シナリオ詳細
<Despair Blue>トリプルヘッドタイフーンサンダーシャーク
オープニング
●迫る背ビレと巨大な影
海洋王国では、イザベラ女王が発令した十二年振りの『海洋王国大号令』によって東方の外洋、『絶望の青』を目指して多くの船が港を出発している。
外洋への挑戦という胸躍る冒険に繰り出そうと、海千山千の冒険者、船乗りたちが未踏の海域へと乗り込んでいくのだ。
しかし、未知の海には何がいるかわからない。
一獲千金と名声の代償には、危険がつきものではある。
「よう! 見てみろよ、海が眩しいぜ」
晴れ渡った空を、青い海がきらびやかに映していた。
豪華なクルーザーから身を乗り出した青年は、大商人の息子キンニー・ゴールド・ジョッグス(22歳)である。
まだ学生の身分であったが、『海洋王国大号令』に応じるべく、父親に懇願して船まで用意して今回の航海に挑む。金髪と運動で鍛えた胸板、男らしい顔立ちと、恵まれに恵まれまくった男だ。
この航海を成功させ、若くして名声を手に入れ、将来に備えという人生プランだ。
キンニーが集めたのは、親のコネと自分の交友関係を中心とした人員である。
基本的には、自分の友人たちである。
いいところ見せようと、女性の一団もいる。彼女たちもまた、将来が約束されているキンニーの心を射止めようと、大胆な水着に着替えてこの航海に同行している。
まあ、はっきり言ってしまえば海を舐めている。
わりとレジャー感覚でついでに成功しようという魂胆だ。
「で、でも、キンニー。『絶望の青』周辺は海域なんだよ? 何が起こるかわからないし……」
不安を口にしたのは、ガーリー・ギーグ(21歳)である。
キンニーの取り巻きのひとりで、頭脳派の痩せっぽち。陽キャばっかり集まったこのクルーザーでは、大変浮いている青年だ。
豊富な知識と、金にーが何でも言うことを聞かせられるパシリとしてクルーザーに乗せられたのだ。
「ハッ! ガーリー、お前相変わらず空気読めねえな。オレたちは、楽しく成功を手にして人生を楽々に生きるっていうストーリーがあるんだよ。それに水差すなよ、これだから陰キャは」
まくしたてるように言うキンニー。
無理やり連れてきたんじゃないか……と言いかけたところで、ガーリーはその言葉を飲み込んだ。
「この辺の島には、嵐を呼ぶ鮫神の伝説もあるって言うし……」
「鮫神だぁ? なんだそれ? どうせお前みたいな臆病者が見間違えたのが伝わったかなんかしてできた迷信だろ。見ろよ、この青い海を! 平和そのものじゃないか」
「迷信なのかな……?」
そのとき、海面を切るように進む三角のヒレと大きな影がクルーザーに近づいていたのだが、誰ひとり気づいていなかった――。
「鮫神とか、ビビっていてどうするんだ? これから、俺たちは『絶望の青』に挑むっていうのに。よし、いいか? よく見とけ、成功に挑む男、キンニー・ジョッグス様の勇気ってやつをな!」
ジョッグスは、来ていた服を脱いで上半身を露わにすると、勢いよく紺碧の海に飛び込んだ。
白い波飛沫が眩しく上がった。
「ほら、みんな来いよ! 鮫神なんかにビビってるのは、そこの陰キャだけだ! 俺と一緒に泳ごうぜ? ほら、気持ちいいぞ!」
キンニーは気づかなかった。
自分の後ろに迫る巨大な何かの影を。
すると、それまで晴れ渡っていた空が、にわかに掻き曇る。
途端に鈍色の雲が覆い、風が荒れ狂い、豪雨が降り注ぎ、天には雷が轟いた。
あまりに唐突で、異常な気象の変化だ。
「な、なんだ!? 何が起こった……!?」
戸惑うキンニーと、クルーザーの乗組員たち。
「キンニー! 後ろっ!!」
ビキニ美女が指差した海面から、巨大なものがせり上がってくる。
「シャアアアアアアアアアアッ!!」
恐ろしい雄叫びを上げてでてきたのは、三匹の巨大な鮫……いや、違う! 3つの頭を持った怪物鮫だ!
鮫が鳴き声を上げるのかという疑問は、まず置いておく。
その鮫が海面に飛び上がると、鮫から雷が発せられる。
クルーザーに直撃し、木っ端微塵となって乗組員を海に叩き落とした。
「きゃああああああ!?」
美女たちは、波に呑まれて溺れそうになる。
叩きつけるように降る雨と激しい中で、なんとか戦隊の破片にしがみつく。
「っぷあ……!? だ、大丈夫か! ひっ……!?」
海面から顔を出したガーリーが見たのは、地獄絵図であった。
船から落ちた美女たちが、三つの頭を持つ怪物鮫の餌食となっていく。
鮫は、その巨体を誇示するかのように飛び上がる。
大きい、20メートル近くあろうか。
恐るべきことに、電撃をまとまったま風に乗って飛んでいる。
なにか見てはいけないものを見てしまったかのように、ゲーリーは呆然と見上げるしかなかった――。
●バケモノ鮫を退治せよ!
「鮫が出た、この海域の先だ」
依頼を持ってきたのは、『絶望の青』に挑む船団のうち一隻を預かるロイ・シャダイ船長であった。
過去に鮫に足を喰いちぎられてしまい、片足は義足となっている。
以来、鮫狩りに執念を燃やす海の男だ。
しかし、鮫によって航海が大きく妨げられるということはないはずだ。
船から落ちた船員が餌食となるか、海水浴場が閉鎖される程度であろう。
「相手はただの鮫じゃねえ! “トリプルヘッドタイフーンサンダーシャーク”だッッッ!!」
ドンッ――! と音がしそうなほどの迫力で船長は言った。
その名称をそのままにすると、三つの頭を持つ、嵐と雷を呼ぶ鮫、ということになろうか。ただ、これを鮫と呼んでいいかは、はなはだ疑問であるが。
「トリプルヘッドタイフーンサンダーシャークは、一言で言えば海の魔物だ。近くの海域の現地民は、怒れる神として崇めているという。嵐を呼ぶ能力を持ち、このまま船が生息域に差し掛かれば、難破する可能性もある」
その前に鮫を退治してほしいという依頼のようだ。
もし、船長の語ることが真実であれば、並みの者では対処できない。
「船は俺が出す。ヤツを……トリプルヘッドタイフーンサンダーシャークを仕留めてくれる命知らずはいねえか!」
- <Despair Blue>トリプルヘッドタイフーンサンダーシャーク完了
- GM名解谷アキラ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年02月06日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●いざ、鮫の海へ!
鮫――。
それは生きた化石とも呼ばれる軟骨魚である。
進化の形態として完成しているがゆえに淘汰されず、形を変える必要がなかったのだと、ある者はそのように言う。
しかし、『絶望の青』に現れた鮫は、頭が三つなうえ、嵐を呼んで稲妻を操るらしい。
もはやそれを鮫と呼んでいいものがどうかわからぬが、この鮫退治に乗り出したのは、ロイ・シャダイ船長とこれに応じたイレギュラーズである。
「いいか、鮫を舐めるんじゃねえ。本来、獰猛な鮫はそうは多くねえが、トリプルヘッドタイフーンサンダーシャーク……やつは特別だ」
ロイ船長は、その恐ろしさを語る。
周辺の民からは、荒ぶる海の神と恐れられてもいると。
「なんて獰猛な鮫……。これ以上、犠牲者を増やさないためにもここで退治しなきゃ!」
彼女は、『サメ召喚士』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034) である。
スティアがこの依頼に名乗りを上げたのには、止むに止まれぬ事情があった。
過去、鮫が出現する低予算映画で鮫を呼び寄せたせいか、鮫が出現するために「もしや鮫が出現するのはサメ召喚士の彼女のせいでは?」と疑われてしまう。
「嬢ちゃんは鮫に詳しいようだな? いざってときは俺の代わりを任せるぜ」
「は、はい……! でも、代わりだなんてそんな」
ロイ船長は、スティアのことを結構気に入ったらしい。
『サメ召喚士』という称号がいいのだろう。
鮫という生物を通じてわかり合う、そういうものかもしれない。
「船長さん、ちょっといいかな?」
「おう、遠慮はいらねえ。鮫のことならどんどん聞いてくれ!」
ロイ船長よ事前に打ち合わせを行なうべく声をかけたのは、『学級委員の方』藤野 蛍(p3p003861)である。
「船長の実体験からして、鮫と戦うにはどうしたらいいかな?」
「……鮫は血の匂いに敏感だ。遊泳力も高く、水中に引っ張り込む力も強い。何より、鋭い歯は脅威だ。海の中じゃ無敵に近いが、ただ弱点もある」
「弱点っていうのは?」
「鼻っ柱だ。ロレンチーニ器官っていってな。微弱な生体電流も感知するが、だからこそ敏感な弱点でもある。そこを銛か何かで突く、あるいは食いつかれそうになったら蹴っ飛ばすといい」
「なるほど、鼻先ね」
なかなか有益な情報であった。
鮫退治に執念を燃やすロイ船長は、こと鮫に関しては専門家と言っていい。
「よい情報でしたね、蛍さん」
甲板で控えめに体を休めている、『いつもいっしょ』桜咲 珠緒(p3p004426)が優しげな笑みを浮かべていた。蛍のことは、いつもこうして見守っている。
「でも、珠緒は思うのです。多頭の魔物について、時折噂はうかがうのですがああいった存在は、並列思考ができるのか……と」
「ああ、たしかに気になります」
頭が三つあり、それぞれが思考したらどうなるのか?
身体は別々に動いたりしないのか?
珠緒の疑問は尽きない。
しかし、これもまた当然の疑問で、ロイ船長もいいところに目をつけたなと頷いている。
「船長さん、そこのところは?」
「多頭の鮫はいくつか報告例がある。別々に考え、餌も奪い合うから寿命は長くねえ。しかし、トリプルヘッドのやつは思考を共有できるタイプかもしれん」
珠緒の疑問を蛍が問い、船長が推測を伝えた。
場合によっては思考を共有するケースもあり、今回の怪物鮫もそうかもしれない。
そもそも、嵐を呼び、雷を起こすというのだから生物学が通用しない相手だ。
神秘的な存在、海の神と崇められている存在である。
「せっかく三つも頭があるのです。珠緒ら8名との、多面指しを受けていただきましょう。
つまりは、三方面から鮫を攻める。
三つの頭がバラバラに動けば、思考も飽和するはず――。
珠緒の指示に従ってイレギュラーズは作戦と配置を確認する。
「いやぁ、この世界が何でも有りなのは理解してるけど、頭三つの鮫って機能的にどうなの? って疑問だったけど。ホント、この世界は退屈しないわ」
『穿天の魔槍姫』フィーゼ・クロイツ(p3p004320)もこれを聞いて改めて感嘆する。
他の世界から漂流し、魔の血を引いているがそんな鮫は今まで聞いたことがなかった。
「フハハ!! 懐かしいなあ! そのうち私の友のようにタコ足が生えたり陸を走ったりするかもしれないね」
「あなたのお友達、すごいのね」
「いや、違った……私の友は雷を呼んだりしなかった……」
『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887) には、変わった友達がいるらしい。これを聞いたフィーゼも、ちょっとその友達のことが気になる。
グリムペインには、初めて見聞きする事象でも、大衆が見聞きした程度の知識を得るというギフトがある。
これもまた、その能力に関わっているかもしれない。
「どっかで聞いたようなサメだねぇ……具体的に言うと、ウォーカーが持ち込んだモンあたりで」
『濁りの蒼海』十夜 縁(p3p000099)がいうように、トリプルヘッド(以下略)のように怪物じみた存在は、混沌の外からやって来る場合が多い。
実際、さまざまなものがやってくる。想像を超えるものやってが来てもおかしくはないのだ。
鮫についての情報が共有されたところでイレギュラーズたちは船を保護結界で守り、珠緒が空中に待機する形となって、テリトリーに進んでいく。
●イレギュラーズと荒ぶる海の神
「来たわ……!」
出港から程なく、甲板上で超視力を活かして監視していた蛍が気づく。
空中のイレギュラーズたちもその背びれと影に気づいた。
「よおし、みんな備えろ!」
鮫の接近を察知したグリムペインは、背負ったジェットパックに火を入れて飛行する。
短期間でも飛行すれば、その位置を捉えられよう。
「あぁ了解だ、さっさと片付けるとしようや」
一方、縁は船から飛び込んだ。水中で三つ頭の鮫に挑もうというのだ。
ディープシーである縁は水の中を得意とする。
とはいえ、鮫相手に水中戦を挑むのはひとつの賭けといえた。
水中で、黒く、巨大な影と遭遇する。
巨体(おお)きい――。
水の中を突進する影に、すれ違いざまの天下御免を放った。
幾ばくかダメージを与えたものの、なおも影は進む。
そして巨体と異形を誇示するかのように魚影が海面から飛び上がった。
鮫だ! トリプルヘッドタイフーンサンダーシャークだ!
「……なんだこれ」
『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233) は思わず言葉を失った。
鮫は結構見てきた自信がある。
特に混沌にやってきてからは、サメ天国ではないかと思うほど見てきた。
だからこそ、サメ程度には負けていられない。
「さあ、十八番いってみようか。俺は秋宮史之! この海を『希望の青』へ塗り替えに来た! 止められるものなら止めてみせろ!」
史之は鮫相手だろうが名乗り、口上を述べた。
だが、ヤツは笑った――。
「こいつめ……」
史之をはじめとするイレギュラーズたちには、姿を現した鮫が笑ったように見えたのだ。
神に挑む思い上がりどもに、目にもの見せてくれよう、そんな超越の笑みだ。
卑小な人間を睥睨するかのように巨体を誇示し、宙に泳がせる。
その感情を映さぬ虚空の瞳と、蛍は目を合わせてしまった。
恐ろしい、魂が凍るようだ。しかし――。
(頼りになる仲間が、支えてくれる珠緒さんがいてくれる!)
心の支えを、改めて確認する。
途端に空がかき曇り、風が吹き荒れ、雷が轟く!
稲妻が船のマストに直撃するかに見えたが、複数の保護結界がこれを守った。
そのひとつ目の頭には、海中に飛び込んだ縁が格闘して張り付いたままだ。
「大人しく尾びれ巻いて退散――って訳にはいかねぇんだろ?」
命がけの行動には違いなく、にも関わらずこう言ってのけるのが縁のシニカルさだ。
鮫は、さらに風を起こし、珠緒のいる上空まで飛び上がる。そのまま三つの頭が襲いかかった。
「させない!」
吹き荒れる嵐の中、マストに身を括りつけたフィーゼが、魔弾ハイロングピアサーを放つ。
狙いは、鮫の弱点である鼻先……ロレンチーニ器官だ。
牙の並んだ三つの大口を開き、食らいつこうとする寸前でこれを阻止する。
「珠緒さん……!? 鮫神様、あなたの相手はこっちよ、人間の意地を見せあげる!」
蛍がその危機に叫び、おびき寄せるように海上すれすれを飛ぶ。
ならばとばかりに、狙いを蛍に定めて落下する。
「みなさん、珠緒のことは心配いりません。それよりも逃さないように――」
珠緒は、ハイテレパスで皆に指示を送る。
「……そうだな。普通のサメでも充分おっかねぇってのに、頭が三つ、おまけに嵐を呼んで空まで飛ぶときた。逃がすわけにはいかないねぇ」
神とも崇められるその姿、縁も脅威に思うものの怯みはしない。
クローズドサンクチュアリと魔眼で睨めつけることで動きを封じる。
吹き荒れる風雨の中、鮫は空中でのたうちながら支配領域である海へと逃れようとする。
一旦水中に潜り、体勢を立て直そうというのだ。
海面を巨体が叩き、盛大に水柱が上がる。
突発的に発生した大波が、イレギュラーズが乗る船体を激しく揺さぶった。
「帆を畳め、面ー舵ー!」
ロイ船長が、帆を畳み、回避行動を命じた。
鮫は、そのまま嵐の海に落ち、激しい波を立てて海中へと消えていく。
逃げた、というよりは次の攻撃に移るつもりのようだ。
「海の中にも虹の輝きを……必殺、蒼・海・斬!」
続いて『蒼蘭海賊団団長』湖宝 卵丸(p3p006737)も虹色の斬撃を放ってトリプルヘッドのうち、ひとつの頭を打ち崩す。
不安定な船上でも、的確に命中させる戦闘法である。
巨大な魚影を追って飛沫がいくつも上がった。
「たとえキミが鮫神でも、もうこの時代に神の住む場所はないのよ!」
もはや、それほどの異形と巨体を誇ろうと、神と崇められる存在ではない――。
大自然の脅威と未知を恐れる時代ではないのだと、蛍は海に向かって叫ぶ。
なるほど、トリプルヘッドタイフーンサンダーシャークが荒ぶるのは、人が自然への畏敬の念を失ったからかもしれない。
『何故我ヲ畏レズ、海ヲ支配シヨウトスルカ――』
鮫神の怒りに、轟く雷鳴が呼応するかのようであった。
しかし、ヒトは自然を克服し、神を殺し、その庇護を離れて歩まねばならない。
この鮫が神であるなら、なおさらだ。
鮫は、魚雷のように船に向かって突進する。
甲板のイレギュラーズを海に叩き落とそうとする体当たりだ。
「また来るぞ! 今度は水中からだ」
「何かに掴まれえええっ!」
敵の接近をグリムペインが告げ、ロイ船長が衝撃に備えろと叫んだ。
「させないぞっ!」
なんと、その最中に卵丸は躊躇なく荒海へと飛び込んだ。
古来、勇魚(いさな)取りでは鯨相手にこの方法で仕留めていたのだ。
水中で格闘する縁とともに、トリプルヘッドシャークの頭のひとつに組みつき、渾身のキルデスバンカーを撃ち込む。水中に、赤い鮫の血がぱあっと広がっていく。
だが、頭はあとふたつある。怪物の怪物たる由縁だ。
三角の背ビレが、荒れる海の海面を突っ切って突進してくる。
「嵐の中を泳ぐなら、その雨粒を血の雨に変えてやろうとも。卵丸君、縁君、離れていたまえ!」
グリムベインが、上空からナイトメアバレットを撃ち込む。
いかな神と畏怖される鮫であろうとも、毒と苦痛にうめくはずだ。
とどめとばかりに、空間から列車が出現してそのまま海中に向かって追突する。
大きな衝撃を受け、巨大な鮫が腹を見せて浮かび上がった。
卵丸、縁も、海面に顔を見せる。
「いまのうちに皆さんに回復を」
「わかったよ、珠緒さん」
とどめといきたいところだが、鮫の頭はまだ残っている。
気を失ったとはいえ、すぐに動き出す可能性があるのだ。
珠緒が天使の歌で癒やし、スティアが海中で激しい戦闘を行なった縁を月虹によって癒やす。
史之の超分析が、雷の衝撃からくる痺れを癒やしていった。
珠緒の読みどおり、列車の衝突という衝撃からも鮫はすぐに立ち直った。
「また来るか。だが、あの頭で最後だ!」
ロイ船長が号令を出した。
三つの頭のうち、ふたつを潰された。
半身……いや三分の二身を失った怒りはいかばかりか。
その怒りに呼応したかのように嵐は一層激しくなる。
鮫は、捨て身となって稲妻とともに迫った。体当たりで船を沈める気だ。
「すいぶんと派手に暴れるじゃない? だけど、私の一矢は嵐だろうと穿ち貫いてみせるわよ。そんな訳で存分に味わいなさい!」
マストの上から魔弓を引き絞り、咆穿魔槍を放つ。
黒い雷をまとった大槍が、一直線に嵐を裂いてその鼻先を貫いた。
ひときわ大きい咆哮が上がった。
断末魔である。
叫ばぬ鮫が叫び、その神話が叙事詩に残る戦いとともに終焉を迎えたのだ。
「あいつの最後だ……」
ロイ船長が呟く。
やり遂げた男の顔と、一抹の寂しさが同居していた。
●戦い終えて
海は、嘘のように晴れた。
嵐を呼ぶ鮫という航海の障害がひとつ晴れたのだ。
イレギュラーズたちは、巨大な鮫との処理に入る。
「しっぽ切り裂いたら伝説の剣とか出てこないかなあ」
立派な尻尾を見ながら、史之が呟いていた。
別の世界には、そういう神話がある。
「それよりもフカヒレでは? まあ毛皮を乾かしたいというのが先だがね」
嵐と海水を浴びたグリムペインがブルブルと体を振って飛沫を飛ばした。せっかくのもふもふを乾かしたいというのが本音である。
「遺留品が何かないか探してみるよ。せめて何か持って帰ってあげたいしね」
「食われたやつらは自業自得だろうが、海にゴミを流さねぇのがマナーってやつだ」
イレギュラーズたちは、犠牲者となった若者たちの遺留品を捜索する。
「あっ、見つけた!」
さっそく、水の中に潜った卵丸が何かを見つけて浮上してきた。
手に握りしめたのは、真っ赤なビキニ。
「らっ卵丸、わざとじゃ、わざとじゃないんだぞっ!?」
顔を真っ赤にしてしまうのは、まだ17歳の男子ゆえ仕方のないところ。
微笑ましい光景に、場がいささか和む。
「じゃあ、犠牲者の皆さんが安らかでいられるように」
「動かなくなっちゃえばみんなおんなじだよ。いいところへ行ってね、サメさん」
引き上げのとき、スティアと史之は犠牲者と鮫に祈りを捧げた。
鮫の巨体は、船に吊るし上げられる。
あまりの巨体ゆえ、半分は海中に沈んだままだ。
船は港に戻り、トリプルヘッドタイフーンサンダーシャークを吊るして成果を図る。
死闘を終え、凱旋のときだ。
集まった人々も、圧倒的な巨体と異形に感嘆と称賛の声を上げた。
「やりましたね、船長さん」
「おめでとうございます、ロイ船長」
「ああ、あんたたちのおかげだ!」
蛍と珠緒に答えるロイ船長は、少年のよう屈託なく笑うのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
海の怪物と戦う海洋冒険物は大好物なわけで、さっそく挑戦しました。
数々のサメ映画はもちろん、モビーディックとか鯨神とかデビルソードとか大好きです。
サメ退治シナリオ、いかがでしたでしょうか? ロマンと迫力ある描写を心がけてみました。
鮫の危機は去りました。しかし、必ず第二、第三のシャークが……というわけでまた何か書きます。
あと、鮫仕留めたらもったいないので、処理するシナリオも企画中です。
それではまた!
GMコメント
■このシナリオについて
皆様こんちは、解谷アキラと申します。
『絶望の青』に挑む海洋冒険シナリオです。
ということで、海です。そして海といえば鮫です。
しかも、ただの鮫ではありません。
トリプルヘッドタイフーンサンダーシャークというバケモノ鮫です。
これを仕留めるための人員を集めています。
・ロイ・シャダイ船長
執念深く鮫を追う勇敢なベテラン船乗りですが、このバケモノ鮫に立ち向かう力は持っていません。
依頼に応じたイレギュラーズを鮫が出没する海域まで運ぶことに専念します。
そのため、船の上からの攻撃、水中や空中でも行動できるイレギュラーズを募集しています。
戦闘中にかばう必要がありませんが、敗北したら鮫の餌になります。
船は中程度の改良捕鯨船です。
・キンニーやガーリー、ビキニ美女たちについて
すでに鮫の餌になっており、助けることはできません。
鮫が出たら喰われる宿命にあったのでしょう。
無事、鮫を退治できたなら遺留品くらいは見つかるかもしれません。
・トリプルヘッドタイフーンサンダーシャーク
鮫は嵐を呼び、雷を操り、船を沈めるという伝説の巨大鮫です。
短時間であれば、突風に乗って飛行もします。
頭が三つあり、それぞれが別に動きます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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