PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ARCH GOBLIN

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●某日某時
 幻想の小さな村で火の手があがっているという報告がなされ、常備兵の小隊が物見にと派遣されていた。
「……これは酷い」
 その被害は彼らの想像を絶するもので、家はすべからく焼かれ、村人も女子供問わず切り刻まれていた。
 兵士の一人が吐き気を堪えながら、男か女か定かでない死体を調べる。腐敗が進んでいない事から死後数時間内。言うまでもなく過剰な拷問を受けたようで、状態から見るにどんな事をされたのか考えるだけで恐ろしい……。
「これは狼や魔物といった類の仕業ではないな。頭がイカれた山賊か夜盗がやったんだろう」
 兵士達は強い義憤を抱いた。殺される事だけならこの世においてありふれた事故ともいえよう。しかし、いくらなんでもこのありさまは残虐が過ぎる……。
 人口五十人に満たない小さな村であるが、その殆どが死に絶えているようにみえた。息があるかどうか確かめる事すら、無駄に思える惨状である。
 兵士達は急いで本隊にこの状況を報告すべく、撤退の準備を整えて村を発とうとする。
 だが彼らの背中に向けて、猫とも赤子ともつかぬナキ声が聞こえてきたのである。
 若い兵士はびくりと肩をふるわせるが、他の勇敢な兵士は「赤ん坊が生き残っているのか?」と踵を返して焼けた家へと近づいていった。
 焼け落ちた家の残骸から声の主を探し出そうと彼らが屈んだ瞬間、鎧の繋ぎ目にするりと何かが滑り込んできた。
「む?」
 屈んだ兵士は違和感を覚え、自分の体を見た。――文字通り、目の前に自分の体があった。
 首が切り飛ばされたのだ。それも二人同時に。何事が起きたか分からない内に、いくらか腕に覚えのある常備兵の二人がそのまま絶命する。
 生き残りの兵士達は、栗が弾けたように残骸から飛び出てきた生き物の正体を見るや驚いた声で叫び出した。
「ゴブリン!?!!」
 ゴブリンが六体。らしからぬ軽快な動きに、この連携。群れを率いるボスがいると経験則から判断し、兵士達は周囲に気を払う。しかし、いくら身構えていても一向にそれが出てくる気配は感じ取れない。
 ゴブリンに取り囲まれた兵士達はいよいよ嫌な予感が爆発して、たまらず若い兵士に向かって声を張り上げた。
「逃げろ!! 本隊、いや、ローレットに報告をッ!!」
 そう声を張り上げた瞬間、目の前のゴブリン達は一斉同時に取り囲んでいた兵士へと斬り掛かったのである……。

●アークモンスター
「近頃、ありふれた生物の中に異常な強さを持ったモンスターの報告が相次いでいる」
 『狗刃』エディ・ワイルダー(p3n000008) は悩ましげな面持ちでイレギュラーズに話を始めた。逃げてきた若い兵士から聞き及んだ、統率の取れたゴブリン。いわゆる『強個体』というヤツなのであろうか。
「イレギュラーズ様のご推察通り、強い個体が存在するのは有り得ないわけではありません。例えば蜜蜂の中には働き蜂もいれば女王蜂もいるでしょう。同じ種族なれど寿命や体格は雲泥の差でありながら、それは生物としてありふれた現象です」
 生命の神秘という大枠から考えれば大変不思議な事ですが! 話を聞きつけてすっ飛んできた学者――『生物学者』マジョリー=キャンベル(p3n000128)が長々語り出したのは放っておくとして、エディは傭兵としての見解を示した。
「強大な個体が発生するのは、えてして理由や過程といった前兆がある。強くて大きく育った野犬が群れのボスになるように。だがこいつらにはソレが無い」
 現場にボス格も見当たらず、はたまた食糧の略奪や女子供を群の労働力として連れ去る目的でもない。かといって異常な手術がされていたり突然変異といった類でもなさそうだ。
 エディはどう表現したものかと思い悩んだように顔の皺を深めた。マジョリーは会話が止まっている様子をみて、イレギュラーズの顔色を窺いながら言葉を差し込んでくる。
「ゴブリン達の働き振りはパンドラを蒐集するイレギュラーズ様のようでございませんか。ローレットの方々ならば何か思い当たる事もありましょう!」
 彼女の言い方にエディは更に顔を顰めたが、その言葉通りイレギュラーズの脳裏に思い当たる事があった。
 …………『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』。『滅びのアーク』。狂気に影響された人間やモンスターがどれほど強大になって何をしでかしてきたかなど、今更語るまでもない。

GMコメント

 稗田ケロ子です。
 何やら近頃ぽつぽつ『至って普通の魔物』から強いモンスターが現れ始めているようですが……?

●環境情報
 平地を迅速に行軍する何らかの手段があれば夕方。なければ月明かりしか光源の無い夜。
 ゴブリンが村から逃げ去る可能性がある為、それ以上の時間は選べない。
 環境的には焼け落ちた家の残骸など、小柄なゴブリン達が隠れる場所などいくらでもある。
 逆にイレギュラーズ達もそれらを遮蔽物として、作戦の為に戦線から一線退く時にも利用出来るかもしれない。

 村の中は凄まじい惨状の為、ショックに弱いイレギュラーズは気をつけられたし。(※フレーバー寄りの情報)

●エネミー情報
アークゴブリン:
 見た目的には至って普通のゴブリンに見えた、との話。しかし攻撃力と反応、回避のステータスはとても高い事が伺える。
 武装は刃物が中心で近距離戦が主体。投擲も考えられる為、後衛も油断は禁物。超遠距離(レンジ4)の攻撃手段まではさすがに持っていないであろう。
 このゴブリン達は六体全てにスキル『連鎖行動』(シナリオ時、相互感情を結んでいる相手と同時に行動する事を選べます)と同等のものを有していると推測される。ゴブリンらしからぬ統率性に富んでいる。
 同時行動で集中的に狙われると体力を一気に削り取られる可能性が大きい為、各自用心されたし。

●NPC同行者
『狗刃』エディ・ワイルダー:
 近距離戦が得意な傭兵。水準それなりの耐久力と単一に対する攻撃力。複数に対する攻撃手段と回復手段はなし。
 基本的な事はイレギュラーズの指示に従います。

  • ARCH GOBLIN完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年02月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
グリムペイン・ダカタール(p3p002887)
わるいおおかみさん
アウローラ=エレットローネ(p3p007207)
電子の海の精霊
物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア
高槻 夕子(p3p007252)
クノイチジェイケイ
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者

リプレイ


 更けてゆく朧夜に、村へ辿り着いた二人。武装した傭兵がこんな夜更けに何事かと聞かれそうなものだが、あいにく焼け落ちたこの村に彼ら以外の気配は感じられない。
「狩りから逃れられ力を付けた、という訳でもなさそうだし。どちらかというと緩やかな進化の方が近いのだろうかね?」
 ギルドで説明された事を思い返し、傍らにいる仲間へと話を向ける獣人。『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887)。
 傍に居た『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)は、近未来的な暗視ゴーグルを掛け直して少しばかり唖然とする。
「色々見てきたけど、ここまで丁寧に破壊されてるのは初めて見るや」
 事前に聞いていた話の通り、村は焼け落ちていたされていた。死者も見える限り二桁はいるだろう。それだけなら普通の魔物だとか、盗賊だとか。そういった被害でも有り得ない話ではなかろう。
「……遊んだ結果だな、これ。余暇を楽しむのは知性の高い生物の証、だったら今回の相手は相当ヤバい」
 異常なほどに損傷の激しい死体を目の前に、沸き立つ血の匂いに史之は口鼻を覆う。グリムペインは獣の耳をピンと立ててから、仲間の言葉へ大きな身振り手振りで頷いた。
「いたぶって楽しむ。小鬼とはよく言ったものだ。さしずめここは鬼ヶ島といったところかな?」
 周囲から針を刺すような敵意をヒシヒシと感じ取るグリムペイン。史之も自ずとその気配に勘付いて、静かに武器へ手を当てる。
 ひそり、ひそり。耳の付け根を撫でられるような嫌な風が吹いた。何か生き物が息を吸う音。吐く音。討伐対象のゴブリンに違いない。お互いの事に気付いたのだろう。
 しかし、少し経っても襲ってくる気配は無い。武装した少人数がやってきた事を不審に思っているのか。あるいは完全に隙を晒す事を待っているのか。どちらにせよ、厄介な事に変わりはない……。

 ピィーー。

 突如として、静寂を打ち破って不釣り合いな高らかな警笛が鳴った。何事かと見回す暇もなく、鉄の塊が焼け落ちた家の残骸へと突っ込んだ。
 そこに潜んでいた一体のゴブリンが鉄の塊――列車に吹き飛ばされて、頭部から激しい流血を垂れ流してしまう。
「踏切が下りたら線路から出ねば危ないぞ?」
 列車を喚び出した当人であるグリムペインは、したり顔でそのゴブリンに言いのけた。


「始まったか」
 ガレキが弾け飛ぶ音を聞いて、誰かが言った。
「ゴブリン退治は久しぶりなんだけど、今回は結構厄介なゴブリンみたいだね」と、『電子の海の精霊』アウローラ=エレットローネ(p3p007207)。
 一線退いた場所から戦況を見守るイレギュラーズの第二陣。同行したエディは仲間の傍で、やや心配そうな面持ちで先行した二人組を窺っている。
「しかし大丈夫なのか。いくら君達の事とはいえ。……くそ、こう薄暗くてはよく見えん」
 暗闇に潜むゴブリンを丈夫な彼らを囮に使って一挙に引き寄せる、といった作戦をエディは聞き及んでいた。
「グリムっちにお任せしとけばだいじょーぶっしょ」
 そんな風に、仲間のイレギュラーズ『クノイチジェイケイ』高槻 夕子(p3p007252)が声を潜ませながら述べた。その言い方はどことなく確信めいている。
 エディは「皆を信頼してないわけではないが」と言いたげな顔をしながら、地べたに転がっている死体の数々に視線を移す。
「被害も出てるから、油断はしないけど……」
「……やばたにえん」
 夕子含めたイレギュラーズの数名はそれらを視界に入れて、半ば絶句しかけた。
 武器持たない普通の人々からしてみれば、通常のゴブリン程度すら驚異に違いない。
 しかし、少数で村丸ごと狩り尽くせるかといえば、簡単にやれる事ではない。男手が囮になって女子供が逃げる事に徹すれば、それだけで今回よりも被害はマシになろう。
 だが、起こった事実は全滅に等しい大虐殺だ。生半可な知恵や実力でやれる事ではない。
「子供の声でおびき寄せる事といい、奇襲する手順といい、つまり人間に対して有効な戦術を考えるだけの知恵を得たわけだ。厄介だとは思わないか。エディ君」
 『ラブ&ピース』恋屍・愛無(p3p007296)は戦況を眺めながら、エディにその様な事を呟いた。
 エディが言葉を返す前に、弾き飛ばされたゴブリンの一体がグリムペインに攻撃を仕掛ける。その上に、四方八方の残骸から別のゴブリンが飛び出て一斉に集中的に斬り掛かった。
「おっと、こいつは」
 飛びかかって来たゴブリン達の剣撃を、武器で防ごうとするグリムペイン。しかし不運な事に、そのことごとくが体に突き刺さった。
 溢れ出る多量の鮮血。一人仕留めたと確信して、ゴブリン達はにたりと嗤う。

「驚いたな」
 戦況を窺っていたエディが漏らす様に口にした。異常な程の攻撃を受けたグリムペインは倒れる様子が全く無い。普通なら、いや丈夫な部類でも戦闘不能必至のはずである。
「……やったか! なんて、フラグはいうものじゃあないぞゴブリン諸君。ま。事実として傷はあるのだけれど、残念。狼を殺すなら猟師をつれてこなければなあ!」
 グリムペインは多少苦痛に表情を歪めはしたものの、至って飄々とした態度で周囲を取り囲んでいる彼らを挑発する。
 ――不死身。ゴブリン達の嗤いに陰りが浮かんだ。当て辛い喉元を切り裂くか、傍らの人間を狙うか考えたように視線が揺らぐ。

「全員、構えてくれ」
「戦線はしっかり私が支えるのですよ!」
「頑張ってやっつけるんだよ!」
 ゴブリンに取り囲まれた獣人とは別の方向から、女性とおぼしき者達の声。
 直後、頭上からグリムペインを中心に鋼の驟雨が降り注ぎ、その次に魔力の光弾が戦場を駆け巡る突き貫く。グリムペインの周囲へ密集していたゴブリンは、そのことごとくが攻撃に巻き込まれた。上手い具合にやったのか、弾丸はグリムペインに掠りともしていない。
「うむ、器用なものだね。私に当ててくれても構わないが」
 グリムペインは女性の射手達――『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)とアウローラを賞賛しながら余裕そうに笑った。
 反して、ゴブリン達は痛みに悶えながら顔を歪ませている。警戒していたとはいえこの様に痛手を喰らえばそうもなろう。
「連鎖行動が仇になったね。俺は秋宮史之、おまえたちを滅ぼしに来た。明日の朝日は拝めないと知れよ!」
 相手の判断ミスを揶揄しながら名乗りをあげ、挑発してみせる史之。
 立て続けに挑発を喰らってゴブリン達のほとんどはグッと奥歯を込んで、怒りを堪えていた。しかし、先ほど列車に吹き飛ばされた血だらけの一体が血相を変えて、怒気を露わにする。
「今こそ攻勢時だ。ランタンを点けるぞ」
 戦況を見ていたエディは予め受けていた指示通りに光源を確保し、また自身は後衛達を守るように位置取りをする。
「キミ達はどう見る」
 傭兵エディは視線を動かさずに、先ほど質問してきた愛無と、味方に強化魔法を唱えている『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)の二人に問いかける。
 前衛が囮になってる合間、二人は己の知識や技術でなんとなしに観察していた。
「おお? 新種? 新種? ……いえ、よく見かける種ですね」
「だが普通の個体より珍しいぞ。明らかに強い」
「成る程。悪い事してるから最終的に死体にする奴ですよね? つまり珍しいゴブリンの死体が見れるという事ですね!?」
 ……ねねこが喜んでいる理由についてはさておいて、いかにも大鉈を構えたゴブリンの二体が首を刈り取れる様な獲物、いわゆる【必殺】の技術を持ち併せている可能性があれば彼らであろう。不死身ともいえるグリムペインの唯一の天敵だ。
 そして何より……。
(……この手の感覚はやはり覚えのある。奴らは魔種の影響下に違いない)
 不自然な強さについて、愛無は内心で結論づける。
(ならば、似た様な事例があった各地にも魔種の影響が……?)
 考察を阻まれる形で、怒り狂ったゴブリンが聞くに耐えない奇声を吐き散らした。殺意をむき出しにしている。
 『青混じる氷狼』グレイル・テンペスタ(p3p001964)はグリムペインの回復をするかどうか迷うも、仲間の進言あって大鉈のゴブリンを倒す事を最優先とした。
「……油断は禁物だね……いつも以上に警戒していこう……」
「はいはーい、さっくさくといっちゃうよー!」
 幸運なのは一体が史之に引きつけられている事。状況を判断したグレイル達は、全力でもう一体の大鉈持ちを倒し切るべく魔術や攻撃を重ねる。
 真っ先に繰り出されたのは、グレイルの氷結魔術だ。足下が凍り付きかけたのに気付いて、ゴブリンはその場から大きく飛び退く。
「隙ありっ。あーしのクナイが回っちゃうから!!」
 夕子はそれを見逃さなかった。中空にいるゴブリンの体を打ち落とすように連続でクナイを投げつける。
 モロに攻撃を食らったゴブリン、「ぎぃ」と石を引っ掻いたような悲鳴があがる。幸い、このゴブリンは不死身とは程遠く、瀕死の状態であるが――――倒れない。死の淵で踏みとどまったか。
「げぇ、ハリネズミ状態で倒れないとかマジヤバ!」
 どころか、せめて一矢報いようとグリムペインを睨み付けている。瀕死で生き残ったゴブリンが動きだそうとしたその直前。
「死ななければ安い、とはよく言ったものだな」
 愛無が先に距離を詰めて、自身を粘膜化させて瀕死のゴブリンを飲み込みに行く。対するゴブリンも持ち前の素早さで避けようと抗うが、猛攻の積み重ねも併さって間に合わない。
「どういう出所であれ、見過ごすわけにもいかない」
 ゴブリンは一際大きな奇声、骨が軋む音をあげて、愛無に取り込まれていく。
 絶命を表すかのように「ぽとり」と血糊がごびりついた大鉈がその場に落ちたのであった。


 ぎゅらが、ぎゅらあ。ゴブリン達が一斉に啼いた。仲間がやられて怒っているのか、悲しんでいるのか。どちらにしろ、悪感情を喚いているに違いない。
「よくもまぁ、ぬけぬけと……平和な村をこんな惨状にしたおまえたちを一匹たりとも逃さない!!」
 ゴブリン達は大虐殺を行った手前である。被害者面をされる謂われはない。
 お互い怒りを露わにすると、大鉈のゴブリンが真っ先に動いた。それにつられて迷いなく、他のゴブリン達も全員一斉に史之を狙う。
 一つ、二つの刃物は理力障壁でどうにか防いだ。だが残りの攻撃をモロに喰らい、その一瞬で半死半生の域に達する。
「ぐ……」
 ゴブリンの大鉈が視界の端にチラつく。次は耐えきれない。史之の頭の中でそんな死兆がよぎる。
「絶望するにはまだ早いぞ少年」
 不敵に笑いながら、背中合わせに立ち回るグリムペイン。
「…………」
 史之は背後が守られても不安が薄らぐ事はなかった。
 事実として、前衛二人にとって一挙集中する戦術は厄介である。グリムペインが史之を庇えば、もれなく不沈の壁が沈む事になるだろう。そうでなくとも、史之を討ち取って満足したゴブリン達は後衛を狙うか一旦逃走を試みる可能性もある。
 グリムペインもそれは分かっているのだろう。蓄積した苦痛を隠すようにして、ニッと笑う。
「女性を守る、悪を誅するのは男の役目とはいうけれど、少年はギブアップしたいか?」
 その問いに対して、史之はハッキリと首を振る。
「俺も武家の末裔。ここで逃げるとなれば、イザベラ女王陛下に顔向けが出来ません」
 グリムペインは愉快そうに笑い声をあげる。
「そういうわけだ小鬼ども。グリムペイン・ダカタール、刃物で脅そうとも一切退きはしないぞ」
 史之の言葉を受けて、グリムペインも改めて戦術が決まったのだろう。先と同じように己の存在を誇示し、ゴブリン達を挑発する。
 その影響あってか、ゴブリン達の殺意が二人に向けられているのがありありと手に取れた。

「ふ、二人ともやばばじゃね……?」
 瀕死の状態の二人を見て、困惑する夕子。彼らがやられればきっと自分達に複数の凶刃が突き立てられるに違いない。心底、寒気がする。
「そうならないように、あれは討ち取らなければ」
 ラダは仲間と共に大鉈のゴブリンを見た。首を一太刀で切り落とせるような、巨大な刃物。ナイフの投擲や刺突で弱らせ、鉈で確実に断ち切る。そういった戦術か。
 一合目でグリムペインが討ち取れなかったのが、僥倖であっただろう。なれば自分達がやる事は決まっている。
 身の丈サイズの大口径ライフルを大鉈のゴブリンの頭蓋に向ける。轟音が鳴り響いたと同時に、大鉈のゴブリンが大きく身を逸らして避けきった。自分が狙われているのを察知しているのか。
「そう簡単にやらせてはくれないか。だけれど……」
 ラダに続いて攻撃を担うほぼ全員のイレギュラーズが、その大鉈のゴブリンへと一斉に狙いを付けた。
 奇しくも相手と全く同様の戦術であり、大味な作戦ではあるがこの状況においてこれがもっとも有効だった。
 愛無はグレイルと顔を見合わせる。
「この手合いは、隙を見せたところを削るに限る。援護頼めるかグレイル君」
「……エディさんがいる前で……格好悪いことはできないしね……」
 以前似た様な戦術を使った相手を制したのは、絡め手であったか。
 グレイルが喚びだしたスコルが戦場を駆け抜ける。これもまた、咄嗟にゴブリンは何とか上手く防ぎ切った。しかし直後に飛来する『斬撃』が構えを押しつぶす形で追撃し、大きく防御の構えが崩される。
「複数の攻撃はそう次々と避けられまい。それがお前達の得意とする所だろう」
 体勢を崩したゴブリンに対して、斬撃を放った愛無は冷淡に言いのけた。
 ゴブリンは「まずい」という顔で青ざめた。次に何が来るか理解しているからである。
「ウィズダムギフト! やっちゃってくださいアウローラさん!」
 アウローラはねねこから強化魔法を受けて静かに頷き、武器に魔力を込めて術式を構築する。
 益々、ゴブリンの顔が青ざめる。先、あの魔術が自身の傍を掠めていた。マトモに当たってはいない。それなのに、豪腕の戦士がメイスで殴りかかってきたかのような衝撃で内蔵がイカれそうになった。

 マトモに喰らえばどうなる?

 その様な死兆がゴブリンの頭によぎったのだろう。猛攻の合間を縫って、全身全霊でソレを避けようとする。
 だが判断が遅かった。怒りの余り出来なかった。その魔術の射線に仲間のゴブリンがいた事も、最悪といっていい状況であっただろう。
「アウローラちゃんの唄に聴き惚させたかったんだけど……ごめんね」
 電子の歌姫、アウローラがそう詫びた瞬間、射線上のゴブリンは文字通り消し飛んでいった。


 仲間達がやられて呆気に取られるゴブリン。生き残ったのは、三体か。二体は少し離れた位置取りにいる。
 戦いの最中、相変わらずグリムペインや史之を殺そうと躍起になっている刃物を振り回しているが、二人の前では破れかぶれの攻撃は意味をなさない。
「やれやれ、死ななくても痛くて敵わない」
 そう言いながら、狼男の彼は指を鳴らす。列車と同じようにまた怪異めいた代物が戦場に召喚された。真っ黒い巨大な影の様な怪物。
 仲間と連携が取れず、それどころか恐慌状態に陥るゴブリンである。大した攻撃も出来ずに、ラダに頭蓋を撃ち抜かれた。

 生き残ったゴブリンは未だ怒り狂っている最中。もう片方だけ冷静に状況を悟ったのか、別の者を狙い撃ちにしようとする。
 一人で打ち倒せそうな者。歌姫アウローラ。そういった後衛を見抜いて、距離を詰めてナイフを投げつけた。
「折り込み済みか。任せろ」
 ここでエディがイレギュラーズに委任された通り、後衛の護衛に動いた。アウローラに飛来したナイフを切り払った。
 投擲したゴブリンがぎぎり、と歯軋りする合間。残り一体はイレギュラーズ集中的な攻撃を受けて討ち取られる。たった一人で取り囲まれ、ほぼ完全に『死に体』となったゴブリンを見下すようにしてグリムペインは不敵に笑う。
「残念、君達はゴブリンにしては強かったが……相性がとことん悪かったな。安心したまえ、仲間のご要望通り『生け捕り』だ」


 事態解決の報せを聞いて、後処理の応援にやってきた常備兵。被害が殆ど出なかったと聞いて、「やはり貴方達に任せようとした仲間の判断は正しかった」と若手の常備兵が悔恨を晴らすように述べたのが印象的だった。
「……村の人達含めて、火葬してあげましょう」
 常備兵達と共に、遺体の処理を始める史之。彼は祝詞の一つでも覚えておけばよかった、と後悔した。

「これでいいか。それにしても何故わざわざ」
 常備兵達から離れたところで、暴れるゴブリンを簀巻きにしながら仲間に尋ねるエディ。
「まー、ゴブリンも生きる為なんだし……それに常備兵の人達に見せたら間違いなくリンチになるっしょ」
 夕子が弁明する様に呟いた。そして捕縛に近しい提案をした者同士で顔を見合わせる。ねねこと、ラダ、愛無。
「出所を尋問、とは言葉が通じない様だからそうはいかないが……調べれば分かる事もあるだろう」
 エディはねねこが手術道具を持っている事や、ラダの言い振りから「解剖するつもりか……」と納得した。
 エディの微妙な表情を見て、淡々と言葉にする愛無。
「こいつらもそういう事を楽しんでいたのだ。楽に死なせる道理もなかろう。なに、意義があるなら喜んでするさ。それが人というものだろう」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 稗田ケロ子です。大変お待たせしまして申し訳ありません。依頼お疲れ様でした。
 戦況については大体作中に書かれている通り。快勝といって形でした。

 賽子の女神も圧殺出来る不沈艦に敬意を。

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