援に感謝する!」
「どういたしまして」
ココロは水着姿なのに戦場にいて違和感がない。
強力な回復と治癒の術はイレギュラーズの命綱だ。
どれほどの強者でも、戦いでは基本的には負傷する。
だからそれを治療し尽くすココロは戦場の重要な一部なのだ。
「水夫さん、スライムに捕まった仲間がいたら、助けてあげて! あれはトロいからひっぱがしたら全力ダッシュです!」
万一に備えた指示を出してから、ココロはエレジア達と一緒に本命の迎撃へ向かうのだった。
●尽きないスライム
「……ぷるぷる……悪いすらいむなら、罰してあげないとね……」
言葉は喜劇風でも周囲は地獄絵図だった。
毒に冒された青や黒のスライムが逃げ回りながら衰弱し、新たに現れたスライムが『行灯海月』オーロラ・ミラージュ(p3p008027)に飛びかかって謎の水球の迎撃を受ける。
水球からは海月の触手に似たものが複数伸び、オーロラから見れば微弱な威力の、小さなスライム達から見れば重傷確実の威力の突き刺しや締め付けで反撃している。
個としての戦力はオーロラが圧倒的格上。
10秒で1匹以上倒している。
だが敵の増援は10秒あたり約2体。
時間経過と共に数が増えて包囲網が完成度を増し、オーロラの命もあと僅かと思われた。
「……ボクは、いいクラゲだから……ぷるぷるしても、罰しないで……」
柔らかな光が海月海種を包み込む。
うっすらついていた打撲の痕が、見る見る薄れて快方に向かう。
オーロラが回復に集中した分スライムのダメージが減り、ついに包囲網が完成した。
死角からも常時飛んでくる状況ではオーロラも耐えきれないはずだ。
が、最終攻撃が始まる前に、絶望の海を歌うココロの声が戦場に満ちた。
スライムの半数近くが至近のスライムにぶつかる。
1つ1つは小さな威力しかなくても数が数だ。
素晴らしい効率でダメージが増え、オーロラが再開した毒攻撃の効果もあり見る見る青と黒の数が減って地面が汚くなる。
「……ぷるぷる」
オーロラは、苦悩する人が描かれた不吉な盾を構えて防御を固める。
馬鹿馬鹿しいほど大きな、透明に近いスライムが、激しい震えで怒りを表現しながら超低速で同属の敵であるオーロラを目指していた。
「こいつが頭か」
義弘が島の中心方向を一瞥した。
木々の間から青や黒の色が見える。
「確実に、素早く倒さなけりゃ、際限無くスライムがわき出てくる」
戦いが長引けば術や技を使う力が尽きてイレギュラーズが負ける。
「強烈な一撃を、お見舞いしてやらなけりゃよ」
半ばで折れたオールを捨て、刺し違え狙いを思わせる加速でスライムに駆け寄り思い切り蹴りつけた。
直径6メートルある巨体が激しく揺れる。
頭頂部から透明な水が血のように拭き出る。
大きなダメージだが義弘の狙いは他にもある。
命の一部を燃やして放った蹴りは呪いじみた毒を持つ。
回避を試みすらしないスライムでは毒を退けることが出来ず、毒によって内側から命を削り取られた。
どむ、と破滅的な音をたててバールが特大スライムを貫通する。
被害甚大なのにスライムの大きさは直径50センチ分減っただけだ。
義弘のオーラにかすり傷も与えられないゴミのような攻撃力とは正反対の、凄まじい生命力だ。
「デバフで攻めるぞ。ドラゴン、行け!」
美少年の顔と魔術師としての知性でセレマが指示を出す。
「お仕事であるから頑張るのである……」
猛き種族の温和な男は、微かに震えながら覚悟を決めた。
もっとも、ボルカノ両足は地面に吸い付くように安定している。
凄まじい足腰とバランス感覚に支えられた尻尾が旋回させて巨大スライムを激しく打ち据える。
スライムの回避の動きを利用した一撃であり、半透明スライムを痺れて動きが鈍った。
「デバフ1増加」
セレマがカウントする。
「次わたし!」
ココロがアッパーカットを全身で準備する。
結構隙があるようにも見え、スライムの迎撃の方が少しだけ早くホタテのディープシーがスライムの中に捕らわれた。
「ほたてぱんち!」
水越しに声が響く。
海は海種の天下。ならば水同然のスライムはココロの支配下同然だ。
パンチは余すところなくスライムに伝わり内側をかき回す。
スライムの移動能力は0まで落ち防御の術まで奪われ、増援から遠くなる方向へ吹き飛ばされる。
なお、ココロは途中でスライムから抜け、器用に地面に着地していた。
「2増加。始めよう」
セレマの唇から冷たい呪い歌が流れ出す。
複数の状態異常を抱えたスライムが内側から壊され、音にならない悲鳴をあげる。
「……ぷるぷる。飽きた」
オーロラが何も持たない手を上に伸ばし、過去にスライムに融かされた男の呪詛を捕まえ矢として束ねる。
えい、と投げた矢が特大スライムに突き刺さり、かなりの勢いで水が噴き出し体積が減る。
消費エネルギーの割に効果が大きい。癖になる手応えだ。
エレジアが一瞬目配せをして、思い切りの良い……思い切りの良すぎるとすらいえるほど突撃で剣を振り下ろす。
「やぁっ」
巨大半透明スライムの柔らかさは攻撃を退ける柔らかさではなく無防備な柔らかさだ。
エレジアの腕力で強化された威力が数割増しで巨体に伝わり、命中箇所から溶けるようにして体積が減り生命力が削られる。
ぷるりと震えた。
巨体と重さはそれ自体が凶器であり、たまたま成功した一撃はエレジアを防具ごと潰しかねない一撃だ。
重い足音と、巨大な水が強靱な鱗に当たる音が響く。
「スライムにも色々あるであるなっ」
不定形の体を掴めないなら己の体を盾として使えば良い。
仲間のピンチで余計な考えが吹き飛んだボルカノが、身長300cmの骨格と膨大な筋肉を活かしてスライム島の主を押し止めた。
「感謝する!」
礼節は騎士の基本。
だが今は目を見て礼を言う時間的余裕はない。
ボルカノに守られながら剣を突き出しスライムの注意を引きつける。
「これでどうだぁ!」
反対側から紅葉が跳躍。
高度と速度を威力に変えて、綺麗な蹴りの姿勢のままスライムと激突する。
ボルカノとエレジアの攻撃に注意を集中しているスライムの背中というか反対側は無防備だ。
激突箇所から中心近くまでが泡立ち、ただの水に戻ってこぼれ落ちた。
「毒はまだ効いているな」
異世界での実戦経験も豊富な義弘は冷静だ。
ほぼ透明スライムの中で猛毒や魅了などの呪いが暴れ回っているのを五感と勘で感じ取り、その中の弱まり有りつつある要素を己の技で強める。
小さくそれでいて凶悪な暴風でだ。
複数の状態異常をセレマとオーロラが活かす。
呪殺が非常に良く効き、特盛りスライムの存在感が目に見えて薄れていく。
「どきどきするね」
セレマの美そのものの頬を汗が伝った。
島の緑に青が混じっている。
全部スライムだ。
飛び抜けた要素のない攻撃に対しては無敵に近いセレマではあるが、とにかく止めを刺すのが最優先な攻撃をしてくる相手はちょっと怖い。
「そろそろだ」
美少年顔から憂いが消えた。
極限まで気配が薄れたスライムから大量の水が流出。
特大スライムの核であった、小柄なセレマで抱えることが可能なサイズのスライムがぷるぷるぷるっと怯えている。
「うぜー!」
バール、大暴投。
リリーを半包囲した青黒スライムははしゃいでぽよぽよするが、バールはボススライムの死角から深ーく突き刺さって地面にまでめり込んだ。
ぷる、ぷる、と断末魔めいた震えが続く。
そして、ついに全身に毒がまわりきり、びくんと1度大きく震えて動きと命が止まった。
ざわりと空気が揺れる。
黒の中スライムと青の小スライムの動きが数秒止まってから、引いていく潮のように島の緑の中に消えていく。
ボススライムがいたときの秩序はどこにもなく、ただの動物として逃げている。
「本当に助かった。感謝する」
エレジアが深く頭を下げる。
ボルカノは照れて己の頬を掻き、ココロは少しだけ困ったように微笑んだ。
「感謝は嬉しいけどあまり気にしないで。戦えば傷つくものだから」
平然としているベテランイレギュラーズも、常人の数倍頑丈だからそう見えるだけでダメージはあるのだ。セレマのような別枠な存在もいはするが。
「もう港に帰るまで起きないから……」
物理的にからにこもるリリー。
じゃあね、と微笑みリリーが籠もったからを転がし船に向かうココロ。
回転しているのに、リリーは気持ちよさそうに寝息をたてていた。
エレジアが、2人の背中を眩しそうに見つめる。
平和になった島の風が、銀の髪を優しく揺らしていた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
スライムに恐怖を植え付けることに成功しました。
放置しても10年は大丈夫でしょう。
GMコメント
『絶望の青』だとか色々書いてありますが、要約するとスライム退治です。
●目標
『特大スライム』1体の討伐。
●敵
『特大スライム』×1
全幅6メートル全高3メートルな、特大サイズのだいたい半球形スライムです。ほぼ透明。
特殊抵抗とHPは異様に高いものの、それ以外の能力はびっくりするくらい普通です。
巨体による体当たりやのしかかりは強力に見えます。実際は獲物がふんわり中に入り込んでしまうので威力はとても低いです。
しかも消化には長い時間がかかるため、水夫が取り込まれても息が続けば5分くらい生きていますし1分程度では重体にもなりません。
元気な獲物を襲って食べようと努力はします。
このスライムがいる限り他のスライムが元気です。
『青スライム』×いっぱい
野球のボール程度の大きさのスライムです。
跳躍して獲物の頭部に広がりながら取り付く【至】【単】【窒息】【呪縛】【乱れ】【必殺】という、バッドステータス山盛りの攻撃が得意です。
しかし全体的に能力が低く特に命中が低いため、あまり当たりません。
『黒スライム』×たくさん
サッカーボール程度の大きさの、弾むように動くスライムです。
体当たり【近】【単】【移】はなかなかの威力ですが命中は普通です。
回避は得意ですが非常に脆く、少し威力のある攻撃がかすめるだけで力尽きて死亡します。
どのスライムも機動力は低く、『黒スライム』の最も速い個体でも機動力は3です。
『特大スライム』が倒されると、島の全てのスライムは怯えて逃げ出し数ヶ月は人前に現れなくなります。
●戦場
1文字縦横10メートル。現地到着時点の状況。上が北。晴れ。北向きの微風)
abcdefghijk
1□□□□■ス□□青□黒
2□黒□□■□□□□□□
3□青□□■□青□□□□
4□□□■■□□□□□□
5□□□■□□□□□□□
6砂砂砂■□□水□□水□
7水砂砂■砂砂砂□□砂砂
■=川。流れは穏やか。南に向かって流れています。
□=平地。障害物無し。
青=1マスにつき『青スライム』6体。i1に毎ターン1体の『青スライム』が新たに到着。
黒=1マスにつき『黒スライム』4体。k1に毎ターン1体の『黒スライム』が新たに到着。
ス=平地。特大スライムがぷるぷるしています。
砂=砂浜。防御時に、回避に少しペナルティ有り。
水=砂浜。1マスにつき水夫7人が混乱しています。
地図の北には木が密集して生えています。
地図の南端から南に数十メートル行くと海と船1隻があります。
イレギュラーズの初期位置は、□であれば好きな位置を各人が自由に選択可能です。
●他
『水夫』×21人
新人が大部分の水夫達です。
作業用ナイフを装備していますが、通常時でも戦闘力には期待出来ず、現在スライムの襲撃に驚いて混乱中です。
イレギュラーズの指示に従おうと努力はします。
『船長』×1人
船にいます。
イレギュラーズを信頼して指揮を任せて就寝中です。これまでの航海ですごく疲れています。
呼べば船から走ってきますが寝ぼけているので全く役に立ちません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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