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シナリオ詳細

水鏡迷宮と夜の果実

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある商人の噂話
「水鏡迷宮に行こうっていうのかい。
 あれはよしたほうがいい。素人が一人で入れば生きて出られないって評判だ」
 馬車にのる商人は、布の帽子を深く被ってカンテラに明かりをともした。
 宵の口、世界が夜に沈む頃。
 山中に開かれた道をゆく。
 何者かがコインをそっと握らせた。
 商人は帽子の下で渋い顔をすると、独り言のように語り始める。
「この先に、夜の精霊がすむ湖があるらしい。
 その湖は月がまあるく出る日にだけは青白く光って、水面に扉を作るんだそうだ。
 先がどうなっているかなんて知らないさ。
 いや……一つだけ知る方法があったかな。
 『からっぽ旅行記』は知ってるかい?」

●からっぽ旅行記より
 幻想北部にぽつんとたつ冒険宿『マッサラード』。
 たき火を囲むように置かれた木のベンチに腰掛け、スイートロールを口に運ぶ。
「『からっぽ旅行記』……古い冒険者が経験を綴った本さ。もう絶版になったみたいだけど、一部だけ手に入ったよ。ほら、これさ」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)が取り出したのは数枚にわたる本のページである。
 まず目を引いたのはイラストだ。
 空を無限とも思える星々が埋め、青白く輝くゼンマイ状の草が生い茂っている。
 中央に描かれた木には同じく青白く輝くリンゴがたった一つだけ実っていた。
「これが水鏡迷宮。そして中央に見えるのが、『夜の果実』っていうアイテム。
 ある貴族がこれを欲していてね、3つ以上手に入れて欲しいって依頼が来てるんだけど……」
 果実のジュースを飲み干して、ショウはぺろりと唇をなめた。

 水鏡迷宮と夜の果実。
 ある日のある夜にだけ開くという扉を通り、目的のアイテムを手に入れ帰ってくるという依頼だ。
 迷宮の中には見回りをする戦闘精霊や魔道モンスターがあちこちに存在している。
 これを倒し、時には罠を突破して、目的を達成しよう。
「どう? 受けてみる?」

GMコメント

 いらっしゃいませ、こちらは冒険宿『マッサラード』。
 先にある湖へ行かれるのでしたら、一晩ゆっくりお休みになってくださいな。
 おや、その前にお話し合いを?
 ではお部屋を用意しましょう。料理も用意できますよ。ご注文なさってくださいな。

【依頼内容】
 水鏡迷宮で『夜の果実』を『3つ』手に入れ、帰還すること。

・水鏡迷宮は一晩の間にしか扉が開きません。
 必然的に制限時間が数時間となります。
・『夜の果実』は迷宮内のあちらこちらに存在していると言われていますが、ごく普通に探索した場合『3つ』を手に入れるのがやっととなるでしょう。

【探索判定】
 探索パートでは、当シナリオ限定で以下の判定方法をとります。
・新しい場所を訪れるたびにロール
・ロール値に応じて1~2種の状況が発生
 A:戦闘精霊やモンスターが襲ってくる
  →戦闘状態に突入。詳細はエネミーデータを参照。
 B:トラップが発動
  →メンバー全員に回避ロールを行ない、失敗したら発動(かばうのも可能)。
   内容は『ダメージ』『次の部屋へのワープ』『モンスター出現』のいずれかです。
   罠解除や探索関係の技術を上手に行使すると全員の回避にボーナスがつく。
 C:無害な労働精霊に出会う
  →霊魂との疎通能力があると話を聞ける。言い方や接し方を工夫すれば罠解除か安全通路案内のどちらかを頼めるかもしれない
 D:『夜の果実』を発見(レア)
 E:『安全な場所』を発見(レア。休息がとれる)
  →Eを引いた場合は強制的にこれのみになります。

【エネミーデータ】
 迷宮で敵と遭遇することがあります。
 チームは主に『魔道モンスター1+戦闘精霊3』『戦闘精霊5』『魔道モンスター2』といったバリエーションで現われます。

・戦闘精霊
 迷宮内を回っている身長1mくらいの人型精霊。魔法で攻撃してくる。
 HPは低いが攻撃力と命中が高い。
 魔法射撃(神遠単)
 魔法格闘(神近単)

・魔道モンスター
 迷宮のあちこちを守っているモンスター。
 主に岩や泥でできている。大きくて形はさまざま。
 HPや防御技術や特殊抵抗が高い。戦闘精霊よりちょっとだけ強い。
 近接戦闘(物近列)
 集中攻撃(物近単【追撃】、ダメージ大)

【制限時間】
 迷宮の探索は一夜のうちに行ないます。
 戦闘不能になった場合は『安全な場所』で長時間休息をとることで復活できます。
 ただし長時間休息は依頼中1回までしか行なえません。
 短期的休息の場合は何度か行なうことができ、ちょっとだけHPやAPが回復します。
 休息中に『とてもよい休息をとることができる工夫』がなされていた場合、度合いに応じて回復量にボーナスがつくほか最大HPAPアップなどの補助効果が依頼終了まで持続します。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • 水鏡迷宮と夜の果実完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年03月17日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
銀城 黒羽(p3p000505)
九鬼 我那覇(p3p001256)
三面六臂
サングィス・スペルヴィア(p3p001291)
宿主
アルク・ロード(p3p001865)
黒雪
アルファード=ベル=エトワール(p3p002160)
α・Belle=Etoile
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
ルア=フォス=ニア(p3p004868)
Hi-ord Wavered

リプレイ

●水鏡迷宮と夜の果実
 馬車を降り、御者にコインをわたす。帽子を脱いで一度頭を下げた御者は、明け前に迎えに参りますと言って馬車を出した。
「ここが例の湖か……」
 『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)は柔らかい土にブーツを沈め、ゆっくりと呼吸をした。
 土と草と、そして清らかな水のにおいがする。
 小さな動物の声も多く、土の軟らかさやなだらかさから滅多に人が訪れないであろうことがうかがえた。
「ここに扉が出来るらしいが、どうやら情報によると結構見つけにくい上に時間制限まであると来たもんだ。普通に探してちゃ、多分あんま持って帰れそうもねぇし……名前はたしか、『夜の果実』だったか」
 眼鏡の縁をおさえる『紅獣』ルナール・グルナディエ(p3p002562)。
「余分に見つかったら持って帰れないか? 良い土産になりそうなものだが……」
「同感だが、なんとなく難しそうだよな」
 おとぎ話にある『妖精の家』や『マヨイガ』のような話やもしれぬ。欲張った者が悲しい末路をたどるお話は数多い。
「そうであるか。残念である……」
 『三面六臂』九鬼 我那覇(p3p001256)もなにげに同じ気持ちだったようで、三つの顔それぞれ残念そうにした。
「我輩、久しぶりに心を揺さぶられたである。『水鏡の迷宮と夜の果実』という言葉の響き……なんにも知らぬが、一個くらいは欲しいものである」
 虚空を仰ぎ見て瞑目する我那覇。
 まあ喧嘩になってもいけねぇしな、と黒羽たちは気持ちを切り替えにかかった。

 湖は思っていたよりも小さく、話に聞いたよりは大きかった。
 遠近感の狂うような、箱庭の中に閉じ込められたかのような、不思議な錯覚のある湖なのだ。恐らくは周囲にしげるゆがんだ形の木々によるものだろう。夜もふければ形もゆらぎ、ありもせぬなにかが現われるものである。
 とはいえここには本当に、ありもしない扉が現われるという。
「水面に扉が現われるとか。それはそれは、懐かしい響きですね」
 『風花之雫』アルファード=ベル=エトワール(p3p002160)は話を聞いて、そんな風にいって目を閉じた。
 彼女のいた世界にはそういう話も沢山あったのだろうか。
 なにぶん彼女に近いワードの多いお話だったようで、異界のことながらなじみを感じたようである。
 『魔法騎士』セララ(p3p000273)は一枚の複写シートを取り出した。
「からっぽ旅行記、数枚だけじゃ無くて全部読めたら素敵だったのに」
 とても余談になるが、今回の情報源にあたる『からっぽ旅行記』は古い冒険者が残した体験記録を本にしたものだ。既に絶版となり、本そのものもほぼ現存せずページ単位でやっと手に入るものだという。一説によれば禁断のページが存在し、本ごと全てを消し去ろうとした何者かから守るためにページを世界中に散らせたという。
「ないなら作る! 今夜は『セララの旅行記(漫画版)』を作っちゃうよ!」
 かつての冒険者が旅したという迷宮を、現代の冒険者が旅するというのもまた……素敵な冒険譚ではあるまいか。
「こういうのは、いくつになってもたまらんわ。ほれ、早う行こう。早う!」
 ルア=フォス=ニア(p3p004868)はもう冒険気分でいっぱいになったようで、水面を指さした。
 タイミングのよいことに、湖が青白く光った。異界への扉でも開いたかのように、非現実的に揺れている。
 『宿主』サングィス・スペルヴィア(p3p001291)は自分に配られたページの複写を手に、ゆっくりと水面に足をつける。
 同じく足をつける『灰の道を歩む黒』アルク・ロード(p3p001865)。
「今更だが、スペルヴィア……湖に沈んで濡れはしないか」
「ああ……」
 スペルヴィアはふと振り返り。
「かもしれないわね?」
 と言ったきり、湖にちゃぷんと頭まで沈んでしまった。

●満月夜のワルツ
 結論、髪の一本も濡れることはなかった。
 水に浸かったような冷たさが一瞬あったかと思うと、八人は湖の上に立っていた。
 元の湖に戻ってしまったのかと疑った黒羽がきょろきょろと周りを見て、そして大きな違いに気がついた。
 空を無限の星々が……否、よくよく観察してみると光の粒は細かく飛び回っている。
 満月が何倍にも大きく見え、不自然なくらいに青い。
 おそるおそる足を踏み出してみると、湖はまるで凍った湖面のごとく靴底を弾いた。
「迷宮というより、もう箱庭だな」
 知らぬ者なら驚いて動けなくなるところだ。
 黒羽たちはひとまず湖から出ると、暗い森へとカンテラを翳した。
 馬車で来た道がそのまま残っている。車輪の跡も、自分がつけた靴跡もそのままだ。
 けれど深く観察した黒羽は、それが左右の鏡映しになっていることに気がついた。
「なるほど……『水鏡迷宮』、か」
 ふわり、と冷たい空気が通り抜ける。
 何かと思って振り返ると、青白い衣を纏った少女が森の小道を横切った。
「……行こう」

 青衣少女の幻影はあちこちで見えた。
 太い枝に腰掛けて素足をぶらぶらとさせるさまや、落ち葉を拾い集めるさまや、花の蜜にくちづけをするさま。
 しかし視界の中央にいれようとすれば消え、もう一度観察しようとしても現われはしなかった。
 唸る我那覇。
「不思議な場所である……」
 我那覇ですらそうなのだから、皆かなり奇妙な気持ちになっていることだろう。
 六つある腕にカンテラを、3mの棒をそれぞれ持ち、地表をなでるようにして歩いて行く。
 たまに獣をとるためのような罠が棒の先端に触れ、研いだ木枝が見つかったりもした。
 探索に向いた技能を学んでいないからと道具を揃えてきたのが幸いしたようだ。足りないものを補うのはよいものである。
 それに、慎重に進んでいるとわかることもある。
「道筋が……」
「うむ、分かるか」
 ルアは日記帳へこまめにここまでの道のりや出来事を記録していた。
 これもまた不足を補う優れた工夫だ。
 黒羽がはじめに察した通り、湖のまわりの地形をそのまま鏡映しにした形をしていたのだ。
 『からっぽ旅行記』のまだ見ぬページには、その真相も書いてあるのだろうか。それとも困惑した旅人の想いが書かれていたのだろうか。
「類似性や法則性を見て、可能な限りのヒントを見出してみるか。無暗に探すよりはマシじゃろ。どれ、時間はどうじゃ」
 話をふられ、ルナールはちらりと腕時計を見た。
「ああ、まだ全然ある」
「時計が逆回りになどなっておらんじゃろうな」
「まさか。秒針もこの通りだ」
 ルナールが時計を見せてくる。三時が右に、九時が左に書かれた正しい表記だ。針も正しく回っている。
 ふと、時計のガラス面に少女の顔が映り込んだ。
 小さな青衣少女が秒針の回るさまをどこか興味深そうに眺めているのだ。
 どこに少女が? と振り返ってみても、そんなものはどこにもいない。
 ただ時計のガラス面に、映るのみであった。

 ルアの読みはなかなかいいところをついていたようで、『からっぽ旅行記』に描かれていた『星空、ゼンマイ状の草、木』というイラストに合致する場所をもとある地形から探せばよいという話だった。
 来る前に地図でも作ってくれば良かったとはルナールの弁であるが、草というのはある程度群生するもの。それなりにうろつくだけでもそれらしい場所は見つかった。
「おお、絵の通りである!」
 複写シートを翳し、風景を見比べる我那覇。
 一本の木に、青白く輝くリンゴがたった一つだけ実っている。
 まわりにはゼンマイ状の草。青白いのは、頭上の月が強く光るがためであった。
 思わず駆け寄りそうになる我那覇たちを一旦とめ、黒羽がそっと前に出る。
 ゼンマイ状の草に混じって、擬態した奇妙な植物があることに気づいたのだ。
「敵を呼び寄せる罠みてぇだ。ちょっと待ってろ」
 そっと近づいて掴み取り、笛状の部分を針金をぐるぐると締めるように固定する。
「これでいい」
 安全が確認されたところで、スペルヴィアは『夜の果実』のそばまでやってきた。
「ふむ、面白い場所ですね」
 自身の呪具に話しかけつつ、『夜の果実』をそっともぎ取ってザックへしまいこんだ。
『もっていくの?』
 木から離れたところで、後ろから話しかけられた。
 振り返ると、青い衣の少女。手を腰の後ろで組んで立っている。
 これまで見えていた幻影と異なるのは、顔が存在しないというところである。
 月のようにのっぺりとしたなにかだけがある。
 無害な様子から、これが『からっぽ旅行記』にある労働精霊であると察しが付いた。
「ベラ、頼めるか」
「通訳ですね? やってみます」
 コホンと、咳払いをするアルファード。
 アルファードは精霊疎通を使って挨拶をしてみた。どうやらこれでも通じたようで、青衣少女――もとい労働精霊はとりあえずの挨拶を返してきた。
 ここで、もうひと工夫。
 交渉術の心得があるアルクがアルファードを通訳にして労働精霊と交渉することにしたのだ。
 個々人の技能をかけあわせてより大きな結果をもたらす、とても優れた工夫だ。
「俺たちは外から来たんだ。これはお土産だ、受け取って欲しい」
 アルクが目配せをすると、スペルヴィアが自分の持っていたお酒を差し出した。
 酒瓶を受け取って珍しそうに眺める労働精霊。
 実物をリソースにして話を切り出す、いい工夫である。相手から見てとりあえず『なにかくれる人』であるという切り口を作れた。
 話くらいは聞いてみようという心理を引き出すこともできるだろう。
 スペルヴィアのザックを見る労働精霊。
『それをもっていくの?』
「そうなんだ。これをあと二つ欲しい。良かったら、『夜の果実』が実っている木への近道を教えてもらえないか」
 対して、労働精霊はしばらく黙っている。
 追加のお土産を求めているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
『よるのかじつってなあに?』
「「……」」
 顔を見合わせるセララとアルファード。
「別の名前で呼ばれてるのかな」
「そうかもしれません」
 アルファードは一旦『夜の果実』を指し示して、これのことですよと教えてあげた。
 納得した様子で頷く労働精霊。
 そして酒瓶を掲げて見せた。
 どういう意味かとアルファードを見ると……。
「お酒をもう一本くれたら案内する、そうですよ?」
「なんだ、そういうことなら」
「ハーブもやろう」
「キャンディもだ」
 ルアやアルクは労働精霊にどさどさとお土産を持たせてやった。
 落とさないように抱えて、たかたかと走って行く労働精霊。
 その後ろをセララが追いかけた。
「ついてこいって!」
「言葉が分かるのか?」
「そんな気がしただけ!」

 それから彼らはまた別の木を見つけ、『夜の果実』を見つけることが出来た。
 同じようにゼンマイ状の草に囲まれ、一本だけたった木に、一個だけ実っている。
 セララはそれを手にとって、表面を撫でてみた。
 つやつやとエナメルのような手触り、
 爪で軽くつついてみると、硬い感触があった。囓ったらきっと歯が欠けてしまうだろう。
「綺麗。でも、なんで『夜の果実』って呼んだんだろ。木に実ってるからかな」

●忘れてはいけない言葉
 工夫の話をまたしよう。
 ルアが湖のそばにたてたテントは数時間の仮眠をとるのに充分で、探索の間に出会った岩や泥のモンスターとの戦いに疲れた身体を随分といやしてくれた。
 医療道具も沢山あって、スペルヴィアの医療知識も相まって皆怪我を残すこと無く休憩ができた。
 たき火を囲み、我那覇の腕に包帯を巻いていくスペルヴィア。
 炊いたハーブの香りが満ちて、ルアは『リラックスじゃリラックス』といってハンモック的なものに揺られている。
「医療の知識に罠の解除に交渉術……羨ましいものである」
 我那覇は戦うことばかり学んできたので、どうやらそういう戦いとは別のところにある技術に興味がわいてきたらしい。
 一方で、たき火を前にぼうっとするルナールとアルク。
 ルナールは煙草を手に取ったが、視界の端で青衣少女がじいっとたき火を見つめているのを見てポケットに戻した。
「いるか?」
 胸ポケットからキャンディを出してくるアルク。
 ルナールはそれを一個受け取って、二人して口に放り込んだ。
 ふと。ハンモックに寝そべって日記帳を眺めていたルアががばっと身体を起こした。
「明日、行く予定の場所はあるか?」
「いや……」
 何事かと振り返るルナールたちに、ルアが少しだけ難しい顔をした。
「なら、提案があるんじゃが……」

 青白く光るリンゴ。『夜の果実』。
 アルファードはそれをじっと見つめて、不思議な感触やこれ自体が発する淡い輝きを観察していた。
「何か、特別な効力でもあるのでしょうか?」
「どうなんだろう。食べたら健康になる、とか?」
 まさかねと言って本を手に取るセララ。
 ここまでの冒険を漫画にして記録した本だ。
 迷宮の雰囲気ゆえか、どこか幻想的なタッチの絵柄だ。
 黒羽はふと『からっぽ旅行記』の複写ページを取り出した。
「なあ、その漫画。ちょっと見せてくれねぇか」
「いいけど? まだ今日の冒険分は終わってないよ?」
 セララから漫画を受け取って、ページをぱらぱらとめくっていく。
 そしてもう一度『からっぽ旅行記』の複写ページを見て、目を細めた。
「どうしたの?」
「いや……後で話す。確かあと一個だったよな」
「うん。余裕もあるしね」
「だったら……」
 黒羽はひとつだけ、セララやアルファードたちにある提案をした。

●環礁の宇宙
 不思議な話をしよう。
 黒羽やルアたちが向かおうとしたのは、ある場所だった。
 たくさんのゼンマイ状の草がはえ、人工的に森が整えられている。
 まるで森を四角く切り取ったかのような草地に、きっちりと等間隔に木が並んでいた。
 木には一個ずつ、『夜の果実』が実っている。
 見渡す限りで五つはあるだろうか。
「わっ、すごい! こんなに沢山あるなんて!」
「これだけあれば持ち帰っても……いや……ううん……」
 均等に分けられないからやはり喧嘩になってしまうかもしれない。
 我那覇やルナールはそれぞれ難しい顔をしたが……。
「儂はいらんよ、食えぬし、それに……まあ、そう簡単な話ではないじゃろうなあ」
 ルアが日記帳を閉じて、ベルトの両腰から拳銃型マナ変態制御機を引き抜いた。
 動作の意図するところは一目瞭然。
 並ぶ木々の前に、青衣少女が現われた。
 何人も……いや、きっちり五人。
 身長は約1m。
 それぞれ手を繋いで並んでいる。
 顔の無いところは労働精霊と一緒だったが、きゅるんと顔がうずまきのようにねじれ、中央からめきめきと植物がはえ、そして大きな花をつけた。
「戦闘精霊だ!」
 対して黒羽の行動は早かった。
 雄叫びをあげ、青衣少女――もとい戦闘精霊たちをおびき寄せる。
 二人ほどの戦闘精霊が飛びかかってくる。
 残った戦闘精霊に魔術弾を乱射しながらルアが別方向へ走って行く。
「ほーれほれ、鬼さんこちらーじゃ! ば、馬鹿者! 本当に来るヤツがあるかー!?」
 それを勢いよく追いかけ始める戦闘精霊たち。
「いたずらな精霊さんですね」
 間に割り込むようにブレーキをかけ、アルファードが手のひらを宙に翳した。
 すると凝縮された水がぽこぽこと浮かび上がり、大きな球形を成していく。
 手のひらを突き出すようにした途端、魔力をもった水が戦闘精霊のひとつに直撃。吹き飛ばしていく。
「まかせるである!」
 我那覇がここぞとばかりに飛びかかり、戦闘精霊に組み付いた。
 二本の腕でホールドして残る腕で連続してパンチを叩き込んでいく。
 ルナールは手袋を、スペルヴィアは体外に飛び出したサングィスをそれぞれ戦闘精霊に浴びせ、身体を高速で崩壊させていった。
 玉髄刀を握って飛び込むアルク。
 同じく聖剣を握って飛び込むセララ。
 同時に叩き込まれた衝撃で戦闘精霊は吹き飛び、地面をごろごろと転がった。
 キュン、と空間が裂けるような音と共に亀裂が走る。
 セララやアルクたちの身体が突如として避けていく。
「戦い続けるのはつらいな」
「取れるだけとって行こう!」
 二人は『夜の果実』をそれぞれ一個ずつもぎ取ると、仲間に撤退を呼びかけた。

●夜の果実と水鏡迷宮
 湖面が輝いている。
 飛び込めば帰ることが出来る。
 制限時間も迫っている今、走って飛び込む以外の選択肢などないだろう。
 そんな中、視界の端に……ひとりの労働精霊が映った。
『いっこだけ、ちょうだい?』
 駆け抜け――るそのさなか、黒羽は『夜の果実』を一個だけ投げてやった。
 それを受け取り、ありもしない口で囓りとる労働精霊。
 すると精霊の顔がくっきりと浮かび上がり、睫の長い美しい少女の顔が現われた。
「ありがとう」
 湖面へ飛び込む。





 これは後日談ではない。
 夜明けの湖に戻った彼らは、ルアが記した地図を元に夜の果実が群生していた場所へと訪れた。
 そこにあったのは、古い墓地であった。
 墓石が五つ。
 あの時見た花が、それぞれ一輪ずつ備えられていた。
 冒険記録は、これにておしまい。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 water labyrinth――mission complete
 night bear fruit――mission complete
 true end 1――『青衣少女』

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