シナリオ詳細
〈色彩世界〉赤の国のルージュ
オープニング
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「姉さん! やめろ……。姉さんを連れて行くな!!」
赤髪の少年は叫ぶ。
兵士が背後から少年を拘束し、いくら藻掻こうと身動きが取れない。
目の前では鎧を纏った他の兵士が、少年と同じ赤い髪をした女性を囲んでいた。
「お許しを……。どうか、どうか弟だけは……!!」
女性は瞳から大粒の涙を零して乞うていた。
どうか弟だけは助けて下さいと。
「……回収命令が出ているのはお前だけだ、カンナ。大人しくついて来るなら弟には何もしない」
兵士は淡々と告げる。その瞳に同情の色があるのも確かで。
「カンナ。燃える赤毛を持つ罪でお前を王宮へ連行する。……すまない、これが……これが今の、赤の国なんだ」
苦し気に声を吐き、兵士がカンナと呼ばれた女性に手枷を掛ける。
「姉さん、姉さん……!!」
涙が頬を伝い、喉は涸れるほどに少年は声を張り上げた。
その声を無視して兵士がカンナを立たせ、その背は遠ざかっていく。
「嫌だ……。行かないで姉さん!! 俺にはもう姉さんしかいないのに……!」
ふらり、ただ一度立ち止まり彼女が振り返った。
その顔は笑っていた。私は大丈夫だと、そう言い聞かせるかのように。
なんでだろう。ただ、家族二人で平和に暮らせればいいって……。俺には、そんなちっぽけでくだらない願いしかないのに。
なんでそれさえ、壊れてしまうんだろう。
ーー取り返さなければ。
遠ざかる姉の姿を見詰めながら。
その先に聳える真紅の王宮を睨みながら。
赤髪の少年ルージュは、ひとつの誓いを立てたのだった。
●
「色彩世界と呼ばれる世界があるのよ。そこにはね、色の名を冠した九つの国があるのだけど」
ポルックス・ジェミニはため息交じりに呟いた。
「九つの国がひとつ、赤の国。その国では今、赤髪狩りが行われているらしいの」
なんでも赤の国を治める魔女の乱心で、赤髪の人間が夜な夜な集められているとかーー。
「あなたたちに頼みたいことはとある少年の手助けよ。その子の物語をどうか救ってあげて」
物語の幕が上がる。鮮やかに、艶やかに。
赤く色彩を滲ませながら。
- 〈色彩世界〉赤の国のルージュ完了
- NM名凍雨
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年02月08日 22時15分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
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今宵は新月で、ただ真紅の王宮が夜闇に燃えていた。
「ははあ、なかなか生き辛そうな国で。全部真っ赤っておめめが疲れちゃいそうなのですが。まぁ、頑張りましょう」
赤く染まる街を眺めて『助手』ヨハン=レーム(p3p001117)が目を細める。
王宮は目前に、決意は新たに。
「絶対に助け出します。そのためにここにいるのですから」
『跳躍する星』糸巻 パティリア(p3p007389)もうむ、と頷く。
「そもそも赤髪が罪になるとか理不尽極まりない法でござるな。ともあれ、ニンジャ的には潜入捜査もしっかりこなさねばならんでござる!後学のためにも!」
立派なニンジャとなる為には潜入捜査も重要任務の一つだ。
任務はカンナの救出。彼女の弟ルージュは特異運命座標に深々と頭を下げる。
「俺の家族、もう、姉さんしかいないから……だから絶対、助けたいんです。お願いします」
「カンナさんを見つけ出して、助け出せばいいのよね? 『モノ』に変えられているらしいけれど……それなら、私が何とかできるかもしれないわ!」
だから安心してと『お道化て咲いた薔薇人形』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は花が綻ぶように笑った。
彼女の限りなく人間のようでいてどこか精巧な笑みは優しく。ルージュは安心したように息をついた。
『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)も安心させるように微笑んで、ルージュに痣を見せてくれるよう頼む。
「……ふしぎな、痣ですの。ですから、もし、カンナさんがすでに、赤の魔女に、姿を変えられてしまっているのだとしても……この痣だけは、そのまま残したかもしれませんの」
姿を変えられようと、変わらないものだってあるはずだから。
「だから、きっと、見つけられますの」
悲観的になることは、きっと後でもできるけれど。
今しかできないことがあるはずだから。
だから今は進もう。心の炎が消えぬように。
「あそこの高い窓、拙者なら入れるでござる。意表をつく場所から入るのがいいと思うでござるよ!」
パティリアがやや高い位置にある窓を見つけ、それぞれを海星鋼で王宮の中へと運び込んだ。
スタリ、最後に音もなくパティリアが床に降り立つ。それは密やかに。鮮やかに侵入に成功した。
王宮内部は真紅。壁も床も天井も柱も窓枠すらもが。恐ろしいほど深い紅に染め上げられていた。
「真っ赤な、お城ですの……もしも、このお城の赤いものすべてが、元は、誰かなのだとしたら
……いいえ、今はそんなおそろしい想像なんて、頭から追い出して、カンナさんを、探しますの!」
とはいえ広い王宮を探索するにはノリアの泳ぎは拙い。パティリアがノリアを運びながら探索するという形に落ち着いた。
天井や壁に痣を探すノリアを運びつつ、パティリアは警備が厚いところを把握。見つからないよう柱の陰などに身を隠して動いていた。
「どこもかしこも真っ赤で目が痛くなりそうでござるなぁ」
「帰りたいという気持ちや悲しいという気持ちを探してみてますけど。同じような感情の方々もいっぱいいるのですよね」
この王宮では四方八方から感情を感じる。
かえりたい、つらい、かなしい、もどりたい。
ーーまだ、ひととしていきていたい。
咽ぶような痛みと、諦め切れないと燃える心。
感情探知によって冷めきれぬ熱をヨハンは感じていた。
「あれ、一か所だけ反応が強いところがありますね。集めてる場所でもあるんでしょうか」
そこへ向かうと、頑丈そうな鉄の扉の前に二人の衛兵が守りを固めているのが伺えた。宝物庫といったところだろうか?
ここで気づかれてしまってはカンナを探すどころではない。ヴァイスの人形が素早く動き、兵士の口を塞いだ。
「むやみに殺生するつもりはないけれど……身の安全が第一なの、失敗しちゃったらごめんなさいね」
音を立てることなくヴァイスが衛兵を昏倒させる。その間にノリアが物質中和で扉をすり抜け中から鍵を開けた。
あっという間の出来事にルージュはぽかんと見ていたが、慌てて顔を引き締める。
この中にカンナがいる可能性が高い。
ーー早く見つけなければ。
●
ーー赤。赤。赤。
部屋に見渡す限り赤い家具や装飾品、花、果ては動物までもがそこには”居た”。
「これは、感情探知では見つけられませんね。同じような感情が多すぎます」
「なら、お役に立てると思うわ。私のギフトはあらゆるものとの意思疎通……向こうに返答意志があるなら、より多くの情報を拾えるはずなの」
息を吐くヨハンにヴァイスが答え、目についたものに声をかけて行く。
「わたしと、パティリアさんは、ルージュさんと、痣を探してみますの」
「他の衛兵が気づくかもしれませんし、僕は部屋の前で見張りをしますね」
各々が役割を確認し、手分けしてカンナを探す。
「カンナさん、カンナさん。何処にいらっしゃるのかしら?」
ヴァイスは丁寧に向き合い、声をかけていく。それがどんな姿でも彼女には問題ではない。
人にも、モノにも。等しく命は宿っているのだから。
「貴方がカンナさん?」
けれど、カンナではないという返事ばかりが返ってくる。
「ごめんなさいね……おやすみなさい」
今ここのすべてを救うことはできないだろう。ヴァイスは瞳を伏せ。
せめて、安らかに眠っていてと願った。
……そこでふと、動物の檻に目をやる。大柄の動物もいるが、気になったのはその奥で震えている小さな赤毛の狐だった。
「カンナさん?」
優しく声をかければ、ぴくりと。
赤毛の子狐はそろりそろりと顔を上げ、大きな琥珀色の瞳でヴァイスを見た。
「この狐殿の首元、炎のような痣があるでござる!」
「姉さん……?」
檻の中から抱き上げ、ルージュが問いかける。
けれど子狐カンナは逃げるように顔を伏せてしまう。
「なんで?姉さん、姉さんなんでしょ…?」
ルージュの瞳が潤む。揺れる声が尚も問うた、その時。
「気づかれました!衛兵が来ます!」
ヨハンが部屋に飛び込み、ルージュやヴァイスを守るように陣取ると同時に、衛兵がなだれ込んでくる。
「戦闘は本職の僕たちにお任せください。あなた達を守りますよ」
特異運命座標であれば衛兵たちに後れは取らない。ヨハンがルージュ達を背に武器を構えた。
しかしルージュの手をすり抜けてカンナが衛兵達の手へ戻る。
「なんで、姉さん……っ」
カンナはこちらを見ない。
その理由を、意思を読み取れるヴァイスはわかっていた。
「カンナさんは怖いのよ。人じゃない自分が貴方に嫌われてしまうんじゃないかって」
「そんな……!」
そんなはず、ないじゃないか。
ルージュがカンナへ手を伸ばす。
邪魔する衛兵をヨハンが全力で攻撃し。
「何であろうと兵士というものは上に従わなければならないもので。こんな事が間違っているとわかっていても戦わねばならないのでしょう?」
勢いのままに光輝く正義の鉄槌が衛兵を襲い、彼の意識を奪う。
それはヨハンの不殺の心を表す慈悲の槌。
「カンナさんを返してくれとはいいませんので、おやすみなさい」
不殺の剣徒は静かに言う。悪い事をしたくてする人はいないのだとヨハンは信じている。
衛兵の手を潜り抜けルージュはカンナを引き寄せる。抱きしめ、叫んだ。
「どんな姿になったって、姉さんは俺の姉さんだ……!」
この燃える想いが嘘だというなら本当なんて知らない。
涙が止まらないほど、胸が張り裂けそうなほど。
唯一の存在と想っている。
子狐の瞳から涙がこぼれた。
「任務は達成でござる!三十六計逃げるに如かずってやつでござるよ!」
パティリアがルージュをカンナごとを抱えるが周りを衛兵に囲まれる。数が多くて逃げきれずノリアがそっとパティリアから離れ力を抜いた。
その姿はどこからどう見ても隙しかなく、思わず衛兵はノリアの方へと視線が逸れる。
「いまのうちに、逃げて下さいですの!」
「ノリア殿、かたじけない!」
パティリアは追っ手にソニックエッジを当てて怯ませると、海星鋼でルージュ達を自身に括り付けて窓から外に飛び出した。
日々の努力の賜物か。全力での逃走に衛兵も追いつけないまま、パティリアは夜闇に消えていく。
「兵士さんたちも、ご事情が、あると思いますの。でも、わたしのことは、たべないでほしいですの」
その言葉を残してノリアも地面に飛び込んだ。追うこともできず、衛兵の間に動揺が走る。
「もうここに長居する用事もないですしね。僕もさようならです」
「ええ、勝手にお家にお邪魔してごめんなさい。ごきげんようね」
衛兵を食い止めていたヨハンとヴァイスもそれぞれに窓から逃走する。
こうして、真紅の王宮への潜入劇は幕を閉じたのだった。
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「皆さん、本当に、ありがとうございました……!」
ルージュがカンナと共に腰を折る。
でも、とヴァイスとパティリアが顔を曇らせる。
「悲しいことだけれど、カンナさんを元に戻してあげるにはどうすればいいかなんてわからないわ」
「こうなった原因もわからずじまいでござる。赤の魔女に大立ち回りはしたくないでござるが……」
そんな中、ヨハンがまっすぐにルージュを見詰めた。
「ひとまずこの世界で今、僕たちに出来ることはここまでです。赤の魔女とかも無理です。再び僕らが舞い戻れれば良いのですけど」
だから一つだけとヨハンは笑った。
「次は絶対に離れないように、ですよ」
「はい……!」
ひとつ深呼吸をして。ルージュは特異運命座標を見た。
「魔法を使えるのは、赤の魔女だけではありません。だから、きっと……」
不安で言い淀む彼に、ノリアがそっとその背を押した。
「手元にさえとり戻せたならば……ルージュさんとわたしたちは、きっと、次の冒険に出ればいいだけですの」
ルージュの瞳から涙が溢れる。
痛みはまだ、消えないけれど。
行こう。誰にも奪えない、燃える絆を道標に。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
こんにちは、凍雨と申します。
このペンネーム漢字変換で一発で出てこねぇな。などと思いつつ。
『色彩世界』と呼ばれる世界の物語を紡いでいこうかと思います。
最初の物語は「赤の国のルージュ」。
さぁ、どうか恐れずに。ページを捲ってくださいませ。
●舞台「赤の国」
国全体を赤で統一した王国。特に最奥に構える王宮は鮮やかな真紅に染まっています。
統治者は「赤の魔女」と呼ばれる女で、元より傍若無人なところもありましたが民に愛される王で御座いました。それが最近は「赤髪狩り」と称し、美しい赤髪を持つものを王宮に集めているようです。
●依頼
時刻は夜。特異運命座標の皆様には少年ルージュと共に真紅の王宮に潜入して頂き、連れていかれたルージュの姉カンナを探して頂くことになります。
成功条件は「王宮からカンナとルージュを脱出させること」。広い王宮の中でカンナを見つけ出すことが優先となるでしょう。
●真紅の王宮
真紅で統一された王宮です。赤の魔女が坐すのは最上階であると考えられますが、当然上に行くほど警備の兵士も多くなります。兵士の彼らは両手剣を装備し、単調な攻撃しか行いませんが、こちらに気付けば攻撃を試みますのでお気を付け下さいませ。
●赤の魔女
赤の国の統治者です。最上階にいると思いますがぶっちゃけ遭遇せずとも大丈夫です。
傍若無人ながら才ある王であり炎魔法の使い手。極度の蒐集家(コレクター)でもあり、夜な夜な赤髪の人間に呪いをかけ、様々な「赤いもの」に変えています。
●カンナとルージュ(NPC)
カンナ:赤髪に褐色の肌、琥珀色の瞳をした美しい女性です。王宮に連れていかれ、呪いで姿を変えられています。さてはて、どんな姿になっているかまでは……。
ルージュ:カンナの弟。同じく赤髪に褐色の肌、琥珀色の瞳をした少年です。王宮に潜入し、姉のカンナを取り戻そうとしています。
ふたりの首にはまったく同じ炎のようなあざがあります。
以上となります。
どうかルージュの物語を共に紡いであげて下さい。
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