PandoraPartyProject

シナリオ詳細

キャンプ・ウォーミーフォグ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 パドラディ修道院。
 王都南西部の山奥で、祈りと共に質素倹約なる生活を送る共同体である。
 ここでは生涯の独身を貫き。早朝から夜の遅くまでを祈りと労働に捧げる修道士達が生活している。
 とはいえ楽しみ事の一つや二つはあるもので、その一つがこのパドラディ・ビールと呼ばれる麦酒だったりするのだ。
 さわやかな苦味よりも軽やかな果実感を特色とするのだが、少々足が早いのが玉に瑕だ等と言われる。

 さてこのビール。修道士達のささやかな楽しみである他に、ごく少量ずつ出荷されていたりもする。
 王都ではサーカス『シルク・ド・マントゥール』による連日の大賑わいが続いている。当然酒類も飛ぶように売れているという訳だ。
 今回イレギュラーズ達が請け負った仕事は、このビール調達の護衛であった、
 荷馬車四台という大所帯だが御者は各一人。その護衛役をイレギュラーズ達が固めるという布陣である。

 そんなこんなで時は流れ片道三日を費やす工程は早五日目、つまり帰り道。ここまで無事にビア樽は運ばれている。
 イレギュラーズ一行はこの日、山峡の道を半日ほど降り進み、王都まであと一日という所にようやくたどり着くことが出来た。予定通りの順調な旅路だ。

 ここから道が分かれており、南方フィッツバルディ領方面に進めば、二時間程で小さな宿場町に到着する。
 だが王都を目指し北へと進む場合、キャンプ地『ウォーミーフォグ』を利用するのが好都合であろう。

「旦那方っ、今日はここいらでいいですかい?」
 御者のマディがイレギュラーズ達の方へ振り返る。
 そうは言われても、他に選択肢もなかろうに。
「私もへとへと。足が棒みたいよ」
 呼応するかのように『駆け出し冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)が足をあげ、ふくらはぎを触っている。

 時刻はそろそろ夕暮れに差し掛かっていた。
 キャンプ地にはジプシーと行商人の一行が居り、野宿の準備を整えているらしい。
「旅は道ずれって言いやすからね」
 まあ、人が居るのは心強いものだ。彼等も王都へ向かうのだろう。
「少し南に宿場町があるじゃない?」
「ありやすね」
「私達みたいに山から来たんじゃなくて、南からのルートでここを選ぶ理由ってあるのかしら?」
 それが、あるのだ。

 路銀の節約という切実な悩みを持つ旅行者は少なくないが、それ以外にも確かにここを選ぶべき理由があるのである。
「あのへんにモクモクっと、靄というか、霧というか。そんなのがありやすでしょう?」
「うんうん」
「あれがウォーミーフォグってえ名前の由来らしいんですがね」
 確かに。マディが指さす方向、近くの森のほうには白い煙のようなものが渦巻いている。
「あそこ温泉があるんでさ」
 アルテナの顔がほころんだ。これは嬉しい知らせだ。
 往路でこの場所と出会う事がなかったのは、荷の有無が与えた影響である。
「服も洗って、あの岩場、丁度熱気で温められた裏のほうに干しておくと、これがすぐ乾くってんでさ」
 なんでも衣清めの湯、美肌の湯などと言うそうで。練達風に言えば弱アルカリな感じであろうか。

「んー!」
 アルテナが大きく伸びをする。
「それじゃ、キャンプの支度しましょ」
 そう言って楽しそうにほほ笑んだ。


「人が多くて良かったねー」
「よかったー」
 ジプシーの一行が和気あいあいと、テントを設営している。
「冒険者っぽい人達も来たね。かっこいい人居るかなー」
「はぁ、ラミアンてばそればっか」
「えー、いいじゃん」
 姦しい会話を繰り広げながら、滞りなく準備は終えたようである。
 どうやら後学のために、王都へサーカス見学したい集団であるようだ。

「おっほ、めんごいおなごがたくさんおるでなー」
 行商人一行が目を細めた。
「女もイイが、俺ぁ酒だな」
 傭兵風の男が笑う。
「旦那ぁ。あっちの冒険者、すげー酒樽積んでるじゃねえですか。ちいと飲ませてもらえたらなあ」
「ありゃ商売モンだろうさ」
 商人の呟きに、傭兵は露骨に無念そうな顔でおどけて見せた。
「なんとかなんねえかなあ」
「まあ。商売モンでなけりゃ……いやまてよ、ありゃパドラディの酒樽か」
「するってえと……ワンチャンあるか?」

 そんなこんなで、イレギュラーズ一行はキャンプへと足を踏み入れる。
 家に帰るまでが遠足です――とは、どこかのウォーカーが言っていた言葉だが。さすがにここまで来れば気も緩んでくる頃合いだろう。
 場所は既に王都均衡。魔物も少なく、旅人は多い。

 仕事中ではある。のだけれど。
 たまには、こんな冒険があっても良いのではないかろうか。

GMコメント

 pipiです。
 アルテナちゃん初同行。
 相談5日のためご注意下さいませ。

 荷物の護衛という小さな依頼が終わろうとしています。
 皆さんは5日間も冒険を頑張って来ました。明日でこの冒険は終わりの予定です。やったー!

 今回のポイントですが。依頼自体ではなく、その合間の時間に強く焦点を当てています。
 成功は簡単ですが、色々遊ばないときっと寂しい描写になってしまいます。
 適度に仲良く。ゆるく自由に遊んでみてください。

 といいますか。
 タラの芽を採取、フリッターにしたいけど。小麦粉や油や調理器具を用意しなきゃマスタリングされてしまうのか――とか、そういう系統の面倒なことは発生しないので安心して下さい。

●目的
 夕方から寝るまで、キャンプ場で遊ぶ。

●本当の目的(一応)
 ビア樽を無事に王都へ届けることです。
 誰か一人でも『おつかい頑張る』とか『家に帰るまでが遠足』なんとか、プレイングに書いておいて下さい。

●情報確度
 Aです。マジで何も起きません。

●パドラディ・ビール
 根強いファンが居る修道院ビールです。
 この修道院にまつわる依頼の美味しい所は、なんといっても役得です。
 最大で小ぶりの樽一つ分だけ、道中運び屋達が飲んで良い『おわけ』という習慣があります。
 飲み干してからっぽにすると縁起が良いと言われています。

 未成年は修道院謹製ノンアルコールのジンジャービアをお楽しみください。

●ロケーション
 キャンプ・ウォーミーフォグ。
 冒険者や旅行者、行商人のためのキャンプ地です。

・居る人
 イレギュラーズ達9名の他に、護衛対象の御者四名、ジプシー一行に、行商人が居ます。

・あるもの
 A:焚火ゾーン
  暖を取ったり、食べ物を調理したり、食べたり出来ます。

 B:森の小川
  夕方であれば川魚やキノコ、野鳥、春先の森の植物等が調達出来るかもしれません。

 C:宿泊ゾーン
  小さな洞窟があり、自由に寝る事が出来ます。
  野外にテントを張るのも良いでしょう。

 D:温泉
  ここの名物。弱アルカリ性の単純温泉です。

  熱湯に近い源泉が流れる先。岩場に天然の浴槽を作り、そこに冷たい湧き水が混ぜられるようになっています。
  さながら天然の露天風呂と言った所。

  その場に居合わせた人達で話し合い、男女は時間を分けて入るのがマナーであるようです。

 E:その他
  ありそうなものがあります。大自然。

●エキストラ
 特に絡まなければ描写されません。冒険の同行者と、同じキャンプに偶然居合わせた人達です。

『四人の御者』
 皆さんの護衛対象でもあります。
 サディ、マディ、バルツ、ダロン。気のいい男性四人組。
 いずれも手斧で武装していますが、腕前はからっきしです。

『ジプシー』
 女性ばかりのトリオ。立ち寄った目的は温泉です。

・踊り子ラミアン
 踊りを見せたがっています。

・占い師ミーティス
 タロット専門。占いがしたいようです。

・吟遊詩人レダ。
 リュートを持った詩人で、歌いたがっています。

『行商人一行』
 王都へ荷物、主に食料品や雑貨を卸す商人達です。
 ここに立ち寄ったのは、単なる商売上のタイミングの問題です。
 ここで一晩過ごすのが、商品を卸す都合が良いのだとか。
 今回は柑橘類と穀物、塩漬けの肉を運んでいるようです。

・商人ガーメッツィ
 名に似合わず気前の良い男です。

・従者ビリー
 物静かなおっさんです。

・傭兵ダルメス
 酒と勝負事に目がありません。

●同行NPC
・『駆け出し冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)
 PCが絡まない限り、特に描写はされません。
 皆さんとの初冒険を終えようとしています。皆さんと仲良くしたいみたいです。

 ここの温泉が楽しみな模様。女性キャラクターであれば一緒に入れます。

  • キャンプ・ウォーミーフォグ完了
  • GM名pipi
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年03月21日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

レオン・カルラ(p3p000250)
名無しの人形師と
北斗(p3p000484)
遠い海からやってきたトド
陽陰・比(p3p001900)
光天水
ユウキ(p3p001938)
巻き込まれ系家付き妖精
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
天穹を翔ける銀狼
ジョセフ・ハイマン(p3p002258)
異端審問官
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
嫉妬の後遺症

リプレイ


「しかたなくよ、仕方なく!」
 夕暮れの森に可愛らしく明るい声が響く。
 口でそうは言っても楽しそうに。手綱を握る『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は、ついつい困っている人を助けてしまう少女である。
「ありがとうごぜえやす!」
 そんなこんなで。倒れていた馬立てを御者が直す間、馬達の面倒を見ることになった瑞稀だった。

「そっちは問題なさそうだね」
 荷物をまとめ、一息ついた『メルティビター』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)が仕立ての良いタイを正す。
「二十一、二十二、二十三に……おまけっ」
 そうしたらこうして樽を確認すれば――
「……問題ない?」
 振り返る瑞稀に、御者のサディが親指を立てる。
「大丈夫っすよ、お嬢! ありがとうごぜやす!」
 数量良し。破損も無し。状態は極めて良好だ。
「問題無いわね。よっしお仕事終わりっ!」
「お疲れ様』
 そう声をかけたのは『人形使われ』レオン・カルラ(p3p000250)――を操る人形のレオンとカルラか。
 イレギュラーズ達が受けた依頼は、修道院ビールを王都へ運ぶというものだ。
 そんな荷運び依頼の帰り道。最後の夜はこのキャンプ地で宿泊することになる。

 後は――
「遊ぶわ!」
 すらりと美しい瑞稀の背伸びを皮切りに、イレギュラーズ達の緊張がどっとほぐれる。
「なんと素晴らしい!」
 明日は帰路の最終日。ここまで誰一人欠ける事なく、怪我もなくたどり着くことが出来たのは僥倖だ。
「皆の頑張りのお陰だな。そして我が神に感謝を」
「お、仮面の坊さん。ありがとよ! 頼りにしてるぜ」
 祈る『異端審問官』ジョセフ・ハイマン(p3p002258)に声をかけたのは、笑顔のマディだ。
「最初は怖かったんだけどな」
 ジョセフの心の内にある狂気になど、気づく事もないのだろう。
 イレギュラーズ達と御者達の間には、この五日間の旅路で信頼関係が築き上げられている。

 ここまで順調だったとは言えど、冒険とは険を冒す物。冒険者達にとって油断は禁物である。
 けれどストイックな『特異運命座標』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)とて、この時ばかりは少しほっと出来ているだろうか。
 ここからは王都近く。魔物や山賊等に遭遇する危険はぐっと減る筈だ。このルートに限るなら、ほぼないと言ってもいい。
「今回の依頼もぉ、あと1日で終わるんですねぇ」
「そうだね」
 しみじみと呟いた『遠い海からやってきたトド』北斗(p3p000484)にグレコが頷き、柔和な笑みを返す。

 さてこの依頼。道中で運んでいるビールを一樽だけ飲み干してしまうと縁起が良いという役得的習慣があるのだが。
 それを抜きにしても平和な夕暮れ時のキャンプというのは心躍るもので。
 ルチアーノ辺りは、ひょっとするとシチュエーションこそが今回の役得なのではないか等と思ってみたりもする。

(待っててボクの休日)
 今日の仕事はこれで終わり。後は明日に備えて温泉とお食事で疲労回復だ。
 任務だって明日で終わり。
 そうすれば暫くは働かなくても良い筈なのだから。

 今日はもう働かないぞ――!

 絶対に働かないぞ! 働かないからね!
 強く心に決める。
 小さな小さな拳を握りしめ、『巻き込まれ系家付き妖精』ユウキ(p3p001938)は決意を新たにした。
 絶対。絶対にだ。


 さて。
 やるべきことを終えたら、次は楽しみの準備である。
「良かったら後で一緒に遊ぼう!」
 偶然居合わせたジプシーの一行に『放蕩さん』陽陰・比(p3p001900)が呼びかける。
「いいわよ?」
 踊り子ラミアンが小首を傾げて微笑んだ。
「でも交換条件。あの樽。パドラディでしょ。お酌してくれる?」
「いいよ!」
「決まりね」

 それから温泉も。
『お風呂の時間も決めましょ』
 カルラの提案に占い師が目を丸くする。人形劇のようなそぶりに興味を惹かれたのだろう。
「ご飯のときに芸をしよっ」
 こちらはレオン。
「技を見せあうの? 望むところよ。あなたも面白そうじゃない」
 皆で楽しむための提案に、向こうも快く賛同してくれている。

「かわいー! ウォーカーさん?」
「そうだよ」
「じゃあもしかして、噂の特異運命座標だけの冒険者集団とか?」
 ひょっこり現れたあまりに小さな少女――ユウキの姿に詩人は興味津々らしい。
「当たり! 歌が出来そう。ねえ撫でてもいい?」
 かがんで覗き込んでくる。お姉さんが近い。
 妖精少女となっても元は健全な男子大学生。
 働く気はないけれど、綺麗なお姉さんお近づきになりたいという気持ちには逆らえない訳で。
 彼女等の為ならちょっとくらい働いてもいいかな、とか。

「それじゃまた声かけるねー」
 元気よく手を振る比を遠目に女性達は顔を寄せ合う。
「さっきの男の子、かわいくない?」
「あんたはまたそういう」
「え、女の子じゃなかった?」
「あれ?」
 ジプシー一行の姦しい話題は途切れそうにもなく。

 一方こちらは行商人へのアプローチだ。
 ジョセフにとってもひとつ所にとどまらぬ彼等には興味がある。何せ自身はその生を定められた身の上だ。
 とは言え旅人となった今では、その道も遥か遠く。
「という所でどうだろう?」
 ジョセフの前にはひとまずの分け前。少々のビールが置かれている。それをすっと差し出してやった。
 そんな魅惑の雫を前に傭兵の大男が思わず立ち上がる。
「マジかよ! 旦那! ここは『おわけ』で縁起良く呑みましょうぜ!」
 商人ガーメッツィはひとしきり考えたようなそぶりを見せると、もったいぶって頷いた。
「ええでよ」
 イレギュラーズ達は酒を嗜む者が少ない。ジョセフとて聖職者故、付き合い以上の深酒をする心算もない。
 ならばいっそ物資調達に役立てて、飲み干すのを手伝ってもらってしまえば誰もが得する事になる。

 商人一行にとっても、験担ぎとて商売の内か。
 ごそごそと木箱に仕分けて。
「んだら。後でご一緒する時には、こいつぉ持ってくでな」
 柑橘類を中心に、いくらかの調味料。高価な所では香辛料もあるようだ。
 商談成立。売り物なのだろうが、気前の良い男だった。

「あ、川があるですよぅ」
 北斗がのんびりと、けれど嬉しそうな声をあげる。
 かれこれ五日の冒険で、そろそろ本格的な水辺が恋しい所だった。
 ようやくも何も、水を浴びて好物の魚を食べるのは、最早トドの本能のようなものである。
 さっそくずいずいと身を浸せば、春先の冷たい水が心地よい。
 泳いでいるのはアメマスにウグイ。それからアマゴ。
 まずはそのまま生で頂けば五臓六腑に染みわたるというものだ。
 おやつを食べたら、今度は獲物を川に浸しているカゴに入れてやる。
 後で持っていけば夜にはきっとみんなも食べてくれるだろう。

「食材探しは得意かな?」
 比が傭兵の男に声をかける。
「どっちが沢山取れるか勝負しない?」
「お、いいぜ! 坊主。嬢ちゃんか? 手加減抜きだぜ?」
「もちろん」
 立ち上がったダルメスは勝負となれば熱くなるタイプらしい。
 乗り気にさせれば収穫も増えるというもので、比の天然策士っぷりが冴えている。これが天才肌と言う奴か。
『ビリーおじさんもどう?』
「ん? ああ、そうだなあ」
「ふふふっ。誰が一番か競争だね」
 レオンとカルラの提案に、なんだか煮え切らない言葉を返すビリーだが、いそいそと準備を始めている辺り、彼なりに乗り気なのだろう。
「たくさん採れたら、皆で食べよ!」

 こうしていくらか時間が過ぎ、西空の茜色は落ち着いた紫に近づきつつある。
 森のやや奥の方に踏み込み、愛銃フォルゴーレ・ネロを構えるのはルチアーノだ。
 漆黒の瀟洒なマスケットから放たれた弾丸は、狙い違わず水鳥を仕留める。
 既にバスケット詰められた野イチゴは今夜のデザートに出来そうだ。

 そろそろ荷物もいっぱいになってきた所で。
『ユウキさん! 見てみて! 採れたのー!』
 嗚呼。カルラ。それは。
「ううっ」
 四十センチの身体が勝手に動いてしまう。山盛り一杯のバスケットはユウキでなくとも重そうに見えるが。
「仕方なくよ!」
 瑞稀が居るから、きっと大丈夫。


 楽しく汗を流した後は、休息の時間だ。
 温泉の時間割に際して、やはりジョセフの提案はすんなりと受け入れられた。
 女性は色々と、ゆっくりとした時間が必要だから、と。配慮が行き届いているから断る理由もない。

 という訳でまずは男性メンバー……の筈である。
「旦那方から、お先にどうぞ……って、お嬢!?」
 御者達が水着姿のユウキに目を丸くする。
「ボクはこっちで!」
 旅人には旅人なりの事情があるものだ。
 混沌に慣れ親しんだ世界で、そんなユウキをあえて咎める者は、この場には居なかった。
 ジョセフと言えば仮面は外さぬままにかけ湯。そして大切な贈物も身に着けて。誰も疑う訳ではないが、大切な品だから肌身から離さない。
 リラックスの場でも強い意志が感じられて神々しいとは、彼に対するルチアーノの心境だが。他の面々もおおよそそんな所であろうか。

 そんなジョセフが湯の温度を確かめる。湯加減は丁度いいだろう。
 頷いたルチアーノがすらりとした身体を湯に滑り込ませた。
「こんな所で温泉に入れるなんて生き返るよ」
 疲れた身体に優しい温かさがじんわりと沁み込んでゆく。先の怪異相手の冒険で頑張りすぎてしまった身体も癒されてくれそうだ。

 隣にはゆったりと湯に浮いたトド――ならぬ北斗。いや、ならぬではないか。トドか。
 温泉は思っていたよりもだいぶ広い。これなら少し向こう側で泳いでしまってもいいだろう。

「ん?」
 北斗の大きな身体が移動すれば、そこには大きな空間が出来る。
 岩場から広い方へ移動するのも悪くない。そう思ったユウキだったが。
「お嬢!」
「誰か助けて」
「お嬢!!!」
 むくつけき御者に救助されるより『駆け出し冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)辺りに終始抱えられて入浴するほうが平和じゃないか説。
 まあ、誰が唱えた訳でもないのだが。
 あの戦艦の主砲に立ち向かうには、かなりの決意が必要そうではある。

 時間は流れ、さっぱりとした表情の男性陣が焚火の辺りに戻ってきた。。
 女性陣が先行していた夕食の準備も、ここからはバトンタッチだ。
「使ったタオルはこっちね、それから時計は」
 石鹸は気がかりだったが、湯量や人数を考えれば、使っても問題あるまいという話になった。
 そうやってパーティの世話を焼きながらも豊富な食材の下準備はしっかりと終えている。
 楽しそうにてきぱきと仕事を続ける瑞稀も、ようやく湯で休める時間となった。

「温泉に入るけど、アルテナも一緒に行く?」
「うん。行こっか」
 即答のアルテナ。後は。
「おまたせしたよ! 一緒に温泉とかでお話しよ!」
「いいわよ」
 こちらも快諾のジプシー達。

 しなやかで女性らしい肢体。白や薄褐色の肌を湯と湯気が覆い。
 話すことはとりとめなく。
 踊り子はラサ出身、占い師と詩人は幻想だとか。特技であるとか。
 そして依頼のこと。比自身のこと。


 後ほんの少しだけ。食事の準備が残っているが。
 僅かな時間の間にほとんどの下処理が終えられているのは、まさに瑞稀さまさまである。
 ゆっくりと湯を堪能して来て欲しい所だ。

「おー、やってんな」
 現れたのは行商人一行だ。
「こいつが約束の品物だが、坊さんも飲んでくれるんだろ?」
「あぁ、一杯程度なら付き合おう」
「そう来なくちゃな!」
 今回の依頼、苦楽を共にした者達の為に。柑橘類が新鮮なデザートの列に加わる。
「さ、ユウキ殿もどうぞ……」
 ユウキが皆の為に取り分けてしまう。綺麗に並べてしまう。
「おおっと」

 今頃入浴中であろう比が準備しておいたギョウジャニンニクとハルシメジ。これはフリッターが良いだろう。
 クレソンはメインディッシュ鹿肉ステーキへの付け合わせに良さそうだ。
 余った分は塩漬けにでもして持ち帰ってもいい。どうせ樽が一つ空くのだ。
 取れたての新鮮な筍は、わずかにゆがき刺身で頂けるようになっている。
「おいら的にはぁ、魚は生で食べるんですけどねぇ」
 北斗が魚カゴを引き上げ、持ってくる。
「あ、でもぉ、人間はぁ、魚をぉ調理することが多いんですよねぇ」
 そう言いながら渡す先は。
「これは!」
 働き者――働かされ者ユウキでした。
「とりあえずぅ、おいらはぁ調理しないからぁ」
 働きたくないのに。ユウキによって魚が遠火の強火で程よく焼かれてしまう。
 嫌なのに、でも美味しそうに焼けちゃう。食欲をそそる香りが漂ってきてしまう。

「俺の土産はコイツだぜ!」
 商人一行の傭兵が、さきほどの比との競争で野生の根菜を掘り出していたらしい。
「ああ、それならこのあたりと合わせれば」
 ルチアーノが人差し指を立てる。豚肉、根菜類にリーキ。
「豚汁というミソスープになるんだよ」
 ほどよく冷えてきた身体を湯冷めさせないためには、絶好の一品になるだろう。
 ルチアーノが調達したマガモ二羽が天然の石釜でローストされ。山盛りの野イチゴはデザートに最適だろう。

 ――

 ――――

「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
 そうしていると女性陣がジプシーと共に戻ってくる。
 揃った豊富な食材はみんなの頑張りと、瑞稀の祈り――そして微かな追い風の賜物であろうか。

 樽を開き。ビールとジンジャービアが行き渡った所で乾杯だ。
「とにかくぅ、おいらもぉいただくんですよぅ」
「うんうん。たべよー」
 晩餐が始まった。

 温かな焚火。闇の中にぱちぱちと爆ぜる火の粉。肉と魚、野菜と果物。
 可愛らしい色とりどりの果物皿には瑞稀のセンスが煌いて。

 手拍子とリュートに合わせてラミアンが踊れば。
「お酒も葉っぱも人形も、夜は楽しい舞踏会」
「うおー! すげえぞ!」
 レオン・カルラの終わりなき生命の糸は、皿と散った木の葉。樽達の不思議なダンスを披露して。
『アルテナさんもバルツおじさんたちも盛り上がってる?』
「うんうん!」
「おうよ!」
「じゃあさあたしの踊りは? どうだった?」
 負けじとジプシー。
「ヒュー!」
『ふふっ。皆で楽しく遊べて彼も嬉しそう』
「皆、また一緒に遊ぼうね。彼女はそう言っているね」
 皆違えども、どれも彼で。どれも彼女で。

 さて。そんな楽し気な様子を眺めながら。
 ゲオルグが杯を掲げて目配せすると、ダルメスが近づいてくる。
「いいね、乗った。俺はダルメス」
「ゲオルグだ」
 四杯。五杯。杯を重ねて。
 そんな様子に惹かれて、酒好きの男達が集ってくる。
 六杯。七杯。
「おいおい、あんたタダ者じゃねえな」
「私は旅人なものでな。鍛えなおしだ」
「難儀なもんだな」
「だがまた成長出来る」
「兄さんには敵わねえよ」
「さぁさぁ、もっと飲もうではないか。こんな機会は滅多にないだろうからな?」
「こうなりゃ最後まで付き合いますぜ。兄さんの世界の話ってのも俺は興味があらあ」
 今度はゲオルグが居た世界の話。交流もほとんどない独自の文化を持つ都市達の話。
 大きな戦いの話。道が出来て、交易が出来て。

 そんな話をしながら八杯。九杯。宴は続く。
 酒も力も経験もゲオルグに軍配が上がりそうだが。
「へへ。それだったら兄さんに勝てそうだぜ」
 この世界の情報については一日の長があろう。旅慣れているであろう男達から聞き出すチャンスは逃せない。
 ローレットワークスではラサに足を運んだが、それ以外の地域については未知数だ。
 飲みながら話を続ける。
 傭兵や鉄帝は気風に合うとか。天義は窮屈だとか。海洋も悪くないだとか。
 しばらくはそんな他愛もない話が続いた。

 だが――
 件のシルク・ド・マントゥールの話に至れば、声のトーンも低くなる。
「それがな、旦那の取引先でよ」
 商売相手の一家全員が首を吊って死んでいたのだという。一家は多少の借金を抱えていたそうだが。
「死んじまう前の日に、旦那からの儲け話があったんでさ」
 調査の結果、無理心中と判断されたようであるが。
「あの程度の借金で、儲け話まで転がってきた矢先に死ぬ訳ねーって話でさ」
 サーカスが来た途端に、そんなことになる筈がないとダルメスは力説する。胡散臭いと言えばそう聞こえる話しぶりだった。

 酔いも夜も深まっても、話の花が枯れる様子は見えない。
 お次は占いが人気の様子だ。
「じゃあ、次は誰かしら?」
 ルチアーノが手を上げる。
「僕のこれからの冒険、どうなりそうです?」
「いいわ」
 サーカスと盗賊団。
 そんな問いに対して、ミーティスの占いが始まり、手がぴたりと止まった。
「ちょっと」
 言葉を切る。
「あまり、あることじゃないの心して聞いてちょうだい」
 運命の輪の正位置が大動を予感させる。
 塔の逆位置。強い緊迫が近づいてくる。
「このワンドのAは別の占いに使うから、ここに入れたつもりはないのよ」
 正位置。始まりを示す。そしてその先は未知数だ。
「ちょっと。何が起こるっていうのよ」
 かすかに顔を引きつらせるミーティスに、商人が相槌を打つ。
「あのサーカスだろうよ」
 決めてかかっている。
「通り魔だの強盗だのは増えるな」
「二十四時間虐殺事件てのもあったわね」
 だが。どれもサーカスが直接関与しているという証拠はないという話だ。

「スコルピオが幻想に来てるらしいってのはガチもんの話さね」
 商人はそう言う。
 サーカスとは無関係かもしれないが。
 いずれにせよ前途多難そうで、軽くやばい話を聞いてしまったかもしれないが。
「まあ兄ちゃん達みたいなの(特異運命座標)が居るなら、安心だろうさ」
 自分自身に言い聞かせるような、商人達の声音は気がかりだった。

「これでぇ、この仕事もぉ、明日で終わりそうですよねぇ。……まぁ、トラブルがなければですけどねぇ」
 北斗が呟いた。
 後はゆっくり休むのだ。

 月は沈み、それでも星空は静かに輝き続けている。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

今回はゆるーい感じでお贈り致しました。
お楽しみ頂ければ幸いです。

またのご参加を心待ちにしております。pipiでした。

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